ネットで調べてみたら、巫女がやる舞があるらしいので、それを題材にしてみました。
夏の終り頃、人里は夏祭りに向けて準備をしていた。
そんななか、ジンは屋台の店の配置等を取り仕切っていた。
「ミスティはこの場所な」
「え~、希望していた場所と違うじゃない」
「そこはすまん。だが、ここもそんなに悪い場所では無いだろ?」
「まあ・・・ね」
「それと・・・リグルには悪いけど、虫すくいは食べ物関係が集中しているここはダメだ。
少し離れるが、ここなら大丈夫だ」
「少し残念だけと、仕方ないよね・・・」
「サニーはここ、ルナはここ、スターはここだ」
「うわ・・・みんなバラバラね」
「今回は屋台が多いからな・・・悪いが我慢してくれ」
ジンは次々と場所を指定する。
なるべく本人の希望通りにしようと努力はするが、なかなか上手くいかず、妥協案を出すしかなかった。
一段落すると、次は夏祭りの舞台を視察する。
舞台の製作は、萃香に任せているのだが――――。
「いよ~ジン、飲んでるか~?」
「飲んでるか? じゃない! 舞台の製作はどうした?」
「ん~八割ぐらいは出来ていると思うよ~」
「ほう、どれどれ―――」
ジンが萃香が作った舞台を見る。
それはもう、かなり独創的で、とても夏祭りの舞台とは思えない程禍々しいものであった。
「・・・作り直し。あと、出来るまで酒は禁止」
「ええー!」
「当日までに、ちゃんとした舞台が出来なかったら、もう萃香に博麗酒はやらんし、売らないからな」
「そ、そんなー!」
「だったらちゃんとやる。良いな?」
「はーい・・・」
萃香は渋々、舞台を立て直し始めた。
それを見届けたジンは、次の場所へと向かう。
―――――――――――
全ての打ち合わせを終えたジンは、神社に帰って来ていた。
すると境内では、霊夢が巫女舞を練習している最中であった。
「違う! 違う! ただ舞っているだけじゃダメよ」
霊夢の舞を見ていた紫が、手を叩きながら霊夢の舞を止めさせる。
「いい? この舞は、ただ舞うだけじゃ駄目なの。
敬意をはらい、感謝の気持ちを持つように」
「・・・それって誰にするのよ?」
「それはもちろん、この幻想郷そのものよ。
歴代の巫女達は、感謝と敬意の気持ちを持って、この舞を舞っていたのよ」
「あーはいはい、どうせ私には、感謝も敬意も無いわよ」
「まったく・・・今日はここまでにしましょう。彼が帰って来たみたいだし」
そう言って、ジンの方へと振り向く紫。
そこで霊夢もジンがいる事に気が付き、ばつ悪そうに顔を背けた。
「それじゃあジン、後は任せるわよ」
それだけ告げると、紫はスキマに入って行った。
ジンは、霊夢のそばまで近寄る。
「お疲れ、とりあえず風呂か?」
「そうね、もうくたくたよ」
「わかった。準備をして来るから、部屋で休んでいてくれ」
「え? いいの?」
「ああ、霊夢ほど疲れていないから大丈夫だ」
霊夢は、それは嘘だと思った。
ジンは、朝からずっと祭りの準備に追われていたのだ。きっと疲れているに違いないと。
だが、それでも自分の事を案じてくれていることに、霊夢は嬉しく思い、素直に好意を受け取る事にした。
「・・・それじゃあ、お願いしようかしら」
「わかった。出来たら呼ぶからな」
ジンはそう言って、風呂場へと向かった。
霊夢はジンの言葉通りに、風呂の準備が終わるまで、部屋で休む事にした。
―――――――――――
風呂の準備が終わり。霊夢は、疲れを癒す為に風呂に入り、ジンは外から薪をくべながら、湯を沸かしていた。
「湯加減はどうだ霊夢?」
「良い感じよ。う~ん、動いた後の風呂は格別ね♪」
「それは良かった」
「でも、どうせなら温泉が方が良かったわ。・・・潰すんじゃなかった」
かつて博麗神社には温泉が湧いていた。
それは、とある異変の時に湧き出た物である。
