少々時間を早送りし、桐林艦隊が横須賀へ帰投してから、二週間ほど経過した頃。
十名ほどの統制人格が集まる、薄暗い小会議室にて。
彼女たちを集めた張本人である少女が、やおら立ち上がった。
「皆さん、ごきげんよう。まずはお礼申し上げます。お集まり頂き、ありがとうございました」
重い空気を破る、淑やかな声。
茶色のセーラー服をまとい、髪を右でサイドテールにまとめる彼女は、綾波型駆逐艦一番艦・綾波という。
艦隊へとやって来て、まだ間も無い新顔である。
「今回お時間を割いて頂いたのは、他でもありません。実は、皆さんにお願いしたい事があるんです。まずは資料をどうぞ」
「しつも~ん! それってやっぱり、あの事?」
圧着された再生紙書類の束を配る綾波へ、集められた内の一人――長良が挙手をしつつ問う。
資料を配り終え、コの字型に並べられた長机の端へ腰かけた綾波は、それに対し難しい顔でうなずく。
「そうなんです。今までは、なんとか隠してこれました。でも、これ以上提督を騙すのは……」
「ですよね……。悪いことじゃないと思いますけど」
「なのです。ちょっとだけ、罪悪感があるのです……」
長良の隣に座る名取と、さらに隣の電も、同じく悩ましげな顔。
例えるならば、親に隠れて動物を拾ってしまい、隠れて世話をしている学生、といったところか。
あくまでこれは例えであり、事実となんら関わりないはずである。
ひょっとしたら正鵠を射ているかも知れないが、 その場合は御容赦頂きたい。
「そんな状況を打破するため、私は那珂さんと一緒に、ある作戦を立案いたしました」
「ふーん。これがその作戦なの? って言うかさ、那珂さんは? どっこにも居ないじゃない」
綾波と同じ新顔であり、その姉妹艦――綾波型駆逐艦二番艦・
会議室に居るのは、すでに発言した綾波、長良、名取、電、敷波の五名と、これまた新顔を含む残り五名の計十名。
発起人の那珂が居ないのはおかしい……と彼女が思った途端、騒がしくドアが開く。
「おっ待たせ~! 噂の那珂ちゃん、ただいま参上~! あ、榛名さん。これ配るの手伝って~」
「は、はい。分かりました。……あら? これは……」
大きなダンボールを抱え、きゃるん☆ と擬音を発しそうな少女が駆け込む。那珂である。
その勢いに押され、一番近くに座っていた榛名は、箱の中身を配ろうと立ち上がるのだが、初めて見た“それ”にまじまじと見入ってしまう。
確認も兼ねて、那珂から真っ先に“それ”を受け取り、完成度の高さに大きく頷いた綾波は、ゆっくり皆を見渡し――
「この作戦の主眼は、意識改革にあります。司令官の苦手意識を無くし、こちら側の要求を通し易い状況を作ります。それには皆さんのご協力が絶対に必要なんです。特に……」
「い、電、ですか?」
「そうそう! 電ちゃんがこっちに居れば、那珂ちゃんの可愛さとプラスされて、完全勝利間違いなしだもん!」
――最後に、電へ注視した。
十人分の視線を受け、電はたじろいでしまうものの、那珂の高過ぎるテンションが重さを和らげる。
そうこうしている内に、例の物が全員に行き渡った。
各々、“それ”を見て十人十色な表情をする彼女たちへ、綾波は頭を下げる。
「新参者の私が、こんな事をお願いするのは筋違いかも知れません。
ですが、どうしてもちゃんとした環境を用意してあげたいんです。
だからどうか、どうか協力して下さい……!」
懇願。
こう表すのに申し分ない、切実な声だった。
さっきまでハイテンションだった那珂までもが、真剣な顔で何度も頷いている。
綾波にとって、この作戦は重要な意味を持つらしい。
「水臭いな、綾波。そうまで言われて、断れる奴なんか居るわけがない。さぁ、作戦を頭に叩き込むぞ!」
「あ、はい。頑張りますっ。努力すれば、なんとかなりますよね? きっと」
そんな彼女に対する仲間の目は、おしなべて優しかった。
睦月型八番艦である
隣の
ここに居る全員、彼女が抱える事情を熟知していた。
仲間であり、家族であり、命を預けあう同僚でもある。
何より、素直に助力を求め、惜しげもなく頭を下げる心優しい少女を、どうして見捨てられようか。
返された沢山の笑顔に、ようやく綾波は微笑む。
「……ありがとうございます、皆さん。それでは……」
そうして、手にしていた物を頭部に装着。
後に続く皆を待ち、彼女は胸を張って宣言した。
「全ては、素敵なにゃんこライフのために! オペレーション“エヌ・ワイ・エー”、発動です! にゃー!」
『にゃー!」
「に、にゃ~……」
「……にゃー」
なんとも可愛らしい掛け声と共に、拳が天井へ突き上げられる。
不本意でたまらないという顔の長門と那智も、嫌々ながら。
こうして、世にも珍しい、キュート過ぎる作戦行動が開始されたのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ん……っくはぁぁぁ。ようやく落ち着いてきた感じかな」
朝日が差し込む窓辺に向かい、自分は大きく背伸びをする。
双胴棲姫との一戦を越え、戦後処理の真っ只中である今日このごろ。
やっとこ終わりも見え始めていて、忙しいながら、平穏な日々を楽しんでいた。
……まぁ、途中で財布無くしたり、各種再発行に手間取ったり、「レーベ」なる聞き覚えのない名前のせいで電と修羅場ったり、桐ヶ森提督からお説教されたりと、全くもって楽しくない出来事もあったのだが、それは別の機会に語るとして。
時刻はそろそろ○七○○。朝食前に、秘書官の子たちが起こしに来てくれる時間だ。
「司令官さん、起きてますか?」
「お、電か。今日は起きてるよ、入ってくれ」
「はいです」
「失礼いたします」
コンコン、と。タイミング良くノックの音。新人の子を引き連れた電だ。
仕事を奪っちゃってアレだけど、たまには自分だって、朝からシャンとするのである。
着替えは済んだし歯も磨いた。キッチリ決めた姿で出迎えよう。
「お早う、二人とも。今日一日、秘書官としてよろしく……な……」
――と、思ったのだが。
ドアの向こうから現れる二人の少女に、顔が硬直してしまった。
なぜならば。
「おはようございます、にゃのです。司令官さん。本日、第一秘書を務める“いにゃづま”と……」
「第二秘書官を務めさせて頂きます、“あやにゃみ”です。至らにゃい点もあると思いますが、よろしくお願いいたします」
そこに居る少女たちは、どういう訳か猫耳と猫尻尾を生やしていたからである。
電は髪と同じ色の茶色耳。人間の耳があるはずの位置に、入れ替わるようにして生えていた。尻尾も茶色一色。ゆらゆらと揺れていた。
彼女の隣に居る、茶トラ模様の耳尻尾を生やした少女は、あの戦いで双胴棲姫から解放された駆逐艦、綾波だ。
二人とも、“な”と言うべき部分が“にゃ”になっている。……アカンこれ。
「うん。よろしく頼む。じゃあお休み……」
「はいっ、それじゃあ失礼しま――にゃ、にゃんでにゃのです!?」
「し、司令官っ? にゃんでお布団に戻っちゃうんですか!?」
「疲れてるんだ。もしくは憑かれてるんだ! なんか変なものが見えたり聞こえたりするし、きっと仕事できそうもないから休むぅ!!」
押入れから布団を引っ張り出し、軍服のまま潜り込む。
何やらニャーニャーうるさいけど、きっと空耳だろう。あの耳尻尾だって幻のはず。
あんな物を幻視してしまうだなんて、いつの間にか無理をしてたに違いない。
そうに決まってるんだ。だから寝た方が良いんだぁ!
