咲き誇る花々、掴み取る果実   作:MUL

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運命の章
プロローグ (修)


世界中の熱気が、今ここに集まっているのではないか。

ステージで踊る少年少女たちを見ながら、犬吠埼風はそう思った。

 

今日は地域の祭りの日。

そのイベントの一つとして、地元の子供たちが結成したダンスチームが招待された。

今、特設ステージの上で踊っているのはそのダンスチームに所属する子供たちである。

技術的にはまだ粗削りの少年少女達ではあるのだろうが、決して大きくないステージの上で精いっぱい自分を表現する姿は、確かにそこに集まった大勢の観客たちを魅了していた。

その証拠に、先ほどからリズムに合わせて自分の体に触れる感触がある。

ちらりと横を見ると、風と一緒に観戦に来ている彼女の妹―――樹が、小さく体を揺らしているのが目に入った。先ほどから感じていた感触はまさにこれが原因だ。

樹は元々引っ込み思案で、進んでこういう場に赴くような性格ではない。

実際、始まる前は人の多さとにぎやかさにいちいちビクついており、小動物のようなその姿に風も随分と和ませてもらったものだ。

しかし、元々音楽自体は好きなこの可愛い妹は、音楽が始まりしばらくすると最初の姿はどこへやら、目を輝かせながらステージの上を食い入るように見つめていた。

 

ウソ、私の妹可愛すぎ…!?

 

目に入れてもいたくないどころかそのまま格納して常に持ち歩きたいほど溺愛する妹の可愛い姿につい目が吸い寄せられてしまうも、いかんいかんとステージに目を戻す。

妹の姿を脳内メモリに焼き付けるのもそれはそれは大事な仕事なのではあるが、今日の主役はこちらではない。

 

しばらくよそ見をしているうちに、ステージはクライマックスに近づいてきたようだ。

だんだんと激しくなる音楽とともに、二人の少年がステージの前に出た。

銀髪と黒髪。周りの子たちに比べ、頭一つとびぬけたキレを見せる二人は、このチームの二枚看板。

クライマックスでの二人の息の合ったコンビネーションは、このチーム最大の見せ場だった。

 

その中でも風が特に関心を示すのは、黒髪の少年のほうだ。

真剣に、しかしそれ以上に楽しそうにステージを舞い踊るその姿は、風が普段知る彼の姿とは全くの別人の様だった。

二人のピッタリと息の合った動きに、周りのメンバーが花を添える。

会場のボルテージはグングンと高まっていき、皆が立ち上がって歓声を送っていた。

ステージと客席が一体になる感覚。

あまりこういう場に参加したことはなかったが、なるほどこれは癖になってしまいそうだ。

 

音楽が一層激しくなるにつれて、二人の動きもより激しさを増していく。

このまますべてのエネルギーを出し尽くしてしまうのではないかというような動きに、会場の誰もが引き込まれていた。

 

この時間が、ずっと続けばいいのに。

集まった人々の多くにそう思わせるだけの何かが、彼らのダンスにはあった。

しかし、終わりというものは必ずやってくるものである。

音楽が、それに向かって変調する。

舞台の上の少年少女達の動きにも、スパートがかかってきたようだ。

それに合わせて会場の一体感がさらに高まる。

座って見ていたはずの風も、いつの間にか身を乗り出していた。

この瞬間、確かに会場は完全に一つになっていた。

 

―――そして、最後を締めくくる一際大きな音とともにステージ上の全員が堂々とフィニッシュポーズを決め、会場は大喝采に包まれた。

 

 

 

 

ステージ上で手をたたき合い、互いの健闘を称えあう少年たち。

特に最後に前面に出ていた二人への称賛は盛り上がりを見せており、周りのメンバーたちにもみくちゃにされ、楽し気な悲鳴をあがていた。

そんな中、銀髪の少年が少し離れたところで観戦していたこちらに気づき、隣の黒髪の少年の肩をたたいた。

指で示す先に見知った顔を認めた黒髪の少年が、興奮冷めやらぬ会場を突っ切り、こちらに近づいてくる。

さっきまでステージ上で主役となっていたヒーローに、隣に座っていた妹はいつの間にか立ち上がり手を大きく振っていた。

自己主張の少ないこの子のこういう姿はとても珍しい。これもこの会場の雰囲気の影響か。

激しい運動と興奮の余韻でわずかに上気した顔を、うれしいような照れ臭いような表情に変えてこちらにたどり着いた少年に、風の方から先に声をかけた。

 

「おっつかれー!いやぁ~よかったわよ~。さっすが讃州市ダンスチームのダブルエース!私も鼻が高いわー。」

 

「なんでそっちがそんなに偉そうなんだよ…。全く、来るなら最初から言ってくれればよかったのに。でも来てくれてありがとうな樹、それと――」

 

珍しく興奮し飛びついてきた少女をあやしつつ、少年がこちらに向き直る。

 

「姉ちゃん。」

 

少年の名は犬吠埼紘汰。讃州中学の1年生で、犬吠埼家の長男。

それは全ての運命が回り始めた日の1年前、何も知らない子供でいられたころの、ある春の日のことだった。




短編含めても2回目。連載は初投稿です。
とりあえず某動画配信サービスの見放題が切れる時までに第1章を終わらさなければ・・・


※2021年5月16日 修正
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