今年もいよいよ後僅か、インフルエンザも流行っているので、体調など崩さず来年を迎えたいです。
「百話物語をしたい?」
それは唐突な事であった。暑い日の中、鈴奈庵に本を返しに訪れたジンに、小鈴が“百話物語がしたいので、場所として博麗神社を借りたい”との事である。
「何で急にそんな事を?」
「この外来本を見て、やってみたいと思ったんです」
そう言って見せたのは、夏の怪談特集の中にある百話物語の記事に指を差した。
「こういう暑い日だからこそ、こういう催し物をやるべきだと思うんです!」
力強くそう言う小鈴、余程やりたいようであるが、一つ問題があった。
「俺は別に構わないが、霊夢が許可するかな・・・・・・?」
それが一番の問題であった。
百話物語するとなると、必然的に夜となる。夜ともなると、人を襲う妖や浮遊霊等が現れる為、必然的に護衛等が必要となる。その為の費用や打合せ等を考えると、霊夢が素直に頷くとは思えなかった。
「やっぱり無理ですか・・・・・・?」
小鈴は非常に残念そうに俯いた、そんな時である。
「ふっふっふ、どうやらこの魔理沙様の出番ようだな」
そう言って現れたのは魔理沙であった。
「出番って、霊夢を説得出来るのか?」
「とうぜん、アイツを説得するなんて朝飯前だぜ」
「随分自信満々じゃないか」
「こう見えても、霊夢と一番付き合いが長いからな、アイツの性格は良く知っている。まっ、大船に乗ったつもりでいてくれよ」
魔理沙は自信あり気にそう言って、鈴奈庵を出ていった。
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それから数日後、博麗神社では何故か屋台等の準備がされており、その光景はまるで縁日の準備であった。
「え、えっと、これは一体・・・・・・確か、百話物語をするって話じゃあ?」
様子を身に来た小鈴が戸惑っていると、準備の手伝いをしていたジンがやって来た。
「小鈴か、もしかして様子を見に来たのか?」
「はい、そうなんですけど・・・・・・」
「言いたいことは分かる。何で屋台の準備なんかしているかと言うと―――――」
ジンの話によると、魔理沙はただ百話物語をやる、というのでは無く、博麗神社主催の百話物語大会という名目にして、神社にも利益が出るように仕向けたのである。
神社に利益が出るという事なので、霊夢も渋ったりしなかった。
「まあそんな訳で、百物語の方は任せた。一応そっちがメインなんだから、しっかりやってくれよ」
そう言って小鈴の肩を叩いて、再び準備を始めるジン。何だか話が大きくなってしまったなぁと、小鈴は僅かながらプレッシャーを感じた。
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何やかんやで百物語大会当日。宣伝の効果もあって、多くの人々が神社に訪れた。本当は百物語がメインなのだが、端からみれば夏祭りか縁日にしか見えない。まあそれでも、多くの人が来てくれた事に、霊夢は大喜びであった。
そして、いよいよ百物語が始まろうとしていた。
開催場所は先ほどこころが踊っていた櫓の上である。今まであった祭りの灯りは消え去り、残っているのは百物語の参加者と、無数の蝋燭だけであった。
「皆さま、今宵はお集まりいただきありがとうございます。それではいよいよ、百物語を始めさせていただきます」
小鈴は雰囲気を出しながら、百物語大会の開催を宣言をした。
最初は小鈴から怪談を話し、そこから順番に話して行った。その内容という物はマチマチで、分かりにくい物であったり、自分の怪異(もちねた)だったり、オチがあったりと、百物語としては恐さがあまり無かったが、これはこれで楽しいとジンは思った。
「ほらジン、次はあんたの番よ」
霊夢に言われ、自分の番が来たかと、ジンは改めて周囲を見回す。そこには人と妖怪が一緒になって、自分の怪談を待ちわびている姿が見えた。これは少し緊張するなと、内心思いながらも、とっておきの話をした。
「これは友人から聞いた話だが。ある日、自室で寝ていた友人が目を覚ますと、そこは見知らぬ森林の中にいた。そこでは、見た事もない動植物で溢れていて、
友人は好奇心でその場所を探検することにした。だが、そこで友人はおぞましい怪物と出会った。
