「しばらく神社に置いて下さい!」
いきなりジンと霊夢に土下座で頼んでいるのは、永遠停に住んでいる筈の鈴仙であった。
「えっと・・・・・いきなり過ぎて話が見えないのだが・・・・・」
「あ、そうだった。実は――――」
鈴仙は、経緯を話始めた。
彼女の話によると、あまりにもこきを使われる上に、お仕置きばかり受けて、とうとう家出をしたのである。
「飛び出したのは良かったのだけど・・・・・いく宛も無くて・・・・・」
「そうだな・・・・・人里は永遠停に近いから居づらいし、妖怪山は新参者には風当たりは強い、魔法の森も住みづらそうだな・・・・・」
「だからお願い!
しばらくで良いから、ここに置かせて!」
「悪いけど、他を―――」
「しばらくなら良いんじゃないか霊夢?」
ジンの言葉に、霊夢は猛反対する。
「ちょっと! 何を言うのよ!
大体、私達には関係ないでしょ!」
「確かに関係は無いかも知れないけど、鈴仙の気持ちが良く分かる」
「え?」
「俺が幻想郷に来たばかりの時、右も左も分からず、妖怪に襲われたりもして、心細く不安な毎日を過ごしいた。
そんな時、偶々愽麗神社に辿り着いた時、こう言ってくれたよな?」
『いく宛が無いなら、しばらく居て良いわよ』
「あの言葉に、俺は救われた。
帰る場所を無くした俺に、居場所を霊夢がくれたんだ。
だから――――」
「分かったわよ。
そんな事を言われたら、駄目って言えないじゃない」
「それじゃ―――」
「ただし、ちゃんと働かないと追い出すわよ?」
「ええ! ありがとう霊夢!」
「お礼なら、そこのお人好しに言いなさい」
「ありがとうジン!」
「良いって。
それよりも、これからよろしくな鈴仙」
「うん!」
こうして、鈴仙は愽麗神社に厄介になるのであった。
―――――――――――
それから次の日、鈴仙の新たな一日が始まる。
「う~ん~。
さて、今日から頑張るぞー」
彼女の朝の仕事は境内の掃除。
朝の七時頃に目を覚まし、早速取り掛かろうとすると、既にジンが掃除を始めていた。
「おはよう鈴仙。よく眠れたか?」
「お、おはようジン。朝は早いんだね」
「そうか? 大体六時半には起きているな・・・・・」
「六時半・・・・・姫様には絶対に起きれない時間ね・・・・・」
「そうだな、引きこもり姫には出来ないだろうな。
それよりも、境内の掃除を済ませるぞ」
「ええ」
こうして二人は境内の掃除を再開するのであった。
境内の掃除を済ませ、朝食を取ったら。
ミズナラの御神木に御供え物を持って行くのである。
「妖精が住んでいるの?」
「ああ、光の三妖精を名乗っていてな。
名前はサニー、ルナ、スターって言うんだ」
「え? あの妖精達、ここに住んでいるの?」
「ん? 知り合いか? それなら話が早い。
三人はミズナラの御神木に住んでいるから、挨拶に行こう」
(御神木に住んでるって・・・・・意外と凄い妖精だったの?)
鈴仙がとんでも無い勘違いをしているうちに、ミズナラの御神木に到着した。
「おーい三人ともー、御供え持って来たぞー」
ジンがそう叫ぶと、サニー達は御神木から現れる。
「今日の御供えは何かしらー♪
あれ? 鈴仙さん?」
「どうして鈴仙さんがここに?」
「訳あって、しばらく神社に預かる事になったんだ。
仲良くしてやってくれ」
「よ、よろしく・・・・・」
「ふーん、つまり私達の後輩ね。
それなら、今日から私達の事を先輩と呼びなさい!」
「ちょ、ちょっとサニー、そんな事を言ったら・・・・・」
「良いのよ・・・・・私は墜ちるところまで墜ちたんだから・・・・・」
「あれ? 何か地雷踏んじゃった?」
「そこまでにしておけよお前ら。
ここには上下関係なんて無いんだからな。仲良くしろ」
「「「はーい」」」
「随分手懐けているわね・・・・・」
「別に手懐けて何かいない。
それよりも、そろそろ参拝客のが来る頃だから、準備に行くぞ」
「あ、待ってよ!」
先に行くジンの後を、鈴仙は慌てて追い掛けた。
そして昼頃。
この時間になると、参拝客の数はピークに達する。
「やっぱり違和感あるわこの光景・・・・・」
「ほらそこの兎! 喋っていないで働く!」
「は、はい!」
霊夢にどやされながら、鈴仙は参拝客の相手をするのであった。
「あの、獣避けの護符を下さい」
「はい、ただいま・・・・・熱っ!」
護符を取ろうと触れたその時、触れた指先が焼けた。
「あ! しまった! 大丈夫か鈴仙!」
「あ、うん・・・・・ちょっと火傷しただけだから・・・・・」
「そうか・・・・・鈴仙が妖獣だった事をすっかり忘れていた。
ここは良いから、先に手当てをしてくれ。
霊夢、鈴仙の手当てを頼む」
「まったく、しょうがないわね。
ほら行くわよ」
「うん・・・・・ごめんね」
「謝るのはこっちだ。鈴仙は悪く無い」
お互いに謝り、火傷の手当てをするために、霊夢と鈴仙は一度その場を離れた。
「はい、これで大丈夫」
霊夢はそう言って、鈴仙の指先に包帯を巻いた。
「ごめんなさい。あまり役に立たなくて・・・・・」
「そんな気にする必要は無いんじゃない?
