新人提督と電の日々   作:七音

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(略)那珂ちゃん(略)巡業記! その四「そんな事よりやきうをしよう」・前編

 

 

 

「う~ん……。む~ん……。ぬ~ん……」

 

 

 晴天が続く冬のある日。

 青葉型重巡洋艦の一番艦である私、青葉は、「もうどうすれば良いんですかぁ!?」と叫びたい気持ちを抑え、宿舎一階のテラス席をウロウロしていました。

 あっちへフラフラ、こっちへフラフラ。誰が見ても、悩んでいるのが丸分かりでしょう。

 というか、分かって欲しいからウロついている訳なんですが。

 

 

「あらら。どうしたんですか青葉さん? そんな、浜辺に打ち上げられたアンコウみたいな顔しちゃって」

 

「あぁ、漣ちゃんですか……。悩んでるんです。青葉、とぉっても、悩んでいるんですよ……」

 

「……ツッコミがない。という事はマジ悩みですか。漣でよければ聞きますよ?」

 

 

 そんな気持ちが通じたのか、偶然通りかかったらしい駆逐艦、漣ちゃんが話しかけて来てくれます。

 ボケをスルーしちゃったのはゴメンなさいですけど、今はとにかく、この悩みをどうにかしたくて、ササーと空いていた椅子へ。

 漣ちゃんも腰を下ろしたのを確認してから、私は重々しく話し始めました。

 

 

「実は……。コラムの映像特典のネタが無くて、めっちゃ困ってるんです。締め切りは来週頭なのに……」

 

「あ、そっち方面の悩みなのねーって四日後ぉ!? マジヤバじゃないですかっ!?」

 

 

 漣ちゃんがビックリ仰天。前のめりに話へと食いついてくれます。

 そう。青葉の悩みとは、ズバリ締め切りのことなのでした!

 原稿の方はもう出来上がってるんですけどねー。ぐでー。

 

 

「なんですよ~。出した企画がことごとくボツっちゃって。ドキッ! ポロリしかない艦娘たちの水泳大会! とか、イケると思ったんですけど……」

 

「何故それでイケると判断したのかが疑問でごぜぇます。流石に、不特定多数の殿方にポロリ晒し上げは勘弁ですよー」

 

「やっぱり? 担当さんからも『もっと健全な内容でお願いします』って。健全な軍情報雑誌ってのも変だと思うんだけどね~。そもそも青葉たちは兵器な訳ですし」

 

「おおう、なんだか真面目な話になりそうな予感。まぁ、否定はできかねる問題ですよね」

 

 

 そも、兵器とは他者を害するために存在する物。それが具現した青葉たち統制人格も、分類としては兵器に属します。

 闘争を人の本懐とするならば、あるいは兵器も健全なのでしょうけれど、常識的に考えるとあり得ません。

 なら、それをメインとして扱う雑誌が健全であるはずがないんです。

 ……けども。屁理屈を捏ねていたって話が進むわけもなく、私たちは中庭で戯れる仲間を眺め、ほう、と溜め息。

 

 

「行くわよヨシフ! 取ってぇ……来なさい!」

 

「あっ、こらオスカー! 物干し竿の上を歩いちゃダメ! 洗濯物が汚れちゃうでしょ!」

 

 

 暁ちゃんがボールのオモチャを投げ、大喜びでヨシフがダッシュ。

 洗濯物を干そうとする陽炎ちゃんの邪魔をするかのように、オスカーが驚異のバランス感覚で物干し竿をウォーキング。

 日常という他にない、和やかな光景でした。

 

 

「楽しそうで良いですねぇ……。趣味を仕事にするべきじゃないと、青葉は痛感しているというのに……」

 

「ほぼ自業自得だと思いますけど?

 水泳っていうより、スポーツという着眼点はいいんじゃないですか。ほら、動画の利点といえば動くことですし。

 美少女が普通に運動する姿を撮るだけでも十分ですよ、きっと」

 

「運動ですかぁ……。でも、やっぱり普通じゃ……あ」

 

 

 その時、青葉に電――ではなく、稲妻が走りました。

 眼前に広がる光景が、私の脳裏で複雑に絡み合い、一つの答えを導き出したのです。

 行ける。これなら行ける。

 とっても健全な上に、動きまくる美少女を収められるはず!

 

 

「フフフフフ……! 閃いた……。閃きましたよ名案を! 漣ちゃん、バックマージンは期待してて下さいねー!」

 

「どうイタまして~」

 

 

 確信を胸に、私は走り出します。

 場所借りて、機材も借りて、あ、その前に企画書ファックスしなきゃ。

 うぅ~、忙しくなりますよぉ~!

 

 

 

 

 

「……はてさて。巻き込まれないよう逃げるか、積極的に参加すべきか。漣はどうしましょっかね~?」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 冬の青空に、場違いなファンファーレが響き渡った。

 テロップ。

 第一回 艦娘対抗、冬のスポーツ大会……という文字と共に、視点が降りる。

 次いで映し出されたのは、まるで野球の解説席のような場所に座る、ポニーテール少女――青葉。

 マイクを前に、彼女は落ち着きのない声で話し始めた。

 

 

「この映像を御覧になっている皆さま、お久しぶりでございます! そうでない方は初めまして!

 最近、宿舎内でカメラを構えると、みんなに警戒されるようになってしまった、青葉型重巡洋艦の統制人格、青葉です!」

 

 

 挨拶が終わると同時に、世界が一時停止。

 青葉の横に、船としての彼女の略歴がテロップとして表示された。

 ……が、ここでは割愛させて頂く。

 

 

「連載も三回目を迎え、前号では映像特典もお付けさせて頂いた、統制人格の、統制人格による、統制人格のためのコラム。

 御好評の声にお応えして、今回も映像特典をご用意しました!

 前回の艦隊内演習はほぼ音声のみでしたが、今回はご覧の通り、生で動いている艦娘をお届けです。

 どうです? 動いている青葉は可愛いですか? 可愛いですよね? 可愛くなくても他に可愛い子が出ますんで、ちょこっと我慢して下さい」

 

 

 再び動き出した世界で、青葉が己を指差しブリっ子ポーズ。

 然るのちに片手チョップの謝罪。居住まいを正して状況説明を再開した。

 

 

「さてさて。動く艦娘をお届けと言っても、一体なにをするんでしょうか。

 察しの良い方はこのブースで予想がつくと思われますが、ほとんどの方は分からない事でしょう。

 という訳で……あちらをご覧下さいませ!」

 

 

 青葉が右手をかざすと、合わせて視界が移動する。

 三角形――より正確に言うなら、逆さまのAをなぞるように白線の引かれたグラウンド。

 それぞれの角には塁が置かれ、本塁から平行に整列する、体操服にブルマーの少女たちも。歳の頃を見るに、駆逐艦のようだ。

 視界の外から青葉の声が届く。

 

 

『弾ける汗。躍動する瑞々しい肉体っ。競い合うことの美しさ!

 そう! 今回の映像特典は、統制人格による三角ベース野球対決でございまぁーす!

 なんで野球やソフトボールじゃないかって? ルールが面倒臭いからですっ。ごった煮サイコー!

 真面目な特典付けろ? そんなんじゃ売り上げは伸びないんです! ホントは好きな癖に!

 ついでにブルマーなのは趣味です! 誰のとは言いませんが趣味です!』

 

『あの、早く始めないと、時間が……』

 

『おおっと失敬。つい熱くなって、Aカメの時雨ちゃんに突っ込まれてしまいました。

 えー。前置きが長いと早送りされてしまいますし、さっそくチーム紹介を始めましょう!

