咲き誇る花々、掴み取る果実   作:MUL

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第44話

「ったく………遅いっての………。」

 

静寂に支配された世界の中、夏凛がぽつりとそう呟いて今度こそ意識を手放した。

夏凛の言葉に反応できないまま、友奈は一言も発することはできずにただ、目の前の光景を見つめている。

 

たった今、目の前で友奈たちの危機を救った紘汰が身に纏うその鎧は、またしても大きく姿を変えていた。

色は、彼自身が一番合っていると言っていたオレンジアームズの色のまま。

しかし鎧はより分厚く、城塞の如く堅牢に。

三日月のような前立ての後ろには新たに二本の湾曲したブレードが増え、口元に施された髭のような装飾が威厳と風格を与えている。

拳を振りぬいたままの姿勢で佇むその背中では、天に向かって堂々と掲げられた二本の旗が熱風にたなびいていた。

 

余韻のような熱波が作り出した陽炎の中でゆらゆらと揺れるその姿に、未だ頭が追いついていない友奈はひょっとしたら都合のいい幻を見ているだけじゃないのかとさえ思った。

だが違う。

離れていても感じられる優しく力強いエネルギーが、紘汰が確かにそこにいるということを教えてくれている。

 

戸惑いと喜びの中で混乱する友奈だが、状況は待ってくれなかった。

突然の乱入者に制止していた星屑たちが、一斉に紘汰へと襲い掛かったのだ。

凄まじい数の星屑たちが、紘汰のもとへ殺到する。

なりふり構わずといったようなその突撃は、敵意からというよりはむしろ怯えからくる防衛行動のようですらあった。

 

一瞬で白い濁流に飲み込まれてしまった紘汰の姿に、友奈の頭の中で先ほどの光景がフラッシュバック―――するよりも尚早く、星屑たちが吹き飛んだ。

 

暴風の中の木の葉のように吹き飛ばされた星屑たちは、炎に焼かれながらぱらぱらと地に落ち、光へと還っていく。

さっきまで星屑たちが群がっていたはずの場所では、円を描くように炎が渦を巻いていた。

その円の中心、背中に背負っていた二本の旗―――カチドキ旗を両手に掴んだ紘汰が立っていた。

旗に残った残り火を、旗を一振りすることで払った紘汰は、そのままそれを背中に戻して友奈のほうへと向き直った。

 

全てが制止したような空間の中で、紘汰と友奈は見つめ合う。

お互いに話したい事、話すべきことはたくさんあるはずなのに、その最初の一言が出せないでいた。

しかしそれもほんの僅かの事。

ばつの悪そうに鎧の上から頬を掻くしぐさをしながら、躊躇いがちに紘汰が口を開いた。

 

「えーっと…その………大丈夫だったか?友奈。」

 

ようやくひねり出したその一言に、内心紘汰は自分自身を罵倒していた。

少し前、鴉に見せられた映像で大体の状況は理解している。誰がどう見たって、大丈夫なんて言える状況ではないのは明らかだった。

目の前にいる友奈にしたって、体に目立った傷こそないもののその目にははっきりと涙が浮かんでいた。

 

「う…うん…。わ、たしは…大丈夫…なんだけど…紘汰…くんは?…紘汰くん…なんだよね?」

 

一方の友奈も、いまだ状況をはっきりと飲み込めないでいた。

ほっとして、うれしくて、でも信じられなくて。次から次へと浮かんでは消えていく気持ちを整理しきれず、ようやく口から出たのはそんな言葉だ。

 

「あ、あはは…私、何言ってんだろ…。紘汰くん、ちゃんとここにいるのにね…それで私たちの事、助けてくれたのに……私……わたしは……。」

 

ごまかすように無理やり笑った友奈が、急に言葉を切りうつむいた。

紘汰の位置からでは、顔を伏せてしまった友奈の表情をうかがい知ることはできない。

ひょっとして痛むところでもあったのだろうかと心配になった紘汰が駆け寄ろうとする。

 

「ごめんね…私、嘘つきだ…。紘汰くんとの約束、守れなくて…肝心なところでいつも守ってもらってばっかりで………。」

 