「だ、駄目にゃのですっ、ちゃんとお仕事しにゃきゃ、駄目にゃのですぅ!」
「そうですよ。困らせにゃいで下さい、司令官っ。まだ書類に判子が必要にゃんですからっ」
しかし抵抗も虚しく、艤装を召喚した二人に布団を剥ぎ取られ、畳の上でうつ伏せに。
こちらを見下ろす猫耳少女たちは、見えそうで見えないもどかしさと、奇妙な違和感を放つ。
……前にもこんな構図を楽しんだような気がするな。思い出せないけど。何が見えそうかって? 秘密です。
「なぁ、二人とも。なんともないのか?」
「にゃにがですか?」
「いつも通りですよね、いにゃづまさん」
「にゃのです」
立ち上がりつつ問いかけてみるが、電も綾波も、可愛く頷きあうのみ。
ただでさえ美少女なのに、萌えポイントが追加されて倍率ドンッ。ニャー語でさらに倍! である。
なんなんだこれは? でも、嘘ついてるようには見えないし……。
「……分かった。君たちがそう言うならそうなんだろう。働くよ」
「良かった……。じゃあ、まずは朝ご飯にゃのです」
「一日の元気のみにゃもとですから。しっかり食べてくださいね」
「うん……」
問答しようにも、求めるものは得られそうにもない。
仕方なく、しぶしぶ布団を仕舞って、ニャーニャー声を背に部屋を出る。
やっぱ疲れてんのかな……。
「あ、提督。お、お早う御座います」
「おう、名取。お………………はよう」
考え込みそうだった自分へ、三人目の猫娘が挨拶した。
自室と宿舎をつなぐ屋根付き廊下。その宿舎に近い花壇を手入れしていた彼女は、長良型軽巡の三番艦、名取……のはず。
なんで断言できないのか。立ち上がる彼女には、やはり耳尻尾が付いていたからである。今度はキジトラだ。
思わず口をつぐみそうになると、名取は猫耳をピクリと跳ねさせ、首もかしげる。
「……? あのぉ、どうかしましたか?」
「ううん、なんでもない。なんでもないよー。いつも以上に可愛いなーって思っただけ」
「ふぇ!? そそそ、そんにゃこと、ありません、よぅ……」
取り繕うのも面倒臭く、つい正直に感想を言ってしまえば、彼女は顔を真っ赤にして、胸の前で指をモニョモニョさせ始めた。
窮屈そうな神の恵みが、見ていてとても楽しい。可愛いっていうのも嘘じゃないし、背後から感じる圧迫感さえなければ、頭を撫で回したいところだ。
しょうがないんですよ電さん。自分だって男なんだし、しかも何故か憑かれてるっぽいんで、勘弁してください。
「おーい! しれーかーん! にゃとりー!」
――と、そんな時、遠くから近づいてくる足音が一つ。
駆け足の速度でリズムを刻むのは、名取の姉、長良だ。いや、この場合は“にゃがら”、か?
彼女はサバトラ。灰色と黒の縞模様である。
また猫娘が増えた……。でも、電はいつも通りって言ってたんだから、こっちもそのつもりで対応した方が良いよな。うん。
「はぁ、はぁ……。おはようございます! 寒くにゃって来ちゃいましたね! いにゃづまちゃんとあやにゃみちゃんも、お早う!」
「おはようです、にゃがらさん」
「おはようございます。朝からランニングにゃんて、健康的ですね」
「だなぁ。自分には真似できないよ」
「もっちろん! にゃがらはこんにゃ程度、へっちゃらへっちゃら! 空気が澄んでて気持ち良いですよ。一緒に走りません?」
白く煙る息を整え、長良は短めな尻尾をピンと立てる。
もう冬至を過ぎ、今年も終わろうかという時期なので、気温はかなり低い。
それでも大抵の子はミニスカのままで、長良も当然のように短パン半袖姿。見ているこっちが震えそうだ。
早くコタツに入ってあったまりたい……。
「いつも断っちゃって悪いんだけど、これから朝ご飯だからさ。またの機会にな」
「そうですかー。残念です。にゃら、私もそろそろ上がります。おにゃかも空きましたしっ」
「あ、にゃがらちゃん、きちんと手を洗ったり、うがいしにゃいと……。それじゃあ、提督。私はこれで……」
「うん。食堂でなー」
あまり期待していなかったのだろう、長良は特に気落ちもせず、元気に玄関方向へ。
手を土で汚した名取がそれを追い、途中でペコリと腰を曲げ、また追いかける。
小さくなる背中へ手を振り、自分たちも今度こそ宿舎に。
食堂と直結しているため、暖かい空気と味噌汁の匂いが迎えてくれた。
「あ、司令。電に綾波も、おは――」
「おはようございます、提督! 一番ですか? 電ちゃんと綾波ちゃんを除いたら、私との挨拶が一番ですよねっ?」
「ちょっと白露ぅ!? 朝の挨拶から張り合うことないじゃない!?」
「おはよう、陽炎、白露。入り口んとこで名取たちと会ってな。残念ながら白露は三番目だ」
「そうですかぁ……。すっごく残念……」
「本気で落ち込まなくても……っていうか、三番目は私じゃないの? 私の方が早かったわよね、絶対に」
……あれ。他の子は猫耳じゃないな。
食堂へ入り、すぐ近くに居た子たちと挨拶を交わすのだが、予想に反し、彼女らは普通なままだった。
しかも、電たちにまで普通に挨拶している。ニャー語でもない。
マジでどうなってるんだ。まさか自分にしか見えてないとか? うぅむ……。
悩ましいけれど、考えてたって仕方ない。そのまま食べ終わったらしい二人と別れ、厨房を覗けるカウンターに。
「おはようございます、鳳翔さん。朝の献立は?」
「大根と油揚げのお味噌汁と、銀ダラの西京焼きに、ほうれん草の胡麻和え。あとは小鉢が二つですよ。この時期はタラがとても美味しいですから」
「朝から豪勢じゃないですか。いつも美味しい物を用意してくれて、ありがとうございます」
「ふふ、どういたしまして。素直な提督には、御飯を大盛りにしてあげちゃいます」
「お、やりぃ」
忙しく配膳する、割烹着姿の女性――鳳翔さんは、ほっこり笑顔でしゃもじを構えた。
奥には手伝いをしている神通、霞、曙、由良、瑞鳳たちの姿も。
あぁ、なんだろう。この言葉にできない幸福感。鼻に優しい味噌の香り。
拝みたくなる心地に、自然と笑ってしまう。
「司令官さん。御膳はいにゃづまが持って行きますから、先に座っていて貰えますか?」
「ありがとう。電たちもまだなんだよな。一緒に食べよう」
「はい。あやにゃみもお手伝いしますので、少しだけお待ち頂けますか」
「ん。座敷の方に居るから、よろしく」
電たちの申し出に甘え、自分はテーブルで食事を摂る満潮や叢雲、龍驤と挨拶をしながら、コタツのある一角へ向かう。
一応、耳やお尻の辺りを確認してみるが、電、綾波、長良と名取以外には、誰も耳尻尾を付けていなかった。
つーかこの四人、明らかに共通点があるよな。しかしまさか、そんな安直な……?
