「おむにばす!」   作:七音

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五十鈴華編
第一話「わたくし、何か掴んだ気がします!」


 

 

 

「はぁ……。これから一体、どうしたものでしょう……?」

 

 

 わたくしこと五十鈴 華は、放課後の教室で黄昏ていました。

 サンダース大学付属高校との試合を控え、戦車道の練習にも一層励まなければならないのですが、どうしても気掛かりな事があります。

 練習中は頭から排除できるのですけれど、それが終わってしまうと、今みたいに溜め息が溢れて。

 本当に、悩みます……。

 

 

「どうしたの、華? そんな物憂気に溜め息ついちゃって。

 あっ! その気も無い男子に告白されて、どう断ろうか悩んでるとかっ?

 分かる、その辛さ、よぉ~く分かるよ~」

 

「満更でもない癖に、本当に分かるんですか?」

 

 

 そんなわたくしに、声を掛けてくる女の子が一人。

 同じクラスの友人で、戦車道でもチームメイトの、武部 沙織さんです。

 わたくしと同様に帰る所で、バッグを肩に腕を組んで頷いていました。

 なぜ彼女が得意気なのかと言えば、現在進行形で沙織さんは、大洗の男子分校に通う生徒――通称ライカさんの、猛烈アタックを受けているから。

 口ではあんな風に言っていますが、実は沙織さんもライカさんを憎からず思っているのは、顔を見れば明白だったり。

 ちょっと面倒ですわ……なんて、思わない事もないんですが、戦車道の仲間達は、みんなで生暖かく見守ろうと決めています。

 それはさて置き、わたくしの悩み事ですけれど……。

 

 

「お母様の事を考えていたんです。戦車道を選んだ事に後悔はありませんが、何か手立てを考えておかないと……」

 

「あー、そっかぁ……。難しい問題だよね、お家の事だし……」

 

 

 話は先日に遡ります。

 聖グロリアーナとの練習試合を、敗北という苦い形で終えたわたくし達は、罰ゲームのあんこう踊りを終えた後、アウトレットモールで買い物をしようとしていました。

 するとそこに、お母様が現れたのです。

 生け花、五十鈴流の宗家である、五十鈴 百合。

 奉公人の新三郎が引く人力車に乗っていたお母様は、わたくしが戦車道をやっていると聞くと、卒倒して仕舞われました。

 その後、実家で戦車道を選んだ事情を説明しましたが、お母様は納得してくれず、「二度と敷居を跨がないで頂戴」とまで、言われてしまって……。

 お母様を納得させられるだけの、力強い花を活けられたら、いつか分かってくれるとは思いますが、まだそれも手探り状態。

 このままで良いのでしょうか……と、考えてしまう訳なんです。

 

 

「華はさ、戦車道をやるって決めたけど、別に華道をやめたい訳じゃないんだよね?」

 

「はい。こう言うと聞こえが悪いかも知れませんが、わたくしにとって、戦車道は新たな自分を模索する為の道なんです。

 今までのわたくしでは活けられないような……。もっと力強くて、型破りな花を活ける為に一番良い選択肢が、戦車道だと思えたんです」

 

 

 華やかで繊細な華道とは真逆の、鉄と油の臭いにまみれる戦車道。

 それがお母様を怒らせた原因でもありますが、わたくしに足りない物がその中にあると感じたからこそ、戦車道を選んだのです。

 何か、戦車道で培ったもの……。経験や知識などを、生け花に活かせるようになれば……。

 とすると、やはり今のわたくしでは、経験も何も足りませんし、こんな事を考えるのは時期尚早なのでしょうか……?

 

 

「……華、本当に生け花が好きなんだね。なんか羨ましいな」

 

「え? 羨ましい、ですか?」

 

「うん」

 

 

 再び悩んでしまうわたくしへと、沙織さんは微笑み掛けてくれます。

 羨ましい……。こんな風に悩んでしまうのに? どういう事でしょう。

 

 

「だってさ、そんな風に夢中になれて、真剣に悩めるような趣味、私には無いもん。

 みんなで戦車道やるのは楽しいけど、のめり込んでる、って言うにはまだ早いし。

 それに、一つの事に夢中になるだけじゃなくて、真剣に悩んで戦車道まで選べた華は、やっぱり凄いよ!」

 

「沙織さん……」

 

 

 ギュ、と拳を握って、沙織さんは前のめりに褒めて下さいました。

 夢中になれて、真剣に悩める。

 言われてみれば、確かにわたくしは幸せ者なのかも知れません。

 もしも華道をしていなかったら、という想像も出来ないくらい、わたくしにとっての華道とは、切っても切り離せない物なんですから。

 やっぱり、悩んでしまうのは辛い部分もありますけれど、沙織さんの笑顔は、そんな事でヘコたれて居られない、と思わせてくれました。

 こんなに素敵な女の子なのに、どうしてモテないんでしょう?

