菫子が幻想郷に遊びに来てから、数週間が経過したある日の事。
居間では、菫子、ジン、正邪の三人がいた。
菫子は夏休み中盤に入って来たので、今日は夏休みの宿題を片づけており、ジンはそれの手伝いを。正邪はゴロゴロと漫画を読みふけっていた。
「あーもう、何で宿題なんてあるのかしら? 夏休みなんだから、思いっきりハメを外していいじゃない」
文句を垂れる菫子。そんな彼女に、隣で宿題を手伝っていたジンが言う。
「気持ちは分かる。だが、後回しにすればするほど、地獄が待っているからな。宿題っていうのは、さっさと終わらせて、残りの夏休みを満喫するのが一番だ」
「それは体験談から?」
「ああ。最後の一日に後回しにして、地獄を見たからな」
そう言って、何処か懐かしそうに笑うジン。彼にとって、当時は辛い事柄であったが、今では大切な思い出の一つのようである。
「っていうかさ。そんなに嫌なら、やらなきゃ良いだろ? なんなら白紙で提出するとかさ♪」
そう言ったのは、居間でゴロゴロしながら漫画を読んでいる正邪であった。彼女の案に、「それ名案ね!」と思う菫子だったが、それを許すジンではなかった。
「そんな事をしたら、単位に響くだろ。そんでもって補習になっても知らないぞ」
その一言で、菫子は思いとどまった。宿題をやるのは嫌だが、補習を受けるのはもっと嫌。結局菫子は、宿題をしっかりやる事にした。
「大体、学校に行く方がおかしいんだよ。嫌なら行かなきゃ良いんだし」
「学校に行くこと事態に意義あるんだ。学校を教育を受ける事によって、自分の人生の選択肢を増やせるからな」
「そうかぁ? 人里の奴等を見てる限り、学校に行っても選択肢が無い奴等もいるぞ」
「まあ確かに、それは否定できないな。事実、進路の事で相談された時に、家を継ぐ生徒もいるからな。だが、それも選択の一つだ」
「なら、家を継ぎたくない奴が現れたら、お前はどうするんだ?」
「もちろん、俺は生徒の味方をする。いくら親でも、子供の人生を好き勝手決める権利は無いからな」
「ふーん・・・・・・まっ、そういう考えは嫌いじゃないな」
ジンと正邪の会話を聞いて菫子は思う。なんだかんだで、この二人は似ていないようで似ているような気がした。
(本当、奇妙な関係よね)
そんな事を思っていると、霊夢達が帰って来た。
「ただいまー」
「おかえり霊夢。って、サニー達に何を持たせているんだ?」
ジンが見たのは霊夢と、重たそうな瓶を持っているサニー達の姿――――正確には、サニーとルナの二人が持っていて、スターは後ろから楽し気に二人の姿を見ているだけであった。
「ふっふっふ、これは新しいうちの目玉商品――――うちで取れる梅と博麗酒で造ったお酒――――博麗梅酒よ!」
「おお、ついに出来たのか?」
「ええ。三人とも、ここに瓶を置きなさい」
「ら、らじゃ・・・・・・」
「実際持っているのは、私とサニーだけなんだけど・・・・・・」
そんな事を呟きながら、サニーとルナは瓶を地面に置いた。そして霊夢が蓋を開けると、そこには色鮮やかな梅酒が入っていた。
「「「おおー」」」
「どれどれ味は――――うん♪ 上出来ね♪」
博麗梅酒の出来に、満足する霊夢。その後、ジン達も味見をする。
「おおっ、これはなかなかだな」
「凄く美味しい♪」
「舌触りもスッキリしているわ」
「梅の香りも良いわね♪」
「くそっ、この美味さは嘘がつけねぇ・・・・・・」
博麗梅酒の味に、正邪までもが好評を出す程の出来であった。
そんな様子を、菫子は興味津々に見ていた。
「ねぇ、私も飲んで――――」
「ダメだ」
飲みたそうな菫子に対して、ジンはバッサリと切り捨てた。
