期間が空いたせいか何だかかなり難産でした。
「皆!後一体!このまま一気に行くわよ!」
風の号令を受け、東郷を除く勇者部の面々が残る一体に向けて駆けだした。
厄介な反射も、凶悪な横槍もなくなった。
正面からくるただの射撃ならば、もはや恐れることはない。
樹を狙った攻撃を、紘汰のクナイが迎え撃つ。
ならばと紘汰に射線を向ければ、すかさず樹のワイヤーが紘汰の体を引っ張り上げた。
二人への対処をあきらめ、今度は別方向から迫る風と友奈に標的を変えるバーテックス。
向かってくる豪雨のような光の杭。しかし並走する風と友奈に焦りはない。
顔を見合わせ一つ頷くと、風が大剣の腹を友奈に向ける。
空中で器用に態勢を整えた友奈は、それを思いきり蹴りつけた。
反動で二人の体が左右に弾け、その間を光の杭が空しく通り過ぎていく。
自由に動けないはずの空中を狙った射撃を躱され、一瞬思考が停止した瞬間、狙いすました東郷の一撃がバーテックスの体を撃ち抜いた。
勇者達に翻弄され、怒りを表すように身を震わせるバーテックス。
もはやなりふり構わず光の杭をばらまくが、底の見えた敵の最後の悪あがきにやられるような勇者達ではない。
躱し、弾き、撃ち落とし、とうとう4人がバーテックスの足元へとたどり着いた。
「「「封印!」」」
友奈、風、樹が右手を掲げると、それぞれの精霊が姿を現し、封印の儀が始まった。
3人の勇者達から発せられる清浄な光が、バーテックスを包み込む。
少しの間、抵抗するように身じろぎしていたバーテックスだったが、しばらくすると遂にその体から青い御霊を吐き出した。
散々苦労させられたが、それもようやくお終いだ。
「よっしゃあ!って速ぇ!?なんだこりゃ!!」
「ったくもう!揃いも揃って往生際が悪いったら!!」
早速止めをと、飛び出しかけた紘汰達が慌てて足を止めた。
現れた最後の御霊が、抜け殻となったバーテックスの体を中心として公転軌道を描くように超高速で回転を始めたのだ。
あれだけの質量を持つ物体が、あの速度で移動しているとなると、うかつに近づけない。
「ど、どうしたら・・・!」
とにかく仕掛けてみなくちゃ・・・でもあれに巻き込まれてしまったら・・・
急がなくてはいけないが、手を出す手段も思いつかない。
こうしている間にも、足元の数字は減り続けている。
灰色になり始めた世界に、樹の中に焦りだけが募っていく。
「大丈夫だよ。樹ちゃん。」
その時、動揺する樹の肩に背後から優しく手が乗せられた。
肩に置かれた手を辿り、友奈の顔を見た樹は思わず目を丸くする。
友奈は笑っていた。
こんな状況でも、何も心配することはないと言うように。
そこにあるのは自信ではなく信頼だ。
自分にはできなくても、一番の親友である彼女ならばきっと何とかしてくれる。
根拠はないが、友奈は心からそう信じていた。
だから―――
「お願いね、東郷さん―――」
この声も、きっと彼女に届いているだろう。
「―――ええ。任されたわ、友奈ちゃん。」
御霊より遠方数百メートル。
匍匐姿勢を取りながら狙撃銃を構える東郷が、一人そう呟いた。
友奈との距離は相当離れているが、そんなことは関係ない。
東郷の耳には、友奈の言葉が確かにはっきりと聞こえていた。
親友からの信頼に、東郷の心が熱くなる。
それでも思考は冷静に。
友奈ちゃんからのお願いを、無下にするわけにはいかないのだから。
東郷美森の集中力は今、極限まで高められていた。
高速回転する御霊が、なぜかゆっくり動いているように見える。
今なら絶対に外さない。
心の熱は、引き金を引く指ただ一点へと込める。
東郷は呼吸すら忘れ、じっと敵の姿だけを見つめていた。
永遠にも感じるようなその一瞬。
そして遂に東郷の感覚と敵の位置とが重なった。
今っ!!
