新人提督と電の日々   作:七音

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オマケの小話 重巡、高雄の苦悩

 

 

 

 

「淹れてしまった……。とうとう、淹れてしまいました」

 

 

 ホカホカと、湯気を立てるコーヒーカップを前にした重巡洋艦 高雄は、後悔とも、罪悪感とも取れる感情にうな垂れる。

 時は二○○○。本日の服務もつつがなく終了し、食事も済ませ、自室にて寛いでいた所が、どうしてこうなったのか。

 その理由は、部屋の中央。共用の座卓の上に置かれる、コーヒーカップにあった。

 

 

「いくらビンゴ大会で、提督のコーヒーカップを引き当てたとはいえ、私、何をしているのかしら……?」

 

 

 そう。この飾り気の全くないコーヒーカップは、舞鶴にて桐林が使用していた(らしい)物なのである。二等賞だ。

 皆に無断で舞鶴へと潜入した金剛が、交渉の末に入手した品物だと説明されたが、十中八九、勝手に持ち出したのであろう。横須賀艦隊の共通見解だった。

 件のビンゴ大会では、他にも様々な物品が景品として並んだ。

 着古して適度に柔らかくなったワイシャツ、一度指を通しただけの手袋、適当に選んできたネクタイ、執務机の上にあった万年筆、コート掛けにあった赤い雨合羽などなどなど………。

 よくもまぁ、気付かれずに持ち出せたものである。

 当然の話だが、桐林由来の物品だけでビンゴ大会が盛り上がる訳もなく──ごく一部は鼻息を荒くしていたが──商品券や中古の32インチ薄型テレビ、掃除機なども用意してあった。

 金剛の自腹であったらしく、ここまで来ると褒めるべきかも知れない。

 

 蛇足であろうけれども、ここで各景品の当選者を紹介しよう。

 まず、第一のビンゴ成立者は雪風……ではなく白露だった。

 久しぶりの一番案件に大いに喜んだ彼女は、何も考えずに一等賞のワイシャツを受け取り、現在、扱いに困っているようだ。

 二等賞は高雄なので飛ばし、三番目の成立者は、今度こそ雪風……であるはずが、なんと陽炎だった。

 受け取った景品は手袋で、口では色々と言っていたものの、次の日から手袋を汚さないよう行動し始めたとのこと。

 四番目でようやく雪風……かと思いきや。ここで登場したのが、望月である。

 貰えるものは貰っておこうかな~的にネクタイを受け取りつつ、一応は大事に取ってあるというのが三日月の言だ。

 五番手は、もうお分かりだろうが雪風ではない。なんとなんと、扶桑であった。

 どうせ参加賞しか貰えないと思っていた彼女は、このビンゴ成立にいたく感激し、景品の万年筆を使い、何やら散文を始めたらしい。山城はそれをベタ褒めである。

 キリがないので最後の紹介となる六番目の当選者は、最上だった。

 可もなく不可もなく、実用に耐えうる雨合羽を貰い、地味に喜んでいた。

 

 蛇足の更なる余談だが、提督由来の品物がきれ、一般商品へと移った途端、雪風はビンゴを果たした。

 薄型テレビを申し訳なさそうに引き換える彼女に、「やっぱ雪風さんパねぇ」と、認識を新たにする皆だったそうな。

 また、ビンゴ大会の発起人である金剛だが、彼女はその特権を利用し、提督セットなる制服一式を、横須賀で用意した新品とそっくり入れ替えてきたのだと言う。

 かなりブカブカなそれを身に纏い、夜な夜な、比叡と提督ごっこをして遊んでいるとかいないとか。もちろん金剛が提督役である。

 どこまで行っても、金剛は金剛なのであった。

 

 

「提督は今頃、何をなさっているのでしょうね……」

 

 

 閑話休題。

 昨日の賑やかさに思い出し笑いを浮かべる高雄は、コーヒーの黒い水面を見やり、そこに、居て欲しかった人物を描く。

 今や日本でも、世界でも知らぬ者のない、“帰岸”の桐林。

 高雄の知る彼が居てくれたなら、きっと。楽しかった時間を思い出した後に、寂しさを感じる事なんて、なかったのに。

 どうにも、彼の声が。彼の笑顔が、恋しかった。

 

