遂に登場したジンバーメロンの活躍です。
そして…
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
頭上に浮かぶ水球。
そこにとらわれた風に向かって、必死に声を張り上げていた。
上体を起こし、手を伸ばす。
火球の連撃を受けた体はまだ、うまく動いてくれはしない。
伸ばした手も、糸も、声さえも今は届かない。
ぐったりと動かない姉に、何もしてあげることができない。
全員が火球の直撃を受けた後、なんとか身を起こそうとした樹に追撃の火球が向けられた。
まだ満足に動けない中迫りくる火球の姿を見て恐怖に身をすくませた樹を救ったのは、同じくダメージの残る体を無理やり動かして駆けつけた風だった。
先ほどやられたばかりの火球に対して有効策を思いついたわけではない。だから風はただ、妹を守るという一心だけで火球の前に自らの身を割り込ませた。
結果として風の体は爆発により木の葉のように吹き飛ばされ、その先で水球に捕まった。
先ほどまでのバスケットボール大などという生易しいサイズではない。
人ひとりを完全に覆ってなお余りあるような体積を持つその水球に、火球の衝撃で息を吐き出させられた状態のまま風は捕まったのだ。
とらわれた直後、脱出しようともがいていた風の体は今、完全に停止している。
「お姉ちゃん!嫌だよぉ…お姉、ちゃん…。」
風の笑った顔、怒った顔、泣きそうな顔。
今までかけてくれた色んな言葉が樹の頭の中を駆け巡る。
何でそんなものが今、浮かんでくるのか。
これではまるで―――
「ダメ…ダメだよ!嫌…助け、て…助けて―――お兄ちゃん!!」
――――!!
風が、通り抜けた。
泣いている樹を撫でていくような、激しくも優しく、そして暖かい風が。
感じた風に、樹の頬に先ほどとは違う涙が伝う。
声は聞こえない。姿も見えなかった。でも、確信がある。
今、横を通り抜けていったあの風の正体なんて、そんなものは確かめるまでもない。
意識が、沈んでいく。
水球の中でなすすべなく揺蕩いながら、風は自分の意識が消えかかっていくのを感じていた。
こんなところで終われない。
皆を残していくことなんてできない。
いくらそう思ったところで、酸素を失った体はピクリとも動かせない。
視界が、端から白く塗りつぶされていく。
樹の声が、どんどん遠くなっていく。
――皆…ごめ――
その瞬間。
消えかけていた風の視界を翠の光が覆いつくした。
体中に纏わりついていた水が一瞬にしてはじけ飛ぶ。
それと同時に感じるのは、浮遊感と自らの体を抱える誰かの腕の感触。
はじけ飛んだ水球のしぶきが光を反射してキラキラと輝いている。
ぼやけた視界に映るそれは、なんだかとても綺麗だった。
「カハッ!ゲホッ!ゲホッ!」
呑み込んだ大量の水を吐き出すとともに、大きく息を吸い込んだ。
酸素を失った体が、貪欲にそれを求めている。
未だ焦点の定まらぬ目で、体を抱える腕の先を追った。
そこにいたのは、黒と翠の鎧武者。
「紘…汰…?」
「あぁ。助けに来たぜ姉ちゃん。」
藍色のアンダーアーマーはそのままに、黒の兜に銀色の前立て。
しかし何より目を引くのは、腰のあたりまでを覆いつくした黒鉄の陣羽織。
それが鈍い光を発する中、前衿だけがメロンの模様で鮮やかな翠に染まっていた。
その名はアーマードライダー鎧武、ジンバーメロンアームズ。
それが、紘汰の纏った新しい力。
救出には成功したものの、腕の中にいる風はとてもじゃないが動けそうにはない。
一先ずは休ませる必要があると判断した紘汰は、風を抱えたまま樹の居る所へと向かった。
喜びの涙を浮かべる樹の傍に、優しくその体を横たえた。
「…よし。後は任せて、ゆっくり休んでてくれ。樹、姉ちゃんのこと頼んだぞ。」
「うん。任せて。お兄ちゃんはどうするの?」
「あぁ、俺は―――」
立ち上がり、敵の方へと振り返る。
それと同時に右手に現れたのは真紅の創世弓『ソニックアロー』。
それを強く握りしめながら、依然として空に佇む傲岸な敵を睨みつけた。
