新人提督と電の日々   作:七音

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鹿島さん、荒れる

 

 

 

 

「う……ひっく……ふ、うっ……」

 

 

 鹿島の瞳から、大粒の涙が零れ落ちていた。

 はらり、はらりと。

 止めどなく溢れては、テーブルに跡を残す。

 桐林に休みを言い渡され、どれくらい経っただろう。

 敬愛する人物に戦力外通告された上、昨日、鹿島が気持ちよ~く眠っている間に、その敬愛する人物の、大切なものが奪われてしまった。

 ただただ、悲しくて、悔しくて。

 鹿島は握りしめていた拳を開き──

 

 

「どうして……。どうしてなの、提督さん……。っんく、っく……ぷはぁ! 間宮さん、ビールのお代わり、お願いしますっ!」

 

 

 ──勢いよく、ビールの大ジョッキを掴んで呷った。

 本日、三十五杯目である。

 時刻にして二二○○、場所は甘味処 間宮の座敷席。

 休みを言い渡されてから約九時間が経過しており、十五分に一杯は空にしている計算だ。

 鹿島の鬼気迫る姿に、いつもならまだ繁盛しているはずの店内に人影はなく、閑古鳥が鳴いている。

 出来るかぎり付き合おうと覚悟していた間宮と伊良湖だが、流石にもう我慢できず、鹿島を諌めようとした。

 

 

「あ、あの、鹿島さん? 今日はもうそろそろ控えた方が……」

 

「だって間宮さん、飲まずには居られないんですよぅ! 提督さんの、提督さんのおぉおおぉぉぉ……。伊良湖さんも悔しいでしょう!?」

 

「えっと、あの、お気持ちは分かりますけど、ビール自体が底を突きそうで……」

 

「だったら焼酎でもワインでもなんでもいいから、とにかくgive me アルコールー! この悔しさを忘れたいのぉーっ!!」

 

 

 テーブルに突っ伏し、空のジョッキでガンガン叩く鹿島。焼き鳥や唐揚げの皿が、その度に揺れて音を立てた。

 ポーラの口移し事件だが、事の詳細は省きつつも、ぶちゅーっとやってしまった事だけは、すでに鎮守府内に噂として駆け巡っている。

 発生源は、独自のルート(リベッチオ)から情報を仕入れた、艦隊のムードメーカーにしてトラブルメーカー。鹿島の対面に座る谷風だ。

 

 

「まぁまぁ、そんなこと言わないでさ。気が晴れるまで飲ましてやろーよ? な? あ、水割りもういっちょー」

 

「ううう、谷風さぁあぁぁん……。私の味方は谷風さんだけですぅうぅぅ……。うぃっく」

 

 

 グデングデンな鹿島を谷風が庇い、場の空気は二対二。

 こうなったら、九一の割合で薄めた物でも出そう。付き合っていたら身がもたない。

 と、そんな風に考えながら、間宮たちは諦めて厨房の方へ引き上げていく。

 遠ざかっていく背中を見送った谷風は、スンスンと鼻を鳴らす鹿島を見やり、なんの気無しに呟いた。

 

 

「にしても、鹿島秘書官はさ……。なんてぇか、女の子してるよねぇ」

 

「はい? それはまぁ、女の子ですから……?」

 

「いや、そうじゃなくって」

 

 

 不思議そうな鹿島の顔を見て、谷風自身も不思議に思う。

 確かに、目の前の彼女は女の子だ。

 恋をして、思いがけない出来事に落ち込む、ごく普通の。

 まぁ、ビールの大ジョッキを三ダースも空にするのは普通じゃないけれど、それは置いておくとして。

 何も知らない人が今の鹿島を見ても、軍艦の現し身──統制人格であるとは思わないだろう。

 

 

(もし、アタシが急に女の子しだしたら、提督はどんな顔するかねぇ)

 

 

