東方軌跡録   作:1103

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今回は小鈴メインの話しです。ぶっちゃけ、前話のピブロフィリアの小説は、この話を書くためのものでした。



ビブロフィリアのデート  準備編

本居小鈴は、人生最大の悩みに直面していた。

 

「う、うーん・・・・・・」

 

机に向かってペンを持っているのだが、ペンは完全に止まっており、ノートは殆ど白紙であった。

やがて小鈴はペンを置き、机に俯せになった。

 

「・・・・・・続きが、思いつかない・・・・・・」

 

本居小鈴―――作家名は鈴本織子。彼女は今、スランプに陥っていた。

 

―――――――――――

 

ここは稗田の屋敷。小鈴は友人の阿求に相談をしていた。

 

「話が浮かばない? スランプってこと?」

 

「そうなのよ・・・なんか、上手く話が纏まらないのよ・・・・・・何か、いい方法無いかしら?」

 

「そうは言われてもねぇ・・・・・・」

 

「最初はいろいろと思いついたんだけど、最近はなかなか思いつかなくなってきちゃって・・・・・・」

 

そう言って、小鈴はしょんぼりと俯く。そんな様子の小鈴を見て、阿求はなんとかしてやりたいと思った。

 

「・・・わかった。私の方も、何か考えてみるわ」

 

「あ、ありがとう阿求! 持つべきものは友達ね♪」

 

「そんなに頼られても困るけど・・・・・・」

 

こうして阿求は、小鈴のスランプ脱却に、力を貸す事になった。

 

 

小鈴が屋敷を去った後、阿求は一人考えていた。

 

(さて・・・阿求のスランプ解消にいい方法はと――――)

 

阿求は、自分が現在ある知識を全て引き出し始めた。

しかし、スランプを解決するいい方法は存在しなかった。そもそもスランプの原因も、解決方法も人それぞれなので、確実な解消方法は存在しないのが現実である。

 

(はあ・・・まいったな。他の誰かに相談しようかしら? でも、小鈴が織本鈴子だというのは明かせないのよね・・・・・・)

 

そんな事を考えていると、屋敷の使用人が部屋にやって来た。

 

「阿求様。例の物を御持ちしました」

 

「御苦労様。そこに置いといてちょうだい」

 

「はい。それと、こちらの方も」

 

そう言って、使用人は茶葉が入った瓶を阿求に差し出した。

 

「これは?」

 

「先程、ジン様が御越しになられまして、いい茶葉が手に入ったから、御裾分けにと」

 

「ジンさんから・・・・・・ああ!」

 

阿求はジンの名前を聞いて、思わず立ち上がった。これには、使用人は驚いていた。

 

「あ、あの、一体どうなされ――――」

 

「そうよ! ジンさんも正体を知っているんだから、話しても大丈夫じゃない! ねえちょっと!」

 

「は、はい?」

 

「ジンさんは今何処に!?」

 

「え、えっと・・・茶葉を渡した後、直ぐに帰られました・・・・・・」

 

「何ですって!? こうしちゃいられないわ!」

 

「あ、あの! 一体どちらに!?」

 

「ジンさんのところよ! 人里にいる間に相談しないと、後がいろいろと面倒になるのよ!」

 

そう言って、阿求は部屋を飛び出して行ってしまった。残された使用人は、何が何やらと、分からずにいた。

 

―――――――――――

 

人里の中を歩いているジンは、霊夢から頼まれた買い物を済ませ、帰路につこうとしていた。

 

「さて、霊夢に頼まれた物も買ったし、そろそろ帰るぞライ」

 

「ギィー」

 

肩に乗っているライにそう言って、二人は帰ろうとする。その時、後ろの方から呼ぶ声が聞こえた。

 

「ジンさーん! 待ってくださーい!」

 

「ん?」

「ギィ?」

 

呼ばれたのに気づいたジンは、後ろを振り向く。そこには走って来る阿求の姿があった。

彼女は、ジンの側に辿り着くと、息絶え絶えとなっていた。

 

「はあ・・・はあ・・・ジ、ジンさん・・・・・・少しお話が・・・・・・」

 

「おい、大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫です・・・・・・少し休めば・・・・・・」

 

「それなら、近くのカフェでいいか? そこなら、落ち着けるだろ」

 

「で、でも・・・今私、お金が・・・・・・」

 

