東方軌跡録   作:1103

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 1月16日、指摘があったので修正しました。


鈴仙の家出

「しばらく神社に置いて下さい!」

 

いきなりジンと霊夢に土下座で頼んでいるのは、永遠停に住んでいる筈の鈴仙であった。

 

「えっと・・・・・いきなり過ぎて話が見えないのだが・・・・・」

 

「あ、そうだった。実は――――」

 

鈴仙は、経緯を話始めた。

彼女の話によると、あまりにもこきを使われる上に、お仕置きばかり受けて、とうとう家出をしたのである。

 

「飛び出したのは良かったのだけど・・・・・いく宛も無くて・・・・・」

 

「そうだな・・・・・人里は永遠停に近いから居づらいし、妖怪山は新参者には風当たりは強い、魔法の森も住みづらそうだな・・・・・」

 

「だからお願い!

しばらくで良いから、ここに置かせて!」

 

「悪いけど、他を―――」

「しばらくなら良いんじゃないか霊夢?」

 

ジンの言葉に、霊夢は猛反対する。

 

「ちょっと! 何を言うのよ!

大体、私達には関係ないでしょ!」

 

「確かに関係は無いかも知れないけど、鈴仙の気持ちが良く分かる」

 

「え?」

 

「俺が幻想郷に来たばかりの時、右も左も分からず、妖怪に襲われたりもして、心細く不安な毎日を過ごしいた。

そんな時、偶々愽麗神社に辿り着いた時、こう言ってくれたよな?」

 

『いく宛が無いなら、しばらく居て良いわよ』

 

「あの言葉に、俺は救われた。

帰る場所を無くした俺に、居場所を霊夢がくれたんだ。

だから――――」

 

「分かったわよ。

そんな事を言われたら、駄目って言えないじゃない」

 

「それじゃ―――」

 

「ただし、ちゃんと働かないと追い出すわよ?」

 

「ええ! ありがとう霊夢!」

 

「お礼なら、そこのお人好しに言いなさい」

 

「ありがとうジン!」

 

「良いって。

それよりも、これからよろしくな鈴仙」

 

「うん!」

 

こうして、鈴仙は愽麗神社に厄介になるのであった。

 

―――――――――――

 

それから次の日、鈴仙の新たな一日が始まる。

 

「う~ん~。

さて、今日から頑張るぞー」

 

彼女の朝の仕事は境内の掃除。

朝の七時頃に目を覚まし、早速取り掛かろうとすると、既にジンが掃除を始めていた。

 

「おはよう鈴仙。よく眠れたか?」

 

「お、おはようジン。朝は早いんだね」

 

「そうか? 大体六時半には起きているな・・・・・」

 

「六時半・・・・・姫様には絶対に起きれない時間ね・・・・・」

 

「そうだな、引きこもり姫には出来ないだろうな。

それよりも、境内の掃除を済ませるぞ」

 

「ええ」

 

こうして二人は境内の掃除を再開するのであった。

 

 

境内の掃除を済ませ、朝食を取ったら。

ミズナラの御神木に御供え物を持って行くのである。

 

「妖精が住んでいるの?」

 

「ああ、光の三妖精を名乗っていてな。

名前はサニー、ルナ、スターって言うんだ」

 

「え? あの妖精達、ここに住んでいるの?」

 

「ん? 知り合いか? それなら話が早い。

三人はミズナラの御神木に住んでいるから、挨拶に行こう」

 

(御神木に住んでるって・・・・・意外と凄い妖精だったの?)

 

鈴仙がとんでも無い勘違いをしているうちに、ミズナラの御神木に到着した。

 

「おーい三人ともー、御供え持って来たぞー」

 

ジンがそう叫ぶと、サニー達は御神木から現れる。

 

「今日の御供えは何かしらー♪

あれ? 鈴仙さん?」

 

「どうして鈴仙さんがここに?」

 

「訳あって、しばらく神社に預かる事になったんだ。

仲良くしてやってくれ」

 

「よ、よろしく・・・・・」

 

「ふーん、つまり私達の後輩ね。

それなら、今日から私達の事を先輩と呼びなさい!」

 

「ちょ、ちょっとサニー、そんな事を言ったら・・・・・」

 

「良いのよ・・・・・私は墜ちるところまで墜ちたんだから・・・・・」

 

「あれ? 何か地雷踏んじゃった?」

 

「そこまでにしておけよお前ら。

ここには上下関係なんて無いんだからな。仲良くしろ」

 

「「「はーい」」」

 

「随分手懐けているわね・・・・・」

 

「別に手懐けて何かいない。

それよりも、そろそろ参拝客のが来る頃だから、準備に行くぞ」

 

「あ、待ってよ!」

 

先に行くジンの後を、鈴仙は慌てて追い掛けた。

 

 

そして昼頃。

この時間になると、参拝客の数はピークに達する。

 

