新人提督と電の日々   作:七音

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新人提督ととても長い一日・中編

 

 

 

 

 

 作戦は、日本における傀儡能力者、最初の五人のうち、三人を中心として行われる事となった。

 まず一人目。桐竹源十郎。

 わたしのことだが……特筆すべきことはないので省く。

 航空母艦・伊吹を旗艦とする部隊で、アウトレンジ攻撃と防空を担当。

 

 二人目。吉田豪志。元海上自衛隊二等海佐。

 全世界に同時出現したツクモ艦と、初めて遭遇し、なおかつ生き残った数少ない人物でもあった。

 普段は温和という言葉を体現したような男性だが、いざ戦いとなれば、“鬼”と評されるほど苛烈な攻勢を見せる。

 駆逐艦・秋月(あきづき)を旗艦とする部隊で、伊吹の護衛と遠距離雷撃を担当。

 

 三人目。梁島和馬(やなしま かずま)。元は売れない脚本家。

 自己主張が弱く、続けていても大成はできないだろう性格。別れた妻との間に子供――兄妹がおり、能力に目覚めるまでは養育費の面で大変だったそうだ。

 そこに付け込まれ、何度も詐欺師などに騙されたらしいが、相手が不慮の事故に遭うなどして助かるという、凄まじい悪運を誇る。

 軽巡洋艦・大淀を旗艦とする部隊で、条約下では積めなかった大口径砲での砲撃を担当。

 

 ここへ、新しく訓練を終えた能力者を数名加え、総数十八の艦隊を組む。

 要となるのはわたし――いいや、伊吹。

 彼女に載せた零式艦戦五二型と、それを改造、爆戦とした零戦六二型が鍵を握る。

 

 不安はあった。

 しかし同時に、やり遂げたいという思いもあった。

 わたしと彼女が、艦隊の全てを守る。

 ……やってやろうじゃないか。

 

 

 桐竹随想録、第六部 馬の緯度より抜粋。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

『くそっ!? 書記さん、第一中継器の通信帯を広域に! 聞こえるか霞っ、誰でもいい、返事をしろ!!』

 

 

 ヒリつく喉から、必至に声を絞り出す。

 戦況は刻々と動いていた。

 黒煙を上げる霞は速度を落とし、彼女を庇うように、後ろについていた曙がフラ・タとの間へ。

 加賀、叢雲は速度をそのまま。こちらもフラ・タとの間に叢雲が入り、第一艦隊へと向かっている。敵艦隊の速度は急激に落ちていた。おそらく異常海流の影響から離れたのだろう。

 だが、すでに射程内へ捉えられ、敵艦載機も着々と空を埋め尽くそうとしている。何の慰めにもならない。

 獲物を前に舌なめずりするかの如く、狙いの甘い砲弾が飛沫を上げた。

 

 どうする。金剛たちを戻す?

 そうしたらエリ・ルの砲が赤城たちに向く。

 けど、このままじゃ霞たちはなぶり殺し。どうすればいい……!?

 

 

「――、提、督……。こちら、加賀、です……っ」

 

『……! 加賀、何があった?』

 

「は、い……。砲撃が、艦橋をかすめただけ、です。そのせいで、中継器に一時的な障害が……」

 

《くっ、なんて失態……! なんでもっと早く発見できなかったのよ……っ》

 

『落ち着け叢雲、悔いるのは後でも出来る。今は乗り越えることだけ考えろ!』

 

 

 不意に、こめかみから一筋の血を流す加賀の姿が、脳裏へ浮かんだ。

 膝立ちだった彼女は、ふらつきながらもなんとか立ち上がり、新たな矢を番える。

 エレベーターも同時に稼働。露天駐機の天山ではなく、零戦を上げるつもりか。

 敵にも空母が出現した。そうしなければ制空権を奪われるのだから、止める理由はない。

 

 叢雲は苛立っているようだ。

 無駄に砲撃しないあたり、冷静さを欠いてはいないみたいだが、歯ぎしりの音に悔しさが滲む。

 確かに、どうして発見出来なかったのかは謎。戦艦級であれば三十km以上先でも見つけられるはずなのに。

 旗艦種のまとう力場に拡散作用があった? そんな事例は聞いたこと……。

 厄介だが、考察する暇もない。同調が復帰したなら、次に確認すべきは。

 

 

『霞、聞こえるか。霞っ、損害を報告せよ!』

 

《……っさい、わねぇ……。聞こえてる、わ、ょ……っ。少しは、できる奴が、ぃる、みたい、ね……》

 

 

 甲板で倒れこんでいた少女が、今にも消え入りそうな声で強がる。

 ひどい有り様だった。

 左腕の魚雷発射管は跡形もなく、シャツもスカートも、機関部までボロボロ。

 身体は煤にまみれ、満足に立ち上がることすら。

 

 

(発射管が全滅。後部の主砲二基も稼働せず。第二煙突消失。缶も二基がダメになってる。まともに使えるのは、船首主砲一基のみ)

 

 

 自分で把握した方が早いと判断。回復した中継器から情報を引き出すのだが、それも惨たらしい状態を教えるだけ。

 朝潮型は、二番煙突の両脇に次発装填装置を二本ずつ備え、二番発射管を挟んでさらに四本が並んでいる。そこに砲弾が直撃――いや、こちらもかすめたのだろう。もし直撃していれば、その瞬間に船体が真っ二つとなり、轟沈していたはずだ。

 陽炎型で改善されている誘爆の危険性。第二次改装でそれを行おうと後回しにしたのが、仇となってしまった。

 

 

《ちょっと、どうすんのよ、どうすればいいの!? ねぇ霞、退避出来ないの!?》

 

《……無、理ね……。タービンは無事、でも、缶がこれ、じゃ……。う、ぐ……っ》

 

 

 霞の右舷に立ちはだかる曙は、ひどく動揺している。フラ・タに向けられる砲や発射管の向きが安定しない。

 彼女自身、今の霞と同じような状態に陥った過去があるからかもしれない。

 その時は爆撃が原因で、上部兵装の全てをもぎ取られて沈んでいった。トラウマを刺激されるのも当然か。

 

 

《Hey,テートク! こっちもそろそろOpen Combatネ! 戦闘方針をChangeするなら今しかありまセン!》

 

 

 思考に割り込む金剛の声。

 意識を向ければ、フラ・タと同じく速度を落とす敵打撃部隊と睨み合う彼女たちが。共に、赤城から見て南東方向に位置している。このままだと反航戦に入るだろう。

 考えうる選択肢は幾つかあった。

 状態を維持し、すれ違い様の一撃に賭ける。航空機のサポートがあればこれが妥当かもしれない。しかし現実にそんな余裕はなさそうだ。

 次。距離を活かして、進路を塞ぐ形で砲撃を浴びせる。おそらく敵も針路変えるはずだから、同航戦に。こちらは戦艦が四隻と重巡二隻。火力で負けることはないだろう。

 もしくは……。

 

 

《こちら足柄、意見具申! エリ・ルも速度が低下してるし、このままなら甲標的と金剛たちだけでも落とせるわ。だから、私と衣笠で助けに行かせて!》

 