 なんとなく、谷風は考える。

 桐林の悪友というか、茶々を入れる立ち位置を確立している自分が、“本気”になったら。

 戸惑うのは当然として、受け入れてくれるのか、それとも拒絶されてしまうか。

 頭の中で、彼の反応を想像し……ようとして、瞬間的に思考を中断した。

 それは鹿島や浜風、その他大勢の統制人格が担う役目。

 

 ──アタシの仕事じゃ、ない。

 

 

「いやいや、なんでもない! さっ、もういっちょ乾杯と行こうじゃーないかぁー!」

 

「あ、はい。そうですね! では……」

 

 

 話を切り上げ、いつの間にか運ばれてきた新しいグラスを持った谷風は、乾杯を呼び掛ける。

 若干、腑に落ちないものを感じつつも、鹿島は新しく得たハイボール(極薄)のグラスを掲げ……。

 

 

「かんっぱぁああいっ!」

 

「かんぱーい!」

 

「カンパァ~イ」

 

 

 “三つ”のグラスが、姦しく音を立てた。

 

 沈黙。

 そして、驚愕が鹿島と谷風を襲う。

 

 

「……って一人増えてるしー!?」

 

「ぽ、ポポポポーラさん!?」

 

「コンバンワでぇ~す」

 

 

 いつの間にか、卓にはもう一人の少女が──イタリア重巡の飲んだくれな方、ポーラが居た。

 どうやって調達したのだろう、手には波々と赤ワインを湛えるワイングラスを持っている。

 予想外の天敵の登場に、鹿島はまなじりを釣り上げ、敵意を露わにした。

 

 

「な、何しに来たんですか、この……この……っ、こにょ泥棒にぇこっ!!」

 

「鹿島秘書官、噛んでる。思いっきし噛んでるよ……」

 

「なんだか、とぉ~っても楽しそうにお酒飲んでる気配を察知したので、来ちゃいましたぁ~」

 

 

 ……しかしながら効果は薄く、ポーラの笑顔は崩れない。

 悪態すら噛んでしまうのは、悪役に徹しきれない、鹿島の人の良さ故であろう。

 

 

「楽しくなんか、ありません……。物凄く、悲しくて、悔しくて、それを誤魔化すために、私は……っ」

 

 

 強い言葉を使ったものの、それは単なる強がりであり、段々と意気消沈していく鹿島。

 アルコールのせいで赤らんだ頬と、涙で潤んだ瞳。まるで恋に破れ、酒に溺れる女だった。

 経験豊富な人間なら、たかが一度、唇を重ねたくらいで……と言うのだろう。

 だが、そのくらいの事でも落ち込んでしまうほど、鹿島は真剣なのだ。谷風ですら茶化そうとはしない。

 

 静かで、切ない空気が漂う。

 そんな中、ポーラは変わらず笑顔のまま、ワイングラスを回しつつ語った。

 

 

「そぉですねぇ~。お酒は辛い事も、悲しい事も、まとめてぜぇ~んぶ流してくれます。

 だけど、流された後に何も残っていなかったら、寂しいって思いません?

 なのでぇ、色ぉんな事を洗い流した後は、楽しく笑顔で飲みましょ~。

 ポーラはぁ、みんなで楽しく飲むお酒の方が、だぁい好きで~す」

 

「ポーラ、さん……」

 

 

 にっこり微笑み、ポーラはグラスを傾ける。

 その表情には一点の曇りもなく、眩いばかり。

 思わず見惚れてしまう鹿島だったけれど、ここで谷風が正気に戻った。

 

 

「いやいやいや、良い話っぽく言ってるけどさ、事の元凶はアンタじゃないか! 別の意味で流されちゃダメだって、鹿島秘書官!」

 

「はっ、そうでした! 言葉巧みに取り入ろうだなんて、油断できない……!」

 

「え~。仲良くしましょ~よ~」

 

「ちょっ、なんでこっち来るんですかっ!? 谷風さん詰めて詰めて!」

 

「へっ? お、おぉ」

 

 

 谷風の言葉にハッとし、距離を取ろうとする鹿島だが、ポーラも負けじとにじり寄り、ついでに谷風も横へズレて、テーブルの周りでノロノロとした追いかけっこが始まる。

 遠目にそれを見守る間宮と伊良湖は思う。「あの人たち、本当は仲が良いんじゃ?」と。実際、深刻な雰囲気は微塵もなかった。

 奇妙な追いかけっこはしばらく続いたが、やがて飽きたのか諦めたのか、鹿島はムスッとした顔でポーラに向き直る。

 

 

「いい機会ですから、この場でハッキリさせて頂きます!

