流石に無理がありますかね・・・。
四月の終わり頃、博麗神社に珍しい客人が訪れていた。
「なに? 白蓮に母の日を祝ってやりたい?」
「そうなんだよ。何とか力を貸してくれない?」
舟幽霊である村紗水蜜は、ジンにそう頼んでいた。
話によると、最近になって母の日というのを知ったらしく、どうせならその日に、日頃の感謝を込めて白蓮を祝ってやりたいという事らしい。
「それは良いが・・・なんで俺なんだ?」
「他に頼れる人がいないからだよ。聖様にはサプライズでやりたいし、それに――――」
「それに?」
「何となくジンは、聖様に似ているんだよね」
水蜜は笑顔でそう言った。。
やや複雑な気持ちになったていた。こういう困った人を放って置けないジンであったが、出来れば今回だけは遠慮したかった。
(悪いけど・・・今回だけは断ろう)
そう思い、口を開こうとした時、霊夢が突然現れ、横から口を出して来た。
「別に良いじゃない、引き受けてあげなさいよジン」
「霊夢?」
「なんなら、私も手を貸すけど?」
「ええ!? 一体どういう風の吹き回し?」
「別に良いでしょ。それよりも、どうするのよ? 何か企画はあるの?」
「いや、これからだけど・・・・・・」
「しょうがないわね・・・それじゃ話し合うから、寺の主要メンバーを呼んで来て頂戴」
「え!? 神社でするの!?」
「当たり前でしょ、寺だと白蓮に聞かれるかも知れないんだから。わかったら、さっさと呼んで来る!」
「イ、イエスマム!」
水蜜は、大急ぎで寺のメンバーを呼びに行ったのである。
こうして、ジンと霊夢は彼女達の母の日を手伝う事になった。
―――――――――――
博麗神社の本殿に集まった命蓮寺の主要メンバー―――寅丸星、村瀬水蜜、雲居一輪、雲山、封獣ぬえ、ナーズリンらがやって来ていた。
霊夢は早速、何処から引っ張り出して来たホワイトボートに“母の日企画”と書いた。
「それじゃ各々、案を言って頂戴」
霊夢がそう言うと、メンバー達はいきなり困り始めた。
「そうは言っても・・・母の日なんて詳しく知らないし・・・・・・」
「そう言えばそうでした・・・・・・」
「なあジン、母の日って何をすれば良いんだ?」
ぬえの一言に、命蓮寺のメンバーは一斉にジンの方を見る。
ジンはため息を吐きながら、彼女達に説明を始める。
「何も特別な事はしなくて良い。プレゼントを用意して、カーネーションを渡せば――――」
「カーネーション?」
「要は花だ。それさえ用意すれば万事大丈夫だろ」
「うーん・・・それだけだと寂しくない? もっと盛大に祝いたいんだけど・・・・・・」
「それなら、何か美味しい物を用意しませんか?」
「良いねそれ! お酒は任せろー」
「なら、特上の肉を――――」
命蓮寺のメンバー達は段々と好き勝手言い始めてしまい、いつの間にか宴会の話にすり変わってしまっていた。
流石にこのままだと話が進まないので、一旦会議を止める事にした。
「はいはいそこまで、案があるならちゃんと言う事」
「そうだよ、はしゃぐのは良いけど、聖の為にやっている事を忘れちゃ駄目だよ」
霊夢と星の言葉で、ようやく当初の目的を思い出したメンバーは、ピタリと話を止めた。
「それじゃ、案がある人は順番に発表しなさい」
次々と出される案に、霊夢はボートに書き込んでいく。
出された案は以下の通り。
“一発芸”
“カーネーション”
“プレゼント”
“ケーキ”
“合唱”
等が挙げられていた。
「うん、大体こんなものね」
「一発芸とプレゼントをに関しては各自に任せる。合唱は響子が担当すれば大丈夫だろう」
「ケーキは任せて頂戴。アリスや咲夜と一緒に作った経験があるから」
「それじゃ、ケーキは霊夢に任せて、後はカーネーションだが・・・・・・」
そこで、その場にいる全員が黙ってしまう。
