東方軌跡録   作:1103

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 今回は主人公の設定的な物を公開する話です。もしかしたら、過去の話に矛盾が出るかも知れませんが、暖かい目で見守ってください。


夢世界と無意識とドッペルゲンガー

 夢、それは人が寝ている時に見る世界。時と場合によっては、良い夢や悪い夢等を見るが、ジンという男は幻想郷の夢を見る時があった。

 それは何故かは本人も分からないが、本人はあまり気にせず、目が覚めるまでここにいる事にしている。

 だが、最近この世界に変化が生じていた。

 

「あ、来たのねジン♪」

 

 そう言ってジンの腕に抱きついて来たのは、霊夢である。正確に言うならば、夢世界の霊夢である。ややこしいので夢霊夢とジンは呼んでいる。

 

「あ、あまり引っ付かないでくれ……」

 

「なに照れてるのよ、私と貴方の仲でしょ?」

 

 霊夢とは違い夢霊夢はジンに好意を全く隠さず接しする為、ジンはいつもタジタジである。別の意味で苦手な人物となりつつある。

 

「こらぁ! ジンが嫌がっているだろう! 手を離せ!」

 

 そんな夢霊夢を嗜めるのは夢の世界の正邪、夢正邪である。何故かこの世界では、ヒーロー的な存在で、この世界の平和を守っている。現実の正邪が知れば、きっと憤死するだろうなぁとジンは密かに思った。

 

「嫌がって無いわよ、ただ照れているだけよ」

 

「そういうのはちゃんとお付き合いしてからにしろ! 正直いって、霊夢の行動は最近目に余る!」

 

「何よ、ちょっと動けなくして×××しようとしただけでしょ」

 

「それが目に余るって言うんだこらー!」

 

 夢霊夢に夢正邪は怒り心頭である。こういうやり取りを見ていると、夢正邪は現実の華仙と似たような行動をするなと思う。もしかしたら、内心憧れているのかも知れない。

 因みに、夢世界の華仙というと。

 

「フィッシュ」

 

 突然現れた包帯にジンは巻き付かれ、そのまま上空に釣り上げられる。そしてそこには、ニンマリといやらしい笑みを浮かぶ華仙がいた。

 

「さて、あの二人が争っている間に、私達は修行をしに行きましょう♪」

 

「……あの、その修行ってもしかして――――」

 

「ええ、房中術よ♪」

 

 夢華仙は何故か卑猥な修行をジンにさせようとする。現実の華仙が知ったら確実に憤死するだろう。

 

『私! そんなキャラじゃないわ! 風評被害よ!』

 

 華仙の抗議する声が幻聴として聞こえて来た。

 ともかく、このままではR指定な展開となるのは明白ではある。どうにか抜け出そうとするが、包帯はびくともしない。

 

「こら暴れないの、屋敷についたらちゃんと相手をして上げるから♪」

 

 夢華仙の目は明らかに捕食者のそれだった。

 そんな時である。突然弾丸が飛んで来て、ジンを拘束していた包帯を撃ち抜いた。

 

「なっ!? またあの兎ね!」

 

 夢華仙の視線先には夢鈴仙がいた。その瞳は鈴仙に比べると赤く、異様な光に満ちていた。

 

「性懲りもなく、私の男に手を出そうとしたわね?」

 

「何が私の男よ、ジンは私の愛玩動物(ペット)なのよ? 私が彼にナニをしようが自由なのよ」

 

「本性を現したわね淫ピ! その淫乱性根を撃ち抜いてやるわ!」

 

「あんたに言われたく無いわ!」

 

 こうして始まった夢華仙と夢鈴仙の弾幕勝負。二人が争っている隙に、さっさとその場を逃げ去るジンであった。

 

「まったく、これじゃあ現実の方がまだマシだ」

 

 そう呟きながら、森へと隠れるジン。

 この夢の幻想郷での変化というのは他でも無い、夢世界の住人が移住して来たのだ。

 事の発端は依神姉妹が起こした“完全憑依異変”が解決してからである。ドレミーが言うには、完全憑依は夢の世界に干渉して起こす現象との事。使えば使う程、干渉が強くなり、最終的には夢世界の住人が現実に現れてしまうらしい。事実、あの異変の最中におかしな言動をした鈴仙が目撃されている。それこそが夢世界の鈴仙、夢鈴仙であったのだ。

