東方軌跡録   作:1103

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 今回は鈴奈庵からの話しです。
 推理ものの台詞はこんな感じかなぁ?と考えながら書いてはみたものの、やや似非推理的なものになってしまいました。
 


幻想郷のアガサ

 梅雨が間近に迫り、ジンと霊夢が梅雨に備えて買い出しに出掛けた時の事である。

 

「さてと、後は何かあったかしら?」

 

「そうだな・・・どうせなら鈴奈庵で何か本を借りるか?」

 

「あんた本好きねぇ、どこかの本好きの魔女みたいに、引きこもったりしないでよね」

 

「流石にそこまではならないって。それに、鈴奈庵は面白い本が意外と揃っているぞ。霊夢も何か読んでみたら?」

 

「うーん・・・まぁ、気が向いたらね。ん?」

 

そんな時、目の前で話し込んでいる二人の男性の話し声が聞こえて来た。その内容は、無視できない程物騒なものであった。

 

「――――――で、その旦那の死体が、煙のように消えたって訳さ」

 

「目撃者は居なかったのか?」

 

「目撃者は、小間使いの小僧だけなんだよ、これが」

 

「狂言なのか、それとも犯人なのか――――――」

 

「ちょっと今の話! 詳しく聞かせて頂戴!」

 

二人の男性の会話に、霊夢が割って入った。

あまりにも物騒な話だったので、博麗の巫女として放ってはおけなかったのだろう。

しかし、これが早とちりてあった。

 

――――――――――――――――

 

「あはは、それで本当に起きた事件と勘違いした訳ですか」

 

鈴奈庵の店内で話を聞いていた小鈴は、思わず笑ってしまっていた。

先程の男性の二人の会話は、推理小説の内容であったのだ。

 

「まったくもう、道のど真ん中で話し込むんじゃないわよ。おかげで恥をかいたじゃない。たかが作り話に、だいの大人が夢中になりすぎよ。貴方もそう思うわよねジン?」

 

「・・・・・・」

 

「ねぇ、聞いているのジン?」

 

「・・・・・・ん? ああ、悪い。つい夢中になっていて、聞いていなかった」

 

ジンは、先程の男性達が話していた推理小説を読んでいた。タイトルは、“全ては妖怪の仕業か?”というもので、アガサクリスQという人物が書いた本である。

ざっくり読んだ感じでは、犯人は妖怪の仕業に思わせる犯行を行い、主人公の少女探偵とその助手である青年が、それを見破るという、よくある推理小説である。

人里では、あまりこういうジャンルは敬遠されていたのだが、これなら外の世界を知らない人でも填まると、ジンは思った。

そんな様子を見ていた霊夢は、深いため息をつく。

 

「もうしっかりしてよね。貴方まで夢中になってどうするのよ」

 

「いや、これはおもしろいぞ。霊夢も一回読んでみろよ」

 

 

「まったく、こんなのおもしろい筈が――――――」

 

そう言って、霊夢は小説を読み始める。すると、霊夢は数ページ捲っただけで、食い入るように話にのめり込んでいった。

 

「どうやら、霊夢も填まったようだな。ところで、この“アガサクリスQ”って誰なんだ?」

 

何気無く作者の事を尋ねると、小鈴は人差し指を口に当てながら、悪戯な笑みを浮かべて言った。

 

「作者のプライベートに関しては、秘密です♪」

 

「なるほど・・・・・・もしかして阿求か?」

 

小声でそう尋ねると、小鈴は先程の笑みから、仰天の表情に変わった。

 

「な、なんでわかったんですか!?」

 

「俺は暇さえあれば、人里中の本屋に回っているんだ。だけど、このアガサクリスQの本はここしか置いていなかった。

何故鈴奈庵にしか置いていない? これだけの作品が書けるなら、他の本屋にも置いた方がもっと儲けられるだろ?」

 

「え、え~とそれは・・・・・・」

 

「理由としては、このアガサクリスQは、個人的に鈴奈庵と繋がりがあって、別にお金には困っていない裕福な人物だ。そして本を良く書いているとするなら、該当者は一人しかいない。

