東方軌跡録   作:1103

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ミズナラの御神木

「これは凄い雷が落ちたものだな・・・・・」

 

ジンは裂けたミズナラの木を見て呟いた。

昨夜、大雨が降っており、その時の落雷がここ神社裏のミズナラの木に落ちたのである。

 

「大きなミズナラの木だったんだけど・・・・・流石に落雷にはひとたまりなかったみたいね」

 

「避雷針じゃあるまいし、木なんかに落ちれば一巻の終わりだ」

 

「おーい、二人して何やってんだ?」

 

すると林の向こうから魔理沙がやって来た。

そして、裂けたミズナラの木を見て驚いた。

 

「うわ~これは酷いな・・・・・昨日の落雷でやられたのか?」

 

「ああ、幸いにもそれ以外に被害は出てないけどな」

 

「それにしても、何で高いところに雷が落ちるのかしら?」

 

「俺も詳しい事は知らないが、何でも地面より高い場所の方が、電場が強く、落ちやすいってのを聞いた事がある」

 

「? よく分からんが、高くて目立つから落ちるって事か?」

 

「・・・・・まあ、それでいい。

ともかく、雷は高い所に落ちる性質があって、その性質を利用して、雷避けの避雷針とかは高く設計されている」

 

「へぇ~」

 

「雷避け・・・・・それよ!」

 

「「へ?」」

 

「この木を雷避けの御神木にするのよ!

そうと決まれば、早速準備しなくちゃ!」

 

「お、おい霊夢! 待つんだぜ!」

 

「やれやれ、面倒な事にならなければ良いんだが・・・・・」

 

こうして三人は、裂けたミズナラの木を後にするのであった。

 

 

博麗神社に戻った霊夢は早速、裂けたミズナラの木を御神木にするための準備を始めた。

もちろん、ジンと魔理沙もそれに手伝わされたのは言うまでも無い。

 

「なあ、ミズナラの木を御神木にするのは良いが、参拝客を呼ぶなら、ここを整備しておいた方が良いんじゃないのか?」

 

「それもそうね・・・・・それじゃジンにお願いしようかしら?」

 

「・・・・・まあ、人里から神社の道の整備に比べれば楽な仕事だな」

 

「へ!? あの獣道を整備したのジンなのか!? しかも一人で!?」

 

「アレは・・・・・困難な道程だった・・・・・」

 

「おかげで参拝客が増えたのよね♪

そこの所はジンに感謝しているわ」

 

「・・・・・霊夢はもう少しジン労った方が良いぜ」

 

「労っているわよ。美味しいご飯三食に、暖かい寝床を提供しているのよ」

 

「いや、そうじゃなくて・・・・・・・・」

 

「無駄話はそこまで、ついたわよ」

 

三人は再び、ミズナラ木の元に戻って来た。

霊夢は注連縄を木に取り付けようとした時――――。

 

「ん? ちょっと待ってくれ」

 

「ちょっと魔理沙! 御神木に上らないでよ!」

 

「どうした魔理沙?」

 

「なあ二人とも、これを見てくれ」

 

魔理沙にそう言われ、裂け目部分を見てみる。

するとそこには、新しい枝木が生えていた。

 

「妙だな。こんなすぐに新しい枝木が生えるとは思えない・・・・・」

 

「なあ、本当にこの木に落ちたのか?」

 

「間違い無いと思うが・・・・・」

 

「わかったわ! この木は雷避けじゃなくて、成長祈願に向いているのね!」

 

「「・・・・・・・・」」

 

「あら? 二人ともどうしたの?」

 

「いや、何でもない」

 

こうしてミズナラの木は、成長祈願の木として祀られるのであった。

 

―――――――――――

 

ミズナラの木を祭ってから、一月が経過する頃。霊夢はすっかり木を祀る事に飽きてしまっていた。

 

「霊夢、ミズナラの御神木はどうするんだ?」

 

「ん? 放っておいて良いわよ。

あんまり参拝客がこないんだし」

 

「いやそうじゃなくて、一度祀った以上。巫女として責任を―――――」

 

「それなら、あんたがやれば良いじゃない。

ほら、お供え物」

 

「やれやれ・・・・・そのうち罰が当たっても知らないぞ」

 

こうして飽きた霊夢に変わって、ジンが毎日お供え物を持って行くようになっていた。

そんなある日、いつものようにお供え物を持って来た時の事である。

 

「さてと」

 

ジンはいつも通りにお供え物を置き、二礼二拍手をする。

ジンにはそれしか出来なかったが、それを今日までずっと続けていた。

そして戻ろうとすると、何やら視線を感じた。

 

「ん?」

 

振り返って見るが、そこには誰もいなかった。しかし、奇妙な違和感を覚えたジンは能力を使い、過去の残像を視始める。

するとそこには、うっすらとだか、ジン以外の動きの軌跡があった。

 