 

(恋しい……。恋? 私のこの気持ちは、恋、なのかしら)

 

 

 カップを両手で包みつつ、ふと、疑問に思う。

 己の胸に宿る感情が、人間で言う所の恋なのかを。

 

 本来、感情なんて持ち合わせずに生まれるはずの統制人格だが、桐林の励起した統制人格は、すべからく感情を宿して生まれる。

 そして、その多くが最初から、励起者である彼への好意を自覚しているという。

 大多数の統制人格は、生みの親や、気さくな上官への好意として。

 金剛を筆頭に、敷波や祥鳳、瑞鳳などは、間違いなく異性として。

 一部に毛嫌いするような言動をする者──大井や曙たちも存在するけれど、決して憎んではいないはず。

 統制人格とは、能力者への好意を設定されて生まれるのだろう。少なくとも、桐林の場合に限り。

 高雄自身、特に理由もなく彼を想い、その事に忌避感を抱いたりはしなかった。

 離れざるを得ない状況になって、ようやく疑問視し始めたのだ。

 

 人と違う生まれ方をする統制人格に、人と同じ物差しが当てはまるのだろうか、と。

 ひたすら真っ直ぐ、己の気持ちを信じられる金剛が、羨ましくなるほど。

 

 

(……いいえ。弱気になっては駄目よ。私は提督が好き。それで、それだけで良いじゃない。金剛さんに負けてはいられないわ!)

 

 

 陶器越しに伝わる暖かさを頼りに、高雄は強く決意する。

 例え、出処の不確かな気持ちでも。設定された感情だったとしても。

 彼と共に過ごした短い時間は、確かに幸せだった。

 今は寂しくとも、何も感じぬまま、機械的に戦うよりはマシだと、自分を納得させて。

 彼女は気付いていない。

 人として生まれた者ですら、単なる脳内電気信号であるはずの感情に、大いに苦しむのだという事に。

 そして、自分の気持ちにその悩む姿は、まさしく恋する乙女そのものだという事に。

 

 

「ん〜……。ただコーヒーだけで楽しむのも、アレよね。ええ、お茶菓子でも貰ってきましょう」

 

 

 少しだけ暗くなってしまった高雄だが、一先ず、降って湧いた幸運を楽しむ事に意識を集中し、ちょっとだけ後ろめたいそれを楽しむため、席を立つ。

 この時間ならば、まだ鳳翔が食堂にいるはず。作り置きのクッキーか何か、コーヒーに合う物を融通してもらおう。

 そうと決まれば、彼女は打って変わって上機嫌となり、スキップでもしそうな様子で部屋を出て行く。

 無人の部屋に、湯気を立てるコーヒーだけが残された。

 けれど、ほとんど間を置かず、再び部屋のドアは開かれる。

 

 

「高雄ー、戻ったわよー。……あら? 居ないのー?」

 

 

 入って来たのは高雄ではなく、入浴しに行っていた姉妹艦、愛宕だった。

 柔らかな金髪が湿り気を帯び、それ以上の柔らかさを持つであろう双丘が、バスローブの胸元を膨らませている。

 こんな格好でうろつくなど、桐林が居た頃では考えられない事だが、宿舎に男性の視線が無くなってからというもの、時には下着姿で出歩く者も現れていた。

 気が緩むのも仕方ないかも知れないが、香取辺りが見ていたら眉をひそめそうな有様だ。

 

 それはさて置き。

 返事がない事に不在を悟った愛宕は、「まぁいっかー」と、湯上りの気怠い身体をベッドに投げ出し、リラックスして大きく深呼吸する。

 と、鼻をくすぐる香ばしい香りに気付いた。

 目線を向ければ、座卓の上にコーヒーが置いてあり……。

 

 

「もう、高雄ったら。コーヒー出しっぱなしじゃない。というか、わたしのために淹れておいてくれたのかしらー?」

 

 

 むくり。起き上がった愛宕が、自分用のクッションを床に置き、その上へと腰を下ろす。

 なんの気無しにカップを手に取って、すぐ思い出した。例の景品だと。

 沈黙。

 長い熟考。

 暖かさから、淹れた時間を逆算し、時計を確かめ、また考えて、結論付ける。

 

