咲き誇る花々、掴み取る果実   作:MUL

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今までで一番長くなったかも。
夏凜登場編、最後です。


第18話

讃州市での任務に就くにあたってあてがわれたマンションの一室。

夏凜は居間にあるソファの上にその身を投げ出していた。

視線の先にある室内照明の光が煩わしく、それから逃れられるように体を横向きに変えると、照明よりももっと嫌なものが視界に入り結局はまた体勢を元に戻して照明との睨めっこを続ける。そんなことをさっきからずっと繰り返していた。

本来、自分にも他人にも厳しいことに定評のある夏凜が、人前でなくてもこのようなだらけた姿をさらすのは非常に珍しいことなのだが、慣れないことをやった精神的な疲れが彼女の体をソファの上へと誘っていた。

光を避けるために顔に置いた腕の隙間から、今もなおテーブルの上に鎮座しているその“忌々しいモノ”にちらりと横目で視線を向けて何度目かわからないため息をつく。

親の仇を見つめるような視線で夏凛が睨みつけた先にあるのは、『やさしいおりがみのおりかた』と書かれた教本と、折り紙でできた不格好なペンギン達だった。

 

(何、やってんだか・・・。)

 

それは別に、風達に押し付けられたとかそういうものではない。

部活が解散になった後、帰り道で見かけた本屋で夏凛が自ら購入したものだった。

引き受けたからには完璧にやり遂げる必要があるからなどと、心の中で誰に聞かせるでもない言い訳をしながら手に取り、必要以上に周りの目を気にしながら家に持ち帰ってきたのだ。

折り紙など最後にやったのはいつだったかは覚えていないが、まぁそんなに大したものではないだろうと高をくくって、適当に目についたページを参考にして作業を開始してから数分後。完成した作品の出来栄えは、彼女の慢心を打ち砕くのには十分なレベルだった。

そんな馬鹿なと一瞬茫然とした夏凜だったが、先ほどは流し見程度に読んでいた教本に慌ててかじりつき、何が悪かったのか振り返りながら2体目の制作に取り掛かった。

そうして3体目、4体目と繰り返し5体目でようやく様になってきた自分の作品に満足気な表情を浮かべたところでふと我に返り、なんだか急に馬鹿らしくなってしまったのがおよそ十分前の出来事だった。

任務に全く関係ない“ムダ”と言っていいようなことになんでこんなに夢中になってしまったのか。

それに、帰宅中からこれまでの行動を客観的に思い返してみると、まるで私が日曜日のことを―――

そこまで浮かんだ考えを頭を振って無理やり追い出した夏凜は、恥ずかしさに少し頬を染めながら頭を冷やすために別室に置いてあるルームランナーの元へと向かうのだった。

 

 

 

 

日が傾き始めた街の中を、駆け抜ける影があった。

すれ違う人々がぎょっとするようなスピードで走り続けているのは、帰宅後、制服から運動着に着替えて日課の走り込みをこなす紘汰だった。

友奈との秘密(だと本人は思っている)の特訓を始めたぐらいから、この走り込みは紘汰の日課になっていた。

もっと強くなって皆を守る。そんな思いと共に続けてきた日課だが、今日はいつもと比べても随分とペースが速かった。

何かを振り切るようにグングンとスピードを上げていくその理由は―――

 

(はぁ~~。何やってんだ俺はぁ!)

 

もちろん、夏凜とのことであった。

皆の前で仲直り宣言をしたのにもかかわらず、部活ではあの体たらくだ。そんな自分が情けないやら何やらで、そんなモヤモヤした気持ちをこのような形で発散しているのだった。

周りの皆は焦る必要はないなどと言ってくれてはいるものの、だからと言って自分自身で納得できるかは別問題だ。

これまでの紘汰の人生の中で、あそこまで最初からつっけんどんな態度を取る相手というのは出会ったことが無かった。どちらかといえばその性格も相まって、基本的に誰とでもすぐに仲良くなってきた紘汰にとって夏凜は未知なる強敵となっていた。

今まで深く考えずにとにかく突っ走るというのが自分だったはずなのに、どうしたことか今回はその最初の一歩が中々踏み出せないでいる。それは、本人は自覚していていないまま張ってしまっている思春期の男の子としての意地だった。

