東方軌跡録   作:1103

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 前回は紫苑の話しだったので、今回は妹の女苑がメインです。


疫病神の金貸し屋

人里では、新しい店が開店した。その名も“依神金融屋”。貧乏神である依神紫苑の妹である、疫病神の依神女苑が起こした金貸し屋である。

審査を通れば、簡単な手続きをするだけで、金が借りられる。もちろんトイチのような悪質ものでは無く、非常に良心的な金貸しであった。

その為、瞬く間に有名となり、人里一の金貸し屋として、名を馳せていた。

 

――――――――――――――――

 

ここは女苑が住んでいる屋敷。ここで金貸し屋の依神金融を興している。

そんな場所に、ジンと霊夢がやって来ていた。

 

「ちょっとちょっと! 私悪いことしていないわよ!」

 

霊夢の姿を見や否や、びくつく女苑。どうやら霊夢に対して苦手意識があるようだ。

 

「悪いことをしている奴は、大抵そう言うのよ。さあ、企んでいることをさっさと薄情なさい。今なら夢想天生で勘弁してあげるわ」

 

「ぜんぜん勘弁になっていないわよそれ!?」

 

霊夢の脅し文句に、ますます怯える女苑。そんな彼女に助け船を出すのは、ジンであった。

 

「霊夢、確かに怪しいけど、今日は脅しに来たんじゃなくて、紫苑の代わりに開店祝いに来た筈なんだが?」

 

「あんたはそうだけど、私は調査に来たのよ。また悪巧みをして、里の人から金を巻き上げようとしているんじゃない?」

 

霊夢は女苑の事を疑っていた。まあそれも無理もない、彼女は前回の異変で、里の人間から大量の金品を巻き上げた前科が存在する。この金貸し屋も、何か企んでいるに違いないと、霊夢は睨んでいた。

 

「ちょっと、それは言いかがりよ。ちゃんと良心的な金貸しをしているんだから。それに、この商売を提案したのはジンなんだから」

 

「「え?」」

 

女苑の言葉に、霊夢おろか名前が上がったジンも驚きの声が上がった。ジン本人はそんな事を提案した覚えがなかった。

 

「俺、そんな事を言ったっけ?」

 

「言ったわよ。“どうせ商売するなら、自分の能力を活用すれば良い”って。以前飲み屋で言ってくれたじゃない」

 

それは偶然バッタリと再会した時の事、彼女が新しい商売に悩んでいたので、ジンはそれとなく助言を出していた。それが切っ掛けで、女苑は金貸し屋を始めたのである。

 

「ああ、確かにそう言ったけど…それが金貸し屋に繋がるとは思わなかった」

 

「あんたの能力って、“財産を消費させる”ものでしょ? それがどう金貸しに繋がるのよ? まさか、相手に無理矢理借金させて破産させるつもりじゃ――――」

 

「違うわよ! そんな事したら、あの破壊僧が飛んで来て、説法の嵐を来るわよ! 私がやるのは、“借金の強制徴収”」

 

「強制徴収?」

 

「別に悪どい事はしないわよ。ただ、返済期限を過ぎたら、自動的に返済される仕組みなんだから」

 

「一体どういった仕組みなの?」

 

「そうね。まず、お金を借りる人はこの契約書にサインする、サインした人に対して私の分霊が取り憑く、無事借金を返済したなら解除するけど、もし返済期限を過ぎたら分霊を通じて借金と利子分を徴収する。つまり、踏み倒しを防ぐうえに楽して集金出来る訳。どう? 完璧なシステムでしょ?」

 

女苑は自慢気に仕組みの事を話した。これを聞いたジンは、なるほどと感心をする。

お金を借りる人の中には、悪どい方法で踏み倒したり、夜逃げをしたりする者がいるが、彼女の方法ならば、どんな方法を用いても、借りた金はキッチリ利子分返させられる。金貸し屋にとって、理想なシステムでは無いかと思う。ただ一点の懸念を除いては。

 

「女苑、最初から返す宛が無く、尚且つ金が必要な人に対してやっているのか?」

 

ジンの懸念は、金を借りる必要があるが、返す宛が無い人に対しての対応であった。もし、そんな人に金を貸して、先程のシステムを行えば、悲惨な結末になるのは、火を見るよりも明らかだ。

もし、彼女がそんな事をしているのなら、例え仕組みとして問題が無くとも、ジンは辞めさせるつもりであった。

だが、それは杞憂であった。

 

「あの、女苑さんいますか?」

 

一人の女性がやって来た。見るからにみすぼらしい姿をしているが、その表情は明るいものであった。

 

「あら、静さんじゃない。今日はどうしたの?」

 

「今月分を納めにきました」

 

そう言ってお金が入った封筒を女苑に渡す。それを快く受けとる女苑であった。

 

「いつも御苦労様。ところで、お子さんは?」

 

「おかげさまで、良くなりました。その節は本当にありがとうございます」

 

「御礼なんて良いわよ。私は貴女にお金を貸して、貴女は借りた分と利子分を分割払いする。そういった契約でしょ?」

 

「それでも、貴女ところだけでしたよ。こんな私にお金を貸していただいたのは。本当にありがとうございます」

 

女性は深々と女苑に頭を下げて、感謝の言葉を述べて去っていった。それを見て、ジンは自分の懸念が杞憂だと感じた。

 

「分割払いもしているのか」

 

「当たり前でしょ。これでも真っ当な金貸し屋よ。借りる側が無理無く返済出来るように、色々とプランを立てて上げているのよ」

 

「へえ、以前は人を金脈扱いしていた貴女がねぇ…よほど白蓮のしごきが効いたのかしら?」

 

「まあ、思うところはあったからね……」

 

いくらお金があったとしても、幸福だとは限らない、質素でも心豊かな生活を送りたいという彼女の心境の変化を現したのが、この金貸し屋なのだと、ジンは思った。

 

「あっ、そうだ。紫苑から御祝いの品があるんだった」

 

そう言ってジンは、持って来たプレゼントの箱を女苑に渡した。

 

「姉さんから?」

 

「ああ、お前が店を開くのを聞いて、用意したらしい。本当は直に渡したかったらしいが、下手に博麗神社から出ると、惨事に見舞われるから、代わりに俺が持って来たんだ」

 

「貧乏神の贈り物ねえ…なんだか呪われそう」

 

「霊夢、そういう事は口に出すな」

 

「あの姉さんがねえ…開けても良いかしら?」

 

「別に構わない。俺も少し中身が気になっていたんだ」

 

女苑は早速、プレゼント箱を開けて中身を取り出した。中身は、古びた欠けた茶碗であった。

 

「茶碗?」

 

「随分とボロボロねぇ……」

 

「これは――――」

 

ジンと霊夢には、ボロボロの古びた茶碗にしか見えなかったが、女苑にはそれが何なのか直ぐに理解した。

その茶碗は、紫苑がどんなに貧乏で、悲惨で、不幸な目にあっても、絶対に手離さなかった茶碗。依神紫苑の唯一の宝物の茶碗であった。

 

「……まったく、こんかオンボロ茶碗が御祝いの品なんて。まあ、姉さんらしいかな?」

 

そう言った女苑は、何処か嬉しそうであった。

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