 ──抜け駆けするなら、今しかない。

 

 

「ごめんね、高雄。という訳で、頂きまーす♪」

 

 

 一瞬、悲しげに顔を歪める愛宕。

 しかし、瞬きほどの時間で満面の笑みに変わり、ゆっくりと、唇がカップの縁へと近づく。

 クッキーを手に高雄がドアを開けるのと、愛宕が抜け駆けを果たすのは。

 悲しい事に、全くの同時であった。

 

 その日。

 横須賀鎮守府の某艦隊宿舎において、謎の爆発事故が発生する。

 ガスボンベを暖房器具の側に置き忘れてしまった事による、偶発的な事故であると報告され、疑う者は居なかった。

 が、事故の翌日に懲罰奉仕と称し、鎮守府全体の清掃を命じられた二人の女性が目撃されたようだ。

 この二名、某艦隊に属する重巡洋艦の統制人格と、容姿が瓜二つだったそうだが、同一人物かどうかは不明である。

 

 

 

 

 

「だからー、何度も謝ってるじゃなーい。そろそろ許してー?」

 

「謝ればいいってものじゃありません! 私の、初めての……か、かかか、関節……んもう! とにかく怒ってるんですからねっ」

 

「むぅ……。高雄のむっつりスケベ」

 

「あーたーごー!?」

 

「きゃあーん怖ーい♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《掌編 吉田 皆人の華麗なる(?)一日》

 

 

 

 

 

 一○○○、佐世保鎮守府。

 “千里”の間桐──吉田 皆人の朝は、遅かった。

 打ちっ放しのコンクリートが剥き出しの、寒々しい地下室。

 端っこに据えられたベッドの上で、シーツにくるまった蓑虫を、セーラー服を着た少女二人──間桐の長門・陸奥が揺さぶる。

 

 

「パーパー! いい加減に起ーきーてー!」

 

「……ん゛……ウルッセェなぁ……まだ十時じゃねえかよ……」

 

「もう十時、です」

 

 

 一一○○。朝食の時間。

 長門・陸奥に無理やり起こされた間桐が、同じく地下にある飲食スペースへと引っ張り出される。

 テーブルに並べられたプレートには、マッシュポテトやハムエッグなど、洋風の朝食セットが。

 

 

「今日の朝ごはんは、なっちゃんが作りました! 献立はね……」

 

「オレは朝メシ食わねぇ派だって何回言えば分かんだよ。オマエらだけで食え」

 

「むっ。そんなんだからパパはいつまで経っても貧弱なのー!」「ちゃんと三食、食べなきゃダメ」

 

「マジでウルッセェなぁ……。オマエらはオレの母親かよ……」

 

「パパ、ママが欲しいの?」「おっぱい、吸う?」

 

「誰が吸うかセーラー服をめくるなヤメロォオッ!?」

 

 

 一二○○。食事を摂り、再び自室に。

 早速ベッドへ潜り込む間桐と、それを呆れた顔で見つめる長門・陸奥。

 

 

「さて……。二度寝でもするか。夕方まで起こすなよ」

 

「えー。パパ、お仕事は?」

 

「今日はやる気が出ねぇんだ」

 

「昨日も、そう言ってました」

 

「チッ。余計な事ばっか覚えてやがる……。どうせハンコ押すだけなんだから、オマエらがやれば良いだろ」

 

「女の子に働かせて、自分は寝てるだけ……」「ヒモ……」

 

「へーへー。どうせオレはヒモですよー」

 

 

 一三○○。変わらず自室。

 成長剤の副作用の痛みで眠れず、しかし決して気付かれまいと、平静を装って雑談する間桐。

 長門・陸奥は気付いているものの、気付かないフリをして書類仕事をしている。

 

 

「そういえば、パパ。パパの秘書官さんって居るの?」

 

「あん? 居るには居るが、急にどうした」

 

「まだ、会った事ない、です」

 

「そりゃそうだろ。オレも会ってねぇしな」

 

「え?」「なん、で?」

 

「あの微笑み熊男が手配した人間だぞ。信用は出来ても信頼できる訳がねぇからな。今後も会うつもりはない」

 

