東方軌跡録   作:1103

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茨歌仙四巻発売まで一週間を切りました。
発売が待ちどおしいです。


幻想郷にやって来た海豹

霧の湖の辺りに、チルノ、大妖精、ルーミア、リグル、ミスティアの五人は何やら話し合いをしていた。

 

「うーん・・・どうするのだー?」

 

「私達だけじゃ、どうしょうも無いよ・・・・・・」

 

「歌を歌っても、元気出ないしね」

 

「虫ならともかく、魚の言葉は分からないよ」

 

「あれって魚だっけ?」

 

「わかさぎさんの話によると、違うみたいだけど・・・」

 

「ともかく! このままじゃ、キューちゃんが・・・・・・」

 

「それはわかっているけど・・・・・・」

 

五人は意気消沈してしまう。

そんな中、ミスティアがある事を閃いた。

 

「あっ、それなら頼りになる人がいるじゃない」

 

「え? 誰々?」

 

「ほら、神社に住んでいる――――」

 

「神社って・・・どっちの?」

 

「ええっと・・・どっちだっけ?」

 

「もう、ミスティアは肝心なところが抜けているんだから」

 

「むっ、それならリグルはわかるの?」

 

「分からないよ、神社なんて言ったら、巫女ぐらいしか思い付かないんだし・・・」

 

「巫女なのかー・・・・・・」

 

大妖精を除いた五人は、想像する。

もし仮に、この場所に連れて来て、キューちゃんに会わせたとしたら―――。

 

『あら、デッカイ妖怪ね』

 

『むむ、これは大きな魚の妖怪ですね!』

 

『早速退治するわ』

『早速退治しましょう!』

 

四人は背筋を震わす。

 

「ダメダメ! キューちゃんが退治されちゃうよ!」

 

「そもそも、巫女に助けを求める自体間違っている気がする・・・・・・」

 

「あれ? おかしいな・・・確か困っている妖怪でも助けてくれる人が神社に住んでいる気が・・・・・・」

 

「寺と勘違いしてるんじゃ?」

 

「もしかして、博麗神社に住んでいるジンさんの事?」

 

大妖精の一言に、ミスティアはようやく思い出した。

 

「そう! それよ!」

 

「まあ、あの人なら私達の力になってくれるよね」

 

「そーだなのだー、ついでにお菓子もくれるかもー♪」

 

「良し! 早速連れて来る!」

 

そう言って、チルノは一目散に博麗神社に向かって行ってしまうのであった。

 

「チルノちゃん一人で大丈夫かな・・・・・・?」

 

「大丈夫でしょ、連れて来るだけなら」

 

「うん・・・そうだけど・・・・・・」

 

大妖精は一抹の不安を抱きながら、チルノの帰りを待つことにした。

 

―――――――――――

 

博麗神社の境内を掃除していたジンの元に、チルノが慌ててやって来た。

 

「ジーン! 大変だー!」

 

「チルノか? 一体どうした?」

 

「キューちゃんが元気が無いんだ! どうすればいい?」

 

「んん? キューちゃん?」

 

「そう、キューちゃん。最近元気が無いんだ・・・」

 

「えっと・・・キューちゃんって誰だ?」

 

ジンはチルノにそう聞くと、チルノは怒った表情をする。

 

「キューちゃんはあたい達の友達だよ! そんな事も知らないの!?」

 

「いや、初耳だが」

 

「そうだっけ? まあいいや。それよりも――――」

 

「誰か来ているの?」

 

境内の様子を見に来た霊夢。

霊夢の姿を見たチルノは、何を思ったのか、霊夢に向けて氷柱を放つ。

 

「霊夢!」

 

「キャア!? ちょっと! いきなり何するのよ!」

 

「用があるのはジンだけ! 巫女は御呼びじゃない!」

 

その言葉に、霊夢はカチンと来てしまい。直ぐ様臨戦体勢をとった。

 

「良い度胸じゃない・・・ぐうの音も出ないくらいに叩きのめしてあげるわ!」

 

「上等! さいきょーのあたいが返り討ちにしてやる!」

 

二人は今にも弾幕勝負を始める勢いであった。

それを止めたのは、ジンの言葉であった。

 

「待て! 二人ともそこまでだ!」

 

「何よジン! 邪魔する気!?」

 

「ああ、流石に今回は口を出させて欲しい」

 

「え?」

 

