「…残り七体での総攻撃…考えうる限り最悪の襲撃パターンね。全く、やりがいありすぎてサプリもマシマシだわ。樹もどう?サプリ、キメとく?」
「そ、その表現はちょっと……。」
差し出されたサプリを、引きつった表情の樹がやんわりと断った。
そんな樹の反応を気にした素振りもなく、そう?残念ね、とあっさり引き下がった夏凜は、実のところ内心の動揺を表に出すまいと必死だった。
先ほどの軽口は、正直に言って強がりだ。
これまで大赦に蓄積されてきたデータにはない今回のバーテックスの出現パターンから、夏凜はこれまであらゆる事態を想定してきた。その中には、今回の様な状況ももちろんなかったわけではない。
しかし、先ほど言った様にそれはあくまでも最悪のパターン。できれば当たってほしくなかったというのが本音だ。こういう事に限って期待を裏切らないのだから、全くもって嫌になる。
「あれ、何ですぐに攻めてこないんだろう。」
神樹様による結界の境界線あたりでじっとしているバーテックス達を見て、友奈がそう呟いた。
友奈達が結界空間に取り込まれてから少しの時間が経過していたが、早々に現れたにも関わらずバーテックス達はずっと、不気味な沈黙を保ち続けていた。
「さあね。どのみち、神樹様の加護が届かない結界の外へは行ってはいけないっていうルールがある以上、私たちからは攻め込めない。今は、相手の出方を見るしかないでしょ。」
そこで一旦会話は途切れ、あたりは重々しい沈黙に包まれた。
それぞれが複雑な表情を浮かべながら遠くの敵を見つめていた時、一足先に変身して偵察に出ていた風が木々の上を跳ねながらこちらへと戻ってきた。
「敵さん、壁ギリギリの位置からから仕掛けてくるつもりみたい。……決戦ね。皆もそろそろ準備を…どうしたの紘汰?」
「あ、いや…何でもない。…はは、柄にもなくちょっと緊張してたみたいだ。」
「大丈夫だよ紘汰くん!皆いるんだから。」
「…そうだな。よし、皆行こうぜ!!」
迷いを振り切るように、紘汰はオレンジロックシードを胸の前で握りしめた。
結界へと移動してからも、さっき裕也から聞いた話がずっと紘汰の中で引っかかっていた。
皆に相談してみようとも思ったが、そんな考えも現れた敵を見てしぼんでしまった。
敵は七体。残った戦力を全てつぎ込んだ総力戦だ。
苦しい戦いになる事は間違いない。そんな時に、不確定な情報と漠然とした不安感だけでわざわざ皆を動揺させるべきじゃないだろう。
「よし、勇者部一同!変身!!」
「「「はい!(おう!)」」」
『オレンジ!』
風の号令に従い四人は勇者システムを、紘汰はロックシードを起動させた。
鮮やかな光が少女達を包み込み、その身に力を与えていく。
藍色のアンダーアーマーを身に纏った少年の頭上には、異空間から鋼鉄のオレンジが現れた。
『オレンジアームズ!花道!オン、ステージ!!』
そして光が弾け飛び、五人の戦士が現れた。
「敵ながら圧巻ですね……。」
「逆に言うとこいつらさえ殲滅すれば、戦いはもう終わったようなもんってことでしょ。」
「ここが天王山…ってことだな。」
こちらの準備が整うのを待っていたかのように、遂に七体のバーテックスが動き出した。
強い光を湛えた瞳でそれを見つめるのは、六人の勇者達。
不安はある。しかし、自分たちには信じられる仲間がいる。
その事実が、皆に不安を超える勇気を与えていた。
「そうね…。じゃあここは、アレいっときましょ。」
「アレって…。どれよ?」
困惑する夏凜を他所に、残る五人は風を中心にして集まって、横に並んで肩を組み―――ってこれは。
「円陣!?それ必要なの!?」
「実戦には気合が必要なんでしょ?…っていうかあんたちょっとこれゴツすぎるわよ紘汰。何とかならないの?」
「んなこと言ったってしょうがないだろ!」
「落ち着いて紘汰君。日本男子たるものこのぐらいがちょうどいいと私は思うわ。」
「ほら、夏凜ちゃんもこっち!」
「…。ったく!しょうがないわね!」
欠けた円の一角に渋々といった体の夏凜が収まり、円陣が完成した。