その怪物の姿はまさに、西洋怪物キマイラその物だったと言う。キマイラは友人の姿を見るやいなや、鋭い爪で襲い掛かった。
そこで友人は目を覚ました。
辺りを見回すと、そこは自分の部屋。『どうやらあれは全て夢だったようだ』 友人はホッと胸をおろす。だが、腕には鋭い爪跡がしっかり残されていた。
それから友人は病院に搬送され、しばらく入院する事になったそうだ」
話終えたジンは、蝋燭の灯りを消し、辺りの反応を伺った。
反応は上々であった、怖がる人も居れば、怪談について思案する人もいた。だが誰一人、退屈そうな者が居なかった。
(ふぅ、脚色はしたが、それなりに受けたようだな。良かった)
こうしてつつがなく百物語は続けられ、最後の絞めでは阿求の怪談と、魔理沙のサプライズで、無事百物語大会は終わりを告げたのである。
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ここは夢の世界の幻想郷。この世界の主であるジンは、もう一つ秘封倶楽部のメンバーである蓮子とメリーの二人に、先日の百物語大会について話していた。
「―――――そんな感じで、百物語は盛り上がった」
「いいなぁ、私も参加したかったなぁ」
「私はどちからというと、トリフネの話をされて恥ずかしいんだけど・・・・・・」
「勝手に話したのは悪かったけど、それなりに脚色はしたし、みんな楽しんでくれた。まぁ、個人的にはあまり危険な事はしないで欲しい。友人が知らない間に死んだなんて、気持ちいい事じゃないからな」
「ふっふっふっ、ちょっとやそっとの危険で止まるような秘封倶楽部(わたしたち)では無いわ!」
「もう蓮子ったら・・・・・・」
あまり反省の色を見せない蓮子に、メリーはため息をつく。そんな二人の様子を見て、ジンはあることを考えていた。
衛生トリフネ、テラフォーミングの為の生物実験を目的とした衛生で、様々な動植物を乗せ、宇宙空間での生態系観察実験を行う“予定”の物なのである。
そして蓮子達が話してくれたトリフネは、原因不明のトラブルによって投棄され、今でも独自の生態系を築き上げているトリフネである。
二つのトリフネの食い違い、そして二つの秘封倶楽部、一つしかない菫子の帽子が二つある事実、それから導き出す答えは―――――――。
(この二人が、未来からやって来ているって事だよな。それなら色々と、辻褄が合う。
蓮子の帽子は恐らく、菫子が譲ったのだろう。そして、秘封倶楽部の会長の座も。そしてトリフネも恐らく、数年後に打ち出され、原因不明のトラブルで投棄される。そして投棄されたトリフネは、独自の生態系を築き上げた。
そんなトリフネの世界を二人は体験し、その話を過去の人間である俺に話したって事だろうな・・・)
いつの間にかSFのタイムトラベル的な事柄に関わっていたのだなぁと、ジンは漠然と思った。
最も、当の本人達は気づいていないのか、気づいていたとしても、目の前にいる自分が過去の人間だと、微塵も思っていないだろう。思っていたならば、きっと対応も違っている筈だとジンは思っていた。
「―――――ねぇ、聞いているのジンさん?」
不意に、蓮子の声にジンは意識を呼び戻された。どうやら、思考に没頭してしまっていたらしい。
「ああ悪い、聞いていなかった」
「もうしっかりして聞いてよね。大事な話なんだから」
「大事な話?」
「大事なというより、蓮子の我儘でしょそれ・・・・・・」
蓮子の言葉に、メリーは呆れた顔をして言った。
「我儘じゃなくて、同じ秘封倶楽部のメンバーとしての大事な話よ」
蓮子の言葉を聞いて、菫子も似たような事を言っていたなぁと、内心思い、思わず笑みを溢した。
「どうしたのジンさん?」
「いや、何でもない。それよりも、話ってなんだ?」
「そうそう。もし、私とメリーがピンチになったら、さっそうと駆けつけてねって話し」
「蓮子・・・流石にそれは無茶振りよ」
「そうかな? なんかジンさんって、ピンチに駆けつけてくれるヒーローって感じがするのよね」
何の根拠のない信頼。それに応えるように、ジンは笑いながら言った。
「ああ、二人がピンチになった時は必ず駆けつける。それがどんな遠いところでも、必ずな」
「頼んだわよジンさん」
笑顔で返す菫子に、やや呆れながらも少し嬉しそうなメリー。
遠い未来の事は分からないが、この時交わした約束は守ろうと、心に誓うジンであった。