咲き誇る花々、掴み取る果実   作:MUL

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ハヤソウル!!
リュウ!ソウ!そう!そう!この感じ!!


なせば大抵何とかなりました。


第33話

「敵は一体。識別名称は双子型。あと数分で森を抜けます。」

 

樹海化してすぐ東郷が勇者アプリを起動させ、マップの表示を確認した。

そこには自分たちの現在地を示す小さな丸が六つと、防衛対象である神樹様へと凄まじいスピードで向かう敵を示すマーカーが表示されている。

双子型と表示されたそれ以外に敵性のマーカーは存在しない。

相手はまさしく残党であるようだ。

 

「今回の戦いで延長戦も終わり。しっかりしとめてゲームセットにしましょ。それじゃ、行くわよ!」

「「「「了解!」」」」

 

風の号令の下、勇者達がそれぞれの端末の画面をタップする。

少女たちが光に包まれていくのを横目に見ながら、紘汰もまた久しぶりに自分の元へと帰ってきた戦極ドライバーを腰に当てる。

戦極ドライバーから蛍光イエローのベルトが現れ、紘汰の腰へとしっかり巻き付いた。

なじんだ重みに一つ頷くと、オレンジとメロン。二つのロックシードを体の前面に構えた。

 

『オレンジ!』『メロンエナジー!』

『ロックオン!』

 

「変身!!」

 

『ソイヤッ!』

『ミックス!オレンジアームズ!花道!オン、ステージ!!ジンバーメロン!!ハハァーッ!!!』

 

上空に開いたファスナーからオレンジとメロン二つの鎧が出現し、混ざり合って一つの鎧へ変化する。

それが藍色のアンダーアーマーを纏う紘汰の体へと落下、展開してジンバーメロンアームズへの変身が完了した。

変身と同時に右手に現れたソニックアローの感触を確かめていると、五色の光が弾け中から勇者の姿へと変身を終えた友奈達が現れた。

 

「お待たせ紘汰君。…この間はじっくり見る余裕はなかったけれど、新しい鎧も中々いいわね…それ、陣羽織でしょう?」

「だろ?しかもこれ、見た目だけじゃないんだぜ?今までのと比べて、性能も段違いだ!」

「だからって調子にのってまた無茶するんじゃないわよ?」

 

ガチャガチャと鎧がこすれ合う音を鳴らしながら胸を張って見せる紘汰に、早速風はあきれ顔だ。

 

「わかってるって。ちぇ。なんだか皆同じこと言うよなぁ…全く信用ねぇんだから。」

「そーいう事は普段の行動を少しは省みてから言いなさいっての。…よーっし。じゃ、景気づけにアレ、やっときましょうか!」

 

仮面で顔は見えなくても明らかに不貞腐れている紘汰をさらりと流しながら、皆の方へと向き直った風がそう提案した。

アレ、が何を指すのかなどということはわざわざ聞かなくても皆察しているようで、それぞれ自然な流れで動き出す。それは夏凜ですら同様で、どうやら彼女ももうすっかりここの空気になじんでいるようだった。

武骨なアーマー姿のまま、地面にしゃがみこんでいじける紘汰を友奈が何とか引っ張り上げて、あっという間に円陣は完成した。

 

「敵さんをきっちり昇天させてあげましょ!勇者部、ファイトォーーー!!」

「「「「おぉーーー!!」」」」

 

 

 

 

敵から少し離れたところに勇者部六人が布陣する。

眼下には、神樹様に向かって猛スピードで突っ走る双子型バーテックスの姿。

頭と両手を拘束されたギロチン刑を待つ囚人のようなその造形は、今回の相手が前回現れたうちの一体と同型だということを如実に表していた。

 

「あれ、なんか見た顔だよな。前の時樹が倒した奴じゃなかったか?」

「もともと二体いるのが特徴のバーテックスなのかもしれないわね。」

「二体でワンセット…。あぁ、だから双子型なんだね!」

 

東郷の推測に、友奈は納得したとばかりにポンと手を打った。

敵を目の前にして相変わらずそんな能天気なやり取りをしている彼女達の姿に一つ小さな溜め息をつきながらも、夏凜はすぐさま気持ちを切り替えて敵をキッと睨みつける。

 

「いずれにせよやることは同じでしょ!さっさと止めるわよ!!」

「そーいう事。それじゃ皆、早速……皆?」

 

戦闘開始の合図を出そうと振り返った風が見たものは、戸惑いを隠せない表情で足を止める友奈、東郷、樹の三人だった。

先ほどまでとは打って変わったその様子に、風はすぐさまその原因に思い至る。

 

(そうよね…。皆、不安なんだわ…前回の戦闘からの不調が、まだ治ってない。もしかしたらまた体のどこかに異常が出るかもしれない…。だったら、ここは部長の私が―――!)