かつて霊夢は、それを利用して、参拝客を呼び込もう画策した。
しかし、当時飽き性の彼女は、温泉をまったく管理せず、温泉は荒れに荒れて、とうとう潰してしまったのである。
「なんて勿体ない事を・・・・・・」
「だって、参拝客は全然来ないし、温泉は汚くなるし、あまつさえ異臭もして来たのよ。
とてもじゃないけど、耐えられないわ」
「ちゃんと管理をしていなかったせいだろ。しかし・・・着眼点は悪く無いと思うぞ」
「でしょ♪でしょ♪ 今ならそれなりに当たると思うわ」
「そうだな、一度考えてみるのも良いかもな。
だけど、今は夏祭りに集中しないと」
「わかっているわよ」
霊夢は、何処か楽しそうであった。恐らく、温泉の案が気に入ったのだろうと、ジンは思った。
「なあ、話が変わるが、どうして急に舞なんてやろうと思ったんだ? 去年はしなかったのに?」
ジンがそう聞くと、霊夢はとても言いづらそうであった。
「その・・・大した理由じゃないわよ。ただ―――」
「ただ?」
「・・・私も、少し頑張ってみようかなって思っただけ」
「霊夢・・・」
「あ~もう! 何言ってんのよ私は! この話はおしまい!」
よほど恥ずかったのか、霊夢は湯船に顔を沈める。
ジンは、霊夢の心境の変化に嬉しく思いながら、薪をくべるのであった。
―――――――――――
祭りが近づくなか、霊夢の舞の練習は段々と激しくなっていた。
しかし、やればやるほど、霊夢の舞の出来まえは良くなっていった。
(流石は霊夢ね・・・僅か短期間でここまで上達するとは・・・普段の修行も、これぐらい頑張って欲しいわ)
「どう紫?」
「ええ、かなり上手くなっているわ。これなら、本番でも大丈夫よ」
「そう? いまいち実感が湧かないんだけど?」
「そういうのは、全てを終わらせて初めて実感出来るものなのよ」
「そういうものなの・・・?」
「そういうものなのよ」
霊夢はいまいち納得出来なかったが、考えても仕方ないので、練習を再開した。
その際に、紫がある事を聞いてきた。
「ところで、一体どういう風の吹き回し? 今までやらなかった舞を、突然やるなんて」
その言葉を聞いた霊夢は舞を止め、少々うんざりしなながら、紫に向き直った。
「あんたもそんな事聞くの?」
「あら? 誰だって、疑問に思うわよ。
嫌いな言葉が努力と頑張るの貴女が、こうして誰かに言われるまでも無く、巫女舞の練習をしているなんて」
「べ、別に良いでしょ! 私だって、頑張る時は頑張るのよ!」
「貴女が頑張る時は、必ず利がある時よね・・・目当てはジンかしら?」
「な、何を言ってるのよ! そんな訳ないでしょ!」
霊夢は大きな声を上げて否定するが、紫はニヤリと笑う。
「あらあら、別に誤魔化さなくたって良いじゃない♪」
「だから違うって言っているでしょ!」
「愛しの彼に、良いところを見せて、好感度アップしようなんて、可愛いところあるじゃない♪」
「~~~~!! 夢想封印!」
霊夢は耐えきれず、紫に夢想封印を放つが、紫はそれを軽々とかわした。
「怖い怖い、ちょっとからかっただけじゃない」
「うっさい! これ以上言うと、本気で退治するわよ!」
「本当、怖い巫女ね・・・。
これ以上やると、本当に退治されそうだから、今日はこれまでにするわ。ちゃんと練習するようにね」
それだけ告げると、紫はスキマに入っていった。
霊夢はしばらく息を切らしていたが、息を整え、やがて顔を赤らめた。
「別に・・・そんなんじゃない・・・・・・」
霊夢は、誰もいない境内で、小さく呟いた。
―――――――――――
祭り当日。
人里は、人や妖怪で溢れていた。
そんな中ジンは、自警団の一人として、見回りをしていた。
「活気があって良いな。やはり祭りはこうでなくては」
しばらく歩いていると、レミリア、フラン、咲夜の三人が型抜きをしているところを見つける。