 Bカメ前の白露ちゃーん?』

 

 

 熱弁する青葉に少女の声。

 同時に、画面端へL字型のテロップと、小さな時雨の顔写真が。裏方スタッフはこういう扱いらしい。生憎だが割愛させて頂く。

 ともあれ、映像を映し出すカメラが切り替わり、ハンディカメラと思しき映像に。

 マイクを持った黒いセーラー服の少女――白露が映る。

 

 

「はーい! リポーターの白露です!

 今回対決するのは、睦月型駆逐艦で構成されたチーム・旧暦と、吹雪型駆逐艦を基本とした混成隊、チーム・スペシャルタイプ、略してST。

 まずは、最近艦隊に加わったばかりの子が多い、チーム・旧暦にインタビューしようと思いまーす!

 行こっ、涼風ちゃんっ」

 

「ガッテンだ!」

 

 

 画面外から威勢の良い声が返り、白露・涼風のL字テロップ。映像が少女たちへ近づく。

 アップになったのは、焦げ茶色の髪をショートカットにした、先頭に立つ少女だ。

 白露がマイクを向ける。

 

 

「こんにちはー! それじゃあ、自己紹介をどうぞ!」

 

「はいっ。帝国海軍の駆逐艦で、初めて六十一cm魚雷を搭載しました、睦月です!

 旧式ながら、第一線で頑張ったのです!

 チーム・旧暦では、一の背番号を背負い、キャプテンも務めさせておりますのです!」

 

 

 ビシッと海軍式の敬礼をする睦月。だが、表情はとても柔らかい。カメラに向けて「にしし」と笑っている。

 画面が一時停止し、笑顔の脇にまたテロップ。睦月の略歴が表示された。

 曰く、対米戦を想定して魚雷兵装を強化した駆逐艦。

 前級である峯風型・神風型の使用していた五十三cm魚雷から、より大型の六十一cm魚雷を搭載。

 水上魚雷発射管も二基載せ、装填分と合わせ、二回の水雷戦を行えるだけの予備魚雷も積んでいた。

 特記事項、結構お茶目――とのこと。

 一時停止が解除され、マイクが再び睦月へ。

 

 

「相手は睦月型を発展させた駆逐艦たちだけど、意気込みのほどは?」

 

「むむむ……。確かに難しい相手です。でもっ、旧型だからって甘く見たらいけないのですっ。痛い目を見るのはどっちかにゃ~? みんなっ、張り切って行きましょーっ!!」

 

『おぉー!』

 

 

 睦月の掛け声に、チームメンバーの残る十名が拳を振り上げる。

 ……訂正。最後尾の十人目だけは、肩以上に上がっていない。

 映像はAカメ。青葉に戻った。

 

 

「睦月型の皆さん、元気一杯ですね~。それでは、簡単にスターティング・メンバー紹介をさせて頂きます。

 プレイ開始後のマウンドで詳細なテロップが出ますから、お楽しみに! では……。

 一番、ピッチャー。睦月ちゃん。睦月型のネームシップで、お茶目さんです。

 二番、キャッチャー。如月ちゃん。一言でいうと、エロい子です。

 三番、ファースト。弥生ちゃん。ちょっと表情の変化が読み辛い子ですが、真面目さんですねー。

 四番、セカンド……と言っても三角ベースなのでサードなんですが、卯月ちゃん。この子に関しては後のお楽しみ。

 五番……は本来サードなんですけど、飛ばしちゃってショート。皐月ちゃん。とにかく元気一杯で、明るいムードメーカーですね。

 六番は今回の特殊ルール、自由守備に入る、七番艦の文月ちゃん。本当なら六番艦の水無月さんだと語呂が良いのですが、居ないものは仕方ありません。柔らかい雰囲気が特徴です。

 七番、レフトは長月ちゃん。この子も真面目さんですが、より軍人っぽいでしょうか。

 八番、センターを守るのは菊月ちゃん。厨二病入ってます。

 九番のライトが三日月ちゃん。慎ましくも、みんなを縁の下から支える頑張り屋さんです。

 最後、補欠として望月ちゃん。ものぐさなのでこの位置は妥当かも……。

 以上! チーム・旧暦メンバーの簡易紹介でした。続いて、チーム・STのインタビューをどうぞ!」

 

 

 またしても映像はハンディカメラに。

 映し出されたのは、白露と同じ制服ながら、美しい金髪をそよがせる少女――夕立である。

 

 

「こちら夕立! 今度は私がリポートするっぽい! それでは、チーム・STのキャプテン、吹雪ちゃんに話を聞きまーす。

 ちなみに、カメラは五月雨ちゃん。そのカメラ高いから、転んじゃダメっぽい?」

 

「わ、分かってますよぅ。……ぁわわっ」

 

 

 何かに躓いたらしく、揺れる映像。端には夕立ともう一人、カメラを構えている五月雨のL字テロップが。

 体勢を立て直す頃には、茶髪を後ろでくくる、チーム・STのキャプテンと思しき少女の前まで来ていた。

 

 

「吹雪ちゃん、自己紹介をよろしくっぽい?」

 

「はい! ワシントン条約制限下で設計された、特型駆逐艦の一番艦、吹雪です! 僭越ながら、キャプテンとして全力を尽くす所存でありましゅ! ……あ゛」

 

 

 睦月と同じくビシッと敬礼。しかし、肝心な所で噛んでしまい、頬が引きつった瞬間に一時停止。略歴が紹介される。

 曰く、合わせて三十隻以上が建造された、特型駆逐艦の一番艦。

 特型駆逐艦は大きく三つに分けられ、吹雪を始めとする特Ⅰ型。特型駆逐艦十一番艦でもある綾波からを特Ⅱ型。そして、特型二十一番艦でもある暁からが特Ⅲ型となる。

 それぞれ吹雪型・綾波型・暁型とも表記され、暁型は改吹雪型と呼ばれる事も。

 小さな船体に主砲と魚雷発射管を三基ずつ配したこの船は、当時としてはかなりの重武装であり、全世界を驚嘆させた。

 特記事項、座右の銘は「小さな事からコツコツと」――とのこと。

 一時停止が解除。気不味い雰囲気を取り繕おうと、夕立が声を張った。

 

 

「え、ええっと、気にせず行くっぽい! 相手チームは、吹雪型から始まる特型の前級だけど、士気は高いみたい。対抗策はあるっぽい?」

 

「は、はい……。船としては特徴に大きな差がありますが、統制人格同士なら大して差はありませんので、油断なんて出来ません。

 ただ全力でぶつかって、栄光を勝ち取るのみですっ。頑張りまっしゅ! ……うぁぁ二度も噛んじゃったぁ……」

 

「……か、解説席にお返しするっぽい!」

 

「早く、早く切り替えてあげて下さいー!」

 

 

 真っ赤な顔でうずくまる吹雪をして、夕立と五月雨は庇おうと必死だ。

 その割に最後まで吹雪を映していたあたり、おっちょこちょいな五月雨である。

 映像が切り替わり、呆れ顔の青葉が原稿を手に取った。

 

 