稗田阿求、そしてこのアガサクリスQのQは、阿求の求をQとかけたもの。違うか?」

 

「す、すっごーい! 流石ジンさんです! 見事な名推理でした!」

 

「そんなに誉めるなよ、殆ど何となく思った事を言っただけなんだから」

 

「それでも殆ど正解です! まさにシャーロック・ホームズですね!」

 

小鈴はジンの事を大層褒めていたが、ジンからしてみれば、この推理は穴だらけである。

鈴奈庵のコネはかなり広く、裕福な顧客は数多くいるのだ。その上、確固たる証拠も無い。一番確率が高い人物の名前を上げて、適当にそれっぽい事を言っただけである。

 

(まぁ、小鈴が喜んでいるみたいだし、良しとするか)

 

「ところで、ジンさんは最初の事件の犯人、誰だか分かりましたか? 私も考えているんですけど、ちっともわからなくて」

 

全ては妖怪の仕業か?の最初の事件―――――第一話の事件は、未だに解決編が出ないまま、次の事件の話になっていた。誰もが気になる事件の真相を、ジンはある程度で推測していた。

 

「まだ推測の域だが、最初の事件の犯人は別々に存在していると思う」

 

「え! それはどういう事ですか!?」

 

「死体を隠すっていう行為は、事件の発覚を防ぐ為の行為だ。どんな時代でも、発覚が遅れれば遅れるほど、捜査は難しくなるものだ。

だが、消えたのは小間使いに死体が見られた後。何故殺した後、すぐに死体を運び出さなかったのか? 色々と考えてみたが、恐らく犯人は、突拍子に相手を殺してしまったのだろう。そして怖くなり、死体をそのままにして逃げ出した」

 

「じゃあ小間使いが見たのは―――――」

 

「犯人が旦那を殺して逃げた後だろうな。小間使いはまだ子供だ、死体を見れば取り乱してその場から逃げる。その後に、死体を隠した犯人が現れ、死体と事件に関わる物を処分し、隠蔽工作をした。俺はそう考えているな」

 

「何故その人は、隠蔽などを?」

 

「考えられるのは、隠蔽した人物は犯人と近しい位置にいる者だからだ。犯人を庇う為に、隠蔽工作をしたのだろう」

 

「・・・・・・やっぱりジンさんは凄いですね。私はそこまで、考えられませんでした」

 

「そんな褒めるなって。言っておくけど、これも根拠のないデタラメ推理だ。本当の真相とは、見当違いかもしれないんだぞ」

 

「それでも、やっぱり凄いです! カッコいいです!」

 

小鈴の羨望の眼差しを受け、ジンはとても照れくさかった。

そんなやり取りをしていると、試し読みを終えた霊夢が言う。

 

「な、なかなかおもしろかったわ。良い暇潰しにはなりそうだから、借りていくわ」

 

「はい、毎度ありがとうございます!」

 

こうしてまた一人、アガサクリスQの愛読者が増えたのであった。

 

――――――――――――――――

 

ジンと霊夢が帰ったあと、阿求が鈴奈庵に訪れ、先程のジンの推理の事を小鈴から聞いていた。

 

「なるほど、それでアガサクリスQの正体を喋ってしまったって訳ね」

 

「だって、殆ど合っていたし、それにジンさんなら口が固いから大丈夫よ」

 

「そうね、あの人なら信頼出来るわ。ところで、私の書いた本について何か言ってた?」

 

「ええ、凄く良かったって言ってたわ。あの霊夢さんも、思わず熟読するくらい好評だったわよ」

 

「へぇー、あの人も読んだのね。あまり読書には興味が無さそうに思えたけど・・・・・・」

 

「まあ確かに、霊夢さんが読書に填まるなんて、正直予想外だったわ。これを機に、お得意様になってくれれば良いんだけどね。あっ、そう言えば――――――」

 

「ん?」

 

「阿求の本を読んでいたジンさんが、こんな事を言っていたわ。“最初の事件は、犯人とは別に死体を隠したもう一人の犯人がいる”って」

 

「・・・・・・その話、詳しく教えて貰えるかしら?」

 