「あ、失敗しちゃった・・・・・・」
「うー・・・・・・これで十回目・・・」
慣れない型抜きで、悪戦苦闘するレミリアとフラン。
一方、咲夜は慣れた手付きで綺麗に型を抜いた。
「出来ましたわお嬢様、妹様」
「流石は咲夜♪ 私の自慢の従者だわ」
「すっご~い♪」
「それほどではありません」
咲夜は謙虚にそう言った。
そして、景品を貰おうとした時、そこで問題が起きる。
「カップよカップ! 貰うとしたら、あのコーヒーカップよ!」
「ぬいぐるみ! ぬいぐるみの方が可愛いよ!」
レミリアとフランはどの景品を貰うかで、揉め始めてしまった。
もし吸血鬼二人がここで暴れてしまえば、大惨事になるのは明白。ジンは慌てて止めに行こうとしたが――――。
「お嬢様、ここは妹様にお譲り下さい。
あのカップでしたら、私がもう一度やってとりますから」
「うー・・・・・・咲夜がそう言うのなら、今回は譲るわ・・・・・・」
「わーい♪ ありがとう咲夜♪」
レミリアは咲夜の言葉を素直を聞き、フランに景品を譲った。
(流石は咲夜だな。これなら、心配は要らないだろう)
ジンはそう思い、他の場所へと移動する事にした。
―――――――――――
ジンが次に向かったのは射的屋であった。
いや、正確には怪しいと踏んで、調べに来たのである。
「それは心外だね。こうして、清く正しく商売しているのに」
「どの口がいうだよそれ。
あと、その台詞は射命丸のだ」
ジンはてゐに対して容赦無く言う。
彼女が出している時点で、この出店は怪しさ満載なのだ。
「と言うか、なんでお前がここで店を出しているんだ? 俺の記憶が正しければ、別の奴の場所だったはず」
「ああ・・・ちょっと頼んだら、快く譲ってくれたよ」
「・・・・・・まさか、騙していないよな?」
「失敬な、ちゃんと交渉して譲って貰ったんだよ」
(さっき、快く譲って言わなかったか?)
そう思いながら、出店の様子を観察する。
一見すると、ちゃんとした射的屋で、鉄砲の方も普通のコルク銃で、細工等は見受けられなかった。
しかし、ジンはある事に気が付いた。
「・・・てゐ、景品を調べさせて貰うぞ」
「駄目うさ」
「なぜ?」
「特に理由は無いけど、駄目うさ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人はしばらく睨み合うが、ジンはため息をついて言う。
「わかった。その代わり、一回やらせてくれ」
「良いよ。一発一銭だよ」
ジンはてゐに一銭銅貨を手渡し、鉄砲を受け取る。
景品の中で一番小さい物を狙い打つ。コルクは景品に当たるが、一切微動だしなかった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「悪いが調べさせて貰うぞ」
「営業妨害うさ~!」
てゐは景品を調べようとしたジンを止めようとするが、ジンはそれをかわし、景品を手に取ろうとした。
「こ、これは・・・」
景品はピクリとも動かなかった。
そこでジンは気づく、景品全てに接着剤で固定されている事に。
「・・・・・・」
「・・・・・・うさ♪」
「そんなんで誤魔化せるか」
結局、てゐの射的は悪質と判断され、屋台を畳ませる事になった。
―――――――――――
ジンが見回りをしていると、偶然にも華仙とばったりと出くわした。
「あら、ジンじゃない」
「華仙か、どうやら祭りを満喫しているようだな」
華仙は頭にお面、両手の袋には、屋台の食べ物や景品が大量に入っていた。
「べ、別に良いでしょ、私だって、祭りを楽しみたいですから」
「別に悪いとは言っていないだろ。楽しんでいて、なによりだ」
「そう言う貴方は一体何を?」
「自警団の仕事を手伝っているんだ」