「う~ん。吹雪ちゃんは緊張しいですから、初カメラでトチっちゃっても仕方ないですか~。

 まぁ、これを見てる大きなお友達には大好評でしょうから、問題無しという事で、メンバー紹介をば。

 一番、ピッチャー。吹雪ちゃん。真面目で頑張り屋さんなのですが、ちょっと空回りする事も。

 二番、キャッチャー。白雪ちゃん。女房役を務めるだけあって、落ち着きのある委員長タイプ。

 三番、ファースト。深雪ちゃん。彼女は吹雪型の四番艦ですが、三番艦の初雪ちゃんが引きこもりたいらしく、繰り上げです。元気っ子ですね。

 四番、サード。叢雲ちゃん。同じく繰り上げ。ツンデレっていうと怒ります。今もイラっとした顔してます。

 五番、ショートも繰り上げの磯波ちゃん。吹雪型九番艦で、引っ込み思案な恥ずかしがり屋さんです。

 六番からは綾波型。自由守備の一番艦・綾波ちゃんは、史実では武闘派ながら、お淑やかな女の子です。三人目じゃないですよー。

 七番、レフト。敷波ちゃん。叢雲ちゃんを五・五のツンデレとするなら、この子は甘めの三・七でしょう。ひょっとしたら二・八かも。眼帯なんてしてませんよー。

 八番、センターは朧ちゃん。綾波型の七番艦です。姉妹艦で構成された第七駆逐隊のリーダーも務める実力派。

 九番、ライトが漣ちゃん。朧ちゃんの妹であり、我らが司令官をご主人様と呼ぶ、オモシロ艦娘です。

 最後の補欠は繰り下がった初雪ちゃん。望月ちゃんと同じく、ぐうたらな子です。【われ、あおば!】を第一号からお読みの方には馴染みのコンビですねー。

 以上、チーム・STの簡易紹介でした! 続いて、プレイ開始の宣言です」

 

 

 次に映し出されたのは、駆逐艦たちより背の高い少女。

 整列する二チームの前に立つ、ショートカットに鉢巻き姿の彼女――長良がアップになり、またL字テロップが流れた。

 

 

「主審を務める、長良型軽巡のネームシップ、長良です! 両チーム、悔いのないようにプレイしてね? 一同、礼!」

 

『よろしくお願いします!』

 

 

 号令と同時に、両チーム合わせて十八名が頭を下げる。

 試合開始を告げるサイレンが響き、少女たちは自らのポジションへ足早に赴く。

 映像は再び解説席へ戻った。

 

 

「さぁ、いよいよ始まりました世紀の一戦! 艦娘たちはどのような試合を見せてくれるのでしょうか?

 実況は私、青葉が。加えて、解説は頭脳派高速戦艦の霧島さん、コメンテーターの那珂ちゃん、ツッコミの黒潮ちゃん。

 試合中のウグイス嬢は、霧島さんの双子の姉、榛名さんでお送りしまーす!」

 

「霧島です。適切に解説して見せましょう」

 

「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよーっ!! 今度こそ、よっろしくぅ!」

 

「黒潮や。よろしゅうな……って、なんで野球解説にツッコミが必要やねーん!」

 

 

 青葉だけを映していた映像が横にパン。

 メガネをかけた改造巫女服少女と、派手なオレンジの衣装をまとい、激しい動きでアピールしまくるお団子頭少女、華麗なツッコミをしてくれる黒髪ショートの少女を順に映した。

 それぞれに、金剛型戦艦四番艦・霧島、川内型軽巡洋艦三番艦・那珂、陽炎型駆逐艦三番艦・黒潮とL字テロップが流れる。加えて、上部には黒髪ロングな少女――金剛型三番艦・榛名の顔写真も。

 カメラの位置が変わり、四人全員を斜めから映す配置に。

 

 

「さて、事前に行ったロシアンルーレットにより、先攻はチーム・旧暦となっています。初めて大型魚雷を装備した駆逐艦の攻撃力を、チーム・STがどう凌ぐか。見物ですね~」

 

「……え? ふ、普通こういうのってクジ引きで決めるんじゃないかって、那珂ちゃん思うんですけど?」

 

「用意したのは響さんで、中身を変えたピロシキを使ったそうです。ワサビ、カラシ、ハバネロ、クサヤ、ゴーヤ、ボーキの六種類だったらしいです」

 

「それ全部ハズレやん!? まともに食えるもん一個もないで!?」

 

 

 青葉の発言内容に違和感を覚えたらしい那珂。

 思わずアピールをやめて疑問を挟むも、霧島がさらに情報を追加。またしてもツッコミが炸裂した。

 画面端に、ピロシキの皿を持つ白髪の少女――暁型二番艦・響の写真。何故か自慢げである。

 

 

《一回の表、チーム・旧暦の攻撃は、一番、ピッチャー・睦月さん。ピッチャー・睦月さん。背番号、一》

 

 

 そうこうしている内に、耳に心地よいアナウンスが流れだす。

 映像は変わり、投手である吹雪を手前に、バッターボックスを映す地点へ。

 長良がプレイ開始を宣言し、ここに試合が始まった。

 

 

『注目の一打席目、いきなりネームシップ同士の直接対決です!

 睦月ちゃんが前級の意地を見せるか、それとも吹雪ちゃんが文字通りの主砲を放つのか。

 第一球、振りかぶって……投げたぁー!』

 

 

 青葉の実況をBGMに、一つ頷いた吹雪がボールを確認。

 ピッチャーサークルの中で一旦動きを止め、右腕を大きく一回転させながら踏み込む。ソフトボールでお馴染みのウィンドミル投法である。

 吹雪の手を離れたボールは、一直線にミットへと叩き込まれた。

 

 

「ストラーイク!」

 

「くう、やっぱり早い……!」

 

 

 投法自体はソフトボールの物だが、速度的にはベースボールと変わらないだろうか。

 打者としてそれを味わった睦月は歯噛みする。

 ちなみに、選手たちにはピンマイクが配布されているようで、彼女の音声を拾ったのはそれである。

 

 

『初球はストレート。睦月ちゃん見逃しのストライクです。球速は……島風ちゃん一・六人分! 吹雪ちゃん、中々の強肩ですね~』

 

『えっ、那珂ちゃんのこと呼んだ? っていうか、何かおかしかったよ?』

 

『島風さんの最高時速を四捨五入した、七十kmを基本とする単位ですね。この場合、時速百一二kmに相当します』

 

『分っかり辛いにも程があるわ! 普通に時速で言った方が早いやん!? あぁ、なんやこの先のパターン読めてきたぁ……』

 

 

 ボールが吹雪に返され、睦月がバットを構え直す間も、解説席のコントは続く。頭を抱える黒潮の写真が端へカットインした。

 観戦しに来ている統制人格以外は客が居ない、いわゆる無観客試合のため、賑やかしのためにこれも場内へ流されているのだが、吹雪たちは一切無視。プレイを続行する。

 

 

『さぁ、続く第二球は……ボール! 睦月ちゃん良く見てました。霧島さん。吹雪ちゃんは意外と攻めの姿勢ですね』

 

『はい。吹雪型といえば、その特徴的な兵装配置により、当時の駆逐艦からは考えられない攻撃力を有した船です。それが投球スタイルにも出てきているんでしょう』

 

『うんうん。女の子だからって受身なだけじゃダメダメ! 強気にスマイル! 睦月ちゃんも頑張れー!』

 

『……あれ。ボケがないとウチ喋れへん』

 

 

 視点がバッターボックス手前に変化し、第三球。内角をえぐるストレート。睦月はバットを振るも、ストライク。

 第四球は低めのアウトコース。手を出されずにボールとなった。

 

 