《ぬぇ!? わ、私も!? あ、違うの、嫌ってわけじゃないんだけど、でも……》

 

《迷ってる場合じゃないわっ。お願い、早くしないと……!》

 

 

 足柄が言ったように、再び隊を分けるか。

 通常の速度相手なら甲標的が生きてくる。人の代わりに妖精さんが乗ったこれは、母艦である千代田と完璧な連携を取れる。駆逐艦にさえ気をつければ、重巡二隻分の穴は優に埋められるだろう。

 その代わり、六対四の劣勢となる。しかも相手には選良種が四。被弾確率も増え、戦力は拮抗――いや、相手が上に。

 リスクは避けられない。それでも、選ばなくては。なら、自分の選択は――

 

 

《なに、バカなこと、言ってんの、ょ……。もっと全体のこと、考えなさい、ったら……》

 

 

 ――と、口を開きかけた時。

 大破しても不遜な霞が、ようやっと立ち上がりながら呟く。

 

 

《私を置いて、撤退しなさい。それが正しい選択、よ》

 

《……なっ!? ば、バカはどっちよ! そんなの駄目に決まって――》

 

《そうしなきゃ皆が危険に晒されるのよ!! 旗艦種相手の遭遇戦、どうやって勝つつもり!?》

 

 

 らしくない怒声に、足柄の反論は遮られる。

 彼女の言う通り。それが生き延びるために必要な選択だと、理解できた。

 まったく想定していなかったこの戦闘。確実に皆を帰投させるには、足の速い艦を先に撃破。低速である戦艦の足止めをして、索敵範囲外に出てしまうのが手っ取り早い。

 そして、その囮は使い捨てに出来る物でなくてはならない。

 たとえば、甲標的。たとえば……帰る見込みのなくなった船。

 

 

「確かに、戦術的に考えれば、それが正しいのでしょう」

 

《加賀? 貴方……!》

 

「提督。ご決断を」

 

 

 同じ結論へと至っているのだろう。加賀は一切の表情を消し、淡々と事実を突きつける。

 食ってかかる叢雲も、本当は分かっているのだ。選ばなくては共倒れになると。

 だから、悔しさにまた奥歯を軋ませて。

 

 

「どのようなご指示であろうと、提督のお決めになったことなら。私は従います」

 

《……うん。ワタシも》

 

 

 彗星を維持しつつ、確実に艦載機を上げ続ける赤城。

 同じく、瑞雲・甲標的を出せるだけ出す千代田。

 この二人もまた、静かに言葉を待っている。自分の――提督の、一言を。

 

 

《ふ、ふざけんじゃないわよ!? わたしは嫌、絶対に嫌!

 あいつらさえ倒せば良いだけの話じゃないっ。

 なんで、なんで助けられる船を切り捨てなきゃいけないのよぉ!!》

 

 

 唯一、声を張り上げているのは、曙。天を仰ぎ、連装砲をきつく握り締める。

 彼女にとって、これは単なる仲間の危機ではない。過去の焼き増しだ。

 扶桑たち――西村艦隊の一員としてスリガオ海峡へ突入するも、武運拙く大破した最上を、雷撃処分した時の。

 曙は後続するはずだった志摩艦隊に所属。最上を護衛しながらコロン湾へと脱出したが、そこで再び爆撃を受ける。そして、目も当てられない状態となった護衛対象を、介錯した。

 戦争を生きた軍艦。彼女以外にも、似たような経験をした船はいくらでもいる。けれど、それが痛みを和らげてくれないのは、火を見るよりも明らかだ。

 

 いつだったか、覚悟していたことが現実になってしまった。

 死ねと、命じなければいけない時が、来てしまった。

 選ぶ。自分が。命を。

 

 

(――あ)

 

 

 右腕に違和感を覚えた。

 同調している統制人格たちの感覚ではない。生まれ持った肉体の方だ。

 シャツの袖を、つままれている。まるで、縋るように。

 とても、とても、弱々しく。

 

 

『……全艦に告ぐ』

 

《何よクソ提督っ、あんたの命令になんか――》

 

 

 迷いは、ほんの数秒。

 

 

『無茶をするぞ。だが信じろ。必ず、全員無事に連れて帰る』

 

《――え》

 

 

 かすかな温もりに後押しされ、自分はハッキリと宣言した。

 同時に、とある“作戦”の詳細を皆と同期。状況の打破を狙う。

 奴らが戦術を手に入れたなら。戦術的な判断をするなら。

 勝てなくてもいい。負けなければいい。生きてさえいれば、どうにかなる……!

 

 

《……なるほど。これなら、行けるかもしれませんね》

 

《無理無茶無謀、三拍子揃えましたねー、司令ってば。……でも、私たちなら!》

 

《はい。行きましょう、金剛お姉さまっ》

 

《Yes! やっぱり、ワタシの目に狂いはなかったネー!!》

 

 

 霧島の眼鏡が光り、比叡は拳で手のひらを叩く。

 嬉しそうな榛名と連れ立つ金剛も、我が意を得たりと笑みが華やぐ。

 決して容易くはない戦いへ追い込んだというのに、それすら気炎を揚げる燃料としてくれる。

 なんとも、ありがたい。

 

 

「あまり、良い判断とは言えませんね」

 

 

 次いで声を発したのは加賀。

 頬に垂れた血を拭うためか、その顔は腕に隠されている。

 もっともな意見だ。切り捨てるべき一のために、残りの全てを危険に晒すのだから。

 だが、引くつもりもなかった。

 

 

『悪いな。失望させたか』

 

「………………。ですが、何故でしょう。これが私の提督なのだと思うと」

 

 

 肯定するような沈黙。

 無言で矢を番える彼女の表情は、やはり見えない。

 しかし、弦が引き絞られ、中空を見据える瞳が明らかとなった時、そこには――

 

 

「気分が、高揚します」

 

 

 ――初めて見る、穏やかな微笑みがあった。

 弾き出される矢と零戦にも、今まで以上の気迫が宿る。

 まったく、不器用な。

 

 

『さぁ、戦闘開始だっ! 赤城、天山を預けるぞ。千代田、手筈通りに。足柄、衣笠は回頭。最大戦速で霞の援護に向かえ』

 

「了解! 必ずや、皆で帰還を」

 

《うん、うんっ。やっぱり提督はこうでなくちゃ!》

 

《……ありがと、司令。さ、行くわよ衣笠!》

 

《ちょ、ちょっと待って、ちょっとだけ……。よし、覚悟完了っ。飛行機は苦手だけど、頑張っちゃうんだからっ》

 

 

 エリ・ルへと向かおうとしていた彗星が翻り、赤城から上がった同機体と天山を加え、フラ・タに矛先を向ける。代わりを務めるのは瑞雲と甲標的。

 彗星を追い、瑞雲たちとすれ違う重巡二人は、三十三ノットの高速で白波を立てた。

 ……そういえば、衣笠は爆撃されて沈んだんだっけか。より過酷な方に向かわせちゃったけど、それで逆に吹っ切れたのか、自分で頬を叩き気合いを入れ直している。

 自棄になっているわけでもなさそうだ。後は間に合うことを祈ろう。

 

 

