長くなってしまったので、分割しています。
梅雨が明け、日差しが強くなり始めた幻想郷。
そんなある日の事、魔理沙が博麗神社に遊びに来ていた。
「今日も暑いな~、こんなんじゃ蒸し焼きになるぜ」
「梅雨明けなんて、いつもこうでしょ」
「それはそうだけどよ・・・ん? そう言えば、ジンの姿が見えないみたいだが?」
そう言って、境内を見回す魔理沙。確かにそこには、ジンの姿がなかった。
「華仙のところで修行に行ってるわ。もうかれこれ、一ヶ月は帰って来てない」
「一ヶ月!? おいおい・・・もしかして逃げられたんじゃ――――」
「んな訳あるか! ちゃんと、一日に一回は陰陽玉を通して連絡して来るわよ! ただ―――」
「ただ?」
「何か隠しているような感じなのよ・・・・・・」
「ほほう、男が隠し事をするのは一つだけだぜ」
「一体それは?」
「新しい女! これに限る! 今頃ジンは、華仙とあーんな事や、こーんな事をしているに違――――」
「封魔陣!」
「ちょ!? 冗談! 冗談だぜ霊夢!」
魔理沙は、霊夢が放った封魔陣を慌てて避けた。
「これ以上馬鹿な事を言うんだったら、夢想天生よ」
「悪かったぜ。謝るから、そんなに怒るなよ」
「ったく・・・ん?」
霊夢はふと、空を見上げる。入道雲が徐々に大きくなっている様子が見えた。
「これは降るわね・・・早めに帰った方が良いわよ魔理沙」
「ああ、そうする」
そう言って魔理沙は、箒に股がり、飛んで行った。霊夢も、雨に備えて片づけ始める。
「あーあ、こんな時にジンがいてくれたら・・・一体何をしているのかしら」
そんな事をぼやきながら、片づけを始める霊夢であった。
―――――――――――
積乱雲の中。そこには鬼人になっているジンと、一匹のトカゲが戦っていた。
「ギィー!」
「土獸“大糢の壁上土”!」
トカゲが放った雷を、ジンは土獸を召喚し、その土獣が生み出した土の楯で防いだ。
「ギュウ!?」
「そう何度もくらうか!」
ジンは再び、土獸を操り、土の槍をトカゲに目掛けて放つ。
「ギィー!」
するとトカゲは、先程より強い雷を放ち、土の槍を消滅させる。
「しま――――」
雷はそのまま、土の楯をも打ち砕く。その衝撃で、ジンは落下していった。
その様子を、龍の子の背に乗って見ていた華仙がいた。そして、ジンが落下した場所に向かう。
「これで、二十一回目よ。いい加減諦めたらジン?」
華仙は、撃墜されたジンを見て、厳しめ言うのであった。
「悪いが・・・・・・この程度で諦めるつもりは無い」
そう言って、立ち上がろうとするが、怪我の影響で、上手く立ち上がらなかった。
「そんな怪我で無理をしないの」
そう言って、華仙はジンに手を差しのべる。ジンはその手を取り、何とか起き上がった。
「いてて・・・・・・」
「毎回毎回、酷いやられ方ね。いい加減、ライの事は諦めなさい」
ライ。それは先程ジンが戦っていたトカゲである。
ライは妖でありながら、強い力を持ち、ゆくゆくは龍になれる逸材と華仙は言う。
諦めなさい。という華仙の言葉に、ジンは首を横に振る。
「さっきも言ったが、そう簡単に諦めるつもりは無い」
「はあ・・・変なところで頑固ね貴方は」
「華仙が薄情なだけだ。試験を受けさせておいて、不合格だと判断したら、殺すなんて」
ジンがライと戦うのは、とある理由があった。
ライとの出会いは、怪我をしていたところをジンが拾い、手当てしたのが切っ掛けであった。
最初はジンになついていたが、華仙がライの才能に目をつけ、ライを龍にしようと画策したのである。
結果、力を得たライは増長し、華仙でも手がつけられなくなってしまった。そこで華仙は、ライを処分する事にしたのだが、これにジンはもう反対。そして、ライを戒めようと、この一ヶ月間ライに戦いを挑んでいたのである。
「ライは、龍になるにはあまりにも短絡的だったのよ。だから、今のうちに処分しないと、いつか被害が出るわ」
「それは分かっている。だけど、何も殺す必要は無いだろ」
「殺すのが、一番確実なのよ。懲らしめた程度では、また同じ事を繰り返すわ」
