咲き誇る花々、掴み取る果実   作:MUL

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第45話

星屑たちが引いていくのを感じ、樹は広範囲にわたり網のように広げていたワイヤーを解除した。

光のワイヤーが消えていくのと同時に満開状態も解除され、樹は少したたらを踏みながらも地上へと降り立った。

疲労によりふらつく足元、そして身体機能の喪失に伴う違和感さえも無視して、樹は走り出す。

時折足をもつれさせながらも、目的の場所へ向かってわき目も振らずに駆けていく。

 

本当は、もっと早くにこうしたかった。

でも樹は、その思いを必死に押さえつけながら一人で無数の星屑達から神樹様を守り続けていた。

皆が帰ってくる場所を守れるのは、自分だけだと知っていたから。

 

だから今は、走る。

今だけは敵の事も、世界の事だって樹の頭からは消えていた。

抑えきれないほどに逸る気持ちに反して、疲労しきった体は思うように動いてくれない。今の樹にはそれがとてももどかしかった。

 

友奈、東郷、夏凛の姿が見えた。

夏凛の隣に東郷を寝かせながら、友奈がこちらに手を振ってくれている。

元気そうなその姿にほっとして、しかし申し訳なく思いながらも今はそれに手を振り返す暇さえも惜しんで樹の目は別のものを探していた。

 

走る樹の胸の内には今、大きな期待と、それと同じぐらいの不安が押し寄せている。

大丈夫だと信じているのに”もしかしたら”という不安がぬぐえない。

それはきっと、直接目で見て、手で触れることでしか解消できない不安なのだと、何より樹自身がよくわかっていた。

 

友奈たちの横を、足を止めることなくすり抜けた。

樹の心情を察してくれた友奈から、走る樹の背中に向けて声援が飛ぶ。

それに内心で感謝を送りながら、目の前の大きく張り出した巨木の根を超えるため、樹は一層強く地面を蹴りつけた。

 

浮遊感。すり抜ける風。開けた視界。

その、先に―――

 

 

 

 

―――何よりも大切な二人の家族がいた。

 

 

 

 

「―――――!!!―――――!!!」

 

ふり絞るように、二人の名前を呼ぶ。

声を発する機能を失った喉からは、当然のように息の漏れる音しか聞こえてこない。

それでも、二人にはそれで十分だった。

 

「「樹!!」」

 

風と紘汰。二人の声が樹の耳に響く。

それだけで心を占めていた不安が嘘のように吹き飛んで、空いた隙間には大きな喜びと温かさが流れ込んで来る。

でもそれではまだ足りない。だから樹は、飛び込んだ。

 

二人めがけて飛び込んだ樹の体は、期待通りに優しく受け止められた。

樹は受け止めてくれた紘汰と、そんな紘汰の肩に身を預けていた風を、二人まとめて思いっきり抱きしめた。すると二人も、間を置かず樹の事を抱きしめ返してくれた。

腕の中に感じる感触、そして二人の腕から感じる温かさが、二人が確かにここにいることを伝えてくれる。

せいぜい半日ぐらいのはずなのに、何十年も離れていたような気がする。

もう二度と離れないというように、樹は二人を抱きしめる腕にさらに強く力を込めた。

 

風と二人、堰を切ったように泣き始めた妹の黄色い髪をあやすようになでながら、風に促されて紘汰は静かに口を開いた。

言うべき言葉は、自然と頭に浮かんでいる。

自分の帰りを信じ、待ってくれていた家族に言わなければいけない言葉なんて、昔から決まっているのだから。

 

「ごめんな、ありがとう。それと―――ただいま、樹。」

 

 

 

 

合流するなり意識を失った風、そして夏凛と東郷の三人を樹に預け、紘汰と友奈は結界の外縁部を見つめていた。

神樹様の結界は、未だ解除されていない。

それはすなわち、まだ戦いは終わっていないということに他ならない。

 