「え? べ、別にいいけど・・・・・・」

 

突然、真剣な表情になる阿求に戸惑いながらも、小鈴はジンの推理を話した。

 

「なるほど、殺した犯人と死体を隠した人物は別にいると・・・・・・」

 

阿求はジンの推理内容を聞いた後、暫く考え込み、突然立ち上がった。

 

「あ、阿求?」

 

「ごめん小鈴、調べたい事があるから、暫くアガサクリスQはお休みさせてもらうわ」

 

「え!? ちょ、ちょっと阿求!」

 

阿求はそのまま鈴奈庵を出て行ってしまった。

突然の事に、小鈴はただ唖然するだけであった。

 

――――――――――――――――

 

それから数日後。霊夢は案の定、推理小説にど填まりし、一日中小説にかじりつくという生活を続けていた。

 

「まったく、人に言っておいて、自分がなってちゃ駄目だろうに・・・・・・」

 

そんな事をぼやきながら、人里を歩くジン。そこで、魔理沙が何やら男達と少年と、何か話している姿があった。

 

「何かあったのか魔理沙?」

 

「ん? ジンか、実はな―――――」

 

魔理沙は事の経緯を話始めた。

昨夜、小間使いの少年がゴミ捨てに云った時、人の死体を見たとの事。だが、再び来てみれば、そこに死体の影も形もなかったという事だ。

 

「なるほどな、消えた死体か・・・・・・まるで小説みたいな話だな」

 

「小説?」

 

「最近流行りの推理小説だ。アガサクリスQって人の」

 

「ああー、あの本か、確かに状況が似ているな」

 

「なら小説の読みすぎで、そういった夢をみたんじゃないですかね?」

 

男達がそう言うと、小間使いの少年は、大きな声で否定する。

 

「違うって! だいたいそんな金持ってないし、読んだ事もないよ!」

 

男の言葉に反論する少年。ジンは少年が嘘をついているとは思えなかった。

 

「なら、もう一回現場を見てみないか? 何か分かるかも知れない」

 

ジンの提案で、少年が死体を見た場所に行く事になった。

 

――――――――――――――――

 

「ここに死体があったんだ」

 

少年が示した場所は、草むらが生い茂っており、仮に死体があったとしたら、必ず痕跡が残るような場所であった。だが――――――。

 

「なーにもありゃしないじゃないか」

 

そこには何の痕跡もなかった。試しにジンが軌跡を見るが、最初から何もなかったのか、時間が経ち過ぎたせいなのか、軌跡は何も残っていなかった。

 

「これだけの草が生い茂っているのなら、何か痕跡が残るってものさ」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

少年は反論出来なかった。確かに、少年の言うとおり死体があったのなら、あったなりの痕跡がある筈だ。だが、それらしい物は見当たらなかった。

やはり少年の見間違いという事で、話が終わろうとしたその時。

 

「ん? ここだけ草が潰れているな」

 

「本当!?」

 

魔理沙が何かの痕跡を見つけたようで、少年は期待を抱くように、魔理沙に尋ねた。

 

「ああでも、人の大きさでは無いな。せいぜい“小動物”くらいの」

 

小動物、という言葉で、ジンの脳裏にある可能性が浮かび上がった。

 

「小動物・・・もしかして」

 

「何かわかったの!?」

 

「わかったって言うか、可能性があるという話だ」

 

「可能性って?」

 

「狐、あるいは狸に化かされたっていう可能性だ」

 

「「「「あっ!」」」」

 

そこで全員がようやく、妖怪の仕業である可能性がある事に気がついたのである。

 

――――――――――――――――

 

死体騒動から更に数日が経過した。

結局あの騒動は、化け狐か狸の悪戯で片がついた。因みに、何故その可能性に気づかなかったかというと、相談にのっていた男二人もまた、アガサクリスQの愛読者で、状況があまりにも小説に似ていた為、思わず重ねてしまい、妖怪の仕業という考えが抜けてしまっていたという事だった。 要は、男二人の方が小説の読みすぎだった訳である。