 その後、異変を起こした依神姉妹が罰として、夢の住人全てを夢世界へと連れ戻したのだが、どういう訳かこの夢の幻想郷に居着いてしまった。ドレミーいわく――――

 

『恐らく、あの異変で貴方の幻想郷と夢世界が近づいてしまったのでしょう。しかも、こちらはあちら側より居心地が良いので、殆どがこちらに居着いてしまうと思いますが、夢の主である貴方を害したりはしないでしょうから大丈夫だと思いますよ』

 

 と彼女は言ったのたが、どうも別の意味で危険に晒されていた。理由は不明だが、夢世界の住人達は総じてジンに対して好意を抱いていた。簡単に言えばハーレム状態である。

 嬉しいか嬉しくないと言えば嬉しいではあるが、強烈なアプローチには、ジンにタジタジで心労が募るばかり。

 

「……今度永遠亭で強めの睡眠薬を頼もうかな」

 

 そう呟きながら、森の奥へと逃げ込んだ。

 

――――――――――――――――

 

 夢世界の住人は、現実のその人と比べると性格がかなり過激である。

 これは、夢世界の住人達が現実世界で生きる人の抑圧された人格だからである。

 人は生きるのに、様々な事柄に対して仮面をつける必要がある。人をそれを普遍的無意識の一つ、ペルソナと呼ぶ。そして、そのペルソナが剥がれた状態でいるのが、夢世界の住人なのだ。

 とはいえ、例外も存在する。

 幻聴郷の賢者である八雲紫と摩多羅隠岐奈、この二人の夢人格は、現実の本人とほぼ変わりが無い。能力のせいか、大妖怪かは分からないが、この二人が規格外なだけかも知れない。

 次に夢の管理者であるドレミー・スイート、元々夢の世界で生きる妖怪なので、現実と夢の差異は無い。どちらかというと分霊に近い存在なのだろう。

 地獄の女神であるヘカーティア・ラピスラズリもそうである。彼女の場合、夢は異界の一つなので自由に出入り出来るのだ。

 少し変わってはいるが、宇佐見菫子もまた例外だ。何故なら、本人がこの夢世界に訪れる時があるからである。これは彼女が夢を介して幻想郷にやって来ているのが要因である。

 しかしそのせいで、ある事件が起きてしまったが、それはまた別の話しである。

 極にまれではあるが、未来の人間である宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンことメリーの二人も訪れることもある。ただ、この二人は未来の人間である為か、夢世界の二人はここにはいない。

 そしてもう一人、例外の人物はいた。

 

「あ、ジンだ。こんにちはー♪」

 

 能天気に挨拶を交わしたのは、古明地こいし。彼女もまたこの世界に介入出来る人物の一人である。

 何故介入出来るかというと、彼女の無意識を操る能力が起因している。

 そもそも夢というのは、無意識が働いた物。それゆえ、無意識を操る能力を持つこいしは、夢へと干渉出来るのだ。最も、完全にコントロール出来ておらず、たまに現れる程度である。

 

「こんにちはこいし。とは言っても、ここは夢の世界だから今は夜だぞ」

 

「そうなの? あんまり現実と変わんないね」

 

「いや、こっちの住民は色んな意味で過激だ」

 

「ふーん、なんだか疲れているみたいだね」

 

「まあ、ちょっとは……」

 

「膝枕してあげよっか? そうしたら良く眠れるかも」

 

 そう言ってこいしは芝生に座り、自分の膝を叩いてジンを誘う。

 

「はいどうぞー」

 

「夢の中で寝て意味あるのか?」

 

「わかんないけど、疲れた時は寝るのが一番だよ」

 

 こいしの言葉を聞いて、一理あると考えたジンは彼女の膝に頭を預ける。そして静かに眠り始まる。

 それから暫くして、こいしとジンの前に“ジン”が現れた。

 

「まったく、夢の中で眠るなんてどうかしている。我ながら危機感の無い事だ」

 

 まるで軽蔑するかのように、静かに眠っているジンを睨むもう一人のジン。彼は夢世界にのジン、夢ジンである。

 

「こっちのジンも久しぶりだね」

 

「ああ久しぶりだ。とはいえ、あまり俺が出ない方が良いがな」

 