『何をぼさっとしてる曙。対空戦闘用意! 絶対に爆撃を許すな。叢雲も霞の直衛に』

 

《あ、うん……って、うぅぅうるさいわねっ、あんたなんかに言われなくても分かってるわよ! この、この……クソ提督ー!!》

 

《はいはい、嬉しいからって騒がないの。叢雲、霞の護衛に入るわ》

 

《嬉しくなんかないわよ! ちょっと、聞いてる!?》

 

 

 大急ぎで顔を整えようとする曙だが、それをあしらう叢雲も、似たような顔。

 ああ、なんて心強いのか。

 こんな無茶な作戦を知って、なおついて来てくれる、仲間という存在は。

 

 

《……ぁ。ば、バカッ、何してんのよあんたたち!? 私のことなんかどうでも良いから、さっさと逃げなさいったら!》

 

 

 ところが、当の本人は、未だ諦めに囚われているらしい。

 普段の様子からは想像もできない弱気だ。

 まぁ、考慮する余裕なんてないけど。

 

 

『そんなことより霞、缶はまだ一つ生きてるな? だったら動け。遅くてもいい、回避行動を取るんだ』

 

《い、生きてるけど……無駄だって言ってるでしょ、早くしないと手遅れに……》

 

『……やらないなら勝手に動かすからな。――ぃ、ぎっ!?』

 

《あっ、ダメッ》

 

 

 渋る霞への同調率を上げ、タービンを回そうと試みるのだが、その瞬間、身体が大きく跳ね上がった。

 熱い。

 痛い。

 息が出来ない。

 ズタズタに引き裂かれた傷口へ、焼きごてを押し付けられているような、強烈な痛み。

 他のみんなへ伝播しないようにするのが、精一杯だ。

 

 

「これが、大破した統制人格の痛み、か……っ。キツい、な、これ……っ」

 

「な、何をなさっているんですか提督!? すぐに同調強度を下げ――」

 

「待て、このまま、で、いい。鎮痛剤、を」

 

「ですが……っ」

 

「早く! これは命令だ!」

 

 

 初めて出す命令という単語に、書記さんは行動で返す。

 装具に内蔵された無針注射器が、首筋へ押し当てられた。カシュ、という音と共に、思考を支配しようとしていた痛覚が鈍くなっていく。即効性だが効果時間も短い。あと何度か打つ必要があるだろう。

 そのまま休まず、霞の船体にルーチンを走らせるが、反応がない。

 缶自体は生きている。タービンも無事。それでもスクリューが回らないということは、二つを繋ぐ蒸気管が破損しているのか。

 火は燃え広がってないし、浸水だってしてないんだから、動けさえすれば……。

 

 

《……なんで。なんでそこまでするのよ。バカじゃないの。

 なんで私なんかのために、必死になるのよ。

 お願い、やめてよ……。私のせいで、みんなが……》

 

 

 泣きそうな声が聞こえた。

 僅かばかり意識を向けると、へたり込み、己を抱きしめる霞の、小さな影が。

 無視することも出来ず、損傷箇所を探りながら、自分は問う。

 

 

『霞。君はなんだ』

 

《え?》

 

『どこの誰だ。答えろ』

 

《……かす、み。桐林艦隊、所属。朝潮型駆逐艦、十番艦。……霞》

 

 

 ポツリ、ポツリ。

 確かめるよう口にする彼女は、ごく普通の少女に見えた。

 ジクジクと熱を持つ傷を隠し、平気だと強がっている癖に、誰も知らないところで泣いている。そんな少女に。

 

 僚艦を失い、姉妹艦を失い。それを激しく叱責されても戦い続け、坊ノ岬で大和を看取った後、朝潮型最後の戦没艦となった霞。

 心を持った今、彼女が何を想い、何を考えているのか。知る由もない。何も語ってくれなかったのだから。

 だが、確かなことも一つある。

 

 

『分かってるなら。……“俺”の船なら、最後まで“自分”を諦めるな』

 

 

 それは、霞が艦隊の一員であること。

 食卓を共にした仲間だということ。

 だから、絶対に見捨てない。

 愚かな選択だと、ちゃんと理解している。非効率的で、ハイリスク・ローリターン。

 それでも助けたいと、この場にいる誰もが思っているのだ。

 戦いに臨む十一人の顔が、証明してくれる。

 

 

《……ったく、どんな采配してんのよ……。本っ当に迷惑だわ!》

 

 

 甲板を見つめ、霞はそう吐き捨てた。

 聞いたままに取れば、なんて恩知らずだと思うだろう。

 命がけの献身を馬鹿にする、人でなしだと。

 けれど――

 

 

《バカが、うつっちゃうじゃない》

 

 

 ――ポツリ、ポツリ。

 局所的に降り出した雨が、言葉の裏側を教えてくれる。

 命あるものなら。心を持つものなら。誰だって、本気で自分を諦められるはずがない。

 逆境に流されたり、悪意に挫けてしまうこともあるだけ。自分が引き出したのは、そうなってしまいそうだった一粒。

 でも、迷う必要なんか、もうない。

 

 

《……動け》

 

 

 アームウォーマーで顔を拭い、彼女は甲板へ手をつく。

 

 

《動きな、さいよ……っ》

 

 

 よろめきつつも、しっかりと足を踏ん張り、立ち上がる。

 そして――

 

 

《お願いだから、動いてよぉぉおおおっ!!!!!!》

 

 

 ――切なる願いが迸った瞬間、自分の意識に、奇妙な光景が浮かんだ。

 揺れる船内。様々な鉄くずが散乱する機関室で、走り回る無数の影。

 蒸気弁を操作し、ヒビ割れたパイプを補強し、忙しなく動くそれは、ヘルメットをかぶる、小さな小さな少女たち。

 金槌を構える茶色い作業服の子が、こちらに気づいたように振り向く。

 自信に満ちた表情。

 まるで、大丈夫だよ、と言われている気がした。

 絶対に沈ませないから、と。

 

 

『……!? 動いた!』

 

 

 次の瞬間、霞と同調する五感に、わずかな加速度を覚える。

 ゆっくりと。本当にゆっくりとだが、船体は海上を滑り出す。

 それを合図とするかのように、様々な場所で鉄火が散り始めた。

 まずは、金剛型姉妹。

 

 

《ここから先は、一歩も通しませんヨー! 全砲門、Fireeeee!!!!!!》

 

《比叡も続きます! 主砲、斉射、始め!》

 

 

 裂帛の気合いを伴い、細腕と砲門を振りかざす長女と次女。轟音が十六、一定間隔で重なった。

 すでに同航戦へと移行しており、単縦陣のこちらに対して、敵は複縦陣。手前が駆逐艦二隻とエリ重。奥がエリ・ル、エリ重二隻。着弾は手前三隻に集中する。

 数巡の砲戦の結果、駆逐艦は仕留めたが、エリ重はしぶとい。側面装甲へ吸い込まれたはずが、直撃の刹那、赤い燐光が走った。それにより、爆発の威力は至近弾程度にまで抑えられてしまう。

 そして、攻勢を乗り切った敵艦から、直ぐさま返礼が。

 

 