繋がる腕を通じて、皆の力が流れ込んでくるようだ。今ならきっと、どんな敵とでも戦える。
「あんた達。買ったら好きな物なんでもおごってあげるから、絶対に死ぬんじゃないわよ!」
頼れる皆の部長、風がいつもの調子で皆を鼓舞する。
「よーし!おいしいモノい~っぱいたべよっと!肉ぶっかけうどんとか!」
楽しい未来を信じる友奈には、気負いは無い。
「いわれなくても殲滅してやるわ。ぐずぐずしてたらアンタ達の出番なんてなくなると思いなさい。」
不敵な笑みを浮かべた夏凜が、強気な言葉を言い放つ。
「私も…。やりたいこと、やっと見つけられたから。こんなところで止まりたくない。」
そう言い切った樹の目は、夢への道を見据えていた。
「頑張って皆を、国を、守りましょう!」
護国の誓いと友への思いが、東郷の中で静かに燃えている。
「皆で勝って、ハッピーエンドだ!やろうぜ皆、ここからは俺たちのステージだ!!」
絶対に守る。誓いを新たに、紘汰は仮面の下で気炎を上げた。
「よぉーーーし!勇者部ファイトォーーー!!」
「「「「「おぉぉーーー!!!」」」」」
『出陣!』
「よし、殲滅!」
「私たちも行くわよ!」
夏凜の精霊、義輝が吹く法螺貝を合図に飛び出した夏凜に、東郷を除く皆が続く。
遠距離支援を担当する東郷は、その場でそのまま射撃体勢に入った。
「侵攻速度にばらつきがある…?」
取り出した端末で敵の位置を確認した東郷が、そう呟いた。
『獅子型』と書かれた一際大きなマーカーを殿として、残るマーカーがそれぞれのスピードでこちらに近づいてきていた。
一番近いのは『牡羊型』と書かれたマーカー。この分ならばもうすぐ接敵だ。
大勢で攻めてきた割にはその利を生かそうとしていないように見えるその行動に、東郷は内心で首を傾げる。
二度目の戦いのとき、あれほどまでに厄介な連携攻撃を仕掛けてきたバーテックスが今更そんな稚拙な戦闘を行うだろうか?
しかし、今考えていても答えは出ない。相手の意図が読めない以上、まずは適宜対応していくしかないだろう。
僅かな逡巡の末に意識を切り替えた東郷は、端末を消すとスコープを覗き込んだ。
「獅子型のあいつは…。なるほど明らかに別格ね。でも、まずは…。」
空を駆ける。
先頭を行く夏凜の姿は、まさにそう表現するのに相応しい。
勇者部随一の身軽さを以って敵の元へとひた走る夏凜の顔には今、笑みが浮かんでいた。
風を切る音が、耳に心地いい。
目の前から迫りくる敵の威圧感は相当なもののはずだったが、不思議と今は気にならなくなっていた。
不安よりもむしろ高揚感を感じるその理由に、夏凜は薄々気づいていた。
認めるのは癪だが、どうやら少し―――
(頼もしい、と思ってるのかしらね。)
お気楽な、素人集団だと思っていたはずだった。
数多のライバルがひしめく中、努力を続けて勇者の座を勝ち取った自分と違って、たまたま運よく選ばれただけのニセモノの勇者達。
だからずっと、自分一人だけで戦っていくんだと思っていた。
足手まといを抱えるぐらいなら、一人でやった方が効率がいい―と。
でも今は、そうじゃない自分がいる。
正式に勇者として配属され、慣れない学校生活の中で彼女達と触れ合ってきた。
大事なお役目よりもくだらない日常に重きを置くその姿に、最初はイラついたりもしたけれど、それも少しずつ気にならなくなっていた。
こんな自分を見て、あのライバルたちは“絆された”なんて思うのだろうか。
そうなのかもしれない。けど、きっとそうじゃない。
お気楽で、ノーテンキだけれど、彼女たちはちゃんと戦う理由を持っていた。
皆の為に、誰かの為に戦うというその姿勢は、ともすれば勇者として戦うために戦ってきた自分よりも強いのかもしれない。
そんな彼女たちだから背中を預けてもいい、とそう思ったのだ。
「でも、だからと言って最強勇者の称号を譲る気はないわ!一番槍、もらったぁあああああ!!!」
まず一体。
突出してきた細長い体を持つ牡羊型のバーテックスの顔面に、走る勢いはそのままに、全身の捻りを加えた右の一刀を叩き込む。
