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「へぇ。アレがバーテックス。実物は初めてだけど案外大したことなさそうね。」
『諸行無常』
バーテックスを迎え撃つために神樹様が用意した結界である樹海の中。
髪を頭の両端で結んだ少女が、遠方からやってくる敵を仁王立ちで睨みつけながら呟いた。
その呟きに反応したのは少女の傍らに控える人型の精霊だ。名を『義輝』といい、精霊としては珍しくこのようにいくつかの言葉を話すことができる。
ただの独り言に対して律儀に言葉を返してくれた相棒の頭を軽く撫でてやったその少女は、今度はそのバーテックスの進路上へと目を向けた。そこにいるのは、中学校の制服に身を包んだ五人の少年少女達。
「それで、アレが例の素人勇者集団ね。・・・男?あぁ、そういえばあのマッドが何かやってるって言ってたわね・・・。ま、なんにせよ関係ないわ。私が来たからにはまとめて皆お役御免なんだから。」
そういうと少女は再びバーテックスへと視線を向ける。その左手には勇者アプリがインストールされた携帯端末が握られており、その画面には『情熱』の花言葉を持つサツキの花を模った文様が表示されていた。
戦う意思は十二分。何せ自分はこの日の為に準備を重ねてきたのだから。
湧き上がる戦意に促されるまま、端末の画面を勢いよくタップする。
赤い光が少女を覆い、神樹様の力が少女を勇者へと変身させた。
両手に現れた刀を軽く振るった少女の顔には、自信に満ちた笑みが浮かんでいる。
そのまま狙いを定めるように右手の刀をバーテックスの方へと突き付けた。
「完成型勇者三好夏凜!派手に初陣、飾ってやるわ!!」
自らを鼓舞するように高らかに宣言し、少女―三好夏凜は樹海の空へと躍り出た。
「いい?紘汰。ステイ、ス・テ・イよ。あんたがやる気なのは十っ分!わかったから、ひとまずは落ち着きなさい。がっつく男ってのはモテないのよ?まずはしっかり相手の出方を伺ってから・・・・ってコラ!!」
『オレンジアームズ!花道!オン、ステージ!!』
「先行くぜ姉ちゃん!」
一か月ぶりに現れた敵、山羊座のバーテックスに向かって一番最初に飛び出したのは、何を隠そう犬吠埼家の長男にして落ち着きのないことに定評のある紘汰であった。
随分長い間お預けを食らっていたせいかやけに張り切っており、それを諫めるためにわざわざ風が声をかけたのだがやっぱりというかあまり効果はないようだ。
「ちょっと!!・・・ったく!ホントしょうがないわねぇ!」
あっという間に遠ざかる背中に、呆れ混じりの声がでる。
前述の通り久しぶりの戦闘だ。こういう場合、普通の中学生ならば多少なりとも足が竦むものではないだろうか?
