東方軌跡録   作:1103

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今回はオリキャラが出ます。
理由としては、当初椛を対戦相手にしようと考えたのですが、下っ端にそんな重要なことを任せるのだろうか?と考え、彼女の上司をオリキャラで出すことにしました。



天魔大局将棋 後編

大部屋に到着すると、そこには一辺一メートル以上ある将棋盤があり、その上には、八百以上の駒が置かれていた。

 

(予想はしていたが、間近で見ると凄いな・・・)

 

将棋盤を眺めていると、向こうから対戦相手がやって来る。そのすぐ側には、椛が付き添っていた。

 

「・・・・・・」

 

(もしかして、対戦相手は椛の上司か?)

 

「初めまして、私は楓と申します」

 

「初めまして、ジンだ」

 

「噂は色々と聞いています。今日は、よろしくお願いします」

 

そう言って、楓は将棋盤の前に座った。

ジンも、同じように座る。

付き添いの早苗と椛が観客席に座ると、いよいよ対局が始まる。

 

「各持ち時間は九時間となります。

それでは、よろしくお願いします」

 

「「お願いします」」

 

記録係りの言葉を合図に、天魔大局将棋が開始された。

 

 

勝負が始まって数十分が経過していたが、未だに序盤戦を繰り広げていた。

 

「なんとも・・・地味な戦いですね・・・」

 

観客席にいる早苗は、素直な感想を呟いた。

 

「仕方あるまい、通常では考えられない数と種類、盤の大きさだからな。一日じゃ終わらないだろう」

 

「まあ、気長に見守るしかないよ」

 

そんな事を話している一方、ジンと楓はルールブックを読みながら、将棋を指していた。

ルールブックを読みながら打ち姿は、とてもシュールであった。

 

 

それから数時間が経過した。

取った駒は数十個になるが、盤上には未だに無数の駒が存在していた。

 

「何だか、あまり進展していない気がします・・・」

 

「そうだね、敵陣までの距離が普通より長いから、歩みたいに一マスずつしか動けない駒は時間が掛かるしね」

 

「かと言って、何マスも動ける駒や特殊な動きの駒を前線に出しすぎると、終盤が辛くなる。

普通の駒と違って、取った駒は使えないからね」

 

「流石に、取った駒を使えたら終わりませんよ・・・」

 

「どちらも、最初は駒を減らす事に専念しているみたいだね」

 

こうしてその日は、お互い敵陣に踏み込めないまま、終わりを迎えた。

 

―――――――――――

 

二日目、勝負は朝から始まるが、依然と敵陣に踏み込めない状態が続いていた。

 

「勝負は未だ膠着状態が続いているようね」

 

文はメモを取りながら、勝負の様子を見ていた。

一方椛は、やや心配そうにしていた。

 

「やはり、時間が掛かりそうですね」

 

「そりゃそうよ。天魔様が気紛れで作ったトンデモ将棋なのよ。

いくら長くやろうと言っても、これはやり過ぎね」

 

「それをやるジンと楓様が可哀想ですよ・・・」

 

「楓は推薦だから仕方ないわ。でも、ジンの方は守矢が巻き込んだのでしょう」

 

「まったく! 守矢の人達はジンを巻き込み過ぎです!」

 

「まあ、ジンの場合は自分から首を突っ込んだのでしょう」

 

「まったく、あの人は・・・」

 

「彼はじっとしていられない人間なのよ。

そのおかげで、ネタには困らないのよね~♪」

 

「隠し撮りは程々にした方が良いですよ。あ、動きましたよ!」

 

二日目になって、ようやくジンはようやく敵陣に切り込んだ。

 

「ようやく敵陣に来ましたね」

 

「ええ。ですが、勝負はここからよ」

 

ジンの切り込みが切っ掛けになり、次々と敵陣に入ったり入られたりと、ようやく将棋らしい戦いとなった。

駒が次々と、盤上から消え、残る駒も三分の一にまで減って行った。

 

 

そしてその夜、遂に勝負は佳境を迎える。

 

「王手!」

 

「くっ・・・」

 

開始から初の王手を繰り出したのは楓の方だった。彼女の駒が、ジンの王将を追い詰めた。

 

「あやや! これはきつい一手ね!」

 

「流石にこれは難しいですね・・・」

 

「神奈子様! 諏訪子様!」

 

「これは不味いな・・・」

 

「うーん・・・」

 

初の王手に観客達はどよめく。そんな中ジンは、必死に活路を見いだそうとしていた。

 

(どうする? これじゃ、逃げても直ぐに捕まる。かと言って、持ち駒が使えないから、受ける事も出来ない・・・)

 

ジンは長考に陥り、時間だけが過ぎて行く。すると――――。

 

「時間になりましたので、今日はここまでとさせて頂きます」

 

記録係りの声で、安堵のため息を吐くが、状況は変わらず追い詰められていた。

早苗は心配そうな表情をして、ジンの側に駆け付けた。

 

「ジンさん・・・大丈夫ですか?」

 

「首の皮一枚繋がっている状態だな」

 

「何とかなりそうですか?」

 

「わからんが、考えるだけ考えるつもりだ」

 

「私に出来る事があれば、何なりと」

 

「それじゃ、夜食を頼む」

 

「承知しました! 飛びっきりのを作りますから!」

 

そう言うと、早苗は足早にその場を後にした。

早苗がいなくなると、神奈子と諏訪子がやって来る。

 

「それで? 実際はどうなの?」

 

「かなり不味いな、どう考えても数十手で完全に詰まれる」

 

