というわけでお久しぶりの奴の登場です。
「うーん。どうやったら仲良くなれるのかなぁ。」
悩まし気な表情でそう呟いたのは、注文した天ぷらうどんを少しずつ口に運んでいた友奈だった。
部活の時間が終わり、夏凜を除く勇者部一行はいつものうどん屋へと足を運んでいた。
もちろん夏凜も誘ってみたのだがやはりというかなんというか素っ気なく断られてしまっていた。
「頑なな感じの人でしたからね・・・。」
「悪い人ではないのは確かだと思うんですけど・・・。」
友奈から漏れた呟きに東郷と樹が追従する。
この場にいる誰もが夏凜と仲良くしたい気持ちは一緒だ。
しかし、昨日初めて会った気難しい新入部員にどうしたものかと頭を悩ませていた。
「ああいうタイプは色々難しいからねぇ。紘汰も、張り合い甲斐がある相手だからってあんまり突っかかるんじゃないわよ?相手は女の子なんだから。」
「うっ・・・わかってるよ姉ちゃん。」
そう言って、いつものごとく既に三杯目に突入している風が隣に座っている紘汰を肘で小突いた。紘汰も自覚はあるようで、バツが悪そうに後頭部を掻いている。
「まぁまぁ風先輩。紘汰君も私たちの為に言ってくれてるんですから・・・。そうよね紘汰君?」
「いや、まぁ別にそれだけではないんだけどさ・・・。」
東郷の思わぬ援護射撃に紘汰は恥ずかしそうに言葉を濁した。
確かにその通りでもあるのだが、直接言われるとどうにも照れ臭い。
「でもせっかく勇者部の仲間になったんだから、やっぱり仲良くしたいよね。」
「そうだな・・・よし。やっぱ今日のこと謝んなきゃな。なんにせよまずはそこからだ。」
「よしよし。よく言ったわ紘汰。それでこそ私の弟よ。」
そうやって頭を撫でようとしてくる姉の手を慌てて紘汰が掻い潜る。
この姉はこうやって時々弟や妹の頭を撫でようとする癖があった。
樹はまんざらでもないようだが、紘汰は思春期真っ盛りの男子中学生である。いつまでも子ども扱いされているようで、流石に少し嫌だった。
僅かの攻防の末に何とか逃げ切った紘汰は、不満そうな風をあえて無視しつつ皆の前で意気込みを新たにする。
「とにかく行動あるのみだよな!それに少しだけ一緒に戦ったけど、アイツの強さは本物だ。ちゃんと連携できるようになればこれからの戦いだってきっと楽に―――」
「それは少し楽観的過ぎるんじゃないかなぁ。」
背後から突然割り込んできた声に思わず紘汰の体は飛び上がった。
聞きなれないその声に、他の皆も訝し気に紘汰の背後に目を向ける。
全員の視線が集まった先、そこにいたのは行儀悪く立ちながらうどんを啜る白衣の男。
自称大赦の研究員にして戦極ドライバーの開発者。
戦極凌馬、その人だった。
「せ、戦極・・・!?なんでこんなところに!?」
「私がうどん屋で早めの夕食を取っているのがそんなにおかしいかい?まぁ実際のところは君に会いに来たわけなんだが。君たちが部活の後にここをよく利用することは知っていたからね。」
「俺に・・・ってなんの用事だよ。」
「まぁまぁ、それは後でいいじゃないか。ホラ、せっかくのうどんが伸びてしまうよ。それはうどんに対する最大の冒涜だと私は思うけどね。」
非常識な割り込みをしてきたくせに常識的な指摘をしてくる戦極に唖然とするが、確かにその通りであるのだとひとまず納得して引き下がる紘汰。
誰もがその珍客の様子を伺い、チラチラと盗み見はするが声を発することはできないでいる。
何とも言えない空気が漂う中、うどんを啜る音だけが店内に響いていた。
「改めて、久しぶりだね犬吠埼紘汰君。それと、勇者の諸君は初めましてかな?彼から聞いているかもしれないが私の名前は戦極凌馬。大赦に所属するしがない研究者さ。」
「「「「ど、どうも・・・。」」」」
突如現れ一方的な自己紹介を始める目の前の男に、初めて会う紘汰以外のメンバーたちは困惑気味だ。
紘汰から話は聞いていたが実際に会うとなるほど確かに胡散臭い。
初対面で失礼だがマッドサイエンティストという言葉がしっくりくる風貌をしている。
戸惑うこちらを見て楽しんでいるようで、なんだかちょっと落ち着かない。
そんな推定マッドサイエンティストから他の面々を守るように紘汰が一歩前に出る。
紘汰の勘はなんとなくだが彼女たちをこの男にあまり関わらせないほうがいいと告げていた。
「それで、今日は一体どうしたんだ。」
「いやなに、前回の戦闘の報告書を読んでいたら気になる部分があってね。ちょっと戦極ドライバーの記録を調べさせてもらうと思って足を運んだわけさ。毎回君に来てもらうのも申し訳ないことだしね。と、いうわけで戦極ドライバーを貸してくれるかな?」
相変わらず何を考えているのかわからないが製作者に貸せと言われて否やはない。鞄からドライバーを取り出すと戦極が差し出している手の上に乗せた。