樹が守っていた神樹様の周囲から星屑たちが引いたのは、撤退を選んだからではない。

では、なぜなのか―――その答えは、二人の見つめる先にある。

 

大穴の付近に、大量の星屑たちが集まっている。東郷たちが相当数を削ったにもかかわらず、未だその総数は数えるのも億劫になるほどだ。

そして、その無数の星屑たちの中心に、巨大な炎が浮かんでいた。

 

それは、数分前までレオ・スタークラスターだったもの。

それが残骸のようなスコーピオン、ジェミニの二体のスタークラスターを飲み込み、それらを超える何かに変貌しようとしていた。

 

集まった星屑たちは、次々とその炎の中に自ら身をささげていく。

星屑という薪をくべられた炎は、より一層勢いを増しながらその巨体をさらに大きく、禍々しいものへと―――

 

やがてすべての星屑たちを飲み込み、『それ』は完成した。

いや、それは完成と言っていいものなのだろうか。

出来上がったそれには、形というものが存在していなかった。

 

より正確に言うのであれば、形を作ることができないといったところだろうか。どろどろの溶岩のようなその塊は、時折何かの形を結ぼうとしては内部のエネルギーに溶かされて再び形を失うという変化を繰り返していた。

全てのバーテックスを内包したその個体は、あまりにも膨大なエネルギーに耐えきれず、自己の形すらも保てていないのだ。

 

個体としてあまりにも無理があるその存在は、恐らくあと数分もしないうちに自壊を迎えるだろう。

だが、それで十分。

この個体は、その数分ですら残存人類を滅ぼすのに余りある人類の天敵であり『星の災厄(スターディザスター)』。

樹海の中に顕現した、まさしく小型の太陽だった。

 

そして、辛うじて球体という形を保っているそれがついに動き出す。

紘汰と友奈、二人の元―――その背後にある、神樹様の元へと。人類を、今度こそ滅ぼすために。

 

その威容に、さすがの二人も息をのんだ。

あまりに膨大な熱量は、かなり離れているはずのこの場ですら熱さを感じさせるほどだ。

だが、それよりも問題なのは―――

 

「紘汰…くん…あれって……。」

 

「あぁ。樹海が………()()()()。」

 

スターディザスターの通り道、その直下から樹海が燃え始めていた。

その延焼速度、被害範囲はこれまでの比ではない。

時間をかければかけるほど、現実への影響は加速度的に広がっていくだろう。もはや、一刻の猶予もない。

 

倒せるだろうか?あれを。

倒すしかないのだ。みんなで生き残るためには。

 

「友奈。少し、離れていてくれ。」

 

「え?」

 

そういうと紘汰は、再びDJ銃を取り出した。

四の五の考えている余裕はもはやない。

いずれにせよ今できる最大限をぶつけるしか手はないのだ。

 

『ロックオフ』

 

戦国ドライバーからカチドキロックシードを取り外し、それをそのままDJ銃のコネクタースロット『ドライブベイ』へと叩き込む。

 

『ロックオン!』

 

『カチドキチャージ!!』

 

カチドキロックシードから溢れ出した莫大なエネルギーが、DJ銃の銃口下部、パワーセルへと収束していく。

カチドキロックシードから生まれるエネルギーは、これまでのロックシード達とは比べ物にならない。

銃身からはオレンジ色の余剰エネルギーが溢れ出し、バチバチと激しい音を立てていた。

 

絶対に、勝って見せる。

強い意思とともに、紘汰はDJ銃を構え直した。

火縄橙DJ銃の必殺の一撃は、今の紘汰が出せる最大火力。それは、ひいては現存戦力における最大火力でもあった。

もしもこれさえも通じないのであれば、もはや後はない。

しかし、問題はもう一つあった。

 

(くそ…狙いが…つけられねぇ…!!)