「そんなの、やってみないと分からないだろ!」
「わかるわ。私は貴方より何百年も生きているのよ」
「それは華仙の理屈だ。俺には関係ない」
「まったく・・・それなら、気がすむまで続けなさい。だけど、後悔するのは貴方の方よジン」
そう言って、華仙は龍の子に乗って飛び去って行った。それをジンは、睨むように見送った。
―――――――――――
華仙の屋敷。ジンは怪我の治療をしている一方、華仙は小町と屋根の上で話をしていた。
「やっぱり・・・私のせいかしら?」
「当たり前でしょ、何を今さら言っているんだい?」
「うぐっ、はっきり言うわね・・・・・・」
「そりゃそうだよ。あんな仲良かったジンとライが戦う事になったのは、ひとえにお前さんが余計な事をしたからだろう?」
「ぐっ・・・・・・」
「ライに龍の試験をさせておいて、手に余ると判断したら処分するなんて、身勝手にも程があるんじゃないかい?」
「そ、それはその・・・・・・」
「他人に説教する前に、自分を見つめ直したらどうなんだい? 仙人様?」
「はい・・・おっしゃる通りです・・・・・・今回の事態は、私の欲が招いたことです・・・・・・」
華仙は肩をガックリと落とした。今回の件は、自分が招いたことだと、彼女自身も自覚しているようである。
そんな華仙に、小町は難しい表情をして言う。
「しかし・・・困った事態だね。ジンには悪いけど、ライの処分を急いだ方が良いよ」
「それはどういうこと?」
「近々、里に死人が出るかも知れないんだよ。
里の人間の何人かは、余命時間が尽きそうなんだ」
小町の言う余命時間とは、その人が生きられる時間である。その時間が無くなると、その人物は問答無用で死んでしまう、いわば死へのカウトダウンである。
通常は、寿命分の時間はあるのだが、外的要因でその時間が一気に減る場合もある。逆に、その外的要因を取り除ければ、もとの時間に戻るのである。
「つまり、ライが人を襲うと?」
「はっきりと分からないけど、ライが力を得た辺りから、時間が減ったから、ライが関わっているのは間違いないね」
「そう・・・・・・」
「私は死神だから、あまり人の生き死には関与はしないよ。これは、ただの友人としての忠告さ」
「・・・・・・ありがとう小町。貴女のおかげで、覚悟を決めたわ」
「いいのかい?」
「ええ、例えジンに愛想をつかれたとしても、私がやらないと。彼は優しすぎるもの」
「そうかい・・・辛い決断だね」
心配そうに言う小町に、華仙は微笑み返した。
―――――――――――
次の日。人里は朝から大騒ぎになっていた。ジンと華仙も、その騒ぎに駆けつけていた。
「これは一体・・・・・・」
「・・・・・・」
二人が見た物は、全焼している空き家であった。
ジンは回りの人に、何があったか訪ねた。
「一体何があったんだ?」
「よく分からんが、今日の明け方、突然空き家が燃えたんだ。それも一瞬で。
あれは普通の火事ではないな、恐らく妖の仕業だろう」
「妖?」
「ああ、家が燃え尽きる瞬間を見た奴の話によると、光の玉が空き家に近づいて、次の瞬間に燃えだしたんだってよ。まあ、この燃え方を見れば、一目瞭然だけどよ」
「光の玉・・・いや、まさかそんな・・・・・・」
「ジン、少し話があるわ」
そう言って、華仙はジンを連れて、人がいない路地裏に連れて行き、真剣な表情でジンに言った。
「ジン、貴方に悪いけど、今夜ライを処分するわ」
「なっ!? いきなりどうして!?」
「貴方も理解しているでしょ? あれをやったのは、ライだという事を」
「そ、そんな筈が! あいつがそんな事を――――」
「なら、貴方の能力で見てみればいいでしょ? それではっきりするわ」
「くっ・・・・・・」
ジンは、悔しいそうに俯いた。それを見た華仙は、小さくため息をつく。
「認めたく無いのは分かるけど、人里に被害が出た以上、黙って見ている訳にはいかなくなったのよ。それはわかるでしょジン?」
「そ、それは・・・・・・」