何時もなら、霊夢の横暴を止めるために口を出すジンであったが、今回は違い、チルノに対して物申すらしい。

 

「チルノ、いつもの事とはいえ、霊夢に氷柱をいきなり放つのは許せない」

 

「で、でも・・・巫女はいつも暴れているから―――」

 

「いつもじゃない。異変解決や妖怪退治の時だけだ。

霊夢に謝ってくれ」

 

「むむっ、何であたいが―――」

 

「謝らないなら、チルノの頼みは聞かないからな」

 

「うう・・・・・・」

 

そうジンに言われてしまい、チルノは悩んだ末、霊夢に対して頭を下げた。

 

「・・・・・・ごめんなさい」

 

「え? あ・・・べ、別に良いわよ。暴れているのは事実なんだから」

 

「暴れているのは否定しないのか・・・・・・」

 

「うるさいわよ。

それよりも、どうして私を攻撃したのかしら?」

 

するとチルノは、少し言いづらそうに話した。

 

「だって・・・キューちゃんの事を話したら、退治されると思って・・・・・・」

 

「霊夢はそんな無闇矢鱈に妖怪を退治したりしないって。な?」

 

「え? ええ! 退治するのは人様に迷惑を掛ける奴だけよ!」

 

「本当?」

 

「本当本当、だから安心しなさい」

 

霊夢はそう言うと、チルノは安心して理由を話始めた。

 

「なるほど、そのキューちゃんって奴が、最近元気が無いって事か」

 

「そうなんだ、だからジンに助けて欲しくて」

 

「うーん・・・俺に何か出来るとは思えないが、取り合えずそのキューって奴に会ってからだな。案内してくれ」

 

「うん! わかった!」

 

「それじゃ行って来る」

 

「行ってらっしゃい。気をつけてね」

 

霊夢に見送られながら、ジンはチルノと共にキューちゃんがいる霧の湖へと向かうのであった。

 

―――――――――――

 

霧の湖に到着すると、ルーミア、大妖精、ミスティア、リグルの四人が出迎えてくれた。

 

「こんにちはジンさん。今日は来てくれてありがとうございます」

 

「なに良いって、それよりもキューに会わせてくれないか?」

 

「良いよ。せーの―――」

 

「「「「「キューちゃーん」」」」」

 

五人が湖に向かって叫ぶ、すると霧の向こうからやって来る影が見えて来た。

そして、その正体を見たジンは、驚きを隠せなかった。

 

「こ、これがキューちゃん?」

 

「そうだよ、あたい達の友達のキューちゃん」

 

「キュー」

 

それは何とアザラシであった。幻想郷では御目にかかれない動物であった。

 

「まさかアザラシがこんな所に来るとは・・・・・・」

 

「アザラシ?」

 

「ああ、そういう名前の動物なんだ」

 

そう言って、ジンはアザラシのキューちゃんの頭を撫でる。

キューちゃんは嫌がる様子も無く、寧ろ嬉しそうにしていた。

 

(どっかの動物園のアザラシか? 随分人懐こいな)

 

そう思っていると、ある違和感を感じる。このアザラシは何処か元気が無いのだ。

 

「どうしたんだ一体?」

 

「キュー・・・・・・」

 

ジンはキューに訪ねるが、未だ授業中の身である彼では、華仙の動物以外の意志疏通は困難であった。

 

(うーん、原因はわかるんだが・・・どうすればいいのかさっぱり分からない)

 

恐らく環境の違いによるストレスが原因なのだが、どう改善すればいいか分からない状態であった。

そこでジンは、次の手段を取る事にした。

 

「少し待ってくれないか、力になってくれる奴を連れて来るから」

 

「良いけど・・・誰を呼ぶの?」

 

「動物のエキスパートだ」

 

そう言ってジンは、ある人物の元に向かって行った。

 

 

「―――なるほど、それで私の力が必要な訳ね」

 

「ああ、頼むよ華仙」

 

ジンが連れて来たのは、華仙であった。

動物と対話出来る彼女なら、キューの言っている事が完全にわかると考えたからである。

 

「やってみるけど、期待はしないでね」

 

そう言って、華仙はキューとの対話を試みた。

 

「キュー、キュ、キュキュー」

 

「ふむふむ、なるほどね・・・」

 

「何かわかったのか?」

 

「ええ、この子の話によると、湖の水じゃ体に合わないみたいなのよ」

 