 

霞む視界。震える手足。自由の利かない体に苛立ちが募る。

奇跡のような復活を遂げたといっても、ほんの少し前までまさしく瀕死の重傷を負っていたのだ。

ここにきていよいよ、紘汰の肉体にも限界が出始めていた。

 

ギリギリと歯を食いしばり、何とか銃身を持ち上げる。

先ほどまで自由に振り回していたこの銃が、今の紘汰にはあまりにも重く感じられていた。

ほんの少しでも気を緩めればすぐにでも落ちてしまうであろう自身の腕。

だがその時突然、その腕が軽くなった。

 

突然の変化に戸惑いながら、紘汰はわずかに視線を下げる。

銃身を支える紘汰の手。その上に、桜色の手甲に包まれたもう一つの手が重ねられていた。

 

「友…奈…。」

 

「約束したでしょ?紘汰くんが困ったときは、いつだって助けるって。どんな時でも、私は絶対にそばにいるから。だから最後まで、一緒にやろうよ紘汰くん。」

 

そう言って友奈は、紘汰の顔を見上げながら力強く微笑んだ。

そしてその笑みが、紘汰の体から余分な力を抜いていく。

支えられている腕だけではなく、心まで軽くなっていくのを紘汰は感じていた。

一人で気負いすぎる悪癖は、どうにも治りそうにない。

そういうところはいつまでたっても変われそうにない自分に紘汰は少し苦笑した。

 

「…あぁ、そうだったな。頼む、手伝ってくれ友奈。絶対に勝つぞ―――一緒に!!!」

 

「うん!!」

 

敵は相変わらずゆっくりと、しかし徐々に速度を増してこちらへと接近し続けている。

だが、徐々に強くなる熱と威圧感を前にしてもそれを正面から受け止める二人の瞳に揺るぎはなかった。

 

きっと、何とかなる。

隣には友奈が、後ろには仲間たちがいる。

だから恐れることなんて何もない。

 

あふれ出るエネルギーは未だ衰えることはなく、むしろ一秒ごとに輝きを増しながら解放の時を今か今かと待っている。

二つの腕が銃身を支え、銃口が一点でピタリと止まった。

そして―――

 

「「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええ!!!!!」」

 

銃口から、オレンジ色の奔流が放たれた。

DJ銃から放たれた膨大なエネルギーは大きく広がりながら勢いを増し、敵の元へと一直線に突き進む。

 

そして一瞬の間も置かず、二人の放った砲撃は星を滅ぼす災厄に真正面から衝突した。

オレンジ色の光の波濤が、醜悪な太陽を表面から削り取っていく。地鳴りのようなうめき声が、樹海の中に響き渡った。

 

スターディザスターの前進速度が徐々に徐々に鈍っていく。

それと同時に凄まじいほどの反発力が紘汰と友奈にも襲い掛かっていた。

歯を食いしばり、大地を踏みしめ、銃を握る手に力を籠める。

 

永遠にも思える時間の中、二人は銃を支え続けた。

その間もスターディザスターは減速を続け、そしてついに完全に停止した。

―――だが、しかし

 

「ぐ…うぅ…!!!」

 

どちらともなく、苦悶の声が漏れはじめた。

停止はした。だが、それ以上押し込むことができない。

それどころか二人の体にかかる力は増していく一方だった。

エネルギーの直撃によって半ばまで抉られていたスターディザスターの体は、破壊を上回る再生速度によって少しずつではあるが修復されつつあった。

 

オレンジ色の光が、ほんのわずかに翳り始める。

それと同時に止まっていたスターディザスターの体が、再び前進を始めていた。

二人の体が少しずつ押され始め、踏みしめた足場がガリガリと音を立てた。

ずっと銃身を支え続けていた二人の体にもとうとう限界の足音が忍び寄り始めている。

 

それでも―――

 

「ま―――」

 

「け―――」

 

「る―――」

 

「「かぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!!!!!」」

 

限界など無いと、二人が叫ぶ。

守りたい人たちのために。その人たちと生きる世界のために。

限界なんていくらでも超えて見せる。

 