紘汰だって、本当に仲良くなりたいとは思っている。友奈達とのやり取り一つ見ていても、いいヤツだということは十分にわかっているのだ。

しかし、もうこの期に及んでは何か外部要因によるきっかけが必要だった。

 

(やっぱり日曜日・・・か。)

 

子供会のお手伝い。夏凜が部員になり、新生勇者部となって初めての本格的な活動だ。本人にはもちろん伝えていないが、それ以外にもちょっとしたイベントも準備してある。

勿論仲直りがメインではないが、きっかけとしては申し分ないことであるのは確かだ。逆に、これを逃せばもうずっと謝るなんてことはできないんじゃないかとも思う。

兎にも角にも紘汰にとって、今週の日曜日が勝負どころだ。

 

「よぉぉぉっしゃあああああ!!!」

 

両頬に自ら張り手を一発、気合を入れなおした紘汰が雄叫びを上げながらいつものコースを突っ走る。

町の人々は、突如聞こえてきた大声に何事かと驚くが、発生源を見てすぐに興味を失った。紘汰のこんな姿は、人々にとって割と珍しくない光景であった。

後日人伝でそんな近所迷惑な行動を耳にした姉に彼が雷を落とされるのは、また別の話である。

 

 

 

 

(・・・遅い!)

 

来る日曜日。

夏凜は勇者部の部室である家庭科準備室で一人、少し古びたパイプ椅子にイライラしながら座っていた。

そのイライラ具合を現すように、組んだ腕の上では先ほどから人差し指が早めのリズムを刻んでいる。

あれから数日、なんだかんだ言いながらも続けてきた練習により一定のレベルまで折り紙の熟練度を上げた夏凜は、本番である今日、遅刻しないようにと念のため少々早く家を出た。

休日では使う事のないはずのいつもの通学路を自転車にまたがり、到着したのが集合時刻の30分前。

随分早く着いてしまったがこれはあくまで念のため。いくら乗り気ではないといえども一般的な常識として、引き受けたからには遅刻など許されないからそうしたのであって、他に意味などあるわけがない。

休日であるためガランとした自転車置き場に自転車を止め、学校という場所では普段はありえない静謐さを湛えた校舎の中を、ちょっとだけ新鮮な気持ちで歩いた夏凜は、予想していたことだが誰もいない部室を見て小さく嘆息し、適当な椅子に座って他の面々の到着を待つことにした。

30分前は流石に早かったかと軽く目を瞑って待ち始めた夏凜だったが、10分、15分と時間が立ち、20分に差し掛かったところで段々と怒りが込み上げてきたのだった。

 

夏凜のほかに人がいない部屋の中では、壁に掛けられた時計の秒針の音だけが響きわたり、普段なら全く気にならないはずのその音がまた夏凜の心を逆撫でる。

睨みつけた先にある時計が示す時刻は先ほどからさらに時間が立ち、現在午前9時57分。

集合時刻は10時だというのに、自分以外誰も来ないのはどういうことか。

もしかしたら自分は揶揄われただけなんだろうか。そんなマイナスな考えまでもが頭をよぎる。

そんな小賢しいことを考えられるような連中ではないとは思うが、今まで自分が取ってきた態度が態度だったために、完全には否定しきれない。

10時になって誰も来なかったら帰ってやろう。

熱くなった部分とは別のところが急激に冷えてきたのを感じながら夏凜がそう考えた時、ガラリと部室の扉が開き、ようやく何者かが部室へと姿を現した。

 

「―――アレ?何やってんだあんたこんなところで。」

 

そこにいたのは、白いシャツの上に青いパーカーという私服に身を包んだ紘汰だった。

夏凜がここにいることがよほど意外だったのか、肩に提げた少し大きめのリュックがずり落ちるのも気づかずにポカンとした表情を浮かべている。

 

「・・・っ!!アンタねぇ!!」

 

紘汰の登場に、ほんの少しだけホッとした夏凜だったが、それも一瞬のこと。ホッとした分さらに燃え上がった怒りのまま立ち上がり、一息で紘汰に詰め寄った。

これまでにないほどの夏凜の様子に、思いっきり腰が引けながらも両手を前に出し、何とかなだめようとする紘汰。

何が何やらわからないが、今までで一番怒っていることだけはよくわかる。

とにかく事情を聴いてみなければ何も始まらない。

 