 ポーラさん! 貴方は提督さんの事、どう思っているんですかっ!?」

 

「提督の事ですかぁ~。ん~……。割と気持ち良かったですよぉ~?」

 

「何がですぅっ!?」

 

「うひぁあ、言うねぇ」

 

 

 またもや、あっけらかんと問題発言をするポーラ。鹿島が涙目でテーブルをバンバン叩く。谷風はもう観戦モードである。

 と、ここまでは笑顔を崩さなかったポーラなのだが、まだ話は終わっていなかったらしく、ちょっと困ったような顔で続けた。

 

 

「でもぉ、提督は違うみたいなんですよねぇ~。物凄ぉ~~~く渋い顔で、静かぁ~に怒られたですよ~……」

 

「え、そうなんですか?」

 

「なんです~」

 

 

 きょとん、と問い返す鹿島に、ポーラも渋い(と本人は思っている)表情で返す。

 自分がポーラの暴挙によって目覚めたと知った桐林の反応は、非常に事務的かつ冷静なものであった。

 

 意識を取り戻そうと努力してくれた事には感謝する。

 だが、婦女子がみだりに口移しなどするものではなく、自分も望まない。

 次からは控えてくれ。

 

 そう簡潔に言った後、彼は何事もなかったように、改めてリットリオやローマと挨拶を交わし、今に至る。

 統制人格は、容姿が整っている場合が非常に多い。

 ポーラもその御多分に漏れず、普通に考えれば、口移しされた事を喜ばない男の方が少ないだろう。

 しかし、桐林にとっては舞鶴事変を思い出させる行為に他ならず、塩対応をさせる原因となってしまっているのだ。

 

 余談だが、桐林は自分に起きた出来事を──舞鶴事変の最中、“左眼”を移植された時に見た人影の事を、まだ誰にも話していない。

 信頼できない人間には話すべきではないという忌避感が強くあり、小林 倫太郎に何かされたのだろうが、記憶が定かではない……で通している。

 監視カメラにも映像は残っていなかった。

 

 話を戻そう。

 ポーラの証言から、桐林が彼女に対して素っ気ないのを理解した谷風と鹿島。

 けれども、それはそれで問題だと気付き、声を潜ませる。

 

 

(ってぇこたぁ、何かい? 提督はポーラさんにゃあ丸で興味がない、って感じなのかねぇ?)

 

(分かりません……。でも、ポーラさんってかなり可愛らしい方ですし、ポーラさんにすら興味を持ってくれないなら、私どうしたら……)

 

 

 上でも言った事だが、ポーラは美人である。

 顔立ちは言わずもがな、緩くウェーブのかかった銀髪がより美しさを際立たせ、極め付けに、女性的な柔らかさにも恵まれている。

 飲んだくれな中身を捨て置くとして、豪華なドレスでも着せれば、一国の姫と称されてもおかしくないだろう。

 これだけの条件が揃った異性に、思わぬ形とはいえ口付けされても、めぼしい反応が見られないとなると、これから一体どうすればいいのか。

 

 ここで、鹿島の容姿を思い出して欲しい。

 顔立ちは美しく、髪は銀色。女性的な柔らかさに恵まれているのも同じ。

 つまり、方向性は違えども、条件自体はどっこいどっこいなのである。

 そんなポーラがキスをして、それで渋い顔されるだなんて、もはや打つ手がない。

 

 絶望的な現状に気付かされ、途方に暮れる鹿島。

 ところが、当のポーラは全く懲りていないようで……。

 

 