「―――アイツにしっかり、お礼をしないとな。」
地面を強く蹴りつけ、その身を空へと躍らせる。
体の痛みはもはやほとんどなく、むしろ今までより軽い。
今までのどのアームズよりも、強い力が感じられる。
迫る紘汰を迎撃せんと、レオ・スタークラスターが再度火球を向かわせた。
先ほどまで散々苦しめられた火球だが、今の紘汰にとってはもはや脅威ではない。
「そんなもんいつまでも…通用すると思うなよ!!」
左手に持ち替えたソニックアローの弦を、右手で力強く引き絞る。
放たれた光の矢は、先ほどイチゴクナイを飲み込んだ火球をいとも容易く貫き爆散させた。
一つ、二つ、三つ。
次々と迫りくる火球を、紘汰の矢が撃ち落としていく。
紘汰を脅威と判断したスタークラスターが、さらに火球の数を増やす。
多数の同時攻撃でこちらをしとめる算段らしい。
舐めるなよ、と紘汰はソニックアローを頭上に向けて弦を引き絞った。
通常より長い時間をかけチャージした矢をそのまま上空へと解き放つ。
強い輝きを放つその矢は上空でメロン状のエネルギーの塊へと形を変え、そこからさらに無数の矢を吐き出した。
鮮やかな爆炎が樹海の空を彩る。
煙が晴れたそこには、もはや火球は一つたりとも存在していなかった。
「うおおおりゃああああ!」
苦し紛れに放たれた水球を、紘汰の一振りが迎え撃つ。
ソニックアローに備えられた『アークリム』の刃は非常に鋭く、迫る巨大な水球は熱したナイフでバターを切るように両断された。
そして、それだけでは終わらない。
先ほど切り裂いた水球は、スタークラスターと紘汰を隔てる最後の障害だ。
今、彼我の距離は限りなくゼロに近い。
ここからならば、刃が届く!
『ソイヤッ!』
『オレンジオーレ!』
『ジンバーメロンオーレ!』
カッティングブレードを素早く二回、倒し込む。
あふれ出たエネルギーがアークリムを翠に染めあげた。
「これでも、くらえええええ!!」
振りぬいたソニックアローから翠光の斬撃が放たれた。
斬撃はスタークラスターの右の角へと直進し、何事も無いようにすり抜ける。
そして次の瞬間。
スタークラスターの巨大な角が、轟音を立てながら斜めにずり落ちた。
「すごい…紘汰くん…。」
身を起こした友奈が、その光景を見ていた。
全員でかかっても全く歯が立たなかった相手を、紘汰が今たった一人で抑え込んでいる。
結果として敵の攻撃は紘汰に集中し、友奈達に態勢を立て直す隙が生まれていた。
「何よアレ。アイツ、あんなに強かったの?」
友奈の背後からそう声をかけたのは、いつの間にか近づいてきていた夏凜だ。
とはいえ右腕を抑えている上に足も少し引きずっており、明らかにまだ万全ではなさそうだ。
「ううん。あの姿もあの武器も初めて見たよ。新しいロックシードかな?いつの間に手に入れたんだろう。」
「ふーん…。ま、どうでもいいけど。それより動けるならさっさと行くわよ友奈。いくら強くたってアイツ、封印はできないんでしょ?」
「は!?そうだった!待っててね紘汰くん今―――」
その時だった。
警告音と共に、二人の目の前の空間にディスプレイが投影された。
怪訝に思いながらもその画面をのぞき込んだ二人の背筋が、一瞬で凍り付く。
画面に映し出されていたのは勇者アプリに備えられたマップだ。
二人の目に飛び込んだのは、神樹様の位置を示すマーカー。そのすぐ近くに迫る『双子型』の赤いマーカー。
「神樹様の近く!?」
「しかもコイツ、小さくて早い!!マズい、神樹様が!!」
「!!お兄――――。」
ちゃん。
喉元まで出かかったその言葉を、樹はぐっと呑み込んだ。
マップによる警告は、樹の元にも同時に現れていた。
それを見た樹は咄嗟に紘汰へ知らせようとして、寸でのところで思いとどまったのだ。
確かに、今の兄ならばきっとあの双子型の敵も何とかできるかもしれない。
でも、その後は?
今の位置からあの双子型に攻撃を加えるには、あの巨大な敵に完全に背を向けることになる。
その隙を、あの執拗な敵が果たして見逃してくれるだろうか?