絞りだしたような声とともに顔を上げた友奈の表情は、悲痛に歪んでいた。

友奈のその表情に、駆け出した足が鈍る。

彼女にそんな顔をさせてしまった自身の弱さと不甲斐なさに、紘汰は奥歯を強く噛み締めた。

今にも泣きだしてしまいそうな友奈にゆっくりと近づき、震える肩に手をのせる。

すると友奈は、まるで紘汰の存在を確かめるようにそっとその手をつかみ返した。これまで多くの怪物たちを打倒してきた女の子の手は、紘汰が驚くほどに小さく感じられた。

 

「俺こそごめん。偉そうなことばかり言って、みんなに心配かけて…もう少しで、お前のことも嘘つきにしちまうとこだった。」

 

再びうつむいていた友奈の首が、ふるふると左右に動いていた。

ろくに顔を上げることもできなくて、ただ違うよだとか、ごめんねだとかいう言葉を重ね続けた。

そんな友奈に紘汰もどうしていいかわからず、樹によくやるように友奈の頭にぎこちなく手を置きながら、ごめんの言葉を繰り返す。

 

そしてひとしきりそんなやり取りを繰り返した後、なんだかおかしくなって二人一緒に吹き出した。

ようやく顔を上げた友奈は、目じりにまだ涙がたまっているものの、自然な笑みを浮かべている。

その表情を見た紘汰も、ようやく安心したように仮面の下でほっと息を吐きだした。

 

「皆にもちゃんと、言わないとな。ごめんもありがとうも―――それから、これからの事も…たくさん、皆で話さないと。」

 

「…うん、そうだね。」

 

友奈の肩から手を放し、二体のスタークラスターへと向き直る。

それぞれへ向かう延長線上では、力をほとんど使い果たして横たわる風と東郷の姿が見えた。

もう、皆限界だ。背後で今も踏ん張ってくれている樹だって、いつまでもつかはわからない。すぐにでもケリをつけなければいけない。

ボロボロになったみんなの姿を視界に収め、改めて紘汰の満身に闘気が宿る。

 

「だからまずはこんなこと、さっさと終わらせてやる。友奈、お前はここで夏凛と待っていてくれ。」

 

「紘汰くん!私は―――」

 

「っ!下がれ友奈!!」

 

友奈の声を遮って、紘汰は無双セイバーを引き抜いた。

金属同士が激しくぶつかる衝撃音が轟いて、友奈は思わず耳を耳を塞いだ。

不意を突いた蹴撃が、無双セイバーに止められていた。

長すぎる足の脛に、鋭い刃を備えた歪なヒトガタは、『ジェミニ・スタークラスター』。

他の二体よりも明らかに小さいが、その分脅威的なスピードと直接攻撃能力を備えたもう一体のスタークラスターだ。

 

しかし、空間ごと揺るがすような強烈な蹴撃を受け止めすら、今の紘汰はこゆるぎもしない。

無双セイバーを片手だけで支えながら、不意打ちを敢行した不届者を仮面越しににらみつける。

そのまま敵を叩き潰さんと背中の旗に手を伸ばしたその時、ヴン、という不快な音が鳴り、無双セイバーが弾き飛ばされた。

 

少なくない驚きとともに、すぐさまジェミニに視線を向ける紘汰。

今まで無双セイバーとかち合っていた敵の脚甲が、微かにブレている。その光景と手に残る痺れ、そして今も続いている頭を刺すような不快な音が、その正体を紘汰に伝える。

すなわちそれは、()()だ。

 

それに気づき、バックステップで僅かにジェミニから距離をとる紘汰。

その足元、紘汰の影が揺らぎ、滲みだしたように現れるもう一つの影。

 

そう。

敵の名は『()()()()・スタークラスター』。

二体で一体という特性をそのままに、しかしその戦闘力を大きく引き上げられた襲撃者。

 

前と後ろ、二体のジェミニがその足を振り上げた。

二つの振動音が共鳴し、頭痛すらも引き起こすほどの不快音が響き渡る。

挟撃に備え、背中に冷たい汗を感じながらも紘汰は二本のカチドキ旗を構える。

そんな紘汰へと、二体のジェミニが同時に襲い掛かり―――次の瞬間姿を消した。

 

呆気にとられた紘汰の左右、顔の横には巨大な握り拳が二つ浮かんでいた。それに僅かに遅れるように聞こえたのは、大きな二つの打撃音。

何が起きたか考えるまでもない。二体のジェミニはこの拳によって、横合いから殴り飛ばされたのだ。

そして、それができる人間など、この場には一人しかいない。

 

