ここは守矢神社。とある理由で外からやって来た外来神社である。
守矢神社の巫女であり、現人神である早苗は、新聞を片手に走っていた。
「諏訪子様! 神奈子様! 大変です!」
早苗が駆け込んだ居間に、この神社の神である諏訪子と神奈子がいた。
血相を変えて来た早苗を見て、二人は驚いた表情をする。
「どうしたの早苗? そんな血相な顔をして」
「ネズミでも出た?」
「そんな些細な事じゃないですよ! こちらをご覧下さい!」
そう言って早苗は、新聞を広げて、ある記事を指した。そこには、“日替わりコーナー”と書かれ、“どっちの神社でショー”とい名目が書かれていた。
「へえ、こんなのがあったんだ」
「何呑気にしているんですか諏訪子様! この記事によると、守矢神社(うち)より博麗神社の方が人気があるらしいんです!」
早苗は相当慌てた様子であった。
記事の内容は、人里にいる人間百人によるアンケート調査で、守矢神社と博麗神社、どちらが良いかを調べるもの。その結果、守矢神社より博麗神社の方が人気のがあったのである。
理由としては以下の通り。
『何だかんだで頼りになる巫女さんがいる』
『いい加減に見えて、アフターケアがしっかりしている』
『縁日では、よくイベントをやっていておもしろい』
『御得意先だから』
『どっちも遠い場所にあるけど、どちからというと博麗神社の方が行きやすい』
『やっぱり、妖怪山にあるのはちょっと・・・・・・』
等と、守矢神社より博麗神社が良いとされるコメントが大多数であった。
「このままでは人里の信仰が博麗神社の方に流れてしまいます! 早急に手を――――――」
「いや、その必要は無いよ早苗。寧ろ、これは我々に好都合」
「・・・・・・はい?」
神奈子の言葉に、目が点になる早苗。そんな彼女に、神奈子は言葉を続ける。
「博麗神社に人が集まるのなら、それだけ守矢の分社にも参拝してくれる可能性があるという訳だ」
「それはそうですけど、見向きしてくれるんですか? 来るのは博麗神社目当ての人ですよ?」
「普通の神社なら、見向きされるのは難しいだろうね。でも、博麗神社なら話は別さ」
「どういう事ですか諏訪子様?」
早苗の疑問に、諏訪子は答える。
「先ずその一、あそこの神様は致命的に知名度が無い。まるで、“誰にも知られないようにしている”みたいに。だから博麗神社の参拝客は、神社の神様というより、博麗の巫女である霊夢を頼りに来ているのが、実際の所だね」
「確かに、霊夢さんの実力は神かがっていますよね・・・・・・」
「次に、博麗神社にはジンがいる。
あの子、意外と律儀な所があってね。博麗神社の参拝客に、うちらの分社を紹介してくれているんだよ」
「それだけじゃない、毎日朝早く起きて、分社を綺麗に掃除してくれている。それもあって、以前より信仰が集まっているんだよ」
「だから、博麗神社に人が集まる事は、うちとしてはマイナスでは無く、寧ろプラスに働いている。だから目くじらを立てる必要は無いって訳よ」
二人の神の言い分を聞いて、信仰関係については寧ろプラスになる事は理解した早苗であったが、それとは別として、守矢の巫女としてのプライドが彼女にあった。
「信仰に関しては問題ないのはわかりました。ですが、守矢神社が博麗神社の下というのは看過できません!」
早苗は二人に、そうはっきり物申した。そんな彼女に、二人の神はこう答えた。
「早苗、あまりこういうのは言いたく無いけどさ」
「博麗神社とぶつかり合うの旨味は無いし、逆にマイナスになりかねん」
「うちの信仰の殆どは、博麗神社にある分社からだからねぇ。こちらとしては、このまま共同経営路線で進めたいんだよ」
「うう・・・御二人がそう言うのなら・・・・・・」
諏訪子と神奈子に諭され、大人しく引き下がる早苗。だがその心中は、未だに納得してはいなかった。
――――――――――――――――
ここは人里にある団子屋。その中で、早苗は華仙に相談を持ち掛けていた。
「――――――ってな話があったんですよ。どうすれば良いでしょうか?」
「・・・・・・話は分かったわ。でも、何故それを私に?」