現に、紘汰以外のメンバーは樹海化が終わり敵の姿が見えた時に大なり小なり二の足を踏んでいる様子があった。
そしてその中には風自身も含まれている。勇者部部長として皆を鼓舞する必要があるのはわかっているのだが、風だって15歳の少女である。怖いと思うことだって当然あるのだ。
そう言った面でいえば、こういう時何も悩まずに真っ先に動いてくれるのは、正直言ってありがたい部分もあるのは確かだった。
だが、それにしたって無策で突っ込むのはいただけない。なんせまだ皆変身すら終わっていないのだから。
それにこれは前回の時と全く同じ状況だ。あの愚弟は、前回の戦いのときに東郷に何を言われたのかもう忘れたんだろうか。・・・忘れたんだろうなぁ。
「紘汰君・・・・・・・・・・・。」
「と、東郷さん。落ち着いて、ね?」
ほら、なんだか後ろから黒いオーラ的なものを感じる。どうしよう振り向きたくない。
あのどうしようもない弟がこの後東郷にどんな目に合わされるのか。自業自得ではあるのだがとりあえず冥福ぐらいは祈っておこう。
最近段々わかってきた後輩の恐ろしさに隣にいる妹と共に冷や汗を流しながら、心の中で弟に敬礼を捧げる風なのであった。
一方、祈られている当の本人はというと、そんな背後の様子に全く気付くことも無く敵の元へと走りながら久しぶりに手にした大橙丸の感触を確かめていた。
そもそも紘汰の中では自分が一番槍を担当するのは既に決定事項であった。
勇者へと変身した仲間たちは、精霊の加護によりめったなことでは傷つかないほどの強力な防御に守られているとは聞いている。先日の戦闘でも牛鬼が友奈を守ってくれている所は見ていたし、一応それはわかっているつもりだ。
しかし、少々派手ではあるが普通の布で作られているように見える服に、本当にそれだけの性能があるのかというところが紘汰は未だに信じきれないでいた。精霊の守りも本当に緊急時のみのもので、命に関わらないような程度の傷ならば簡単に負ってしまうのではないかと思えてしまう。
それならば、見た目にも明らかに頑丈な鎧を纏った自分が先頭に立つべきだろう。一緒に戦うとはいっても、やはり彼女達には余計な怪我等は極力してほしくないのだ。
そんなことを考えている間に、徐々にバーテックスとの距離が縮まってきた。
縦長の本体から四本の足が生えているといった形状をしており、なるほど言われてみればその足が山羊の角のように見えなくもない、しかし・・・
(山羊っていうよりどっちかっていうと足の少ないタコって感じだよなぁ・・・。)
五体目ということで流石に慣れてきたのか、そんな益体もないことを考える余裕が紘汰にはあった。
十二体のバーテックスはそれぞれ十二星座を模っているらしく、乙女座、蟹座、蠍座、射手座と来て今回は山羊座である。順番通りに現れているわけでもなく、その周期も不規則だ。前回はある程度名前通りの能力を持った相手だったが、今回は見た目からも正直何をしてくるのか予想がつかない。
とりあえずは、仕掛けてみるしかないわけだ。
「とにかく先手必勝だ!いっくぞぉおおおお!・・・ん?」
たとえどんな敵だろうが、何かする前に倒してやる。
そんな気持ちで大橙丸を振りかぶったその瞬間、紘汰の目が視界の端に何かを捉えた。
光を反射しながら飛来したそれは、今まさに紘汰がとびかからんとしていたバーテックスの頭に突き刺さり、そして―――
「な、なんだぁ!?」
爆発した。
至近距離でその衝撃を受けた紘汰の体は進行方向とは逆に吹き飛ばされ、まともな受け身も取れずに後頭部を強打する。
驚いたやら痛いやらで仮面の下で涙目になる紘汰。未だぐらぐらと揺れる頭を抱えなんとか立ち上がろうとした時、頭上から聞きなれない少女の声が轟いた。
「チョロい!!!!!」
「あいつは・・・?」
上空に見えるのは仲間たちと似た意匠の赤い勇者服。
両手に掴んだ刀を振りかぶり、まっすぐこちらへ飛んでくる。
普段の活動やそれ以外の諸々で比較的顔が広い方だと自認している紘汰でも見たことが無い少女だった。ここにいるということは、もしかして彼女も勇者という事だろうか。
しばらく茫然としていた紘汰を現実に戻したのは背後の敵が動き出す気配だった。
爆発の衝撃から立ち直ったらしいバーテックスが、やってくる少女を迎え撃たんと攻撃手段であろう四本の足を動かそうとしている。
「オイあんた!危ねぇぞ!!」
誰かはわからないが、あのような空中では避けられない。そう思った紘汰は咄嗟に大声で少女に注意を呼び掛けた。
しかし少女は聞こえているのかいないのか、その顔に浮かべた不敵な笑みを消そうともしない。
「甘い!!!!!」
気合の声と共に少女が投擲した刀が、バーテックスの足へと正確に突き刺さる。
突き刺さった刀は先ほどと同じように爆発を起こし、またしても機先を制されたバーテックスの体がぐらりと傾いた。
「すげぇ・・・。」
戦闘開始からわずかの時間でバーテックスを封殺してしまった。
その見事な手際に思わず紘汰の口から感嘆の声が漏れる。
そんな紘汰を尻目に、少女は新たな刀をバーテックスの足元へと投擲した。
地面に刺さった刀を起点に封印の光が広がっていく。どうやらこのまま一気に片を付けるつもりらしい。
「こうしてる場合じゃねぇ!俺も・・・おわっ!?」
とにかく手伝わなければと動き出そうとした瞬間、バーテックスから吐き出された御霊から毒々しい色の煙が噴出した。煙は瞬く間に樹海内に拡散し紘汰の視界を埋め尽くす。
「ゲホッ!ゲホッ!何だこれ!?あー、もう!!」
毎回いろんな抵抗を見せる御霊だが、今度は目くらましで逃げる戦法だろうか?