「友奈…お前………。」

 

紘汰の視線の先にいる友奈は、満開の衣装に身を包んでいた。

いっそわかりやすいほどの”戦う”という意思表示。

紘汰の事をじっと見つめ返すその目には先ほどの弱々しさなどは微塵もなく、めらめらと燃えるような闘志が宿っていた。

 

「ありがとう紘汰くん。でもね、私、もう決めたんだ。」

 

「でも…それを使ったらお前は………。」

 

戸惑う紘汰の声は、少し震えていた。

友奈にはその仮面の下の彼の顔が手に取るようにわかる。紘汰の覚悟も、思いもちゃんと伝わっている。

でもそこには、友奈の気持ちは入っていない。だから、ちゃんと伝えないと。

 

「私が迷って、立ち止まっている間に、私の大事なものが傷ついていく。そんなのはもう、嫌なんだ。だから―――。」

 

友奈は足を進める。

紘汰の前から―――その、隣へと。

 

「私はもう迷わない。もう誰も、私の前で傷ついてほしくない。私の大切なものは、私の手で守りたい。だから、そのための力なら私は躊躇わずに手を伸ばす。」

 

友奈は紘汰の隣に並び立つ。

後ろで守って貰うより、隣で並んで共に歩むことを、いつだって望んでいたのだから。

 

「きっといっぱい、つらい思いもすると思うけど―――でも私は信じてるから。皆と一緒なら、何だって絶対に乗り越えていけるって。」

 

友奈はそう言い放ち、隣にいる紘汰の顔を見上げて微笑んだ。

見る人に勇気を与える………何があっても何とかなる、と不思議と思わせてくれる結城友奈の微笑みだった。

そしてそんな顔を見ると、紘汰はいつだってそれ以上何も言えなくなるのだ。

 

小さくため息を吐いた紘汰は、改めて残りの敵へと向き直ると、軽く握った拳を隣へと向けた。

友奈は一瞬キョトンとして、その意味を理解すると花が咲くように笑い自分も同じように拳を上げた。

 

拳と拳がぶつかり合って、コツンと軽い音が鳴る。

その小さな音が体中に沁み渡って、二人の勇気を何倍にも高めてくれるようだった。

二人並んで、彼方の敵をにらみつける。

空に浮かぶ巨体はそれだけで見る者に畏怖を抱かせるが、それでももう、恐怖は感じない。

 

「友奈は東郷を助けに行ってやってくれ。姉ちゃんのところへは俺が行く。あの新顔は、俺に任せろ。」

 

「うん。じゃああっちの前に見たことある方は私が何とかしてくるね。早く行って、風先輩に元気な顔見せてあげて。」

 

「わかってる。………じゃあ、行くぞ!!」

 

「うん!!」

 

友奈が地を蹴りつけ、紘汰がダンデライナーを取り出して、その背に飛び乗った。

二筋の流星が今、樹海の空を駆け抜ける。

 

 

 

 

牽制のように放たれた巨大な水弾を、空中の友奈が迎え撃つ。

触れたものを捕らえるその水の牢獄は本来の役目を果たすことはなく、友奈の拳に触れた瞬間に蒸発していく。友奈の戦意にこたえるように、その拳は熱を帯びていた。

 

大量の水蒸気を切り裂いて、友奈は更にその身を加速させる。

レオ・スタークラスターは動揺したかのように僅かに身を震わせ、それならばと今度は炎球を放った。

次々押し寄せる炎球を、躱し、逸らし、打ち砕きながらも友奈は敵を見ていない。

今の友奈の目に映るのは、ボロボロになった親友の姿だけだ。

 

今行くからね、東郷さん。

だから、それを邪魔するヤツは―――!

 

友奈の目の前に、巨大な炎球が現れた。

嘗ての闘いでは飲み込まれたこともあるソレを、友奈は真正面から受け止めた。

膨大な熱量に、満開の拳が煙を上げている。

それでも決して負けてはいない。

額に汗を流しながら、それでも友奈は勇ましい笑みを浮かべていた。

そして―――

 

「必殺!勇者ボール!!」

 

そのまま、投げ返した。

剛速球の返球が、レオの体の中心に突き刺さる。

自らの炎に焼かれ、レオの体が大きく揺れた。

しかし、小さくはないダメージを受けながらもレオはすぐさま体制を立て直す。

そして反撃に移ろうとして気が付いた。

真正面から向かって来ていたはずの、勇者の姿がないことに。

 