「……あ、敷波」
「お、呼んだ? おはよ、司令官。……にゃにか用?」
「おはよう。いや、用ってわけじゃ無いんだけど……」
首をひねっていると、空の食器を手に目の前を横切る、新たな猫耳少女を発見。思わず呼び止めてしまった。
綾波と同じセーラー服。黒いリボンで短めのポニーテールを結う、綾波型駆逐艦二番艦・敷波が、安直すぎる考えを肯定したからだ。
それは、全員の名前に“な”が入っている、という事実である。マジでこれが理由だとしたら、自分の発想力の無さに悲しくなる。
けどなぁ? だからって猫耳が見えるとか、欲求不満なんだろうか。
風俗なんて行けないし、自分で処理したとしても、部屋を掃除してくれる鳳翔さんとかに気付かれそうだ。困ったな……。
ともあれ、用事も無く呼び止めたことを知ると、敷波は呆れたような顔を見せる。
「にゃんだよー。あたしも忙しいんだけど。ご飯食べたら、練習航海の準備しにゃきゃだし」
「あー、そう言えばそうだったな。初めての海だし、緊張とかしてないか?」
「別に? ただ指定された場所へ行って帰ってくるだけだしさ。……まぁ、不安がにゃいって言ったら、嘘ににゃるけど……」
簡単な仕事とは思いつつ、緊張感を拭えないのか、彼女は落ち着きなく猫耳をヒクつかせていた。
茶色一色なのは電と同じだけど、耳の先端が微妙に反り返っていて、尻尾は短い。
芸が細かい……違うか。やけに凝ってる……でもないような。ええと……とにかく個性的だ。
まぁ、どう表現するかなんて、この際どうでもいい。初遠征へ向かう新人を励ましてあげないと。
「安心しろ。旗艦は那珂に勤めてもらう予定だから。何があっても、あの子ならうまくフォローしてくれる。心配ないさ」
「あ……。ちょ、ちょっと、気安く
「あぁごめん。嫌だったよな。分かってるんだけど、つい」
「……別に、い、嫌じゃにゃいけどさ……」
もはや癖になっているのか、敷波の頭を撫でてしまう。
嫌がる口振りに慌てて手を外すが、プイとそっぽを向く彼女の頬は、かすかに赤く見えた。
短い尻尾が大きく、ゆったりと左右に。なんとなくだけど、機嫌が良さそうに感じる。
これぞ、霞みたいなガチのツンデレではなく、世間一般に認知されているツンデレである。癒されるなぁ……。
「じゃ、あたし行くから」
「うん。邪魔して悪かった。出発の時に、またドックで」
「んー」
立ち話もそこそこに、席へ向かう敷波と別れる。
日当たりの良い壁際には、全部で五卓ほどのコタツが置かれていた。
熾烈な争奪戦を勝ち抜いた少女たちでごった返しており、空いているのは提督指定の大コタツだけだ。
自分と秘書官の二人に鳳翔さん。あとは誘われた数人のみがくつろげるという、奇妙な暗黙の了解が作られていたりもする。
そこへ靴を脱いで上がりこむと、隣では四人の少女がじゃれ合っていた。
「お腹、いっぱい……。動きたくない……」
「あ、あの、ダメだよ初雪ちゃん。食器とか片付けにゃいと……」
「え~。いいじゃん、もうちょっとゆっくりしてからでもさぁ~。食べた後って、なんか、眠くなるし……。くぁ~」
「にゃにを腑抜けている! 食ってすぐ寝ると牛ににゃるぞっ。ほら、立たにゃいかっ」
正しく、かじりつくといった様子で天板にダレる、艦隊の怠けコンビ、望月&初雪。
必死になって引っ張り出そうとしているのは、二人の姉妹艦であり、綾波たちと同じ新顔の長月、磯波。やっぱり名前には“な”が入っているし、耳と尻尾も完備である。
……そうだ。ちょっと試してみよう。
「大変そうだな。……いそにゃみ、にゃがつき」
「あっ、提督? おはようございますっ。にゃにか御用でしょうか」
「気にしないでくれ。少し話したかっただけだから。朝はもう?」
「うん、済ませたぞ。鳳翔さんの作るご飯は美味しいにゃ! おかげで任務にも力が入る!」
黒髪おさげな控えめ少女と、緑ロングのハキハキした少女は、礼儀正しく挨拶したり、元気良く胸を張ったり。それぞれに声を返してくれる。
が、呼ばれ方にはなんの反応も示さない。随分と変にゃ事ににゃっているはずにゃんだけどにゃ……。ほれ言い辛い。
長月の耳尻尾は普通だし、磯波は耳がちょっとヘタってるだけで、短い尻尾――いや、カギ尻尾も存在を自己主張していた。
う~ん……。もう考えないで受け入れた方が良いんだろーか。可愛いんだから良いよーな気もする。
「……で、初雪と望月はダレてるわけか」
「だって……。外、寒い……」
「食後にまったりする時間ってさ、至高だよー。仕事もないし、今日は一日ここで過ごすー」
「おいおい」
ふてぶてしい非猫耳少女たちは、変わらずコタツへしがみ付く。
あんまりと言えばあんまりな、二人のコタツむり。
呆れて半眼になってしまうと、長月・磯波コンビも、畳に正座して同じような顔をしていた。
「まったく。同型艦にゃがら、にゃさけにゃい……。悪いにゃ、司令官。コレの分は私が働こう」
「本当に、ごめんにゃさい……。私も頑張りますので、どうか……」
「そう畏まらないで。事実、この二人は休みなんだし、ゆっくりして貰うよ。休みが終わったら働いてもらうけどな」
「有給、使いたい」
「働いたら負けな気がしてきた」
「お前らにゃ……」
「ごめんにゃさい、ごめんにゃさいっ、ごめんにゃさいぃぃ……。もうぅ、初雪ちゃんたらぁ……」
姉妹艦が庇ってくれているというのに、コタツむりは全く懲りない。
怒りと諦めを込めた視線が二人へ向き、こちらにはピョコピョコ動く尻尾が。
「……なぁ。長月、磯波」
「にゃんだ? 司令官」
「にゃんでしょう」
振り向く代わりとして、ゆらーと揺れる尻尾が二本。
……ダメだ、もう我慢できん!