《水偵の触接成功。距離、速度、仰角を修正。時限信管の再設定、良し。さぁ、超精密偏差射撃、開始するわよー!》

 

《ええ。主砲っ、砲撃開始っ!》

 

 

 ――向けられるはずだった。

 再び轟音。

 ほんの数秒だけ早く、霧島と榛名が姉たちに続いたのだ。

 重巡三隻と戦艦に向けられた砲身は、やや上向き。弾き出された砲弾も、それに従い直撃コースから外れてしまう。

 が、それこそ真の狙い。砲弾は敵艦の手前で爆ぜ、三千度の焼夷弾子を撒き散らす。

 タイミングをずらされ、力場を展開できなかったエリ・ルたちは、上部兵装を炎に巻かれ、砲撃をあらぬ方向へと。

 さらに、重巡の甲板上で爆発。上手く剥き出しの魚雷へとまとわり付いた弾子が、誘爆させてくれたらしい。霞にやられたことの意趣返しも成功である。

 

 

《念のため、積んでて良かった、三式弾……って感じかなー? 今度は大成功でしょ!》

 

《ですね。金剛型なんだからとりあえず積んどこう、と言われた時は、どうかと思いましたけど。ところで比叡姉さま。字余りですよ》

 

《霧島、細かい……》

 

 

 三式弾。

 本来は対空射撃に使うためのもので、第三次ソロモン海戦では霧島が仕方なく対艦射撃に用いた代物。

 大したダメージは与えられないが、艦そのものが意識を宿している深海棲艦相手なら、目くらましとして十分だった。

 期待以上の効果を発揮してくれたのは僥倖か。

 

 

《今だ! 瑞雲隊、爆撃開始します!》

 

 

 その隙を逃さず、千代田の水上爆撃機が急降下。二百五十kg爆弾で残る兵装を薙ぎ払う。

 エリ・ルは元より、エリ重の主砲塔天板を貫くことは、直撃でもしない限り不可能。だが、これも目くらましだ。

 混乱し、照準も覚束ない四隻へ、次弾装填を済ませた砲塔が、合わせて三十二門。

 

 

《Sorry,本命は次デース。Perfect Gameで決めるワ!》

 

《好機は逃しません。勝利を、提督にっ!》

 

 

 轟音。轟音。轟音。轟音。

 一糸乱れぬ連続砲撃が、選良種を蹂躙する。

 重巡は、数発を力場で受け止めるものの、押し切られ直撃。派手な爆発を伴って轟沈していく。

 対してエリ・ルは混乱から復帰。己へ向けられた砲弾を全て受け止めるが、そらす程度しか強度を出せず、砲塔も、機銃も、煙突相当部位も。上部構造のほとんどが吹き飛ぶ。これで戦闘力は奪った。あとは甲標的でいつでも仕留められる。

 力場が常時展開でないことを利用した、対上位種用の戦闘セオリー。ほぼ口出しもしないまま、完璧に遂行できたと言えるだろう。

 

 そして。

 これと同時進行していたのが、足柄・衣笠の遠距離砲撃戦と、赤城・加賀の航空戦、霞たちの離脱だ。

 

 

《ほらほら、もっと活きのいい敵が居るわよ! こっちを向きなさいな!》

 

《そ、そうだそうだー、フラッグシップなんて怖くないぞー! でもヲ級は怖いから赤城さんと加賀さんお願いしまーす!》

 

 

 金剛たちと別れた重巡二人は、標的を移させるため、フラ・タへ闇雲な砲撃を仕掛ける。

 彼女たちを中心として位置関係を整理すると、上下の中距離に加賀と赤城・千代田。右上近くに離脱しようとする霞たち。南東の離れた位置に金剛たちがいた。

 はるか西で敵空母が固まっており、そこからフラ・タが突出して来ている。もうすぐ彗星とすれ違う距離だ。

 先行する赤城の彗星から情報を引き出しているが、射程ギリギリでは有効打になるはずもなく、まぐれ当たりも力場で弾かれてしまう。

 しかし、注意を引き付けることには成功したようで、一直線に霞へ向かっていた巨体が転針を始めた。

 

 一方、その背後。敵空母群は全ての艦載機を上げ終えたらしい。

 ヌ級が十八の三隻で五十四、ヲ級が二十七で、合計八十一機。ときおり混じる橙色の光は、エンジン出力を強化されている機体の証である。

 こちらの艦戦はようやく二桁に届くかどうか。三十に増えた彗星も格闘戦を行うだけの性能は有しているが、五百kg爆弾を抱えたままでは無理難題。

 

 

「任されました。赤城さん、先鋒は私が」

 

「ええ。……不思議。初めてのはずなのに、懐かしい」

 

「……そうね。負ける気がしません」

 

 

 それなのに、一航戦は揺るがない。

 数の不利を理解した上で、純粋な技量のみを頼りとし、難局を切り抜けようとしている。

 今また、淀みなく指示の念矢を飛ばす背中が、荒唐無稽ではないと信じさせてくれるのだ。

 群れが迫る。

 橙色光を中心に、五機の編隊が十六。迎え撃つは、二機編隊の零戦がわずかに五つ。

 互いにスピードを緩めぬまま、乱戦が開始された。

 

 

《ちょっと霞っ、もう少しスピード出せないのっ?》

 

《無茶、言わないで……。こっちは、死にかけ、てんのよっ。文句があるなら、あんたが引っ張りなさいったら!》

 

《そっちこそ無茶言わないでよ、こんな状況で曳航準備なんて、いい的にしかならないじゃないっ》

 

 

 加賀が意地を見せつける中、深手を負う霞が、もどかしそうに付近をウロチョロする曙と軽口を叩き合う。

 口振りは相変わらずだが、曙はしきりに様子を伺い、付かず離れずを維持している。叢雲も同様だ。

 が、今のままだとどっちにしろ的なのに変わりはない。金剛たちの砲戦を片隅に意識しながら、自分は口を挟む。

 

 

『いや、どのみち曳航はするんだし、速度が遅ければ静止目標と変わらない。それで行こう。曙、中距離もやい銃用意』

 

《嘘ぉ!? ……んぁああっ、やるわよ、やってやるわよ! プリンたくさん作っときなさいよね!!》

 

『分かってるよ。なんなら肩も揉んでやろうか? 家族にやらされてたから結構うまいぞ?』

 

《そんなこと言って、本当はボディタッチしたいだけなんでしょ、このクソ提督っ。信じらんない!》

 

《それでも素直に従うあたり、実は仲良いわよね。貴方たち》

 

『どこがだっ』

《どこがよっ》

 

《怪我人の前で痴話喧嘩とかやめてよね……。見てらんないったら……あたた》

 

『だから違うっての!』

《だから違うってば!》

 

 

 なぜか言葉をダブらせる曙は、呆れ顔な二人からの追求を逃れるように、船尾に向かい疾走。連装砲を、迫撃砲と似た形状の発射棹へ変化させた。

 後部にたどり着くと、並走する妖精さんから差し出されたもやい索・弾体を繋ぎ合わせて装填。発射体勢を取り、照準を合わせる。

 深呼吸ののち、「発射!」と掛け声。猛烈な勢いで細い線が霞の船体へと伸びていく。

 その間に、妖精さんが索の反対側を細めのワイヤーロープと繋ぎ、さらに巻き上げ機の太いワイヤーへ連結。本来はもやいの動きが止まってからだが、この程度はお手の物らしい。