「このままだとライは、人を殺めるわ。その前に、ライを狩る必要があるのよ」
華仙はいつも以上に冷淡に、“ライを狩る”と言った。
その言葉を聞いたジンは、押し留めていた感情を露呈する。
「・・・・・・ふざけんなよ」
「ジン?」
「ふざけんな! こんな事になったのは、お前のせいじゃないか! 力を持っているからっていう理由で、試験を受けさせて、不合格だから殺す? そんなの全部、お前の身勝手だろ!」
「っ・・・・・・」
ジンは華仙の胸ぐらを掴み叫んだ。
それは普段あまり表に出さない、ジンの激しい怒りであった。
「はぁー、はぁー、はぁー・・・・・・」
「ジン・・・私は―――」
「・・・・・・ごめん。当たってしまって・・・わかっていたんだ。このままだと、人里が被害が出ることも、華仙の言っている事が正しい事も」
「ジン・・・・・・」
ジンは、華仙の胸ぐらをゆっくりと離した。しかし、彼の表情は、失意に染まっていた。
「少し・・・・・・頭を冷やしてくる」
そう言って、ジンは力無く、その場をフラフラと去って行った。その様子を、華仙はただ見送る事しか出来なかった。
―――――――――――
華仙から別れてから、かなり時間が過ぎ、夕方になっていた。
ジンは、ミスティアの屋台で酒を飲んでいた。
かなり飲んでいたのか、額には立派な鬼の角が生えていた。
「女将・・・もう一杯」
「もう飲み過ぎよ。そのくらいにしておいた方が・・・・・・」
「飲まなきゃ・・・やってやれん」
「もう、一体どうしちゃったのよジン? いつもの貴方らしく無いわよ?」
「うるさい・・・いいから、酒をよこせ」
「はあ・・・もう酒は無いわよ」
「そうか・・・・・・」
そう言って、ジンは何も言わなくなってしまった。ミスティアは、絶望しきっているジンを見て、どうしたらいいか分からずにいた。
そんな時に、一人の人物が屋台にやって来た。
「おーい女将、ナツメウナギを―――って、ジンじゃないか?」
「正邪・・・・・・?」
現れたのは正邪であった。
正邪は、ここにジンがいる事に驚き、そのまま彼の隣に座った。
「華仙のところで、修行していたんじゃなかったのか? さてはお前、逃げ出したな?」
「・・・・・・」
「おい、なんとか言えよ」
「・・・・・・」
「一体どうしたんだこいつ?」
正邪はミスティアにも訪ねるが、彼女も事情がよくわかっておらず、首を横に振るのであった。
「やれやれ・・・・・・ジン、何かあったか、話してみな」
「・・・・・・正邪には、関係ないだろ」
「そりゃ無いけどさ、そんな辛気臭い顔をしてたら、こっちが迷惑なんだよ。何処かへ行くか、話すか、どちらにしな」
「なんだよそりゃ・・・・・・」
「お前は、そうやってなんでも溜め込むから駄目なんだよ。たまには、吐き出さないと、いつか破裂するぞ?」
正邪の言葉に一理あると感じたジンは、彼女に全てを話した。
「ふんふん、なるほど・・・それで? お前はなんでここにいるんだ?」
「え?」
「友人を見捨てて、ここでヤケ酒か? 華仙の奴も酷いが、お前も大概だな」
「・・・・・・お前が言うのか? 確か以前の異変の時、針妙丸を見捨てて逃げただろ?」
「私はいいんだよ、天邪鬼だから。だけど、お前は違うだろ?」
「・・・・・・」
「だったら、助けに行けばいいだろう」
「だけど・・・俺の力じゃ――――」
「そんなの、お前の弱音じゃないか。それとも、それを言い訳に逃げるのか?」
「それは・・・・・・」
「回りの奴がどんな事を言おうとも、自分がやりたい事を貫け。私が言いたい事は、それだけさ」
正邪はそう言って、ミスティアに注文をし始める。
一方ジンは、正邪の言葉を聞いた瞬間、目に活力が戻る。そして財布を置いて、走り去って行った。
「あ、ジン財布――――」
「いいんだよ放っておいて。それよりも、ナツメウナギまだー?」
そんな事を言いながら、正邪はミスティアに注文を頼むのであった。
(せいぜい頑張れよ。そうじゃないと、私が退屈なんだよ)
密かに、彼女なりのエールを心の中で送って―――。