「ふひゃ!? へ、変にゃところ触るんじゃにゃい!」
「あぁぁあぁのっ、恥ずかしいですぅ……」
堪え切れない衝動に任せ、両手で尻尾をむんずと掴む。
おぉぉ、めっちゃ触り心地が良い。長月のスラッとした尻尾も良いし、途中で折れ曲がってる磯波のカギ尻尾も乙だ。
生の猫なんて、もう十数年間触ってないはずだけど、こんなに気持ち良かったっけ。
逃げようとしてる二人には申し訳ないが、もうちょっと堪能したいなぁ。
「司令官さん。にゃにしてるのですか」
「はっ」
ギクリと、背後からの冷たい声に手が離れる。その隙に、長月と磯波は食器を抱えて逃げ出してしまう。
振り返った先には、二つの膳を器用に持つ電と、コタツむりへ向けられていたような視線の綾波が居た。
やべぇ、どう言い訳しようっ?
「いやっ、違うんだ! これはその、つい……」
「……にゃのですか」
「決してやましい気持ちがあったわけでも無くて、純粋な学術的興味が先走ったというか……」
「……にゃのです?」
「ごめんなさいもうしません! 許して下さいぃ!!」
「にゃのですっ」
必死に言い繕うが、「にゃのです」としか返してくれない“いにゃづま”さん。
諦めて安い土下座をしてみても、ムスッと荒く吐き捨てられる。
これは、ガチ切れ寸前の「なのDeath」モードだ。
こないだのレーベ修羅場ではこれにとても困った。どうにかして誤魔化さないと!
「えっと……。御飯、食べませんか? このままだと冷めてしまいますのでっ」
「そ、そうだなっ。食べよう食べよう! お? おーい! 長良、名取! 五十鈴もこっちこっち!」
「……ふぅ。仕方にゃいのです」
「司令官、さっきぶりですっ」
「お、お邪魔しちゃっていいんでしょうか? にゃんだか変にゃ雰囲気ですけど……」
「だからでしょ、きっと。全くもう……」
さり気なく差し出された、綾波様の助け。
迷わずそれに縋り付き、ついでに長良たちも呼び寄せると、弾劾裁判のごとき空気は払拭された。
五十鈴の「しょうもない……」と言った風な溜め息が痛いけど、土下座しっぱなしよりマシである。
なんだかんだで、電は自分の隣。右側には綾波と五十鈴、左に長良&名取が腰を下ろし、みんなで「いただきます」と両手を合わせ、やっと朝ご飯だ。
まずは味噌汁。出汁の香りと味噌が優しく鼻に抜ける。
主菜のタラには程よく焼き目がつき、塩気が胡麻和えの甘さを引き立て、電チョイスの小鉢はお新香とネギ入り納豆。シャキシャキ&ネバネバ。
美味しいという他に、感想なんてあるはずがない。猫娘が気になることを除けば、至福の和御膳だった。
「ところで、五十鈴」
「何よ。あ、こっちのヒジキ欲しいの? なら、そっちのお新香と交換よ」
「うむ、取引成立。……ってそうじゃなく、何か気づかないか?」
「え? 気づくって……。いつも通りだと思うんだけど」
小鉢を交換しながら、日常会話を装って問いかけてみる。
刻まれた白菜をシャキシャキさせる彼女は、しかし、期待外れな答えを返すばかり。
それでも諦め切れず、もう一度聞いてみるけれど――
「よぉーく見てくれ。ほら、みんなの顔の横辺りとか」
「……? もう、からかってるの? だからいつも通りじゃない。変な提督ね」
――あむ、とご飯を頬張り、会話は切り上げられてしまった。
猫娘三名を見回すも、幸せそうに銀ダラをモシャモシャ。無言でうなずくだけ。
やっぱり納得いかんなぁ……。みんなで口裏合わせてんじゃないか……?
「あ」
ふと、誰も座っていないコタツの一辺を通して、目が合った。
真正面。テーブル席へ腰掛ける重巡の統制人格――羽黒である。
ぽー、と箸をくわえ、こっちを見つめていた彼女だが、視線が重なった瞬間、ワタワタ朝食をかき込み始めた。
怪しい。メッチャ怪しい。逃がしてなるものかよっ。
「待てぃ羽黒」
「ななな、なんですか司令官さん!? ゎわゎゎわたし、妙高姉さんに呼ばれてててて」
「まずは落ち着こうか。ほら深呼吸。吸って、吐いて、吸って、吸って、吸って……」
「は、はい……。すぅ、はぁ、すぅ、すぅぅ、すぅぅぅぅぅ……っけほっ!? えふっ、す、吸いっ放しじゃ死んじゃいますぅ!?」
そそくさコタツから抜け出し、お盆を手に席を立とうとした羽黒の肩を掴む。
可哀想になるくらい彼女は怯えていた。普通なら気づくイタズラにも、簡単に引っ掛かってしまう有様だ。
うむ。慌ててる羽黒は苛め甲斐があるな。ま、それは置いといて。
「羽黒。これからする質問に、 正 直 に 答えて欲しいんだ。いいかい?」
「は、はいぃ……」
「いい子だ。で、だな……。電たちの耳やお尻辺りに、何か妙なもんが見えないか?」
「……っ。え、えぇええっと……あの……」
やや強引に向かい合わせとなり、逃げられないよう両肩へ手を乗せ、つぶらな瞳を見据える。
速攻で逸らされたそれは、周囲で座っているはずの仲間に助けを求めるも、エアポケットを避ける航空機みたいに姿を消した。
巻き込まれたくないのか、それとも口裏合わせがバレるのを嫌がったか。
どちらにせよ、見捨てられてしまった哀れな重巡は、震える唇で答える他に、選択肢がない。……勝った!
「み、見えない、です。いつも通りだと、思いますっ」
「……本当に?」
「は、はいっ。特に変わったところ、は……」
「本当に?」
「もちろん……です。う、ぅ嘘なんかついてませんっ……よ……」
「 本 当 に ? 」
「あぅ……」
スッポンのようなしつこさで詰め寄ると、羽黒はいよいよ涙目に。
勢いづいた自分は、くすぐられたSっ気の赴くまま、彼女を弄りまくる。
「さっき約束してくれたよな? 正 直 に 答えてくれるって。嘘だったらお仕置きしようかと考えてるんだけどもねぇ」
「えっ。……ぉ、お仕置、き?」
「うん。とても口では言えないあんな事やそんな事をね。さぁ、もう一度聞こう。なんか変なもんが見えないか?」
「あぅ、あぅ……」
「どうしたんだい羽黒。冷や汗がヒドイぞ羽黒。目をそらさないで欲しいなぁ羽ぁ黒ぉ!」
「あぅあぅあぅ……」
一体どんな想像をしているのか、耳まで真っ赤に、食器をカチャカチャ震わせる羽黒。
あぁ、なんて苛め甲斐のある子なんだろう。
ちょっとイケナイ気分になって来ましたよ自分。
本当にお仕置きしちゃいましょうかねぇ、ふっへっへ……。
「……に、にゃにをしているか、貴様は」
「あだっ」
「あっ! 那智姉さん!」
スコン。軽妙な音と共に、後頭部へ軽い衝撃。
振り返ってみると、厳めしい顔つきをする那智さんが、クリップボード片手に立っていた。
当然、耳尻尾付きである。耳と尻尾の先端だけが白い、黒猫仕様だ。
「朝一番から羽黒を口説くとは、にゃんとも元気が良いことだにゃ?」
「違いますよっ、ちょっと質問してたらエスカレートしちゃっただけで……」
「事実がどうであろうと、傍目からすればそうとしか見えにゃいんだ。気を付けにゃいか。風紀が乱れる」
「……すみません」
ボードが振りかざされ、尻尾も左右にブンブン振れる。
怒っている……というか怒られているらしいので、とりあえず謝りはするけど……。
「な――ごほん。にゃんだ。私の顔に、にゃにか付いているか?」
「はい。それはもう。おかげで自分、出会ってから初めて、那智さんを可愛いと感じています」
「かっ!? ……つ、つまりそれは、今までそうは思っていにゃかったということだにゃ!?」
いかんせん、迫力が無い。
普段なら恐縮してしまうだろうに、怒った顔すら愛でてみたい衝動に駆られる。
怒鳴り声が御褒美に早変わりとか、恐るべし猫耳尻尾の萌えアピール。思いっきり撫でてぇ。
と、殊勝な顔のままコッソリ悶える自分へ、那智さんの背中に隠れる羽黒が、ムスッと文句をつけて来た。
「司令官さん、酷いですっ。那智姉さんにだって可愛いところはあるんですよっ?
