見直しているつもりですが、やっぱり自分では気づかないところってのはあるものですね…。
もし見つけたら今後も教えてくださると助かります。
勇ましい名乗りと共に空へと飛び出した夏凜に、星屑たちが襲い掛かった。
本命への道を邪魔するように迫りくる星屑たちはしかし、夏凜にとって障害とは成り得ない。
正面からの突撃を空中で器用に身を捻り躱した夏凜は、すれ違いざまにその無防備な胴体へと刃を滑らせた。
何でもないように振るわれたその刃が、星屑の胴体をいともたやすく寸断する。
確かに数は驚異的だが、個々の能力ではバーテックスに大きく劣る星屑ではその一撃に耐え切ることなど到底不可能。胴体を寸断された星屑はすぐさま光へと還っていった。
それを視界に収めた夏凜は小さく鼻を鳴らすと次へと意識を切り替えた。
この程度はまさに露払い。夏凜の狙いはあくまで十二体のバーテックスだ。こんな雑魚にかまっている暇はない。
しかし眼中にないからといって、勿論敵が易々と道を開けてくれるわけもない。正面からは既に二体目の星屑が迫っていた。
煩わしい。けど好都合だ。
口を大きく開いて突っ込んできた星屑の鼻先、そこに夏凜は片方の刀を突きたてた。
正面からまさに串刺しにされた星屑が身悶えし、空中で動きを止める。
深刻なダメージを負い、消滅するまでのわずかな時間。消え去ろうとする星屑の体を足場として、夏凜は更に自身の身を加速させた。
躱して、斬って、飛ぶ。躱して、斬って、飛ぶ。
文字にすれば単純にも見えるそれを繰り返しながら、夏凜はただ一心に目的地を目指す。
妨害すらも利用して駆け続けた彼女の目には、ぐんぐんと近づいてくる敵の姿が見えていた。
あと、もう少し。
夏凜の頭にそんな言葉がよぎったその時、これまで散発的に襲ってきていた星屑たちが、突如として連携行動を見せ始めた。
一体ずつでは足止めすら叶わない夏凜に対し、星屑たちが出した結論はいたって単純だ。寄り集まり、数で止める。
夏凜とバーテックス達を塞ぐ様に、大量の星屑たちが分厚い壁を形成していた。
既に跳躍を始めていた夏凜に、それを迂回する選択肢はない。
いくら一体一体が大したことは無かろうとも、あそこに突っ込めば足を殺されるのは確実だ。
そして何より本命を前に少しでも消耗を押さえておきたかった夏凜にとって、目の前の光景はあまり歓迎できるものではなかった。
辟易しながら二刀を構え、そこへと突入する覚悟を決めた夏凜だったが、次の瞬間にその覚悟は無用のものとなった。
横合いから連続して放たれた散弾が、星屑の壁をズタズタに引き裂いたのだ。
誰がやったのかなど、考えるまでもない。
頼れる射手の的確な援護射撃に夏凜は口の端を釣り上げた。
(ありがと、東郷!!)
心の中で感謝を送りつつも、視線を向けることはしない。東郷とて感謝されるためにやったわけではないし、今優先すべきことが何なのかはお互いちゃんとわかっていた。
大きく隙間が空いてもはや壁とは言えなくなったそこへと夏凜は突入を敢行する。
行き掛けの駄賃とばかりに数体を切り捨ててそこを抜け出し、遂には目的地へとたどり着いた。
眼前には、見覚えの有るものも無いものも全て合わせて十二体の
悠然とこちらを見下ろすその威容に流石の夏凜の額にも一筋の冷や汗が流れた。
―――流石に、犠牲無しって訳にもいかないか。
僅かに震える手を誤魔化すように夏凜は両手の剣を固く握りしめた。
恐怖はある。
これから始まる死闘にも、喪失の予感にも。
かつての自分であればそれを弱さだと笑っただろう。しかし今の自分はそれでいいのだということを知っている。
恐怖を超え、立ち向かうことができる力こそが勇気なのだと。そして誰かの為に、勇気をもって戦う者を勇者と呼ぶのだということを、初めてできた仲間たちが教えてくれた。
私は戦う。使命でも、対抗心でもなく、ただ大切な人たちの為に自分の意志で。
讃州中学勇者部の一員として―――友達として。
そう思うだけで震えは止まる。恐怖を凌駕する無限の勇気が湧いてくる。
そういえば―――
こんな時ではあるが一度も自分の口から“勇者部に入部する”、と言ったことが無かったことを思い出した。
来たばかりの頃はそんなことに興味はなく、ただなし崩し的に入部させられただけで、結局そのままなんとなくで正式な部員になってしまった。
皆は気にしていないだろうが、気づいてしまった以上なんとなく座りが悪い。何事もけじめというものが必要だ。
これが終わったら、ちゃんと言おう。でも今は。