「どうして?」

 

「決まっているだろ。もし俺が俺(ジン)と出会えば、“俺はジンを殺す”からだ」

 

 夢ジンの言葉から、殺気が滲み出ていた。彼は本気でもう一人自分であるジンに殺意を抱いていた。今にも殺しに掛かってもおかしくは無いのだが、彼はしなかった。何故なら――――。

 

「ジンに手を出したら駄目だよ」

 

 すぐそばにこいしが居たからである。彼はジンに殺意を抱くが、それ以外には手を出すつもりはまったく無いのだ。

 

「わかっている。ドッペルゲンガーである俺は、本人を殺す以外に脳が無い。それしか出来ない存在だからだ」

 

「……ねえ、どうして貴方はジンを殺そうとするの?」

 

 こいしの質問に、夢ジンは面倒くさそうな顔をして答えた。

 

「簡単だ。俺はジンの自殺願望が形となった存在だからだ。とはいえ、霊夢と出会った辺りからなりを潜めていたが。立て続けに起きた異変で、自我を得たんだ」

 

 本来なら夢ジンは、深層意識で永久に眠る筈だったが、夢に関与する異変が立て続けに起きた為、自我を得て形を得てしまったのである。それは、本人にとっても不都合で迷惑であった。

 

「正直言って、かなり迷惑している。ぐっすり寝ていたところを叩き起こされたんだからな」

 

「もう一度眠ることは出来ないの?」

 

「寝たいときに寝るなんて器用な真似は、無意識を操れない限り出来ないだろうし。そもそも無意識を完全に支配する事は出来ない。妖怪のお前だって、自分の能力をコントロール出来ていないだろ?」

 

「うん、気を抜くと意識を持ってかれちゃう。今回だって、なんとかここに来れただけだし」

 

 こいしはなるべくジンの夢に入ろうとしていた。それは、ジンを殺そうとしている夢ジンから守る為である。

 彼女が夢ジンに気づいたのは、完全憑依異変の最中。彼女は夢世界から出てきたジンと邂逅していたのだ。とはいえ、夢ジンはジンを殺すしか出来ない存在。それゆえ、戦闘力はジンとは違い最弱であった。

 最終的には、こいしは人知れずに、夢ジンを夢世界に送り返したのだが、ジンがノンレム睡眠に入る時に現れるようになってしまった。

 ノンレム睡眠は魂が最も無防備な状態に陥る。そんな状態で、自殺願望の塊である夢ジンが現れれば、たちまち肉体を操られ、自殺させられるだろう。

 そこでこいしは、ジンの無意識を操り、なるべくレム睡眠になるように、夢を見るように仕向けた。

 しかし、レム睡眠だけでは魂は疲弊してしまう。そこで、自分がジンの夢に入れた時だけ、夢世界で眠るようにさせていた。

 

「甲斐甲斐しいなまったく。ドレミーや紫に任せれば良いだろうに」

 

「それじゃあ駄目だよ。ジンは、何かを企んでいる人を無意識に警戒しているから。胡散臭い人に任せたら、直ぐに気づいちゃう。そして貴方に気づいてしまったら、“自分の正体”に気づいてしまう」

 

「へえ、そこまで気づいていたのか。流石は無意識の力を持つ妖怪だ」

 

 夢ジンは、心底楽しそうに笑った。一方こいしは、少し悲しそうに寝ているジンの頭を撫でた。

 

「うん。薄々だけど、何となく分かっちゃったんだ。何で私を認識出来たのか。最初は鈴仙のように、能力で認識しているのかと思ったんだけど、本当は違う。今いるジンは、元々“夢世界の住民”だったんだ」

 

 こいしはが言うには、幻想郷に来ていた時点でジンの心はほぼ死んでいた。だが霊夢に出会った時に、夢世界のジンと現実のジンが入れ替わってしまったのだ。何故入れ替わってしまったのかは、分からないが、それだけ霊夢との出会いが本人にとって劇的だったのだろう。

 それから入れ替わった夢世界のジンは、ジンとして幻想郷で生活を始めた。自分が本物では無いとも知らず。

 

「夢は無意識の一端、夢の住民だったから、ジンは私を認識出来ていたんだ。もしかすると、彼の能力自体も無意識に関与する物かも知れない」

 