ベッド周りが編みぐるみで一杯だったり、新しく来た駆逐艦の子たちへ、それをプレゼントしてたり。
少し厳しいところもありますけど、皆さんに慕われてるんですからっ」
「羽黒ぉ……」
「あ。……ぁぁあ足柄姉さんの演習準備を手伝いたいので、ししし失礼しますねっ、ごめんなさいっ!」
「待て! よくもバラしてくれたにゃ!?」
にゃちさん、頬を引きつらせて羽黒をガン見。羽黒さん、逃走。
本人は精一杯フォローしたつもりなのかも知れないが、実際には隠れた側面を公表しただけ。怒り肩で追いかけるのも仕方ない。
一人で棒立ちしている訳にもいかないので、自分はのそのそ専用コタツへ戻る。
すると、箸を止めていたらしい電は尻尾を立て、眉毛の角度も急勾配に。
「司令官さん。お食事中に席を立つにゃんて、お行儀が悪いのです」
「そうですよっ。せっかく鳳翔さんが作ってくれた朝ご飯ですよ? 食べるのにだって集中しにゃいとっ!」
「……にゃんだか、今日の提督は変です」
「いやぁ変なのはみんなの方……」
「それより、みにゃさん。ご飯を食べてしまいしょう。朝礼の時間が近いですし」
「綾波の言う通りよ。早く済ませましょ」
「……う~ん?」
首をひねるも、みんなは気にせず食事を再開する。
結局、疑問は解決しなかった。いや、明らかにおかしいんだけど確証がない。
これは……。下手にこちらから動かないで、行動されるのを待ったほうが良さそうだ。
そう自分を納得させ、冷めかけた味噌汁をすする。
晴れない心と裏腹に、カツオ出汁の美味しさだけは、しっかり味蕾を刺激してくれるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「司令官。次は、この書類をお願いします」
「へーい」
「もう、返事はちゃんとしにゃきゃダメにゃのです!」
「はーい」
綾波から渡される書類にザッと目を通し、パッと署名捺印して電へ。
朝礼を終えて、練習航海へ出航するみんなを見送り、執務机に向かうこと数時間。途中、瑞鳳お手製の甘い卵焼き弁当をつっつきながら、ひたすら書類を片付けていた。
資材運用に関する物もあったのだが……。猫耳モードな電たちがそばに居ても、気が重くなる。
対双胴棲姫戦へ出撃した二十四隻と、支援艦隊十四隻の燃料。中破してしまった船体を修復するための鋼材。撃ちまくった弾薬の補給に、落とされた航空機の補充用ボーキサイト。
ここに佐世保への運搬費用も加算すると……いざという時の為に溜め込んでおいた各種資材&余剰運営資金が、スッカラカンになってしまうのだ。
(オマケに“アレ”の準備もしなきゃだから……。人生初の借金も考えないと……)
桐谷提督から名刺を貰っといたし、「必要とあらば融資しますよ? 無利子無担保で」とも言ってくれたんだ。少しくらい頼ったって……。
いやいやいやっ。タダより高い物は無し。書記さんと相談しながら、やっぱ自分でなんとかしよう。
……よし、これで終わった!
「あぁぁ、机仕事はやっぱ疲れるぅ……」
「ご苦労様でした、にゃのです」
「休憩がてら、お茶にいたしましょうか。お茶請けはにゃにが……あら?」
開放感から机に突っ伏す。口からは魂でも出そうな感じだ。
そんな自分を見て、書類をトントン整える電が微笑み、綾波はお茶を淹れようとしてくれるのだが、ドアノブに手をかける直前でノックの音。
「執務中、失礼いたします」
「午後の演習について、確認したいことがあるんだが……」
声から判断するに、榛名と長門のようだ。
視線で問う綾波へ頷くと、一歩下がった彼女が「どうぞ」と告げる。
開くドアから現れたのは、予想通りな二人の姿。
「はるにゃさん、にゃがとさん。ちょうどお茶にしようかと思っていたんです。お二人の分もお持ちしますね?」
「あ、いえ、そんにゃ。どうかお気遣いにゃく」
「でも……」
「長――おっほん。にゃが居するつもりはにゃいんだ、気持ちだけ受け取ろう」
そう。予想通りの、猫娘たちだった。
那智さん同様、榛名は黒猫仕様だが、耳の先端が折れ曲がっていて、スコティッシュフォールドっぽい。
対して、白黒茶色の三毛猫模様な長門。尻尾が磯波と同じカギ尻尾になっている。
……もう慣れたつもりだったけど、ヤバいかも。
初恋補正のある榛名が、ニャー語で喋りつつ猫耳モード。そして、対双胴棲姫戦では勇ましい姿を見せてくれた長門が、落ち着かない様子で耳と団子みたいな尻尾をピクピク。
新手の精神攻撃じゃなかろうか、これ。
「お疲れ様です、提督。お邪魔ではにゃかったですか?」
「ウン、ダイジョブダYO。ウン、ホンTO」
「……やけに顔が強張っている。そうは見えにゃいぞ」
「ソンナ事ナイSAー。HARUNYA、報告ヨロシKU」
「は、はい。それでは……」
撫でたい。くすぐりたい。モフりたい。髪の毛に顔面うずめてクンカクンカしたい。
そんな衝動を堪えているせいだろう。自分の顔は能面になっているようだ。
微妙に金剛っぽい喋り方にもなってる気がするけど、今はとにかく用事を済ませてもらわないと。
「本日の演習について、最終確認をさせて貰いますね。
一五〇〇。横須賀鎮守府演習海域にて、桐林艦隊内演習を実施する予定です。
甲艦隊。足柄さん、にゃがつきさん、曙さん、霞さん、神通さん。旗艦は私、はるにゃが勤めさせて頂きます」
「乙艦隊。羽黒、いそにゃみ、叢雲、満潮、天龍。このにゃがとが旗艦を勤めよう。目標としては、打撃力と雷撃力の向上、といったところか」
「うん、その通り。この間の戦闘で、うちの艦隊にもかなり仲間が増えた。
大きな戦いがそう何度も続くとは思えないけど、練度にバラつきがあったんじゃ、いざという時に困るからな。
できるだけローテーションを組んで対応するつもりだから、演習といえども、気を抜かないでくれ」
「了解ですっ。はるにゃ、頑張ります!」
「にゃがと型の真価は火力だけではにゃいと証明しよう。負けるつもりはにゃいさ」
それぞれに拳を握り、二人の猫艦娘が意気込みを示す。
仕事モードへ入ったおかげで、なんとか持ち直すことも出来た。
ちょっと雑談でもしてみるか。
「どうだ、長門。こっちにはもう慣れたか?」
「む? ……そうだ、にゃ。正直、最初は面食らったが、もうにゃれた。いちいち駆逐艦の子たちが寄ってくるのには、困ったものだが……にゃ」
「ふふふ。みにゃさん、憧れがあるんですよ。にゃんと言っても、当時の戦艦の象徴みたいにゃものですから」
榛名の言葉がくすぐったいらしく、長門は照れ臭そうに鼻の頭をかいている。
今でこそ、当時の軍艦に関する情報は誰もが閲覧可能だが、戦時中は厳しい情報統制が行われていた。
