ダム建設開始から、一ヶ月経過した頃。
霊夢はジンの代わりに境内の掃除をしていた。
「・・・・・はあ」
「どうしたの霊夢? 元気無いみたいだけど?」
「なんだ、華仙か・・・・・」
「本当にどうしたの?
何と言うか・・・・・貴女らしく無いような―――」
「うるさいわね、あんたには関係ないでしょ」
そう言って、華仙を無視するかのように、掃除を再開させる。
そんな様子を見た華仙は、ある違和感を感じた。
「そういえば・・・・・ジンの姿が見えないけど・・・・・?」
その言葉に、霊夢はピクッと反応する。
「・・・・・アイツなら、ダムの建設現場にいるわよ」
「ダムの建設現場? どうしてそんなところに?」
「あんたには関係ないでしょ。
用が無いならさっさと帰って」
「もしかして・・・・・逃げられたと――――」
「そんな訳無いでしょ!」
「え!?」
「ただダムの建設現場の監督をしているだけよ!
最近工事が遅れているから、泊まり込みをしているだけ! 終われば直ぐに帰って来るわよ!」
「え、ええ、そうね・・・・・ごめんなさい・・・・・」
「・・・・・いいから帰って、今日はあんまり話す気は無いのよ」
そう言って、霊夢は掃除を再開させる。
華仙は、邪魔にならないように神社を後にする。
―――――――――――
人里にある団子屋で、華仙と魔理沙は最近の霊夢の様子について話していた。
「霊夢の様子、どう思う?」
「どうもこうも、限界ギリギリって感じだな。
おかげで、皆怖がって神社に近づかなくなっちまったよ」
「何が原因かしら・・・・・?」
「そりゃ、ジンが原因だろうな。
アイツ、ここ数週間まともに帰っていないらしいぜ」
「それだけで、あんなに荒れるかしら?」
「そうだな、以前の霊夢なら考えられないが、結構ジンに依存しているぞ」
「そうね・・・・・考えてみたら、神社の参拝客を集めたのも、殆ど彼のおかげなのよね」
「そうだな、霊夢がやればいつも失敗ばかりしていたもんな。
それで、知らず知らずの内に、依存して行ったんだろう」
「そんな彼が、一ヶ月も帰って来ないか・・・・・」
「きっと不安なんだろうぜ。
いつ帰って来るか、本当に帰って来るか」
「それなら、現場監督を辞めさせればいいじゃない」
「そういう訳にもいかないらしい。
何せ、許可出したのは他ならぬ霊夢自身だからな」
「え? そうなの?」
「ああ、守矢の奴等が河童を統率出来ずにいたらしく。
それで、白羽の矢が立ったのがジンって事だ」
「よく霊夢が許可したわね・・・・・」
「何でも、ダムが建設されれば、それ目当てに里の人間が見に来るだろ?
それに乗じて、一儲けしようとしたらしいぜ」
「呆れた・・・・・そんな俗物な考えで、ジンを行かせたの?」
「そうらしいな。
最も、それで苦しんでいるのは本人だけどな」
「同情するけど、自業自得ね」
「そうだな・・・・・霊夢には悪いが、こればっかりはどうしようも無いしな」
そう呟き、団子をほうばる魔理沙。
ふと、空を見上げると、曇り空が広がっていた。
「あれ? さっきまで晴れだったのに・・・・・」
「季節外れの夕立かしら?」
そして雨が振りだす。
二人は店の中に避難するが、雨はだんだんと強まり。視界が見えないほどの豪雨となった。
「おいおい! 夕立ってレベルじゃないぞ!」
「これは一体・・・・・」
豪雨はしばらく続いたが、直ぐに止み、再び快晴となった。
「一体何だったんだ?」
「さあ?・・・・・って、あれは!?」
華仙の視線の先には、凄まじい水柱が起きていた。
「何なんだあれは・・・・・」
「水柱? いえ、彼処だけ凝縮した雨が降っているみたいね・・・・・」
「って、ちょっと待て! あそこはダム建設の現場じゃないか!」
「何ですって!」
「何度も行ったから、間違いない!」
「行くわよ魔理沙!」
二人は急いで、ダムの建設現場へと向かった。
―――――――――――
ダムの建設現場は騒然していた。
あちらこちらの河童達が、どうすれば良いかとあたふたしていた。
「これは一体・・・・・」
「あ、魔理沙! 華仙! ちょうど良かった!」
「にとりか、一体これは――――」
「お願い! 霊夢さんを止めて!」
「霊夢がどうかしたの?」
「あの水柱の中に行くって聞かないんだ!」
「何だって!」
「わかりました。案内して下さい」
「こっちだよ!」
にとりの案内の元、現場に向かう魔理沙と華仙。
するとそこには、複数の河童達が霊夢を止めようとしていた。
「危険ですから、下がって下さい!」
「そんなの分かっているわよ!
