夏は過ぎ去り、紅葉が溢れる秋の季節。霊夢はふと、ある事に気がついた。
「あら? ジン貴方、髪延びたんじゃない?」
「ん? ああ、そう言えば延びたな」
ジンは延びた髪を触った。髪は耳を覆い被さり、前髪は目を隠せそうになっていた。
「それじゃあ、髪が邪魔になるでしょ。切って上げるから来なさい」
「あ、いや別にそこまで邪魔には・・・・・・」
「十分邪魔に見えるわよ。いいから、こっちに来なさい」
そう言って霊夢は有無言わさず、ジンの手を引っ張った。ジンは恥ずかしそうにしながらも、大人しくそれに従った。
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散髪はジンの部屋で行われた。霊夢曰く、髪は呪術に悪用される事があるから、拡散しないように自室でやるようにしているだとか。
「それじゃあ、切るわよ。長さはいつも通りね」
「あ、ああ、それで頼む・・・・・・」
霊夢の細長い指が、ジンの髪に触れる。それだけで、彼の心音は羽上がる。
「~♪」
一方霊夢は、そんな彼の心境を全く察せず、慣れた手つきでジンの髪を切っていく。
面倒くさがりの彼女が、何故ジンの髪を切るようになったかと言うと、過去の事件が起因していた。
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ジンが幻想入りをし、能力を使いこなせるようになった頃、里の犯罪が激減するようになっていた。それは、彼の“軌跡を視る能力”のお陰である。
色々と制限はあるが、かれの能力があれば、犯罪の証拠や事件の全貌が瞬時に解明されるからである。
お陰で、人里で悪事を働いていた組織、団体は瞬く間にお縄に付き、逃げ延びた他組織は息を潜めるしかなかった。
暗い夜の中、一つの民家で怪しげな男達が集まっていた。
「ちくしょう! あいつが来てから、こっちの商売が上がったりだ!」
「どうする? やっちまうか?」
「直接は不味い。自警団の奴等も、奴の事をガードしている。そこで、これを使う」
怪しげな男は、一束の髪の毛を出した。
「奴の行き付けの床屋で手に入れた髪の毛だ。これで奴に呪術を掛ければ――――――」
「待て、奴の近くには博麗の巫女がいるんだぞ! かんづかれるんじゃないか?」
「感づかれる前に仕留めれば良い。何、妖怪に神社を乗っ取られる程度の巫女だ。バレはしないさ」
当時、まだ博麗神社の評判が戻っていない頃であった為、霊夢の評価が低かった。それ故彼等は思い知るのであった。博麗霊夢の実力を。
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数日後。いつも通り境内の掃除をしていると、何故か不機嫌な様子の霊夢が言って来た。
「あんた、また人里の床屋に行ったわね?」
「別に床屋に行っても良いじゃないか」
霊夢が不機嫌なのは、ジンが人里の床屋で髪を切った事であった。当時のジンは、床屋に行った程度でどうして不機嫌になるのか、分からなかった。
「良くないから言っているのよ。まだ自分の立場を理解していないの?」
「立場って・・・ちゃんと神社の仕事はしているが?」
「違うわよ! 自警団の仕事を手伝っているのに、何でそんなに無用心なのかってこと!」
「無用心って、これでも気をつけているが?」
「全然していないわ、人里の床屋に行っている時点でね」
「また床屋か・・・そんなに床屋に行くのが悪いのか?」
そう尋ねるジンに、霊夢は大きなため息をつく。
「いいジン? 髪の毛を他所に残し行為自体が、敵に心臓を明け渡すのと同じ行為なの。何故なら、髪の毛一本で相手を殺せるからよ」
「髪の毛一本で? そんな大げさ――――――」
その時、ジンの心臓が止まり出した。意識が遠退き、そのまま地面に倒れ伏せた。
「ああもう! 言わんこっちゃない!」
霊夢は直ぐ様ジンに駆け寄り、ジンに掛かった呪いを祓った。
それから暫くして、ジンは自室で目を覚ました。直ぐ近くには、霊夢の姿があった。
「お目覚めね。気分はどう?」
「うん・・・何とか・・・・・・」
そう言って起き上がるジン。その様子を見て、安堵する霊夢であったが、直ぐ様鋭い表情になり、ジンの頬を叩いた。
「これで分かったでしょ? 髪の毛を残すという事がどれ程危険な事か。今回は偶々私が近くに居たから命は助かったから良かったけど、次はどうなるか分からないわよ」
「・・・・・・ごめん」
ジンは素直に霊夢に謝った。その姿に満足したのか、鋭い表情から優しい笑みに変わる。
「わかったのなら、次からは髪は私が切るわ。こう見えても上手なのよ」
「・・・・・・お手柔らかにお願いする」
この日から、ジンの散髪は霊夢がするようになった。
因みに、ジンを呪い殺そうとした呪術師は、霊夢の呪詛返しにより再起不能になり、更には依頼をした怪しげな男達もまた、呪詛返しの余波を受け、悲惨な事になったのだが、ジン達はそれを知る事はなかった。
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散髪が終わると、ジンの髪はスッキリとし、身軽さを感じる程であった。
霊夢は切った髪を集めながら、その出来前に満足していた。
「うーん、いつ見ても我ながら良い仕事をしたわ。床屋サービスでもしようかしら?」
「辞めといた方が良いと思う。どうせ直ぐ大変で飽きるだろ」
「まあ、それは否定しないけど、ここまで上手にやれると、ついその気になっちゃうのよね」
「確かに、本業の人と遜色無い出来前だ。誰かに習った?」
「いいえ、適当に切っているだけだけど」
「えっ?」
霊夢の言葉を聞いて、一気に不安を感じるジン。そんなジンの様子を気にせず、霊夢は後片付けを済ませるのであった。