東方軌跡録   作:1103

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今回の茨歌仙の話しなのですが、かなり内容を変えています。
長くなってしまったので、分割しています。


雷トカゲとジン 前編

梅雨が明け、日差しが強くなり始めた幻想郷。

そんなある日の事、魔理沙が博麗神社に遊びに来ていた。

 

「今日も暑いな~、こんなんじゃ蒸し焼きになるぜ」

 

「梅雨明けなんて、いつもこうでしょ」

 

「それはそうだけどよ・・・ん? そう言えば、ジンの姿が見えないみたいだが?」

 

そう言って、境内を見回す魔理沙。確かにそこには、ジンの姿がなかった。

 

「華仙のところで修行に行ってるわ。もうかれこれ、一ヶ月は帰って来てない」

 

「一ヶ月!? おいおい・・・もしかして逃げられたんじゃ――――」

 

「んな訳あるか! ちゃんと、一日に一回は陰陽玉を通して連絡して来るわよ! ただ―――」

 

「ただ?」

 

「何か隠しているような感じなのよ・・・・・・」

 

「ほほう、男が隠し事をするのは一つだけだぜ」

 

「一体それは?」

 

「新しい女! これに限る! 今頃ジンは、華仙とあーんな事や、こーんな事をしているに違――――」

 

「封魔陣!」

 

「ちょ!? 冗談! 冗談だぜ霊夢!」

 

魔理沙は、霊夢が放った封魔陣を慌てて避けた。

 

「これ以上馬鹿な事を言うんだったら、夢想天生よ」

 

「悪かったぜ。謝るから、そんなに怒るなよ」

 

「ったく・・・ん?」

 

霊夢はふと、空を見上げる。入道雲が徐々に大きくなっている様子が見えた。

 

「これは降るわね・・・早めに帰った方が良いわよ魔理沙」

 

「ああ、そうする」

 

そう言って魔理沙は、箒に股がり、飛んで行った。霊夢も、雨に備えて片づけ始める。

 

「あーあ、こんな時にジンがいてくれたら・・・一体何をしているのかしら」

 

そんな事をぼやきながら、片づけを始める霊夢であった。

 

―――――――――――

 

積乱雲の中。そこには鬼人になっているジンと、一匹のトカゲが戦っていた。

 

「ギィー!」

 

 

「土獸“大糢の壁上土”!」

 

トカゲが放った雷を、ジンは土獸を召喚し、その土獣が生み出した土の楯で防いだ。

 

「ギュウ!?」

 

「そう何度もくらうか!」

 

ジンは再び、土獸を操り、土の槍をトカゲに目掛けて放つ。

 

「ギィー!」

 

するとトカゲは、先程より強い雷を放ち、土の槍を消滅させる。

 

「しま――――」

 

雷はそのまま、土の楯をも打ち砕く。その衝撃で、ジンは落下していった。

その様子を、龍の子の背に乗って見ていた華仙がいた。そして、ジンが落下した場所に向かう。

 

「これで、二十一回目よ。いい加減諦めたらジン?」

 

華仙は、撃墜されたジンを見て、厳しめ言うのであった。

 

「悪いが・・・・・・この程度で諦めるつもりは無い」

 

そう言って、立ち上がろうとするが、怪我の影響で、上手く立ち上がらなかった。

 

「そんな怪我で無理をしないの」

 

そう言って、華仙はジンに手を差しのべる。ジンはその手を取り、何とか起き上がった。

 

「いてて・・・・・・」

 

「毎回毎回、酷いやられ方ね。いい加減、ライの事は諦めなさい」

 

ライ。それは先程ジンが戦っていたトカゲである。

ライは妖でありながら、強い力を持ち、ゆくゆくは龍になれる逸材と華仙は言う。

諦めなさい。という華仙の言葉に、ジンは首を横に振る。

 

「さっきも言ったが、そう簡単に諦めるつもりは無い」

 

「はあ・・・変なところで頑固ね貴方は」

 

「華仙が薄情なだけだ。試験を受けさせておいて、不合格だと判断したら、殺すなんて」

 

ジンがライと戦うのは、とある理由があった。

ライとの出会いは、怪我をしていたところをジンが拾い、手当てしたのが切っ掛けであった。

最初はジンになついていたが、華仙がライの才能に目をつけ、ライを龍にしようと画策したのである。

結果、力を得たライは増長し、華仙でも手がつけられなくなってしまった。そこで華仙は、ライを処分する事にしたのだが、これにジンはもう反対。そして、ライを戒めようと、この一ヶ月間ライに戦いを挑んでいたのである。

 