思いを乗せた指先が、必中の弾丸を解き放つ。
青い流星が、樹海の空を切り裂いていく。
東郷は既に銃口を上げ、立ち上がっていた。
着弾確認などする必要はない。東郷にはもう、数瞬後の未来が見えている。
そして―――
―――!!!
流星が、青の御霊へと突き刺さる。
東郷の放った弾丸は、見事に御霊を貫いていた。
中心に風穴をあけられた御霊は、やがてゆっくりと動きを止める。
最後の御霊から光が立ち上り、風と紘汰が快哉を叫ぶ。
そんな中、末の妹はというと、そんな二人に今度は物理的に振り回されて目を回していた。
それを友奈が、微笑みながら見つめていた。
仕事をきっちりとこなした東郷が、こちらに近づいてきているのを感じる。
自分のお願いにしっかり答えてくれた親友に、最初になんて声をかけようか。
世界がもとに戻る感覚を感じながら、友奈はそんなことを考えていた。
「平和だねぇ・・・。」
「平和だなぁ・・・。」
それからおよそ2週間後。
何とも気の抜けた表情で商店街を並んで歩いているのは、外での活動を終えて学校に戻る途中の紘汰と友奈だった。
今日の二人の活動内容は、町内の緑化活動のお手伝いだった。
猫の里親探し強化月間と言っても、他の活動を疎かにするわけにはいかない。
特に、今回の町内のイベントのような既にスケジュールが決まっているようなイベントは後回しにすることができないので、少なくとも誰かは参加する必要があった。
結果として2チームに分かれてそれぞれの活動を行うことになったのだが、趣味が押し花ということもあり、それなりに植物に詳しい友奈がこちらの担当になったというわけだ。もちろん紘汰は純粋な力仕事要員である。
二度目の戦いの後。連日の襲来を覚悟し、ヤケクソ気味な気合を入れて身構えていた勇者部の部員たちだったが、その覚悟は結局空振りに終わった。
初めての戦いから畳みかけるようにやってきたバーテックスの襲来は、あの日以来ピタリと止まってしまったのだ。
翌日、翌々日と気を張り続けていたものの、さらにその翌日も襲来が無いとなるに至り、遂には警戒態勢を緩めることと相成った。
いつかは次の戦いがやってくるだろうが、ずっと緊張していたのでは身が持たない。
お役目のことはひとまず置いておいて、日常の生活を謳歌するべきだろう。
そう宣言した風に、部員達全員が同意した。
世界を守るのはもちろん大事だが、自分たちは中学生だ。
敵と戦っていたって授業は受けなきゃいけないし、宿題の期限だって待ってはくれないのだから。
程よい疲労とやり切った満足感を感じながら、学校へと続く商店街のアーケードの中を歩いていく二人。
学校外でも顔の広い勇者部はやっぱりここでも人気者で、数メートル歩くごとに色んな人から声をかけられる。
挨拶のみならまだいいが、ある意味一番問題なのは商店街でお店を開いているおじさんやおばさん達だった。
ここの人達は気のいい人ばかりで、あちらこちらから日ごろから色々助けてもらっている可愛い子供たちにお土産を持たそうと攻勢を仕掛けてくるのだ。
一つ一つ好意に甘えるわけにもいかないので、四苦八苦しながらなんとか断り続けているのだが、中には二人きりで歩いている姿を見て、デートかい?なんて揶揄い混じりで言ってくるような人もいて、その度に二人は必至に否定することになるのだった。
まぁ尤も、そんな中学生らしい初々しい反応を返すものだから、また面白がって揶揄われてしまうのだが。
「はぁ~・・・。でもなんか、拍子抜けっていうか不完全燃焼っていうか・・・」
そんな攻勢も落ち着き、別の意味で蓄積した疲労感に若干肩を落としながら進む二人だったが、しばらくして紘汰がおもむろに口を開いた。
一瞬今日の部活のことかと思った友奈だったが、紘汰の様子にそうではないことを感じ取り苦笑を浮かべた。
「まぁまぁ。平和なのはいいことだよ紘汰くん。」
「そうなんだけどなぁ・・・。」
何も紘汰だって、戦うのが大好きだというわけではない。お役目ではない普通の勇者部の活動だってとても大切に思っている。
ただ、せっかく違う自分になって皆を守ると決意を固めた矢先にこんなにもいつも通り平和な日常が長く続いてしまったことで、その決意とやる気が若干行き場をなくしてしまっているのだ。
