博麗神社の縁側で、遊びに来ていた魔理沙は出された煎餅をかじりながら言う。
「そういや、もうすぐ河童のバザーが開かれるらしいぜ」
「あら? そう言えばそんな時期ね」
霊夢は適当に相槌をする。どうやらあまり興味が無いらしい。
そこに、お茶を持って来た妖弧が、バザーについて詳しく聞こうとした。
「河童のバザーって、なんですか?」
「ああ、河童達が定期的に行っているやつだ。いろいろ珍品とか売っているぜ」
「へえ~なんかおもしろそうですね」
「だったら、今度ジンに連れて行って貰いなさい」
「ジンさんに?」
「あいつもバザーに参加するからよ。
今日は確か、バザーに出す品を香霖堂に仕入れに行っているはずよ」
「それって・・・バザーと言えるんでしょうか?」
「大丈夫じゃないか? あそこはいつも不用品で一杯だからな」
「はあ・・・・・・」
やや釈然としないかったが、取り合えず妖弧は、二人にお茶を差し出す事にした。
―――――――――――
一方ジンは、香霖堂でバザーに出す物を仕入れていた。
「これなんかどうかな?」
「状態は良いな。いくらだ?」
「五円でどうかな?」
「高い、確かに状態が良いが、かなりの旧式だ。八十銭で良いだろ」
「いくらなんでも値引きし過ぎだよ。四円でどうかな?」
「どうせ、置く場所に困っているんだろ? 一円でどうだ?」
「駄目だね、四円。これ以上下げられないよ」
「それじゃ四円で良いが、それとそれでセットにしてくれないか? どうせ誰も買わないんだろうし」
「仕方ないな・・・四円五十銭で良いよ」
「せめて四円二十五銭で」
「四円三十銭、これで駄目なら売らないよ」
「わかった、それで買おう」
ジンはパソコン数台を四円三十銭で購入した。
幻想郷では、使いようが無いパソコンであっても、河童達には宝なので、高く売れるのだ。
他にも何か無いかと、店内を見て回ると、“それ”を見つけた。
ジンはそれを、懐かしそうに手に取る。
「アイポか! 懐かしいな・・・・・・」
アイポとは、199X年に開発、販売された犬型ペットロボットである。
定価25万にも関わらず、何千体も売れたという人気ロボットであった。
しかし、200X年に製造中止、今では手に入れるのは難しいと言われる幻のロボットである。
しかし、幻想入りした道具の大半が、壊れて動かないか、電気が無いまたは電池切れで動かないのが殆どである。
このアイポも例外ではなかった。
「霖之助、これの充電器は無いのか?」
「残念だけど、見つけたのはそれだけだね」
「そうか・・・それじゃ、動かないか」
少し残念そうにジンはあった場所に戻そうとする。
その時、ある事を思いつく。
(にとりに見せてみるか、もしかしたら何とかしてくれるかも知れないし)
ジンはアイポを戻すのを止めて、買うことにした。
「霖之助、これはいくらだ?」
「そうだね・・・充電器というのが無いから、少し安めで・・・六円でどうだい?」
「そんなんで良いのか?」
「いつも贔屓になっているからね。ほんのサービスだよ」
「それじゃ、ありがたくもらっておく」
ジンはアイポを格安で譲り受け、その日は神社に帰ったのであった。
―――――――――――
「それで? そんなガラクタを買ったってわけ?」
今までの経緯を聞いていた霊夢は、呆れながらジンが買って来た動かないアイポを見た。
彼女からしてみれば、無駄な買い物だと思っているようだが、ジンは違った。
「霊夢、確かにこのアイポは動かないけど、かなり凄い。
ロボット工学に革命をもたらしたんだ」
「あーはいはい、それは凄いわねー」
霊夢はまったく持って興味を抱かなかった。彼女にとって、アイポは単のガラクタでしか無いのだからである。