『カウントはツーボール・ツーストライク。睦月ちゃん追い込まれました。このまま見逃し三振してしまうのかぁ!? 注目の第五球……打ったぁあああっ!』

 

 

 青葉の煽りに奮起したか、バットがストレートを捉える。

 打球は、ピッチャーと本来セカンドの居る場所の合間を抜け、センター奥をワンバウンドでフェア。

 睦月が一塁へ走った。

 

 

「く、間に合え……!」

 

 

 ピンマイクがセンター・朧の声を拾い、映像も彼女をアップに一時停止。略歴がテロップとして流れる。

 曰く、綾波型駆逐艦七番艦・朧。

 南方作戦に多く参加したためか、暑いのが好き。逆に寒いのは苦手であり、体操服姿の今も、長めのレッグウォーマーとアームウォーマーが手放せない。

 特記事項、カニを飼っている――とのこと。

 停止が解除。朧の手からボールが放たれた。しかし、すでに一塁を駆け抜ける影が。

 

 

『打球はセンターへのライナーヒット。朧ちゃんが一塁へ送球しますがセーフ。

 ネームシップ対決は、チーム・旧暦、キャプテンの睦月ちゃんが初ヒットで勝利を収めました。

 霧島さん、いかがですか?』

 

『見事に打ち分けましたね。ピッチャー横をすり抜けるライナーは、セカンドの居ない三角ベースでは効果的です。

 長打を警戒し、自由守備の綾波さんが下がっていたのも痛かったようです。

 ちなみに自由守備とは、投球と走塁の邪魔にならない限り、どんな場所でも守備につけるという、独自の守備位置です。

 大体はセカンドの位置にいる場合が多くなるでしょう』

 

『睦月ちゃんカッコイイー! 吹雪ちゃんはドンマイ! まだまだ続くよー!』

 

『……暇やな……』

 

 

 初打席で初ランナー。上々の成果にチーム・旧暦のベンチが湧く。

 対して野手も「球は走ってんぞー!」などと吹雪へ声を掛かる。小さくアニメーションする顔写真が入り、発言者はファースト・深雪である事が示されている。

 まだ序盤も序盤。両チームやる気を見せていた。

 

 

《二番、キャッチャー・如月さん。キャッチャー・如月さん。背番号、二》

 

 

 次なる打者が告知され、長い髪を先端で緩く縛る少女が、バッターボックスに進み出る。

 ゆったりとした動作が特徴の彼女は、木製バットを愛おしそうに抱え、カメラへウィンク。

 

 

「あはっ。如月の華麗な(ピーー)捌き。見惚れていたら、ヤッちゃうわよ?」

 

 

 一時停止と略歴紹介。

 曰く、睦月型駆逐艦二番艦・如月。

 かつてはウェーク島攻略作戦に参加し、そこで艦生を終えた。

 後の世に、不死身の潜水艦長として名を馳せる、板倉光馬少尉を航海長として乗船させていた事でも知られる。

 特記事項、言動がやけにエロい――とのこと。

 

 

『続いての打者は如月ちゃん。無駄にエロい言い回しが、大きなお友達のハートにズッキュンです!』

 

『う~ん。やっぱり少しくらいエロスが無いと、取っ掛かりがないのかぁ? この業界は厳しいよ……』

 

『ちなみに、ピー音を被せた部分はバットと言っていたようです。被せる必要ありませんね』

 

『エロくない単語を無理やりエロくしてどないすんねーん! ……よし! ウチ仕事してる!』

 

 

 解説席コントの最中も、選手たちは動き続ける。

 如月はニコニコ微笑みながらバットを構え、吹雪が油断なくサインを確認。

 わずかに二秒、睨み合う。

 

 

『走者一塁のノーカウント。手堅く行きたい吹雪ちゃん、第一投……投げたっ』

 

 

 速球は変わらず、狙いも正確なストレート。

 だが、如月の笑顔はますます深く、上手がバットをしごくように動いた。

 

 

「えいっ」

 

「……嘘っ、バント!?」

 

『おおっとぉ!? いきなりのバントだぁー! 距離的には白雪ちゃんが近い……けれど、間に合いそうにない三塁ではなく一塁へ!』

 

 

 コンという軽い音と共に、ボールが転がった。送りバントである。

 予想外な行動だったようで、キャッチャーの行動も遅れてしまう。

 しかし、それすら見越しているのか、如月の走塁は遅く、アウトを優先した白雪が一塁へ送球。

 睦月を三塁へ進ませるのと引き換えに、アウトカウントを増やした。

 

 

『いやー驚きましたねー。これはどういう作戦なんでしょう?』

 

『得点を挙げる事を優先した、非常に攻撃的な戦略ですね。塁の少ない三角ベースは、非常にゲーム展開が早くなります。

 無死の状態から確実に点を重ねるより、打者一人と引き換えに得点圏へ走者を送り、投手にプレッシャーを与える……。

 チーム・ST、これは厳しい戦いになりそうです』

 

『如月ちゃん、やっるぅ~』

 

『あかん、やっぱ真面目にスポーツしとるとウチ喋れへんかも……』

 

 

 ゆっくり一塁を駆け抜けた如月は、自らを追うカメラにVサイン。ベンチへ戻る姿も堂々としていた。

 そして、新たに進み出る選手。薄い水色の髪をショートカットにし、長く伸ばした横髪を胸元へ垂らす少女。

 アナウンスが彼女を紹介する。

 

 

《三番、ファースト・弥生さん。ファースト・弥生さん。背番号、三》

 

「追い詰めます。任せて……!」

 

 

 一時停止と略歴紹介。

 曰く、睦月型駆逐艦三番艦・弥生。

 ラバウル攻略や、ブーゲンビル、ポートモレスビーなどの作戦に参加し、ガ島……ガダルカナル島への初艦砲射撃にも加わる。

 試験的な意味合いを持って設計され、蒸気タービンは英国製。メトロポリタン・ヴィッカース社のラトー式タービンを装備した。

 特記事項、ポーカーフェイスが得意――とのこと。

 

 

『さぁ、吹雪ちゃんの前に新たな打者が登場します。背番号は三、名は旧暦の三月を指す新人駆逐艦、弥生ちゃんです!』

 

『データによると、彼女はスイッチヒッター。左右どちらでも打てる打者との事です。クリーンナップとして適材ですね』

 

『クリーンナップ? って何? 那珂ちゃん分かんなーい』

 

『確か、打率の高い三番から五番の打者のことやろ? 得点に関わるから、一~二番は確実に打てる打者、それ以降は長打を狙える打者がええんや。……おぉぉ、意外と喋れてる』

 

 

 如月と違い、弥生は厳しい目付きで左打ちのバッターボックスへ。

 吹雪は一瞬たじろぐが、すぐに立ち直って投球の準備を。

 

 

『両者、厳しい目で睨み合っています。第一球……投げた!』

 

 

 放たれたのは、外角高めのストレート。

 かなり際どいラインだが、主審・長良は「ストライク!」と判定。弥生は無表情である。

 その後も投球は続くが、彼女の表情は動かない。

 

 

「ストラーイク!」

 

「………………」

 

 

 内角のストレート。低めのチェンジアップ。外に続けてボールが二つ。

 全ての球をギリギリまで観察し、計測しているような。そんな印象を放つ弥生。

 やり辛いと、吹雪の表情が如実に物語っていた。

 

 