「そんなの、俺が出す。それに、こんなところで立ち話したら、熱中症になるぞ」

 

現在は夏真っ只中、走って来たせいもあって、阿求は汗をびっしりかいていた。おそらくこのままだと、ジンのいう通り、熱中症になるか、脱水症状になるだろう。

 

「そ、そうですね・・・それでは、お言葉に甘えます」

 

「ああ、そうしよう・・・ん? どうしたライ?」

 

「ギィ、ギィー」

 

「“帰らなくていいのか?”だって? まあ、少し寄り道しても大丈夫だろ。それに話を聞くだけだ」

 

「ギィー、ギィー」

 

「何? “そんな事言って、また余計な事に首を突っ込むのか”と? まあ、これは性分だからな」

 

「ギィ・・・・・・」

 

ジンのお節介焼きに、ライは呆れ果てるのであった。

 

―――――――――――

 

二人と一匹が入ったのは、お洒落な店内と美味しい紅茶とコーヒーで有名なカフェである。

ジンはコーヒー、阿求は紅茶、ライはケーキを頼んでいた。

 

「それで、俺に話とは?」

 

そう切り出すジンに、阿求は紅茶を置いて話始めた。

 

「実は・・・鈴本先生についてです」

 

鈴本先生という言葉に、ジンは相談内容が小鈴の作品絡みだと理解した。

 

「何か問題があったのか?」

 

「作品事態に問題はありません。ただ本人が――――」

 

「彼女がどうかしたのか?」

 

「実は・・・・・・スランプに陥っているらしいんです」

 

スランプという言葉に、ジンは難しい表情をする。

 

「スランプか・・・うーん、それはどうしようも無いんじゃないか?」

 

「そんな無責任な事を言わないでください。貴方も一枚噛んでいるんですから」

 

「そうは言われても・・・そもそも、どんな感じでスランプなのか分からんぞ」

 

「そうですね・・・話の続きが思いつかないとは言っていましたね」

 

「話の続きって・・・確か、主人公がデートする辺りだったよな?」

 

ジンはピブロフィリアの恋のあらすじを思い出す。

“主人公の少女は、青年に誘われ、デートをする事になった。

初めてデートは果たして、無事成功するのであろうか?”というところである。

 

「そうなんですよ。中途半端で終わっているから、話の続きが気になって・・・・・・」

 

「うーん・・・・・・」

 

「どうかしましたか?」

 

「あまり根を詰めるのは良くない。すこし、息抜きさせた方がいいんじゃないか?」

 

「ふーむ・・・それなら、ジンさんにお願いしても良いですか?」

 

阿求のその言葉に、ジンは彼女の考えているか、わかってしまう。

 

「・・・・・・なんとなくだが、阿求の考えがわかった」

 

「はい♪ おそらくジンさんが考えている通りですよ♪」

 

「・・・・・・まあ、無関係では無いからな。それでスランプを抜け出せるのなら、お安い御用だ」

 

「ええ、あの子をお願いしますジンさん」

 

阿求は微笑みながら、紅茶を口にする。

こうしてジンは、鈴本先生もとい、小鈴をデートに誘う事になった。

 

―――――――――――

 

翌日。小鈴がいつも通りに店番をしていると、ジンが店にやって来た。

 

「あ、ジンさんいらっしゃい。今日のご入り用は?」

 

「こんにちは小鈴。今日は本の買い取りを頼みたい」

 

そう言って、何冊かの外来本をカウンターに乗せる。

 

「少々お待ちください」

 

そう言って小鈴は眼鏡をかけ、本の鑑定を始める。

その間ジンは、店の本を見るフリをして、小鈴に話し掛ける。

 

「・・・・・・最近、スランプみたいらしいな」

 

「――――」

 

ジンの言葉に、小鈴の手が止まってしまった。

言葉を選び間違えたと思ったジンであったが、そのまま続ける事にした。

 

「阿求から話を聞いた。続きが思いつかないって?」

 

「はい・・・そうなんですよ・・・・・・どうしても、あの続きが思い浮かばなくて」

 

「そんなに急ぐ必要は無いと思うぞ。小鈴のペースで書けば――――」

 

「でも、私の小説を楽しみにしている人達がいるんです。その人達の為にもって・・・・・・」

 

「だからって、無理に書いても良いものはできないとおもうぞ? それこそ、読者の期待を裏切る事になる」

 

「でも・・・・・・」

 

