更新ペース上げたいのですが中々・・・。
「・・・これは非常に重要なミッションよ。チャンスはたった一度きり。失敗はもちろん許されない。各員の尽力に期待するわ。」
「「「了解!!」」」
かつてないほどの思いが込められた部長の号令に、緊張した面持ちで紘汰、友奈、東郷の3人が答える。
号令と共に風が叩いた黒板は、その衝撃でぐらぐらと揺れ、チョークがカタカタと音を立てているが、そんな雑音など今のこの4人の耳には入らない。
頼もしい返事をくれた後輩たちの顔を、一人一人ゆっくりと見つめる。
少し硬いが皆、使命感に燃えたいい顔をしている。どうやら次世代の芽は、風も気づかぬうちにしっかりと芽吹いていたようだ。
これならば自分が引退した後も、なんの憂いもなく任せて置ける。
若人の成長に、風は目頭が熱くなる思いだった。
いやいや、そんなことを考えるのはまだ早い。
私だってまだ現役だし、認めるのはまずこの重要な任務を無事完遂してからだ。
まだまだヒヨッコどもには負けていられない。
さぁ、まずは一体感を高めるためにも夕暮れの河原で走り込みでも―――
「―――いつまでアホなことやってるつもりなのよ?」
「お姉ちゃん、大げさだよぅ・・・。」
放課後の部室、突如始まった妙な芝居に終止符を打ったのは、呆れたような半眼を向ける夏凜だった。その傍らには、恥ずかしそうに顔を伏せた樹も従えている。
夏凜のまともすぎる一言に、部室に漂っていた真面目な空気(のようなもの)は一気に霧散した。
「ったくノリわるいわねー。別にいいじゃない。重要なのは事実なんだから。」
「だからってあんな小芝居する必要ないでしょーが!コータはともかく友奈、東郷!アンタ達まで付き合ってんじゃないわよ!」
「いやぁ~雰囲気に流されてつい・・・。ね、東郷さん。」
「私は結構、楽しかったのだけど・・・。」
「俺はともかくってなんだよ。・・・それにしても東郷、お前本当にちょっと残念そうだな。」
さっきまでの静けさはどこへやら。あっという間に勇者部部室はいつもの騒がしさを取り戻していた。
黒板には大きく力強い筆跡で『樹を歌のテストで合格させる!』と書いてあり、どうやらそれが風の言っていた重要なミッションであるようだ。
そもそもの事の始まりは数分前、タロットカードと睨めっこをしながらため息を吐いていた樹に、どうしたのかと風が声をかけたことだった。
大事な妹の悩みを聞き届けた姉は、それぞれ思い思いの活動に精を出していたメンバーたちを黒板の前に集め、本日の活動内容としてコレを皆に発表した。・・・その過程でちょっとした悪ノリが始まってしまったのはまぁ、ご愛敬ということで。
「でも、悪いよそんな・・・私一人の為に・・・。」
「別にいーのよ遠慮しなくて。困ってる人を助けるのが勇者部の仕事なんだから。同じ部員を助けちゃいけないなんて、そんなことはないわ。ね、そうでしょ?」
申し訳なさそうに縮こまる樹に苦笑しながら、風が一応他の皆へと確認する。
当然、風が聞くまでもなく部員たちは既にやる気満々の様子だった。
「もちろんです!いつも頑張ってくれてる樹ちゃんの為だったら、どんなことでも協力するよ!」
「ええ、そうね。・・・歌・・・歌なら、α波を出せるかどうかが鍵を握るわね。逆に言えばα波さえ出せるようになれば勝ったも同然よ。」
「α波って何よ・・・。ま、別に何でもいいわ。でもやるからには絶対に成功させるわよ。だから大船に乗ったつもりでいなさい。ええと、喉にいいものといえば・・・。」
早速といった様に、2年組が集まってあれやこれやと意見を出し始めた。
