東方軌跡録   作:1103

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 今月は特に忙しく、執筆が投稿が滞ってしまい申し訳ありませんでした。
 今回は鈴奈庵の話しで、天狗の知られざる役割が明かされる話です。
他にも、まだ明かされていない情報があるかも知れませんね。


風の守護者

龍神の像、人里の中に鎮座しているこの像は、天気を予報してくれる物で、人里に住み者にとって、無くてはならない重要な物でもある。

そんな龍神像に、異変が起きた。

 

「え? 龍神像の眼が紫に?」

 

鈴奈庵に本を返しに来たジンは、小鈴からその話を聞いていた。

 

「そうなんですよ、今まで無い色だったから、里の皆が不安がっているんです」

 

「確かに、紫っていうのは今まで無かったな。大抵は白とか青なのに」

 

龍神像は、その瞳の色で天気を知らせている。白が晴れ、青なら雨と、だが、紫というものは初めてなので、どんな天気になるか分からないのだ。

 

「一応、霊夢にも話しておくか。何かの異変かも知れないし」

 

「その必要は無いですよ」

 

そう言って入って来たのは阿求であった。彼女は借りた本をカウンターに起きながら、今回の天気について話始めた。

 

「紫は、日本で馴染みの野分(のわき)、つまり台風を示す色で、少なくとも異常や異変を示す赤よりはマシな天気なんですよ」

 

「なるほど、それで青と赤の中間、紫なのか。でも、あまり知られていないみたいだが?」

 

「そりゃそうですよ。台風の日なんかに、出歩く人はいませんから、あまり見られないんです」

 

「そっか・・・って、それってこれから台風が来るって事?」

 

「ええ、そうよ。少なくとも、今夜中にはね」

 

「大変! 急いで貸本を回収しに行かないと!」

 

小鈴は急いで身支度をし、そのまま飛び出すように鈴奈庵を出ていってしまった。

 

――――――――――――――――

 

台風が来るという事で、博麗神社では、台風に備えていた。

 

「霊夢、賽銭箱をしまっておいたぞ」

 

「ありがとうジン。クラウンピース、雨戸は?」

 

「しっかり閉めたよ」

 

「倉庫の戸締まりした針妙丸?」

 

「バッチリ!」

 

「妖狐、水と食糧の方は大丈夫?」

 

「その辺りは抜かりなく、一週間は余裕で持ちます」

 

「後は・・・正邪! 貴女も働きなさい!」

 

「いてぇ!?」

 

霊夢はテキパキと指示を出し、あっという間に台風対策を終わらせた。

 

「やっぱ人手があると、楽だわ」

 

「前は一人でやっていたのか?」

 

「ええ、ふらりと来る魔理沙手伝わせていたけど、来ない時は一人でやらないといけなかったから、大変だったわよ。特に、賽銭箱なんか一人じゃ運べないから」

 

「確かに、あれは女性が持つのには重い物だ」

 

神社の賽銭箱の重さは数十キロ程で、それにお賽銭まで含めると、更に重くなる。筋力が普通の女性と変わらない霊夢では、持ち上げる事は困難であると、ジンは容易に想像出来た。

 

「そんな訳で、力仕事は任せたわよジン」

 

「ああ、任された」

 

こうして博麗神社は、備えを滞りなく終えたのである。

 

――――――――――――――――

 

夕刻、雨雲のせいで、夕日は見えないが、この時点で雨足や風などが強くなり、余程の事じゃあ無い限り、外に出たいとは思えないくらいである。

 

「強くなってきましたね・・・・・・」

 

「この分じゃあ、夜はもっと酷くなるな」

 

「おうち、壊れたりしないよね?」

 

「心配性だなぁ針妙丸は、こんな風、地獄じゃあそよ風当然だよ」

 

「地獄って、恐いところなんだね・・・・・・」

 

「そりゃ地獄なんだから、亡者が阿鼻叫喚する程の暴風なんだろうよ」

 

風が強くなる中、他愛の無い雑談をするジン達。その時―――――。

 

“ドンドンドン!”