「何やってんだとは何よ!アンタ達が呼んだからわざわざ休日に来てやったんでしょ!!それなのにこんな時間まで誰も来ないなんて一体どういう了見よ」

「ど、どういうって・・・。あんたこそなんでここにいるんだよ。今日、10時に現地集合って書いてあったはずだろ?」

「え!?そ、そんなはずは・・・。」

 

噛みつかんばかりの勢いで紘汰に詰め寄っていた夏凜だったが、紘汰から出た言葉にサッと青くなり、慌てて鞄を弄ると持ってきていた案内用紙を確認する。

見直すのは当日の予定の欄。そこにははっきりと“現地集合”の文字が記されていた。

 

「・・・ホントだ・・・。」

「俺は向こうに着いた時にここに忘れ物してたのを思い出してそれを取りに来たんだけど・・・。ははは・・・ま、まぁそんなこともあるよな!な!大丈夫だって!とりあえず皆には俺から連絡しとくからさ!」

「~~~~~っ!!」

 

赤くなったと思えば青くなり、そしてまた赤くなったりと、随分忙しい様子の夏凜に今はこれ以上何も言うべきではないだろう。

とにかく夏凜を刺激しないように、こっそりとグループに連絡を入れた紘汰は、そのまましばらく彼女が落ち着くのを待った。

とりあえずは本来の目的を果たそうと、今日使うはずだったいくつかの道具をリュックに詰め込んだ後、振り向いた先で夏凛と視線がかち合った。

先ほどよりも少しは落ち着いたようだが、若干涙目でこちらを見上げるように睨みつけてきている。

何事においても完璧主義に見えるこの少女に、こんな意外とうっかりしている所があるとは正直驚きだ。

まぁでも、完全に一部の隙も無いような人間よりも、ちょっとぐらいこういうところがあった方が親しみも湧くというものだ。・・・もちろん本人には絶対に言えないが。

 

「じゃ、じゃあとりあえず行こうぜ。ついてきてくれよ。まだ道、あんまりわからないだろ?」

「・・・。」

 

先ほどから無言の夏凜だが、とりあえず異論はないようで先を行く紘汰の後を素直についてきていた。

二人して自転車に乗り込み、児童館へ向かう道すがらも微妙な雰囲気が流れ続けている。

思いがけず二人きりということで、その状況だけ見れば改めて話をするチャンスのはずだが、流石にそんな空気ではないことは紘汰にだってわかる。

上手くいかないもんだな・・・。と夏凜に気づかれないように小さくため息を吐きながら、先ほど入れた連絡への返信として風から送られてきたメッセージの内容について考えていた。

姉から来た連絡は、本日の予定の一部変更についてだった。色々と予定外が重なったが、それはそれで仕方ないとして逆にそれを生かそうというのが向こうのメンバーの判断だった。その変更については既に、子供たちにも了承はもらっているらしい。

それは紘汰としてもいい考えだと思うが、問題はそれまでに夏凜の状態がもとに戻るかということだ。

後ろから未だに感じるピリピリとした雰囲気に冷や汗を流しながら、最近少しだけ身近になった神様たちに内心お祈りを捧げる紘汰だった。

 

 

 

 

紘汰の先導に従い自転車を走らせて数分後、夏凜は児童館の前に立っていた。

本日の会場はこの建物の中、集会室で行われるらしい。

当然ながら中の間取りなど夏凜が知るわけもなく、引き続き紘汰の案内が必要なため、今は彼の荷解きを待っているような状態だ。

あの後、移動の間に何とか心を落ち着けた夏凜は、少なくとも表面上は取り繕えるぐらいには平静を取り戻していた。

しかし、それはそれとしていざこうして今日の本題が目の前に近づいてくると、別の感情が夏凜の心に重くのしかかる。

なぜそんなに気を重くしているのかといえばそれはもちろん、本当に自分に子供の相手など務まるのかということだ。

相手にされないぐらいならばまぁ別にいいだろう。しかし、自分で言うのもなんだが愛想がないことには自信がある夏凜である。もし、泣かせるようなことになってしまったら・・・。