「問題ない!!それなら私が「俺が行く!夏凜と姉ちゃんは皆を頼む!」ってコータちょっとアンタ!」

 

一人で仕掛けようとした風を遮ろうとした夏凜を更に遮って、紘汰が一人飛び出した。

バーテックスに向かって大きく跳躍した紘汰に一瞬茫然とした夏凜だったが、歯を食いしばりすぐさまその背中を追いかけていく。

 

一方風は、動けなかった。

動揺したままの部員達を置いておけないからというのももちろんある。しかし、風は自分自身でそれが言い訳であることを自覚していた。

紘汰が飛び出したその時、心のどこかで少しほっとしてしまった自分がいることに風は気づいてしまっていたのだ。

風が一歩を躊躇う間に、紘汰と夏凜はぐんぐんと離れていく。

そんな自分が情けなくて…風は誰にも気づかれないよう、一人奥歯を噛み締めた。

 

 

 

 

「おい夏凜!俺が行くって言っただろ!」

「っさいわね!アンタが何を心配してるか知らないけど、私が行くって決めたのよ!アンタばっかりにいいとこどりはさせないわよ!」

「あ~もう、仕方ねぇ!じゃあ一緒にやるぞ!」

 

やると決めたのならば、そこからの切り替えは早かった。

紘汰と夏凜は空中から敵の行動を観察する。

双子型バーテックスは依然、脇目も振らず一直線に神樹様の元へとひた走っていた。

その速度はすさまじく、あまり悠長にしていられる時間はない。

 

まず一手。

無防備に見えるその背中に向け、紘汰はソニックアローを引き絞る。

弦から手を離すと、翠光のエネルギーでできた矢が、バーテックスに向かって放たれた。

無造作に放った矢であっても、その威力は決して無視できるものではない。

足止めできると確信し、矢の行方を見守っていた紘汰だったが…

 

「避けやがった!?」

 

バーテックスは、軽やかなステップでその矢を回避して見せた。

後ろに目でもついているのではないかと思えるほど完璧なタイミングでの回避行動に、紘汰と夏凜は思わず息を呑む。

そんな二人の動揺を歯牙にもかけず、全く衰えないスピードでバーテックスは尚も走り続けていた。

本来、バーテックスの目的は勇者を倒すことではなく、神樹様にたどり着き世界を終わらせることである。

それを妨害する勇者を倒すことは目的を達することとほぼ同義ではあるが、必須条件ではない。

この双子型バーテックスはどうやらそれに特化した個体の様だった。

 

「くそっ!このままじゃ…!」

「…コータ、作戦があるわ。ちょっと耳貸しなさい。」

 

滞空時間が限界を迎え一度地面に降りた紘汰に、後ろからやってきた夏凜がそっと耳打ちをする。

後ろから闇雲に狙うだけでは駄目だと感じていた紘汰は、逸る気持ちを抑えながら夏凜の作戦に黙って耳を傾けた。

小さな作戦会議が終わり、二人は再びバーテックスを睨みつける。そして視線だけで合図を交わすと、二人同時に地面を強く蹴りつけた。

 

「コータ!しくじるんじゃないわよ!」

「任せとけ!いっくぞぉぉぉぉおおおおおお!!!」

 

逃げるバーテックスに向かって、紘汰は再び矢を放つ。

連続して放たれる紘汰の矢は、バーテックスの体からは外れその左右に次々と着弾した。

狙いを外したわけではない。勿論目的があってのことだ。

尚も怒涛の勢いで放たれる矢は、徐々にではあるがバーテックス本体へと近づいていき、やがて逃げ道を塞ぐ障壁と化す。

 

―――!?