「ライは、龍になるにはあまりにも短絡的だったのよ。だから、今のうちに処分しないと、いつか被害が出るわ」

 

「それは分かっている。だけど、何も殺す必要は無いだろ」

 

「殺すのが、一番確実なのよ。懲らしめた程度では、また同じ事を繰り返すわ」

 

「そんなの、やってみないと分からないだろ!」

 

「わかるわ。私は貴方より何百年も生きているのよ」

 

「それは華仙の理屈だ。俺には関係ない」

 

「まったく・・・それなら、気がすむまで続けなさい。だけど、後悔するのは貴方の方よジン」

 

そう言って、華仙は龍の子に乗って飛び去って行った。それをジンは、睨むように見送った。

 

―――――――――――

 

華仙の屋敷。ジンは怪我の治療をしている一方、華仙は小町と屋根の上で話をしていた。

 

「やっぱり・・・私のせいかしら?」

 

「当たり前でしょ、何を今さら言っているんだい?」

 

「うぐっ、はっきり言うわね・・・・・・」

 

「そりゃそうだよ。あんな仲良かったジンとライが戦う事になったのは、ひとえにお前さんが余計な事をしたからだろう?」

 

「ぐっ・・・・・・」

 

「ライに龍の試験をさせておいて、手に余ると判断したら処分するなんて、身勝手にも程があるんじゃないかい?」

 

「そ、それはその・・・・・・」

 

「他人に説教する前に、自分を見つめ直したらどうなんだい? 仙人様?」

 

「はい・・・おっしゃる通りです・・・・・・今回の事態は、私の欲が招いたことです・・・・・・」

 

華仙は肩をガックリと落とした。今回の件は、自分が招いたことだと、彼女自身も自覚しているようである。

そんな華仙に、小町は難しい表情をして言う。

 

「しかし・・・困った事態だね。ジンには悪いけど、ライの処分を急いだ方が良いよ」

 

「それはどういうこと?」

 

「近々、里に死人が出るかも知れないんだよ。

里の人間の何人かは、余命時間が尽きそうなんだ」

 

小町の言う余命時間とは、その人が生きられる時間である。その時間が無くなると、その人物は問答無用で死んでしまう、いわば死へのカウトダウンである。

通常は、寿命分の時間はあるのだが、外的要因でその時間が一気に減る場合もある。逆に、その外的要因を取り除ければ、もとの時間に戻るのである。

 

「つまり、ライが人を襲うと?」

 

「はっきりと分からないけど、ライが力を得た辺りから、時間が減ったから、ライが関わっているのは間違いないね」

 

「そう・・・・・・」

 

「私は死神だから、あまり人の生き死には関与はしないよ。これは、ただの友人としての忠告さ」

 

「・・・・・・ありがとう小町。貴女のおかげで、覚悟を決めたわ」

 

「いいのかい?」

 

「ええ、例えジンに愛想をつかれたとしても、私がやらないと。彼は優しすぎるもの」

 

「そうかい・・・辛い決断だね」

 

心配そうに言う小町に、華仙は微笑み返した。

 

―――――――――――

 

次の日。人里は朝から大騒ぎになっていた。ジンと華仙も、その騒ぎに駆けつけていた。

 

「これは一体・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

二人が見た物は、全焼している空き家であった。

ジンは回りの人に、何があったか訪ねた。

 

「一体何があったんだ?」

 

「よく分からんが、今日の明け方、突然空き家が燃えたんだ。それも一瞬で。

あれは普通の火事ではないな、恐らく妖の仕業だろう」

 

「妖?」

 

「ああ、家が燃え尽きる瞬間を見た奴の話によると、光の玉が空き家に近づいて、次の瞬間に燃えだしたんだってよ。まあ、この燃え方を見れば、一目瞭然だけどよ」

 

「光の玉・・・いや、まさかそんな・・・・・・」

 

「ジン、少し話があるわ」

 

そう言って、華仙はジンを連れて、人がいない路地裏に連れて行き、真剣な表情でジンに言った。

 

「ジン、貴方に悪いけど、今夜ライを処分するわ」

 

「なっ!? いきなりどうして!?」

 

「貴方も理解しているでしょ? あれをやったのは、ライだという事を」

 

「そ、そんな筈が! あいつがそんな事を――――」

 

「なら、貴方の能力で見てみればいいでしょ? それではっきりするわ」

 

「くっ・・・・・・」

 

ジンは、悔しいそうに俯いた。それを見た華仙は、小さくため息をつく。

 

「認めたく無いのは分かるけど、人里に被害が出た以上、黙って見ている訳にはいかなくなったのよ。それはわかるでしょジン?」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