「けどけどぉ、ポーラは諦めませんよぉ~。

 提督からはぁ、隠れ呑んべえの匂いがプンプンしますからねぇ~。

 お酒の供給源(のみトモ)を確保するためにも、どんどん迫っていくつもりで──」

 

「 ポ ー ラ ? 」

 

「ぅあひぃ」

 

 

 ピシッ。

 ポーラの表情が凍りつく。

 いつの間にやって来たのか、座敷席の上がり端にザラが立っていた。

 腕を組み、とても朗らかな笑顔を浮かべている。

 ついでに青筋も。

 

 

「……ざ、ザラ姉様? あのぉ、今のはですねぇ、艦隊に溶け込もうとする、ポーラなりの努力の形でぇ……」

 

「へぇ。そうなんだぁ。それはとても良いことね? 本当にそれだけなら」

 

「あ~……。あのぉ~……。ええっとぉ~……」

 

 

 貴方の考えている事なんてお見通しよ。

 たどたどしく言い訳するポーラを、鋭い射抜いていた。

 酒気を帯びて火照った顔が、見る間に青ざめ始める。

 

 ポーラは谷風を見た。谷風は目を逸らした。

 次に鹿島を見やり、また逸らされ。

 最後の希望とばかりに、厨房への戸口に立つ間宮、伊良湖を見つめるが、「頑張って下さいね!」という笑みを返される。

 助け舟は出ない。

 そう悟ったポーラは、悲壮に顔を歪ませた。

 

 ……かと思いきや、ポン、と手を打ち鳴らし。

 

 

「あっ、ポーラ、思い出しましたぁ~。こういう時はぁ、サンジューロッケー、ミゲル=西和で~す~」

 

「誰そのバンドロッカー!? もうっ、待ちなさぁーい!」

 

 

 意味不明な言葉と共に、スタコラサッサと逃げ出した。

 ザラは反射的にツッコミを入れ、律儀に鹿島たちへ頭を下げてから、妹を追いかけていく。

 後に残ったのは、ポーラが空にしたワイングラスだけ。

 三十六計逃げるに如かず、と言いたかったのだろうが、なんとも微妙な間違え方である。

 

 

「な、なんか、台風みたいに駆け抜けてったねぇ……」

 

「なんでしょう、この言い知れない敗北感……」

 

 

 酷く疲れた顔で、谷風と鹿島が呟く。

 ほんの十分足らずだというのに、気力をゴッソリ持って行かれた気がする。

 これから、あの強烈な個性の塊と、生活を共にしなければならない。

 色々な意味で先が思いやられた。

 

 そんなこんながあり、ようやく店内が落ち着きを取り戻すと、ひょっこり顔を出す人影があった。

 軍帽と、眼帯と、顔の傷。

 店への入り口の壁に半身を隠す、桐林である。

 

 

「ポーラは、行ったか」

 

「あら、提督? どうなさったんですか、こちらへお見えになるだなんて」

 

「……鹿島に用があってな」

 

「えっ。わ、私に?」

 

 

 間宮が声を掛けると、桐林は座敷席の鹿島を見つけ、ポーラの姿がない事をしっかり確認してから、真っ直ぐに歩み寄る。

 名指しされた鹿島は、反射的に身を硬くしつつも、若干の喜色を隠せない。「提督さんが来てくれた!」という感情が顔に出ていた。

 桐林が鹿島の対面に腰を下ろすと、伊良湖がすかさず、桐林でも普通に食べられる物──残り少なくなってしまったビールと、簡単な酢の物を並べる。

 更に、ついでだからと、少し気になった事を尋ねてみた。

 

 

「でも、提督。どうして隠れていたんですか? タイミング的に、ザラさんと一緒に来たのでは……?」

 

「そうなんだが……。ポーラの気配を感じて、先行して貰った」

 

「めっちゃ警戒してるねぇ……。ま、それもしょうがない、かぁ」

 

 

