東方軌跡録   作:1103

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 遅れまして明けましておめでとうございます。今年最初の投稿です。
今回は鈴奈庵の話しで、短めにしております。
今年も一年、よろしくお願いします。


年末の終末論

年の終わりが間近に控えたある日、神社の参拝客がこんな噂をしていた。

 

「なに? 弥勒の世ですって?」

 

「そうなんですよ! 早ければ今年の年末に訪れ、世界が終わるとかで、里では密かに噂になっているんです!」

 

参拝客の一人が、霊夢に訴え掛けるようにそう言っていた。

仏教について詳しく無い霊夢であったが、弥勒の世とは、五十六億年後に来ると言われているものなので、今年中に来るとは思えなかった。

 

「確か、その弥勒の世ってのは、遠い未来の話よね? 何で今年だと?」

 

「今年は異常事態が多かった。それは、滅亡の前触れじゃないかと・・・・・・」

 

「それは・・・・・・」

 

実際、今年は幻想郷の危機に関する異変が多かったのも事実。しかし、それらは既に解決している筈なのだから大丈夫。そう言おうとした時、ジンが現れてこう言った。

 

「弥勒の世は来ないよ。そもそも、弥勒の世っていうのは、終末の世ではなくて、弥勒菩薩がこの世に現れて、衆生―――――つまりこの世を救世する、救世の世なんだ。仮に来たとしても、世界が滅亡する訳じゃない」

 

「え!? それは本当なんですかい!?」

 

「ああ。詳しい話は、白蓮に聞くと良い」

 

ジンがそう言うと、参拝客は頭を下げて去って行った。

参拝客がいなくなるのを見計らい、霊夢が尋ねて来た。

 

「今の話本当?」

 

「ん? 弥勒の世が救世の世だってことか? ああ、詳しい事は俺も知らないが、白蓮から聞いた限りでは、終末の世ではなく、この世に争いが無くなり、平和になる世っていう感じだった」

 

「つまり、誰かが早とちりして、誤解した噂が広まったのね。紛らわしい」

 

霊夢がそんな事を愚痴っていると、今度は魔理沙と小鈴が大慌てした様子でやって来た。

 

「霊夢! ジン! 大変なんだぜ!」

 

「あら、魔理沙に小鈴ちゃんじゃない。一体どうしたの?」

 

「これを見て下さい!」

 

そう言って、小鈴は持って来た文々。新聞の記事を見せる。そこにはこう書かれていた。

 

「なになに、“世界轉覆奇談”(せかいひっくりかえるめずらしきはなし)?」

 

「はい、これは世界滅亡の予言で、今年中に起こるそうなんです」

 

「あのねぇ、天狗の新聞をいちいち真に受けているんじゃあ――――――」

 

「霊夢こそ忘れたのか? 都市伝説の異変だけは、まだ収まっていないだぜ」

 

魔理沙の言葉で、霊夢は思い出す。半年以上過ぎた今でも、噂が具現化する事象は収まっていないのである。もし、この噂が広まれば、世界滅亡が実現してしまう危険があった。

 

「迂闊・・・すっかり忘れていたわ」

 

「ともかく、文の所に行こうぜ! 何でこんな記事を書いたのか、問いたださないと――――――」

 

「少し落ち着け、新聞をちゃんと読んだか?」

 

今にも飛び出しそうな二人に、ジンは落ち着いた声で静止した。

 

「この記事の前置きは、“こういう未来記の多くは、概ね民を欺く方便である”。つまり、この予言はまったくのデタラメで、信用に値しないって事を書いているんだ」

 

「つまり、噂を煽っているんじゃなくて、否定してるって事?」

 

「そういう事。第一、こんな誰も得しない噂を煽ってどうするんだよ?」

 

「言われて見ればそうね。世界が滅亡したら、自分もただじゃあすまないでしょうし」

 

「つまり、今回は小鈴の早とちりって訳か」

 

「ううっ、すみません・・・・・・」

 

小鈴は申し訳なさそうやな頭を下げた。

 

「まあ、仕方ないさ。こんな風に目立つように書かれていたら、世界轉覆奇談の方に目が行くのは仕方ない。それよりも――――――」

 

「思った以上に噂が広まっているようね。ちょっと手を打たないとヤバイわ」

 

「手をか・・・なら、各方面に協力して貰おうかな」

 

ジンは早速行動を開始した。

 

――――――――――――――――

 

それからの数日間、人里では様々な行動が起きた。

先ずは、人里の外れに新しいお地蔵が立てられたこと。この地蔵は弥勒菩薩の地蔵で、命蓮寺が設置した物である。

この地蔵をちゃんと拝んでいれば、弥勒の世でも生き残るという話から、弥勒の世による終末を信じる人から、拝まれるようになった。

次に永遠亭からは、不安を取り除く薬が販売された。これにより、極度の不安によって体調を崩していた人達は、たちまち良くなった。

と言っても、薬事態はただの偽薬である。要はプライシーポ効果による治療なのだ。

そうとも知らない人々は、こぞって薬を買うようになった。

端から見てると、詐欺にあっているように見えるのだが、それで心を落ち着かせるのなら、それも良し。

守矢と博麗神社からは、終末の世から守ってくれる御札や御守りなどを販売した。これも永遠亭の偽薬と同じ様な物なのだが、これに対しても人々は買い漁るように求めた。

 他にも仙人達の忠言や文々。新聞や花果子念報によるオカルト専門家(宇佐見菫子)の、終末論否定の記事の発行等により、終末論がデマだという話が流れ、ごく一部の人間は噂に振り回され無くなった。

そんなこんなで、幻想郷は終末論ブームとなったが、大晦日が近づくにつれ、徐々に落ち着いていったのである。

 

――――――――――――――――

 

 博麗神社では、年末の大晦日に向けて準備が行われていた。

 

「何だかんだで、今年も終わりね。あれだけ騒いでた終末論は、大体は沈静化しちゃったし」

 

「結局、ただ単に踊らされていただけって事さ。そう簡単に世界は滅びない、世の中そんな物だ」

 

「随分と達観的ね」

 

「悲観的よりはマシだと思うが?」

 

「もし本当に世界が滅亡するとしたら、ジンはどうするの?」

 

 霊夢の何気ない問い掛けに対して、ジンはこう答えた。

 

「どうしようも無い場合だったら、終わるその時までここに居たい。それじゃ駄目か?」

 

「・・・まあ、別に良いわよ。どうせ何処に居ても死ぬだし、別に居ても良いわよ」

 

「ありがとう。ところで、霊夢はその時どうするんだ?」

 

 今度は逆にジンが質問して来た。

霊夢はしばらく考えてから、やや呆れた風に答えた。

 

「・・・私も、ここに居るかしらね。騒いでも仕方ないのなら、ここでのんびり茶でも飲んでいるわ」

 

「はは、なんだか霊夢らしいな。それなら、その時が来たら、二人で最後の茶でも飲むか」

 

「良いわねそれ、それなら最高級の茶と茶菓子を用意するわ」

 

 そんな事を言ながら、微笑む霊夢。そんな霊夢を見て、世界が終わるとしても、最後まで彼女の側に居られれば、幸せに過ごせるかも知れないと、ジンは密かに思った。

 結局終末は訪れずれる事はなく。今日も明日も、世界は回り続けるのであった。

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