東方軌跡録   作:1103

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 今回は天空章の新キャラ、エタニティラルバにまつわる話です。
 この話を作る際、常世の神というワードを調べたみたところ、面白い事がわかり、独自設定を盛りました。詳しくは後書きに書いておきます。


エタニティラルバの謎

幻想郷にはエタニティラルバ、通称ラルバと呼ばれている妖精がいる。

彼女は四季異変の最中、黒幕達に力を授かり暴れているところを、異変解決に乗り出した霊夢達に敗北した経歴を持つ。

幻想郷では、大して変わりばえの無い妖精の一人であるが、ただ一人を除いては、彼女に対して強い違和感を感じていた。

 

「え? 妖精なのか? てっきりリグルみたいな虫の妖怪だと思っていたんだが」

 

博麗神社在住のジンは、初対面なラルバに対してそう言ったのであった。

 

――――――――――――――――

 

ここは太陽の畑にある、幽香の別荘。そこでジンは、幽香とラルバの三人でお茶会をしていた。

 

「ぷぷっ、初対面でそんな事を言えば、そりゃ怒るわよ」

 

ジンとラルバが出会った頃の話を聞いた幽香は、クスクスと楽しそうに笑っていた。対するラルバはというと、当時の事を思い出し、若干不機嫌である。

 

「本当に失礼だったよ。こっちはれっきとした妖精なのに」

 

「それは悪かったって。でも、なんで他の皆は妖精だとわかったんだ?」

 

「逆に、なんで妖怪だと思ったのさ?」

 

「なんていうか、見た目が俺の知っている妖精とかけ離れていたから」

 

通常の妖精は、一部を除いては人間の子供に近い姿をとっている。そのせいもあってか、妖精自体の性格も子供っぽい者が多い。

対するラルバは、確かに容姿は人の子供ではあるが、全体的にアゲハ蝶を連想する姿をしている。アゲハ蝶の妖精なのだから、別におかしくは無いのだが、それがかえってジンが抱いている妖精のイメージから離れてしまっていたのである。

 

「しょうがないじゃん、アゲハ蝶の妖精なんだよ私 」

 

「まあ、そうなんだけどな、どうしても違和感が拭えない……」

 

「むー、じゃあどうしたらいいの?」

 

ラルバにそう聞かれるも、解決案が無いジンは、少し困った顔をする。そんなジンに、幽香が助け船を出してくれた。

 

「格好を少し変えてみたら良いんじゃない?」

 

「格好を?」

 

「ええ、ラルバの服は全体的にアゲハ蝶を意識しているものだから、そこを変えればマシになると思うわ」

 

確かにとジンは、思った。三妖精やチルノみたいな洋服を着れば、妖精らしくなると。しかし、それに対してラルバは、あまりおきに召さない様子である。

 

「やだよ、この服は私のアイデンティティなんだよ。これを脱いだら、ただの妖精じゃん」

 

「別に良いじゃない、たまには着飾るのもいいわよ?」

 

「そんな事言って、私を着せ替え人形にしてからかうつもりでしょ?」

 

「あら、バレちゃった?」

 

「長い付き合いだからね。幽香の考えている事は、大体わかるよ」

 

それは何とも不思議な光景であった。幻想郷トップの実力を持つ幽香と、幻想郷ヒエラルキーでは最下層である妖精のラルバが、まるで対等の友人であるかのように話していた。

やはりラルバは、普通の妖精とは何処か違うのでは? ジンは密かに思うのであった。

 

――――――――――――――――

 

とある満月の下、迷いの竹林にて永琳が一人佇んでいた。そんな彼女の前にラルバがやって来た。

 

「やあ八意、久し振りだね」

 

「はい、千三百年振りですXXXX様」

 

地上の言葉では無い名前でラルバを呼ぶ永琳、するとラルバは少し呆れた様子で言う。

 

「それはもう捨てた名前だよ、今はエタニティラルバ。ラルバって呼んで欲しいな」

 

「分かりましたラルバ様」

 

「敬称もいらないんだけど……」

 

「二人きりの時くらいは良いではありませんか」

 

「まあ良いけど、天狗のブンヤにバレないようにね」

 

それは異様な光景であった。月の頭脳である永琳が、ラルバに対して敬意を払っていた。もしこの場に文がいたのなら、号外が出されていたであろう。

 

「それにしても、驚きましたよ。貴方が幻想郷にいて、尚且つそのような姿をとっているとは思えませんでした」

 

「だからだよ。月の連中は思ってもいないだろう? 私が、穢れの象徴である妖精に化けているなんて」

 

「はい、私で無ければ見破れ無いでしょう。もちろん、この事を口外するつもりはありません」

 

「流石は八意だ、話が分かる子は大好きだよ」

 

そう言ったラルバは、いつもの無邪気な顔では無く、怪しく神秘的で、妖精とは思えない知的に溢れていた。

そんな彼女は、ふとある人物を思い出す。

 

「そう言えば、君以外で私の正体に勘づいた人がいたね」

 

「ラルバ様の?」

 

「うん、人間だったけど、私を妖精とは思えないって言われたよ」

 

「消しますか?」

 

「物騒な事は言わないの。そういうところは変わらないわねぇ貴女は」

 

「不確定要素は、限り無く排除すべきかと」

 

「その辺りは大丈夫だよ。ああいった子は、人の秘密を知ったとしても、それを暴く事はしない。誰よりも真実に近いが故に、守るべく秘密は守る人よ」

 

「それでしたら良いのですが……」

 

「それに、バレたらバレたで、どうにか出来るから八意が気にする事は無いよ」

 

「そうでしたね。貴女様でしたら、私ごときの助力は不要。差し出がましい事を言い、申し訳ありません」

 

「そんな畏まらない。単純に私の心配をしてくれただけでしょう? その気持ちは嬉しいわ」

 

ラルバは背を伸ばして、永琳の頭をそっと撫でる。それはまるで、母親が子を慈しむように優しい物であった。

 

「さて、折角だし。この千三百十八年間の貴女の話を聞かせて貰えるかしら?」

 

「はい、喜んで」

 

永琳はラルバに、これまでの事を話始めた。

話をする永琳、それを聞くラルバ。どちらも楽しそうに笑っていた。それを知っているのは、空に輝く満月だけであった。

 




補足。
ラルバは常世神という説があり、常世の神はオモイカネの異名でもある。そして、八意永琳はオモイカネと同一存在と言われている。
上記の事を知った自分は、こう妄想しました。

エタニティラルバは元々は月の賢者であった。だがある日、月から逃亡?をして行方を眩ませた。
永琳はラルバの教え子であり、彼女を心から尊敬している。
ラルバは普段は妖精の振りをしており、その演技を見抜ける者は片手を数える程度。それ以外の者は、彼女を妖精だと信じ込んでいる。

以上が自分の妄想設定です。元ネタを調べるだけで、キャラの意外な接点が見えて来て、凄く面白かったです。

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