考えなくてもわかる。否だ。
私が声をかければお兄ちゃんはきっとすぐに答えてくれる。
そして、双子型に攻撃をした後の無防備な背中に、あの敵は―――
樹の脳裏に背後からの爆炎に呑み込まれる紘汰の姿が浮かぶ。
その想像を振り払うように頭を振り、拳を強く握りしめた。
ふらつく足を叱咤して、何とか立ち上がる。
兄の稼いでくれた時間のおかげで、何とかそこまで回復することができたようだ。
一歩、二歩と足を進め、今も目を覚まさない姉の横に腰を下ろす。
苦しそうな表情を浮かべる風を、優しい笑顔で見降ろした樹は、いつも姉がそうしてくれるように、しかし姉よりも幾分かぎこちない手つきで彼女の頭を優しくなでる。
それだけで、苦しそうだった風の表情は嘘のように安らかになった。
「いつもありがとうお姉ちゃん。それにお兄ちゃん。今度は、私の番だからね。」
そう呟いた樹が、再びゆっくりと立ち上がる。
双子型のマーカーは、今もなお神樹様に向かって進み続けていた。
もう数分もしないうちに神樹様の元へと到達してしまうだろう。
そうなればどうなるのか。
バーテックスが神樹様にたどり着いた時、世界が終わる。
それが、一番最初に風が教えてくれたことだ。
世界の終わりなんて、樹には上手く想像ができない。
でも、それが大好きなお姉ちゃんとお兄ちゃん、そして大切な皆と一緒にいられなくなることだという事だけはわかる。
そんなことは絶対に許せない。
これからもずっと、皆で笑っていたい。
皆がいる世界で、夢を追いかけていきたい。
だから――――
「だからお願いします神樹様。私に―――私の大切なものを守るための、力を!!」
樹の想いに応えるように、背中の鳴子百合を模った刻印が光り輝く。
樹の背中に刻まれているのは勇者刻印。
勇者達それぞれを現すシンボルであり、勇者達の経験の蓄積状況を図るゲージでもある。
周囲から植物の根のような光が伸び、それと共にたくさんの光が樹の体へと集まっていく。
一際大きな光が輝いて、小さな勇気の花は遂に『満開』の時を迎える。
光が収まった時、森の妖精とでもいうような姿だった樹の勇者服は大きく姿を変えていた。
羽衣を纏うその姿はまさに神の御子、あるいは天女というべきか。
「私たちの日常を。皆の世界を。絶対に壊させない。私が…私が守って見せる!!」
神々しい光を放ちながら、樹はゆっくり目を見開き、倒すべき敵の姿を見定めた。
「あれが…満開!?」
「すごい…すごいよ樹ちゃん!!」
その神々しい姿に、夏凜と友奈が感嘆の声を上げた。
双子型のバーテックスは今もなお、神樹様の元へと走り続けている。
しかし、これならばなんとかなる。そう思わせるだけの何かが今の樹からはあふれ出していた。
そしてそれは、すぐに現実のものとなる。
「そっちに、いくなああああああああああ!!!!」
樹の叫びに呼応して、背後に背負った円環から光の線があふれ出した。
それは、樹が普段武器とするワイヤーに違いない。
しかし、その量も質も段違いであった。
空間全てをからめとるように広がる光の線が、双子型へと殺到する。
背後から迫りくるそれに気づいた双子型バーテックスが、驚くほどの軽快な動きで回避を試みた。
その動きはすさまじく、銃弾などの点の攻撃ではとらえるのは至難だっただろう。
しかし、相手が悪かった。
放射状に広がり全方位を取り囲んだ光の線は回避等許すはずもなく、糸に捕らえられたバーテックスは、刑の執行を待つ罪人のように執行人である樹の元へと引き寄せられた。
「おしおき!!」
樹の号令の下、光の線が、双子型の御霊を切り裂いた。
と、言うわけで樹ちゃん満開の25話でした。
拙作では大体ジンバーアームズ≒満開勇者というなんとなくなイメージ。
常時満開みたいな状態といえば結構チート臭いですが、それ以上ではないというところがポイント。
ちなみに
万全状態の斬月・真>紘汰くんのジンバーメロン
でもあります。
少なくともスペック上では同等だった鎧武原作とは違い、明確にスペックでも差異があります。
そのあたりの事情は後々に説明が入る予定です。
参照では勇者側にもオリジナル強化を入れる予定もあったり…。
※短編という形で新作投下しました。
今流行りで私もドはまりしている鬼滅と別のライダーとのクロスです。
興味ある方はぜひ、見てやってください。