小鈴は俯いて、何も言わなくなってしまった。そんな小鈴に、ジンは例の話を持ち出す事にした。

 

「それなら、今度どこかに遊びに行かないか?」

 

「え?」

 

「行き詰まったら、気分転換をするのが一番だと思うぞ」

 

「う、うーん・・・・・・」

 

小鈴は少し悩んだ後、躊躇いながら答えた。

 

「あの・・・本当にいいんですか?」

 

「もちろんだ。それに前に言ったろう? 困った時は助けるって」

 

「ジンさん・・・ありがとうございます」

 

小鈴は微笑みながら、ジンに礼を言った。

 

 

ジンが帰った後、小鈴は気分が良く、鼻歌交じり店内を掃除していた。

 

(ジンさんと遊びに行くなんて、初めてだなあ。まるでデートみたい・・・・・・ん? デート!?)

 

小鈴は持っていたはたきを落としてしまう。そして、さっきまでのご機嫌だった様子は、みるみる青ざめていった。

 

「ど、どうしよう・・・デートなんかした事ないのに・・・・・・」

 

本居小鈴。人生最大の悩みが、更新されたのであった。

 

―――――――――――

 

稗田の屋敷に再び訪れた小鈴は、先程の事を阿求に相談していた。

 

「どうしよう阿求! 私、デートをしたことなんて無いのに!」

 

取り乱している小鈴に対して、阿求は涼しげな顔をしていた。

 

「別にいいじゃない。行って来ればいいでしょ?」

 

「そんな事言ったて・・・・・・」

 

「もう約束したんでしょ? なら、腹を括りなさい」

 

「で、でも私、デートに行くような服を持っていない・・・・・・」

 

「別に、普段の服装でいいじゃない。なんなら、私の服を貸すわよ?」

 

「それはありがたいけど・・・・・・」

 

「あーもう! 焦れったい!

小鈴! この際はっきり聞くけど! 貴女、ジンさんの事が好きなんじゃないの!?」

 

「・・・・・・え?」

 

業を煮やした阿求は、小鈴を指しながら、はっきりと言った。一方小鈴は、最初阿求が何を言ったのか理解出来なかったが、理解したとたんに顔を真っ赤にした。

 

「な、何を根拠によ!?」

 

「あんたが書いた小説の登場人物の青年。モデルはジンさんでしょ?」

 

「ギクッ!」

 

「巧妙に隠されているけど、私をごまかせないわよ」

 

「そ、それは・・・男の知り合いが、ジンさんだけだったからなだけで・・・・・・」

 

「ふう・・・まあ、そういう事にしておいてあげる。それはさておき小鈴」

 

「な、なに?」

 

「貴女はジンさんとデートをするのが嫌なの?」

 

「嫌じゃ・・・無いけど・・・・・・」

 

「それなら問題無いじゃない。思いっきり楽しんできなさい」

 

「他人事だと思って・・・・・・」

 

小鈴は恨めしそうに、阿求に言うのであった。

 

―――――――――――

 

デート前日の夜。小鈴は眠れなかった。

楽しみにしている部分もあるが、やはり緊張の方が強かった。

 

(ううっ・・・眠れない・・・・・・こうなったら、本でも読んで、気持ちを落ち着かそう)

 

そう思い、一冊の本を手に取る。

その本の内容は、平凡な青年が、全てを失って、失意のどん底に落とされながらも、精一杯生きるという話である。

家族を亡くし、友人に裏切られながらも、青年は人を信じる事を止めなかった。

そうして青年は、いろんな人と絆を深め、立ち直って行くのであった。

 

(私だったら、頑張れないな・・・・・・)

 

そんな青年の在り方は、ジンに似ているなと思う小鈴であった。

 

 

 

「小鈴ー! いい加減起きなさい! 友達と遊びに行くんでしょ!」

 

「んあ?」

 

母親の声で目を覚ます小鈴。どうやら読んでいる途中で寝てしまったらしい。

 

「おはよう・・・お母さん・・・・・・」

 

「おはようじゃないわよ。こんな時間まで寝ていて大丈夫なの?」

 

「・・・・・・へ?」

 

母親の言葉で、小鈴は時計を見る。約束の時間ギリギリの時刻であった。

 

「ギニャー!?」

 

小鈴は奇声を上げながら、急いで支度を始めた。

果たして、デートは上手くいくのであろうか?

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