咲き誇る花々、掴み取る果実   作:MUL

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気づけば投稿開始してほぼ一年。
まさか第一章が終わっていないとは一年前には全く想像できていなかった…。
改めて、完結目指して頑張っていきます。


内容は今度こそホントの日常回。
夏合宿前編です。


第30話

退屈という難敵と戦いながらも紘汰は驚異的なスピードで回復し、東郷に遅れること数日、二週間そこそこという期間で退院にこぎつけた紘汰だったが、流石に終業式には間に合わず、戻ったころには既に学校は夏休みへと突入していた。

紘汰の居ない間にも勇者部では色々とあったらしく、中でも特に夏凜が正式に卒業まで讃州中学に在籍できることが決まったのは一番のニュースだった。

とはいえ本人である夏凜以外はそんなこと確認するまでもなく当然卒業まで一緒だと思っていたものだから、正直言ってそれ自体寝耳に水といった感じだったが、それでもめでたいことには変わりない。

その情報を病院のベッドで伝え聞いた紘汰は早速夏凜へとお祝いのメッセージを送り、その後しばらくして帰ってきた短い“ありがと。”という言葉に、教えてくれた友奈共々顔を綻ばせたのだった。

 

そして時は夏真っ盛りの八月某日。

勇者部総勢六名は今―――海へとやってきていた。

 

「おせぇ……。」

 

どこからか流れてくる夏らしい音楽と賑やかな潮騒を耳に感じながら、紘汰は突き刺すような日差しから逃れるようにパラソルの影でボーっと体育座りをしていた。

朝早くから大赦が用意してくれた車に揺られ、目的地に到着してまずはこれまた大赦が用意してくれたちょっと高級な旅館にチェックインを済ませた後、部長である風からの、着替えてすぐに浜辺に集合!という指示でその場は一時解散となった。

皆と別れ、荷ほどきもそこそこにさっさとオレンジを基調としたポップなデザインの海パンに着替えた紘汰は、浜辺に到着するなり任されていた通り適当な場所にビニールシートを敷き、パラソルを立て、そこで他の皆の到着を待っていたのだった。

とはいえ簡単に終わる男と違って女の子はやっぱり色々と時間がかかるもので、先ほどからずっと待ってはいるものの、待てど暮らせど他の面々がやってくる気配はない。

それを待つのも男の役目……とは言え中学生の紘汰にそれを理解しろというのも難しく、さらには長い病院暮らしでフラストレーションをため込んでいたのも相まって、お預けをくらった形の紘汰は今にも飛び出していきたい気持ちを必死に抑え込んでいた。

そしていい加減、紘汰の体が無意識に前傾姿勢を取り始めた頃…

 

「おっまたせ~。場所取りご苦労様。悪かったわね紘汰。」

「おっせぇよ姉ちゃん!どんだけ待ったと…思っ…て……。」

 

背後から聞こえた声に、文句の一つでも言ってやろうと振り向いた紘汰の体が硬直した。

 

海岸に、花が咲いている。

 

得意げな顔をした風を先頭に、そこには色とりどりの水着に身を包む勇者部のメンバーたちが並んでいた。

もはや見慣れた顔ぶれであるはずなのに、装い一つでこんなにも印象が変わるものなのか。

その威力は周りからはよく鈍い鈍いといわれている紘汰をして、気恥ずかしさから目をそらし、黙らざるを得なくさせるほどだった。

 

「ゴメンゴメン。で~もぉ、待った甲斐あったでしょ~?」

「な、何言ってんだ。お、俺は別に!その…。」

 

急にぎこちなくなった弟の様子に、風はニンマリと人の悪そうな笑みを浮かべた。

体ごと視線をそらした紘汰の前に何度も回り込みながら、普段中々見られない弟の表情を堪能する。

 

「ホラホラ。なんか皆に言う事あるでしょ?」

「う…。いや…えーっと………皆、すっげぇ似合ってると…思う。

 

ようやく絞り出した言葉は、紘汰にしては珍しく蚊の鳴くような小ささだったが、注目していた皆の耳にははっきりしっかり届いていた。

期待通りの言葉を引き出して更に笑みを深くした風だったが、尚も攻撃の手を緩める気はない。

今がチャンスとばかりに、さらなる追撃を敢行する。

 

「んー?聞こえませんなぁ~。はい、もっと大きな声で!」

「…あぁもういいだろ!俺は先に行くからな!!」

 

姉からの攻勢に耐え切れなくなった紘汰が選択したのは逃亡だった。

皆に完全に背を向けて脱兎の如く駆けだした紘汰は、すれ違う人たちをぎょっとさせながら、そのままの勢いで海へと突入していった。

後ろから見てもわかるほどに耳が赤くなっていたので、相当恥ずかしかったのだろう。

 