残念ながら、人里の花屋にカーネーションは売ってはいない。かと言って、手に入らない訳では無いのだが、その為にはある妖怪に頼まなくてはならないのだ。
「仕方がない、俺が彼女に頼んでみよう・・・・・・」
「大丈夫なの?」
「十中八九大丈夫じゃないだろう、あの幽香相手じゃな」
―――――――――――
後日ジンは、幽香がいる太陽の畑へとやって来ていた。
「――――そんな訳で、カーネーションを貰いたいのだが・・・・・・」
「なるほどね・・・」
「無論ただでとは言わない。俺にやれる事があるなら、やらせて欲しい」
「あら、私の奴隷になりたいの?」
「・・・違うが、ある意味そうだな」
「それだったら丁度良いわ。人手が欲しかったから、奴隷一号」
「はは! こちらに!」
彼女が奴隷一号と言った人物は、何と正邪であった。これには驚きを隠せなかった。
「へ? 何で正邪がここに?」
「ん? ジンじゃないか、お前も奴隷にされたのか?」
「いや、そういう訳では無いが――――」
「あら? 誰が口を利いて良いと許可した?」
「申し訳ありません幽香様!」
幽香の笑顔の威嚇に、正邪は恐怖で固まっていた。
「一体・・・何があった?」
「この天邪鬼が、私の大事な花にちょっかい出したのよ。だからこうして、教育を施しているのよ」
「そうか・・・・・・」
「それじゃ、基本的な仕事は奴隷一号に教えて貰いなさい。これでも多少は出来るから」
「わかった・・・・・・」
正邪に仕事を教えて貰うのは、何とも複雑な心境であったが、ここで止める訳にも行かず。彼女に教えを乞う事にするのだが――――。
「仕事? 私が人様に教える訳無いだろ。自分で覚えろ」
「ですよねー」
天邪鬼である彼女が、素直に教えてくれる訳でも無く、ジンは彼女のやり方を見ながら手探りで覚える事にしたのであった。
―――――――――――
それから数日間、ジンと正邪は互いの仕事の奪い合いをしていた。
「おい正邪! そこは俺が水をやる場所だろ!」
「へへん、とろとろしているお前が悪い」
「だったらこうしてやる! そりゃ!」
「ああー! そこは私が水をやる場所だ!」
「だったら、人様の仕事を取るな! サボっているように見えるじゃないか!」
「お生憎様、私は天下の天邪鬼! 人が嫌がる事を辞めるつもりは無い!」
二人の言い争いしながらも、作業を行い続けた。
そんな様子を、幽香は面白そうに眺めていた。
「本当に面白いわね」
普段の正邪は、見張らない限り仕事をサボっていたのだが、ジンが来てからは面白いくらいに積極的になった。
これは仕事を取られる事を嫌うジンだからこそ、正邪は彼の仕事を横取りしようと、こうして積極的に作業を行っているのだ。
「これじゃまるで、意中の彼に良いところを見せようとしている乙女だわ」
幽香は二人に聞こえないように、小さく呟いた。
その日の作業が終わり、幽香はジンを呼び寄せた。
「この数日御苦労様、約束のカーネーションよ」
そう言って、幽香はジンに鮮やかなカーネーションの花束をジンに手渡した。
「綺麗だな・・・・・・」
「そりゃそうよ、私が育て選別した一級品よ。大事にしなさい」
「ああ、ありがとう幽香」
こうしてジンは、無事カーネーションを手にいれる事が出来た。
―――――――――――
五月五日、この日は兼ねてから決めていた母の日である。
一輪と水蜜は、白蓮を連れている最中であった。
「一体どうしたというのですか二人とも?」
「何も聞かずに来てください聖様」
「はあ・・・・・・?」
白蓮は訳も分からず、二人に連れられ部屋の前まで訪れた。
「さあどうぞ聖様」
「ここを開ければ良いのですか?」
白蓮はおずおずと戸を開く、すると突然クラッカー音が鳴り響く。
「「「「母の日おめでとう聖様!」」」」
出迎えたのは、寺の妖怪達であった。
突然の事に驚く白蓮、すると小傘は大層喜び出す。
「やったー♪ 大成功ー♪」
「これは一体・・・・・・?」
