東方軌跡録   作:1103

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今回の話しは、鈴奈庵からです。
お盆前なので、中々書く時間がありませんが、それでも頑張って書いていきます。


子狐のノート

人里にある一件の寺子屋。

そこは多くの子供達が通っている人里唯一の学びやである。

教師は慧音と、何人かの臨時の教師がおり、ジンもその一人である。

そんな寺子屋に、ある事件が起きた。

 

―――――――――――

 

寺子屋の一つの教室の襖に、ジンと慧音は凝視していた。

 

「これが例の落書きか・・・・・・」

 

ジンは障子に書かれている文を見る。一つは日本語で書かれているが、もう一つは何と書かれているかはわからない文字で書かれていた。

 

「最初は悪戯だと思っていたが、こう毎日続くとな」

 

「犯人の姿は?」

 

「誰も見ていない。気づいたら既に書かれていたらしい」

 

「ふーむ・・・・・・」

 

ジンは能力を発動させる。

それによると、どうやらこれを書いたのは子供だとわかった。

 

「どうやら、子供が書いたらしいな」

 

「まさか生徒が?」

 

「いや、それにしたって、この不可解な文字を書くとは思えない。それに―――」

 

ジンは読める方の文字を見る。そこには慶応三年と書かれていた。

 

「これは年号だ。もしかして、授業でやった内容じゃないか?」

 

「どれどれ・・・ああ、確かに一昨日やった内容だ」

 

「授業の内容をメモをしているのか・・・何の為に? こっちの文字は一体・・・・・・」

 

そこでジンはしばらく考え、突然立ち上がる。

 

「慧音。これまでの落書きを取ってあるか?」

 

「あ、ああ、一応な」

 

「それを全部欲しい。専門家に解読してもらう」

 

「専門家?」

 

「ああ、どんな文字も読める。妖魔本オタクにな」

 

―――――――――――

 

ここは人里にある貸本屋の鈴奈庵。

ジンは、慧音から貰った悪戯書きを全て持って、小鈴に鑑定をして貰っていた。

 

「これは・・・間違いなく妖怪文字ですね」

 

「やはりそうか・・・それで内容は?」

 

「ちょっと待って下さい。ええっと――――」

 

小鈴は眼鏡を着け、妖怪文字を読み上げる。その内容はどれも、日本語で書かれていた文字と同じ物であった。

 

「・・・間違いないんだな?」

 

「はい、間違いありません。もしかしたら、この妖怪は文字の練習をしてたんじゃないですか?」

 

「理由は明日、本人に聞く事にする。解読ありがとう小鈴」

 

「いえいえ、これくらいどうってこと無いですよ。ところで――――」

 

「ん?」

 

「この落書き、譲ってくれませんか? 資料にしたいんです」

 

「そうだな・・・この事件が解決したらやるよ」

 

「やったー♪ ありがとうございますジンさん♪」

 

小鈴は嬉しそう飛び上がり、ジンに礼を言うのであった。

 

―――――――――――

 

翌日、寺子屋はいつも通りの授業を行っていた。

 

「それでは今日はここまで、ちゃんと宿題をするように」

 

「「「「はーい」」」」

 

その日の授業が終わり、子供達が帰る中、ジンは一人の子供に声を掛けた。

 

「ちょっと良いかな?」

 

「え? あ、はい・・・・・・」

 

子供は呼び止められた事に驚き、戸惑っている様子であったが、ジンは気にせず言葉を続けた。

 

「お前だろ? 最近障子に落書きをして妖怪は」

 

「ち、違います! 僕じゃありません!」

 

「それじゃ、その耳は何だ?」

 

そう言ってジンは、頭の癖毛を摘まむ。するとそれはピーンと立ち上がり、立派な狐耳だとはっきり分かる。

 

「あ!?」

 

「もう言い逃れは出来ないぞ」

 

「ううっ・・・・・・」

 

子供の狐は、頭を抱えて踞る。そんな彼に、ジンは目線を合わせて話し掛けた。

 

「何も罰しようとはしない。ただ、こんな事をした理由を教えて欲しい」

 

「・・・・・・教えたら、見逃してくれる?」

 

「内容によってはだが、悪い事をしようとはしていないんだな?」

 

「うん、実は―――」

 

子狐は落書きをした理由を話始めた。

彼は最近、社会勉強として人里に訪れ、その時偶々寺子屋の様子を見て、興味を持ったらしい。その後、子供達に紛れ込みながら授業を受けていたのである。

 

「それが何で、障子にあんな落書きを?」

 

「実は・・・ノートを持っていなくて・・・それで―――」

 

「ノート代わりに障子に書いたって訳か、なるほど」

 

「あ、あの、もう来ませんから、博麗の巫女には黙ってくれませんか?」

 

「霊夢に? それまたどうして?」

 

「悪さをしたら博麗の鬼巫女に退治されるって、良く言われているんです」

 

「鬼巫女って・・・霊夢が聞いたら怒るだろうな」

 

「もう二度と来ませんから! お願いします!」

 