「やっぱり違和感あるわこの光景・・・・・」

 

「ほらそこの兎! 喋っていないで働く!」

 

「は、はい!」

 

霊夢にどやされながら、鈴仙は参拝客の相手をするのであった。

 

「あの、獣避けの護符を下さい」

 

「はい、ただいま・・・・・熱っ!」

 

護符を取ろうと触れたその時、触れた指先が焼けた。

 

「あ! しまった! 大丈夫か鈴仙!」

 

「あ、うん・・・・・ちょっと火傷しただけだから・・・・・」

 

「そうか・・・・・鈴仙が妖獣だった事をすっかり忘れていた。

ここは良いから、先に手当てをしてくれ。

霊夢、鈴仙の手当てを頼む」

 

「まったく、しょうがないわね。

ほら行くわよ」

 

「うん・・・・・ごめんね」

 

「謝るのはこっちだ。鈴仙は悪く無い」

 

お互いに謝り、火傷の手当てをするために、霊夢と鈴仙は一度その場を離れた。

 

 

「はい、これで大丈夫」

 

霊夢はそう言って、鈴仙の指先に包帯を巻いた。

 

「ごめんなさい。あまり役に立たなくて・・・・・」

 

「そんな気にする必要は無いんじゃない?

少なくとも、あの三妖精よりは役に立っているんだから」

 

「そうかな・・・・・?」

 

「そうよ。

それに、さっきのはこっちの配慮ミスだし。気にする事は無いんじゃない?」

 

「・・・・・」

 

「ん? どうしたの?」

 

「いえ、霊夢変わったなって思っただけ」

 

「・・・・・あー、そうね。

以前だったら、妖怪を泊めたり働かせたりしなかったわね」

 

「むしろ、率先して妖怪退治をする人間だったわ」

 

「そうだったけ?」

 

「そうよ、異変の時なんか、正に鬼って感じだったわよ」

 

「誰が鬼よ!」

 

「でも、最近だと無闇やたらに妖怪退治や妖退治って言わなくなったわ。

やっぱりジンが来たから?」

 

「・・・・・そうね。

あいつが最初に来た頃、やたらと私の邪魔ばかりしていたわ。

“無闇に退治をするな”とか“先ずは相手の言い分を聞こう”とかね」

 

「何となく想像つくわ・・・・・」

 

「そのうえ正論ばっかり言うんだから、口じゃ勝てなくてね。

力業でやろうとしても、当時は生粋な人間だと思って居たから、手を出す事も出来なかったわ」

 

「追い出そうとは思わなかったの?」

 

「何度か思ったけど、あいつは色々と神社の為にやってくれたのよ。

参拝客が来やすいように、獣道をちゃんと整備したり、私の事を宣伝したり。

そうする内に、参拝客が来るようになって、逆に追い出す口実がなくなってしまったの」

 

霊夢は何処か懐かしそうに、当時の事を鈴仙に話した。

 

「ちょっと数日だけ泊めただけなのに、あいつはそれ以上の事をしてくれたわ。

本当に感謝しても仕切れないわ・・・・・」

 

「そんな事が・・・・・」

 

「あ、言っておくけど、今の話はジンには内緒よ。

今の話を聞かれたら、逆に付け上がるわ。

上下関係をはっきりさせる為にも、この話は他言無用よ。い・い・わ・ね?」

 

「わ、わかったわ・・・・・・」

 

「よろしい。

それじゃ戻るわよ。いつまでもジン一人じゃ対応仕切れないしね」

 

そう言って霊夢は先に行ってしまった。

 

「ジンはそんな事をしないと思うけど・・・・・」

 

誰も聞こえ無いように呟き、鈴仙は霊夢の後を追った。

 

―――――――――――

 

鈴仙が来てから一週間が過ぎ、今日は中秋の名月である。

そこで、皆で月見をする事になった。

 

「今夜は晴れて良かったな。月がよく見える」

 

「本当は満月の日は、化け狸とかが活発になるから、厄介なだけなんだけど・・・・・ねっ!」

 

そう言って霊夢は、月に目掛けて石を投げつけた。

 

「ギャン!?」

 

泣き声と共に、月は煙のように消えてしまった。

 

「今のは!?」

 

「何処かの狸が月に化けていたのよ。

本物は彼処よ」

 

「全然気付かなかったわ・・・・・」

 

「流石霊夢さん! 妖怪退治の専門家ね!」

 

「おだてても何にも無いわよ。

それより、団子を運ぶのを手伝いなさい」

 

「あれ? 縁側にあるお団子は?」

 

「あれはダミー用。本物はこっちよ」

 

「流石霊夢さんだ。抜け目が無い・・・・・」

 

「ほら、喋っていないで運ぶ」

 

「「「はーい」」」

 

こうして月見が始まった。

 

「それにしても、魔理沙は来なかったな。

いつもなら来る筈なのにな」

 