渾身の一撃は、バーテックスの顔面を大きく切り裂きその頭部を大きく損傷させた。そこにすかさず、青色の弾丸が突き刺さる。
刀を振った勢いのまま上下反転した姿勢でそれを確認した夏凜は、その狙撃手がいるであろう位置を一瞥し口角を釣り上げた。
前回の戦闘では紘汰以外はあまりわからなかったが、やっぱり中々いい腕をしているようだ。
斬撃に加えて銃弾を真正面から受けたバーテックスは急激に失速し、その巨体は地面へと沈んでいった。
夏凜は空中で器用に身を捻り、倒れたバーテックスの側へと着地する。
「まず一体、封印するわよ!!」
夏凜が地面に刀を突きさし、封印が開始される。
「すごいよ夏凜ちゃん!」
「他の敵が来る前に、まず一体確実に倒すわよ。東郷!周囲の警戒お願いね!」
封印の光に包まれたバーテックスが、苦し気に身悶えする。
抵抗するように震えたバーテックスだったがそれも一瞬のこと、すぐにその下半身ともいうべき部分から、存在の核たる御霊を出現させた。
しかし、もちろんそれだけでは終わらない。
出現した御霊は、最後の抵抗というように超高速で自転運動を始めたのだった。
「なに…回ってんのよ!!」
すかさず夏凜が、残っていた左の刀を御霊に向かって投擲する。
夏凜の技量と勇者の膂力によって投擲された刀は重心を軸に回転しながら直進し、御霊へと直撃する―――が、しかしそのままはじかれてしまった。
「ちっ!」
自分の武器が粉々になるその光景に、思わず夏凜から舌打ちが漏れる。
どうやら夏凜の武器では絶対的に質量が足りないらしい。
「そーいう事なら!」「俺たちに任せろ!」
『パインアームズ!粉砕!デストロイ!!』
相性の悪い夏凜の代わりに、彼女の少し後方をついてきていた友奈と紘汰がすかさずフォローに入る。
紘汰は素早くロックシードをオレンジからパインに変えると、現れたパインアイアンを頭上で大きく振り回す。十分に遠心力を乗せるとそのまま御霊の上空へと跳躍した。
「行くぜ友奈!!おぉぉぉぉらぁ!!」
「うん!うおぉぉぉぉ!!」
紘汰がパインアイアンを真上から御霊に叩きつけ、友奈の拳が真下から御霊に突き刺さる。
上と下。両方からの打撃で大きく損傷した御霊の動きが完全に止まった。
「今だ!」
動きの止まった御霊に止めを刺すため、紘汰は左腰に装着された無双セイバーを逆手のまま引き抜いた。
そしてそのまま、柄尻とパインアイアンの柄を接続する。
『一、十、百、千、万!パインチャージ!』
「いっけぇぇぇぇぇぇ!」
黄色いエネルギーが、ロックシードから無双セイバー、そして鎖を伝って御霊に突き刺さったままのパインアイアンの先端へと伝達される。
そこから送り込まれた膨大なエネルギーが御霊の内部を稲妻の様に駆け巡った。
そしてやがて、御霊はそのエネルギー量に耐え切れず―――大爆発を起こした。
「よっしゃあ!!」
「やったね紘汰君!」
「フン。なかなかやるじゃない。」
七色の光が天に還っていく横で、ひとまずの勝利を分かち合うようにハイタッチを交わす友奈達をスコープ越しに見ながら、東郷は静かに微笑んだ。
しかし、すぐに表情を引き締めなおす。幸先はいいがまだ一体。他に六体も控えているのだから油断はできない。
それにしても―――
「今の敵の動き…。まるで叩いてくれと言わんばかりの突出…。」
今の一体。いくら何でもあっさり行き過ぎた。
集団戦において突出するというのは各個撃破のチャンスをみすみす敵に与えるようなものだ。
相手が突出してくるのであれば、まずはそこに戦力を集中させて迅速に撃破。その後の展開を非常に有利にすることができる。
戦力の集中―――集中?
「っ!まさか!?」
―――――――――――!!!
敵の意図に気づいた東郷がはじかれるように顔を上げた瞬間。
忍び寄ってきていた牡牛型バーテックスの大音量の怪音波が、一か所に集まっていた勇者達へと叩きつけられた。
パインアームズ何とか活躍させられました。
パインチャージはオリジナルです。
勇者部絶体絶命…!
次回(たぶん)新フォーム登場!