 後は霞が弾体を回収。こちらも妖精さんと協力して引っ張り上げ、船体へくくりつける準備を整える。

 

 ……もう普通に見えてるな。切っ掛けはなんなのか、もう訳が分からない。

 けど、とにかくこれで安全な場所へ退避させられる。

 次にやるべきは――

 

 

《あぁあっ!? 直撃……じゃないけど、カタパルトがっ》

 

 

 ――と、考えだした瞬間、甲高い悲鳴が響く。衣笠である。

 慌てて確認するが、金色の砲弾が後方海面へ着弾。余波で後部カタパルトが運悪く破損してしまったところだった。合わせて、衣笠のスカートにも少々破損が。

 こんな状況でなければ堪能したいのだが、脳内シャッターだけで自分を戒め、精神的なフォローに徹する。

 

 

『大丈夫だ衣笠、お色気担当は絶対に沈まないっ。紐パンが見えたくらいなら、むしろ生存率アップだ!』

 

《何それ、いつの間に富士峰子ポジになってたの!? っていうか提督、見ないでくれますー!?》

 

《く、やっぱり回避行動取りながらじゃ、二割も当たらないわね……っ。ほら衣笠、弾幕薄いわよ!》

 

《足柄さんは足柄さんで豪気過ぎぃ! もうっ、仕返してやるんだからー!》

 

 

 涙目のままスカートを抑えていた彼女は、歯をキッと噛み締め、ヤケクソ気味に両手の連装砲を構える。

 轟音。

 衝撃波によりツインテールとスカートがはためいた。

 その裏で、自分は赤城の状態を確認。次の行動に移れることを確かめ、新たな指示を下す。

 

 

『よし、頃合いだ。三式弾装填。防がれてもいい、防御面積を飽和させるんだ』

 

 

 直後、二人が持つ三基の砲塔内部で、対空弾用揚弾筒を三式弾が登っていく。

 敵戦艦主砲は毎分二発しか撃てないのに対し、傀儡重巡の基本装備である一号E型連装砲なら毎分五発。再装填にかかる時間も短い。

 そして、上位種の張る力場は、先にあげた常時展開ではないという性質に加え、その面積も限られることが分かっている。これを利用し、確実に攻撃を加えるのだ。

 三式弾が空を舞う。

 榛名たちの時と同様、敵艦手前で炸裂するが、金色の壁に阻まれ、炎のカーテンが形成される。今度は全ての焼夷弾子が防がれた。

 

 

「合わせます。これ以上、好きにはさせません!」

 

 

 そこへ急降下する、先行していた彗星たち。名前の通り、機体は連なって二本の軌跡を描く。

 フラ・タにも対空機銃は備わっているが、申し訳程度。見事にくぐり抜け、順次爆弾が投下された。

 鋼の裂ける音。

 前方機体の着弾から位置を修正し、精度を確かにしていくそれは、やがて艦橋の上部――レーダー相当部位に直撃する。

 

 

『よし、これで持久戦に持ち込める。赤城、よくやった! 足柄、衣笠。ここからが本番だ。気を引き締めろ!』

 

「光栄です。次の作戦行動に移りますね」

 

《了解っ。さぁ、勝利に向かって一直線よ!》

 

《息つく暇もないのぉ? ……こうなったら、とことんまでやるっきゃない、かっ》

 

 

 彗星がひらりと身を返し、重巡たちが戦意を高揚させる。

 旗艦種の命中率の高さは、恐ろしく精度の高いレーダーが理由。それを潰した今、脅威度は選良種と同じくらいまで下がったと言えるだろう。

 手強い相手に変わりはないが、なんとか足止めできるはずだ。確実に戦況は動いている。

 しかし、怒りの噴煙を上げるフラ・タの向こうでは、未だ航空機の乱戦が続いていた。

 

 

「どれほど数に差があろうと、ここは――譲れません」

 

 

 息つく暇もなく、矢を放ち続ける加賀。

 制御下にある零戦がその度に軌道を変え、敵艦載機をすれ違いざまに叩き、速度を上げて追い落とし、翻弄する。

 が、劣勢である。あれから零戦も数を増やしたものの、迎撃できたのはおよそ四割ほど。落とされないよう回避行動の合間に攻撃をしかけ、引きつけるのがやっとだ。

 そして、どうしても形成されてしまう穴を抜けた敵機が、二割。

 

 

《……って、来てる来てる来てるっ、こっちに来てるってばぁ!? 霞、まだっ?》

 

《急かさないでって……。もう、少し……っ》

 

《八倍近い差なのよ。持ち堪えてくれてるだけ、ありがたいと思いなさい。第一、何のために私が居ると思ってるの》

 

 

 曳航の準備を進めながら、迫る影に曙が狼狽する。

 この状態だと間違いなく当てられてしまうのだから、仕方ない。

 それを諌めるのは、唯一自由に行動できる叢雲。

 主砲はもちろん十cm高角砲へ改装済みで、増設された対空機銃と共に、影を撃ち抜かんと仰角を調整した。

 

 

《さぁ、来なさい。私が居る限り、誰も墜とさせはしないっ!》

 

 

 己を一喝するように、彼女は吠える。

 波の音に混じり、遠く、発動機の威嚇が届いた。

 食い止めようと、新たに加賀から飛び立った零戦は数機を落とすが、それを無視して前進して来る。

 インメルマンターンで追いすがろうとするも、間に合わない。叢雲へ曙が続き、砲塔を回す。言葉を発することが躊躇われるほどの、緊張感。

 じわり、じわりと。影は大きく、鮮明に。

 

 来る。

 

 

「好きにはさせないと言ったはずです!」

 

 

 ――しかし、その刹那。

 横合いから鉛玉で殴りつけられ、敵機が蜘蛛の子を散らすように散開した。

 開けた空間を駆け抜けるのは、彗星。

 爆弾を投下し終えたその機体は、艦戦にも引けを取らない機動性で脅威を駆逐していく。

 七・七mm機銃の豆鉄砲でも、多く被弾すれば墜落は免れず、ましてやそこへ、追いついた零戦の二十mm機銃が加わるのだ。命運は尽きたも同然である。

 

 

「愚かね。“私たち”を抜けられるとでも?」

 

 

 完璧な予定調和であると、加賀は絶対の自信を滲ませる。

 たった十数機で、数倍はある航空機を翻弄し続け、彗星のサポートのもと、突出した機体を瞬く間に葬る。

 これが、一航戦。

 これぞ、我が機動部隊。

 軽くなった彗星で零戦を補助し、数の不利を補う。素人染みた無謀な思いつきを、現実のものとする脅威の練度。背筋が寒くなるくらいだ。

 思わず立ててしまった鳥肌を誤魔化すため、自分はポカンと鳥たちを見つめる叢雲へ声をかける。

 

 

『……さぁ、来なさい?』

 

《私が居る限り、誰も墜とさせはしない?》

 