「そうなんだぁ……」「なんだか、寂しい、です」

 

 

 一四○○。同上。

 痛みがマシになって来たので、珍しく書類仕事をする間桐。

 長門・陸奥が微笑んで見守っている。

 

 

「パパは、調整士さんを頼んだり、しないの?」

 

「ねぇな。自分で出来るし、他人に預けるのもなんかな」

 

「ふーん。つまりパパは、なっちゃんたちを独り占めしたいんだ!」

 

「……面倒だからツッコまねぇぞ」

 

「パパ……。女の子相手に突っ込むなんて……」「お下品。セクハラ」

 

「オマエらの思考回路の方がよっぽど下品でセクハラじゃい!!」

 

 

 一五○○。オヤツの時間。場所は変わらず自室。

 飲食スペースから持って来たお菓子を、三人揃って、マグカップ片手にモッシャモッシャ。

 

 

「カステラうめぇ」

 

「飲み物は牛乳一択だよねー」「異議、無し」

 

 

 一六○○から一八○○。長門・陸奥のみ、佐世保の収容ドックへ。

 二人にカメラ付きPCを持たせ、吉田から受け継いだ伊勢・日向の統制人格の観察と記録をする。

 黒いブレザータイプの制服を着る、小学校高学年ほどの身長の二人が、本体である戦艦近くの掘っ建て小屋で佇んでいた。

 

 

「いっちゃーん、ひーちゃーん。元気にしてるー?」「様子を、見に来ました」

 

『……つっても、やっぱ反応ネェんだよなぁ。飯は食わねえし、眠りもしねぇし。

 の割に、本体から離そうとするとガン泣きするし。訳が分からん。というか、どっちがどっちだっけか?』

 

「あ。パパ酷ーい」「ポニーテールが、いっちゃん。おかっぱ髪が、ひーちゃんです。ひーちゃんと私、お揃い」

 

『そういやそうだったな。しっかし、いい加減に喋らんのかねー。おい、ながむー』

 

「はーい。二人とも、ちょっと遅くなったけど、オヤツ食べる?」「カステラと、牛乳です。鉄板のコンビ、です」

 

『……反応無し、か。どうせなら桐林んトコみたく、はっきり意思を示してくれりゃあ楽なんだが……ん?』

 

「あっ、食べた!? いっちゃんとひーちゃんが、カステラ食べてる!?」「驚き、です……!」

 

『マジか……。変なものに反応しやがるな……。お? なんか今、モゴモゴ言ってやがらなかったか?』

 

「あ、ホントだ」「何か、言いたいの?」

 

『……ちっ、マイクの感度が悪くて聞こえやしねぇ。おい、なんて言ってやがんだよ』

 

「え、ええっとね……。カステラ、うまー。……だって」「いっちゃんが、カステラ。ひーちゃんが、うまーでした」

 

『間違いねぇ。こいつらオレの統制人格だわ』

 

 

 一九○○。飲食スペースにて夕食の時間。

 またも引っ張り出された間桐の前に並べられる、数々の出来たて料理。

 長門・陸奥は得意げだが、間桐の額には汗が浮かんでいる。

 

 

「晩ご飯は、むっちゃんが作りました。スッポン鍋に、うな重に、麦ご飯と擦った山芋、ニンニクの素揚げ……」

 

「おい。無駄に精がつきそうなメニューなのはなんでだ」

 

「それはもちろん、いつも通りパパにハッスルしてもらうためです!」「枕は両面、Yesです」

 

「これまでそんな事実は無かったし、これからも無い! つーか胃がもたれるわっ」

 

 

 二○○○。押し切られる形で全メニューに箸をつけ、胃薬を飲み自室に戻る。

 暇を持て余し、間桐は自作のノートPCをベッドの上で取り出す。

 それを肩越しに覗き込む長門・陸奥。

 

 

「暇だな……。うっし、釣りでもすっか」

 

「え? 釣り? パパって釣りするの?」「意外な趣味、です」

 

「ヘッ。このオレが外出するとでも思ったか? ネットの釣りに決まってんだろ! 今日は、ありそうで実はない軍事あるあるネタだ!」

 