「だって・・・他に相談出来る人がいないんですよ。こんな話、ジンさんには持ち掛けられないし・・・・・・」
「それで私に相談を。なるほどね・・・・・・」
早苗の話を聞いた華仙は、お茶を啜ってから、彼女に言う。
「まあハッキリ言うけど、守矢神社が博麗神社の下に見られるのは仕方ないわ。地力が違うから」
「地力って・・・うちの方が立派で広いですよ!」
「社(やしろ)の話をしているんじゃないわ。歴史、実積、巫女、立地条件。このいずれかも、守矢神社は博麗神社に負けているの。
外の世界での守矢神社の歴史は確かに古いわ。でも幻想郷の住民にしては、この数年でやって来た比較的新しい神社で、博麗神社は、この幻想郷の創設に深く関わった由緒正しい歴史のある神社なのよ。歴史はあるだけでも、十分知名に繋がるから」
「ですが、私が来た時は博麗神社の知名度がなかったような・・・・・・」
「それは霊夢が、自分の実積を人里に伝えていなかったからよ。伝えていれば、今みたいな状況が昔から続いていたでしょうね。あの子は面倒くさがり屋だから、その辺りは放置していたのでしょうね」
「霊夢さんらしいと言えばらしいですね」
「それで次は巫女としてだけど、これはもう説明は不要ね」
「なんでですか!? 私は巫女、というか風祝だけではなく神、現人神でもあるんですよ! 徳としては此方の方が――――――」
「霊夢は神々の力を借りる“神降ろし”が出来るのよ? 超高難易度術を、それもやすやすとね。貴女はそれが出来る?」
「ううっ・・・・・・」
「最後の立派条件。これはどっちもどっちだけど、守矢神社に比べたら博麗神社の方が気楽に行けるのが理由ね。守矢のロープウェイだと、待ち時間が生じてしまい、余計に時間が掛かってしまうから」
「うわぁ~ん! 相談したのに、ボロクソに言われた~」
早苗はとうとう泣き出して、テーブルにうつ伏せてしまった。それを見て華仙は大慌てでフォローに入る。
「ちょ、ちょっと! こんなところで泣き出さないでよ! ああもう、私も言い過ぎたわ! 博麗神社が今繁盛しているのは、全部ジンのおかげなのよ! 彼がいなかったらきっと博麗神社は昔みたいな寂れた神社だったわ! だから、守矢神社がどうのこうの悪いわけじゃ――――――」
華仙が早苗を慰めようと必死に言葉を紡むいだ。すると、彼女はピタリと泣き止んだ。
「早苗?」
「・・・・・・そうです。ジンさんです」
「え?」
「ジンさんが博麗神社にいるから、博麗神社は参拝客がいっぱい来るんです! なら、守矢神社(うち)に来て貰えば、参拝客はこっちに来る筈です!」
「ええー・・・・・・」
早苗の暴走具合に、流石の華仙も弱冠引いていた。
そんな事を脇目も触れず、早苗は既にジンの引き抜きの方法を考え始めていた。
「さて、どうすればジンさんはこちらに来て貰えますかね? 余程の理由が無ければ……あっ、そうだ!」
早苗は何か方法を思い付いた。そしてその方法がとんでもないぶっ飛んでいた。
「既成事実を作ればいいんです!」
「ちょっと待った! 何でそうなるのよ!?」
「だって、既成事実を作ってしまえば、責任感が強いジンさんは嫌でも守矢に来てくれますし、跡継ぎも出来て一石二鳥じゃないですか」
「貴女、自分がどんな非常識な事を言っているのか、自覚ある?」
「常識は投げ捨てる物! 何故なら、幻想郷は非常識な場所なんですから、常識に縛られる方がおかしいんですよ!」
「駄目だこりゃ・・・・・・」
華仙は説得を完全に諦め、お茶を啜った。
本来なら早苗を力ずくで止める彼女なのだが、その必要が無いと判断した。何故なら――――――。
「もし、そこのお嬢さん?」
「はい?」
声を掛けられた早苗は後ろを振り向いた。そこには、こわーい純狐さんがいたのであった。
「今の話し詳しく聞かせて貰いましょうか?」
純狐は微笑みながらそう言った。
――――――――――――――――
翌日、早苗は部屋で寝ていた。
どうやら体調を崩したようで、ベットの上で苦しそうにしていた。
(ううっ・・・何だが調子が悪い・・・風邪でも引いたのかしら?)
