前回投稿ぐらいのタイミングでしたが、UAが二万を越えました。
大きな数字を超える時はなんかこう…感慨深いものがありますね。
いつも読んでくれる皆さん、本当にありがとうございます。
これからもコツコツ続けていきますのでよろしくお願いいたします。
忌々しい地鳴りが離れていく。
地に体を横たえたまま、東郷は自分を今まで抑え込んでいた魚型バーテックスが別の場所へ向かおうとしているのを感じていた。
先ほど遠くに見えた大きな光はきっと仲間たちのものだ。
数分前に現れ、そのままになっているマップを見る。
警告と共に現れた双子型のマーカーが、樹の付近で消滅した。
あの巨大な獅子型は、紘汰によってじりじりと後退させられつつある。
魚型を示すマーカーは、その獅子型の元へと一直線に向かおうとしていた。
仲間意識なんていうものがバーテックスに備わっているのかどうかはわからない。
しかし事実として、魚型はこちらの抑えから獅子型の救援へと行動指針を変えようとしているのは確かだった。
そしてその行動が示すのはつまり、今の東郷はバーテックスに脅威として認識されていないということだった。
「ふざ…ける、な…!」
燃え上がる激情に突き動かされるように、東郷は投げ出されていた右手を強く握りしめた。
爪が樹海の樹木を削り、表面に僅かな傷を付ける。
震える腕で上体を起こし、巨体を揺らしながら離れていく魚型を睨みつけた。
自分の武器と与えられた役割に、東郷はいつもほんの少しだけ後ろめたさを感じていた。
東郷の主武装は狙撃銃。
勇者部の中で唯一、完全な遠距離武装だ。
冷静な東郷の頭は、役割分担なのだと、戦術的にそれが一番いいのだということは理解している。
しかし、皆が危険な最前線に身を晒している中、自分だけが安全な後方で銃を構えているという状況に何も感じていないわけではなかった。
だからこそ自分のやるべきことを、与えられた役割を全うする。
もどかしさは心の内に仕舞い込み、自分なりの信念をもって引き金を引いてきた。
それが今はどうだ。
後方からの援護を任された身でありながら、牡牛型に捕まった皆を助けてあげることができなかった。
獅子型が暴威を振るった時には、自分の専門であるはずの遠距離で強烈な反撃にあい、こうして無様を晒している。
そして今、対自分用に用意されていたであろう敵にすら侮られ、最大の敵への合流を許そうとしている。
一番大事なところで役に立てていない。
そんな自分の不甲斐なさが東郷には許せなかった。
皆の危機をこれ以上、指をくわえてみているなんて、そんなのは絶対に嫌だ!
東郷の勇者服。
その胸元にある朝顔の刻印が強い光を放ち始めた。
戦いの中で蓄積されてきた力が解放の時を待っている。
東郷の頭の中には今、巨大な引き金がイメージとして浮かんでいた。
その引き金を引く指は、東郷自身の強い想い。
どうすればいいのかなんて、考えるまでもない。
「皆のところへ―――行かせる、ものか!!!」
押されつつある獅子型の元へと、魚型バーテックスは猛スピードで向かっていた。
視界の先には、獅子型を相手取る小さな存在が見えている。
どこか馴染みのある気配を感じるその存在は、自分たちにとって今一番の脅威だ。
距離が近づく。
背後からの奇襲に向けて、魚型は地下へと体を潜航させた。
そして対象を射程圏内に捉えたと同時に、その身を空へと躍らせた。
―――その瞬間。その体を、青い砲弾がぶち抜いた。
「!!??」
体勢を維持できず魚型の巨体がそのまま地面へと叩きつけられる。
突如大穴の空いた自分の体に、理解が追い付かない。
体を捩り、背後へと向ける。
ついさっきまで相手をしていた敵がいた場所。そこには巨大な青い光が浮かんでいた。
不退転の心を胸に、聖なる衣を身に纏う。
そして背中に背負うのは、大きく開いた
その光は名を、東郷美森と言った。
「我―――」
満開の衣装に身を包み、東郷がゆっくりと顔を上げた。
それと同時に起き上がるのは左右四対、八門の砲塔。
額に当てた日の丸が、熱く赤く燃えている。
「敵軍ニ―――総攻撃ヲ実施ス!!!」
東郷が、右手をすっと天へとあげた。
その動きに従って、八門の砲塔が一斉に魚型へと向けられる。
砲塔の先端に青い光が集まっていく。
危機を感じた魚型が紘汰へと向けられていた矛先を東郷へと戻した。
土煙を上げながら飛び上がり、巨体による体当たりを敢行する。
こちらへと向かってくる巨大な質量に、しかし東郷の目は揺らがない。
両目はしっかりと倒すべき敵を見据え、最大火力を叩きつけるタイミングを計る。