「このままだとライは、人を殺めるわ。その前に、ライを狩る必要があるのよ」

 

華仙はいつも以上に冷淡に、“ライを狩る”と言った。

その言葉を聞いたジンは、押し留めていた感情を露呈する。

 

「・・・・・・ふざけんなよ」

 

「ジン?」

 

「ふざけんな! こんな事になったのは、お前のせいじゃないか! 力を持っているからっていう理由で、試験を受けさせて、不合格だから殺す? そんなの全部、お前の身勝手だろ!」

 

「っ・・・・・・」

 

ジンは華仙の胸ぐらを掴み叫んだ。

それは普段あまり表に出さない、ジンの激しい怒りであった。

 

「はぁー、はぁー、はぁー・・・・・・」

 

「ジン・・・私は―――」

 

「・・・・・・ごめん。当たってしまって・・・わかっていたんだ。このままだと、人里が被害が出ることも、華仙の言っている事が正しい事も」

 

「ジン・・・・・・」

 

ジンは、華仙の胸ぐらをゆっくりと離した。しかし、彼の表情は、失意に染まっていた。

 

「少し・・・・・・頭を冷やしてくる」

 

そう言って、ジンは力無く、その場をフラフラと去って行った。その様子を、華仙はただ見送る事しか出来なかった。

 

―――――――――――

 

華仙から別れてから、かなり時間が過ぎ、夕方になっていた。

ジンは、ミスティアの屋台で酒を飲んでいた。

かなり飲んでいたのか、額には立派な鬼の角が生えていた。

 

「女将・・・もう一杯」

 

「もう飲み過ぎよ。そのくらいにしておいた方が・・・・・・」

 

「飲まなきゃ・・・やってやれん」

 

「もう、一体どうしちゃったのよジン? いつもの貴方らしく無いわよ?」

 

「うるさい・・・いいから、酒をよこせ」

 

「はあ・・・もう酒は無いわよ」

 

「そうか・・・・・・」

 

そう言って、ジンは何も言わなくなってしまった。ミスティアは、絶望しきっているジンを見て、どうしたらいいか分からずにいた。

そんな時に、一人の人物が屋台にやって来た。

 

「おーい女将、ナツメウナギを―――って、ジンじゃないか?」

 

「正邪・・・・・・?」

 

現れたのは正邪であった。

正邪は、ここにジンがいる事に驚き、そのまま彼の隣に座った。

 

「華仙のところで、修行していたんじゃなかったのか? さてはお前、逃げ出したな?」

 

「・・・・・・」

 

「おい、なんとか言えよ」

 

「・・・・・・」

 

「一体どうしたんだこいつ?」

 

正邪はミスティアにも訪ねるが、彼女も事情がよくわかっておらず、首を横に振るのであった。

 

「やれやれ・・・・・・ジン、何かあったか、話してみな」

 

「・・・・・・正邪には、関係ないだろ」

 

「そりゃ無いけどさ、そんな辛気臭い顔をしてたら、こっちが迷惑なんだよ。何処かへ行くか、話すか、どちらにしな」

 

「なんだよそりゃ・・・・・・」

 

「お前は、そうやってなんでも溜め込むから駄目なんだよ。たまには、吐き出さないと、いつか破裂するぞ?」

 

正邪の言葉に一理あると感じたジンは、彼女に全てを話した。

 

「ふんふん、なるほど・・・それで? お前はなんでここにいるんだ?」

 

「え?」

 

「友人を見捨てて、ここでヤケ酒か? 華仙の奴も酷いが、お前も大概だな」

 

「・・・・・・お前が言うのか? 確か以前の異変の時、針妙丸を見捨てて逃げただろ?」

 

「私はいいんだよ、天邪鬼だから。だけど、お前は違うだろ?」

 

「・・・・・・」

 

「だったら、助けに行けばいいだろう」

 

「だけど・・・俺の力じゃ――――」

 

「そんなの、お前の弱音じゃないか。それとも、それを言い訳に逃げるのか?」

 

「それは・・・・・・」

 

「回りの奴がどんな事を言おうとも、自分がやりたい事を貫け。私が言いたい事は、それだけさ」

 

正邪はそう言って、ミスティアに注文をし始める。

一方ジンは、正邪の言葉を聞いた瞬間、目に活力が戻る。そして財布を置いて、走り去って行った。

 

「あ、ジン財布――――」

 

「いいんだよ放っておいて。それよりも、ナツメウナギまだー?」

 

そんな事を言いながら、正邪はミスティアに注文を頼むのであった。

 

(せいぜい頑張れよ。そうじゃないと、私が退屈なんだよ)

 

密かに、彼女なりのエールを心の中で送って―――。

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