「か、ら、のぉ――――」

 

足元から声がする―――しかし気づいた時にはもう遅い。

友奈はもう、準備を終えていた。

右の拳をめいいっぱい引き絞り、己の体を一発の砲弾へと変える。

 

「―――満っ開!勇者ぁ!!パァーーーーーーーーーンチ!!!」

 

会心の一撃が炸裂し、周囲に快音が響き渡った。

 

 

 

 

「助けに来たよ。東郷さん。」

 

そう言って笑った友奈の顔を、東郷は唯一見える右目で眩しそうに見つめていた。

歩いてくる友奈の背後、満開の巨大なユニットが光の花弁となって散っていく。それと同時に友奈の左目付近に領巾が現れ、彼女の左目は光を失った。

違和感にほんの少し目を細めた友奈は、一緒だね、と言って少し困ったように笑っていた。

 

「友奈…ちゃん………。」

 

「東郷さん…よい、しょっと。」

 

地面に横たわったままの東郷の体を、友奈は事も無げに抱き上げた。

そのまま横抱きに抱えられ、幾分も近くなった位置で二人の視線が重なり合う。

 

「ありがとう東郷さん。…遅くなってごめんね。」

 

「ううん…そんなのいいの…よかった…友奈ちゃん…本当に良かった…。」

 

抱えられた腕から、東郷の大好きだった友奈の温度は伝わってこなかった。東郷の体は既に、温度を感じる機能を失っているのだ。

思えばそれも罰の一つなのかもしれない。

心地よい浮遊感に包まれながら、東郷はそんなことをぼんやりと考えていた。

でも、それも気にはならなかった。

温かさを感じることができるのは、なにも体だけではないのだから。

 

 

 

 

ダンデライナーで空を駆ける紘汰に、星屑たちが追いすがる。

紘汰にとって都合がいいことに、友奈よりも紘汰の方を脅威と判断したのか、周囲にいる星屑たちは全て紘汰の方に集まってきていた。

十分に敵を引き付けたのを見計らって、紘汰は中空へと手をかざした。

 

かざした手の中、光とともに現れたのは専用アームズウェポン『火縄大橙DJ銃』。

周囲に群がる星屑たちを見据えながら、側面のDJピッチを絞りDJテーブルをスクラッチする。

軽快な音楽ともにテンポの速いほら貝の音が鳴り響き、DJ銃が起動する。

 

「おおぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

紘汰とともに、DJ銃が咆哮を上げる。

オレンジ色のエネルギー弾が機関銃のように吐き出され、周囲の星屑たちに降り注いだ。

回避も防御も許されず、豪雨のようなエネルギー弾が星屑たちの体を引き裂いていく。

そして数秒もしないうちに、大量にいた星屑たちは残らず光へと還っていった。

 

露払いを終えた紘汰の目の前に、スコーピオン・スタークラスターの巨体が迫る。

その巨体に照準を合わせ、DJ銃を構える紘汰。

しかしその周囲を、いつの間にか楕円形の浮遊物体が取り囲んでいた。

 

紘汰が反応するよりも早く、その先端から一斉に光の杭が放たれる。

それは少し前の風の時と同様に、お互いの身で反射を繰り返しながら、全方位から紘汰へと襲い掛かった。

 

―――――――!!!!!

 

回避を許さぬ全方位からの飽和攻撃。

凄まじい爆発が巻き起こり、紘汰の体が爆炎の中に飲み込まれる。

やがて残響が止み、周囲に一瞬の静寂が訪れた。

もうもうと立ち込める黒煙の周囲で、浮遊板が油断なく警戒を続けている。

 

と、その時黒煙が一瞬不自然に揺らいだ。

瞬時に反応する浮遊版。その一つを黒煙から飛び出してきた腕が掴み、そのまま握りつぶした。

 

「あぁくそっ!!びっくりしたじゃねぇか!!!」

 

黒煙の中から飛び出してきたのは、もちろん紘汰だった。

あれだけの爆炎に包まれたにも関わらず、その鎧には傷一つとしてついてはいない。

カチドキアームズの強固な装甲はスコーピオンの攻撃の一切を通さなかったのだ。

 