「あっちゃー。やりすぎちゃったかー。ま、今日はこんなところで許してやるとしましょうか。さ、私たちも…って、あんた達どうしたの?」

 

額に手を当てながら、海の中へと消えていく紘汰を眺めていた風が振り向くと、そこにあったのはこれまた様子のおかしい部員達の姿。

少し顔を赤らめながら、落ち着かない様子で視線をさまよわせている。

樹なんかは声が出なくなって以来、コミュニケーションの為に常備しているスケッチブックの後ろに完全に顔を隠してしまっている。

 

「あはは…。流石にああいう反応をされると……。」

「こちらもちょっと照れるというか……。」

“恥ずかしい…”

「…と、とにかく私たちも行くわよ!」

 

ごまかすように駆けだした夏凜の後に続いてそれぞれ思い思いの方向へと散っていく。

夏凜は海へ、樹は荷物を置きにパラソルの下へ。

友奈と東郷はとりあえず浜辺を散歩するようだ。

 

「結果は相打ちってとこね…。」

 

そそくさと去っていった後輩達に苦笑しながらそう呟いた風は、ほんのりと朱の差した自分の顔に気づかれないように、一先ず屋台へと向かうのだった。

 

 

 

 

「風~!いつまでそんなところで座ってるつもり?こっちの体は出来上がってるわ!競泳で勝負よ!」

「おーおー元気な後輩ね。しゃーない。瀬戸の人魚と呼ばれた私が格の違いを見せてあげるわ。」

「お、なんだよ二人とも。勝負か?俺も混ぜてくれよ。」

「来たわねコータ。面白いじゃない。二人まとめてコテンパンにしてやるんだから。」

 

パラソルの下。樹と二人でかき氷を食べていた風に夏凜が挑戦状を叩きつけ、紘汰がそれに乗っかった。

意気揚々と波打ち際へと向かう三人についていこうとした樹だったが、焼けるような砂浜の熱さがそれを阻む。

ビニールシートから一歩踏み出した途端、その熱さに驚いてすぐに足を引っ込めてしまった。

 

「どうしたの樹?熱いの?」

「心頭滅却!!熱いと思うから熱いのよ。」

 

夏凜の体育会系過ぎる助言に、文化系の樹はムリですと言うように首を激しく左右に振った。

その様子を見かねた紘汰が進行方向を変え、苦しむ妹の元へと駆けつける。

 

「オイあんま無茶言うなって。仕方ねぇな…ほら。」

「!!??」

 

そのまま地面に膝をつき、紘汰は背中を差し出した。

僅かに前傾し、両手を左右にゆるく広げたその恰好は、どこからどう見てもおんぶ待ちのそれだった。

こんな場所で?こんな格好で?

気持ちはありがたいけれど、兄妹とは言え流石にそれは恥ずかしい。

そんな樹の気持ちに気づくことも無く、中々来ない妹に紘汰は怪訝な顔を向ける。

 

「?どうした樹。遠慮すんな。」

 

そういう問題じゃない!

視線にそんな気持ちを込めて兄を見返した樹だが、それを察することができるような紘汰ではない。

助けを求めるように他の二人に視線を向けたが、風はニヤニヤとこちらを見つめるだけで何も言ってはくれないし、夏凜は夏凜で少し顔を赤らめながら成り行きを見守る構えだった。

―――援軍は期待できない。

それを確信した樹は再度兄の背中へと向き直った。

紘汰は未だに同じ姿勢で樹の搭乗を待ち続けている。

明らかに何もわかっていないその顔はいっそ憎たらしいほどだった。

別に樹だって嫌だというわけではない。

気遣ってくれる紘汰の気持ちは嬉しかったし、むしろ本当に正直な話をすれば久しぶりに兄におんぶしてもらえるというのはかなり魅力的な提案だった。

それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。

砂浜の熱さと自分の欲求、それと羞恥心を天秤にかけた樹は…

 

「おっし!じゃあいくぞ樹!しっかり捕まってろよ。」

「……。」

 

結局、欲求に従うことにした。

周囲の…特に姉からの視線が痛い。

自分は今、かつてないほどに顔が真っ赤になっているだろう。

本当に火が出るんじゃないかというほどに顔が熱い。

さらに言えば樹は背負われながらも極力密着しないように体を離し、かつ顔を見られないように兄の体の影に隠れるという中々無理な姿勢を要求されていた。

今更ながら、正直走った方が早かったと思わなくもない。

 