その様子を呆気に取られながら見ていた樹の肩に手をかけた風が、言ったでしょ?とウィンクする。遠慮なんかしなくたって、ここにいる皆、樹のことが大好きなのだ。
「でも樹。お前歌上手だったよな?」
議論が白熱する中、先ほどから不思議そうな顔をして黙っていた紘汰が疑問を漏らした。
樹は極稀にだが、機嫌のいい時に鼻歌を口ずさんでいることがある。紘汰も家で何度か聞いたことがあるが、その歌声は兄の贔屓目を抜きにしてみてもかなりのモノだった。
流石にプロ並みとは言いすぎかもしれないが、ちゃんとトレーニングすればそうなれる素質は十分あるのではないかと密かに紘汰は思っていた。
「そうなんですか?」
「ま、樹は如何せん人前だと緊張しちゃうからね。どっちかっていうと人前に慣れるってことをメインにした方がいいかもね。」
紘汰の言葉で一時作戦会議を中断した友奈が風に疑問を投げかける。紘汰同様樹の隠れた才能を知っていた上、その才能が発揮できない理由もなんとなく察していた風は、苦笑しながらも補足を入れた。
いつも一緒にいる風と紘汰がそういうのならそうなのだろう。そういう事なら話は早い。とりあえず、今日の活動は―――
と、言うわけで所変わってここは市内のとあるカラオケボックス。
学校から近いということもあり付近の学生に人気のこの場所は、勇者部のメンバーたちも時々通っている場所だった。
人前で歌うことが苦手なら、それに慣れることが一番だ。そのための第一歩としてまずはよく知るメンバーたちの前で緊張せず歌えるようにしようというのが今回の作戦である。
とはいえ来ていきなり樹にさあ歌えと言っても無理だということはもちろん理解している。普通に遊びに来た時と同じように、リラックスできる雰囲気を作ってから・・・というのがベストだろう。
「じゃ、まずは場をあっためないとねー。さ、行きなさい紘汰!」
「俺かよ!?え~と、Rise・・・Rise・・・お、あった。」
姉の強権でトップバッターを押し付けられた紘汰を皮切りに、次々と部員達がその持ち歌を披露していく。
部活の一環と言ってもそこはやはり華の十代である。カラオケ自体久々な上に新メンバーも加わったとあっては盛り上がらないはずもない。
本来あまりこういうのには積極的ではなさそうな夏凜ですら、風の挑発に乗ってではあるものの、友奈とのデュエットで一曲歌い切り、皆の称賛の声に得意げな表情を浮かべていた。
しかし、本来の目的も勿論忘れてはいない。東郷による軍歌で古参部員達が見せた謎の一体感に新参の夏凜が内心ちょっぴり引いた後、とうとう樹の番がやってきた。
曲はテストの課題曲。緊張した面持ちで東郷からマイクを受け取った樹が前へと進み出る。
皆の声援に弱々しい笑みを返す中、とうとうイントロが始まった。
マイクを握る手が緊張で少し震えている。そんな自分を叱咤しながら、樹は大きく息を吸い込んだ。
「う~ん。やっぱりいきなりは難しいよね。」
「ご、ごめんなさい・・・。」
「いいのよ樹ちゃん。まだ時間はあるのだから、焦らず行きましょう。」
満を持して歌い始めた樹だったが、やはりというか思わしくない結果に終わってしまった。
樹自身、クラスの皆の前で歌ったときよりは全然負担は少なく感じていたのだが、出てきた歌声はやっぱり震えていたし、お腹からも力が出ていなかった。皆の期待に応えようと気負いすぎたのもあったかもしれない。
こういう時にいつもうまくできない自分が樹は本当に嫌だった。兄や姉ならば、自分と違ってこんな時はバッチリ決めるはずだ。いや、そもそもこんなことで悩むことだってないだろう。
活発で、行動力があって、何でもできて、いつも皆の中心にいる。そんな上二人に比べて自分は?人に何かを誇れるようなことがあっただろうか?