右手にDJ銃を握り、空いていた左手にカチドキ旗を掴んだ紘汰は、そのまま動揺したように一瞬僅かに動きをぎこちなくした浮遊板へと反撃を開始した。

カチドキ旗で打ち落とし、DJ銃で撃ち落とす。

浮遊板からの射撃も突進による攻撃も一切防御することもなくひたすら攻撃を続ける紘汰に、浮遊板は次々にその数を減らしていった。

紘汰が駆るダンデライナーは紘汰本人と違って先ほどの攻撃により幾分かダメージを受けていたが、機能には問題ないようで主人の意を汲み縦横無尽に空を駆けている。

 

しばらくして、最後の一枚を直接拳で打ち砕いた紘汰は、ようやくといった様子でスコーピオン本体へと機首を向ける。

浮遊板の再生産は間に合わない。それはつまり、本体を守るものは何もないということだ。

怪しい煙を吐き始めたダンデライナーの上で、紘汰は再びピッチを操作し、テーブルをスクラッチした。

先ほどとは異なる低く長いテンポの音が鳴り、エネルギーが充填されたDJ銃の銃口を、スコーピオンへと向けた。

そして、

 

「これで、終わりだ!!」

 

銃口から放たれたのは、巨大なエネルギー弾。

連射力よりも一発の威力を重視したその砲弾は、最後の抵抗といった様子で吐き出された浮遊板を巻き込んで―――本体へと直撃した。

 

 

 

 

いよいよ浮いてすらいられなくなってきた様子のダンデライナーを何とか操作して、紘汰は風の元へと降り立った。

紘汰が飛び降りると同時にダンデライナーは限界を迎え、元の錠前サイズになって紘汰の手元へと戻ってくる。

それをホルダーにしまいながら、紘汰はいよいよ風へと向き直る。

風の体のあちこちに、以前は見受けられなかった領巾のような装飾が追加されていた。

それを見た紘汰は、風に気づかれないように仮面の下で奥歯をギリ、と噛み締めた。

満開が解除され、煤だらけの体で大きく張り出した大木の根に背中を預けるように倒れていた風は、いまだ信じられないような面持ちでただ、ずっと紘汰を見つめていた

 

「紘汰………なの………?」

 

「…あぁ、そうだよ姉ちゃん。」

 

「紘汰………あんたっ!!」

 

うまく動かない体で無理やり立ち上がった風を前に、紘汰はぎゅっと目を瞑った。

さすがの紘汰にも、今回ばかりは本当に、とてつもない心配をかけさせてしまった自覚がある。風の前に立った時、最低でも拳骨…ぐらいの覚悟はしていたつもりだった。

しかし、目を瞑る紘汰が感じたのは頭部への衝撃などではなく―――強く、ただ強く抱きしめられる感触だった。

 

「あんた…っ!!あんたねぇ!!生きてたんならもっと早く…早く言いなさいよぉ!!」

 

「姉ちゃん………。」

 

風は本当に最後の力で起き上がったようで、全体重を預けるように紘汰を抱きしめていた。

本来なら簡単に支えられるはずのそれを、なぜか支え切ることができず、気づけば紘汰は風に抱きしめられながら尻もちをついていた。

 

「紘汰…紘汰…っ!よかった…生きてた…生゛ぎでたよぉ……!うぁ……うぇぇぇぇん!!」

 

両親が死んでから一度も見たことのないほどに、子供のように泣きじゃくる姉の背中にぎこちなく手を回しながら、紘汰は自分の考えを恥じていた。

風だって他の皆だって、自分が思っている何百倍も強く紘汰の身を案じてくれている。自分が無茶するたびに、傷つくたびにどれだけ皆の心を痛ませていたのか。

 

「ごめんな姉ちゃん……本当に、ごめん。」

 

「うぁ…そう、思うんならっ…ひっ…ちょっとは普段っ…から…!!」

 

「あぁ、わかって「わかってない!!」…うん…うん………。」

 

せめてもう少し落ち着くまではと風の背中を撫でながら、紘汰は罪悪感とともにそれでもこんな自分を変えられないだろうと思っていた。

 

だったら、強くなるしかない。

何よりも、誰よりも。

誰にも心配かけないように、すべてを守り抜くための強さを。

 

守りたい人たちの顔を思い浮かべながら、紘汰は強くそう思った。

 




次回、決着(予定)。

毎度お待たせして申し訳ありません…
今回よりも早めに出せるように頑張ります。
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