少なくとも、あの三妖精よりは役に立っているんだから」
「そうかな・・・・・?」
「そうよ。
それに、さっきのはこっちの配慮ミスだし。気にする事は無いんじゃない?」
「・・・・・」
「ん? どうしたの?」
「いえ、霊夢変わったなって思っただけ」
「・・・・・あー、そうね。
以前だったら、妖怪を泊めたり働かせたりしなかったわね」
「むしろ、率先して妖怪退治をする人間だったわ」
「そうだったけ?」
「そうよ、異変の時なんか、正に鬼って感じだったわよ」
「誰が鬼よ!」
「でも、最近だと無闇やたらに妖怪退治や妖退治って言わなくなったわ。
やっぱりジンが来たから?」
「・・・・・そうね。
あいつが最初に来た頃、やたらと私の邪魔ばかりしていたわ。
“無闇に退治をするな”とか“先ずは相手の言い分を聞こう”とかね」
「何となく想像つくわ・・・・・」
「そのうえ正論ばっかり言うんだから、口じゃ勝てなくてね。
力業でやろうとしても、当時は生粋な人間だと思って居たから、手を出す事も出来なかったわ」
「追い出そうとは思わなかったの?」
「何度か思ったけど、あいつは色々と神社の為にやってくれたのよ。
参拝客が来やすいように、獣道をちゃんと整備したり、私の事を宣伝したり。
そうする内に、参拝客が来るようになって、逆に追い出す口実がなくなってしまったの」
霊夢は何処か懐かしそうに、当時の事を鈴仙に話した。
「ちょっと数日だけ泊めただけなのに、あいつはそれ以上の事をしてくれたわ。
本当に感謝しても仕切れないわ・・・・・」
「そんな事が・・・・・」
「あ、言っておくけど、今の話はジンには内緒よ。
今の話を聞かれたら、逆に付け上がるわ。
上下関係をはっきりさせる為にも、この話は他言無用よ。い・い・わ・ね?」
「わ、わかったわ・・・・・・」
「よろしい。
それじゃ戻るわよ。いつまでもジン一人じゃ対応仕切れないしね」
そう言って霊夢は先に行ってしまった。
「ジンはそんな事をしないと思うけど・・・・・」
誰も聞こえ無いように呟き、鈴仙は霊夢の後を追った。
―――――――――――
鈴仙が来てから一週間が過ぎ、今日は中秋の名月である。
そこで、皆で月見をする事になった。
「今夜は晴れて良かったな。月がよく見える」
「本当は満月の日は、化け狸とかが活発になるから、厄介なだけなんだけど・・・・・ねっ!」
そう言って霊夢は、月に目掛けて石を投げつけた。
「ギャン!?」
泣き声と共に、月は煙のように消えてしまった。
「今のは!?」
「何処かの狸が月に化けていたのよ。
本物は彼処よ」
「全然気付かなかったわ・・・・・」
「流石霊夢さん! 妖怪退治の専門家ね!」
「おだてても何にも無いわよ。
それより、団子を運ぶのを手伝いなさい」
「あれ? 縁側にあるお団子は?」
「あれはダミー用。本物はこっちよ」
「流石霊夢さんだ。抜け目が無い・・・・・」
「ほら、喋っていないで運ぶ」
「「「はーい」」」
こうして月見が始まった。
「それにしても、魔理沙は来なかったな。
いつもなら来る筈なのにな」
「逆よ逆、こんな満月の夜には人間は出歩かないのよ。
さっきも言ったけど、こういう満月の日は妖怪が力をつけるから、余計に危ないのよ」
「じゃあ鈴仙もか?」
「まあ、いつもよりは力がみなぎるけどね」
「妖怪だけじゃないわ。
私達妖精も、この日は力を増すわ!」
「ふーん、人間とっては凶日。妖怪や妖精達には吉日って事か・・・・・」
「そうね、だからこうして家で月見をするのが一番よ」
「そうだな」
そんな話をしながら、月見をする六人。