 ふぅ……と。桐林は重い溜め息をつく。

 その疲れた様子に、谷風は彼を労うように肩を叩く。

 ここに来る途中、ザラと偶然出会ったのは本当である。

 店内からポーラの声が聞こえ、無言のうちに目配せし、ザラが先行したのも本当である。

 しかし実を言うと、桐林が疲れているのは、唐突なバンドロッカーの登場にツボってしまい、必死に笑うのを堪えていたからだったりする。なんとも言えないすれ違いだった。

 

 それはさて置き。

 小さなコップでビールをチビチビ飲む桐林を見つめつつ、鹿島が話を切り出した。

 

 

「それで、なんの御用なんですかっ。私、お酒飲むのに忙しいんですけどっ」

 

「……鹿島」

 

「ふん、だ」

 

 

 一度は喜んでおきながら、ふくれっ面でそっぽを向く鹿島。

「不機嫌なんですっ」と言いたげな頬は、複雑な乙女心に比例して膨らんでいる。

 どうしたものかと桐林が悩んでいると、右隣にあぐらをかいた谷風が、ニヤニヤと肘で脇腹をつつく。

 

 

「モテる男は辛いよ、ってか。どうすんのさ、完全にジェラってるよー?」

 

「茶化すな」

 

 

 もう楽しくて仕方ありません。

 といった感じの谷風を雑に押しのけ、桐林は鹿島に向き直る。

 チラチラと様子を伺っては、そっぽを向き直す鹿島。

 下手な言い訳では拗れるだけ。桐林は素直に頭を下げた。

 

 

「すまなかった、鹿島」

 

「……何に対して謝ってるんですか。理由も分からずに謝るなんて、とっても不誠実なんですからねっ」

 

 

 が、やはり鹿島は御機嫌斜め。

 確かに、相手が怒っているから取りあえず謝るなんて、誠実さの欠片もない。

 彼女が怒り、酒で憂さ晴らししていた理由。

 その心当たりを、桐林は一つ一つ言葉にする。

 

 

「心配をかけて悪かった」

 

「はい。心配しました」

 

「今の今まで、放置して悪かった」

 

「はい。寂しかったです」

 

「ポーラとの事は……」

 

「……いいです。不可抗力ですし」

 

 

 やり取りを重ねるにつれて、鹿島の声から棘が抜けていく。

 桐林の手前、怒っていますアピールはしたものの、別に本気で怒っていた訳ではない。

 簡単に先を越されてしまった焦りを。

 色んなことが立て続けに起き、掻き立てられてしまったごちゃ混ぜの感情を、彼にぶつけていた。

 子供みたいに拗ねて、甘えていたのだ。

 

 

(私、何してるんだろ)

 

 

 なんだか、唐突にバカらしくなった。

 本当に悔しくて悲しくて、とても怒っていたはずなのに。

 ただ話しているだけで、あっという間に霧散していく。

 現金だなぁ、と笑ってしまう。

 

 

「提督さん。私、欲しい物があるんです」

 

「……? なんだ」

 

 

 全く意図せず、勝手に言葉が口をついていた。

 どうしてこんな事を言っているのか、鹿島自身にも分からない。まだ酔っているのかも。

 けれど、この機会を逃せば、きっと後悔する。それだけは分かるから。

 鹿島は座敷を四つん這いに、テーブルを回り込み。

 桐林の耳元で……。

 

 

「み、ず、ぎ、です」

 

 

 吐息を交えて、そう囁いた。

 桐林の表情筋が激しく引きつる。

 それがまた面白くて、鹿島は猫のように微笑む。

 

 

「私に似合う水着を、提督さんが選ぶって約束して下さい。そうしたら、明日からいつもの私に戻れる気がします」

 

「む……。分かった、どうせしばらくは動けなくなる。近いうちに時間を作ろう」

 

「わ、やった! 試着とか色々するつもりですから、期待してて下さいね? ……すっごく大胆なの、着ちゃうかも」

 

「……酔いすぎだ。アルコールを分解した方がいいんじゃないのか」

 

「嫌です♪ 酔ってなかったら、こんなこと言えません」

 

 