「え~!? 何でよー!」
「何でよ以前に、お前は未成年だろうが」
それは正論であった。未成年飲酒禁止法の事を考えれば、学生である菫子に酒を飲ませる訳にはいかなかった。
しかし、ジンは忘れていた。それはあくまで外の世界の事で、ここは幻想郷なのだと。それを改めて知る事になったのは、霊夢の一言である。
「あら、別に飲んでも構わないわよ」
「おい霊夢。未成年に飲酒を進めるのはどうかと――――」
「未成年で飲んでいけないのは、外の世界での事でしょ? ここは幻想郷よ。そんなつまらない決まりは無いわ」
「しかしだな――――」
「そんな事を言ったら、人里の人達や私達はどうなのよ? 皆二十歳になっていなくても、飲んでいるわよ」
「それは・・・そうなんだが・・・・・・」
「“郷に入れば、郷に従え“っていう言葉もあるのよジン」
霊夢の言葉を聞いて、しばらく考え込むジン。霊夢の考えも一理ある、確かにこの幻想郷では、外の世界の法律は適応してはいない。その為、外の犯罪者が人里に訪れても、問題を起こさない限り普通に受け入れられる事例が幾つも存在する。
しかし一方で、菫子の保護者としての立場としては、彼女に飲酒を進めるのは、保護責任を放棄しているのでは無いかと思うジンであった。
(果たして・・・どっちが正解だ?)
悩んでも悩んでも、ジンは答えを出せなかった。そんな姿を見かねた霊夢は、彼にこう言った。
「あのねジン、お酒を飲むこと事態が悪い事では無いのよ。本来お酒というのは神聖なもので、よく神様の供物として捧げられたりするじゃない」
「まあ、それは確かにそうだな・・・・・・」
「だからお酒自体は悪くは無いのよ。悪いのは、お酒を飲んで自分を律する事が出来ない自分なのよ」
「ん? それってつまり、酒乱になってしまうのが悪いって事か?」
「ええ。お酒を飲むと、理性のタガが外れ安くなるのよ。だからそれを律する事が出来れば、何の問題は無いのよ」
胸を張って言う霊夢だったが、彼女の言葉を聞いていたジンは、容赦無い反論を出した。
「確かに、霊夢の言っている言葉は一理ある。だが、お前がそれを言うか?」
「え?」
「一月前の宴会の時、自分が何をしたか覚えているか?」
「一月前・・・・・・何かあったけ?」
その言葉を聞いたジンは、やれやれと溜め息をついた。
「早苗に酒を無理強いに飲ませようとしたんだ。端から見ても、あまりマナーが良いとは思えなかったな」
「え? そんな事をしてたの?」
「俺が嘘をつくと思うか?」
「・・・・・・つかないわよね」
「はあ・・・やっぱり、菫子に酒を飲ませるのはやめておこう。ただでさえ、酒を飲んだ事が無いんだから、周囲に合わせてしまったら、急性アルコール中毒になってしまうかも知れないしな」
こうして議論の末に、菫子の飲酒は禁止という結論に至ったジン。しかし、その結論に霊夢は不満を抱いた。
「あんたって、頭が固い時があるわね。もう少し楽に考えれば良いじゃない」
「霊夢が軽く考え過ぎなんだよ。後先考えずに、勘に頼りすぎるから、いつも失敗しているんじゃないのか?」
「なんですって!?」
「なんだよ!?」
菫子の飲酒について対立するジンと霊夢。その様子を見て、あたふた戸惑う菫子とサニー達。正邪はすっかり観戦していた。
「ちょ、ちょっと二人とも、何もそこまでムキにならなくても・・・・・・」
「そうそう! 皆で楽しく飲めば良いだけじゃない!」
「悪いが、こればっかりは譲れない」
「私もよ!」
「良いぞー、もっとやれー♪」
そんな空気の中、妖狐と針妙丸が買い物から帰って来た。
「ただいまーって、一体どうしたの?」