『ワンアウトからカウントはスリーボール・ツーストライク、フルカウントです。

 ここで仕留められるか、それともフォアボールで満塁にしてしまうかで、今後の展開が変わってきます。

 宣言通り追い詰められた吹雪ちゃん、どうするのか? 第六球を……投げた!』

 

 

 どちらに転んでも、得点圏ランナーの存在は変わらないというプレッシャー。

 重くのしかかるそれに負けじと、吹雪が腕を振りぬく。

 内角のストレート。かなり際どいが、ゾーンに入っている。

 

 

「貰うよ……!」

 

「えっ」

 

 

 しかし、弥生は球種を読みきっていたらしく、バッターボックスギリギリまで足を開き、バットに直撃させた。

 芯を捉えた打球が、左中間を破らんと飛ぶ。

 

 

『打ったぁああっ! 打球はレフト前へ伸び――』

 

「やらせはしないわ!」

 

 

 ところがである。高い中空を抜けるはずだった打球は、三塁から飛び出したサード・叢雲の手によって捕球されてしまった。

 より正確に表現するなら、彼女の腰から伸びる艤装――長十cm連装砲の先端へと無理やり被せたミットに、だ。

 

 

『おおっ!? ここで叢雲ちゃんファインプレー! マニピュレーター型艤装を活かし、タイムリーヒットを捻じ伏せたぁ!』

 

『見事な反応です。しかし、取るためにサードを離れてしまいましたから、睦月さんは無事三塁へ戻っています。得点圏に走者がいるのは変わりません。油断できませんよ』

 

『おぉぉ~。叢雲ちゃんカッコイイ……! っていうか、艤装出しちゃって良いの?』

 

『普通は、帽子とかを投げつけて球を取ったりするとアカンのやけど、艤装は身体の一部なんやから、ええんちゃう?

 せやないと、ただ女の子が三角ベースやってるだけの映像特典になってまうし』

 

「ま、当然の結果よね」

 

 

 先端で縛った長い髪をかき上げ、不敵な笑みがアップになったところで、一時停止と略歴紹介。

 曰く、吹雪型駆逐艦五番艦・叢雲。

 南方侵攻、ミッドウェー海戦、ソロモン諸島の戦いなどに参加した。

 旧海自のDD-118“むらくも”や、海保の巡視艇など、多くの艦船にその名が残っている。

 特記事項、最近のマイブームは編み物――とのこと。

 停止が解除され、映像は解説席に。

 

 

「良い機会ですから、ここで艦娘三角ベースにおける艤装の扱いをご説明しましょう。霧島さん、お願いします」

 

「はい。統制人格とは、通常時は普通の人間と変わりませんが、艤装を召喚、身に付ける事によって、身体能力を爆発的に上昇させることが可能です。

 しかし、それならば艤装状態でプレイすればいいのに、という疑問も出てきますね。その答えは……危険だからです。

 艤装は統制人格の意思に反応して稼働するんですが、スポーツは少なからず闘争本能を刺激します。うっかり主砲が暴発したりしたら、危ないですからね。

 なので、艦娘三角ベースでは、防御的な行動時にのみ、艤装を召喚する事が許されています。それ以外で召喚した場合、危険行動でアウトとなります」

 

「叢雲ちゃんみたく球を取ったり、走ったりはOKってこと?」

 

「あと思いつくんは、デッドボールん時に、反射的に出てしもうた場合とかやろか?」

 

「そうお考え下さい。睦月さんが出塁時に出さなかったのは、問題なく間に合うと判断したからでしょう。ちなみに、送球は防御的な行動ではないとみなされます。ご注意を」

 

「という訳で、実況に戻りましょう!」

 

 

 フリップの使われる説明が終了し、再び場内の映像へ。

 長打コースをもぎ取られ、惚けていた弥生が正気に戻り、ごく僅かに眉をひそめた。

 小さく背中を丸めながらバッターボックスを後にし、続く姉妹艦とすれ違う。

 

 

「く……っ。やってくれたね……!」

 

「ありゃりゃー、残念だったぴょん。でも、怒っちゃダメだよ? ぷっぷくぷーは、うーちゃんの専売特許だぴょん!」

 

「怒ってなんかないよ、怒ってなんか……っ。けど、悔しい……」

 

 

 自らをうーちゃんと名乗る、非常に長い赤毛の少女。

 ディフォルメされたウサギの髪留めでそれをまとめる彼女は、表情変化に乏しい弥生へ抱きつき……慰めている? ようだ。

 

 

《四番、サード・卯月さん。サード・卯月さん。背番号、四》

 

 

 榛名のアナウンスに背を押され、卯月がバッターボックスへ駆け込む。

 得意満面にバットを振り回す姿は、無邪気に見えて戦士のそれである。

 ここで一時停止。略歴紹介が始まった。

 曰く、睦月型駆逐艦四番艦・卯月。

 初陣は第一次上海事変。第二次ソロモン海戦で爆撃を受けたり、雷撃された輸送船と衝突したり、また爆撃されて不発弾を貰ったりと、意外にタフな艦生を送った。

 特記事項、爪を立てられるのが嫌でウサギを抱っこできない――とのこと。

 

 

『ツーアウトをとって優位に立ったように見えるチーム・STですが、しかし予断は許しません。

 次も要注意な四番バッター、同じく新人駆逐艦の卯月ちゃんです! ご覧の通り、痛々しブェッホブェッホ可愛らしい語尾が特徴ですねー』

 

「ちょっと待つぴょん!? 今、明らかに痛々しいって言ったぴょん! うーちゃん、こぉーんなに可愛いのにどういう了見だぴょん!?」

 

「う、卯月ちゃん落ち着いてっ。それ以上バッターボックスでたら、アウト取らなくちゃいけなくなるよっ?」

 

 

 一時停止が解除、青葉による実況が再開されるが、流石にこの紹介には異論があるらしく、激しく地団駄を踏んで抗議していた。

 語尾に「ぴょん」。外見の幼い美少女だから許されるものの、どちらか一つが欠けただけで大惨事であろう。

 とにかく、長良に宥められ、暴走一歩手前で留まった卯月は、決意も新たにバットで外野スタンドを指す。ホームラン予告だ。

 

 

「うむむむむっ、いいぴょんいいぴょん! こうなったら、ホームラン打って見返してやるぴょん!」

 

『卯月さん、強気ですね。データによると、彼女は見かけに反してホームラン製造機であるらしいです』

 

『打者と勝負するか、もしくは、敬遠も一つの手やね。どないするんやろ?』

 

『……ふ、吹雪ちゃん頑張れー! キャラの濃い子が来ると、那珂ちゃんの影が薄まっちゃうよー!?』

 

「そんな理由で応援されても嬉しくないです……」

 

 

 那珂からちょっと場違いな応援をされ、吹雪が苦笑い。

 しかし、おかげで三塁ランナーからの圧迫感も紛れたか、余計な力の抜けた顔付きでボールを構える。

 長打に備えて野手が下がり始めた。

 

 

『気を取り直して、二死三塁ノーカウント。四番に対する一投目……どうだっ?』

 

 

 じっくりとサインを確かめ合い、ウィンドミルが軟球を弾き出す。

 今までに比べると遅め。しかもど真ん中のストレート。これに手を出さないバッターは居ない。

 

 

「貰ったぴょん!」

 

「あ……っ! 卯月、ダメッ」

 

 

 当然、卯月も全力でバットを振るのだが、ベンチに下がっていた弥生が声を上げる。

 カン、と小気味良い音。そのまま伸びれば良かったのだが、高く上がり過ぎて距離が出ない。

 いわゆる外野フライである。

 

