東方軌跡録   作:1103

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少し読み返して、主人公の能力がわかりづらいと感じたので、今回後書きで少し解説します。


誰も知らない友人

雪が溶け始め、もうじき春が訪れようとしていた。

そんなある日、ジンは寺子屋の帰り、奇妙な少女を見掛ける。

 

(ん? なんだろうあの子・・・・・・)

 

帽子にフリルをあしらった可愛らしい洋服。一言で言うと少女らしい服装である。そして胸の辺りには、目らしき物がついていた。それは以前出会った、地霊殿の主であるさとりにあった物と同じ物である気が付く。ただ、その瞳は閉じられていた。

 

(もしかして、さとりの関係者か? でも、なんで人里なんか――――)

 

そんな事を考えていると、少女は小石につまづいて転んでしまった。それを見たジンは放っておけず、彼女の元に歩み寄る。

 

「いたた・・・・・・擦りむいちゃった・・・・・・」

 

「おい大丈夫か?」

 

「え!?」

 

「ん?」

 

少女に声を掛けると、少女は心底驚いている様子で、ジンに問い返した。

 

「私の事見えるの?」

 

「見えるって、見えなきゃ声を掛けないだろ」

 

「それはそうだけど・・・・・・」

 

「ほら、擦りむいた所を見せな」

 

「う、うん・・・・・・」

 

少女は戸惑いながらも、ジンに傷の場所を見せる。

 

「先ずは砂を洗い落とさないとな。水獸」

 

ジンは水獸を呼び出し、少女の傷口を洗い落とし、持っていたハンカチを破りそれを傷口に巻く。

 

「取り敢えず、応急処置だ。近くに寺子屋があるから、そこでちゃんと手当てをしよう。歩けるか?」

 

「う、うん・・・・・・」

 

ジンは少女に手を差し出し、助け起こす。そしてそのまま寺子屋へ向かった。

 

―――――――――――

 

寺子屋に到着したジンと少女。放課後のせいもあるのか、生徒の数は少なかった。

ジンは少女を教室で待たせ、寺子屋にある薬箱を持って、少女の元に戻って来た。

 

「待たせたな」

 

ジンはハンカチを取ると、傷口に消毒液を塗り始める。

 

「痛っ!」

 

「悪いが、少し我慢してくれ」

 

そう言ってジンは治療を続けた。

傷の治療を終えると、少女は満面の笑顔でジンに御礼を言った。

 

「ありがとう! え~と・・・・・・」

 

「俺はジンだ」

 

「ありがとうジン! 私はこいし。古明地こいしだよ」

 

「古明地って・・・さとりの親類縁者か?」

 

「うん、さとりは私のお姉ちゃん。ジンはお姉ちゃんの事を知っているの?」

 

「まあ、何度か会ってはいるな」

 

「そうなんだ。ところで、気になる事があるんだけど・・・・・・」

 

「気になる事?」

 

「どうしてジンは、“私を認識出来たの”?」

 

そう言ったこいしの様子は、何処かジンを警戒しているようであった。対するジンは、彼女の質問の意図がまったく読めていなかった。

 

「すまん、質問の意味がわからないのだが」

 

「ああごめん、その前に私の能力の事を説明するね。

私の能力は、“無意識を操る”能力なの」

 

「無意識を?」

 

「そう、それを使って周囲の人に“認識されない”ようにしていたから、ジンが私を認識出来ているのが不思議だったの。まあ、多少は例外があるんだけどね」

 

彼女の話によると、無意識を操る事で、意識にある認識を阻害しているとの事である。それ故に、視界に映っていても、認識出来ないので姿を見る事が出来ないのである。

 

「なるほど、だから俺がこいしの事を認識出来た事が不思議だった訳か」

 

「そうだよ。境界を操る妖怪や、小さい子供なら多少認識出来るけど、ジンはそのどっちでも無いよね?」

 

「ああ、そんな能力は無いし、子供って歳でもない。まあ、“軌跡を視る”事は出来るが」

 

「軌跡?」

 

「そう、この世界で動くものには、例外なく軌跡が刻まれる。俺はその過去に刻まれたの軌跡と、未来へと進む軌跡を視る事が出来るんだ」

 

「つまり・・・どういう事?」

 

「まあ、簡単に言うと、限定的な過去視と未来視が出来るって事だ」

 

「なるほど、それならわかりやすい♪ もしかしたら、私を認識出来たのはその能力のおかげかも知れないね」

 

「そうかも知れないな」

 

「さてと、疑問も解けた事だし、私はもう行くね」

 

「一人で大丈夫か?」

 

「大丈夫大丈夫。だって、誰も私を“認識出来ない”から」

 

その言葉に、ジンの胸が深く刺さった。誰も認識出来ないというのは、いないのと同じである。それはとても辛いものであると、ジンは考えていた。

 

「・・・・・・辛くは無いのか?」

 

そうこいしに尋ねると、彼女は屈託の無い笑顔で答えた。

 

「全然♪ 心を読むよりはマシだよ」

 