視界はゼロだが動けないわけではない。今ならまだ凡その位置は覚えているし時間が経てばたつほど場所がわからなくなるかもしれない。
そう思った紘汰は意を決して一度頷くと、先ほど御霊がいた位置に向かって走り出した。
後ろの皆も赤い少女も心配だが、今はまずやるべきことをやる時だ。
完璧だ。
初めての実践の手ごたえに、三好夏凜は満足気な様子で頷いた。
御霊が悪あがきで出した煙に視界は覆われているが全く問題はない。敵の気配ならば今も完全にとらえている。
先ほど妙な鎧武者がバーテックスの足元で何やら転がっていたようだが無視しておいていいだろう。どうせもうすぐ決着はつくのだ。
初戦にしても聊かあっさりしすぎだが、準備運動としてはちょうどいいぐらいだろう。
煙を吐いた御霊だが速度はそこまで無いようで、現れた位置から大して移動はしていない。夏凜は新たに出現させた両手の刀を握りなおし、止めを刺さんと跳躍した。
御霊の気配はどんどん近づいておりもうすぐ射程内へと入る。このバーテックスを倒したら今回の戦果を以って素人連中にはおとなしく言うことを聞かせよう。
そんなことを考えていた夏凜は気づかなかった。
御霊の気配とは別にもうひとつ、気配が近づいてきていることに。
「気配で見えて・・・ってちょっと!!??」
「え?おわぁ!?」
近づいてきた気配とはもちろん、アーマードライダー鎧武こと犬吠埼紘汰である。
夏凜は気配で、紘汰は勘で目指していた位置は見事に合致していた。
記憶と勘を頼りにフラフラと移動していた紘汰が、この時奇しくも夏凜の進行方向に割り込んだのだ。
結果はもちろんお察しである。
「ちょっと何よアンタ邪魔よ!どーきーなーさーいぃ!!」
「その声さっきの・・・ってちょっと待てって!痛ッ!痛ぇって!どけって言ったってあんたの方が上に乗ってんだろ!?」
大きな衝撃音と共に衝突し、もつれ合って倒れた二人。
紘汰の体の上に×の字になるように覆いかぶさった夏凜は、混乱と怒りとせっかく決めようとした所で無様に失敗してしまったという羞恥で暴れ、刀の柄で紘汰の鎧をガンガンと叩いている。
動けないのはこっちだと叩かれながら思う紘汰であるが、邪魔してしまった自覚もあるので強くは言えない。だが、いつまでもこうしているわけにはいかない。
「オイ!オイってば!こんなことしてる場合じゃないだろ!早く御霊を倒さねぇと!」
「~~~~~ッ!!!アンタ!覚えてなさいよ!!!」
感情が暴走していたとしてもそこは流石に訓練された勇者である。言いたいことは五万とあるが思考を切り替えて立ち上がった。
幸いにして衝突の衝撃で少し煙が晴れている。別に晴れていなくても問題はないが、見えていた方が確実だ。
頭をさすりながら立ち上がろうとしている憎き鎧武者を一睨みして、取り落とした刀を拾いあげる。
「フン、まぁいいわ。せっかくだからあのマッドが作ったその妙な物の性能ってヤツも見てやろうじゃない。ちょっと!いつまでボーっとしてんのよ!」