 

突然雨戸を叩くような音がした。

 

「ひゃあ!? な、何今の!?」

 

針妙丸が驚きの声を上げた。

一同は、叩かれた雨戸の方を見る。

 

“ドンドンドンドンドンドンドンドンドン!”

 

音は段々激しくなっていく。そこで霊夢が、叩かれている雨戸に近づく。

 

「もう一体誰よ! こんな台風の日に雨戸を叩く馬鹿は!?」

 

怒鳴り声と共に、雨戸を開けた霊夢。そこにはずぶ濡れになった魔理沙と菫子の姿があった。

 

「れ、霊夢さ~ん」

 

「あ、雨宿りさせてくれ!」

 

二人の何とも情けない姿に、霊夢の怒りはさっと引いていた。

 

――――――――――――――――

 

「いやー、本当に助かったぜ」

 

「お風呂、ありがとうございます」

 

魔理沙と菫子はあの後家の中に入れて貰い、風呂と着替えを貸して貰っていた。

 

「別に良いけど、何で外にいたの?」

 

「風の強い日は、珍しい物が見つけやすいから、ちょっと探しに行ってたんだ」

 

「私は遊びに来たんだけど、こっちに来たらいきなり暴風雨に襲われて・・・・・・」

 

「菫子はともかく、魔理沙は完全に自業自得ね。人里の御触れ聞いていないの?」

 

「御触れ?」

 

「“龍神像の眼が紫色になった。野分が来るから外出を控えるように”って」

 

「今日は人里に行っていないからなぁ。そうか野分か、どうりで酷い暴風雨だった訳か」

 

「野分?」

 

「台風って言えば分かるかしら」

 

「ああそう言えば、天気予報で言ってた。過去最大級の台風って」

 

「過去最大級・・・人里は大丈夫かな?」

 

ジンが真っ先に心配したのは、人里であった。

人里の建物は古式で作られており、耐久性は外に比べると脆い。そんな建物が、過去最大級の台風に耐えらるのだろうか。そう考えていると、霊夢がこんな事を言い始めた。

 

「大丈夫よ。あそこは特別な場所だから、被害は少ないと思うわ」

 

「と言うと?」

 

「最近気づいたんだけど、こういった暴風雨が来た時、何故か人里だけ被害が少ないのよ。まるで、“何かが守護している”みたいに」

 

「守護って、守護神か何かが?」

 

「そこまで分からないけど、少なくともこういった災害の時に動いている存在がいるっていうのが、私の仮説だけどね」

 

「そう言えば、人里の中と外だと、雨の降りが違った時があったな。そいつらが何かしていたって事か」

 

「まあ何であれ、人里の中は比較的安全って事。だから心配する必要は無いわ」

 

その言葉を聞いて、安堵するジン。その時、正邪が読んでいる本に気づいた。

 

「あれ? 正邪、その本は?」

 

「ん? 霊夢の所にあった本、暇潰しに読んでいるだけ」

 

「ちょっとあんた! 何勝手に持ち出しているのよ!」

 

「あいて!!」

 

正邪に拳骨を食らわせ、本を取り上げる霊夢。だがジンは、ある考えが浮かび上がり、恐る恐る霊夢に尋ねた。

 

「・・・・・・霊夢、それって鈴奈庵の本じゃあ?」

 

「え? そうだけど」

 

「返却日は?」

 

「確か、今日までだけど・・・まっ、今日は返しに行けないわね。延滞金は痛いけど、仕方ないわ」

 

「魔理沙」

 

「ん、なんだ?」

 

「確か言ってたよな、“人里の中と外だと、雨降りが違う”って」

 

「まあな、でも必ずじゃないぜ」

 

霊夢の延滞本に、魔理沙の証言、そして鈴奈庵で聞いた阿求と小鈴の会話――――――。

 

『そっか・・・って、それってこれから台風が来るって事?』

 

『ええ、そうよ。少なくとも、今夜中にはね』

 

『大変! 急いで貸本を回収しに行かないと!』

 

そこでジンは、最悪な展開を想像してしまった。

台風が来る前に貸本を回収していた小鈴だったが、思いの外雨足が強くなく、これなら霊夢の貸本を回収に行けると踏んで、人里の外――――博麗神社に向かってしまった。だが、雨足が弱いのはあくまで人里の中だけである。人里の外に出てしまった小鈴は、暴風雨に呑まれて――――――。

 

(いや、これは考え過ぎだ! いくら何でも、ちょっと外に出れば危ないって分かる筈だ!)