そして遂にその時はやってきた。
「斉射!!!」
東郷が手を振り下ろした瞬間、一斉に砲弾が放たれる。
先ほどまで完全に受け止められていたはずの東郷の攻撃は、いとも簡単に魚型を爆炎の中へと包み込んだ。
外殻を完膚なきまでに破壊され、残されたのは無防備な御霊のみ。
「どうやら封印は必要なかったみたいね。これで―――終わりよ。」
再び、東郷が右手を構える。
八門の砲台から生まれた光が一点へと収束し、放たれた砲弾が御霊の中心を貫いた。
大地を大きく揺らしながら、レオ・スタークラスターが倒れていく。
その光景を見届けながら、紘汰はひとまず息を吐いた。
一息ついたとはいえ、もちろんまだ撃破したわけではない。文字通り倒しただけだ。
ただ、あの巨体であるならば起き上がるにも多少の時間はかかるはずだ。
既に回復し始めているとはいえその体もあちこちに傷が刻まれている。
「お兄ちゃん!」
背後から聞こえてきた妹の声に振り向くと、そこには見慣れぬ恰好をした樹と、そんな樹に肩を貸してもらいながら弱々しい笑みを浮かべる風の姿があった。
「ごめん紘汰。色々迷惑かけたわね。」
「いいんだよ。それより大丈夫なのか姉ちゃん。まだ、じっとしてた方が…。」
「平気…とは言わないけど、もう大丈夫よ。こんな状況でいつまでも寝てらんないでしょ?」
樹の肩から離れて一人で立った風が、いたずらっぽく片目を閉じてそういった。
強がりなのは明らかだったが、紘汰はあえて何も言わなかった。
逆の立場だったらと思えば、風の気持ちもわかるというものだ。
その代わりといっては何だが、そんな風の様子を心配そうに見つめていた樹の方へと歩みより、その頭をポンポンと撫でてやる。
「見てたぞ樹。やっぱすげぇよお前は。流石、俺の妹だな!」
「み、見てたの!?…えへへ…そう、かな…?」
「ちょっと!『俺の』って何よ!樹は私の妹でもあるんだからね!独り占めは許さないわよ!」
「そんなのどうだっていいだろ!」
そのままギャーギャーとじゃれ合いを始めた二人に、樹の顔も自然と綻んだ。
未だ予断を許さない状況であるのは確かだが、これまであれだけ緊張の連続だったのだ。
いつものやり取りが見れたというだけで、樹の心は嘘のように軽くなっていた。
このままずっと見ていたいとも少し思った樹だったが、流石にそれはよくないと考えなおし、そろそろ止めようかなと思ったところで別の声が割り込んだ。
「おーい!紘汰くーん!風せんぱーい!樹ちゃーん!」
「ちょっとアンタ達何やって…いや、ホント何やってんの?」
声のした方から姿を現したのは、友奈と夏凜だった。
嬉しそうに駆け寄ってきた友奈とは対照的に、夏凜は呆れたような表情を浮かべていた。
こんな状況でコントを始めている犬吠埼姉弟を見れば、付き合いの短い夏凜としてはそうなるのも無理はないのかもしれない。
「ええい離せ姉ちゃん!!友奈!夏凜!お前らも無事みたいだな。」
「うん!紘汰くんたちが頑張ってくれたおかげだよ!」
「トーゼンでしょ。アンタらとは鍛え方が違うのよ。…ま、アンタも思ったよりはやるようだし?おかげでちょっとは楽させてもらったわ。」
「またそんなこと言って。さっきはすぐに紘汰くんのこと助けに行こうとしてたのに、素直じゃないなぁ夏凜ちゃんは。」
「な!?友奈アンタ何言ってんの!?」
「そうなんですか夏凜さん?」
「わ、私は別に…その…コータ!だいたいアンタが危なっかしいのがいけないのよ!」
「俺のせいかよ!?」
二人が合流したことで話の流れが変わるかと思いきや、より一層騒がしくなってきた。
勇者部らしくて大変結構だが、いつまでもそうしているわけにはいかない。
風は大きく二度三度手を打ち鳴らすと、さっきまでの自分の行動は棚に上げて仕切り直しを開始した。
「ハイハイ、そこまで。夏凜が素直じゃないのはわかった「だから違うって言ってんでしょーが!!」…から、それよりも東郷は?」
「私ならここですよ風部長。」
その声と共に、勇者部の面々の上に影が差す。
皆が見上げた先には、巨大な空中戦艦が浮かんでいた。
東郷の声は、その上から聞こえてくる。
実際に近くで見たその大きさに圧倒されて誰もがポカンと口を開ける中、親友の凱旋に大喜びの友奈は、その喜びを全身で表すように大きく両手を振りながら頭上の東郷へと声をかける。
「おぉ~やっぱりでっかい!さっきの見てたよ!カッコよかったね東郷さん!」
「ありがとう友奈ちゃん。友奈ちゃんも皆も、無事でよかったわ。」
ようやく見えた友奈の元気そうな表情に安堵の表情を浮かべた東郷は、移動式の砲台を操り皆の元へと高度を下げた。