「ああ・・・確かに、こういう祭りの時は、トラブルが起きやすいのよね」
「そうなんだよ・・・って、言っている側から!」
ジンは人だかりを見つける。
人だかりは、十中八九トラブルが起きている証拠である。
「私も行くわ」
「助かる」
ジンと華仙は人だかりの方へと走って行った。
華仙の活躍により騒ぎは収まり、祭りは無事に続けられていた。
「ありがとうな華仙、おかげで助かった」
「いいえ、仙人として当然の事をしたまでよ」
「それにしても、流石は仙人だな。よく説き伏せれたな」
「まあ・・・原因があまりにもくだらなかったから、つい熱が入っちゃったわ」
二人がそんな話をしていると、人々が里の広場に集まって行った。そこでジンは、ある事を思い出す。
「そうか、もうすぐ霊夢の幻想綺想舞が始まるんだった」
「え? 霊夢が舞をするの?」
「ああ、確か広場の舞台で披露するんだった。
俺は行くが、華仙はどうする?」
「・・・そうね、私も行こうかしら」
「それじゃ、一緒に行くか」
二人は、他の人々同様に、里の広場へと足を運ぶのであった。
広場に到着すると、そこは人や妖怪で溢れていた。
その中央には、萃香が建てた舞台と、その上には霊夢が立っていた。
「何とか間に合ったか・・・」
ジンと華仙は、舞台からやや遠い場所で見ていた。
しばらくすると、霊夢が音楽と共に舞始める。
ゆったりと流れるように、それは穏やかな水面を連想させるものであった。
その舞に、誰もが魅了されていた。
「あの霊夢が・・・・・・」
「・・・・・・綺麗だ」
霊夢の舞を見て、華仙は素直に驚き、ジンは見惚れていた。
その間も、霊夢は舞続けた。
そして、舞は最後の瞬間を迎える。
「――――ふう」
霊夢は舞終わり、観客達に御辞儀をする。すると観客達は霊夢に盛大な拍手を送くられた。
―――――――――――
祭りが無事に終わり、ジンと霊夢は帰路についていた。
「うぃ~もうのめな~い・・・・・・」
「おい、しっかりしろ」
あの後、打ち上げと表して、霊夢は大いに酒を飲み、ベロベロに酔っていた。よほど酒が回っているのか、普段では絶対に言わない事を言言い続けていた。
ジンは、そんな霊夢を支えながら、夜道を歩いていた。
「まったく、飲みすぎだ。いくらなんでも羽目を外し過ぎ」
「べつにいいでしょ~、ずっとがんばったんだからー、すこしはねぎらってよー」
「わかった、霊夢はよく頑張った。偉いぞ」
「えへへ」
霊夢はジンの言葉で機嫌をよくしたらしく、嬉しそうに笑う。
それからしばらく歩くと、突然霊夢は、岩に腰をかけた。
「おい霊夢、こんなところで座るなよ」
「だってー、つかれたんだもん」
「後少しで神社に着くんだから、もう少し我慢しろ」
「ぶぅー、すこしはやさしくしてもいいじゃないー」
霊夢は頬を膨らませながら、立ち上がろうとはしなかった。
このまま放置する訳にもいかず、ジンは霊夢に背中を見せて腰を落とす。
「ほれ、神社までおぶってやるから」
「ありがとう♪」
霊夢は躊躇無く、ジンの背中に乗った。ジンは霊夢をしっかり背負い、再び夜道を歩き出した。
「うふふ♪ らくちん♪ らくちん♪」
「やれやれ・・・」
上機嫌な霊夢をよそに、ジンは歩き続けた。
しばらく会話がなかったが、ふと霊夢が話し掛けて来た。
「ねえ・・・? わたしのまいはどうだった?」
「どうだったって?」
「ほらあるじゃない、すごいとか、うまかったとか」
「・・・・・・そうだな」
ジンは少し恥ずかしいかったが、霊夢に素直な感想を伝えた。
「・・・綺麗だった。俺が知る限り、一番輝いていたと思う」
「・・・・・・」
「霊夢?」
「スー・・・・・・スー・・・・・・」
「なんだ、寝たのか・・・仕方ないお姫様だ」
そう呟きながら、ジンは神社に向かって歩いて行った。
こうして、今年の夏は終わりを告げた。