「誰だそこにいるのは!?」

 

「え!?」

「わ!?」

「キャア!?」

 

 

そう叫ぶと、突然三人の妖精が現れ、慌ただしく逃げようとするが、一人が転んでしまった。

 

「ルナ!?」

 

「大丈夫!」

 

「いたた・・・・・あ」

 

「妖精? こんなところにいるなんて珍しいな」

 

「「「・・・・・ご」」」

 

「ご?」

 

「「「ごめんなさーい!!!」」」

 

「へ?」

 

すると三人の妖精は土下座して誤りだしたのであった。

 

 

 

「つまり、君達はこのミズナラの木に住んでいて、俺がいつも持って来てくるお供え物に手を出していたと?」

 

「はい、ほんの出来心なんです・・・・・」

 

妖精の一人、ルナチャイルドは言った。

どうやら、お供え物に手を出している事で怒ってると思われているらしい。

 

「何でもしますから、巫女だけには言わないで下さい」

 

ガクガク震えながら言ったのはサニーミルク。

巫女とは霊夢の事らしいが、そうとう怖がられているらしい。

 

「今すぐ出ていきますので、今回だけは見逃して下さい・・・・・」

 

最後に言ったのはスターサファイア。

ジンの目的が、自分達を追い出す事だと勘違いしているようだ。

そこでジンは――――。

 

「待て、別に追い出そうなんて、これっぽっちも考えて無い」

 

「「「え?」」」

 

「元々サニー達が住んでいる木を、こっちが勝手に御神木にしていただけだ。

むしろ、こっちこそ住んでいる木を許可なく御神木にして悪かった」

 

「「「・・・・・」」」

 

予想外の返答に、三妖精は呆気に取られてしまった。

するとルナが、思い出したように言った。

 

「で、でも、私達お供え物を―――」

 

「別に気にしてない。

それに、俺が供えたのは木―――つまりルナ達の家にだから、その所有者のルナ達が食べても問題ないじゃないか?」

 

「そ、そうなのかな・・・・・?」

 

「ああ、それに霊夢も妖精が住んでいてくれた方が良いって、以前言っていたしな」

 

「それじゃ私達、ここにいても良いの?」

 

「大丈夫だろ。霊夢には俺が上手く言っておいてやるから」

 

「「「やったー♪」」」

 

この時の事が切っ掛けで、三人の妖精は本格的なミズナラの木に住み着く事なるのであった。

 

 

それからというもの、お供え物は御神木ではなく、サニー達のお供え物という意味合いが強くなり、時にはこんな要求もして来る時もある。

 

「私は鯉が良い」

 

「私はお酒ね」

 

「ち、ちょっと二人とも、そんな要求しちゃ――――」

 

「ルナは何か無いのか?」

 

「え? えっとそれじゃ――――」

 

どんな要求もジンは快く受け入れてくれるのであった。

 

―――――――――――

 

それが何日か続いたある日の事である。

ジンは風邪を拗らせ、部屋で寝込んでいた。

すると霊夢がお粥と薬を持って入って来る。

 

「まったく、風邪を拗らせるなんて、少したるんでいるんじゃない?」

 

「面目無い・・・・・」

 

「ほら、永林とこの薬とお粥よ」

 

「ありがとう霊夢」

 

「だけど、本当にご利益ないわねあの木。

毎日お供え物を持っているのに、こんな目にあうなんて」

 

「それは違うぞ霊夢。

俺は御利益目当てでやったつもりは無い」

 

「え? それじゃ何のためにやっているのよ?」

 

「前に神奈子達に聞いた話によると。

神は人間の信仰心が無ければ存在出来ないらしい」

 

「? 今の話と何か関係あるの?」

 

「ある。

もう一つ紫から聞いた話だが、どんな物でも一度祀れば、その時点で神が宿ると」

 

「あ――――」

 

「俺は今まで、目に視える物だけしか信じなかった。

神様だって、ここに来るまで空想の存在だと思っていた。けど、それは違った。」

 

「・・・・・」

 

「神様だって存在し、そして生きているという事を知ったんだ。

知った以上、目に視えなくてもそこにいて、生きている。

ミズナラの木の神様だっている筈、産まれたばかりの小さな神様だ。

それはきっと人間の赤ん坊みたいな神様だと思う。

もし、俺があの木を信仰するのを辞めたら、宿ったばかりの神様だって消えてしまう。そうならないように―――」

 

「そうならないように、毎日お供え物を持って行ったの?」

 

「ああ、それが祀ったものの責任だと俺は思う」

 

ジンは迷いなくそう言った。

霊夢は何も言わず、黙ってジンの部屋から出ていった。

 

―――――――――――

 