「そうか・・・それだったら無理しなくて、投了しても良いんだよ? あんたは十分にやってくれたんだから」

 

「いや、最後の最後まで足掻くさ

案外、奇跡が起きるかも知れないしな」

 

そう言ってジンは、控え室に向かった。

明日の戦いで、勝利を掴む為に。

 

―――――――――――

 

三日目、この日は新聞を読んで興味を持った様々な妖怪達が観戦に来ていた。

その中には、霊夢と魔理沙の姿もあった。

 

「あら? 霊夢さんに魔理沙さんじゃないですか」

 

「暇だから、来たんたぜ。

まあ、霊夢は心配で見に来たみたいだが」

 

「余計な事は言わないでちょうだい魔理沙。それよりどんな感じなの?」

 

「劣勢・・・ですね。完全に後手に回っています」

 

そう言って、観客用のボードを見る。

そこには、今の戦況がわかるように解説をされていた。

 

「うわぁ・・・よくこんなのやれるな、私だったらごめんだな」

 

「あんたの場合、普通の将棋すらやらないじゃない」

 

「そりゃそうだ。あんなチマチマしたゲームより、単純明快な弾幕勝負の方が良いぜ」

 

「魔理沙さんらしいですね・・・」

 

「そうね、乱暴者の貴女には知的ゲームは似合わないもの」

 

「誰だ失礼な奴は―――って、レミリアか」

 

そこに、レミリアと付き添いの咲夜の姿があった。

 

「こんにちは三人とも、勝負はどんな感じ?」

 

「ジンが劣勢よ」

 

「ふーん」

 

レミリアは興味深そうにボードを見ると、興味を無くしたように踵返す。

 

「帰るわよ咲夜」

 

「はい、お嬢様」

 

「何だよ、もう帰るのか?」

 

「結果が見えている勝負には興味無いもの」

 

「それって、ジンさんが負けるって事ですか?」

 

早苗がそう聞くと、レミリアはクスクスと笑い出す。

 

「誰もジンが負けるとは言っていないわ。

そうね・・・後少しで、見物になるわよ」

 

それだけ告げると、レミリアと咲夜は帰ってしまった。

 

「あいつら何しに来たんだ?」

 

「さあ・・・? あ!」

 

レミリアに気を取られている間に、楓は再び王手を繰り出していた。

 

「もう逃げ場がありません!」

 

「これは勝負あったか?」

 

「ジン・・・・・・」

 

楓の絶妙な王手に、誰もが勝負は決したと思った。ただ、一人を除いて――――。

 

「これを待っていた! 王手!」

 

「「「ええ!?」」」

 

ジンの一手に、誰もが騒然した。

自軍の王将が詰まれている状態で、相手の玉将に王手を掛けるなんて、前代未聞だからである。

これには、楓はすぐさま抗議する。

 

「ま、待ちなさい! 貴方、王手されているのよ!?

そんな非常識な一手、認められないわ! 将棋を侮辱している!」

 

楓の抗議に、他の天狗達も同調した。しかしジンは表情を変えずに、ある事実を告げた。

 

「確かに、普通の将棋なら俺は既に負けている。次の一手で、王将を取られてしまうからな」

 

「だったら――」

 

「だが、これはいつもの将棋ではない、天魔大局将棋だ。これには一つの特殊ルールがある」

 

そう言って、とあるページを開く。そこに書かれていたのは――――。

 

「“王将が取られ場合のみ、子将は王将に成る事が出来る”つまり――――」

 

「勝負はまだ決していない・・・!?」

 

「そうだ、そして俺の子将は王将の反対側で、更にお前の方は既に子将を取られている」

 

「くっ・・・・・・」

 

いつの間に形勢が逆転されている事に、動揺する楓。

彼女は仕方なく、玉を逃がす一手を繰り出す。

もちろん、これを素直に見逃すジンではなかった。

 

(このまま一気に!)

 

ジンは畳み掛けるように攻撃を開始した。

一方楓の駒は、その殆どが敵陣に向かってしまい。本陣が手薄な状態であった。

一手一手追い詰められていき、やがて――――。

 

「・・・・・・ありません」

 

こうして、長く果てしない天魔大局将棋は終わりを迎えた。

 

―――――――――――

 

天魔大局から数日後、博麗神社はいつも通りの日常に戻った―――筈であった。

 

「王手!」

 

「・・・・・・ありません」

 

「また私の勝ちね♪」

 

縁側ではジンと楓が何故か将棋を指していた。

 

「さて、もう一勝負ですよ」

 

「まだやるのか!? かれこれ十局はやっているぞ!」

 

因みに、十局中全て楓の勝利で終わっている。

 

「まだです。あと九十はやらないと、私の気が収まりません!」

 

「勘弁してくれ・・・」

 

彼女が博麗神社にまで押し掛けて、ジンに将棋を挑むのは単に、天魔大局将棋で負けた腹いせである。

彼女いわく――――。

 

『負けたのはいつもの将棋ではなかったからだ!』

 

との事である。

こうしてジンは再び楓と将棋をさすの事になった。

 

(二、三局で満足すると思ったが・・・余程負けたのが悔しかったのか・・・。

ああ霊夢、早く帰って来てくれないか・・・)

 

用事で出掛けている霊夢の帰りを心待ちしながら、ジンは楓ともう一局するのであった。




今回出た天魔大局将棋は、実際にある大局将棋と似て非になる物です。
大局将棋がどんな物か、興味がある方は調べてみてください。色々と面白いですよ。
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