次回からは、またいつもの日常系の話しになります。
ただ、今週も忙しくなりそうなので、投稿は来週になるかも知れません。
投稿スピードが落ちて申し訳ありませんが、どうか気長に待っていて下さい。
異変の数年前、ジンはある男と出会った。
男は駆け出しの易者で、あまり人付き合いが良いとは言えない人物であった。
しかし、ジンはその人物と友人となった。切っ掛けはとても些細な事であったが、当時のジンと彼は確かな絆を築いていた。
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易者との戦いは、思いの他苦戦する事はなかった。
彼が弱かったという訳ではなく、単に相手が悪かっただけである。
「やれやれ、またつまらないものを切ってしまったね」
そう呟いて、刀を納める霖之助。戦いの一部始終を見ていた霊夢達は、ただ唖然としていた。
「・・・・・・ねぇ、霖之助さんって、あんなに強かったの?」
「さ、さあ? 香霖が戦っているところなんて、初めて見るからな」
「ただの変わり者じゃなかったのね・・・・・・」
「へぇ、やるじゃん」
霖之助の予想外の強さに、驚きや感心する霊夢達。
しかし彼女達は知らなかった。彼が持つ剣――――霧雨の剣と命名されてはいるが、真名は草薙の剣。あの有名な三種の神器の一つである事に。
如何に強力な魔導書の魔術を使おうと、この剣の力の前では児戯に等しかった。
「く、くそ! 何故だ! 何故こうなる!?」
魔力を大半失いがらも、わめく易者。そんな彼の目の前に、霊夢達が立つ。
「どうやら年貢の納めどきのようね?」
「まだだ! まだ終わっていない! おい何をしている!? 早く俺を助けろ!」
「なに!? まだ仲間がいたのか!?」
易者の言葉に、慌てて周囲を見回す霊夢達。
しかし、仕掛けて来るどころか、気配すらしなかった。
「誰も来ないみたいだな・・・・・・」
「ハッタリ?」
「いや、あの様子を見てみると、ハッタリではないみたいだ」
そう言って霖之助は、易者を指差す。彼は助けが来ない事に、焦り苛立っていた。
「おい! 約束が違うじゃないか!? 危なくなったら助けるって、あんたが言ったんだろ!?」
誰に対して言っているのかは霊夢達には分からなかったが、代わりにある人物達が、易者の疑問に答えた。
「残念だけど、お友達は既に連行されたわ。残っているのは貴方だけ」
そう言って現れたのは華仙であった。彼女だけではなく、すぐ側には萃香と勇儀の姿もあった。
「ジンの魂も、この通り無事だよ霊夢」
萃香は手にもった魂が入ったガラスケースを見せる。探知機も反応しているので間違いなくジンの魂である事が出来る分かり、霊夢は安堵する。
「さて、こいつはどうするんだ? そっちで引き取るのか?」
そう言って易者に視線をやる妹紅。彼女達にとっては、ジンの魂を奪い返せればそれで良いと思っている。しかし、ここで思わぬ事態が発生する。
「ええ、こいつはこっちで始末しておくわ」
華仙の冷たい言葉と共に、彼女の右手の包帯が易者を縛りつける。
「貴様何を―――――」
「お前の魂を握り潰す。二度とこんな事が出来ないようにね」
「「「!?」」」
華仙の冷酷な言葉に易者は旋律し、霊夢、魔理沙、鈴仙は驚き、霖之助と妹紅は、怪訝な表情をする。
「・・・・・・いくらなんでも、それはやり過ぎじゃないかな?」
そう問いかける霖之助の言葉に、華仙は表情を変えずに言う。
「ここで許したら、また同じ事をするかも知れないでしょ? ここは後腐れ無くした方がいいのよ」
「それは否定出来ないけど、何も魂を握り潰す事はない筈だ。然るべく場所に戻すべきだと思うけど?」
「甘いわ、甘過ぎる。怨霊なんて存在するだけ害意をもたらす。現に、彼はジンと幻想郷に害を為した。十分潰す理由にはなると思うけど?」
「それは君の主観だろ? それに怨霊だからと言って、その魂が怨霊であり続ける訳じゃない。罪を自覚したり、怨みを捨てる事で怨霊から脱する事もある。君は彼から、そのチャンスを奪うのかい? 君はいつからそんなに偉くなったんだい?」
「っ――――」
霖之助の言葉に、華仙は思わず言葉が詰まった。