紘汰と友奈。

二人の目はもはや敵を見てはいない。

二人の瞳が映すのは、未来。

皆と一緒に過ごす、楽しくて輝かしい未来だけだ。

 

だから、こんなところで負けてなんていられない。

今この瞬間、二人の心は完全に一つだった。

そしてそれが、さらなる奇跡を引き寄せる。

 

銃身を支える二人の手。

重なった手と手の間から―――金色の光が溢れ出した。

 

二人の体が、金色の輝きに包まれる。

それと同時に、オレンジ色の砲撃が再び勢いを取り戻し始めた。

いや、それだけではない。

一瞬、一秒ごとにその光はより強く、激しく勢いを増している。

手の中から発し、二人を包み込んだ金色の輝きは、銃身を伝って砲撃そのものへと伝播する。

オレンジの奔流は、黄金の極光へとその姿を変えていた。

 

「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」

 

極光が、スターディザスターを押し返す。

抵抗は一瞬。あっという間にスターディザスターを飲み込んだ極大の砲撃は尚も止まらずに突き進む。結界に空いた大穴を抜け、さらにその先へと―――

 

広大な宇宙を、黄金の光が切り裂いていく。

光にのまれながら、スターディザスターは再生を繰り返す。しかし、バーテックスの究極とも言えるスターディザスターの再生力は、それをたやすく上回るほどの破壊力を前にもはや意味をなしていなかった。

黄金の砲撃は、スターディザスターの表皮を消し飛ばし、内殻を抉ってやがてその存在の中核(みたま)へと到達する。

そして―――

 

 

 

―――深淵の闇の中に、大輪の花が咲き誇った。

 

 

 

 

夜よりも深い闇の中で燃え盛る、一つの惑星。

かつては青く、美しかったその惑星は今や見る影もなく、化物たちの楽園―――人類にとっての地獄へと姿を変えている。

ここで存在を許されるのは、まさに今現在も炎の中で踊り狂うように宙を舞う星屑たちだけだった。

 

いや、違う。

わが物顔で飛び回る星屑たちの中、それを従えるように佇む影が二つ。

今やこの惑星の頂点であるはずの星屑を乗騎として、燃え盛る惑星を睥睨する深紅と深緑。

星屑たちとは明らかに異なるその姿は、見た目だけで言うならば人に近い。

しかし、その姿はまさに異形。決して人類ではありえない超越種。

 

その超越種たちのすぐ脇を黄金の光がかすめていったのは、ほんの数秒前の事だった。

宇宙の闇を切り裂きそして咲き誇ったその光は、勇者たちの前に立ち込める暗雲を切り開く希望の光であり、それをもたらそうとする者たちへの反抗の印。

 

その不遜な輝きに、最初に()()()()()()()()を打って以降、成り行きを静かに見守っていた二つの影のうちの一つ―――紅い影が肩を震わせた。

傲岸な劣等種に鉄槌を下さんといきり立った紅い影は、手にした()()()の腹を乗騎の頭部に叩きつけ、すぐさまその場へと向かおうとして―――緑の影に止められた。

 

怒りを隠そうともせず詰め寄る紅い影を前に、緑の影は余裕の態度を崩そうともせず何事かを紅い影へとささやいた。

すると、今にも相手を殺さんとするほどだった紅い影の勢いは一気に終息し、いかにも面白くないといった様子で鼻を鳴らすと、怒りをぶつけるように乗騎である星屑を蹴りつけて先ほどまで向かおうとした方向とは逆の方へと飛び去って行った。

 

去っていくその背中を嘲るかのような目で見つめていた緑の影は、ほんの少し死の惑星の方へと振り返った後、手に持った身の丈ほどもある戦斧の柄で乗騎を小突き、自らも紅い影の後を追うようにその場を後にする。

 