神社裏のミズナラの木。

霊夢は久々にこの木の前に立った。

以前見た時より、枝木は大きく成長していた。

 

「・・・・・あんな事を言われるとは思わなかったな」

 

「そうね、まるで神主みたいな言葉だと思わない?」

 

すると空間が割け、そこから一人の女性が現れた。

彼女はスキマ妖怪、八雲紫。この幻想郷を創った賢者である。

 

「盗み聞きとは感心しないわよ紫」

 

「あら、私と貴女の仲じゃない」

 

「まったく・・・・・で、何のよう?」

 

「落ち込んでいる博麗の巫女を励まそうと思って」

 

「嘘ね。あんたにそんな事をするとは思えないわ」

 

「あら、落ち込んでいた事は否定しないのね?」

 

「うっ・・・・・」

 

「霊夢。貴女は確かにこの木を祀った。

しかし、貴女は参拝客が増えないという理由で、祀る事を辞めてしまった。

もし彼が居なかったら、この木に宿る神は消えていたでしょう」

 

「・・・・・・・・」

 

「貴女が落ち込んだ理由は、信仰の大切さと重さを、彼に教わったこと。

ここに来るまで、神を信じなかった外来人に教わってしまった事が、貴女は悔しいのでしょ?」

 

「・・・・・ええ、そうよ。

本当に腹が立つくらいに合っているわ。

でもね、私が腹が立っているのは、そこだけじゃないのよ」

 

「それは、彼の在り方かしら?」

 

「ええそうよ。

あいつは自分の幸せより、他人の幸せを優先する。

その結果、自分がどんな目に合っても、それを良しとするところが、私は我慢なら無いのよ」

 

「・・・・・」

 

「だっておかしいじゃない?

人は幸福を求めて生きる筈なのに、それを他にやるなんて、幸福を棄てるなんて、人として破綻している」

 

「ふふ・・・・・」

 

「何よ? 何がおかしいのよ?」

 

「随分と、彼の事が心配するのね?」

 

「当たり前じゃない。あいつがいなくなると、参拝客がこなくなるじゃない」

 

「そういう事にしておくわ。

それと霊夢、貴女は彼に対して思い違いをしているわ」

 

「え?」

 

「彼は、報われない生き方をしていないって事よ」

 

「? どういうこと?」

 

「それは明日になれば分かるわ」

 

それだけ言うと、紫はスキマの中に消えて行った。

残された霊夢は、ミズナラの木をじっと眺めていた。

 

―――――――――――

 

それから明日になり、霊夢はジンの様子を見に行こうと部屋に向かおうとした。

 

「おーい! 霊夢いるかー!」

 

すると、境内から聞き覚えのある声が聞こえた。

霊夢は境内を見ると、そこには魔理沙とサニー、ルナ、スターの三妖精がいた。

 

「どうしたの魔理沙? 朝から妖精を引き連れて・・・・・」

 

「いやなに、私はただの付き添いだ。ほれ」

 

魔理沙は後ろに隠れているサニー達をうながした。

サニー達は恐る恐る、霊夢に籠を差し出した。

中には様々な食物が入っていた。

 

 

「これは?」

 

「あの・・・・・その・・・・・ジンが病気になったって聞いたから・・・・・」

 

「それで、元気になるように精がつく食べ物を取って来ました」

 

「いつもジンには、色々してくれたから、これぐらいしないと思って・・・・・」

 

「あんた達・・・・・・・・」

 

霊夢はサニー達の姿をよく見た。

あちらこちらボロボロの泥だらけで、彼女達がジンの為に一生懸命になって探していた事を物語っていた。

ふと霊夢は、昨日の紫の言葉を思い出す。

 

『彼は、報われない生き方をしていないって事よ』

 

「ふふふ・・・・・紫の言う通りかも」

 

「? どうしたんだぜ?」

 

「何でも無いわ。せっかくなんだし、朝御飯食べていかない?

どうせ、朝御飯食べて無いんでしょ?」

 

「おっ、霊夢にしては珍しいな」

 

「珍しいは余計よ。

それと妖精の貴女達もどう?」

 

「え? いいんですか?」

 

「もちろん、良いわよ」

 

「「「やったー♪」」」

 

こうして博麗神社の朝は、いつもより賑やかになったのである。

この日を切っ掛けに、三妖精と博麗神社の交流が始まり。

霊夢も、少しだけ信仰について考えるようになったのである。




今回の話しは、漫画の東方三月精の話しから来ています。
漫画の方だと、放置されたミズナラの木の神様は、紫の話によると消えてしまいましたが、本小説は消えずに済みます。
もしかしたら、この神様を出すかもしれませんが、あくまで予定です。
今回はシリアスになってしまいましたが、なるべくほのぼのを目指して行きたいと思います。
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