「ん? どういう事だ?」

 

「簡単に言えば、塩分がまったく足りていないって事なの」

 

「あー、なるほどな」

 

「どういう事なのだー?」

 

「元々アザラシは、海に住んでいる生き物なんだ。だから、湖の水じゃ体に合わないらしい。だから元気が無かったんだ」

 

「そうだったんだ・・・でも、幻想郷に海は無いから・・・・・・」

 

「月まで運ぶ? 彼処なら海あったし」

 

「いやいやいや、何も海にこだわる必要は無い。要は、海と同じ環境の場所を作れば良いだけなんだ」

 

「どうやって作るの?」

 

「それは、河童達に頼むさ」

 

「河童?」

 

「そう、あいつらの技術力なら人工海水を作れるだろうし」

 

「おお! それじゃ早速頼みにいこう!」

 

「待っててねキューちゃん!」

 

ジンの話を聞いた五人は、勢いよく河童の住処へ飛んで行ってしまった。

ジンもその後を追おうとしたが、華仙に呼び止められてしまう。

 

「良いのジン? 河童達にそんな事を頼んで?」

 

「どういう事だ?」

 

「恐らく河童達は必ず見返りを求めて来るわよ。その時貴方はどうするつもりなの?」

 

「どうするも何も、やってくれるなら、見返りをやるのは当然だろ?」

 

「・・・前から思っていたんだけど、貴方は見返りを求め無いの?」

 

華仙はそう訪ねると、ジンは少し考え、こう答えた。

 

「俺が好きでやっている事だから、見返りなんて期待していない」

 

そう言って、五人の後を追うジン。

華仙はその背中を見て、小さく呟く。

 

「本当、欲が無い人なんだから」

 

少し微笑む華仙、その後すぐにジンの後を追って行った。

 

―――――――――――

 

河童の住処に到着したジン達は、河童のリーダーであるにとりに事情を説明していた。

 

「なるほど、そのアザラシの為に人工海水プールを作って欲しいんだね?」

 

「ああ、出来るか?」

 

「そのくらい御安い御用―――と言いたい事だけど、タダじゃやれないよ」

 

「むぅ! 意地悪な河童だな!」

 

「そんな事言ったって、作るのにはどうしても費用が掛かるんだよ。タダでやったら私達が干上がっちゃうよ」

 

「どうすれば良いんだ?」

 

「なに、そのキューちゃんとやらをうちで引き取らせて欲しいだけだよ」

 

「キューちゃんをどうするんですか?」

 

「芸を仕込んで、金を儲けるのさ」

 

「ダメー! キューちゃんに酷い事をするなー!」

 

チルノは真っ先に反対をした。どうやらキューが酷い事をされるのでは無いかと勘違いしているようだ。

 

「落ち着けチルノ、何も酷い事はしない。そうだろにとり?」

 

「もちろんさ、話を聞く限り人懐こいらしいからね、簡単な芸くらいは出来ると思う」

 

「本当?」

 

「本当本当、嘘はつかないって」

 

「うん・・・わかった」

 

こうして、キューは河童達に引き取られる事になった。

 

―――――――――――

 

それから数日後、キューちゃんショーを開催した河童達。

アザラシの愛くるしさと珍しさも相まって、連日大盛況をしていた。

 

「きゃー♪ 可愛いー♪」

 

「本当ですよ! 外にはあんな可愛らしい動物がいるなんて!」

 

「キューちゃーん♪」

 

にとりから招待状が送られて来たので、ショーに来た博麗神社一行。

最初は乗り気ではなかった霊夢でも、アザラシの愛くるしい姿を見て、すっかり夢中になっていた。

 

「一体どんな妖怪かと思ってたけど、可愛いじゃない♪」

 

「妖怪じゃなくて、ただの動物だけどな。しかし―――」

 

「どうしたのジン?」

 

「気のせいか、キューの奴少しやつれていないか?」

 

「そう? 私にはわからないけど」

 

「気のせいじゃないですか?」

 

「うーん・・・そうだと良いんだが・・・・・・」

 

ジンは心配そうに、一生懸命芸をやっているキューの方を見た。

この時のジンの不安は、数日後に的中してしまうのであった。

 

―――――――――――

 

それから数日後、ある知らせを受けたジンは、河童の住処にあるキュー専用プールへとやって来た。

そこには数人の河童とにとりと元気の無いキューの姿であった。

 