ふと、鈴仙は何処か浮かない表情をしていた。
「どうした鈴仙?」
「え?」
「何処か具合でも悪いのか?」
「えっと・・・・・そうじゃなくて、今頃皆どうしているかな?って考えていたの」
「やはり気になるか?」
「うん・・・・・家出した身だけど、やっぱり気になる。
けど・・・・・・・・・・」
「戻りづらいか?」
「・・・・・うん」
「鈴仙、人間の俺が言うのも何だけど、戻りたい場所があるのなら戻った方が良い。
帰りづらいのなら、付き添うが?」
「ジン・・・・・ありがとう。
でもいいわ、そこまでしてもう訳にいかないわ」
「そうか」
「鈴仙さん帰っちゃうの?」
「せっかく仲良くなったのに・・・・・」
「いっその事、ここに住んじゃえば?」
「こらこらあんた達、家主にそっちのけで決めないでよ」
「ありがとう三人共。
でもね、行き場を失った私を最初に拾ってくれたのはお師匠様なの。
だから、私が帰るべき場所は永遠邸だと思う」
「そっか・・・・・少し寂しいわね・・・・・」
「ありがとうサニー。
時々だけど、遊びに来るから」
「いつでも歓迎するわよ!」
「それじゃ、鈴仙さんのお別れ会も兼ねて、今日は思いっきり飲むわよー!」
「「「おー!」」」
こうして中秋の月見は、鈴仙のお別れ会も兼ねて、行う事になった。
夜はすっかり更けこみ。鈴仙とサニー達は酔い潰れて寝てしまった。
そんな中、霊夢とジンは縁側で話をしていた。
「あんた、最初からわかってて鈴仙を泊めたんでしょ?」
「そうだな。
彼女の性格を考えれば、直ぐに帰りたがるだろうとは思っていた」
「その間に永遠亭に出向いて、鈴仙の待遇を改善するように永淋と交渉していたのね」
「何だ、知っていたのか」
「別に、あんたの性格を考えれば、それぐらいの事はやると思っていたわよ。
それでどうなの?」
「向こうはあっさり折れた。
やはり鈴仙がいないと、上手く回らないらしい。
“いつもの四倍以上に忙しいわ”って、永淋は嘆いていた」
「何となく想像つくわ。
あの子、思いの外有能だしね」
「ああ、神社の仕事をあっという間に覚えたからな。
人材として重宝されているんじゃないか?」
「もしくは、永淋の教育の賜物か」
「鈴仙の話を聞く限り、教育っていうより調教じゃないのか?」
「そうね・・・・・私でも逃げ出すわね。
むしろ、今まで逃げなかったのが不思議なくらいよ」
「今までは当てがなかったんだろうな」
「うちを当てにしても困るんだけど?」
「少しぐらい良いじゃないか」
「あんたが良くても、私が良くない。
こんな事はこれっきりにして貰いたいわ」
「わかった。肝に命じて置く」
「よろしい。ところで――――」
「ん? どうした霊夢?」
「あんたの居場所は、誰が何と言おうとここだから」
「――――」
「ちょっと酔ったみたい。
先に寝るわ」
「ああ、おやすみ霊夢」
霊夢が寝室に行ったのを確認すると、ジンは小さく呟く。
「――――ありがとう」
こうして、中秋の夜は過ぎ去った。
―――――――――――
次の日、ジン達は永遠亭に帰る鈴仙を見送っていた。
「それじゃ気を付けて」
「遊びに来てよね」
「うん、皆ありがとう」
そう言って、鈴仙は博麗神社を去って行った。
「行っちゃったね・・・・・」
「大丈夫かな鈴仙さん・・・・・」
「きっと大丈夫だろう。
さて、今日も頑張るぞ皆」
「「「おー!」」」
博麗神社は今日も元気よく、参拝客を迎える準備をするのであった。
個人的に、鈴仙は有能と考えています。
そうじゃなければ、こき使われたりしない筈です。