すると、晩御飯を作って持って来てた妖弧が―――。
「ところで、ロボットって何ですか?」
興味を持ったのか、ジンに聞いて来た。
「ああ、そう言えば妖弧は知らなかったな。ロボットってのはだな―――」
ジンは妖弧に、ロボットについて説明を始めるが、イマイチ理解出来なかったようだった。
「えっと・・・ようは式神みたいなものですかね?」
「式神?」
「だってそうじゃないですか、与えられた命令をこなす。まさに式神そのものですよ」
妖弧の言葉に、ジンは藍の言葉を思い出した。
『式神は方程式そのものなんだ。
だから式をしっかり作れば、その式神の性能は良くなるし、逆に下手に作れば悪くなるからね』
式神の方程式、それはロボットのプログラムに通じる物があった。
単純なプログラムなら、大した動作しか出来ない。逆に、高度なプログラムならば、動物の動作や、高度な情報処理が可能となる。
(そう考えると、あながち間違いでは無いかも知れないな)
ジンは妖弧を見つめながら、そんな事を考えていると、妖弧の顔が赤くなっていく。
「えっと・・・何か顔についてますか?」
「ん? いや、何でもない。ただ――」
「ただ?」
「窮屈じゃないかなって思っただけだ。紫や藍みたいに、出来た式じゃないからな」
ジンが作った式は、紫や藍に比べればお粗末な物であった。しかし結果としては、管狐の能力を封印する事に成功したのだが、やはり窮屈な思いをさせているんじゃないかと、思う時があった。
そんなジンに、妖弧は微笑みを返した。
「確かに、窮屈に感じる時はありますが、私は気にしていませんよ。むしろ感謝しています。貴方のお陰で、私はここにいられるのですから」
「妖弧・・・・・・」
「ちょっと、なに私の存在を無視しているのかしら?」
我慢の限界と言わんばかりに、霊夢は妖弧の尻尾を強く握った。
「痛い! 痛いですよ霊夢さん!」
「あんたは私の式神なのよ? その辺を忘れてもらっちゃ、困るわよ」
「え? 私はジンさんの―――」
「聞こえなかったかしら?」
「い、いえ! 私は霊夢さんの式神です!」
「わかればよろしい」
妖弧の言葉に満足したのか、霊夢は尻尾を離す。
余程痛かったのか、妖弧は握られた尻尾を撫で始めた。
「おい霊夢、動物虐待は良くないぞ」
「あら、これは躾よ。言うことを聞かない式神には、こういった折檻が必要って、紫は言っていたわよ」
「そ、そうか・・・・・・」
紫の意外な一面に、思わずたじろぐジン。もしかしたら、藍も紫から折檻を受けているんじゃないかと想像してしまった。
(・・・・・・これ以上、考えない方が良いな)
そう思い、明日バザーに出す品物のチェックを始める。
そんな様子を見ていた霊夢は、呟いた。
「それにしても・・・よくそんな粗大ゴミを買うわね」
「確かに粗大ゴミだが、河童達には好評だぞ」
「売れるんですか?」
妖弧は思わずそう聞いた。するとジンは頷きながら答える。
「ああ、使い方もレクチャーすれば、喜んで買ってくれるぞ」
「へえーいくら売れるの?」
霊夢は少し興味を示し始めた。
そんな霊夢の問いに、ジンはこの前の時の成果を思い出す。
「そうだな、支出と収入を差し引いて・・・十数円は稼いだな」
「「十数円!?」」
これには二人は驚き声を上げる。そして、今までガラクタに思えた物が、宝の山に見え始める。
「あ、あんた! そのお金は一体どうしたのよ!?」
「ん? 香霖堂のツケを払うのに全部使ったぞ」
「ええ!?」
「もちろん、今度のバザーの売り上げの殆んどは、ツケの払いに消えると思うが」
「そんな~・・・・・・」
その言葉に、霊夢はがっくりと肩を落とす。そんな様子を見ていた妖弧は―――。