東郷が合流し、とうとう全員が集まった。
最初に比べて皆それぞれボロボロだが、結果として誰一人かけることなくここまでこれた。
残る敵は後一体。
誰もが真剣な顔で頷き合い、最後の敵へと目を向ける。
紘汰によって地面へと押し倒され、その後なぜか起き上がる気配を見せなかったレオ・スタークラスター。
それを視界に収めた瞬間、誰もが一様に凍り付いた。
「何よ…あの、ヤバそうな元気っぽい球……!!」
言葉を漏らす風の顔に、冷や汗が浮かぶ。
倒れたままのレオの体の中心から、絶え間なくあの火球が生み出され続けている。
それは今までのように単体で並ぶのではなく、すべての火球が空中のある一点を目指して移動していた。
その収束点に浮かぶのは、煌々と燃える巨大な炎球。
今までの火球がただの火の粉に見えるほどの莫大な熱量が、樹海の空に顕現していた。
そして、火球の供給が遂に途切れる。
充填は既に十分以上。内圧により今にも大爆発を起こしそうなそれが、勇者達の元へと放たれた。
「いけない!」
焦りを帯びた東郷の声に、すぐに動き出せるものは居なかった。
あまりにわかりやすすぎる圧倒的な暴力に、今まで必死に見ないようにしてきた二文字が頭をよぎる。
その時だった。
誰もが身を竦ませる中、地面を強く蹴りつけて、真正面から脅威へと向かっていった影がある。
どんな時でも誰より先に、一歩踏み出すその人は―――
「お兄ちゃん!?」
無双セイバーとソニックアローを体の前で交差させ、紘汰が巨大な炎球へと向かう。
どうにかできるなんて確信があったわけじゃない。
でも、どうにかしなきゃいけないと思った時にはもう、体が勝手に動き始めていた。
「こいつは俺が何とかする!皆は今のうちに封印を!!」
「無茶よ紘汰!一回戻って皆で―――」
「信じろ!!!!」
短いその言葉には、紘汰の決意が込められていた。
大切な人たちを、絶対に守って見せる。
その想いがある限り、何があろうと倒れはしない。
そしてその決意に応えるように、戦極ドライバーに装着されたメロンエナジーロックシードが一際大きな光を放った。
それはロックシードを中心に広がり、光の幕となって紘汰の全身を包み込む。
使用者の意志に反応して展開される電磁シールド。
それは“守りたい”という想いが生んだ、ソニックアローとは異なるジンバーメロンアームズのもう一つの特性だった。
強い想いが込められた紘汰の言葉に、風は何も言えなくなった。
続けようとした言葉は霧散して、その口からは意味を結ばない音がわずかに漏れるだけ。
そんな風の肩に、友奈が後ろからそっと手を置いた。
一瞬だけビクリと震えて振り向いた風の目には、いろんな感情がごちゃ混ぜになった複雑な色が浮かんでいる。
風の不安が少しでも安らぐようにと微笑みながら、友奈は静かに口を開いた。
「信じましょう。風先輩。」
「友奈……。」
「ああいう時の紘汰くんは…誰かを助けようとする紘汰くんは、きっと誰よりも強い人だから。だから、今度もきっと大丈夫です。だから信じて、私たちのやらなきゃいけないことをやりましょう。紘汰くんのためにも。」
「……そう。そうよね。そうだったわね。あいつはそういう奴だった。お姉ちゃんの私が、あいつを信じてあげなくちゃね。」
友奈の言葉に、風もようやく覚悟を決めた。
いつも危なっかしい弟は、危なっかしくても頼りになる弟だった。
お役目が始まってからこっち、ちょっと過保護になりすぎているみたいだ。
両手で頬を強く叩いて弱気な自分を叩きだすと、皆の方へと向き直る。
弟と同じぐらい頼りになる後輩たちは、強い瞳でこちらを見つめ、風の号令を待っていた。
頼もしいその表情に、風の顔にも自然と笑みが浮かぶ。
「よしっ!皆、ここが踏ん張りどころよ!―――勇者部一同!封印開始!!!」
「「「「了解!!」」」」
先に行った紘汰に負けないようにと、勇者達は強く一歩を踏み出した。
ジンバーメロンの特性は公式には明言されていないのですが、小説版で若干それっぽい描写があったことから一部では言われているバリア発生を採用。
単純に防御力強化でもよかったのですがせっかくですので…。
今回の話、書いてて一番苦労したのは東郷さんの満開描写。
真面目なシーンのはずなのに文字に起こすとなんかギャグっぽくなるという罠。
色々試行錯誤して今の感じに落ち着いたのですがここでかなり指が止まりました…。
ホントは今回の話で御霊出現まで行くはずだったのですが、中途半端になったのでここまでで調整しました。
次回とうとう決着…予定!