「こうやってお前をおんぶすんのも久しぶりだよなぁ…いつの間にかこんなにも重くなってたんだな。」

「~っ!!」

「うぉっイテェ!暴れんなって!ごめんごめん悪かったよ樹!」

 

失礼なことをのたまった紘汰の背中をペチペチと叩きながらも波打ち際まで運んでもらった樹は、背中を降りてすぐに熱くなった顔を冷やすため、頭から海へと飛び込んだ。

怒ったように去っていった樹に困惑している兄に向かって、水中から舌を出した樹はそのまま友奈と東郷がいる方へと向かっていく。

 

…死ぬほど恥ずかしかったがまぁ、総じてみれば悪くない時間だったという事だけは確かだった。

 

 

 

ちなみにそんな一部始終は、風と夏凜に勿論バッチリみられていた。

 

「いやいやいやいや。ちょっと待って。うちの妹、可愛すぎない?これほんとにタダで見てていいの?後でお金払わなきゃいけないとかそういうことない?いや、払うけど。」

「…風、アンタ。」

「私は今猛烈に後悔してるわ夏凜。なんで今、私の手にはビデオカメラが無いのかしら。大赦に言ったらもらえたりしない?こう…市販されてない超高性能なやつとか。」

「知らないわよ…。」

 

要請を真剣に検討し始めた風にため息を吐きながら、とりあえず風の腕を掴んで紘汰達の元へと引っ張っていく夏凜だった。

 

 

 

 

鋭い一撃が風を切り裂きながら紘汰の頭上へと迫る。

咄嗟に二刀を交差させその一撃を受け止めた紘汰は、自分の失策に気づき内心でしまったと声を上げた。

案の定、先ほどの一撃を繰り出した相手――夏凜がニヤリと笑い、がら空きになった紘汰の胴へ向け逆側の手に持った得物を突き出した。

誰もが決まったと思ったその攻撃に、しかし紘汰は反応した。

体を投げ出すように地面へと倒れた紘汰は、そのまま恥も外聞もなく転がって距離を取ると、夏凜から数メートル離れた位置で立ち上がり、再び構えを取った。

海水と汗でぬれた体は完全に砂まみれになっていたが、そんなことを気にしていられる相手ではない。

額から流れた冷や汗を紘汰は手の甲で拭い、一つ息を吐いた。

 

「チッ。しぶといわね。」

「それが俺の取り柄だからな。」

 

距離を維持しながら睨み合い、軽口を応酬する。

二人が両手に持っているのはスポーツチャンバラ用のエアーソフト剣。

海の家でレジャー用に貸し出しをしていた代物だ。

事の発端は先ほどの水泳勝負。

姑息な手段でフライングスタートを切った瀬戸の人魚(自称)を割とあっさりと抜き去った紘汰と夏凜だったが、二人の着順は全くと言っていいほど同じだった。

当然負けず嫌い二人はお互い負けを認めようとはせず、ならば戻ってもう一勝負ということになったのだ。

そこで選ばれたのがこのチャンバラ勝負。

正直正式な訓練を受けている夏凜が相手ということで、公平じゃないのでは?という意見も上がったが、紘汰が一も二も無く快諾した。

意地というのもあるにはあるが、紘汰としては同じ二本の刀を使う者として、自分の力が夏凜にどのぐらい通用するのかこの機会に試してみたかったというのがこの勝負を受けた最大の理由だった。

 

「紘汰くーん!夏凜ちゃーん!どっちも頑張れー!!」

「紘汰ー!簡単にやられるんじゃないわよー!見事にお姉様の仇を取って見せなさい!」

「二人とも、骨は拾ってあげるわ。存分に腕を振るいなさい。」

“そ、それはちょっと…”

 

外から友奈達の声が聞こえる中、正直言って紘汰は攻めあぐねていた。

専用の訓練を受けた完成型勇者の名前は伊達じゃない。

こと技術において、三好夏凜は何枚も格上だった。

そこで競っても、紘汰には一切勝ち目がない。

それならば、勝てるところで戦うしかない。

 

「行くぜ夏凜!」

「来なさいコータ!」

 

砂を蹴り、紘汰が突っ込む。

夏凜は動かず、その場で迎え撃つ構えだ。

流石様々な運動部からラブコールを受けるフィジカルお化けだけあって、その速度と威圧感は夏凜でも舌を巻くほどだ。

しかし、それでもそんな単純な突進にやられるほど夏凜も甘くはない。

一瞬で速度を計算し、タイミングを計る夏凜。

そして、紘汰が夏凜の間合いに飛び込むその瞬間に、最高のタイミングで横凪の一撃を放った。

 

(手ごたえ―――無し!?)

