人里の広場では、ジンはただ一人、小鈴の到着を待っていた。
辺りを見回してから、腕時計を見ると、約束の時間から二十分は過ぎていた。
(うーん・・・これは何かあったか? 迎えに行った方が―――いや、すれ違いになったら最悪だ)
外の世界では、携帯やスマートフォンなど、すぐに連絡取れる便利な道具があるが、幻想郷ではそんな物は無い。はぐれたり、すれ違いなってしまうと、会うのが格段と難しくなってしまう。
改めて、外の世界の便利さを実感するジンであった。
(仕方ない。もう少し待つか・・・・・・)
そして、更に十分が経過した時、向こうから息を切らせて走って来たのが見えた。
「ジ、ジンさーん!」
そう叫びながら、ジンの元に来た小鈴。既に息切れ切れであった。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・す、すみま・・・せん・・・・・・」
「大丈夫か?」
「はあ・・・はあ・・・はい・・・なんとか・・・・・・」
「ゆっくりでいいから、深呼吸だ」
「すぅー・・・はぁー・・・すぅー・・・はぁー・・・」
ゆっくりと深呼吸をする小鈴。次第に、落ち着きを取り戻していった。
「落ち着いたか?」
「はい、おかげさまで・・・・・・」
「遅刻したみたいだが、何かあったのか?」
「ええと・・・実は――――」
小鈴は恥ずかしそうに、遅刻した理由を話す。するとジンは、思わず笑ってしまった。
「はは、随分と可愛らしい理由だな」
「笑うのは酷いですよ! こっちは大変だったんですから!」
「笑ってすまん。でも、夜更かししたの方が、悪いんじゃないか?」
「むぅ~、ジンさんがそんな意地悪する人だとは思いませんでした!」
そう言って、頬を膨らませてそっぽを向く小鈴。流石に意地悪し過ぎたと思ったジンは、素直に謝る事にした。
「悪かった。機嫌を直して欲しい」
「まあいいですけど・・・・・・ところで、今日は何処に行くんですか?」
「ああ、今日はキューちゃんショーを見に行こうと思っている」
「ええ!? キューちゃんショーのチケットを手に入れたんですか!?」
幻想郷にやって来たアザラシのキューちゃん。彼のショーは人気が高く。チケットは入手するのが非常困難で、プレミア価格になる程である。
「にとりに頼んだら、チケットを貰ったんだ」
「ええ!? そんな簡単に!?」
「にとりと知り合いだからな、無理な事を言わなければ、それなりに融通してくれるんだ」
「凄いですよジンさん! 普通だったら、なかなか手に入らない物なんですから!」
小鈴は目を輝かせながら、チケットを手にした。それはまるで、欲しい玩具を手にした子供のようであった。
「さっそく行きま――――」
その時、小鈴のお腹の音が小さく鳴った。それを聞いた小鈴は、顔を真っ赤に、ジンは小さく噴き出す。
どうやら、慌てて来たせいで、朝食を食べていなかったらしい。
「くくっ、見に行く前に、腹ごしらえだな」
「はい・・・・・・」
二人は近くの喫茶店に入る事にした。
―――――――――――
喫茶店に入り、早めの昼食を取る二人。ジンはふと、ある事に気がついた。
「そう言えば、いつもの服じゃないな」
「え? ああ、これは阿求に借りたんです。その・・・デ、デートをするのなら、ちゃんとおめかししなくちゃと思って」
「そうか・・・俺も少し気づかった方がよかったな。いつも通りの服装で来てしまった」
「いえいえ! ジンさんはその・・・普段通りでもカッコイイと思いますよ・・・・・・」
「あ、ありがとな。そう言われると、嬉しいと思う」
その後、気恥ずかしかったのか、二人の会話が途切れてしまい。やや、気まずい空気が流れてしまった。
(ううっ、慣れないことを言うんじゃなかった・・・恥ずかしいな・・・・・・)
(ストレートに言われるのは嬉しいが、少し照れるな・・・もう少し、身なりに気を使った方が良かったか・・・・・・)
そんな気まずい空気をどうにかしようと、ジンが最初に切り出した。
「そ、そう言えば知っているか? 最近のショーだと、途中で抽選があるらしい」
「抽選? 何の抽選ですか。」
「ショーに参加出来る抽選だ。チケットのしたに、番号が書かれているだろ?」
「どれどれ・・・あ、本当だ」
「この抽選に当たったら、特別にショーに参加出来るそうだ」
「そうなんですか! それは楽しみです♪」
「と言っても、当たるのは一人だけだからな、あまり期待しない方が良いだろ」
「もう、どうして夢の無いよう事を言うんですか?」
「こればっかりは運だからな。俺はあまり、自分の運を信じないからな」
そう言って、少し寂しそうな表情をするジン。そんな彼の表情を見た小鈴は、聞かずにはいられなかった。
「・・・・・・どうして、信じないですか?」
「・・・・・・昔から、運が無い方でな。こういうのに、当たった試しが無い。だから、過度な期待をしないだけだ。運だけは、どうしようも無いからな」
「そんな事は無いですよ。もしかしたら、この抽選で当たるかも知れませんし」
「はは、そうかも知れないが、確率的に無理かも知れないな」
「そんな事を言うから、当たらないんですよ」
「違いない。さて、そろそろ行こう。ショーに遅れるからな」
「あ、はい」
そう言って立ち上がり、会計を済ませるジン。小鈴もに立ち上がり、一緒に店を出た。
―――――――――――
おいてけ堀。そこでは夏の間だけやる。キューのショーが行われていた。