 

そう思って考え直すが、一度根づいたイメージは、簡単に拭えなかった。

 

「ちょっとジン、貴方大丈夫? 顔真っ青よ」

 

「え?」

 

「具合でも悪いの?」

 

心配する霊夢の声に、我に返るジン。

 

「だ、大丈夫、何でもない・・・・・・」

 

なんとかそう答えるも、ジンは先ほどの考えから離れる出来なかった。本当なら、今すぐ飛び出して、小鈴の安否を確認したい。だが――――――。

 

(行ったら行ったで、霊夢に心配かけてしまう)

 

ジンは小鈴の安否を確認したい気持ちと、霊夢に心配かけてたくない気持ちの板挟みになっていた。

ぐるぐると頭の中で悪循環な思考しているジンに、正邪はため息をつきながら行った。

 

「はぁ、あのなジン。そんなうだうだ悩んでいるなら、さっさと行動しろよ。何か気になる事があるんだろ?」

 

「え?」

 

「何を気にしているのかは知らないけど、周りを気にして後悔するくらいなら、自分がやりたいようにすれば良い。お前はもう少し、我が儘になれよ」

 

その言葉を聞いて、ジンは何かを決意した眼になり、急いで身支度をし始めた。

 

「ちょ、ちょっとジン! あんた何を―――――」

 

「気になる事が出来たから、確かめに行ってくる」

 

「外に行くの!? この暴風雨の中を!?」

 

ジンの行動に、正邪を除く全員が驚いた。

 

「考え直して下さい!」

 

「そうだよ! 危ないよ!」

 

「人間には厳しい風だと思うけど、行くのジン?」

 

「ああ、杞憂だったらそれで良い、俺が心配し過ぎただけで済むからな。でも、心配している通りだったら、俺は絶対後悔する」

 

「それは、今確認しないといけないの?」

 

「ああ、今じゃないと駄目だ」

 

「どうしても行くの?」

 

「どうしてもだ」

 

ジンの決意に、説得は無理だと感じた霊夢は、ジンにある提案をする。

 

「わかったわ。でも、行くのなら私も一緒に行くわ」

 

「え、いやでも・・・・・・」

 

「こんな暴風雨の中、一人で行かせる訳ないじゃない。私も行くわ、反論は許さないから」

 

「・・・・・・わかった」

 

こうしてジンは、霊夢と共に暴風雨の中、小鈴の安否を確認しに行くのであった。

 

――――――――――――――――

 

暴風雨の中、ジンと霊夢は雨合羽を身に纏い、人里に続く道を歩いていた。

 

「ねえ! 気になる事って一体何なの!? それってとても大事な事!?」

 

歩きながら尋ねる霊夢。ジンは彼女に、自分の想像を話した。

 

「確証は無い。でも、一度想像したら、居ても立ってもいられなくて」

 

「過保護ねぇあんたは。でも、大いにありえるわ。あの子、イマイチ危機感が足りないから」

 

「俺としては、全部が杞憂で、小鈴は家でのんびりしていたっていうオチがいいんだが」

 

「もしそうなら、この埋め合わせはキチッとやって貰うわよ」

 

「ああ、わかっ――――――」

 

そこで突如ジンは立ち止まり、道端の方に視線をやる。

 

「いた! 小鈴だ! 道を踏み外して落ちている!」

 

「何ですって!?」

 

二人は道端に駆け寄る。するとその下には地面に散らばった本と、小鈴本人が倒れていた。

 

「小鈴!」

「小鈴ちゃん!」

 

二人は急いで小鈴の元に降りる。

 

「小鈴ちゃん! しっかりして!」

 

霊夢が呼び掛けるが、起きる気配がなかった。ジンはそこで、彼女の脈を計る。

 

「・・・・・・大丈夫、気絶しているだけだ」

 

「良かった・・・後で説教するとして、急いで安全な場所に」

 

「そうだな。ここからだと、人里の方が近いか」

 