 

遂に体へと迫った矢に対し、当然の如くバーテックスは回避行動をとろうとする。

しかし左右の逃げ道を潰されたバーテックスが取れる道は、一つしかない。

そしてバーテックスは二人の作戦通り、上へとその身を躍らせた。

 

「要求通り!やるじゃないコータ!」

「任せろって言ったろ?次はお前の番だ!しっかり頼むぜ!」

「誰にもの言ってんのよ!!」

 

紘汰が胸の前で、ソニックアローを側面が前を向くようにしっかりと抱えなおした。

それを確認した夏凜が空中で身を捻り、足をソニックアローへと乗せる。

この状況において、夏凜は砲弾、そして紘汰は即席のカタパルトだ。

そして―――

 

「いっけぇええええええええええ!!!」

 

砲弾が空気を切り裂き射出された。

紘汰を足場にして飛んだ夏凜という名の砲弾は、未だ足場のない空中にとらわれているバーテックスの元へと一直線に向かっていく。

相対位置を確認しタイミングを計りながら、夏凜は右の拳を思いっきり振りかぶった。

 

「空中じゃさっきまでみたいに避けらんないでしょ!これでもぉ…くらぇええええ!!!」

 

夏凜の拳が、バーテックスの体を思い切り地面へと叩きつけた。

友奈には劣るものの、勇者システムで強化された夏凜の拳は重く、強い。

拳の着弾点から体の破片をまき散らしながら大きくバウンドし、遂にその足が止まった。

 

しかし、それでもまだバーテックスは諦めない。

足を大きくばたつかせながら立ち上がると、先ほどよりもややふらつき加減の足取りで、再び疾走を試みる。

夏凜と紘汰の攻撃は、このバーテックスを完全に沈黙させるには至らない―――だが、それで十分だった。

 

「往生際が―――」

「―――悪い!!」

 

薙ぎ払いの大剣が、バーテックスの細身の体を両断する。

下半身と分断され僅かに浮き上がった上半身、その丸い頭部を青い弾丸が貫いた。

体に甚大なダメージを負って、とうとうバーテックスは沈黙した。

 

「二人ともありがとう!おかげでバッチリ決まったわ!」

「風!」

 

立ち直った友奈と樹を連れた風が、大剣を振り切った体勢のまま功労者の二人へと感謝を告げる。

弾丸が飛んできた方向を見ると、遠方で東郷がいつものように銃を構えている姿が見えた。

 

「すごいよ二人とも!よぉ~っしこのまま封印、行きましょう!!」

「オッケー皆!封印、開始!!」

 

友奈、風、樹、夏凜がもはや残骸といっていいほどの損傷を負ったバーテックスを取り囲み、封印を開始した。

桜、黄、赤、白の色とりどりの光の花びらが舞い、バーテックスの足元に封印の文様が浮かび上がる。

いつ見ても幻想的なその光景を前にして、この時ばかりはやることのない紘汰は戦闘中だというのに思わず目を奪われてしまっていた。

 

しかし、いつまでもそうしては居られない。

光に包まれたバーテックスの体がわずかに震え、その中から御霊が文字通り溢れ出した。

 

「出た!」

「って、何この数!?」

 

それはまさに、四角錘の洪水だった。

あの小さな体にどれだけ詰まっていたのかというほどの膨大な数の御霊が、絶えることなく湧き出続けてくる。

一つ一つは小さく、脅威ではないが問題はその数だ。

早めに潰さなければ、大変なことになる。

 

―――それが、わかっているのに。

満開を、満開ゲージを貯めるような戦い方は危険なのではないか?

そんな不安が勇者達の初動を遅らせる。

 

しかしそんな不安気な表情を見せる仲間たちを前に、この男が動かないわけもない。

 

「皆!合図したら上に飛べ!!」

 

『ソイヤッ!』

『オレンジオーレ!』

『ジンバーメロンオーレ!』

 

二つのロックシードから溢れ出る二色の光がアークリムを染め上げる。

エネルギーが充填され、解放を待つのみのその刃を腰だめに構えながら、紘汰は仲間たちに向かってそう言い放った。

 

「紘汰!でも!」

「いいから!…今だ!」

 

紘汰の合図に、それ以上の言葉を無理やり飲み込んで風達は飛び上がった。

それを見届けた紘汰は、抑えつけていた刃を一気に解き放つ。

 

「セイ、ハァーーーーーーー!!!」

 