 

『あぁ、卯月ちゃん打ち上げてしまったー。これは……下がっていた敷波ちゃんが危なげなくキャッチ。アウトです』

 

『これは吹雪さんの作戦勝ちですね。見事です』

 

「うにゃー、ダメだったかぁ……」

 

「なんでぴょーん!? 弥生の仇を討とうと思ってたのにぃー! ぴょぴょぴょお……」

 

「……ありがとう。気を落とさないで、卯月。……でも、その落ち込み方は変だと思う」

 

「ぴょん?」

 

「あらあら。うふふ」

 

 

 アウトカウントが三となり、主審・長良が攻守交代を支持した。

 うな垂れる睦月。また地団駄を踏む卯月。無表情にツッコむ弥生と、たおやかに微笑む如月をカメラが映し、今度は彼女たちが守備位置に赴く。

 

 

《一回の表、チーム・旧暦、得点なし》

 

 

 試合経過の報告が終わる頃には、睦月がマウンドに立っていた。

 一塁に弥生、三塁には卯月の姿も。準備万端である。

 

 

『一回表の攻撃が終わり、チーム・ST無失点。最初はチーム・旧暦の攻撃に押され気味でしたが、仲間の助けで見事に持ち直しましたねー』

 

『はい。両チーム、初回から見事なプレーを見せてくれています。これからが楽しみです』

 

『ホントホント~。那珂ちゃん、テレビはアイドル番組しか見なかったけど、こうして実際に見ると面白いね~!』

 

『せやねぇ。……しっかし、ホンマにこんなんでええんやろか……? ウチら軍艦やなかった……?』

 

 

 本来、戦いに赴いて砲を構えるべき存在なのに、こうしてバットやミットを構え、三角ベースに精を出す。

 黒潮の悩みももっともであるが、その声にはどこか楽しそうな気配が宿っていた。色々と言いつつ、彼女も満喫しているのだろう。

 

 

《一回の裏、チーム・STの攻撃は、一番、ピッチャー・吹雪さん。ピッチャー・吹雪さん。背番号、二十二》

 

 

 そして、球場にはまた選手が舞い戻った。

 今までピッチャーを務めていた吹雪がバッターボックスへ。バットのグリップを何度も握り直している。

 対するは睦月。マウンドの投手板をつま先でなぞり、穏やかな表情で球をもてあそぶ。

 

 

『さぁ、一回裏の攻撃に移りましょう! 先頭バッターは、先ほど素晴らしい投球を見せてくれた吹雪ちゃん!

 対するは、三塁まで進むも得点は適わなかった睦月ちゃん! 悔しさを球に込められるでしょうか?

 いざ第一投目! 振りかぶってぇ……投げました!』

 

 

 如月からのサインに頷き、睦月の右腕が風車を描く。

 細い指を離れた球は、確かにストライクゾーンを目指す。

 

 

「……えっ。なに、このボール!? 遅いっ?」

 

 

 ――のだが。その弾道は山なりで、見間違いかと思うほど遅かった。

 吹雪は虚を突かれ、しかし球速の遅さ故に手を出してしまい、空振りに。

 

 

「ストラーイク!」

 

「えっへへぇ。この勝負、睦月が貰ったのです!」

 

「こ、こんな球が……」

 

 

 主審・長良の判定に、睦月が両手でガッツポーズ。

 してやられた吹雪の方は悔しそうな顔である。

 

 

『これは……球速は島風ちゃん一・一人分? お、遅い、ビックリするほど遅いです!』

 

『スローカーブですか。睦月さん、珍しい球を投げますね。タイミングが取りづらいですよ』

 

『うっわぁ……。睦月ちゃんエグい……。変なタイミングで会話のバトン渡されると、滑っちゃうから困るよね……』

 

『うん。ウチもその気持ちはよう分かるんやけど、例えとしては変やと思うで』

 

『続く第二球……スローカーブ! タイミングが合わずストライクです。第三球もあえなく空振り! ネームシップ対決は、またしても睦月ちゃんに軍配です』

 

 

 投球が続き、吹雪も必死に食らいつこうとするが、空振りはさらに二回。健闘むなしく凡退してしまった。

 

 

「ううう……。私、負けちゃった……。後をお願いね、白雪」

 

「ええ、任せて。必ず攻略してみせます……!」

 

 

 ガックリと肩を落とし、ベンチへ戻る吹雪。けれど、バトンを受けた姉妹艦は、静かな闘志に満ちていた。

 ここで一時停止。短い二本のお下げ髪少女――白雪の横顔がアップになり、略歴紹介。

 曰く、吹雪型駆逐艦二番艦・白雪。

 今回は補欠である三番艦・初雪とコンビを組んで戦果をあげる事が多かった。

 数多くの主要な戦いに参列し、三度のソロモン海海戦全てに参加。無傷で生き延びた。

 特記事項、糠床の面倒を見るのが日課――とのこと。

 

 

《二番、キャッチャー・白雪さん。キャッチャー・白雪さん。背番号、七》

 

 

 アナウンスをバックに、白雪は右のバッターボックスへ。

 少し大き目のヘルメットを揺らし、バットを緩く構える。

 

 

『続いてのバッターは、特型駆逐艦二番艦の白雪ちゃんです。

 昔は初雪ちゃんとコンビを組むことが多かったようですが、吹雪ちゃんとのコンビでも確実な選球で無失点へと導きました。

 果たしてバッターとしての実力は如何なものか。注目の一投目です!』

 

 

 如月からのサインを受け、睦月は今まで通りにボールを構える。

 が、大きく一歩を踏み出す瞬間、つぶらな瞳が獰猛に輝く。

 

 

「カーブも、ストレートも、あるんだよ!」

 

「なっ」

 

 

 弾道は山なりではなく、ほぼ一直線にキャッチャーミットへ収まった。

 遅い球速ばかりを見ていたためか、白雪は反応できず見逃しのストライク。

 解説席も盛り上がりを見せる。

 

 

「これはある意味予想通りか! 今度はスローカーブではなくストレート! 吹雪ちゃん程の球速はありませんが、この差は大きい!」

 

「決め球はスローカーブ。そして、それを活かすためのストレートも投げる。

 緩急をつける事によって、よりタイミングを合わせ辛く。

 この試合が決まったのが一昨日ですから、短時間で、相当に密な練習を積んだようです」

 

「え、えっと……? バラード系の後にノリノリな歌を唄うと、より盛り上がるって感じかな?」

 

「う~ん、間違ってるような、当たってるような……。お? それより、もう次やでっ」

 

 

 興奮気味な青葉、霧島に引き換え、那珂は妙な例えで自分なりの理解をどうにか示し、そのせいで黒潮は困惑気味である。

 相変わらずなコントを聞いているはずの選手たちだが、意に介さずプレイは続行されていた。

 スローカーブとストレートを織り交ぜ、時折ドロップボール――野球で言うところのフォークをも駆使した、球速の変化に富んだ投球。

 けれど、白雪は一向にバットを振ろうとはしなかった。ミットへ投げ込まれる変化球を、ただただ観察している。

 

 

『おや……? どうやら白雪ちゃん、見極めに入ったようですね』

 

『ふむふむ。どうやら、スローカーブはコントロールが難しいようです。なかなかストライクが取れません』

 

『あ、今度は真っ直ぐな球でストライクだよ。カウントは……フルカウント、だよね? どうなっちゃうのかなぁ……』

 