このまま人里の方に向かう事にした二人。ジンは小鈴に雨合羽を着せて背負い、霊夢は散らばった本を回収した。

 

「雨でダメになっているかも知れないけど、一応はね」

 

小鈴を無事見つけた二人は、再び人里に向かって歩き出した。だが、人里に向かえば向かう程、暴風雨は強くなっていった。

 

「くそ! よりにもよって最悪だ!」

 

「どうするジン? 神社に引き返す?」

 

このまま進むのは危険だと感じるジンだが、このまま引き返して良いのか、正直判断に悩む。

危険を犯して人里に強行突破するか。それとも、長い道を引き返して神社に戻るか。どちらか正しいのかジンは考えた。そんな時であるわ。

 

「え!? ちょ、ちょっと貴方達! 何でこんな暴風雨の中を歩いているのよ!?」

 

「文!?」

 

「何であんたがここに!?」

 

現れたのは、天狗装束を身に纏った文であった。

 

「いや、それはこっちの台詞よ! どうして二人はここに?」

 

「色々と事情があるのよ! そういうあんたは?」

 

「私は仕事で。ともかく、ここは危ないから、安全な場所まで送るわ」

 

「送るって、この暴風雨の中どうやっ―――――」

 

すると突然、ジン達の周囲の暴風が止み、猛威を奮っていた雨も穏やかになった。

呆気に取られている二人に、文は得意気に笑う。

 

「あら、私達天狗にとって、暴風雨なんて簡単に弱められるわよ」

 

「暴風雨を弱める・・・もしかして―――――」

 

「さて、無駄話はここまで。私もまだやる事があるから、さっさと送るわ。人里で良いのよね?」

 

こうして文の助力で、ジンと霊夢は無事に人里にたどり着いたのである。

それから、無事意識を取り戻した小鈴は、両親からたっぷり説教を受けたのは、言うまでもない。

 

――――――――――――――――

 

台風から数日後、人里から離れた街道で、ジンと霊夢は文に先日の事について尋ねていた。

 

「それで? この前の事について、話して貰おうかしら?」

 

やや威嚇しているように、霊夢が問いただすと。文は諦めたように、話始めた。

 

「やれやれ・・・わかりました話しますよ。でも、これは他言無用でお願いしますよ」

 

「何で他言無用なんだ?」

 

ジンがそう尋ねると、文はその理由を話始めた。

 

「単にメリットも無いし、天狗の大半は排他的なので、河童と違い人間と仲良しこよしをしたいとは思わないんですよ。寧ろ迷惑がるんです」

 

「なら、なんで台風から人里を守ってたの?」

 

「それが役割だからですよ。ほら、幻想郷を維持するには人の存在が不可欠。だからそこに住む人里を、有事の際には守るのが、この幻想郷に住む妖怪達の義務であり、知られざるルールという訳なんですよ」

 

「なるほど、それであの時はあそこに居たのか」

 

「私としては、あんな暴風雨の中を歩いていた人間がいた事に驚きですけどね。それで、話は終わりですか?」

 

文は確かめるように尋ねると、霊夢は少し納得していないようであったが、頷いた。

 

「ええ、色々と気になる事はあるけど、私の用事は終わりよ」

 

「おや? 御二人はあの時の事を聞きに来たのでは?」

 

「霊夢はそうだが、俺は御礼しに来たんだ」

 

そう言って渡したのは、博麗神社の名物になっている、博麗酒であった。

 

「ええ!? い、良いの? これ貰っちゃって!?」

 

「ああ、助けてくれた御礼だ」

 

「御礼って・・・私は仕事の義務を果たしただけで―――――」

 

「義務だろうが、義理だろうが、助けてくれたのには違いない。文が来てくれなかったら、俺達も危なかったからな」

 

「難しいこと考えないで、受け取りなさい。じゃないと相手に失礼でしょ」

 

「そ、それじゃあ」

 

遠慮がちに受け取るも、手にした途端、文は満面の笑みを浮かべた。

 

「ありがとう二人とも、これ大事に飲むわ」

 

そう言って文は、そのまま羽ばたいていった。そしてその場に、鴉の黒い羽がヒラヒラと落ちた。

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