愛らしいキューの姿を見ようと、観客席はいつも満杯であった。
「さあ、皆さん! 一緒にキューちゃんを呼びましょう! せーのー!」
「「「「キューちゃーん!!」」」」
「キュ♪」
「「「「キャー!」」」」
観客の呼び声と共に、キューが堀から顔を出した。キューの姿を見た観客達は、歓声上げる。
「見てくださいジンさん! キューちゃんですよ! キューちゃん!」
「あ、ああ、そうだな・・・・・・」
「もうテンション低いですよ。せっかくキューちゃんのショーなのに」
「わ、悪い」
ジンは小鈴のテンションに圧されながら、どうにか返事をした。
元々、物静かである彼は、こういう雰囲気は少し苦手なのである。しかし、喜ぶ小鈴の姿を見て、来て良かったと素直に思っていた。
「さーて、皆さんお待ちかねの抽選の時間だよー! 手持ちのチケットのご用意を!」
「ジンさん! チケット! チケット!」
「そう慌てるな」
小鈴に急かされながら、ジンはチケットを取り出した。そして、抽選が始まる。
「それでは! くじを引きます! えーと・・・五の七十八!」
司会者の河童が番号を言うと、観客達が一斉に、チケットの番号を確認始める。
ジンも、一応確認するが、やはり外れであった。
「外れだな。小鈴の方はどうなんだ?」
「・・・・・・あ」
「ん?」
「当たり・・・です・・・・・・」
小鈴は手を震わせながら、ジンにチケットを見せる。そこには確かに、抽選の番号と同じ物であった。
「良かったな小鈴。さあ、行って来い」
「で、でも・・・・・・」
「せっかく抽選に当たったんだから、楽しまないと損だろ」
「そ、それはそうですが・・・・・・」
「五の七十八の方、いませんかー?」
「ほら、司会者が困っているだろ。早く行って来い」
「わ、わかりました・・・・・・」
小鈴は、心苦しく感じながらも、舞台の方へと向かって行った。
「すみませんが、チケットを確認させてください」
「はい」
「少々お待ちください・・・・・・はい、大丈夫です。お名前は?」
「も、本居小鈴です」
「小鈴さんですね。それでは、会場の皆さん! 小鈴さんに拍手を!」
司会者がそう言うと、会場中が小鈴に拍手を送った。
その後小鈴は、緊張しながらも、ショーに参加し、無事成功させるのであった。
―――――――――――
ショーは終わり、会場を後にする二人。
小鈴はとても楽しかったようで、上機嫌であった。
「ああ・・・キューちゃん、凄く可愛かったな・・・・・・ジンさんもそう思いますよね?」
「可愛いと思うが、俺としては、あたふたしていた小鈴の方がおもしろかったな」
「もう! どうしてそんな事を言うんですか!?」
「何となくかな?」
「今日のジンさん、凄く意地悪ですね。もしかして、遅刻した事を怒ってます?」
「ん? 別にそんなつもりは無いんだが・・・まあ、少し意地悪し過ぎたな。悪かった小鈴」
「い、いえ、そんな謝られても・・・あ」
小鈴はふと、ある物を見つけた。それは限定販売の、特製キューちゃん縫いぐるみであった。
とても精巧に作られており、キューの愛らしいさを上手く表現出来ていた。
「いいな・・・・・・」
「ん、あれが欲しいのか?」
「あ、いえ。少し良いなと思っただけで・・・・・・」
小鈴が遠慮するのには理由があった。それは、普通の縫いぐるみにしては値段が高い事であった。それ故、買って欲しいと、口をさけてでも言えなかった。しかしジンは――――。
「買ってやるよ。せっかく来たんだし、思い出の品をねだっても、バチは当たらないと思うぞ」
「でも、悪いですよ・・・・・・」
「あれくらいなら許容範囲内だ。心配するな」
そう言って、ジンは売店に向かい、ぬいぐるみを買った。そして、それを小鈴に手渡す。
「はい、どうぞ」
「え、えっと・・・ありがとうございます・・・・・・」
「ああ、どう致しまして」
そう言うと、ジンは笑った。小鈴は何だが恥ずかしくなって、ぬいぐるみで顔を隠すのであった。
―――――――――――
デートから数日後。小鈴は今までのスランプが嘘かのように、小説の続きを書き上げ、それを阿求に見せていた。
「・・・・・・」
「ど、どうかな・・・・・・?」
不安そうに訪ねる小鈴。すると阿求は、小説を置いて、はっきり言った。
「ええ、今回もとてもおもしろかったわ。やっぱり、ジンさんとのデートが良かったのかしら?」
「ま、まあ、凄く楽しかったわ」
「そうでしょうね。この小説を読んでいても、良く分かるわ」
「え、分かるの?」
「もちろん。今回の話は、今までよりも、主人公の心理描写がとても良かったもの。まるで、その出来事を体験したかのようにね」
「そ、そうかな~? たまたまだと思うわ~」
小鈴は何とかはぐらかそうとするが、阿求の追求は止まらなかった。
「ところで小鈴?」
「な、なに?」
「ジンさんと、どこまでいったの?」
「ぶほぉ!? い、いきなり何を言うのよ!」
「だってこのシーン、主人公と青年がキスしているじゃない。まさか、本当にそこまでいったの?」
「そ、そんな訳無いじゃない! 何を言ってるのよ!」
「はあ・・・その様子だと、まだまだなようね・・・・・・」
「う、うるさいわね! そんな簡単に出来るわけ無いじゃない!」
「そうみたいね・・・まあ、一歩進んだとして、良しとするか」
そう言って、阿求はお茶を啜る。
こうして、小鈴のスランプは無事に解決したが、もう一つの悩みは、そう簡単に解決出来ないみたいである。