『フォアボールで塁に出てもめっけもんやけど……。どうせなら打って出たいとこやね。白雪はん、勝負所や!』

 

 

 やがて、ボールカウントは全てが埋まるところまで来た。

 次の一球、ストライクとなれば白雪も凡退。ボールとなれば出塁となる。

 ヒットを狙うか、見極めてフォアボールを取るか。選択肢は二つに一つ。

 投手も打者も、ここが瀬戸際だ。

 

 

「睦月は、負ける気なんか、全然ないのねっ」

 

 

 気合一声。睦月が渾身の一球を投じる。

 球速は低く、山なりの弾道。スローカーブ。

 だが、ここまで動きを見せなかった白雪が、ここで動いた。

 

 

「狙い、良し。撃ち方――始め」

 

 

 かすかにマイクが声を拾った刹那、短く持ち変えられたバットが振り抜かれる。

 カァン、と高い音。打球はレフトに伸びるが、しかし、本塁と三塁を結ぶ白線のベンチ側をバウンド。

 主審・長良が「ファウル!」と宣言した。

 

 

『当てた! 白雪ちゃん、スローカーブをバットに当てました!』

 

『今のはストライクゾーンに入っていましたから、生き延びましたね。ここからどう粘るか……』

 

『ううう……。み、見てるだけなのに緊張してきちゃった』

 

『なんや、意外とええ勝負になっててビックリや……。てっきり太ももで内容を誤魔化すだけやと思っとったのに』

 

 

 単に美少女の生脚を、ローアングルから責めるだけの映像特典かと思いきや、試合運びは白熱の様相を見せ始めている。黒潮の驚きも当然であろう。

 再びスローカーブが投じられ、またバットも振られる。今度は右へのファウル。

 

 

「にゅえいっ」

 

「ふっ」

 

 

 八投目、九投目、十投目、十一投目……。

 ストレート、ドロップボール、スローカーブ、スローカーブ。

 投げては打たれ、打たれては投げる。

 全てのカウントがファウルとなり、長い攻防が続く。

 

 

『睦月ちゃんが全力で投げるも、白雪ちゃんは粘ります。すでにファウルが六本。両者とも互いに譲りません。第十二球目……』

 

 

 抑揚を消した青葉の声。

 実況の終わりを待つように、マウンドには束の間の静寂が訪れた。

 息を飲む事すら憚られる緊張感が漂うが、睦月の緩やかな投球フォームがそれを破る。

 ストレート――いや、ドロップボール。

 

 

「……! ここっ」

 

「んにゃ!?」

 

 

 打音が響く。

 速度の緩急による幻惑を見破り、白雪が軟球をフェアグラウンドへ叩き返した。

 けれど、勢いはかなり弱い。

 

 

『白雪ちゃん艤装状態で走る! しかし当たりは甘いか? サードゴロを皐月ちゃんが拾って送球。判定は?』

 

 

 黄色い髪の三塁手・皐月が前へ出て捕球。

 体勢を崩しながら一塁に投げるも、白雪が塁を走り抜けるのと、弥生に球が届くのは同時に見える。

 判定は、長良の姉妹艦である塁審……長良型軽巡洋艦二番艦・五十鈴に委ねられた。

 ややあって、ツインテールをそよ風に揺らす彼女は――

 

 

「セーフ!」

 

「やった!」

 

「……やられ、た……」

 

 

 ――両腕を左右に広げ、走塁が間に合ったことを知らしめる。

 白雪が小躍りして喜び、弥生は無表情に悔しがりながら睦月へと返球。

 チーム・ST側のベンチが湧いた。

 

 

『塁審の五十鈴ちゃん、セーフを宣言しました。チーム・STの初ヒットは白雪ちゃん。見事、吹雪ちゃんの仇を取りました!』

 

『しかし、ここから先が問題ですよ。冷静さが取り柄の白雪さんだからこそ、睦月さんのトリッキーな球を撃てたように思えます。次のバッターである深雪さんは、色んな意味で元気一杯ですし……』

 

「うっせ。白雪に出来たんだから、アタシにだってやれる! 見てろって!」

 

 

 あくまで冷静な霧島の解説に反論しながら、次打者であるショートカットの少女が、バットを肩にかけて屈伸運動を始めた。

 ここで一時停止と略歴紹介が入る。

 曰く、吹雪型駆逐艦四番艦・深雪。

 艦隊型駆逐艦としての活躍を見込まれていたが、演習中に駆逐艦・電が船体中央部へ衝突。

 船体は真っ二つになり、特型駆逐艦の中で唯一、太平洋戦争前に沈んでしまった。

 当艦隊に属する電もその事を大変気にしており、顔をあわせる度に謝られるのが心苦しいようである。

 特記事項、好きな花はサボテンの花ーーとのこと。

 停止が解除。張り切って飛び跳ねる深雪は、急ぎ足でバッターボックスへ駆け込む。

 

 

「ぃよぉーっし、行っくぞぉー!」

 

《選手の交代をお知らせします。三番、深雪さんに代わりまして、不知火さん。バッターは不知火さん。背番号、九十二》

 

「……ってなんでだぁ!?」

 

 

 ――が。唐突なアナウンスの内容にズッコケた。

 代わりに進み出るのは、体操服とスパッツ姿の、目つきが鋭い少女。

 再び一時停止。紫色の髪を天辺で括る横顔へ、略歴が紹介される。

 曰く、陽炎型駆逐艦二番艦・不知火。

 姉である陽炎と共に、真珠湾攻撃など多くの作戦へと参加した。

 キスカで雷撃を受けてからは離れ離れとなり、レイテ沖では志摩艦隊に属しながら無事生還を果たすも……。

 特記事項、輝く笑顔は憤怒の証し――とのこと。

 

 

『なんとチーム・ST、早くも選手交代を決めました。ここで特別ルールをご説明いたします。

 学童野球と同様に専属監督が存在しない艦娘三角ベースでは、一イニングにつき一回、キャプテンの采配で選手の交代を求められます。

 また、その際に選択するリリーフ陣は両チーム共通。つまり、観客の艦娘を選手として導入できるって事なのです!』

 

『より多くの統制人格を、出来るだけカメラに映そうという魂胆が丸見えですね。ちなみに、交代を宣言されても、その選手は再出場可能です』

 

『ライバルは続々と現れるって事かぁ……。ううん、那珂ちゃん負けない! 例え声だけでしかアピール出来なくっても、存在感では負けないんだからぁ!』

 

『そうやねー。きっと負けへんねー。誰も勝とうとせえへんもんねー。んな事より、深雪はんが暴れとるんやけど……』

 

 

 停止解除とほぼ同時に青葉たちの解説が入り、「あたしに打たせろぉおおっ!!」と暴れる深雪を吹雪・叢雲が引きずっていく。実に騒がしい。

 それでも全く動じない不知火は、キビキビと左のバッターボックスへ。

 ギロリ、と音がしそうな目を睦月に向けた。

 

 

「期待に、応えてみせます」

 

「ひぃぃ……。眼光が鋭いよぅ……」

 

『ビビってます! 睦月ちゃん、不知火ちゃんの鋭利な目付きにビビっております! もしやこれも狙っていたかチーム・STー!』

 

『心理戦の様相を呈してきましたね』

 

『あ、那珂ちゃん知ってる! こういう時って、ピッチャービビってる、ヘイヘイ! ……とか言うんだよね?