有り余るそのやる気を原動力に、今日も皆が驚くほど精力的に働いた紘汰だったが、それでもこの物足りなさは拭えない。
そして何より。このまま本当に長いこと何事もない状態が続いた後、急に敵がやってきたとき、果たしてちゃんと戦えるのかということが紘汰には少し不安だった。
いざという時に皆を守れるように、日ごろから何かこう・・・できることはないだろうか。
「そんな調子だと、また風先輩に怒られちゃうよ?『身が入ってない!』って「そうだ!!!」えぇ?」
腕を組み、俯きながら何事か悩んでいた紘汰が、突然はじかれたように顔を上げた。
そのまま困惑する友奈の手を握り、じっと彼女の顔を見つめる。
「ちょ、ちょっと紘汰くん・・・?」
自分に向けられる同年代の男の子の真剣な表情に、ほんの少しだけドキリとする友奈。
普段あまり意識することはないが、それでもちょっとは考えてしまうシチュエーションだ。
先ほど散々揶揄われたことも手伝い、なんだか少し思考がそちらよりになっているようだ。
そんな何とも言えない沈黙が漂う中、とうとう紘汰の口が開かれた。
「友奈。」
「は、はい・・・。」
「お前確か、武術とかやってたよな。」
「え?う、うん。そうだけど・・・。」
「それ、俺にも教えてくれないか?」
「えぇ!?」
突然の紘汰の申し入れに、友奈の目が丸くなった。
あんな雰囲気から一体何を言うのかと思えば、これである。
別に何かを期待していたわけでもないし、友奈だってそういう事には疎い方だがそれでもこれはないんじゃないか。
そんな友奈の心情に気づくことも無く、紘汰は尚もお願いを続ける。
「なぁ、頼むよ友奈!お前の都合のいい時でいいからさ!」
「で、でも私そんな人に教えれるようなものじゃ・・・。」
「いいんだよ。何も本格的に始めようって訳じゃないんだ。ただ、どんなヤツが来ても皆を守れるように、普段から色々やっておきたいんだよ。」
紘汰が真剣に備えようとしているのはわかる。
それでもやっぱり、いきなりそんなこと言われても戸惑ってしまうのはどうしようもない。
「でも、紘汰くんは武器を使って戦う人だし・・・」
「ああいうのって、基本の動きは一緒だっていうだろ?俺、運動は得意だけど戦いなんてやったことないからさ。これからの為にちょっとでも強くなりたいんだ。」
握られた手から、紘汰の熱意が伝わってくる。
こうなったら中々諦めないということは、短くない付き合いの中で十分にわかっていた。
それに、友奈自信、紘汰のこういうところは嫌いではない。
「う~ん。そこまで言うなら・・・でも、あんまり期待しちゃダメだよ?」
「サンキュー友奈!!よぉ~し!やるぞぉおおおお!!」
友奈から手を離した紘汰が、両方の拳を天に向かって思いっきり突き上げながら雄叫びを上げた。あまりの大声に、周りから視線が集まってきている。
流石に気まずくなった友奈が、早くこの場を離れようと紘汰の手を引っ張った。
「こ、紘汰くん!ちょっと声抑えて!みんな見てるから!」
「あ、あぁ。悪い友奈。じゃ、行くか!」
そういって紘汰は、意気揚々と歩き出した。
顔を見なくても、近くにいるだけで上機嫌なことが伝わってくる。
ここまで喜んでくれるなら、引き受けた甲斐もあるというものだ。
嬉しそうな紘汰を見て自分も嬉しい気持ちになりながら、さて、と友奈は頭を捻った。
友奈の予定帳に思わぬ予定が追加されたわけだが、やるからにはやはり真剣にやらなくてはいけない。
とはいえさっきも言ったように、友奈自身人に教えた経験があるわけではない。
とりあえずは自分がやってきた基礎訓練から教えればいいのだろうか。
そういえば。
引き受けたはいいものの、具体的な日時を決めていない。
朝は正直苦手だから、できればそれ以外がいいのだが。
いつがいいのか紘汰くんにも聞いてみなければ。
「ねぇ紘汰くん。―――アレ?紘汰くん?」
思考の海から帰ってきた友奈がふと顔を上げると、先ほどまで少し前方を歩いていた紘汰の姿が見当たらない。
そういえばさっきから、しばらくずっと聞こえてきていた彼の鼻歌も聞こえなくなっていた。
怪訝な表情であたりを見回す友奈だったが、幸いにしてお目当ての人物はすぐに見つかった。
友奈がいる場所から少し離れたところ、しゃがんで誰かに話しかけている。
向かいにいるのは・・・小学校低学年ぐらいの男の子だろうか?