早苗は昨日の出来事を綺麗さっぱり忘れていた。それは想像絶する恐怖のせいか、純狐の仕業か、どちらにしても早苗が思い出す事は無いだろう。
そんな時、ドアをノックする音がする。
「はい、神奈子様? それとも諏訪様?」
訪れたのは神奈子か諏訪子のどちらかと思った早苗であったが、そのどちらでもなかった。
「俺だよ早苗」
「え? ジ、ジンさん?」
予想外の訪問者に、早苗は動揺する。
「ど、どうしたんですか今日は?」
「いや、早苗が体調を崩したと華仙から聞いて、御見舞いに来た」
「そ、そうなんですか」
華仙から聞いたというジンの言葉に、違和感を感じる早苗であったが、同じ山に住んでいるのだから、何処かで耳にしたのだろうと、深く考えなかった。
「入っても良いか?」
「はい、どうぞ・・・あっ」
早苗はそこで気づく、男の人を初めて自分の部屋に招く事に。
(え、えっと・・・これってもしかして――――――)
早苗はある事を思い出した。それは外にいた時に書かれたある記事の内容を。
“女の人が異性を部屋に招くのは、Hを期待している”
当初はあまり気にしてはいない記事であったが、今の状況はそれに当てはまっていた。しかも、体調を崩している今の状況なら簡単に組伏せられる。いや、万全だとしても、今のジンの強さなら組伏せられるだろう。
「ま、待ってくださいジンさ――――――」
早苗の制止の声は間に合わず、部屋の扉は開かれた。
「いや、それはその記事がおかしいだろ。何だよ“部屋を招いたらHを期待している”って、女性を完全に馬鹿にしているな」
「で、ですよねー! そうですよね! もー一瞬でも信じた私が馬鹿でした!」
早苗はそう言って笑って誤魔化す。
部屋に入ったジンは、早苗が危惧したような事は一切せず、御見舞い品を渡したり、早苗が退屈しないよう世間話などをしてくれた。
「まあ、気持ちは分からんでも無いが。付き合ってもいないのに、そんな事を期待するのはお門違いだ」
「え? も、もし付き合っていたら、やっぱりジンさんも期待するんですか?」
早苗は好奇心でその事を尋ねた。ジンは困った表情をしながらも、彼女の質問に答える。
「まぁ・・・俺も男だからな、そう言った事には興味はある。だが、恋人であっても、合意が無ければするつもりはないし。やるとしても、キチンと式を上げてからだと思っている。出来ちゃった結婚というのは避けたいからな」
「うぐっ!」
「ど、どうした?」
「い、いえ、頭痛が一瞬強くなって・・・・・・」
「喋り過ぎたな、もう休んだ方が良い」
「そうします・・・・・・ジンさん」
「ん?」
「御見舞いに来てくれてありがとうございます」
「ああ、どういたしまして」
早苗の御礼の言葉に、ジンは微笑みながら返し、そのまま部屋を出て行った。
――――――――――――――――
翌日、元気を取り戻した早苗は、昨日の遅れを取り戻すかの布教活動を行っていた。それを見守る二人の神と一人の仙人がいた。
「どうやら大丈夫そうね、あの調子なら一昨日の事を思い出しても、馬鹿な事はしなさそうだし」
「いやー、一昨日は本当に驚いたよ。まさか早苗があんな状態で帰って来るとは」
「感謝するよ華仙。あんな状態の早苗を連れて帰ってくれて」
「まあ、止めなかった私も非はあったから・・・・・・」
華仙は遠い視線でそう言った。その様子から、一昨日の事は決して触れない方が良いと、神奈子と諏訪子は密かに思った。
そんな話をしていると、ジンが早苗の方に近づいて話し掛けて来た。
楽し気に話している二人を見て、諏訪子は呟く。
「ジン、早苗の婿になってくれないかなー?」
「え!?」
諏訪子の発言に、華仙は驚きの声を上げる一方で、神奈子の方はノリ気であった。
「ふむ、確かに彼が早苗の婿になってくれれば、うちは間違いなく安泰になるわね。でもどうやって?」
「うーん・・・・・・既成事実を作るとか?」
「それは絶対にやめた方が良い!」
華仙の叫びが守矢の境内に響き渡った。
因みに後日、純狐が早苗にした事がジンにバレてしまい、ジンの説教を涙目で受ける純狐の姿を人里で見かけたとかなんとか。