「心を読む?」

 

「うん。私も前は、お姉ちゃんと同じに心を読めたけど、読んでも落ち込むだけだから、第三の目を閉じちゃった」

 

そう言って、胸にある閉じた目を見せる。以前聞いた話によると、この目で対象の心を読む事が出来るらしい。つまり、彼女は目を閉じ程の事を体験したという事である。そう思うと、ジンの胸は張り裂けそうになった。

 

「さあてと、私はそろそろ行くね。傷を手当てしてくれてありがとう♪」

 

こいしはそう言うと、そのまま教室を出ていった。ジンはただそれを見送る事しか出来なかった。

 

―――――――――――

こいしと別れたジンは、買い物を済ませてから、人里を出て、神社に続く野道を歩いていた。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

誰かにつけられている気配がする。それもかなり近くである。ジンは直ぐ様後ろを振り返る。

 

「うわ!?」

 

「・・・・・・」

 

そこにいたのはこいしであった。彼女はジンが振り返った事に驚いたが、直ぐ様いつもの笑みを浮かべる。どうやら、彼女は自分が見つかっていないと思っているようである。ジンは、彼女に声を掛ける事にした。

 

「何をしているんだこいし?」

 

「うわ!?」

 

声を掛けられた事に驚くこいし。どうやら能力を使っていたらしい。

 

「あー、ビックリした。もう、声を掛ける時、一言声を掛けてよ」

 

「だからこうして、声を掛けたんだろ」

 

「あ、それもそうか」

 

「まあ良い。それよりも、俺に何か用か?」

 

そう尋ねると、こいしは笑顔で答えた。

 

「ううん、特に無いよ」

 

「無いのに俺をつけたのか?」

 

「まあそうなんだけど、少し試したくなって」

 

「試す?」

 

「ジンが本当に私を認識出来るのかを。あの時はまぐれだったかどうかを」

 

こいしはジン程、自分を認識してくれた人物に出会った事は無かった。それ故に、彼が本当に自分を認識してくれているのか試したくなったという。それは期待と不安から来た行動であった。

 

「それで、今回はどうだ?」

 

ジンがそう尋ねると、こいしは満面の笑顔で答える。

 

「合格だよ♪ 本当、ここまで私を認識出来る人は初めてだよ」

 

「それは光栄だな」

 

そんな時、こいしのお腹の音が鳴り響く。彼女は恥ずかしそう笑う。

 

「あはは・・・・・・」

 

「お腹空いているのか?」

 

「う、うん・・・・・・」

 

「それならうちで食べるか? 霊夢に頼めば食べさせてくれるかも知れない」

 

「え? ジンって、博麗神社に住んでいたの?」

 

「まあな、住み込みで働いている」

 

「そうなんだ、それじゃお邪魔しようかな」

 

「ああ、歓迎するよ」

 

ジンはそう言って手を差し出すと、こいしは笑顔でその手を取った。

 

―――――――――――

 

こいしを連れて神社に戻って来たジンは、霊夢に事情を説明しようとするのだが――――。

 

「――――そんな訳で、こいしを連れて来たんだが・・・・・・」

 

「こんにちはー♪」

 

こいしはいつも通りの笑顔で言うが、霊夢は特に気にしている様ではなかった。

 

「別に構わないわよ」

 

「へ?」

 

「ほら、さっさと上がりなさい。すぐ用意するから」

 

そう言って、ジンから食材を受け取ると、霊夢は台所にさっさと行ってしまった。しかしジンは、そんな霊夢に違和感を感じていた。

 

「おかしいな・・・いつもならタメ息の一つや、呆れてくるんだが・・・・・・」

 

「ああ、多分私の能力のせいだと思う。多分霊夢には、私が小石みたいに気にならなくなっている状態だから」

 

「小石みたいって・・・いくら例えでも、そんな事を言うんじゃない」

 

「え?」

 

「こいしはちゃんとここにいる。そんな自分がいない風な事は言わないで欲しい」

 

ジンはとても悲しそうに言った。その表情を見たこいしは、戸惑いながら頷いた。

 

「う、うん、ごめんねジン・・・・・・」

 

「いや、謝る事は無いさ。ただ、そんな悲しい事は言わないで欲しい」

 

「うん、もう言わない。約束するね」

 

「ああ、約束だ」

 

二人は指切りをして、約束を交わすのであった。

 

 

その後、こいしを交えて晩御飯を食べていた。

いつものような団欒としてはいるのだが、やはりこいしの存在は認識されていないような感じであった。

 

(このままじゃいけないな・・・・・・)

 

そう思ったジンは、こいしに話題を振る事にした。

 

「ところでこいし、地霊殿で見かけなかったけど、いつも何処にいるんだ?」

 

「何処って・・・わかんない♪」

 

「わからないって・・・・・・」

 

「私自身も、無意識で動くから、気づいたら知らない場所にいたりするのが、しょっちゅうだから」

 

「・・・・・・大丈夫なのかそれ?」

 

「大丈夫大丈夫♪」

 