「お、おう・・・ってマッドってあんた、戦極のこと知ってんのか?」
「今は関係ないでしょ!いいから合わせなさい!」
「わ、わかったよ・・・。じゃあ、行くぞ!!」
『オレンジスカッシュ!!』
少女の言葉に気を取り直した紘汰が、戸惑いながらもドライバーのカッティングブレードを倒し込む。ロックシードから溢れたエネルギーが大橙丸へと伝達し、大橙丸がオレンジ色の光を放ち始めた。
その様子を一瞥して再度鼻を鳴らした夏凜は、改めて御霊に向き直ると両手の刀を構えなおした。
そしてそのまま合図もなく御霊へ向かって跳躍する。その背中に、一拍遅れて紘汰が続いた。
「これでぇぇ!!トドメよッ!!」
「はぁぁぁぁ!!おりゃああ!!」
御霊を中心として夏凜が左に、紘汰が右に切り抜ける。
交差した二つの斬撃が、御霊を四つに切り裂いた。
「えーっと・・・誰?」
戦闘が終わり、完全に置いてきぼりを食らった勇者部の面々が集まってきていた。
気まずそうな紘汰を背後に不機嫌そのものといった顔で仁王立ちしている夏凜に対して誰もが思っている疑問を投げかけたのは友奈である。
遠慮がちにそう訊ねる友奈を一瞥し、肩をすくめた夏凜が口を開いた。
「揃いも揃ってボーっとした顔してんのね。こんな連中が神樹様に選ばれた勇者だなんて。」
初対面でいきなりのツンケンした態度に、困惑を隠せない友奈達。
中でも割と血の気の多い方である風と紘汰は少しムッとした表情を見せていた。
バーテックスを倒してくれたのはありがたいが、そんな言い方はないんじゃないだろうか。
思わずといったように、紘汰が夏凜へと苦言を投げた。
「なぁあんた、何もそんな言い方・・・。」
「なによお邪魔虫。」
お邪魔虫って・・・まぁ確かに邪魔はしてしまったのは確かだけど・・・。
取り付く島もない夏凜の様子に二の句を継げなくなった紘汰を無視して、夏凜は再び口を開いた。
「私の名前は三好夏凜。大赦から派遣された正真正銘の正式な勇者よ。」
「正式な・・・勇者?」
正式とはいったいどういう事なのか。
頭を捻る一同を尻目に尚も夏凜は言葉を続ける。
「そ。アンタたちと違って、ね。だからアンタ達の役目はこれで終わり。はい、お疲れさまでしたー。」
「「「「「ええええええ!!??」」」」」
夏凜の口から飛び出した突然の終了宣言に、部員達の驚きの声が樹海の中を響き渡った。
ファーストコンタクト失敗!
ツンデレ相手にこれはまずいですよ紘汰さん!
まぁ、往々にして何かが始まるきっかけはこんな感じですけどね(始まるとは言ってない)。
基本的に原作通りの展開が続いていますが、1章2章はちょっと改変が難しい事情があり・・・。
3章は本格的に変わってくる予定なのですが。
1万突破記念ということで以前ちょろっと言っていた黒ミッチ主人公モノを形にしてやろうかと僕の中のレデュエが囁きましたがあまりにも記念にする内容ではないので断念。
短編程度の構想はあるので別の機会にちょっとやるかもしれません。