 

そうやって悶々としているうちに紘汰の準備は終わったらしい。

じゃあ行くぞ、という彼の声に従って引き続き黙ってついていく。

そうしてしばらく歩いていると、大きめの扉の前で紘汰が足を止めた。

どうやらここが目的地の様だ。その扉から何やら大きなプレッシャーのようなものが漏れ出てきているように感じ、夏凜は無意識にゴクリとのどを鳴らしていた。

こうなったら出たとこ勝負。子供たちがいる割にはやけに静かなのは気になるが、ここまで来たら肚を括るしかない。

そうやって意を決して扉に指をかけた夏凜だったが、それを横合いから紘汰が制止した。

 

「まぁまぁ。ほら、いきなり開けてもなんだからさ、ちょっとここで待っててくれよ。」

「・・・そういうもんなの?まぁいいけど・・・。」

 

出鼻をくじかれて少しムッとしたが、自分よりこういう状況に慣れているであろうこの男が言うならばそういうものなのかもしれない。こちらの葛藤を見透かすように紘汰が浮かべた苦笑が少し気に食わないが、黙って扉の前で待つ。

そんな夏凜を横目で見ながら紘汰が扉に近づき、金属でできたその扉を大きくノックする。

中から友奈達の声が聞こえて、周囲がにわかに騒がしくなっていくのを感じる。

 

それを確認し、一呼吸。

夏凜に一瞬意味ありげな視線を送った紘汰が、扉を一気に開け放った。

 

 

「「「「せーの!」」」」

『三好夏凜さん!お誕生日、おめでとう!!』

 

 

「―――は?」

 

え?なんなのこれは?どういうこと?

想定していたどんなことにも当てはまらない事態に、夏凜の頭は完全にフリーズし、大合唱と共に聞こえた小さな破裂音に対して条件反射的に身構えてしまった姿勢のまま固まってしまった。

そんな夏凜に対して、満面の笑みを浮かべた友奈を先頭に子供たちが駆け寄ってくる。

あっという間に取り囲まれ、周囲からのおめでとうという言葉の豪雨にさらされて、あ・・・だのう・・・だのと言葉にならない声を漏らしているうちに、友奈の手によって浮かれた三角帽子などが頭の上に乗せられてしまった。

 

「わぁ~。やっぱり赤が似合うよね夏凜ちゃん!ね、皆!」

『似合う~!』

 

友奈の言葉で一層盛り上がる子供たち。

そんな子供たちに現在も囲まれている夏凜はもうパニック寸前だ。

何かにすがるように慌てて後ろを振り返ると、集団から少し離れた後方で満足そうに頷いている紘汰の姿。あの野郎、やっぱりわかっていやがったのか。

 

向けられているだけで穴が開いてしまいそうな強烈な視線を紘汰に送り始めた夏凜のもとに、子供たちに少し遅れて風達が近づいてきた。

東郷はニコニコと、樹は少しだけ申し訳なさそうに、最後にどうせ主犯格であろう勇者部部長はその顔にドッキリ大成功といったようなニマニマとした笑みを浮かべていた。

 

「な、なんなのよコレは!」

「何って・・・。聞こえなかったの?誕生日のお祝いに決まってるじゃない。」

 

そんなことを聞きたいわけじゃないとわかっていながら、シレっと惚けた回答をする風に夏凜の顔が悔しそうにぐぬぬとゆがむ。彼女のそんな表情に、風は一層満足気だ。

 

「なんで私の誕生日をアンタが知ってんのよ!」

「なんでって、こないだ出した入部届に書いてあるじゃない。全く、こういう事はちゃんと言いなさいよね。危うく見逃すとこだったじゃない。」

「な、ぁ・・・!」

「樹ちゃんが見つけて、それなら歓迎会もかねてこの場でやろうって。子供たちも皆、喜んで賛成してくれたのよ。本当は途中で挟むつもりだったけど、ちょうどよかったから最初に持ってきてもらったの。」

 