 でも負けちゃダメだよ睦月ちゃーん! アイドルは、アンチも魅了してこそアイドルなんだよー!』

 

『いやいや、アイドル関係あらへんわ。というか、ぬいぬいは目付きがすこぶる悪いだけで、案外お人好しなんやで?』

 

「ぬいぬいじゃありません」

 

 

 球場から緊張感が霧散していく中、キャッチャー・如月がおもむろに立ち上がり、睦月はバットの届かない位置へ緩やかに投球。ボールカウントが一つ増えた。

 

 

『あ、敬遠です。チーム・旧暦、敬遠策に出ました。警戒しているんでしょうか?』

 

『それもあるかも知れませんが、おそらく、精神的な余裕を取り戻す意味合いもあるでしょう。決め球をあっさり攻略されてしまいましたし、のちの投球へ影響も大きいですから』

 

 

 その後もボールが三球続き、主審・長良が「フォアボール。打者は一塁へ」と宣言。

 駆り出されておきながら勝負も出来ず、不知火は酷く残念そうな顔で出塁する。

 

 

「つまらない……」

 

「ほふぅ……。怖かった……」

 

『フォアボール、だね。不知火ちゃんが一塁に行ったけど……あ、深雪ちゃんが凄い勢いで出てきた。ケンカしちゃダメだよぉ~?』

 

『ふんふん。どうやら元の選手に戻すみたいや。しかし、ぬいぬいはただ怖がられただけやったな……』

 

「なんですか。不知火に落ち度でも……?」

 

 

 どうやら、元の選手が再出場する分には交代ではないようで、鼻息荒い深雪と、不服そうにプロテクターを外す不知火が場所を入れ替わる。

 まだ付き合いも浅く、怖がられるのも仕方ない迫力が、落ち度といえば落ち度だろうか。

 ともあれ、試合は続いている。走者交代と合わせ、次なるバッターも登場した。

 

 

「ふふ。いよいよ戦場(いくさば)ね」

 

《四番、サード・叢雲さん。サード・叢雲さん。背番号、五。

 代走、ファーストランナー・不知火さんに代わりまして、深雪さん。ファーストランナー・深雪さん。背番号、三百》

 

『続いてのバッターは、一回表でファインプレーを見せてくれた叢雲ちゃん! 打撃でも真価を発揮できるか!?』

 

『敬遠で睦月さんがどれだけ落ち着いたかが重要です。確実なピッチングを続けられれば、叢雲さんにとっては辛い相手でしょうね』

 

 

 バットを長めに持ち、スパイクシューズで地面をしっかり踏みしめる叢雲。

 見るからに“打ちそう”という雰囲気を放つ彼女だが、睦月の顔は落ち着いている。

 

 

『叢雲ちゃん、自信たっぷりにバットを構えます。対する睦月ちゃん、如月ちゃんのサインにしっかり頷き……投げました!』

 

 

 放たれたのはスローカーブ。

 緩い弾道を描く変化球が、焦れったい速度でミットに迫る。

 対する叢雲の動きはワンテンポ遅れて見えたが、それも計算の内らしく、バットは見事に球を捉えた。

 

 

「ファウル!」

 

「ちぃっ。やり辛いわね……!」

 

 

 しかし、打球が向かった先は右のファウルグラウンド。

 わずかに芯を外してしまったようで、整った顔が舌打ちで歪む。

 続けて第二投。

 

 

『叢雲ちゃん、初球から積極的に手を出していますね。勝気な彼女らしいプレイスタイルです』

 

『しかし……またファウルですね。三角ベースはグラウンドが狭いですし、あの球は前に持っていくだけでも一苦労でしょう』

 

『へぇー。そうなんだー。……あれ? ストライクが増えてる。打ってるのに?」

 

『せやで。ボールカウントのストライクがゼロん時は、ファウルでもストライク扱いや。ただし、さっきの白雪はんみたく、ツーストライクからはカウント無し。覚えといてや?』

 

『はーい! これで本当にコメンテーターの仕事来ても大丈夫だね!』

 

『や、それはどうやろな……』

 

 

 ちょっとしたスポーツ知識を挟みつつ、三投目はボール。

 全てスローカーブで、カウントはワンボール・ツーストライク。叢雲も、闇雲にバットを振るっている訳ではないようだ。

 手強い相手に、けれど睦月の顔には笑みが浮かぶ。

 

 

「睦月の隠し球、いざ参りますよぉ!」

 

 

 大きく腕が回され、不敵な宣言とボールが放たれる。

 警戒した叢雲はバットを身体に寄せるのだが、意外にも弾道は真っ直ぐ。

 ハッタリだと判断し、思い切りバットが振られた。

 

 

「んなっ、浮いた!?」

 

 

 ところが。ジャストミートするはずだった球は、叢雲に近づくと直前で浮き上がってしまう。

 芯も外れ、打球は低く左中間へ。

 

 

『叢雲ちゃん打ったが場所が悪い! 打球はレフトに……長月ちゃんがキャッチ! そして一塁へっ、深雪ちゃん間に合わない! ダブルプレーです!』

 

「や、やだ……。あり得ない……っ」

 

「やられた! 失敗したぜ、チクショーッ!」

 

 

 そのまま行けば二塁打確実な当たりだったが、運悪く、レフトを守る長月のグラブで捕球されアウト。

 球が睦月の手を離れた瞬間、艤装状態で全力疾走していた深雪も、慌てて一塁へ戻ろうとするが、送球には追いつけずこれもアウト。

 叢雲が唖然と呟き、ヘッドスライディングで土まみれになった深雪が悔しさを叫んだ。

 

 

『睦月ちゃんには驚かされますね~。霧島さん、解説をお願いします』

 

『はい。今のはライズボール。

 打者の手前で浮き上がる変化球で、打ち難いのはもちろん、当てたとしても打ち上がってしまう事が多いのが特徴です。

 その分、芯を捉えればホームランにもなり易いのですが、今回は意表をつけたようですね』

 

『睦月ちゃんすっごーい! 本当の選手みた~い!』

 

『表のファインプレーの意趣返し、成功ってとこやな。叢雲はん、悔しいやろうなぁ』

 

 

 吹雪の三振、叢雲・深雪のダブルプレーでアウトカウントは三。チェンジとなる。

 アナウンスを前に、選手たちはポジションを離れたり、逆に向かったり。

 そして、榛名の《一回の裏、チーム・ST、得点なし》という声が聞こえてくると、カメラは解説席を映した。

 

 

「さぁ、一イニング目が終了し、試合は早くも白熱の展開を予想させます。が、ここで一旦、CMです!」

 

「……は!? CM!? これ映像特典やなかった!?」

 

 

 ドヤ顔で決める青葉に黒潮のツッコミが入り、映像は暗転。

 眼鏡の位置を正す霧島と、最後までカメラ目線でアピールし続ける那珂を最後に、統制人格たちの声が、段々と遠ざかっていく……。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 どもー! 恐縮です、青葉です!

 私がコラムを書いている、隔月刊 艦娘。毎年二月から隔月、第三水曜日に発売ですよ!

 次号の表紙は三度目の登場、吉田豪士中将の伊勢さん・日向さん。

 読者プレゼントとして、艦娘対抗冬のスポーツ大会で使用したバットやグラブに、使用艦娘のサインを入れた超レア物をご用意しましたっ。

 これは見逃せませんよ~。ぜひ応募して下さいませ! 青葉でした!

 

 

※ CMという名の早送り

 

 

 


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