でも、あの中にアイツが――――」
「霊夢! 馬鹿な事は止めろ!」
「そうよ。
いくら貴女でも、あの水圧には耐えられないわ。ここは大人しく―――――」
「あの中にはジンがいるのよ!」
「何ですって!?」
「それは本当か!?」
「はい・・・・・ジンさんはあの中にいると思います・・・・・」
河童達の話によると、先程の豪雨の時、危険だと判断し、作業を中断し、河童達を避難させた。
その時、ダムに入る人影を見て、その人物を連れ戻そうと、自身もダムに入って行った。
「その後直ぐに、あの水柱が出たんです・・・・・」
「何てこった・・・・・」
「なるほど・・・・・ですが、私達ではこの水柱をどうにか出来ないわ。
一旦戻って対策を―――」
「そんな悠長な事、言ってらんないわよ! 今すぐ――――」
そこで霊夢の言葉は途切れた。
華仙が当て身で、霊夢を気絶させたからである。
「悪いけど、少し寝て貰らうわ」
「容赦ないな・・・・・。
それにしても、どうしてこんな水柱が?」
「もしかして・・・・・ダムを建設していた事に、水龍様がお怒りに・・・・・」
「いいえ、これは水鬼鬼神長の仕業ね」
「水鬼鬼神長? 何なんだそれは?」
「私も話しぐらいしか聞いて無いんだけど、何でも寿命を伸ばしし過ぎた者を殺す為に来たらしいわ」
「まさか・・・・・ジンはそれに巻き込まれたのか?」
「恐らくね」
「どうする?」
「これだけの規模の力を行使してもの。
正攻法は無理ね。一旦戻って対策を練りましょう」
「そうだな、霊夢の事もあるし、一旦戻るか」
「私達も、色々とやってみるよ」
「お願いねにとり。
何かあったら直ぐに知らせて」
「わかったよ」
この場は河童達に任せ、華仙と魔理沙は気絶している霊夢を連れて、一旦愽麗神社に戻る事にした。
―――――――――――
それから数日が経った今。
水柱は相変わらず、ダム付近に降り注いでいた。
愽麗神社では華仙と魔理沙が、ダム付近の状況を早苗と文から聞いているところであった。
「それで? どんな感じなの?」
「諏訪子様と神奈子様がどうにかしようとしたんですけど・・・・・駄目でした。
お話を聞く限り、水龍クラスの力らしいですよ」
「天狗達の方は完全に静観してますね。
元々、排他的な上に、ジンさんの事を快く思っていない輩が多数いますから」
「そう・・・・・ありがとう二人共」
「また何か進展あれば、お知らせします」
「私も、出来る範囲で協力しますよ」
そう言って、早苗と文は帰っていった。
「進展なしか・・・・・あれからもう数日だぜ・・・・・」
「そうね・・・・・普通の人間なら、生存は絶望的でしょが・・・・・」
「ジンは鬼の人妖だからな、まだ生きている可能性はあるな」
「ええ・・・・・でも、あの水柱をどうにかしないと、こちらからはどうしようも無いわね」
「あの中か・・・・・そう言えば、水鬼鬼神長に狙われている奴は、一体どんな奴なんだ?」
「知り合いの死神に聞いたぐらいだけど・・・・・。
何でも邪悪な仙人らしいわ」
「・・・・・そんな奴と一緒に閉じ込められて、大丈夫なのか?」
「どうだろう・・・・・?」
「ますます不安になっていくな・・・・・。
ところで霊夢の奴はどうしてる?」
「あまりにも暴れるから、毒を打っておいたわ」
「え!? 毒って――――」
「大丈夫。毒といっても、やる気を奪う毒だから、大して害にならないわ」