「逆よ逆、こんな満月の夜には人間は出歩かないのよ。

さっきも言ったけど、こういう満月の日は妖怪が力をつけるから、余計に危ないのよ」

 

「じゃあ鈴仙もか?」

 

「まあ、いつもよりは力がみなぎるけどね」

 

「妖怪だけじゃないわ。

私達妖精も、この日は力を増すわ!」

 

「ふーん、人間とっては凶日。妖怪や妖精達には吉日って事か・・・・・」

 

「そうね、だからこうして家で月見をするのが一番よ」

 

「そうだな」

 

そんな話をしながら、月見をする六人。

ふと、鈴仙は何処か浮かない表情をしていた。

 

「どうした鈴仙?」

 

「え?」

 

「何処か具合でも悪いのか?」

 

「えっと・・・・・そうじゃなくて、今頃皆どうしているかな?って考えていたの」

 

「やはり気になるか?」

 

「うん・・・・・家出した身だけど、やっぱり気になる。

けど・・・・・・・・・・」

 

「戻りづらいか?」

 

「・・・・・うん」

 

「鈴仙、人間の俺が言うのも何だけど、戻りたい場所があるのなら戻った方が良い。

帰りづらいのなら、付き添うが?」

 

「ジン・・・・・ありがとう。

でもいいわ、そこまでしてもう訳にいかないわ」

 

「そうか」

 

「鈴仙さん帰っちゃうの?」

 

「せっかく仲良くなったのに・・・・・」

 

「いっその事、ここに住んじゃえば?」

 

「こらこらあんた達、家主にそっちのけで決めないでよ」

 

「ありがとう三人共。

でもね、行き場を失った私を最初に拾ってくれたのはお師匠様なの。

だから、私が帰るべき場所は永遠邸だと思う」

 

「そっか・・・・・少し寂しいわね・・・・・」

 

「ありがとうサニー。

時々だけど、遊びに来るから」

 

「いつでも歓迎するわよ!」

 

「それじゃ、鈴仙さんのお別れ会も兼ねて、今日は思いっきり飲むわよー!」

 

「「「おー!」」」

 

こうして中秋の月見は、鈴仙のお別れ会も兼ねて、行う事になった。

 

 

夜はすっかり更けこみ。鈴仙とサニー達は酔い潰れて寝てしまった。

そんな中、霊夢とジンは縁側で話をしていた。

 

「あんた、最初からわかってて鈴仙を泊めたんでしょ?」

 

「そうだな。

彼女の性格を考えれば、直ぐに帰りたがるだろうとは思っていた」

 

「その間に永遠亭に出向いて、鈴仙の待遇を改善するように永淋と交渉していたのね」

 

「何だ、知っていたのか」

 

「別に、あんたの性格を考えれば、それぐらいの事はやると思っていたわよ。

それでどうなの?」

 

「向こうはあっさり折れた。

やはり鈴仙がいないと、上手く回らないらしい。

“いつもの四倍以上に忙しいわ”って、永淋は嘆いていた」

 

「何となく想像つくわ。

あの子、思いの外有能だしね」

 

「ああ、神社の仕事をあっという間に覚えたからな。

人材として重宝されているんじゃないか?」

 

「もしくは、永淋の教育の賜物か」

 

「鈴仙の話を聞く限り、教育っていうより調教じゃないのか?」

 

「そうね・・・・・私でも逃げ出すわね。

むしろ、今まで逃げなかったのが不思議なくらいよ」

 

「今までは当てがなかったんだろうな」

 

「うちを当てにしても困るんだけど?」

 

「少しぐらい良いじゃないか」

 

「あんたが良くても、私が良くない。

こんな事はこれっきりにして貰いたいわ」

 

「わかった。肝に命じて置く」

 

「よろしい。ところで――――」

 

「ん? どうした霊夢?」

 

「あんたの居場所は、誰が何と言おうとここだから」

 

「――――」

 

「ちょっと酔ったみたい。

先に寝るわ」

 

「ああ、おやすみ霊夢」

 

霊夢が寝室に行ったのを確認すると、ジンは小さく呟く。

 

「――――ありがとう」

 

こうして、中秋の夜は過ぎ去った。

 

―――――――――――

 

次の日、ジン達は永遠亭に帰る鈴仙を見送っていた。

 

「それじゃ気を付けて」

 

「遊びに来てよね」

 

「うん、皆ありがとう」

 

そう言って、鈴仙は博麗神社を去って行った。

 

「行っちゃったね・・・・・」

 

「大丈夫かな鈴仙さん・・・・・」

 

「きっと大丈夫だろう。

さて、今日も頑張るぞ皆」

 

「「「おー!」」」

 

博麗神社は今日も元気よく、参拝客を迎える準備をするのであった。




個人的に、鈴仙は有能と考えています。
そうじゃなければ、こき使われたりしない筈です。

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