ドライバーを受け取った戦極は、傍らにあったカバンの中身を広げるとその場で何やら色んなコード類を次々に突き刺していく。
あの怪しげな研究室とは違いここは町の人達が集まる公共の場なわけなのだが、そんなことは欠片も気にならないようでコードの反対側を持参したタブレット端末に接続しよくわからないデータを閲覧し始めた。
何をしているのかはわからないが少なくともそれが終わるまでは帰るわけにもいかない。
とはいえこの男の横で談笑する気になるわけもなく、何とも手持ち無沙汰になってしまった。
それならば、昨日からずっと気になっていたことをこの男に聞いてみよう。
「なぁちょっといいか。あんたに少し聞きたいことがあるんだけどさ。」
「ん?何かな?」
戦極は画面に顔を向けたままで紘汰の方を一瞥もしない。しかし、反応が返ってきたということは少なくとも話をする気はあるようだ。
紘汰が思い出すのは昨日の戦闘の時のことだ。
昨日、樹海の中で紘汰の姿を見た夏凜は確かに『あのマッド』と口走っていた。
あの時はあれ以上聞けなかったが面識があるのは間違いないとみていいだろう。もしかしたら彼女について色々と知っているかもしれない。
本人以外から勝手にそのような話を聞くのはマナー違反かもしれないが、今はとにかくほんの少しでも取っ掛かりが欲しい状況だった。
「昨日から戦闘に参加した三好夏凜だけどさ。あんたあいつと知り合いだったりすんのか?」
「あぁなんだそんなことか。面識はもちろんあるさ。一応私も研究者の端くれとして勇者システム関係にも携わっているからね。彼女の調整も何度か手伝わせてもらったことがある。」
戦極の言葉に、紘汰をはじめ勇者部全員の注目が集まる。
思いもよらぬ遭遇だったが、もしかしたら夏凜との関係改善のための糸口が掴めるかもしれないのだ。
仲間たちからの目配せを受け頷いた紘汰は、少し緊張しながらも質問を重ねた。
「やっぱり・・・。なぁアイツってどんな奴なんだ?完成型勇者っていったい・・・。」
「凡そのことについては彼女から聞いたんだろう?私が改めて言うことはないよ。そして彼女個人の事情についてはよく知らないな。何せ興味がないからね。―――っと、これで終了だ。協力感謝する。中々興味深いデータが取れたよ。」
あんたに聞いた俺がバカだったよ・・・。
がっくりと項垂れた紘汰が、そのまま机に突っ伏した。
満足げな顔をした戦極が、返すよと言ってドライバーを目の前に置いたが今はそれに手を伸ばす気にもなれない。
そんな紘汰に変わって、今度は風が恐る恐るといった様子で戦極に質問を投げかける。
本人の性格はともかくとして、せっかく大赦の人間と直接話をする機会が得られたのだ。
風としてはこのチャンスに色々と情報を聞いておきたいという思いがあった。
「それで、気になる事って何だった・・・んですか?」
「別にそんなにかしこまらなくていい。そちらは世界を守る勇者様でこっちはただの脇役だ。立場としてはそっちの方が圧倒的に上だからね。何、昨日の戦闘で御霊が煙幕を張ったって報告していただろう?ドライバーのログからそれの成分を調べてたんだ。―――結論から言うとね、あれは煙幕なんて生易しいものではない。非常に強力な毒性を持った毒ガスだったのさ。」
「どっ・・・!」
何でもない事のように告げられた情報に思わず風が絶句する。見守っていた他の面々からも息を呑む音が聞こえてきた。
そんな彼女達の様子を知ってか知らずか、戦極は悪びれもせず尚も言葉を重ねる。
「ラッキーだったね紘汰君。あと少し戦闘が長引いてたら危なかったよ。一応このドライバーはあらゆる環境下での使用を前提としているが、神の毒とは流石の私も想定外だ。ホラ、ここの数値を見てみるといい。許容値のギリギリだろう?もしこれを越えてたら現状のアーマードライダーシステムでは毒を分解しきれずに最悪死んでたかもしれないね。」
「死んでたって・・・!アンタねぇ!人の弟を何だと思ってんのよ!」
流石に今の発言は見過ごせるわけがない。
カッとなった風が戦極に掴みかかろうとするが慌てて紘汰が止めに入った。紘汰の手前一時的に矛を収める風だったが、その目はずっと戦極を睨み続けている。
「あぁ、いや済まない。配慮に欠ける発言だった。昔から友人に何度も言われているんだがどうもいけないね。もちろん、今後はそんなことが無いようにしっかり対策させてもらうよ。というか応急の対策は今させてもらったから、そうそう大事になる事はないだろう。正式なのはまた後日、完成し次第連絡するよ。」
「ああ、頼む。」
明らかに心のこもっていない謝罪を無視して紘汰は必要な要求だけを告げた。
短い付き合いだがこの男には何を言っても無駄だということは既にわかっている。
しかし、今日初めて遭遇した他の面々はそうではない。