時には宇宙戦艦にすらなった大和も、当時の人々にはあまり親しみがなく、代わりに人気を集めたのが長門だったのだ。
もちろん金剛や比叡も知られていたけれど、抜きん出ているのはやはり……といった感じである。
「にゃのです。それに、いにゃづまは背が低いから、にゃがとさんが羨ましいのです」
「そうか? 無駄に身長があるだけで、いにゃづまの方がよほど可愛らしいと思うのだが……」
「ありがとうございます、にゃのです。……でも、いにゃづまはやっぱり、にゃがとさんたちみたいに、綺麗にゃおとにゃの人に、にゃりたいのです」
「……そう、か。まぁ、せっかく褒められているのだ。ありがたく受け取ろう」
「にゃがとさん、ほっぺたが赤くにゃってますよ?」
「こら、あやにゃみ。からかうにゃ」
本日の秘書官たちも、そんな長門のことを好ましく思っているみたいで、出会って二週間ほどなのに親しげだ。
いや、今日は特別だろうか? 常に背筋を正し、凛とした気高さを見せる彼女だって、ニャー語では威厳もへったくれもない。
たぶん、何かの目的があってあんな格好してるんだろうが、これをきっかけに、もっと打ち解けてくれると良いんだけど。
「……あら? 提督、にゃにか聞こえませんか?」
「ん? そうか? ……あ、ホントだ」
和やかな雰囲気が漂う中、ふいに榛名が窓の向こうへ意識を向ける。
自分もそれに続いてみると、確かに聞こえた。
にゃー。という、かすかな鳴き声が。
「あの、司令官」
「分かってる、綾波。皆まで言うな。散歩ついでに様子を見に行こうか」
「にゃのですっ」
「はるにゃもお供いたします」
「乗り掛かった船だ、私も行こう」
心配そうな顔をする綾波に笑いかけ、五人で執務室を後に。
庁舎の外へ出ると、鳴き声はより明瞭に聞こえてくる。
それに導かれるよう、日の当たらない、物陰となった一角に足を踏み入れると――
「にゃーん、にゃあーん! こぉんにゃに可愛い“にゃかちゃん”にゃのに、にゃぜか捨てられちゃったにゃーん! 誰か、優しい人が拾ってくれにゃいかにゃー☆」
――でっかいダンボールに入って、これでもかと存在をアピールしまくる猫娘那珂と、その隣で「にゃー」と鳴く、本物の子猫が居た。
何してんだよ、君。一目見ただけでもう、全ての事情が把握できちゃったじゃないか。
「にゃ、にゃんということでしょー。こんにゃ所に捨て猫がー」
「た、大変にゃのですー。可哀想にゃのですー」
「ひ、酷いことをする人が居るんですねー。はるにゃ、かにゃしいですー」
「ま、まったく、鬼畜の所業だー。見つけだして懲らしめにゃいとにゃー」
そしてそこの四人。さっきまでの自然なニャー語はどうした。
何故ここぞという時に棒読みになるのさ。見ているこっちが恥ずかしいわ。
しかしまぁ、期待されている行動は理解できる。応えてあげるとしますかね。
「……言いたいことは多々あるが、とりあえず置いておこう。まずは保護しないとな」
「わーい、提督やっさしー! 流石はにゃかちゃんの――」
「おー、慣れてるなー。まだ一~二ヶ月ってとこか?」
「――って、にゃんでそっちに行っちゃうのぉ!?」
そんな訳で、さっそく子猫を抱き上げてみるのだが、ずいぶん大人しい。
鼻の上辺りから胸元までが白く、他は真っ黒。瞳は綺麗なアイビーだ。
なんか騒がしい猫娘は知らん。
「ほ、ほらほら、とぉっても可愛い子猫ちゃんが、すぐ側にもう一匹居ますよー? にゃーん☆」
「あぁはいはい可愛い可愛い。ん、なんだ。噛むか、噛むのかこのやろー。全然痛くないぞー」
「反応がぞんざいだよぅ! にゃかちゃん、お小遣い全部使って猫耳尻尾を用意したのにぃ!?」
子猫に指を甘噛みさせていると、わずかに先端が反り返った茶色い猫耳を取り落とし、那珂が地面へ崩れ落ちる。
どうやら、耳をおおうタイプのパーティーグッズだったようだ。
尻尾はおそらく腰へ巻きつけ、スカートに穴でも開けたんだろう。デフォ衣装ならそこらへん自由自在だし。
声のトーンなどに反応して、本物のように動く最新式。かなり高いはずだぞ、これ。
「朝から妙だとは思ってたけど、その格好は猫を拾わせるためだったんだな?」
「……はい、そうにゃのです」
「あやにゃみさん――いえ、綾波さんが少し前に、宿舎の物陰でその子を見つけて……」
「周囲に親の姿を探してみたんだが、それらしい親猫はいにゃ――おっほん。居なくてな」
「それでねー。にゃかちゃんがみんにゃに頼んで、一芝居打って貰ったの! 潜在的ににゃんこ成分を求めてるんだって勘違いして貰えば、スムーズに行くかにゃーって」
「だったらなんで張り合おうとしたんだ君は」
「アイドルの意地です! たとえにゃんこが相手でも、可愛らしさでは負けられにゃいもん☆」
「あ、そうですか」
もはや隠す必要もなく、猫娘たちが耳尻尾を外しつつ、口々に事情を説明してくれた。
あざといポーズのにゃか @ まだ猫娘は放っとくとして、事の発端である綾波は、実に申し訳なさそうな顔で頭を下げる。
「回りくどい事をして、ごめんなさい。でも、司令官に隠し事を続けるなんて、いけないと思って……。
お世話は綾波がちゃんとします。ご飯に掛かるお金とかも、お小遣いから遣り繰りするつもりですっ。だ、だから……!」
一生懸命に懇願する彼女の目は、痛切な感情で潤む。
周囲のみんなも……。ウザい頻度でウィンクする那珂からも、期待の眼差しが向けられる。
どう答えるのかなんて決まっているけど、一応、熟考するふりをしてみる。
一分ほど経過し、綾波の固唾を飲む音が聞こえた頃。自分はようやく、震える肩を叩いた。
「構わないよ。もうヨシフが居るんだし、猫が一匹増えたくらいで、困ったりなんかしないさ」
「えっ。ほ、本当ですか!?」
「本当も何も、最初から言ってくれれば良かったのに。断る理由も無いんだから」
「で、でも、司令官は猫が嫌いだって……」
「は? 別に嫌いじゃないけど。どこからの情報だ、それ」
てっきり喜んでくれるかと思ったのに、綾波は肩透かしを食らったような顔。
その口から語られたデタラメ情報を聞き、今度は自分が眉を寄せてしまう。
と、視界の端に居た那珂が、「あ、あっれぇ?」なんて言いながら可愛さアピールを止めた。
「だ、だって前に、野良ちゃんが実家の鶏舎を引っ掻き回して、大変にゃ思いをしたって聞いた……のに?」
「あぁ、あれか。確かに大変だったけど、あの猫だって生きるのに必死だったわけだし、嫌いにはならないよ。親父と母さんは流石に嫌ってるけど」
「……そうにゃんだー」
いつだったか、ヨシフを飼っても良いかと暁・響に聞かれた時、動物に関する思い出話をした気がする。
ひょっとすると、それが伝言ゲームで変化しちゃったのか?