―――勇者部の新入部員にはね。これを屋上で―――
いつか風が言っていたことを今更ながら思い出す。
指定されているシチュエーションも全く違うがまぁ、そこは多めに見てもらおう。とりあえずはコレがその代わりということで。
それじゃあ、そろそろ―――征くとしよう。
強大な敵の元へと夏凜は飛ぶ。
不敵な笑みを浮かべながら、刀を構え、そして大きく息を吸い込んだ。
「勇者部五箇条!!ひとおぉーーーつ―――!!」
「く、うぅう…っ!」
激しい横荷重に、東郷は苦悶の声を漏らした。
夏凜に道を作るため、援護に意識を裂いた一瞬の隙。その隙をついた一体の星屑が東郷をその場から連れ去った。
下半身を飲み込まれたような形で空を運ばれる東郷の体。星屑は今も口に咥えた得物を噛み千切らんとその歯を何度も東郷に突き立てようと試みて、そのたびに接触部から青い光が飛び散っていた。
しかし、自分の体が食われかけているなどという光景を見せられてすら、東郷の目はあくまで冷静だった。
だってこの程度の攻撃は、いくらやられたところで無駄なのだ。
東郷にははっきりとそんな確信がある。
何せこの世界で東郷ほど精霊による護りの強固さを知っている人間はいないのだから。
しかし、勿論それでも完全にダメージが無いわけではない。
強烈な横Gにより体内が圧迫され、東郷を激しい嘔吐感が襲う。だが彼女はそれさえも無理やり飲み下し、微かに笑みを浮かべながら先ほど取り落とした銃を再び手の中へ出現させた。
「残念ね…私たち、そんな簡単には死んであげられないのよ………。」
ポツリと一言呟きながら、東郷は持ち替えた短銃の銃床で自らを咥えている星屑の顔面へ強烈な一撃を叩きこんだ。
衝撃で拘束が緩んだ隙を逃さず脱出した東郷は、危なげなく着地すると運賃代わりの銃弾をお見舞いしてその星屑を塵へと変える。
「…でもありがとう。おかげでようやく整ったわ。」
落とした視線の先は自分の胸元。勇者刻印には光が充足し、解放の時を待っている。
後は己の意志一つ。覚悟などとうに決まっていた。
「「満開!!」」
東郷と夏凜。離れた場所にいる二人の声が重なった。
青と赤。二つの大きな輝きが、樹海の空を彩った。
緑色の光の線が、白い体を切り裂いた。
星屑の消滅を確認する暇もなく樹は次へとワイヤーを伸ばす。
最前線ではバーテックスとの戦いが開始され、それに従い樹達の居る後方へと流れてくる星屑の数は徐々にその数を増やしていた。
無秩序に暴れまわる星屑たちを、姉の元には近づけさせない。
樹はその一心でワイヤーを振るう。
「なんで………。」
そしてそんな妹の姿を、風はひび割れた心のままぼんやりと見つめていた。
体勢を崩し転んでも、そのたびに歯を食いしばりながら立ち上がる妹の姿に罪悪感だけが積もっていく。
「あんたは……そんなことしなくていいの……私なんて置いて、逃げていいの………。」
わかっている。
何で樹があんなにも頑張っているのか。
怖いのも苦しいのも我慢して、ああやって戦っているのか。
でも―――
「私には…そんなことしてもらう資格なんてないの…だって…私のせいなんだから…戦いに巻き込んだのも…声を失ったのも…夢を追えなくなっちゃったのも………全部…全部………。」
その独白は、戦っている樹にも聞こえていた。
聞こえているのに、それを否定する言葉をかけてあげることができない。
樹は声が出せなくなって今まで、これほど声が出ないことをもどかしく思ったことは無かった。
そしてそんな中でも風の独白は続き、遂に樹にとって決定的な一言を口にする。
「そうよ…私がお姉ちゃんじゃなかったら……私なんかがいたから………っ!私なんか―――生まれてこなければよかったのよ!!!」
「―――っっ!!!!」
頬を打った衝撃に、風は目を見開いた。
離れた場所で戦っていた樹が、いつの間にか風の目の前にいる。
振りぬいた掌をそのままに、涙を流しながら怒っていた。
樹はこれまでの人生で、姉は勿論人に対してここまで怒りを示したことは無かった。
意地悪をされたとしても、嫌なことを言われたとしても、その原因を自分に向けて落ち込んでしまうほど内向的な性格だった。
でも、それは怒ることができないという事ではない。
樹が怒るのは誰か別の人のためだ。
樹の大事な家族を、大好きなお姉ちゃんを否定することを、樹は決して許さない。
たとえそれが風自身であったとしても。
「い、つき………。」
「――――――。」
茫然とする姉の体を、樹は強く強く抱きしめた。