いつだって、お兄ちゃんとお姉ちゃん、そして周りの皆に助けてもらってばっかりだ。周りの皆は優しく、焦る必要はないと言ってくれる。
しかし、それに甘える状況を樹自身が許せない。もっと、二人のように何でもできて、大切な家族を助けてあげられるような自分に“変身”したいのだ。いつまでも守られているだけの子供ではいたくない。
でも、そんなに簡単に変わる事なんてできないのはわかっている。だから今は兎に角目の前のことを精一杯頑張っていこう。そんな思いを胸に秘めながら、樹は自分の為に一生懸命考えてくれる友奈達のアドバイスを、一字一句心に刻み込むように聞いていた。
失敗して落ち込む樹を、友奈達が励ましている。
そんな光景を、風は皆とは少し離れた場所で眩しいものを見るように眺めていた。
誰かの為に皆で悩んで、実行して、最後には一緒に笑う。今までずっとそうしてきたし、きっとこれからもこれは続いていくのだろう。
風が勇者部を創設した切掛けは決して純粋なものではなく、本来であればこのような活動は勇者部の主目的ではない。
でも、勇者部がスタートして一年と少し。今ではもう、こっちの方が勇者部本来の姿なのだと断言できる。それは、バーテックスが襲来し、実際に自分たちが勇者として選ばれた後も変わらない。いや、むしろ危険な戦いに身を投じるようになったからこそ強くそう思うようになっていた。
あの日、両親のことを伝えに家に来た大赦の人間に自分の願いを訴えた時の気持ちを、風は未だに捨てられない。しかし、この子達だけは何としてでもこんな穏やかな日常の中に無事に返さなければいけない。それが、何も言わずに巻き込んでしまった自分の責任で、唯一できる贖罪なのだから。
―――~。―――~。―――~。
「っ!?・・・何なのよもう一体・・・。」
思考の海に埋没していた風の意識を浮上させたのは、ポケットに入れた端末の振動だった。
可愛い後輩たちはこの場に全員いるわけだから、クラスの友達の誰かからだろうか。
そう思ってメッセージを開いた瞬間、そこに書かれた内容に風の呼吸は一瞬停止した。
心臓の鼓動が早くなっているのを感じる。動揺は顔に出ていなかっただろうか?こっそりと周りを伺うが、幸い皆樹の方に夢中の様だ。
何とか表情は取り繕ったが、今の精神状態ではいつボロが出るかわからない。そんな心を落ち着けるために、一言断りを入れると風は静かに席を立った。
「ハハ・・・。我ながら酷い顔ね・・・。」
蛇口から水が流れる断続的な音が響く中、風は自嘲気味にそう呟いた。
女子トイレの洗面台。少し汚れた鏡に映るのは、蒼白になった自分の顔。
覚悟はしているなどと口では言っていたくせに、ちょっとつつかれただけでこんなにも揺らいでしまっている。
それでも自分は部長で、お姉ちゃんなのだ。皆の前でこんな情けない姿を見せるわけにはいかない。さっさとこの顔を何とかして、戻らないと―――
「―――大赦からの連絡?」
「っ!?」
背後から突然投げかけられた声に、風は慌てて振り向いた。
振り向いた先にいたのは、夏凜だった。こちらの様子に気づいて、あとを追いかけてきたらしい。
風がいる洗面台の背後、入り口付近の壁にもたれかかりながら、真剣な表情でこちらを見つめていた。
いつの間に入ってきていたのか、まったく気づけなかった。どうやらそれほどまでに余裕がなくなっていたということらしい。
「夏凜・・・ええ、そうよ。」
「私には何も言ってこないのにね・・・。ま、内容は大体想像つくわ。前も言った通り、今回のバーテックスの襲撃には、以前までの法則は当てはまらない。これからの戦いは、何が起こっても不思議じゃない。」
「・・・最悪の事態を、想定しておきなさいってさ。」
「怖いの?」
「・・・。」
一瞬、夏凜の言葉に風の体がびくりと震えた。
怖い。確かにその通りだ。勝手に巻き込んだくせに、虫のいい話だ。風は夏凜に言われて改めて気づかされた、自分の弱さが許せなかった。洗面台の縁を掴む手は力の入れすぎで白くなり、小さく震えていた。
「・・・アンタは統率役に向いてないわ。私ならもっとうまくやれる。だから「これは私の責任で、私の理由なのよ。後輩は黙って、先輩の背中を見てなさい。」・・・そう。」
夏凜の言葉に被せるように捲し立てた風はそれきり何も言わず、夏凜の横を通り抜けて部屋へと戻っていった。夏凜は黙ったまま、その背中をじっと眺めていた。
「・・・不器用なヤツ。・・・フン。私が言えた事じゃないか。」
風が通路の角に消えた頃、夏凜は一人、そう呟いた。
夏凜は何も言わなかったのではない。何も言えなかったのだ。悲壮感すら漂うあの背中にかける言葉が、夏凜には何も思い浮かばなかった。
・・・ここにきて少しだが、もう随分毒されてきたらしい。今までどうでもいいと思ってきたことが、今は酷く気にかかる。
こんな時、友奈なら、コータなら、もっとうまくやれたのだろうか?