「……それって、つまり……?」
「私たちが恥ずかしい思いをする必要など、無かったという事だな」
「そうみたい、ですね……。榛名は、嫌ではありませんでしたけど……」
「あ、あはは。にゃかちゃん勘違いしちゃった! めーんご☆」
電、長門、榛名から見つめられ、テヘペロしちゃう那珂さん。
ハッキリ言うとウザい。傷付くだろうから面と向かっては言わないけど、ウザい。見た目はかなり可愛いはずなんだけど、こういう時はウザくて仕方ない。
……構うと調子乗るだろうし、大人しく抱っこされてる子猫に戻ろう。
「ふーむ、お前はオスかー。……オスか。オスカー。よし、名前はオスカーにしよう! 縁起も良いし!」
「えぇ!? し、司令官っ?」
「安直なのです、物凄く安直なのです!?」
「良いじゃないか。昔ドイツに居た幸運の黒猫と同じ名前だぞ? 毛並みも似てるし、何よりかっこいいだろ。なぁオスカー?」
にゃー。
降って湧いた名案に、子猫ことオスカーは元気な一鳴き。
榛名や長門は、「もっと可愛い名前の方が……」「そ、そうだっ。ええと……く、黒助とか」などと反対意見を言ってくるが、そっちには反応無し。
うむうむ。お前は分かってるな。桐ヶ森提督に教わった、ドイツの戦艦・ビスマルクの幸運の黒猫。明るい未来を運んで来てくれると信じよう。
「さてと。この分だと飼う用意はしてあるんだろ? 一旦宿舎に帰って、預けてこなきゃ――」
「そうは多摩屋が卸さないにゃあぁぁあああ!!」
「な?」
場を仕切り直し、連れ立って宿舎へ戻ろうと歩き出した途端、近くのヤブから少女が飛び出して来る。
まるで花火大会みたいな叫びを発したのは、そういえばにゃんこ作戦なんだから居ても良かっただろう、多摩だった。
「みんなヒドいにゃ! 寄って集って多摩のアイデンティティーを奪いに来るなんて……。イジメにゃ、虐待にゃっ、言葉の暴力にゃあぁぁあああっ!」
「ち、違うんですよ多摩さんっ。綾波、そんなつもりじゃなくて……」
「そうなのですっ。電たちは猫ちゃんのために……」
「だったらぬぁんで独居房なんかに閉じ込めたにゃ!? 生の猫に走るだなんて、どういうことにゃー!!」
「く、一歩遅かったか。そういう反応すると思われたからだろう、落ち着け姉二番っ」
綾波たちの釈明もなんのその。滂沱と涙を垂れ流し、葉っぱまみれの髪も振り乱す多摩。
どこからともなく木曾まで現れ、あっという間に混沌とした空気へ変化してしまった。
独居房ってアレか。先輩が閉じ込められてたって奴か。この反応じゃ致し方ないかぁ……。
「あの、木曾さん? まさか、金剛お姉さまも脱走してしまったんですか?
「いいや。金剛も大暴れしてるんだが、なんとか押さえ込んだ。しかし、その隙を突かれてな……」
「おいおい。金剛まで閉じ込めてんの?」
「仕方ないだろう。彼女は提督へ懸想している。言いたくはないが、自己主張が強過ぎて邪魔にしかならんよ」
「絶好のアピールチャンスだもんねー。金剛さんにはぁ……これ! ブリティッシュショートヘアの茶色バージョンが似合うと思うにゃ!」
出会って間もない長門すらこの対応である。
確かに金剛なら、「さぁ、CATなワタシを思うぞんぶん撫でくりまわしてくっだサーイ!」とか言いそうだけどさ。
個人的には少しだけ見てみたかったような気もする不思議。
「とにかく、新しい猫を飼うなんて許さないにゃっ。猫は一匹で良いにゃ……。艦隊の猫の座は譲らないにゃ! ふしゃー!!」
そんなこんなで、多摩はオスカーを前に威嚇行動を取っている。
髪の毛もブワッと逆立ち、闘争本能むき出しだ。
うかつに近寄れば猫パンチを食らいそうだし、皆、慎重に様子を伺っていた。
「……どうしたもんかな、これ」
「ふぅ……。仕方ねぇ、こいつを使ってくれ。念のために持ってきた」
打開策を見出そうと考えを巡らせていたら、木曾はため息と共にある物を差し出した。
長さ三十cmほどの、棒切れだ。
一見、ごく普通な国産RPG最弱装備にも見えるが、多摩にとっては最終兵器になり得るか。いけるかも知れない。
意を決して、自分はファイティングポーズを保つ少女へ歩み寄り――
「おーい、多摩ー?」
「なんだにゃ!? たとえ相手が子猫や提督でも、多摩は容赦しない――」
「ほれ、マタタビの原木」
「にゃあぁああん♪」
――さり気なく棒切れを押し付ける。
その刹那、八重歯を剥く多摩の表情は、雪のごとく溶けてしまった。
しきりにマタタビへ頬擦り。最終的に地面へ崩れ落ちていく。
効果はてきめんだ!