体を軸に一回転。

ソニックアローの軌跡をなぞる様に翠色の波涛が周囲へと広がった。

アークリムから放たれたエネルギーの奔流は御霊の海を押し流し、それが消えるころにはもう、残っているのは七色の光が天へと還っていく光景のみだった。

 

 

 

 

「ふぅ…。」

 

息を大きく吐きながら残心の構えを解いた紘汰は、駆け寄ってくる皆を見ながら変身を解除した。

複雑な表情を浮かべながら先頭で駆けつけた風に苦笑しながら、自分でもうまく感情を整理できていないらしい風の言葉を待つ。

 

「紘汰!あんたねぇ!………ううん。ありがとう紘汰。ごめんね。私お姉ちゃんなのに…最近ずっとあんたに頼ってばっかりで…。」

「何言ってんだ姉ちゃん。家族を助けるなんて当たり前の事だろ?俺の方こそいつも姉ちゃんに頼ってばっかりなんだから、こういう時ぐらい俺が頼れるヤツだってとこ、見せてかないとな。」

 

そう言って笑う紘汰に、思わず風の顔も綻んだ。

そしてそれを見ていた他の皆にも笑顔の輪が広がっていく。

気づけば戦闘の緊張感はすっかりと薄れ、普段の勇者部らしい和やかな空気が生まれ始めていた。

 

「でもこれでホントに終わりだな。思ったより大したことなくてよかった。」

「樹海化ももうすぐ解除されるみたい。紘汰くん、ありがとう!帰ったらまた、いっぱいお祝いしようね!」

「またお祝い…際限なく増えてくわね…。まぁいいけど。」

「劇の方の準備、これでしっかり始められますね。」

「プロデューサーとしての腕がなるわね…ま、でもそれも明日からよ。今日はしっかり休まないとね。」

 

大きな揺れと共に極彩色の吹雪が舞い、世界がもとに戻っていく。

勇者達は明日の日々に思いを馳せながら、その感覚に身を任せるのだった。

 

 

 

 

「ふぃ~。終わったわねぇ。」

“お疲れ様です!”

「結局最後のいいとこ全部持ってかれちゃったわ…でもこれで勝ったと思わない事ねコータ!…あれ?いない…?っていうか友奈と東郷も…。」

 

 

 

 

「戻った…けど…。」

「ここ、屋上じゃない…よね…?」

 

樹海化が解け、世界がもとの姿を取り戻したとき、紘汰、友奈、東郷の三人はいつもとは違うお社の前に佇んでいた。

この場所に誰も見覚えはなく、周囲には風や樹、夏凜もいない。

いつもと異なる状況に、皆困惑を隠せない。

 

「オイ、見ろよあれ!」

 

紘汰が指さす方向、そこにはまるで天に向かって伸びるような歪な形に破壊された橋があった。

それは、二年前の災害で大破したといわれている大橋市のシンボル、その名もずばり大橋だ。

 

「大橋…ってことは結構離れてるところに来ちゃったね…。」

「神樹様も久しぶりでミスっちまったのかなぁ。」

「困ったわね…とにかく部長たちに連絡を取らないと…あれ?電波が…。」

 

とりあえずお互いの無事を確認し合おうと東郷が取り出した携帯端末、その右上には『圏外』の文字が表示されていた。

慌てて友奈と紘汰も自分の端末を確認する。しかしやはりというかどちらの画面でも確認できたのは同じ文字が浮かんでいることだけだった。

 

それを確認した三人が途方に暮れる。

兎に角、何とか連絡を取らない事には始まらない。

そう考えた紘汰がひとまず友奈と東郷をここに置いて、連絡を取れそうなところを探すために動き出そうとした時―――

 

「―――ずっと呼んでいたよ~。わっしー。会いたかった~。」

 

声が、聞こえてきた。

 

驚いた三人が顔を見合わせ、声がした方向へと向かう。

声がしたのはお社の奥、海を臨むその場所にはおよそこんな場所には似つかわしくない大きな病院のベッドの上に体を横たえながら僅かに身を起こす一人の少女と、更にその脇の椅子に腰を掛けたもう一人の少女の姿。

 

 

 

忘れ去られた宿命の地、大橋のその根元。

見知らぬ二人の少女が、こちら―――東郷の方を、嬉しそうな、寂しそうな目で見つめていた。

 




…兄さんは、しっかりとノルマを達成していました。

さて、次回は彼女達からの大事な大事なお話。


年内にもう一話…いけるか!?

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