「一体どうした?」

 

「それが・・・全然餌を食べないんだ」

 

ここ最近、キューは食事を与えても食べない事が多くなり、だんだんと元気が無くなっていってしまった。

事態を重くみた河童達は、ジンに相談する事にした。

 

「うーん・・・少し良いか?」

 

ジンはキューに歩み寄り、理由を聞き出そうとする。すると――――。

 

「キュ、キュキュ・・・・・・」

 

「食べたくないって?」

 

「どういう事?」

 

「理由はわからないが、餌を食べたく無いらしい」

 

「一体どうして?」

 

「悪いけど、それ以上の事はわからない。もしかしたら、何かの病気かも・・・・・・」

 

「病気だって!?」

 

病気という言葉に、河童達はどよめき始めた。

ジンは納めようと、言葉を続ける。

 

「あくまで仮説だ。でも、放って置くわけにもいかないな」

 

「どうするの?」

 

「永琳に頼るしか無いな・・・幻想郷の医者はあの人しかいないからな」

 

「わかった、早速呼んで来るよ」

 

にとりは河童仲間に指示を出し、永琳に使いを出すのであった。

 

 

それから時間が経ち、やって来た永琳は早速キューの容態を診た。

 

「どう?」

 

「完全な栄養失調ね。餌を与えていないの?」

 

 

「ちゃんと与えているよ! だけど、全然食べないんだ・・・・・・」

 

「ふむ、栄養失調意外に悪いところは無いんだけど・・・変なのは食べさせていないのよね?」

 

「失敬な! いつも新鮮な魚を与えているんだよ!」

 

「困ったわね、これ以上私でもわからないわ」

 

「ちょっと! あんた医者でしょ! 何とかしなさいよ!」

 

「そうは言われても、原因がわからないわ以上、手の施しようが無いわ。問診が出来れば良いんだけど・・・・・・」

 

問診、それは診断を行う際に極めて重要なものである。

しかし今回は動物相手なので、永琳は問診が出来ないのだ。

 

「せめて、動物の言葉が分かれば良いんだけど・・・・・・」

 

その言葉に、ジンは閃くのであった。

 

「いや居るぞ、動物の言葉が分かる動物のエキスパートが」

 

「え? それって――――」

 

「動物で困った時は、華仙に頼もう」

 

こうして、再び華仙に頼る事にしたジンであった。

 

 

事情を聞いてやって来た華仙は、何処か呆れたような表情をしていた。

 

「まさか、もう一回通訳をさせられるとは思わなかったわ・・・・・・」

 

「頼む華仙! 頼れるのはお前しかいないんだ!」

 

「まあ、私としても動物を見捨てるつもりは無いわ。任せて」

 

そう言って、再びキューと話始める華仙。しばらくして、華仙は振り向きジン達に向かって話始めた。

 

「原因がわかったわ」

 

「え!? 本当かい!」

 

「それで? 一体何が原因だったの?」

 

永琳がそう聞くと、華仙は簡潔に答えた。

 

「虫歯よ」

 

「虫歯・・・ああ、なるほどね」

 

「どういう事?」

 

「つまり虫歯が痛くて、食べれなかったのよ」

 

「そういう事か」

 

キューが餌を食べなくなった理由は、虫歯が原因であったのだ。

原因がわかったところで、永琳は機材を出し始めた。

すると、瞬く間にキューを治療台に縛り上げてしまう。

 

「キュ?」

 

「さて、それじゃ虫歯の治療を始めるわよ」

 

そう言って、ドリルを回しながら動けないキューに近づいていく。

何か恐ろしい気配を感じとり、ジタバタ動くが、まったく動けなかった。

次に河童達に助けを求めようとするが――――。

 

「ねえ? あれって月の道具かな?」

 

「中々に興味深い・・・・・・」

 

キューそっちのけで、永琳の道具に興味津々であった。

仕方なく、ジンと華仙に助けを求めるが―――。

 

「それじゃ、俺達は帰るから、後はよろしくな」

 

「虫歯、しっかり直すのよ」

 

そう言って、さっさと帰ってしまった。

助けてくれる人はいなくなり、再び永琳の方を見ると、彼女はにこやかに笑いながら――――。

 

「安心して、直ぐに終わるから♪」

 

「キュー!!」

 

キューの叫びが、妖怪山に木霊したのは言うまでも無い。

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