ねー。と嬉しそうに顔を合わせる東郷と樹に、開いた口が塞がらない。

そうこうしているうちに、友奈が夏凜の手を取って、子供たちと共に集会室の中央に並んだテーブルの元へと連れていく。子供会のパーティということでテーブルの上にはちょっとしたお菓子なんかが並んでいた。

あれよあれよという間に主賓席へと座らされた夏凜が、一言いってやろうと隣に座った友奈に顔を向けるが、嬉しそうに笑う彼女を見て、もうなるようになれと諦めモードに入った。

 

「今日は楽しもうね夏凜ちゃん!」

「ハァ・・・。もう、わかったわよ・・・。」

 

そうして、全員によるハッピーバースデーの大合唱の後、ささやかなパーティが始まった。

 

 

 

 

パーティからの流れで折り紙教室になだれ込み、めいめいが講師となって子供たちと共に折り紙作品の制作に取り組んだ。

夏凜は練習の甲斐あって、それなりに難易度の高いものもこなせるようになっており、無事子供たちの尊敬の念を集めることに成功していた。

やっぱり接し方はいまいちわからず、少々ぶっきらぼうな対応になってしまったが、そこは友奈がうまくフォローしてくれていた。それも最初の方だけで、途中からは夏凜は夏凜なりにうまく子供たちとやっていけるようになっていったのだった。

 

折り紙教室が終わればその次は自由時間。

暴れ足りないアウトドア派の子供たちと、大人しめのインドア派の子供たちに分かれ、それぞれいつも通りアウトドア派を紘汰と友奈、インドア派を東郷と樹が相手をしている。風は遊撃要員として、双方のフォローを行っていた。

夏凜も紘汰と友奈と共に運動好きな子供たちと一緒に走り回った。

元々体を動かすことの方が得意である夏凜は、紘汰にも迫るような活躍を見せ、一気に子供たちの新しいヒーローになっていた。

 

 

 

 

自由時間も残り少し。

子供たちも徐々に疲れ始め、少し手の空き始めた紘汰のもとに東郷が声をかけた。

 

「紘汰君。」

「お、東郷か。どうした?」

「どうしたじゃないわ。ほら、あっち。」

 

そう言って東郷が指さした先には、少し離れたところで壁に背を預けて休息をとる夏凜の姿。

普段から鍛えているため体力は十分にあるはずなのだが、子供の相手と普段のトレーニングとでは勝手が違うようで少し前からあんな感じになっていた。

 

「ほら、今がチャンスじゃない?」

「でも、こいつらを放っておくわけにも・・・。」

「それはさっき代わりを部長に頼んできたわ。だからこっちには構わず行って。紘汰君なら大丈夫よ。いつも通り、素直にぶつかっていけばきっと上手くいくわ。」

「東郷・・・サンキュー。じゃあ、行ってくるよ。」

 

頑張ってね、と微笑む東郷が突き出した握りこぶしとグータッチ。

元気をもらった紘汰が若干緊張した面持ちで夏凛の方へと向かっていく。

東郷に背中を押してもらうといつもどこからか不思議と自信が湧き上がってくる。

根拠はないが、今なら何でもうまくいく気がする。

貰った自信と勇気を胸に、紘汰は夏凜の隣に立つ。

夏凜は当然気づいているものの、自分からは何も言う気配はない。

一瞬逡巡した後、意を決した紘汰が遂に動いた。

 

「あの・・・さ。」

「・・・なによ。」

「その・・・。ごめん!この前は悪かったよ。あんな風に突っかかったりしてさ。」

「・・・別に、そんなことどーだっていいわよ。・・・それにその・・・私だってその・・・悪かったし・・・。」

 

最後が尻すぼみになり、はっきりと聞き取れないぐらい小さい声になったが、何を言いたいのかはちゃんと紘汰に届いていた。

恥ずかしくなったのか、夏凜はそれ以降体育座りした自分の足に顔を埋め、一言も発さなくなってしまった。

そんな夏凜の姿に苦笑し、しばし彼女の横で子供たちが遊ぶ様子を眺める。

悪ガキ筆頭の二人組が、紘汰の代わりに鬼ごっこの輪に入った風にいたずらを仕掛け、風が見事にそれに引っかかっていた。主犯の二人を追いかける姉の表情が若干マジなのだが、きっと気のせいだろう。