さて、そんな話は置いといて、今ジンは稗田の屋敷に来ていた。

 

「いきなり呼び出してごめんなさい、ジンさん」

 

「別に良いさ。それよりも、相談して欲しい事って?」

 

「そうですね。私がアガサクリスQというのはご存じですよね?」

 

「ああ、小鈴から聞いた」

 

「それなら話が早いです。相談にして貰いたいのは、この話の結末です」

 

そう言って出したのは、アガサクリスQ記念すべき第一話の原稿であった。

未だ未解決のこの事件の解決編は、最終話になっていると、噂が出ていた。

 

「もしかして、もう最終話を書くのか?」

 

「いえ、この事件に関しては少々事情が異なっているんです」

 

「事情が?」

 

「実はこの話だけは、実際に起きた事件なんですよ。私の転生前の大昔に」

 

阿求の話によると、とある屋敷の小間使いが、大屋敷の旦那の死体を見たという。だが死体は無く、大旦那本人も健在であった。結局、小間使いの狂言という事で、この事件は片付いたのだが―――――――。

 

「当時の私が調べたところ、死体があった形跡と、凶器として使われていたと思われる石に、血がべっとりとついていました」

 

「つまり、そこで何かが起きたのは確実だが、肝心な死体だけが見つからなかったって事か」

 

「はい。事件が起きた証拠も無く、事件は未解決のまま時が過ぎました。そして、この前里で少し騒がれた死体消失事件と、貴方が小鈴に話した推理で、私はその未解決の事件の真相が分かったんです」

 

「事件の真相が?」

 

「はい、その大旦那は小間使いによって殺されたのです」

 

「小間使いが?」

 

予想外の犯人に、ジンは驚きを隠せなかった。

そして阿求は、言葉を続けた。

 

「小間使いが死体の事で、こんな事を口走ったらしいんです。“大旦那を石で殺してしまった”と。でも、その大旦那は健在だったので、狂言として無視されましたが――――――」

 

「狂言ではなかった。その小間使いは確かに、大旦那を殺してしまった。なら、生きていた大旦那は一体・・・いや、もしかして―――――」

 

「そう、大旦那は生きていたのでは無く、狐か狸が化けていたんだと思います」

 

事の真相はこうである。小間使いは魔が差して、大旦那を殺してしまったが、それを隠蔽したのが妖怪であったのだ。

 

「何故妖怪が、小間使いを庇ったのかは分かりませんが、真相はこれで間違いないと思います」

 

「まあ、昔の話だからな。確かめるのは難しいだろうな・・・それで、その話を小説に書くのか?」

 

「その事で相談に乗って欲しいのです。この結末を、どう書いたら良いのでしょうか?」

 

阿求は迷っていた。その大旦那は悪名高く、いつも小間使いを虐げていた。当時の彼女も、その小間使いを気の毒に感じた程である。

だが事件の後、その大旦那がまるで人が変わったかのように丸くなり、評判も良くなったという。

入れ替わったという事実に目を瞑れば、ハッピーエンドなのだが、推理小説としては、解決編を出さなければならないのである。

 

「どう考えても、後味の悪い終わり方になってしまって、一体どうすれば良いかと・・・・・・」

 

事実をねじ曲げるのは簡単だ。だがそれは、幻想郷の書記としては許せない。だが、作者のアガサクリスQとしては、読者に心地好く読んで貰いたい。その二つの気持ちが、阿求を板挟みにしていた。

そんな彼女の悩みに、ジンは答えた。

 

「それなら、両方書けば良いんじゃないか。事実をねじ曲げず、読者が心地好く読める作品を」

 

「具体的にはどうすれば?」

 

「それはだな――――――」

 

ジンは阿求に、自分のアイディアを話した。

 

 

それから数年後、アガサクリスQの引退作品が登場する。

その内容は、主人公の孫が、主人公が関わった事件の内、一つだけ未解決の事件があった事に気がつき、主人公の調査手帳を元に、事件を追いかけ、真相に辿り着くというものである。

この話も、アガサクリスQ最後の作品として大ヒットを引き起こすのだが、それはまだ、未来の話である。

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