「……はぁあぁぁ」「ガッカリ、です」

 

 

 二○三○。場所変わらず。

 思ったような引きが無く、不貞腐れる間桐。

 

 

「飽きた。風呂でも入るか」

 

「はーい」「準備、します」

 

「分かってるとは思うが、オマエらは入ってくんなよ。絶対に、くるなよ!」

 

「分かってるってばー」「心得て、ます」

 

「……なら良いけどよ。物分かりが良いのも調子狂うな……」

 

「あれー? なんだか残念そうだよー?」「やっぱり、一緒に入りますか?」

 

「はっ!? やめろバカここで脱ぐなぁああっ!?」

 

 

 二一○○。浴室スペース。

 ゆったりと入れる湯船に、並んで浸かる三人。

 間桐はもちろん裸だが、長門・陸奥は水着を着ていた。

 ちなみに、長門が水玉模様のセパレートで、陸奥が白い旧型スクール水着である。

 

 

「下に水着着てんならそう言えやクソが……」

 

「えへへ。ビックリした? ビックリした?」

 

「……知らん。つーか、水着なんていつ買ったんだよ」

 

「貰い物、です」

 

「貰いモン? いったい誰から……」

 

「えっとねー。確か……」「兵藤提督、からでした」

 

「………………マジか」

 

「うん。なっちゃんたち嘘つかない」「表書きは、別人でしたけど。調べて貰ったら、そうでした」

 

「そうか。……あの女らしい置き土産、だな」

 

 

 二二○○。しんみりした空気の中、自室へ。

 携帯ゲームなどをやってみるが、どうにも集中できない間桐。

 長門・陸奥はパジャマ姿で、間桐のベッドの上をゴロゴロ。

 余談だが、彼女たちの自室は別に用意されており、二人とも極めて普通なパジャマである。悪しからず。

 

 

「あ~……。なんか、ふざける気分でもなくなっちまったなぁ……」

 

「パパ、おねむ?」「ベッドメイク、しますか?」

 

「いや、まだ寝ねぇけどよ……。っと、メールの確認忘れてら」

 

「メール? 来てるのー?」「見ても、いい?」

 

「別に構いやしねぇが……んぁ? 桐林から……」

 

「あ、ホントだ。実施予定の作戦についてだね」「統制人格さんの写真が、添付されてます、けど……」

 

「……クッソやっぱムカつくわぁああっ! なんでアイツばっかりぃいいっ!」

 

「えっ。パ、パパ? どこ行くのっ!?」「阿賀野さん、能代さん、矢矧さん……。軽巡、なんだ……。あれ。酒匂さん、は?」

 

 

 二三○○。自室。

 桐林の嫌がらせメールに「悔しい! でも(略)」してしまい、体力を無駄に消耗。

 疲労困憊となった間桐は、やつれた顔でシーツに潜る。

 

 

「疲れたから寝る……」

 

「じゃあ、むっちゃんも寝るー」「お休みなさい、です」

 

「……ごく自然にベッドへ入ってくるんじゃねぇぇえええっ!!」

 

 

 ○○○○。常夜灯のみが灯る自室。

 蹴り出しても蹴り出しても、諦めず吶喊してくる長門・陸奥に根負けし、“今日も”一緒に就寝。

 

 出撃がない限り、こんな日々が延々と続くのであった。

 

 

 

 

 

「もぐもぐ……むっ。なんだか、物凄く不当な理由で仲間はずれにされた気分!」

 

「んー? どうしたの酒匂ー? はっ。まさか、イジメ? イジメなの!? よぉーし、お姉ちゃんがなんとかしてあげるからね! あ、能代ー? カレーお代わりー!」

 

「阿賀野姉、落ち着いて。この艦隊でイジメとか、あり得ないから。それと、ほっぺたにご飯粒ついてる。全くもう……。

 あ、矢矧。カレーの味、どう? 明日は間宮さんの手伝いするから、厨房借りて作ってみたんだけど、提督、喜んでくれるかしら?」

 

「え、ええ。美味しいわ。とっても美味しい、のだけど。……やっぱり、朝からカレーを出すのは胃に重いんじゃ……」

 

 

 

 

 


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