 

会心の横凪が空を切り、夏凜の顔が驚愕に染まる。

夏凜に向かって真っすぐ突撃してきていたはずの紘汰は、間合いのギリギリ外で完全に停止していた。

紘汰の足元の砂が、深くえぐられている。

一瞬遅れて夏凜は自分の足に飛ばされた砂がかかるのを感じた。

あろうことか紘汰は、あの突撃の勢いを一瞬で止めて見せたのだ。

視線が交錯し、今度は紘汰がニヤリと笑う。

 

「なめ、るなぁ!!」

 

確かに驚いたが、一度回避されたからと言ってなんだというのか。

動揺を一瞬で乗り越えた夏凜が更に一歩踏み出し、逆の腕を振りかぶった。

踏み込み分長くなった間合いでの攻撃ならば、あの位置でも届く。

しかし唐竹の一閃を見舞おうとした夏凜の視界には、既に紘汰は居なかった。

 

(―――っ左!?)

 

夏凜の正面右側に向かって、もう一度砂がはじけ飛んでいた。

あれだけ無茶な制動をかけてすぐにこれだなんて、なんて無茶だ。

しかしそんなことを考えている暇は今の夏凜には無い。

背筋を走った悪寒に従い、攻撃に使うはずだった腕を咄嗟に防御へ振り分ける。

直感通り、夏凜の剣は紘汰が振り下ろした剣に接触し―――そしてすぐにはじかれた。

 

(ま、ずい!!)

 

受けきれないと感じた瞬間、夏凜の判断は早かった。

剣をはじかれた勢いで崩れかけた体制を立て直そうとするのではなく、そのまま利用し前方へと回転。

追撃の一撃をギリギリ回避して牽制のために腕を振るう。

正直苦し紛れだったのだが、紘汰も流石に限界だったようでそれ以上の追撃を避け再び距離を取ってくれた。

 

「くっそぉ~行けると思ったんだけどなぁ!」

「ハァ、ハァ…ア、アンタねぇ!何よ今の!滅茶苦茶じゃない!!」

 

ギリギリでピンチを切り抜けた夏凜が、息を整えながら夏凜は紘汰に抗議の声を上げた。

意表を突いたといえば聞こえはいいが、流石にあまりにも力技すぎる。

 

「技術が上の奴にはさ、このぐらいしなきゃ意表はつけないだろ?」

「だからって限度ってもんがあるでしょーが!人間の動きじゃないわよ!」

 

そうかぁ?と言いながら首を傾げる紘汰に、夏凜は深くため息をついた。

やってることは本当に滅茶苦茶だが、なんだかんだ言ってもさっきは確かに危なかった。

せめてその分だけは認めてやってもいいだろう。

 

「ハァ…もういいわ。技術的には素人に毛が生えた程度だけど、アンタの戦闘カンだけは認めてやるわ。全く、どこであんなこと覚えたんだか…。」

「やってるやつが何されるのが嫌かって、最近なんとなくわかるようになってきたんだよ。―――なんせ、そこにくるまで散々友奈にいじめられたからな!」

「え゙!?」

 

バッと。

夏凜は勢いよく友奈へと視線を向けた。

紘汰の発言を受け、観戦していた他のメンバーたちの視線もそこに集まっている。

 

「いじめてたんだ……。」

“いじめてたんですね……。”

「…友奈ちゃん。」

「い、いじめてないよ!!もう!変なこと言わないでよ紘汰くん!!」

 

皆の視線が刺さる中で友奈が発した必死な訴えも、残念ながら紘汰にはいまいちピンと来ていないようだった。

 

ちなみに空気が緩んだこの対決は、夏凜が動きを止めたのを隙とみて不用意に仕掛けた紘汰に不意のカウンターがヒットするという何とも締まらない結末で幕を下ろしたのだった。

 




中学生ということで思春期らしいところも出しつつ…といった感じで。
らしさを損なわないようにとも思うのですがバランスは中々難しい…。

後半は主に対人戦描写でしたが、知識が無いので拙さは否めない。
こういうのもちゃんと書けるようになればいいんですが。

いじめ~のあたりの発言は鎧武原作のVSマリカinヘルヘイムあたりのセリフを意識しています。状況は全然違いますけどね!
原作のセリフとかはそんな感じでちょくちょく放り込んでいきたいと思ってます。

※前回投稿ぐらいのタイミングで活動報告にキャラ紹介を追加しました。
すでにご覧になってくれた方もいるとは思いますが、一応ここでも報告しておきます。
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