「ほれほれー。これが欲しかったんだろう、この欲張りめー」
「にゃ、あぁ、違う、にゃあん。これは、本能的な、行動にゃ……。多摩の、多摩の本意ではない、にゃあぁ」
「ふっはっは。ここか、ここが良えのんかー」
「にゃ、ふん……。そこはダメ、にゃ……。ダメになってしまう、にゃあぁああぁぁぁ」
棒切れで額をショリショリ。指で顎をスリスリ。耳の裏側までくすぐられ。ついでにオスカーも寄って行き、二匹仲良く腰砕けだ。
猫じゃないとか言う癖に、やっぱ好きなんじゃないか、このダブスタ娘め。
恥ずかしい姿を晒して反省するがいい。
「よし、悪は去った! これにて一件落着っ。さぁみんな、宿舎に戻ろ……う?」
荒い呼吸を繰り返し、多摩は虚脱状態へ陥っている。
この分なら、オスカー飼育も強引に既成事実化できそうだし、丸ごとお持ち帰りしてしまおう。
そう考え、ぐでー、となった少女&黒猫を小脇に抱えるのだが、近くにいたはずのみんなは、なぜか微妙な距離を取っていた。
「ごめんなさい……。ちょっと、近寄って欲しくない、です……」
「誘拐の現場を目撃しているようで、身の危険を感じるな……」
「えっ。い、いやっ、君たちにこんな事するわけ無いじゃないか! その、これは防衛手段であってね?」
「それは分かってるが、どうにも顔付きがな。かつてないほど生き生きしてたぞ、指揮官」
「う、嘘ぉ……」
綾波を始め、長門、木曾が後ずさる。
女の子にイタズラし、グッタリしたところをお持ち帰り。傍目から見れば、確かに誘拐犯だった。
なんて事だ……。ナチュラルに犯罪行為を誘発するだなんて、恐るべし猫耳尻尾! 責任転嫁とか言わないで!
「……あれ、電?」
「………………」
思わず多摩を落っことしそうになり、慌てて地面へ横たえるのだが、落ち込む自分のそばに電が立っていた。
しかも、一旦は外した耳尻尾を再装着して。
「ど、どうした。そんなピッタリくっついて」
「……い、いにゃづま、にゃのです」
「はい?」
「にゃ、にゃのです!」
ピタっと身体を横付け、こちらの足には茶色い尻尾が巻きつく。顔はほんのり赤く、瞳が上目遣いに見つめて。
期待。嫉妬。羞恥心。
色んな感情が見て取れるそれのせいで、自分は金縛りにかかってしまう。
ど、どうしろってぇのさ。撫でろと? 構えと? 長門木曾綾波の刺すような視線の中で?
流石にそれは、無理じゃないかなー。
「にゃ……ので、す……」
「ぁああ分かった、分かったからっ。こ、こんな感じ、か?」
――と、思ったのも一瞬。
沈黙に耐えきれなくなったか、涙目でプルプルし始めた電をなだめるため、すぐさま座り込む。
そして、恐る恐る頭へ手を伸ばし、耳から顎へとゆっくり下げていく。
「にゃ、ん……。司令官、さん……。んにゃ……」
くすぐったそうに目を細め、耳の辺りで身体をピクリと揺らし、うっとりと手の平へ頬擦りする電。
ガラガラガラ、と。何かが崩れていく音が聞こえた。
……なんで自分、辛い思いをしてまで、色んなこと我慢してるんだろう。
社会的な倫理観さえ無視しちゃえば、金剛が邪魔しにくるくらいで、他に何も問題ないと思うんだ?
こんだけ甘えてくるって事は、きっと両想いなはずだし。じゃなかったら首くくる。
いっそこのまま、どこか人目のない小部屋にでも連れ込んじゃおうかな……。もうゴールインしても良いよね……。
「あの、提督」
「はいすみませんっ、違うんです榛名さん!?」
「あ、もう終わり、にゃのですか……」
反射的に直立。謝罪の言葉を叫ぶ。
今のはちょっと――かなりマズかった。倫理観を無視しちゃイカンよ、無視しちゃ。
それに、“そういう事”をしたがってるって憲兵さんにでもバレたら、無理やり普通の女性と結婚させられる。んなの勘弁だ。
とりあえず、寂しそうな顔してる電は撫で続けるとして、止めてくれた榛名にも言い訳……じゃない、お礼言っとかないと。
「いやいや、いかがわしく見えるかも知れないけど、自分は電の望みを叶えてるだけで……なんでまた猫耳つけてるんですか。てか近い……」
「榛名じゃ、ありません。は、はるにゃですっ」
電の耳をくすぐりながら振り返ると、猫娘に戻った榛名が、やけに近い位置で胸を張った。
え? 君も? そ、そんなおねだりされるほど、好感度高かったっけ?
「おい、どうする。行った方が良いんじゃないのか? 二人共」
「また“これ”を付けろと言うのか!? わ、私は戦艦であってだな……!」
「でも、司令官の機嫌は損ねない方が……。せっかくオスカーちゃんのことも許してもらえたんですし……」
「コラそこの三名。人の事なんだと思っとるんじゃい」
もう飼うって決めたんだから反故になんかするか!
生贄を差し出すような顔するなよ、自分だって傷つくんだぞ!?
「あのー、あやにゃみちゃん? 司令官との話し合いはどうにゃったのー?」
「連絡がにゃいから、心配で……」
「にゃんだ。今度は
「……ふんっ。別にあたしは、ま、またにゃでて欲しいとか、思ってにゃいんだから。仕方にゃくにゃんだからねっ」
「……はぁぁ。今日ほど私の
「ううう、猫ちゃんのためにゃのは分かってますけど、やっぱり恥ずかしい、です……。この職場、ブラックですぅ」
食堂で別れたきりの猫娘たちまで合流し、はるにゃの後ろには長蛇の列が生まれてしまった。
コスプレ少女に連れれてか、遠くから「また何かやってるよ」「見物しとくか」「通報の準備だけしておかなきゃな」と、野次馬の声まで。
人通りの少ない物陰で、猫耳少女を撫で回す男。もし誰かに見られたら、即御用レベルである。
冷や汗が背中を濡らす。
「ヤバい、人が来る。今すぐ逃げないと!? 長門、綾波っ、多摩とオスカーを頼む! この場を脱出するぞ!」
「む、了解した」
「はいですっ。オスカーちゃんは、綾波が守ります!」
「あっ、そんにゃ……。はるにゃでは、はるにゃでは駄目にゃんですか、提督っ」
「後で好きなだけ撫で回してやるから、今は従えっ。行くぞ電!」
「にゃ……にゃ!? し、司令官さん!?」
「総員撤退ぃー!」
相変わらず左腕へ巻きつく電を、無理やりお姫様抱っこ。
自分は仲間たちと共に、風評被害を避けるべく、遁走を開始するのだった。
猫一匹を住まわせるだけで、とんでもない事になったもんである。
けど、この馬鹿騒ぎが、自分たちのいつも通りなんだよなぁ……。
……あれ。
猫耳少女を引き連れて全力疾走とか、どっちにしろ通報もんじゃね?
「Jeeeeesus! なんで私の名前には“な”が入ってないノ!? テートクに媚びをSellするChanseなのにぃ! ここから出すデ~ス!!」
「狭い所に押し込んでしまって、申し訳ないです姉さま。比叡も姉さまの猫耳姿、見てみたかったです……。という訳で、代わりにわたしが!」
「まぁ、出たら騒ぎが拡大すること間違いなしですから。仕方ありません。はい、チェックです。チェスも面白い物ですね」
「また負けたクマー!? マジで強過ぎだクマー!」
「なんで私、また監視員の仕事なんかしてるんだろ……。転職しよっかな……」