 あ、違いました。沙織さんの良さに気付いている男性も一人居ますね、ライカさんが。

 

 

「とにかく、華はお母さんのこと見返してやりたいんでしょ? だったら、何も考えずにバーっと大っきな花とかを活けてみたら? ほら、芸術は爆発だー! 的に」

 

「生け花で爆発なんてしたら、トンでもない事になりそうですけど。剣山とかが飛び散って」

 

「物の例えよ! えと、か、形から入るみたいな?」

 

 

 大きく両手を広げる沙織さんに、わたくしは苦笑いしながら突っ込みます。

 こんな風に、ワザと大袈裟におどけてくれたり、励ましてくれる友人が居る。

 それだけでも、きっとわたくしは幸せ者なんでしょう。

 ……んん? あら。でも何か、沙織さんの発言に引っ掛かるものが……。

 

 

「形から入る……。形から……。形……」

 

「ぁれ……? 華ぁ……? ぉーい……?」

 

 

 何も考えずに大きな花を。芸術は爆発。形から入る……。

 耳に残る言葉を反芻し、こちらを覗き込む沙織さんを無視して考え続けた結果。

 わたくしの脳裏に、ある考えが閃きました。

 

 そう、形。形です!

 生け花とは文字通り、生きた花を飾り付けたり、複数の種類を組み合わせたり、形を整えたりして、観賞用の作品とする技術です。

 しかし、主役となる物は花でも、それを引き立てる道具が無ければ、良い作品は産まれないでしょう。

 その中でも特に重要なのが……花器です。

 花を活ける器とは、すでにそれ自体が芸術品でもあり、生け花と組み合わさることによって、より高度な次元へと作品を導いてくれます。

 

 今のわたくしに足りない物は、実力。

 けれど、それを花器で補うという事は、決して邪道ではありません。

 わたくしの求める力強い花と、それを受け止めてくれる花器。

 この二つが揃えば、きっとお母様を納得させられるはず!

 

 

「沙織さん!」

 

「ひゃい!?」

 

 

 沙織さんの手を取り、驚く彼女に、わたくしは感謝の気持ちを伝えます。

 

 

「ありがとうございます! わたくし、何か掴んだ気がします!」

 

「え? え? そうなの? ま、まぁ、男子にモテモテで女子力高めな私なら、人生相談なんてお手の物だよ! 困った事があれば、またいつでも頼って!」

 

「はい! 恋愛以外の事で頼りにさせて貰いますね!」

 

「うんう……ん!? 恋愛以外でってどういう事よぉ!?」

 

 

 何やら騒ぎ始める沙織さんを他所に、わたくしはまだ見ぬ花器へと想いを馳せます。

 サンダースとの試合は間近。具体的な行動に移すのは、試合を終えてからになるでしょう。

 それまでに具体的なデザインを考えて、描き留めておかないと……。

 

 わたくし、やって見せますわ!

 

 

 




 キングクリムゾン! 投稿までに掛かった四年近い月日を無かった事に出来たら良いな!
 はい。放置して申し訳ございませんでした。
 というか、この作品を覚えてくれている方は居るんだろうか……。
 いやね? プロットは本当に出来上がってるんですよ? 少なくともあんこうチームと愛理寿ちゃん、あとドゥーチェの分は(増えてるやん)。時間が無くって、劇場版見てプロット修正したりして、現実が筆者に厳しいだけで。
 今回はライカ君のような完全オリジナルEPではなく、原作であったはずだけど絶対に公式で掘り下げられないであろう、華さんの花器に関する事柄を、妄想力で膨らませました。
 なんとなーく詰まってましたが、いざ時間を置くとスラスラ書ける不思議。
 今さら需要も無いでしょうが、取り敢えず、書き始めたからには華さん編だけでも完結させます。一言でも感想を頂けたら、励みになります。
 短い期間ですけれども、宜しければ、またお付き合い下さい。
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