「そ、そうか・・・・・何にしても、大人しくして―――って、霊夢!?」
「え!?」
魔理沙の視線の先には、だるそうにしながらも、何処かに行こうとしている霊夢の姿があった。
「そんな! 雷獣の毒を受けて、動けるなんて!」
「これしき・・・・・どうって事・・・・・無いわよ・・・・・」
「強がるな霊夢。
動くだけで精一杯だろ?」
「そうだとしても・・・・・私は行かないといけないのよ・・・・・」
「霊夢。貴女がそうまでする理由があるの?」
「・・・・・わからないわ。
だけど、あいつを見殺しにはしたくないの・・・・・」
「・・・・・霊夢」
「霊夢。気持ちは分かるが、闇雲に行っても――――うわ!?」
突然、魔理沙の足元近くに、丸い穴が開いた。
そこから一人の女性が現れる。
「よっと、ようやく外に出られたわ~」
「あんたは確か・・・・・青娥?」
「あら、覚えてくれて嬉しいわ霊夢」
彼女の名は霍青娥。またの名を青我娘々である。
かつて霊夢と対峙した仙人で、一般的には邪仙と部類されている仙人である。
「何で青我がここにいるんだぜ?」
「それはね―――」
「おーい青我! 早く引き上げてくれー!」
「あ、いけない。連れがいるんだったわ」
「連れ? それに今の声・・・・・」
「ちょっと待っててジン。
今引き上げるから」
「「「ジン!?」」」
霊夢、魔理沙、華仙の三人は、急いで穴を覗く。
そこには、ボロボロになりながらも、確かに生きているジンの姿があった。
―――――――――――
それから数日後、ジンは神社で文々新聞を読んでいた。
「“ジン、奇跡の生還”って、文も大袈裟だな・・・・・」
「あのね、実際は大騒ぎだったのよ。
中には、あんたの無事を祈っている人だっていたんだから」
「そ、それは悪かった。
俺もまさか、あんな事に巻き込まれるとは思わなかったからな」
事の発端は、地獄の水鬼鬼神長が青娥を狙っていた事から始まった。
彼女を殺す為に、幻想郷中の雨を一ヶ所に凝縮させて降らせた。
青娥はというと、建設中のダムに興味を持ち、侵入する機会をうかがっていた。
そして、水鬼鬼神長が降らせた雨に乗じて、ダムに侵入し、物色を始めたのである。
ジンは、そんな彼女を避難させようとして、巻き込まれたのである。
「小町の話しによると、水鬼鬼神長って奴は、手段を選ばない奴らしいわよ。
周囲の被害は勿論、無関係な者だって、平気で巻き込むって話よ」
「最悪だなそいつ・・・・・」
「でも、今回はやり過ぎたみたいで、謹慎処分を受けたって」
「そうか、それなら安心だな。
ところで、何を燃やしているんだ?」
「観光グッズ。
ダム建設計画が中止になっちゃったからね。もう必要無いわ」
水鬼鬼神長が起こした水柱によって、建設中のダムは破壊されてしまい、ダム計画は中止になってしまった。
「そうか・・・・・せっかく作ったのにな」
「良いのよ。
・・・・・本当に大事なものが、無事だったんだから」
「え? 今何て――――」
「何でも無いわ。
それよりも、お粥が食べたい。作ってちょうだい」
「お粥って、何もそんな貧相な食べなくても―――」
「お粥が食べたい気分なの!
良いから作りなさい!」
「わかったって、そう急かすなよ」
こうして、ダム計画は中止になったものの、愽麗神社にいつもの風景が戻って来たのである。
今回はシリアスになってしまいました。
一応これでも、ほのぼの系の話しにしたいと思っているのですが、なかなか難しいです。