(まるで貧乏神と福の神ですね・・・・・・)
そんな事を密かに思うのであった。
―――――――――――
バザー当日、現地では様々な妖怪達がバザーに出店していた。
そんな中、ジンと妖弧は出店の準備をしていた。
「凄い数ですね・・・・・・」
「毎回、これだけの妖怪達が参加しているからな、まさに幻想郷のコミケだな」
「コミケ?」
「いや、何でもない。
それよりも、準備をするぞ」
「あ、はい!」
二人は香霖堂で安く仕入れた物を並べ始める。そして、バザーが開始された。
ジンが出している品の殆んどが外の道具である。
大抵は使い方が分からないのだが、ジンが使い方をレクチャーしてくれるので、外来道具好きの妖怪には大人気である。
「これはどう使うんだ?」
「これは、こうやって―――」
「「「おお!!」」」
「これは一体なんだ?」
「それは―――」
実演も兼ねた商品説明は好評で、売れ行きは好調であった。
「お買い上げ、ありがとうございます。おや?」
「こんにちわジンさん、妖弧さん」
守矢の巫女である早苗がやって来た。彼女はジンと妖弧に挨拶をする。
例によって、バザー巡りの最中であろう。
「こんにちわ早苗さん、バザー巡りですか?」
「はい、ここは珍品、名品の宝庫ですから」
「それは言い過ぎだ。ここにある物より、早苗達がが持って来た物の方が質が良いだろ?」
「いえ、そんな事はありません。例えば―――」
そう言って早苗は、一つの品を手に取る。
「ネオシオポケット! こんなレア物、うちには置いていません!」
早苗は目を輝かせながら、小型ゲーム機を掲げた。
「確かに珍しいが・・・良く知っているな」
「こういうのに目が無くて・・・他にも―――」
早苗は次々と、ジンの商品を手に取る。その殆どがゲーム関係なのだが、ジンは敢えてスルーした。
「あとは・・・・・・こ、これは!?」
早苗はアイポを見つけると、直ぐ様手に取った。それはまるで、新しい玩具を手にした子供のように目を輝かせていた。
「アイポじゃないですか! まさかあの幻のロボット犬に出くわすとは思っていませんでしたよ!」
「あのな早苗、それには―――」
「買います! 幾らで売ってくれるんですか!?」
「いや、だからそれには充電器が―――」
充電器が無い。そう伝えようとするが、早苗は聞き耳を持たずに財布をジンの前に差し出す。
「私の全財産です! どうか売って下さい!」
「いや、だから―――」
「はい♪ 毎度ありがとうございます♪」
伝えようとする間も無く、妖弧は早苗にアイポを手渡した。
その後早苗は、歓喜の声を上げながら、帰って行った。
「おい妖弧、あれには充電器が無いんだぞ?」
「良いじゃないですか、本人も満足そうですし」
「だからってな・・・・・・」
「どうせ手に余る物だったでしょう? それなら欲しがる人に売った方が、互いの幸せの為です」
妖弧はにこやかにそう言った。
いくら式神になったからと言って、本質はそうそう変わらないのだとジンは痛感した。
「お前がそれで良いならいいが、中身を確認してから売るべきだったな」
「え?」
妖弧は早苗が置いて行った財布の中身を確認する。入っていたのは二円札だけであった。
「に、二円・・・・・・」
「守矢の財政は神奈子が管理しているからな。早苗に大金を渡す筈が無いだろ?」
「そ、そんなぁ~」
妖弧は肩をがっくりと落とした。
そんな妖弧を見て、ジンはあることわざを呟く。
「悪銭身に付かずだな」
その後、バザーは何事も無く終わった。
後日、充電器が無いアイポを買ってしまった早苗と、金を確認せずに売ってしまった妖弧は、神奈子と霊夢に怒られたのは言うまでもない