彼の言う通り、怨霊から脱した者は確かに存在する。故に、目の前の易者もまたそうなる可能性はゼロではない。様々な観点から見ても、霖之助の言い分は正しいと感じるだろう。現に、霊夢と魔理沙は彼に賛同していた。
「華仙、あんたの気持ちは分かるわ。でも、それをしたらジンがどう思う?」
「・・・・・・」
「あいつは優しい奴だから、事実を知ったらきっと悲しむと思うわ。友人の魂が潰された事も、貴女がそれをやった事も、両方の事で悲しむと思うの」
「友人? こんな奴が友人と言えるか!? こいつはジンを騙し裏切った! それも二度もだ! こんな奴―――――!」
逆上した華仙は、易者を握り潰そうとする。その時、ジンの魂がガラスケースを突き破り、華仙の右腕に纏わりついた。
「ジ、ジン!?」
華仙はジンの魂を引き剥がそうとするが、離れようとはしなかった。そして、彼女の頭に彼の言葉が響く。
“華仙、それは間違っている。俺の為にやるというなら、彼を許して欲しい”
その言葉を聞いて、華仙は唖然とした。ジンは易者の事を一切恨んでおらず、逆に許して欲しいと頼み始めたのである。
「許して欲しいって・・・貴方は騙されたのよ? 殺されかけたのよ? なのにどうして・・・・・・?」
その問いに、ジンの魂はこう答えた。
“それでも、彼とは本当に友人だったんだ。その事実は変わらない。だから、許して欲しい”
すると、ジンの魂を伝ってジンと易者の思い出が華仙に伝わった。
二人の馴れ初めは、一冊の本から始まった。
ジンが偶々拾った彼の本を届けに行った事により、交流が始まった。
彼の得意な占術の話や、時には愚痴を聞いたり、たまに飲みに行ったりと、二人はいつの間にか、友人としての関係を築いていた。
そして、彼が死んだときも、怨霊として退治させられた時も、深く悲しんだのだ事も、華仙は知った。
そしてそれは、華仙だけではなく、華仙の包帯を伝って易者にも流れていた。
「うっ・・・くうっ・・・ううっ・・・お、俺は、何て事をしてしまったんだ・・・・・・」
易者の目から涙が零れていた。そして彼の顔はすでに怨霊物ではなく、人間の物に変わっていた。
それを見ていた華仙は、そっと易者を離した。
「・・・・・・怨霊で無いなら、潰す必要は無いわ。何処ぞなりと消えなさい」
そう冷たく言い放ち、華仙は去って行った。
一先ずの騒動は収まったが、易者をどうするかという問題が残った。それに関して勇儀が提案した。
「こいつは私が連れてくよ。元々こいつは、今回の件で旧地獄送りだからな」
「そのわりには、華仙を止めようとはしなかったが?」
「そりゃ止めるつもりはなかったからね。でもまぁ、面構え良くなったから、向こうでしごいてやろうと思ってね」
勇儀はそう言いながら、易者を連れて去って行った。
その後霊夢達は、ジンの魂を持って永遠亭へと戻り、彼を蘇生する事に成功するのであった。
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牛首異変から幾日が経過した。
魂を抜かれたということもあって、ジンは永遠亭で療養中である。そして今日は、霊夢が見舞いに来ている。
「―――――ってな訳で、人里は襲われたけど、牛頭天王のビラのおかげで被害が少なかったらしいわ。あれが無ければ、慧音が能力発動する間に人が死んでいたかも」
「それは良かった」
「私としては、あんまり喜べないんだけどね」
「それでも助かった人がいるんだから、それは霊夢のおかげだろ? なら、胸を張れば良いと思う」
「まぁ、あんたがそう言うなら・・・あと、あの易者についてだけど」
霊夢のその言葉に、ジンの表情が変わった。
「・・・・・・あいつはどうしてる?」
「旧都でせっせと働いていたわよ」
牛首異変の後、易者は勇儀の元で働くようになった。
あの異変で、すっかり憑き物が落ち、怨霊というより亡霊に近い存在になっている。
やった事が事なので、恐らくジンが生きている間には、出てくる事は無いであろう。しかし、それを聞いていたジンの表情は明るかった。
「それと、あの異変で、博麗神社の評判が上がって、参拝客が増えて大変なのよ。
だから、早く治って戻って来なさいよね」
「ああ、わかった・・・・・・霊夢」
「ん?」
「いろいろと・・・ありがとう」