「なんだか、場の空気が悪いですね・・・・・・」
「あっ、ちょうど良かった! 実は―――――」
ルナは、針妙丸と妖狐にこれまでの経緯を説明した。
「なるほど、それでお二人が喧嘩をしていたのですね」
「?? 別に何の問題ないように思えるけど?」
「良いですか針妙丸さん。外の世界だと、歳が二十になるまでは、お酒を飲んではいけない決まりになっているのですよ」
「ええー!?」
信じられないと言わんばかりの声を上げる針妙丸。彼女が驚くのも無理はない、幻想郷では、殆どの人間が二十歳未満で飲酒をしている。外に比べると、飲酒年齢は格段に低いのである。
「二十歳までお酒が飲めないなんて、外の人はいつも何を楽しみに生きているんだろう?」
「さあ? 菫子さんの話だと、娯楽に溢れているから、酒盛りをやらなくなったんじゃないかと、言ってましたよ」
「本当なの?」
「ん? まあ確かに、娯楽なんて家に引き込もっても、腐る程あるから。そのせいで、十年以上外に出ない人間が出てくる程よ」
「うわぁ・・・それはそれで嫌だなぁ・・・・・・」
「そうですね。まるでどっかの魔女みたいですね」
「ともかく、菫子に酒を飲ませるのは駄目だ。こればっかりは絶対に譲れない」
そう言って、ジンは強引に話を閉めてしまった。
しかしこれが、後の悲惨に繋がってしまうとは、この時のジンは予想出来ていなかった。
―――――――――――
その日の夜。博麗神社には大勢の人や妖怪が訪れていた。
霊夢が造った梅酒は大変評判が良く。既に購入を決めた者までもいる程であった。
そんな中、ジンは早苗と飲んでいた。
「――――って事があったんだ」
「そんな事があったんですか・・・・・・確かに、難しい問題ですね」
「確かにそうなんだよな・・・・・・菫子が二十歳だったら、こんなに悩まなくて済むんだか」
「それは時間が解決しますよ。だからあまりあれこれ悩まない方が良いですよジンさん」
「それもそうだな――っておわぁ!?」
ふと背後から誰かに抱きつかれた。後ろを見てみると、顔を赤くした菫子と霊夢が抱きついていた。
「ジンさん飲んでる~?」
「そうそう、あんたは普段飲まないんだから、こういうときにしっかりと飲まないと~」
「一体どうした二人と――――って、酒くさ! お前まさか、菫子に酒を飲ませたな!」
「それがどうしたのよ?」
「酒を飲ませないって話になっただろ! どうして飲ませた!」
「宴会にお酒を飲むのが普通でしょ? それとも、菫子を仲間外れにするつもり?」
「ひっどーい! ジンさんは私が嫌いなのね!」
「い、いや、そういうつもりじゃ・・・早苗! 見てないで助け――――って、いねぇ!?」
早苗に助けを求めようとするジンであったが、既に彼女の姿はなかった。
「ふふふっ、ねぇ~ジン?」
「ジンさ~ん♪」
その後ジンは、二人の酔っ払いの少女の相手をする羽目になってしまった。
―――――――――――
翌朝、ジンは自室で目を覚ました。普段見慣れた部屋であったが、そこには決してあってはならないものがあった。
「スー・・・・・・スー・・・・・・」
「むにゃむにゃ・・・・・・」
「・・・・・・どうしてこうなった」
彼の両脇には、健やかに眠っている霊夢と菫子の姿があった。
昨夜何があったか思い出せないジンは、この状況をどうするか、頭を抱えるばっかりであった。
女子高生に飲酒はアウトと考えていますが、幻想郷の住民にはそんな事情はお構いなしだと思っています。
現に、阿求と同年代の小鈴も、漫画でお酒を飲もうとしているシーンがあるので、もしかしたら飲酒年齢が低いのかも知れません。