何度言ってもわからないなら、何度伝えても伝わらないなら伝わるまでやるだけだ。
言葉が紡げなかったとしても、心がちゃんと伝わるまで何度も何度も。
どれだけお姉ちゃんのことを大好きなのか。どれだけいつも感謝しているのか。自分を否定してしまうことにどれだけ心を痛めているのかを。
いつもは照れくさくて中々伝えられないことも、全部を乗せて抱きしめた。
強張っていた風の体から力が抜けたのを感じ、樹は少し体を離した。
相変わらず風は泣いている。でも、今風が流している涙の理由に絶望だけじゃないということを樹は感じ取っていた。
幼子のように泣きじゃくる風に優しく微笑み、最後にもう一度抱きしめると樹は今度こそ体を離し立ち上がり、振り向きざまにワイヤーを振るった。
背後から迫っていた一体の星屑が、そのワイヤーに切断される。
僅かな間に、また随分と集まってきている。
もう少し…いや、伝えたいことはまだまだあったがそれは後に取っておこう。
今はまず、護るために戦う。
お姉ちゃんが立ち直るまで。お兄ちゃんが帰ってこられるまで。
護って、護られて。助けて、助けられて―――そうやって一緒に生きていく。
それが家族なのだから。
「ずっと、後ろをついてくる子だって…私が護ってあげなきゃって……思ってたんだけどなぁ…。」
沢山の敵を前に怯まず戦い続ける妹の姿を、風は眩しそうに目を細めながらさっきまでとは違った気持ちで見つめていた。
自分や紘汰の後ろをいつもおっかなびっくりついてくるだけだった子は、いつの間にかあんなにも強く大きく成長していた。
「樹は前に…ずっと前に進んでたんだね………それに比べて私は…あの日からずっと、止まったままで………。」
樹は未来を見ていた。未来を見て、ずっと成長し続けていた。
風が見ていたのは過去だ。父さんと母さんを奪われた時から、復讐を誓ったときからずっと過去にとらわれ続けていた。
でも、もうやめにしよう。
これからは、今の自分にとって本当に一番大切なものの為に。
この子達の、未来の為に―――!!
「いつまでも、カッコ悪いとこ見せてるわけにはいかないわよね………だって私は―――あの子たちの、お姉ちゃんなんだから!!!」
疲労でわずかに狂ったワイヤーの隙間を、一体の星屑がすり抜けた。
距離が近い。ワイヤーを戻す暇はない。
(やられる―――!!)
そう思って身構えた樹の目の前を、大剣の一閃が横切った。
巨大な剣の一振りが、周囲をまとめて薙ぎ払う。
直接巻き込まれたものは一瞬で消え去り、そうではない周りにいたものも剣が巻き起こした風圧に吹き飛ばされていく。
自分が助かったことよりも何よりも、ずっと見たかった背中が目の前にいることに樹の目には自然と涙があふれていた。
振り向いた風は申し訳なさと恥ずかしさをごまかすように少し笑って、涙を流す妹の体を優しく抱きしめた。
「ごめんね。ありがとう。もう、大丈夫だから。」
「―――!!!」
「うん…うん…。ホント、情けないお姉ちゃんだったよね。ありがとう樹、本当にありがとうね。」
張り詰めていたものが決壊し、大泣きをしながら風の胸に顔をこすりつける樹をあやしながら、風は何度もごめんねとありがとうの言葉を繰り返す。
しばらくそうした後、離れた樹の目にはまだ少し涙が残っていたが、その顔には大好きな姉が戻ってきてくれたことへの喜びが浮かんでいた。
そんな妹を見て改めて心配させてしまったことを反省しながら、風は周囲へと視線を向ける。
先ほど吹き飛ばした星屑たちは新たにやってきた星屑たちと合流し、またしても二人を取り囲んでいる。
ここだけではなく、遠方からは別の戦闘音が聞こえている。ずっとあんなだったからイマイチ状況を把握しきれていないが、きっと誰かが戦ってくれているのだろう。
これまでサボった分、ここから挽回しなくては。
「こいつら全部やっつけて、あの寝坊助を叩き起こしに行きましょうか。…樹、手伝ってくれる?」
大きく頷いた樹と共に、風は敵の元へと駆けだした。
夏凜の満開用装備である四本の巨腕から繰り出された剣戟が、レオ・バーテックスの体を切り裂いた。
何をする暇もなく、その破片が青い砲撃に呑み込まれていく。
砲撃の中から七色の光が立ち上ったのを確認した夏凜は、着地もそこそこに地面に体を投げ出した。
「ハァ、ハァ、ハァ………。なんとか終わったわね。東郷、あんた無事よね?」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ………。私は…大丈夫よ。それより夏凜ちゃんは?」