 鹿島がしなだれ掛かると、桐林は明らさまに右眼を泳がせた。

 今まで、何をしても大して反応してくれなかった唐変木が、いとも簡単に。

 酔いが覚めたら多分、自分の行動をはしたなく感じるのだろうが、どうせ酔っている間だけだ。

 ポーラみたいに、好き放題やってしまえと思う鹿島だった。

 

 しかしながら、鹿島と桐林がイチャついているのを面白く思わない人物が、まだ店内には若干名残っており。

 

 

「はーい空いたお皿下げますねー」

 

「うお」

 

「きゃっ」

 

 

 その内の一名である伊良湖は、わざわざ二人の間に割り込むようにして、問答無用の笑顔のまま皿を回収していく。

 手際が良過ぎて文句も言えないほどである。

 

 

「うふふ。鹿島さん、羨ましいわー。私も水着を持っていなくて……。ねぇ、伊良湖ちゃん?」

 

「そうですよねー。もう夏も真っ盛りなのに、とぉっても残念ですー」

 

 

 伊良湖と同じく、迫力満点な笑顔を浮かべる間宮が、白々しい小芝居を繰り広げる。

 何を言いたいかなど、考えるまでもない。

 私たちも水着欲しいなー、である。鹿島への牽制、宣戦布告である。

 

 

「……うふふ」

 

「ふふふ」

 

「あははー」

 

 

 鹿島 対 間宮・伊良湖の間で、目に見えない火花が、花火のように散っていた。

 蛇に睨まれたカエルの如く、桐林は動けない。動けるはずがない。

 一縷の望みをかけ、さっさと自分だけ安全地帯に避難しやがった谷風へと、眼だけで助けを求めるが……。

 

 

「諦めなよ、提督。あ、ついでだしアタシにもヨロシク~」

 

 

 谷風はそう言って、暢気にグラスを傾けるだけだった。

 

 もう、クールな軍人キャラ演じるのやめようかな。

 桐林は心の底から思った。

 

 

 





 戦果報告! 我、初動は超遅れるも、なんとか終了一週間前に夏イベを完全攻略せり!
 難易度は甲乙丙乙甲乙丙。見事に波打ってます。スピットファイアがどうしても欲しかったんです。
 流石にE-1とE-5は軽く丙掘りしてからの攻略でしたが、先人の最適解を辿っただけあって、かつてないほどスムーズに攻略できてしまいました。やっぱ戦争は情報だね兄貴!(誰
 ルイちゃんは輸送装備を積まず、強引に呼んだ感じではありますが、ほとんどの新規実装艦娘を攻略中に呼べて、とても毛根に優しかったです。
 日にちが進む毎に胃はシクシクしましたがw

 狭霧ん太ももがエロい。天霧ちゃん眼鏡とは思わなんだ。旗風さん色気あり過ぎ。リシュリューさんセコムさ! 松輪ちゃん手とか柔らかそう。ルイちゃんはにゃはにゃ。
 そして、満を持してのアーク・ロイヤル様。超美人。みんながくっ頃くっ頃言うので脱がせてみたら超納得w 弩ストライクですわ。

 特に印象に残ったのは、様子見で行ったE-6のラスト。
 ギミック未解除、随伴にケツ姫とネ級が二隻、夏姫HP残り300オーバーな状況で、六隻目という舐めプ位置(後で変えるつもりでした)の連撃北上様が生き残り、見事に神スナイプしてゲージを叩き割ってしまった事ですかね?
 あと、E-7ボス前のケツ姫に開幕爆撃で1071ダメージ出したのも笑ってしまいました。
 全体的に空母が活躍したイベントだったと思います。E-6の空母マシマシ輸送で「圧倒的じゃないか我が軍は!」ごっこするの超楽しかった。
 さて、次は夜間戦闘機を配備しなきゃ……。今後は夜戦空母ありきの難易度とかなのか……? 5-5行きたくないなぁ……。

 次回は久々に“あちら側”の話を予定しています。
 が、諸事情により内容は変更される可能性がありますので、詳しい予告はなしという事で。
 それでは、失礼致します。

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