何も言わずに勝手に行ってしまったことにほんの少しだけ不満を覚えないわけでもない友奈だったが、それはそれとして一体どうしたのかと二人の方へと歩き出した。
遠目に見たところ、どうにもその男の子は泣いてしまっているらしい。
状況から察するに、おそらく迷子といったところだろうか。
「そっかぁ。ママとはぐれちゃったかぁ。」
友奈が歩き始めた時、紘汰が男の子に優しく話しかける声が聞こえてきた。
普段、妹の樹と接する時とも違うその声に、思わずといったように友奈の足が止まる。
悪いとも思ったが、なぜだか少し、その様子を見ていたくなったのだ。
「うん・・・。誰でも泣きたいほどつらい時もある。でもな、そんな時こそ負けちゃいけない。そういう勝負、ゲームだと思ってみるんだ。泣いちゃったら負けで、泣かない方法を見つけたら勝ちっていうゲーム。」
そんな言葉と共に肩に手を置かれ、先ほどまで俯いて涙を流していた男の子がわずかに顔を上げた。
まだ涙は完全には止まっていないが、それでも先ほどまでとは違い、その表情には涙を止めようとする強い意志が感じられた。
「誰だって、どんな時だって戦うことはできる。今、君が勝つためにできることは何だと思う?」
「ママを・・・見つけること・・・?」
男の子のその言葉に、破顔する紘汰。
その子の頭に手を一撫ですると、そのまま勢いよく立ち上がった。
「そう!ママを見つけたら君の勝ちだ!・・・でもな、戦いっていうのは何も必ず一人でしなきゃいけないわけじゃない。時には誰かに手伝ってもらってもいいんだ。だから、俺が君と一緒に戦ってあげる。一緒にママを見つけて、君の大勝利だ!」
気づけば、その男の子の顔にも笑顔が浮かんでいた。
それを見ていた友奈の顔も同様だ。
いつだって紘汰は、困っている人を見つけるのが誰よりも得意だった。
自分がどんな状況でも、どういうわけかすぐに気づくのだ。
そして紘汰は、そういう人たちを絶対に放ってはおかない。
いつも解決できるわけではないが、それでもまるで自分のことのように一緒になって真剣に考え、悲しみ、喜んでくれる。
紘汰がそういう人だから、彼を慕う人たちが大勢いるのだ。
友奈も紘汰のそういうところを本当にすごいと思っている。
あまりにもまっすぐすぎて、それ以外が頭から抜けてしまうことがあるのが玉に瑕ではあるのだが。
男の子の手を取ってそのまま歩き出そうとする紘汰の頭から、おそらく友奈のことは抜け落ちているのだろう。
そんな彼に再び苦笑しながら、友奈はポケットから端末を取り出しメッセージアプリを起動する。どうやら帰るのはもう少し遅くなりそうだ。
グループに伝言を残しながら、前方を歩く二人を小走りで追いかけた。
こちらの声に気づいた紘汰が振り向き、申し訳なさそうな顔で謝ってくる。
それを笑って許しながら、男の子の反対の方の手を取った。
いつ来るかわからない世界の危機についてアレコレ考えるよりも、今は目の前の迷子を助けてあげることの方が大切だ。
讃州中学勇者部はいつだって、困っている人の味方なのだから。
初変身時BGM:OST Track2 始まりの章 or JUST LIVE MORE
イチゴアームズ戦闘シーンBGM:E-X-A (Exciting X Attitude) feat.讃州中学勇者部、という妄想
戦闘終了からの日常。
紘汰くんと友奈ちゃんの交流シーンとなりました。
次回は完成型勇者登場回もしくはチーム神樹館初戦闘の予定です。