《わ、笑いたければ笑うがいいわっ。その代わり、帰ったら覚えてなさい!?》

 

《バカばっかり……》

 

 

 すかさず合いの手を入れる曙。

 空振った気合いが恥ずかしくて地団駄を踏む叢雲。

 呆れる霞。

 一瞬だけ、ここが戦場であることを忘れてしまった。

 ……そうだ。みんなが帰ったら、鳳翔さんと一緒にご飯でも作って、手厚く迎えよう。

 霞も高速修復してもらって、必ず、全員でご飯を食べよう。

 

 

《提督、楽しそうなところを邪魔して悪いんですけど、そろそろ加勢してぇー!》

 

《さすがは旗艦種、至近弾だけで、装甲が持って行かれるわ……っ》

 

『っと、すまん。赤城、加賀。後は予定通り、空をひっくり返せ。金剛!』

 

《Full Speedで向かってるヨー! もうまともに戦えるのはフラ・タだけネー!》

 

 

 衣服が可哀相な(うれしい)ことになっている二人に泣きつかれ、大急ぎで意識を集中。また指示を下す。

 空母二人は無言でうなずき、すでにエリ・ルとの戦闘を終えていた金剛たちも、同期した作戦通りフラ・タへ。

 

 

(そろそろだ。自分の見立てが正しければ、動きを見せるはず……!)

 

 

 比叡にすら、無理無茶無謀と言わせる作戦。

 確証など何一つなく、好転しているように見えても、実は綱渡りをしているだけだ。

 深海棲艦が今まで通りの存在なら、むしろ追い詰められたのは自分たち。いつになく、心臓が大きく跳ね回る。

 果たして、その読みは――

 

 

《……あれ? 砲撃が、止んじゃった……?》

 

 

 ――気の抜けた衣笠の声で、正鵠を射ていたのだと実感できた。

 わずか十数秒。砲戦合間の静寂に、フラ・タは回頭を始め、それに先立つよう、ヌ級、ヲ級が後進を始める。

 甲標的に囲まれていたエリ・ルも同様だ。

 

 

「……うそ。深海棲艦が、撤退していく」

 

 

 書記さんが声を震わせる。珍しいが、今起きている現象は、それ以上に珍しい――いや、史上初の出来事だった。

 これまで深海棲艦には、“撤退”という概念が存在しなかった。索敵範囲に対象を捉えたなら、燃料がなくなるまで追いかけ、その身と引き換えに被害を与える。狂戦士と呼んで差し支えない振る舞いだったのである。

 それが唐突に、戦術的な劣勢を感じ取り、命を惜しむように撤退していく。あり得ないことだった。

 しかし、これが自分の目論見。

 

 圧倒的な物量で押しつぶさんとするだけだった深海棲艦。ところが、今日の戦いは戦術的な優位に立とうとしていたように思えた。

 ただでさえ手強い相手が、知恵をもって戦いに臨む。

 頭を抱えたくなったけれど、戦術的な判断を行うのならば、そこへ付け入る隙もできるのだ。

 

 

「撃破を狙わず、あえて戦闘能力だけを奪うことで、戦術的撤退に追い込む。首尾は上々、ですね」

 

《勝てなくてもいい。負けなければいい。生きてさえいればどうにかなる。……くぅー、さぁっすがMy Darling!! 惚れ直しましタ!》

 

『こら、その呼び方は禁止だって言っただろ』

 

 

 脳内だけで呟いたはずの言葉が伝わっていたらしく、それが照れ臭くて、万歳しながら飛び跳ねる金剛を叱りつける。赤城には見抜かれたようで、クスリと笑われてしまったが。

 とにかく、二人の言うとおり。戦術という概念を手に入れたなら、その中には必ず撤退という選択肢があるはず。だったら武装を剥ぎ、戦いたくても戦えない状態、もしくはそれに近い状態へと持ち込む。

 自分に選べたのは、この不確定要素満載な作戦だけだった。

 無論、深海棲艦のロジックに衝角戦法が組み込まれていたら、その時点で目も当てられない結果になっていただろうし、みんなを危険に巻き込んでしまったことは、反省しなければならない。

 

 そもそも、キスカ島でのことを踏まえ、キチンと心構えしておけばここまでの被害は受けなかった。

 ……慢心していたんだ。

 敵が戦術的判断をするかもしれないと分かっていたのに、結局それらしい気配が見られなかったから、「大丈夫だろう」と高を括った。その結果、霞を轟沈させてしまうところだった。

 司令官として、情けない。

 

 

「提督。私見を一つ、よろしいですか」

 

『お、おう。なんだ、加賀』

 

 

 自分を恥じているところへ、いつもの無表情に戻った加賀が話しかけてくる。ギクっとしてしまった。

 いちおう従ってはくれたけど、ダメなところはダメって言う性格だし、多分、怒られるんだろうなぁ。

 後悔はしないつもりでも、やっぱり美人に怒られるのは精神的に来るよ……。

 

 

「軍人として適切な判断をできなかったのは、留意すべき点でしょう。

 が、それを置いても……良い作戦指揮でした。こんな艦隊なら、また一緒に出撃したいものです」

 

 

 ――と、身構えていたのに。予想外な賞賛が向けられる。

 淡々とした口振り。しかし、込められる“何か”が、嘘ではないと教えてくれた。

 あまりにも驚いてしまい、「ありがとう」と反射的に返せば、短く「いいえ」と。

 見守る赤城が嬉しそうな顔をしてくれて、それがまた気恥ずかしい。

 ……認めてもらえたんだろうか。上官としてはまだまだでも、仲間としてなら。肩を並べるには値する、と。だとしたら、嬉しいのだが。

 

 

《えーっと……。終わっちゃったの? やっと曳航の準備できたとこだったのに?》

 

《そのようね。……ふぅ。汚名返上は無理、か》

 

《……別に、いいじゃない。次の、出撃で、取り返せば……。それより私、疲れたから、休むわ。曙、あと、よろしく……》

 

《あっ、ちょ……全く、しょうがないんだから》

 

 

 巻き上げ機近くでたむろする妖精さんを背後に、ぽけーとする曙と、髪をかきあげ、腰に手を当てる叢雲。結局、出番らしい出番のないまま、戦闘は終わってしまった。

 特に叢雲は残念そうだ。どうして電探に旗艦種が引っかからなかったのか。原因は不明だが、気に病んでいる様子。

 それを励ましながら、満身創痍の霞は第一砲塔の根元に座り込む。そのままズルズルと後ろへ体重をかけ、機関部をまくらに目を閉じた。すぐに寝息が聞こえてきて、曙は苦笑いである。

 改めて状態を確認しても、危険な状態ではないことが分かる。鎮火は済んでいるし、船体のダメージも曳航に十分耐えられる。一安心だ。

 と、肩の力を抜いた時、「司令司令!」と比叡の声が脳裏を横切った。

 

 

《わたしたちのコンビネーション、見ていてくれましたっ? ビシッと決まりましたよね!?》

 

『ああ、ちゃんと見てたよ。君たちがエリ・ルを抑えてくれなければ、赤城も動けなかっただろう。本当に良くやってくれた』

 