「そこまで分かっているなら何故庇う? 何故助ける? こいつはジンがかつて思い描いていた理想の自分を体現した存在だ。皆に好かれる自分、皆に優しく出来る自分。たがそれは虚像だ、結局は偽物でしかない」

 

「そうかな? 確かに、元は虚像だったかも知れない、偽物なのかも知れない。でも、ジンは生きようとしている。一人の人間として、精一杯生きようとしているんだよ」

 

「なら本物はどうなんだ? 体を奪われ、そのまま夢世界に閉じ込もっていろと?」

 

 そう、今いるジンが夢世界の住民なのであれば、本物のジンは彼の代わりに夢世界にいる筈なのである。ならば、本物に体を返すのが通りだと夢ジンは言う。それに対してこいしは、笑いながら答える。

 

「ふふっ、それならちゃーんと話しつけてあるよ。ていうか、本物から頼まれたんだから。“今の自分を守って欲しい”って」

 

 こいしは既に出会っていたのである、本来のジンに。そしてそのジンから、今のジンを守って欲しいと言われていた。

 

「今更元に戻っても仕方ないから、今のままで良いって。自分は深層心理でのんびりしているから。あんまり深刻そうにしていなかったよ」

 

「はぁ~、そう言えば本物はいい加減な奴だったなぁ……」

 

 夢ジンは深くため息をついて、心底呆れていた。我ながらいい加減であると。

 そんな時、寝ているジンの姿が透けていく。

 

「おっと、そろそろジンが起きるみたいだね。私も目覚めないと」

 

「やれやれ、今回も無駄に終わったな。次回が無ければ良いんだが」

 

「ふふっ、貴方もジンの事を気にしているんだね」

 

「当然だろ。もし俺が表層して自殺に走ったら、霊夢が悲しむからな」

 

 そう言って、夢ジンは消え去っていった。現実の世界では夜が明け、新しい一日が始まろうとしていた。

 

――――――――――――――――

 

 早朝の博麗神社。その母屋にある自室でジンは目を覚ました。

 夢を見ていたのだが、内容が思い出せない。そういった日に限って体の調子がとても良い。

 

「すぅ……すぅ……すぅ……」

 

 そういった日には、必ずといってこいしが布団に潜り込んでいた。恐らく無意識のせいであろうと、ジンはあまり気にしなかった。

 

「……ありがとう」

 

 理由は分からないが、何故かそう言いたくなった。

 こうしてジンは、何も知る事も無く、日常を過ごすのであった。

 

――――――――――――――――

 

オマケ

 

ジン(本編)

種族 人間(夢の元住民)

能力 軌跡を視る能力

   鬼人になる能力

 

 本編の主人公である彼は、元々は夢世界の住民。霊夢との出会いが切っ掛けで、本物と入れ替わるように表に現れた。

 元々は、ジン(本物)が抱いていた自分の理想像であったが、幻想郷で生活するようになってから人間に近づきつつある。

 

ジン(自殺願望)

種族 ドッペルゲンガー

能力 自殺(ジン限定)させる能力

 

 かつてジン(本物)が抱いていた自殺願望が形となって現れ、ジン(本編)を殺そうと行動する。

 しかし、戦闘能力を一切持たない為、簡単に妨害されてしまう。これは、ジンが根本的に抱いている自殺への忌諱が要因となっている。

 そして本人も、ジン(本編)の殺害には乗り気もやる気もない。ただ、与えられた役割を演じているに過ぎない。

 

 

ジン(本物)

種族 夢の住民

能力 不明

 

 家族を失って絶望したいた所を霊夢と出会い、そこでジン(本編)と入れ替わった。

 入れ替わったの本人の意思であり、本人は元の体に戻るつもりは更々なく、深層心理でジン(本編)の行動を静かに見守っている。

 何故入れ替わりをしたのかは、彼の心中しか知り得ない。

 

古明地こいし

種族 サトリ

能力 無意識を操る能力

 

 無意識の力を持った妖怪。当初はまったく使いこなせていなかったのだが、異変を通して徐々に使えるようになっていった。

 ジン(自殺願望)とジン(本物)を知る唯一の人物であり、影ながらジン(本編)を守っている。

 自分の夢を見る事はないが、他人の夢を見る事は出来る。

 

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