ジンのその言葉に、霊夢は笑顔を返すのであった。
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ここは華仙の屋敷。その屋根の上で、華仙と小町が話していた。
「結局は、貴女の思惑通りって事かしら?」
「ん? 一体何の事だい?」
「とぼけないで。最初っからおかしいと思ったのよ。萃香と勇儀ならともかく、私にまで後の事を任せるなんて」
「おや? 自分がどんな事をする奴か、自覚はあるみたいだね。それは結構結構」
「茶化さず答えなさい。貴女は、“ああなる事を予想して、後を任せた”のかしら?」
真剣に質問をする華仙に対して、小町は笑いながら答える。
「あはは、私はそこまで計算は出来ないよ。だけど、可能性には賭けた。それだけさ」
「それは、ジンが私を止める可能性って事かしら?」
「まあね。あんたの過去に何があったのかは知らないけど、あんたは怨霊を潰し過ぎている。このままだと、討伐対象になっていたかも知れないからねぇ」
「あら、随分と心配してくれるのね?」
「別に心配なんかしてないさ。ただ、討伐対象になった場合、あたいに白羽の矢が立つからね。正直、あんたとやり合って、無事では済まないだろうし」
そう笑顔で言う小町ではあるが、もしそうなったら、彼女は容赦なく自分を刈り取りに来るだろう。
世間からサボリ魔と呼ばれてはいるが、意外にも、職務は全うする志しを持っている。ただそれは、重要性が高い場合のみなのが、彼女の最大の欠点であると、華仙は思った。
「安心なさい、暫くは怨霊潰しは止めるわ。あんなのを見せられたら、潰す気が失せたわ」
「暫くねぇ、あたいとしては、卒業して欲しいんだけど?」
「それは出来ないわ。私は怨霊の存在を認めない、絶対に・・・・・・」
よほど怨霊に対して強い憎しみを持っているのか、華仙の表情は怒りに歪んでいた。
(やれやれ、一筋縄にはいかないか。これは、今後ジンに期待するしかないねぇ)
小町はそう思いながら、青い空を眺めた。ふと、彼女はある事を思い出す。
「あっ、そう言えば、“現像虚言”っていう魔導書を知らないかい? あの元死神が向こうの地獄から持ち出した物なんだけど、持っていなかったから、易者が方が持っていたと思うんだけど?」
「知らないわ、私すぐ居なくなっちゃったから。勇儀と萃香は知らないの?」
「二人に聞いたけど、同じ解答だったよ。誰かが拾ったのかねぇ?」
「拾うとするなら、魔理沙ぐらいかしら? あの子、魔法使いだし」
「やれやれ、早いとこ回収しないと、また映姫様に叱られるよ」
そうため息をつきながら、小町は重い腰を上げた。
「それじゃあ、あたいは行くね。また何があったら頼むかも」
「二度と無いことを願うわ」
そんな言葉を交わしながら、小町は去って行き、華仙は屋敷へと入って行った。
こうして、牛首異変は幕を閉じたのである。
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オマケ
香霖堂の店主である霖之助は、とても上機嫌であった。何故ならば、異変の時に、とても価値のある“魔導書”を手に入れたからである。
「いやー、なかなか良いものを手に入れた。まさに、“災い転じて福と成す”だ」
そう言いながら、霖之助は魔導書を桐箱に納める。その魔導書は、“現像虚言”と書かれていたのであった。
さて、今回の牛首異変なんですが、実は易者との和解は予定にはなかったのです。本来はあのまま、地獄に送り返す予定だったのですが、ちょっと華仙についてやっておきたい事がありました。
それは、怨霊を潰す事を辞めるという話を組み込みたかったことです。
彼女は、怨霊なら問答無用に潰します。それは地上から出た怨霊だけではなく、旧都にいる怨霊であっても容赦なく潰すシーンが茨歌仙にありました。
地上から出た怨霊はまだしも、旧都にいる怨霊まで潰すのはやり過ぎだと思っています。現実で言うならば、服役中の囚人を、気に入らないという理由で殺すようなものです。正直言って、彼女のこの行いは間違っていると思います。事実、初期の段階で小町からは警告を受けています。
そういう理由で、今回の話しの流れになりました。易者との和解は、その副産物として出来ました。