中でも特に樹が不安げな表情で紘汰の顔を見上げていた。
「頼むって・・・お兄ちゃん・・・。」
「大丈夫だって樹。危なかったって言っても俺はこの通り何ともなってないんだからさ。それに、今更やめろって言われて俺が引き下がるわけないだろ?」
心配そうな視線を向けてくる仲間たちの顔を見渡して紘汰はそう言い切った。
皆の気持ちはありがたいし不安にさせて申し訳なくも思うが、それでもこれだけは譲れないのだ。
「いやはやいい仲間を持ったね紘汰君。これは私も一層努力してサポートしないと後が怖いなぁ。―――しかし毒か。ある程度予想はしていたがやはり大変興味深いね。」
「なんの話よ。」
先ほどまでのやり取りで、風の警戒心と不信感は最大まで高まっている。
それでも話に付き合おうとするのは、前述のとおり少しでも情報を引き出そうとしているからだ。
個人的な感想に興味を持たれたことに気をよくしたのか、戦極は椅子に座りなおして話をする体制に入る。
「バーテックスが何故襲ってくるのか、君たちはその理由は聞いているかな?」
「それは・・・人間たちに怒った天の神様が世界を滅ぼすために送り込んできているって・・・。」
突然話を振られた友奈が戸惑いながらも答えを返す。
友奈自身も風からの受け売りだが、少なくともそれを信じて世界を守るために戦ってきたつもりだ。
「そう、天の怒り。この表現は西暦以前から人々の間で用いられてきた。古来、人々は人知の及ばない自然災害や天変地異を天の怒りとして畏れ、同時に敬ってきた。地震や雷、洪水や干ばつなどといった特定の条件によって発生する無差別な自然の暴威。”理由のない悪意”と言い換えてもいいかもしれないね。」
話しているうちに段々と興が乗ってきたようで、戦極は身振り手振りを交えながら楽しそうに語り続ける。
「さて、そう言った”理由のない悪意”を天の怒りと定義した上でバーテックスの襲撃について考えてみよう。そこには明らかな違いがあるとは思わないかい?」
「・・・バーテックスには、明確な目標がある・・・?」
戦極個人への敵意はひとまず脇に置き、彼の話について真剣に考え込んでいた東郷がポツリとそう呟いた。期待した反応が返ってきたことに、戦極は非常に満足気だ。
「その通り。一般的な所の天の怒りと違い、バーテックスには明確に特定の対象に向けた害意というものが存在する。それは今回の敵の毒ガスはもちろん、前回の連携攻撃を仕掛けてきた三体を見ても読み取れる。バーテックスは人類を、ひいては君たち勇者の様な存在を意識して対策を講じている。そこには神の怒りというよりも、ともすれば人間的な敵意や殺意が込められているように私には感じられるんだ。」
「それは・・・。」
バーテックスの正体。
そんなことは全く考えたことが無かった。
自然災害のようにやってくる存在でないのならば、一体自分たちは何と戦っているんだろうか?
考え込んでしまった勇者達を尻目に、一区切りしてふと時計を見た戦極がわずかに眉を顰める。どうやら自分は思ったよりも話に熱中してしまっていたらしい。
「少ししゃべりすぎてしまったね。色々言ったがもちろんこれも憶測にすぎない。実際のところ天の神について文献にそう記されているし、大赦に関係してバーテックスを知るほとんどの人間がこの天の神の怒りという話を信じている。しかし同時に誰も天の神の姿を実際に見たことはなく、その存在を直接確かめたものは居ないというのもまた真実だ。―――まぁ今確実に言えるのは、バーテックスがこれからも君たちを打倒するために進化していく可能性が高いということだ。それを努々、忘れないことをお勧めするよ・・・大事なものを、失いたくないのであればね。」
最後にそう言い残し、戦極凌馬は去っていった。
その場に残されたのは散々思考をかき回された上に最後に冷や水をぶっ掛けられた勇者部の部員達。
こうして、異端の科学者戦極凌馬と勇者達との初邂逅はそれぞれの胸に何とも言えないモヤモヤを残し幕を閉じたのだった。
※注:SHT出身のキャラです。
あーあ、出会っちまったか。
初期の構想では第一部で紘汰以外に直接遭遇させる気はなかったはずなんですが、気づけばそんな展開に。
早速不況を買うとは流石ですドクター・・・まぁ仕方ないですよね。
バーテックスに関して意味深に語るが果たして・・・
カプリコーンの煙幕は原作では大して言及無かったですが、明らかに色がアレな上に精霊オートガードが完全に反応しているのでどう見ても毒だと思っております。
アーマードライダーにも神樹の守り(弱)はついてますがあくまで(弱)なのでそこは科学で補っているという本作の設定。
これまでのたまに見直すんですがどうも読点多いなぁと感じる今日この頃。
ちょっとずつ修正していきたいと思います。