「あったりまえでしょ!私が誰か、忘れたわけじゃないでしょうね。この程度、ヨユーよヨユー。」
…って言いたいところだけどね。
という言葉を、夏凜はぐっと呑み込んだ。
星屑と共に現れた十二体のバーテックス。さっきのはその最後の一体だった。
強がりを言ったが、東郷と二人で倒しきれたのは正直言って奇跡のようなものだった。
―――そしてその奇跡の代償は、決して安くはない。
この無茶をかなえるために随分と満開の力を使ってしまった。
ボロボロ具合は両者似たようなものだったが、直接戦闘型の夏凜はそれがより顕著だったのだ。
視界に映る光景、耳から聞こえる音に違和感がある。
自分の目と耳でちゃんと見聞きしているはずなのに、どこか録画した映像を見せられているようなそんな感じがしていた。
また、手足にも東郷の足がそうだったように補助のための領巾が現れている。
今は勇者に変身しているためそこまで支障はないが、これを解除したら………。
覚悟はしていたはずだったが、実際にそうなってみるとやはり中々堪えるものがある。
夏凜と東郷はそれをごまかすようにお互いあえて明るく笑っていた。
兎に角、何とか最大の脅威は取り除いたのだ。
これから色々あるだろうが、悲嘆するだけの自分でいるつもりはない。
ともかく今は、さっさと残りの星屑を片付けて、それから紘汰を――――
―――そう、思った時だった。
「うそ…でしょ………。」
巨大な影が、二人の姿を覆いつくした。
夏凜が東郷が、同時に言葉を失った。
二人が見つめる影の正体、それはかつて倒した
そしてその隣に浮かぶ、
アレが最後だと、思っていた。
でも違った。敵はまだ、第二陣を残していた。
それが、よりにもよって…こんなタイミングで。
「上、等…じゃない…!」
「夏凜…ちゃん!!」
全てを出し尽くし、もう動けないはずの体で夏凛は再び立ち上がる。
刀を持つ両腕は下がり切っている。もはや夏凜にはそれをしっかり支える力さえも残されていなかった。
それでも立つ。立って、戦う。
絶体絶命の状況にありながらも、夏凜の目は全く死んでいない。
「諦めない…こんなところで、諦めたりなんかしない……!!そうでしょ、東郷!!」
「えぇ、そうね……!!」
夏凜の声を受け、東郷もまた起き上がった。
構えた銃の銃口が震えている。これではまともに狙いをつけることすらままならないだろう。
でも、それでも負けるつもりはない。
「さぁ、来な「下がって二人とも!!」―――風!!」
覚悟を決めた夏凜の前に、満開状態の風が割り込んだ。
遠方から新たな敵の出現を視認した瞬間、樹にその場を任せて単独で駆けつけたのだ。
駆けつけた勢いのまま体当たりをぶちかまし、その一撃でレオ・スタークラスターを後退させる。
待ち望んだ部長の復活に、二人の顔に喜色が浮かび―――そしてすぐさま緊張に強張った。
風の周囲に、何かが浮かんでいる。
それは先端のとがった楕円に近い形をした硬質な装甲板のようなもの。
それがレオに攻撃を加えたばかりの風の全周囲を囲みながら先端を彼女に向けていた。
「な!?これは―――くっ、ぁぁああああ!!」
次の瞬間、先端から光の杭が放たれた。
全方位から放たれたそれは互いの身で反射を繰り返しながら、ありとあらゆる方向から風の身へと襲い掛かる。
その装甲板は、同時に現れたもう一体―――スコーピオンを中心にキャンサー、サジタリウス、バルゴが融合したスコーピオン・スタークラスターが放った遠隔追尾攻撃だった。
咄嗟に大剣を防御に回す風だが、幅広の大剣であってもすべての攻撃から身を守ることはできない。
風の体は、あっという間に爆発の光の中に呑み込まれた。
「部長!!」
「っ!!私のことはいいから!!早く逃げなさい!!早く!!」
爆発の煙の中から微かに風の声がする。どうやら風はまだ無事の様だ。
しかしその隙に、
「夏凜ちゃん!逃げて!!」
「っ!!」
レオが生み出した、巨大な炎球が向かってくる。
人ひとり呑み込むには余りある大きさのそれははっきりと夏凜に狙いを定めていた。
東郷は動けない。
夏凜の足も動かなかった。
東郷が必死に手を伸ばす中―――夏凜の体は、炎に呑み込まれた。
樹『さん』がどんどん強くなっていってる気がする今日この頃。
三人が踏ん張っている間にまずは風先輩復活です。
バーテックスボスラッシュ。消耗した状態でコレです。
この状況、ひっくり返すには…。