別の場所では樹と東郷が、子供たちと一緒にあやとりやお絵かきをしている。また別の場所では友奈が椅子取りゲームをとり仕切っていた。

そんな平和な光景を、紘汰は頬を緩ませながら目に焼き付けるようにじっと眺めていた。

 

「なぁ。」

「・・・。」

 

今も隣にいる夏凜に再び声をかける。

未だにうずくまっている夏凜からの返事はないが、こちらに耳を傾けている気配は感じられる。

 

「勇者部はさ。お役目が始まる前からずっと、こういう事をやってきたんだ。姉ちゃんが立ち上げて、友奈と東郷を巻き込んで、樹と俺が参加して、ずっとさ。」

 

夏凜からの反応は相変わらず返ってこない。

でも、元々独り言みたいなものだから、聞いてくれるならそれで十分だった。

 

「皆の為になる事が嬉しくて、皆の笑顔が大好きで、夢中になって色々やってきた。もちろん今もそうなんだけど、でも最近はそれだけじゃない。こうやって町の皆と過ごす時間が、俺たちに力をくれる気がする。皆がいるから頑張れる。皆がいるから絶対に諦めない。」

 

気づけば夏凜の顔は上がっていた。

いつも勝気な彼女の視線は、今紘汰と同じものを捉えている。

 

「守りたい、守らなきゃいけないものがある限り、俺たちは俺たちにできることを投げ出すつもりはない。お役目の為にずっと頑張ってきたお前にとっては気に入らないかもしれないけど、それだけはわかってほしいんだ。」

 

子供たちを見つめる夏凜の表情からは、今自分が言ったことに対して彼女がどう考えているかはうかがい知ることはできない。

言いたいことは素直に全部吐き出した。もしそれでもわかってくれないならば、わかってくれるまで何度もぶつかっていくだけだ。

しばらくしてゆるゆると立ち上がった夏凜が、紘汰の方に向き直り、ゆっくりと口を開いた。

 

「フン。戦いに意味を求めるなんて、やっぱりトーシロね。」

「お前なぁ・・・。」

 

夏凜の口から出た言葉は、いつもの通りやっぱりとげとげしかったが、しかし口調は前よりずっと優しかった。彼女の表情にも、心なしか皮肉ではない笑みが浮かんでいるように見える。

彼女がどう思ってくれたかは、それでなんとなくわかった。言葉に棘があるのはもう性分なのだろう。それがわかったから、紘汰も呆れながらも笑っていた。

 

「アンタらのことなんて、もうとっくに私の中で諦めがついてんのよ。大赦からの指示もあるし、しょーがないからこき使ってやるわ。・・・それとね、アンタいつまで私のこと『お前』だとかで呼ぶつもりよ。私のことはちゃんと『夏凜』って呼びなさい。私もアンタのこと、『コータ』って呼ぶことにするから。」

「・・・!あぁ、よろしくな!夏凜!」

「ま、せいぜい精進することね。何度も言うけど足を引っ張ったらただじゃ置かないわよ。」

 

紘汰が差し出した手を、不敵な笑みを浮かべた夏凜が握る。

そんな二人の様子を離れたところからずっと見守っていた四人の顔にも笑顔が浮かんでいた。

紆余曲折あったものの、こうして新生勇者部はようやく本当のスタートを切ったのだった。

 

 

 

 

 

 

―――守りたいものがあるから頑張れる。

ならば、守りたいものと守りたいものが天秤にかけられたとき、一体何を選ぶのか。

その選択の時は、確実に彼らのもとに近づいていた。

 




勇者達から紘汰さんへの呼び方は少なくとも表記上はかぶらないようにという縛りを自分に課していたり。

夏凜ちゃんは原作では参加できなかった行事に参加することができました。
これがクロスオーバーの力・・・!ちっちぇえな・・・。

尚、文字数増えすぎたのでカットしましたが、この後原作通り皆で夏凛の家で二次会(無断)をした模様。

部長「ここからはオ・ト・ナの時間よ?」
夏凜「はぁ!?」

ってやり取りを入れたかったんです。
あとはまぁ、なんとなく捨てられなかった努力の跡(折り紙)を見られたりとかそんな感じで。
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