《えっへへ。そうでしょうそうでしょうっ。まぁ、MVPは赤城さんたちでしょうけど、お役に立てたのなら、頑張った甲斐がありました!》

 

《それも、あの読みがあってこそです。さすが司令、データ以上の方ですね》

 

『褒めても何も出ないぞ? 正すべき点は沢山ある。帰ったら反省会に付き合ってくれ』

 

《お任せを。的確に分析してご覧に入れましょう》

 

 

 ドヤァ、なんて効果文字を背負う比叡に続いて、霧島は眼鏡の位置を正す。

 今回の一戦。手痛い教訓を得ることとなったが、痛みからこそ拾えるものがある。おかげで、海域突破の鍵も見えた。

 みんなが帰って来るまでの間に、次の作戦の概要だけでも纏めておかないと。

 

 

『……さて。分かっていると思うが、これより撤退を開始する。霞・曙を中心として輪形陣を組め。

 後方に赤城・加賀・千代田。両舷は金剛たちで固め、前方に足柄・衣笠・叢雲だ。

 指揮は……済まないが、赤城。預けさせてくれ。自分も少し疲れたよ』

 

「はい、確かに。無事の帰還をお約束します」

 

《はぁぁ、やっぱり戦うのって疲れるよぅ。早くお姉に会いたい……》

 

《もう少しの辛抱ですよ、千代田さん。提督も、ゆっくりお休みください。皆さんは榛名がお守りしますから》

 

 

 ガックリ。肩を落とす相変わらずな千代田の姿に、自分はため息をついてしまうも、代わりに気を張ってくれる榛名たちに「頼む」と言い残し、同調強度を下げる。

 耳の奥で、足柄の「不完全燃焼だわ……。もっと訓練が必要ね」という声や、衣笠の「こんな格好、青葉に笑われちゃうよー」という恥じらいが、遠ざかっていく。

 程なく装具から頭部が解放され、その瞬間、再び大きなため息が出た。

 

 

「……くはぁ。しんどかったぁああぁぁぁ……」

 

 

 乱暴に籠手から腕を引き抜き、シートの上に投げ出す。

 全身の力も抜けて、許されるならこの場で寝てしまいたい。

 

 

「司令官さん、お疲れ様でした。霞ちゃん、なんとか助かりそうで、良かったのです。本当に、良かった……」

 

「……疲れたのは分かるけど、女の子の前でだらしない顔しないでよ」

 

「ぁあ、悪い。やっぱり居てくれたんだな、電、満潮。……ん?」

 

 

 何となくそこにいる気はしていたが、疲労のせいか、うっかり腑抜け顏を見せてしまう。

 いかんいかん。完全に気を抜いてた。でも、この立ち位置、気になる。

 電は真正面に、満潮は右脇に立っていた。てっきり、あの時袖をつまんだのは電だと思いこんでたけど、まさか……?

 

 

「なぁ。もしかしてさっきの、満し――」

 

「知らないわ。何かと勘違いしてるんじゃないの? 私はただ立っていただけだし。袖をつまんでなんかいないもの」

 

 

 うっわー。分かり易いツンデレーション。

 というか語るに落ちてるんですけど。気づいてないのか、もしかして。電も苦笑いしてるぞ。

 ……まぁいいか。誰だって妹が危機に陥れば、らしくないこともする。追求はしないであげよう。

 そう思い、シートから降りようと身を起こすのだが、そのツンデレ少女は「あ、の」と唇をモニョらせる。

 

 

「まぁ、あれよ。一応、姉妹艦としては言っておかなきゃいけないと、思うし……って、あっ」

 

 

 神妙な態度に、こちらも襟を正そうとしたら、今度は何かに驚いた顔。

 忙しい子だな。なんて首を傾げると、鼻の奥から熱い一筋が。

 

 

「だ、大丈夫ですかっ。鼻血が……」

 

「ああいや、ちょっと戦闘で血が滾っただけだよ、きっと」

 

「ったく。いくら衣笠の紐パンを見たからって、鼻血なんか出さないでよ。ほら、ティッシュ。……まさか、霞のブラに反応したんじゃないでしょうね?」

 

「んなわけあるかっ……あれ」

 

 

 白いシャツで拭うわけにもいかず、ありがたく差し出されたティッシュを鼻へ押し当てるのだが、一向に止まらない。

 みるみるうちに、赤く染まっていく。

 

 

「あ、あの、司令官さん。本当に大丈夫ですか? 全然、止まらない……」

 

「……だ、大丈夫だよ。このくらい普通――こふ」

 

 

 唐突な、こみ上げる感覚。

 単なる空咳のはずが、腹の上に飛び散る物があった。

 それは何故だか、鮮烈な色をしていて。

 

 ……あれ?

 

 

「っぐ、あ゛ぃっ、い゛っ!?」

 

「し、司令官さん!? あっ、な、なんで!?」

 

「ちょ、何よこれ、そんなっ。しっかりしなさいよっ」

 

「……!? こちら調整室、第二種フィードバック発生っ、手術室の用意と交代要員を!」

 

 

 唐突に、身体が制御できなくなった。

 引きつけを起こしたように勝手に暴れ、耐え難い痛みに悶える。

 

 

「げふ、うぶ、あ゛あ゛、ぁ」

 

「ど、どうすれば、電は、何をすれば……」

 

「冗談やめてよっ。まだちゃんとお礼も言ってないのに!」

 

「お二人とも下がって。シートを分離し医療棟まで運びます。お手伝いをっ」

 

 

 口元から胸のあたりまでが、生暖かい水気を帯びる。

 視界も上下に安定せず、全身の筋肉が強張り、落ちそうになる自分を、誰かの手が抑えている……気がした。

 

 

「ふ、ゔ、ふ――ごほ、こふっ」

 

「電さんはそのまま呼びかけてください。満潮さん、行きますよ!」

 

「は、はいっ」

 

「了解! こんな形で終わらせてたまるもんですかっ!!」

 

 

 意識は、奇妙な虚脱感に襲われ始めていた。

 痛みも息苦しさも遠い。まるで他人事のように。

 まどろむようなそれに抗いきれず、まぶたは閉じていく。

 見慣れた少女の、見慣れぬ表情を、網膜へ焼き付けながら。

 

 

 

 

 

「司令官さん、司令官さんっ。目を閉じちゃダメなのです! しっかりしてください司令官さん!! 司令か――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《追想 寄る辺なき魂》

 

 

 

 

 

「それは、どういう意味だ」

 

 

 受話器の向こうに居るはずの少女へ、男は低い声を発した。

 冷気すら孕むそれにさらされた彼女は、しかし、感情を表に出さないまま、静かに返す。

 

 

『言葉通りです。彼の同調率は、フィードバックを発生させるほどの強度ではありませんでした』

 

 

 桐林提督、負傷。

 昼過ぎに受けた報告は、徹夜続きの眠気を覚ますのに、一役買ってくれた。

 送られた映像を見れば見るほど、元来の生真面目さが顔を出し、脳内で議論が繰り広げられる。

 