「皆が聖の為に、御祝いの用意をして居たんです」
「そうだったのですか・・・・・・」
「これが私達の感謝の気持ちです」
星がそういうと、寺の妖怪達が次々と白蓮にプレゼントを渡していく。
「まあこんなに・・・ありがとう皆さん」
「まだ感謝を言うのは早いですよ。
そちらの準備は良いですかジンくん」
星の言葉に、照れくさそうにカーネーションを手にしていた。
「何で俺が渡す事になっているんだよ・・・・・・」
「用意をしたのは君自身なんだから、自分で渡すのが道理だろ?」
「うぐ・・・・・・」
「ほら、覚悟を決めて渡して行きたまえ」
ナズーリンにそう言われ、ジンは覚悟を決めて白蓮にカーネーションを手渡す。
「お、おめでとう白蓮・・・・・・」
「あらありがとう、貴方がこれを考えたの?」
「いや、星達に相談されただけだ。それと――――」
「プレゼントを渡し終えた?」
すると霊夢がケーキを持って現れた。彼女の登場に、白蓮はますます驚いた。
「霊夢さん? 貴女がそのケーキを?」
「ええ、この腕によりをかけて作ったんだから」
「ふふ、ありがとうございます。良ければ、御一緒にいかがですか?」
「喜んで♪ あんたも良いわねジン」
「・・・まあ、霊夢が良いなら別に構わないが」
「よし決まり! それじゃ楽しむわよー♪」
ジンと霊夢はも参加し、盛大にパーティを行うのである。
―――――――――――
その後、パーティーは大いに盛り上り、夜遅くまで行われた。今回は無礼講として、白蓮は細かく言うことはせず、パーティーを楽しんだ。
そしてジンと霊夢は、夜も遅いので、その日は命蓮寺に泊まることにした。
「なんで一緒の部屋なのよ・・・・・・」
霊夢は頭を抱えながら呟いた。
どういう訳か、ジンと同じ部屋となっていた。
彼女は落ち着かない一方、ジンはいたって普段通りでいた。
「まあ別に良いじゃないか、むしろ都合が良い」
「え!? ど、どういう意味よ!?」
「晩酌をするのには」
そう言って、何処からか一瓶の酒取り出した。
「それは?」
「一輪から頂いた。パーティーの時は酒は出なかったからな、霊夢としては不満だろ?」
「あのね、私は鬼みたいに酒好きじゃないわよ」
「じゃあ呑むのを辞めるか」
「待って、誰も呑まないとは言っていないわよ」
「やれやれ、最初から変な意地を張らなければ良いのに」
「うるさいわね、とっと注ぎなさい」
「はいはい、畏まりました」
そう言って、持って来た盃を霊夢に手渡し、酒を注ぐ。二人だけの晩酌が始まった。
しばらく呑んでいると、ジンは今回の事について訪ねた。
「なあ霊夢、今回はどうして手伝う気になったんだ? いつもなら、関わろうとしないだろ」
そう聞くと、霊夢は盃を置き話始めた。
「ちょっと彼女達が羨ましいかったのよ」
「羨ましい?」
「私、小さい時母さんを亡くしているのよ。だから、親孝行に少し憧れていてね・・・・・・」
「そうか・・・・・・」
「それよりジン、あんたこそ今回どうしたのよ? いつもなら率先として動くのに、あまり乗り気じゃなかったようだけど?」
「まあな・・・正直言うと、あまり関わり合いたくなかった」
「どうして?」
「親孝行をしなかった自分を思い出してしまうからだ」
「・・・・・・そう」
霊夢はそれ以上聞こうとしなかった。
二人はしばらく無言のままであったが、霊夢がおもむろに口を開く。
「あまり自分を責めないで」
「そう簡単には割りきれない。あの時何故、側に居てやれなかったのか、何故もっと親孝行しなかったのか、いつも考えてしまう」
「ジン・・・・・・」
「悪い、こんな事を話してしまって・・・・・・」
「別に良いわよ。たまには愚痴ぐらい聞いて上げるわ」
「・・・・・・ありがとう霊夢」
「ほら、まだまだ夜は長いんだから、今夜は寝かせないわよ」
「はは、御手柔らかに」
二人はそのまま晩酌を続け、酔い潰れるまで飲み明かすのであった。