この話を作る際、常世の神というワードを調べたみたところ、面白い事がわかり、独自設定を盛りました。詳しくは後書きに書いておきます。
幻想郷にはエタニティラルバ、通称ラルバと呼ばれている妖精がいる。
彼女は四季異変の最中、黒幕達に力を授かり暴れているところを、異変解決に乗り出した霊夢達に敗北した経歴を持つ。
幻想郷では、大して変わりばえの無い妖精の一人であるが、ただ一人を除いては、彼女に対して強い違和感を感じていた。
「え? 妖精なのか? てっきりリグルみたいな虫の妖怪だと思っていたんだが」
博麗神社在住のジンは、初対面なラルバに対してそう言ったのであった。
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ここは太陽の畑にある、幽香の別荘。そこでジンは、幽香とラルバの三人でお茶会をしていた。
「ぷぷっ、初対面でそんな事を言えば、そりゃ怒るわよ」
ジンとラルバが出会った頃の話を聞いた幽香は、クスクスと楽しそうに笑っていた。対するラルバはというと、当時の事を思い出し、若干不機嫌である。
「本当に失礼だったよ。こっちはれっきとした妖精なのに」
「それは悪かったって。でも、なんで他の皆は妖精だとわかったんだ?」
「逆に、なんで妖怪だと思ったのさ?」
「なんていうか、見た目が俺の知っている妖精とかけ離れていたから」
通常の妖精は、一部を除いては人間の子供に近い姿をとっている。そのせいもあってか、妖精自体の性格も子供っぽい者が多い。
対するラルバは、確かに容姿は人の子供ではあるが、全体的にアゲハ蝶を連想する姿をしている。アゲハ蝶の妖精なのだから、別におかしくは無いのだが、それがかえってジンが抱いている妖精のイメージから離れてしまっていたのである。
「しょうがないじゃん、アゲハ蝶の妖精なんだよ私 」
「まあ、そうなんだけどな、どうしても違和感が拭えない……」
「むー、じゃあどうしたらいいの?」
ラルバにそう聞かれるも、解決案が無いジンは、少し困った顔をする。そんなジンに、幽香が助け船を出してくれた。
「格好を少し変えてみたら良いんじゃない?」
「格好を?」
「ええ、ラルバの服は全体的にアゲハ蝶を意識しているものだから、そこを変えればマシになると思うわ」
確かにとジンは、思った。三妖精やチルノみたいな洋服を着れば、妖精らしくなると。しかし、それに対してラルバは、あまりおきに召さない様子である。
「やだよ、この服は私のアイデンティティなんだよ。これを脱いだら、ただの妖精じゃん」
「別に良いじゃない、たまには着飾るのもいいわよ?」
「そんな事言って、私を着せ替え人形にしてからかうつもりでしょ?」
「あら、バレちゃった?」
「長い付き合いだからね。幽香の考えている事は、大体わかるよ」
それは何とも不思議な光景であった。幻想郷トップの実力を持つ幽香と、幻想郷ヒエラルキーでは最下層である妖精のラルバが、まるで対等の友人であるかのように話していた。
やはりラルバは、普通の妖精とは何処か違うのでは? ジンは密かに思うのであった。
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とある満月の下、迷いの竹林にて永琳が一人佇んでいた。そんな彼女の前にラルバがやって来た。
「やあ八意、久し振りだね」
「はい、千三百年振りですXXXX様」
地上の言葉では無い名前でラルバを呼ぶ永琳、するとラルバは少し呆れた様子で言う。
「それはもう捨てた名前だよ、今はエタニティラルバ。ラルバって呼んで欲しいな」
「分かりましたラルバ様」
「敬称もいらないんだけど……」
「二人きりの時くらいは良いではありませんか」
「まあ良いけど、天狗のブンヤにバレないようにね」
それは異様な光景であった。月の頭脳である永琳が、ラルバに対して敬意を払っていた。もしこの場に文がいたのなら、号外が出されていたであろう。
「それにしても、驚きましたよ。貴方が幻想郷にいて、尚且つそのような姿をとっているとは思えませんでした」
「だからだよ。月の連中は思ってもいないだろう? 私が、穢れの象徴である妖精に化けているなんて」
「はい、私で無ければ見破れ無いでしょう。もちろん、この事を口外するつもりはありません」
「流石は八意だ、話が分かる子は大好きだよ」
そう言ったラルバは、いつもの無邪気な顔では無く、怪しく神秘的で、妖精とは思えない知的に溢れていた。
そんな彼女は、ふとある人物を思い出す。
「そう言えば、君以外で私の正体に勘づいた人がいたね」
「ラルバ様の?」
「うん、人間だったけど、私を妖精とは思えないって言われたよ」
「消しますか?」
「物騒な事は言わないの。そういうところは変わらないわねぇ貴女は」
「不確定要素は、限り無く排除すべきかと」
「その辺りは大丈夫だよ。ああいった子は、人の秘密を知ったとしても、それを暴く事はしない。誰よりも真実に近いが故に、守るべく秘密は守る人よ」
「それでしたら良いのですが……」
「それに、バレたらバレたで、どうにか出来るから八意が気にする事は無いよ」
「そうでしたね。貴女様でしたら、私ごときの助力は不要。差し出がましい事を言い、申し訳ありません」
「そんな畏まらない。単純に私の心配をしてくれただけでしょう? その気持ちは嬉しいわ」
ラルバは背を伸ばして、永琳の頭をそっと撫でる。それはまるで、母親が子を慈しむように優しい物であった。
「さて、折角だし。この千三百十八年間の貴女の話を聞かせて貰えるかしら?」
「はい、喜んで」
永琳はラルバに、これまでの事を話始めた。
話をする永琳、それを聞くラルバ。どちらも楽しそうに笑っていた。それを知っているのは、空に輝く満月だけであった。
補足。
ラルバは常世神という説があり、常世の神はオモイカネの異名でもある。そして、八意永琳はオモイカネと同一存在と言われている。
上記の事を知った自分は、こう妄想しました。
エタニティラルバは元々は月の賢者であった。だがある日、月から逃亡?をして行方を眩ませた。
永琳はラルバの教え子であり、彼女を心から尊敬している。
ラルバは普段は妖精の振りをしており、その演技を見抜ける者は片手を数える程度。それ以外の者は、彼女を妖精だと信じ込んでいる。
以上が自分の妄想設定です。元ネタを調べるだけで、キャラの意外な接点が見えて来て、凄く面白かったです。