子狐は深々と頭を下げ、ジンに頼み込む。そんな子狐を見て、ジンは彼の頭をそっと撫でてあげた。

 

「別に霊夢に言うつもりは無いし、寺子屋に来るなとも言わない」

 

「え?」

 

「ここは学び舎。子供達が学ぶ場所なんだから、別に遠慮はしなくても良いぞ。慧音からは、俺が伝えといてやるから。

ただし、障子にはメモを取るな。妖怪文字があるだけで、怖がる人がいるからな」

 

「で、でも、ノートを買うお金が無くて・・・・・・」

 

「それなら、いい店を紹介しておく。彼処なら、条件次第でノートをくれるからな」

 

そう言ってジンは、悪戯な笑みを浮かべるのであった。

 

―――――――――――

 

それから数日後。あれから落書きは無くなり、寺子屋はいつもの風景を取り戻した。

あの子狐も、いつも通りひっそりと寺子屋に通っていた。

 

「ちょっと、何でそんな大事な事を私に言わなかったのよ?」

 

人里にある茶店で、霊夢は不機嫌そうにジンに問い詰めているが、ジンは涼しい顔で答えた。

 

「今言っただろう」

 

「慧音から話を聞いた時点で、私に相談しなさい。慧音も慧音よ、何で私に相談しなかったのよ」

 

「下手に騒げば、子供達が不安がるだろ。霊夢は有名人だから、何かあったと騒ぎ立てる人は少なからずいるからな」

 

「それはそうだけど・・・・・・」

 

「それに、相手は子供で、理由も真っ当だった。退治する必要性は無いだろ?」

 

「それはまあ・・・だけど大丈夫なの?」

 

「何が?」

 

「話によると、その子はお金が無いんでしょ? ノート欲しさに盗みを働くかも」

 

「それは無いな」

 

「断言出来るわね」

 

「そりゃ出来るさ、ノートを無償で提供してくれる親切な貸本屋の娘がいるからな」

 

「ノートを無償で? 一体誰よ? そんな酔狂な事をする子は?」

 

「まあ、酔狂な事が好きな子だからな。俺から見ても、かなり変わった子だよ」

 

そう言って、ジンは外を眺めていると、一人の子供と目が合う。その子供はジンに気づくと、丁寧に御辞儀をし、走り去って行ってしまった。

 

―――――――――――

 

事件から数週間後。

鈴奈庵では、小鈴が上機嫌で何かの巻物を眺めていた。

 

「ふふふ♪」

 

「何笑っているのよ?」

 

「うひゃあ!?」

 

突然声を掛けられ、小鈴は驚き跳ね上がる。声の主を確認すると、友人の阿求がそこに立っていた。

 

「な、なんだ阿求か・・・驚かせないでよ」

 

「客を放っておいて、ニヤニヤしているのはどうかと思うわよ? 端から見てたら、気味が悪かったわよ」

 

「気味が悪いとか言わないでよ!」

 

「それで? 何を見ていたの?」

 

阿求は、小鈴が見ていた巻物を除き込むと、そこには落書きをされた和紙が張られていた。

 

「何これ? 障子の和紙?」

 

「え、えーと・・・少し前に妖怪が障子に落書きをしたのよ。それで、いらなくなっから、この和紙を譲って貰ったのよ」

 

「そんな話初耳よ」

 

「そりゃ誰にも話して無いし、落書きされた所の人達も口外して無いと思うわよ」

 

「それだと治安が悪くなるわ。一応霊夢には話しておかないと―――」

 

「それなら心配無いと思う。ジンさんがその妖怪を捕まえたから」

 

「ジンさんが?」

 

「ええ、二度と落書きしないように言ったらしいわ」

 

「ふーん・・・・・・」

 

二人がそんな話をしていると、一人の子供が店に入って来た。

 

「こ、こんにちは・・・・・・」

 

「あ、いらっしゃい。ちょっと待っててね」

 

小鈴はそう言うと、一冊の本を取り出し、子供に手渡す。それを受け取った子供は、今度は自分が持っている本を小鈴に渡すのであった。

 

「はいありがとう。またいつでも来てね」

 

「う、うん」

 

子供は御辞儀をすると、そそくさと店を出て行った。

 

「今の子は?」

 

「へ? ああ、最近来るようになった御得意様。ああやって何日かに一回は来てくれるのよ」

 

「へぇ、今時珍しい勉強熱心な子ね」

 

阿求は素直に感心するのだったが、実は先程の子供は子狐が化けた姿であった。

ジンが言っていた店とは鈴奈庵の事であった。小鈴に事情を説明すると、彼女はある条件で引き受けてくれたのである。

その条件とは、“使い切ったノートと交換”である。これにより、子狐は新たな白紙のノートを、小鈴は子狐がびっしり書いた妖怪ノートを手に入る事が出来るので、両者にとっては悪い話ではなかった。

それから度々、子狐が鈴奈庵に通うのだが、それを知っているのはジンと小鈴だけであった。

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