こいしは相変わらず、笑顔を絶やさず答えた。

その後もジンは、こいしをどうにか会話に入れさせようとしたが、あまり認識されなかった。

 

―――――――――――

 

日は完全に沈み、夜が訪れた。

いくら妖怪であっても、少女を夜に放り出す事に抵抗を感じたジンは、こいしを一晩泊まらす事にした。

因みに霊夢達は気にも止めてはいなかったので、あっさりと承諾した。

そして、皆が寝静まった深夜。ジンの襖が開く音がした。

 

(ん? またか・・・・・・)

 

襖の音で目を冷ましたジンは、また正邪が悪戯しに来たと考え、迎え撃つ事にした。

 

(今回は手荒くさせて貰うからな)

 

足音がゆっくりと近づく。侵入者の足が、ジンの布団を踏んだ瞬間、ジンは動いた。

 

(今だ!)

 

ジンは素早く侵入者を足払いを放ち、声を出す暇も与えず口と体を抑え込む。

 

「いい加減に―――」

 

「むごご・・・・・・」

 

「こ、こいし? 何でここに?」

 

抑え込んだ相手は正邪ではなく、こいしであった。

 

「むごー!」

 

「あ、悪い」

 

ジンは慌てて拘束を解くと、案の定こいしは不機嫌そうであった。

 

「もう! いきなり酷いよジン!」

 

「わ、悪い、てっきり正邪の奴が悪戯を仕掛けて来たかと思って・・・・・・」

 

「正邪って、あの天邪鬼?」

 

「ああ、時々部屋に入って来て悪戯するんだよ。おかげでおちおち寝れやしない」

 

「ふーん・・・・・・」

 

「ところで、こいしはどうしてここに?」

 

「ん? 私? 私はね、ジンの布団に潜り込みにきたの♪」

 

「お前もか・・・・・・」

 

目的が正邪と同じだった事に、ジンは少しため息つく。

 

「もしかして、迷惑だった?」

 

「いや。何もしないのなら、添い寝ぐらいなら構わない。さっきの御詫びもあるからな」

 

「やったー♪」

 

こいしは嬉しそうにジンの布団に潜り込み、ジンに抱きついた。

 

「あったかーい♪」

 

「そうか」

 

「それに、なんだか安心するね♪」

 

「人肌の体温は、割りと安心を感じるからな。俺も、怖い夢を見た時や、不安な時はよく、こうして母親と一緒に寝たもんだ」

 

「ジンも、こういう事をしたの?」

 

「子供の頃の話だよ。まあ、その母親はもういないけどな」

 

そう言ったジンの表情は、とても悲しそうであった。

するとこいしは、抱きつくのをやめ。体の位置を変えて、ジンの頭を自分の胸に寄せた。

 

「こいし?」

 

「よくわからないけど、ジンの悲しそう顔を見たら、こうしたくなった」

 

「そうか・・・優しいんだなこいしは」

 

「そうなのかな?」

 

「そうだよ。例えそれが無意識の行動であっても、こいしの心が、本能がそうしたいと思ったんだから。それは間違いなく、こいしの優しいさだ」

 

「そっか、そう言われると嬉しい♪」

 

こいしは嬉しそうに微笑んだ。

そして二人は、しばらく他愛の無い話をするが、やがて眠りに落ちて行った。

 

―――――――――――

 

翌朝。ジンはこいしを見送る為に、境内にいた。

 

「大丈夫か一人で?」

 

「うん♪ 心配してくれてありがとう。でも、私は大丈夫だから」

 

こいしは笑顔で答える。その笑顔に、ジンもつられて微笑む。

 

「そうか。じゃあ気をつけてな」

 

「うん。じゃあねジン」

 

そう言って、こいしは石段を降り始めた。その様子を見ながら、ジンは大声でこいしに叫んだ。

 

「また来いよー! いつでも歓迎するからなー!」

 

それを聞いたこいしは、手を振って応えた。

こいしの姿が見えなくなるまで境内にいると、霊夢がやって来た。

 

「ちょっとジン。何か叫んでいたけど、誰か来たの?」

 

「・・・・・・ああ、友達が来てたんだよ」

 

そう呟くと、ジンは空を見上げた。

快晴の空、もうじき春が芽吹く。

この青空の下、こいしはこの幻想郷の何処かをさすらっているのだろうと、ジンは思うのであった。




ジンの能力ですが、例えを用いて説明します。

先ずは、未来の軌跡を視る方ですが、コードギアスR2のビスマルクのギアスと同じ、極近未来を読む力です。これによって、相手の動きや攻撃を読めるのですが、あまり本作では使っていません・・・・。

次に、過去の軌跡を視る方ですが、これはジョジョのアバッキオのムーディーブルースみたいな感じに、その場で起きた事を見ることが出来ます。ただし、あくまで視れるのは一日分と音声は聞き取れないので、会話を知りたい場合は読唇術が必須です。

他にも、わかりづらかった事があれば、感想に書いてください。出来るだけ答えます。
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