 油断。待ち伏せ。戦術的勝利。

 言葉にすると特段に変わった事柄ではない。が、深海棲艦相手に発生したとなれば、話は別だ。

 キスカ島での一件後も、なんだかんだと理由を見つけ、人類側は対応を怠っていた。個人レベルで警戒を強める能力者は居たが、とりあえず様子を見る、というのが軍全体としての対応だった。

 “桐”の三人ですら、具体的な策を弄していなかっただろう。……いや、あの三人はそんな必要もないだろうが。

 ともかく。そこへ有望株負傷の報が入れば、否が応でも認識せざるを得ない。相手が害獣ではなく、群れをなす狩猟者であると。

 

 こういった理由で、この知らせは男にとって吉報に近かった。

 後述する“手間”は増えるが、これで脳足りん共の意識も変わるはず。

 だが、空いた手で回していた万年筆は、ふとした瞬間に机の上へ飛んでいく。

 

 

(傷を肩代わりしたとでもいうのか。馬鹿らしい)

 

 

 能力者が傀儡艦と同調する際、その度合いは三つの段階で表される。

 第一強度――半同調状態。

 統制人格の視覚・聴覚を借りることができ、傀儡艦への指示を送れるようになる強度。ただし即応性がなく、実行にはタイムラグが生じる。

 第二強度――完全同調状態。

 統制人格と五感を同期させ、タイムラグ無しで命令を実行させられる。この際、発する命令は明確なものでなくてはならず、だいたいこのくらい、といった命令では反応しない。

 第三強度――過同調状態。

 船そのものに五感を移し、人でありながら船の身体を得た状態。この段階であれば命令のファジー入力が可能となり、反射的に砲撃を避ける、感覚的に狙いを定める、といったことが可能。

 ただし、被害を受ければ確実にフィードバックが生じるため、よほど腕の立つ能力者か、馬鹿しかこの段階へは移行しない。

 

 このフィードバックとは、ダメージが能力者へと“反映されてしまう”現象のこと。

 暗示を受けやすい人間に目隠しをし、「これはアイロンだ」と言って常温の鉄を押し付けると、実際に火傷を負ってしまうことがあるのと同じである。

 これにも幾つか段階があり、外傷のみの第一種。内臓へのダメージである第二種。そして精神汚染を意味する第三種とある。基本的に第二強度から発生するものであり、第二種以降は滅多に発生しない。

 

 

「怪我一つするのにも、常識を塗り替えないと気が済まんのか」

 

『流石に、それは……』

 

「分かっている。ただの冗句だ」

 

 

 それが今回、全く意図しない状態で発生したと、少女は言うのだ。

 桐林提督が大破した霞へと同調した時、彼女はその命令に反し、徐々に増幅機器の出力を下げていた。鎮痛剤で感覚が鈍り、彼は気づいてもいなかっただろう。

 貴重な人材を保護するため。なおかつ、使役するのは自立行動可能な感情持ち。バレれば何らかの沙汰はあろうが、実際の罪にはまず問われない。どうでもいいことだが。

 

 それでも内蔵は傷つき、肺胞から出血を起こしていた。とりあえず、命に別条は無いらしい。人間用の治癒触媒を使えば、二日と経たず完治するはず。

 例によって原因は不明である。

 一から感情持ちにまで育て上げた傀儡艦なら、能力者も思い入れを持つ。無意識に過同調状態へ移行する場合もあるだろうが、彼にそれは当てはまらない。

 何かにつけて常識外れな彼ならば、あり得るのかも知れないが……理解し難い出来事だった。

 しかし、いつまでも答えのでないことを考えていても仕方ない。ひとまずこの疑問は棚上げし、男は他の確認事項を受話器に問いかける。

 

 

「……まぁ、いい。医療廃棄物は処理したな」

 

『はい。衣服も、血痕の洗浄も、確実に。手術が終われば、忙しくなると思われます』

 

「そうか。奴等に渡れば非道に使われる以外にない。手間だが、これからも注意しろ」

 

 

 男が警戒しているのは、情報漏洩。特に、桐林提督の遺伝子情報である。

 海を隔てられる以前から日本で暗躍していた間諜たちは、祖国に帰ることが叶わなくなっても、深く地下へ潜り、活動を続けていた。逆もまた然り、ではあるが。

 その影響を排除することは難しく、軍内部へも及んでいることが確認済み。しかし、今までは目立った動きを見せることがなかった。情報を得ても、行動に移す利が深海棲艦によって奪われていたためだ。

 ところがここ数カ月、当たりを付けていた間諜たちが、活発に情報収集を開始したことを、日本側も察知する。

 ある若者が、駆逐艦を励起したその日から、だった。

 

 

「知らぬは本人ばかりなり、か。気楽に撒き散らしてくれるな、あの男も」

 

『………………』

 

 

 彼の遺伝子情報は現在、最高位の機密になりつつある。

 ただ一人で、本物の“艦隊”を作り上げる、特異能力者。深海棲艦がいるからこそ、彼は生き延びていると言っていい。

 そうでなければ真っ先に暗殺されるか、誘拐され、洗脳を受け――いや、切り捨てられない(きずな)でがんじ搦めにされ、他国へ忠を尽くしていたことだろう。

 

 

(あるいは、そちらの方が幸せか)

 

 

 一般には公表されていないが、すでにクローニング技術は確立されていた。

 多量のサンプルさえあれば、いくらでもコピーは作れる。

 この能力が“中身”に起因するものではなく、“容れ物”に付随するものなら。作って、壊して、いくらでも用意できる。

 それを忌避しないまでに、追い詰められているのだ。

 

 

「……ん?」

 

 

 ふと、男は眉をひそめた。

 視界の隅で光を放つ液晶画面の中に、見知った装備配置がある事に気づいたのである。

 

 

「どうかなさいましたか」

 

「いや、なんでもない。ご苦労だった」

 

「……はい。失礼しま――」

 

 

 少女が挨拶を終える前に、受話器を置く。

 そのまま机の引き出しを開けると、中から手の平より少し大きい程度の医療ケースを取り出した。

 収められていた銃――圧力を利用した無針注射器に、賦活剤のカートリッジを装填。無造作に首へ打ち込む。

 

 

「――っ。は、ぁ……。今日は寝られるだったんだがな。桐生の情報も取り寄せねば」

 

 

 独りごちた男は、記録映像を映し出すデスクトップPCに向き直る。

 念には念を。これから夜を徹する覚悟で、外部向けの映像へと加工せねばならない。

 この情報を見られるのは、吉田中将と“桐”に留めた方が良いと、そう判断したからだ。

 場合によりけりだが、大本営にも秘匿する必要性すら出てくるだろう。

 

 

「お前の魂、今はどこに在る。……“人馬”」

 

 

 画面には、戦艦タ級 旗艦種が居た。

 艦首から中ほどにかけて、錨に相当する塊を複数括り付けた、高速戦艦とは似ても似つかない、“敵”の姿が。

 

 

 

 

 




「くー……。何が、“俺”よ……格好つけちゃ、って……。お礼なんて、言わない、んだから……。バカ……」
「いい気なもんね。寝言なんか言っちゃってさ。あー、重いったらありゃしない……」
「きっと安心してるんですヨ。帰ったら綺麗にRestoreしてもらって、いーっぱい褒めてもらうデース!」

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