そんなことを考えて、夏凜は小さく頭を振った。
どちらにしても私には無理だ。すぐにそう結論付けてしまった自分が、何故だかとてももどかしかった。
「あ~楽しかった!」
「歩いて帰るの、久しぶりね。」
夕暮れの中を、勇者部の6人は川沿いを歩いていた。
カラオケはその後も盛り上がり、結局予定時間を少しだけ延長してしまった。久しぶりに皆で存分に歌った友奈は、上機嫌で東郷の車いすを押している。
「でも、カラオケはあんまり樹ちゃんの練習にはならなかったかな?」
「ははは・・・でも楽しかったですよ。皆の歌が聞けて・・・。私も、もっと頑張ります!」
「ああ!その意気だぞ樹!」
あの後も数回チャレンジしてみた樹だったが、結局大きな改善を得ることはできなかった。
しかし、そんな中でも親身に付き合ってくれた皆の姿を見て、樹は小さく闘志を燃やしていた。歌自体には変化はなかったものの、本人の意識を少しでも上向きにできたということは確かな成果と言えるだろう。
そんな喧噪を聞きながら、風は集団の少し後方を黙って歩いていた。
頭に浮かぶのは大赦からのメッセージ。あの後、あの場では表面上は何とかいつも通り過ごせたものの、『最悪の事態』という言葉は依然風の心に重くのしかかっていた。
絶対に、そんな事態にはさせない。いざとなったら、私が―――
「―――イ!オイってば!姉ちゃん!」
「・・・え?何?ごめんちょっとボーっとしてたわ。」
紘汰の呼びかけで我に返った風の目に入ったのは、足を止めてこちらを心配そうに見つめる部員たちの姿。考え事をしている最中ずっと無反応だったらしく、どうやら心配をかけてしまっていたようだ。
「何って、樹の話だろ?」
「そ、そうね。・・・樹はまぁ、もう少し練習と対策が必要かな。」
「そうですね・・・。α波、出せるように!」
「α波から離れなさいよ・・・。」
そうやって再び談笑に戻った部員達に、風はホッと胸をなでおろした。
それと同時にイカンイカンと気を引き締めなおす。
カラオケが終わってどうやら少し気が抜けていたようだ。私は部長なんだから、皆を不安がらせないようにしなくては。自分の両頬を軽く叩き、よし、と小さく呟いた。
―――そんな風の様子を、彼女の弟と妹だけがしっかりと見つめていた。
それぞれ『まるで歌手ご本人が歌っているようだ』と評判の持ち歌を持つ勇者部部員達。紘汰君の持ち歌はもちろんアレ。
自信の持てない妹と、抱え込みすぎる姉。
そろそろ戦闘にも入りたいですが、このあたりちゃんと描写しておかないといけないところなので・・・。代わりに短編とか書いて衝動を抑えるという。
次の次ぐらいには戦闘入れると思いたい・・・。
本当は取捨選択できるといいんでしょうけどそれができるほど経験ないのでとりあえずは現状のスタイルで続けていこうと思います。