人類とは明らかに異なる造形をしたその表情から、何かを読み取ることはできない。

しかし、去り際に僅かに振り返ったその異形の目。

そこには確かに―――隠しようのない愉悦が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

結界に空いた大穴が急速に塞がれていくのと同時に、戦いの終わりを告げるように極彩色の花弁があたりを覆い始める。

気を失っていた東郷が目を覚ましたのは、まさにそのタイミングだった。

 

未だうまく動かない体で、必死に視線だけを彷徨わせる。

幸いにも、求めている人物はすぐそばにあった。

 

「あ、目が覚めたんだね東郷さん。よかったぁ。」

 

「友、奈…ちゃん……。」

 

すぐ隣で同じようにあお向けに寝ころびながら微笑む親友の姿に、東郷はホッと胸をなでおろした。

 

「敵…は…?私たち一体…どうなって………。」

 

「安心して東郷さん。敵はみんなちゃんとやっつけたから………紘汰くんと一緒に!」

 

そう言ってややぎこちないVサインを送る友奈の奥には、確かに紘汰の姿があった。

あの時大量の星屑たちの波に消えていった彼がちゃんとそこにいる。

その事実に、東郷は静かに涙を流していた。

 

「紘汰君…良かった…本当に良かった………。」

 

気づけば紘汰だけではなく、夏凛も風も樹も皆一緒だった。

皆、精も魂も尽き果てたというように地面に体を投げ出しながら一様に寝息を立てている。

そうなってしまうのも仕方がない。それだけの激戦だったのだから。

 

今起きているのは東郷と友奈だけ。

しかし二人は特に言葉を交わすこともなく、ただぼうっと宙を舞う光の花弁を眺めていた。

正直に言って今は喋るのすら億劫だったし、それにいろいろと考えたいこともあった。

敵の事や体の事、そういった諸々を含めてこれからの事を。

 

これからどうなるんだろうという思いはもちろんある。しかしそれは、以前ほど張り詰めた感情ではないことを、確かに東郷は感じていた。

今回の闘いでも、たくさんのものを失った。それでもきっと―――

 

そんなことをぼんやりと考えていた東郷の腕にふと、温かい何かが触れた。

何だろうと思うのと同時に疑問が湧く。自分の体は今、そういった感覚を失っているはずだったからだ。

その疑問をひとまず脇に追いやった東郷は、ともかくといった風に視線を腕へと向けた。

視線を向けた先。温かさが残る腕の上に、青い光の粒が乗っていた。

それも一つだけではない。見ているそばから次々と、腕だけではなく東郷の体全体に降り注ぐように光の粒は数を増していた。

 

一体どこから。

疑問に思った東郷が、視線をわずかに上に向ける。

するとそこには―――

 

「え…?」

 

精霊たちが、東郷の周りを取り囲んでいた。

青坊主、刑部狸、不知火、川蛍、そして今はまだしっかりとした形を成していない新たな精霊たち。

その精霊たちが、東郷を見下ろしながら()()()()()()()

そう。東郷の体に降り注いでいた光の粒とは、精霊たちが流した涙だったのだ。

 

「東郷さん…これって…。」

 

隣から友奈の困惑した声が聞こえてくる。

友奈も、そしてほかの皆も同じ状況だった。

精霊たちは一様に、戦いぬいた彼女たちを見つめながらぽろぽろと光の粒をこぼしていた。

精霊たちがこぼす色とりどりの光の粒は、勇者たちの体にぶつかって、それぞれの体に吸い込まれるように消えていく。

体に感じた温かさは、まさにこれが原因だった。

 

「あなたたち…。」

 

その光景を目にしながら、東郷はいつか自分が口にしたことを思い出す。

精霊とは、自分たちの意思など関係なく、冷徹に勇者をお役目に縛り付けるシステムの一部だと思っていた。

でも、だとしたらこれは―――

 

その時、東郷を取り囲んでいる精霊の一体、青坊主が東郷の顔のそばにふよふよと近づいてきた。

依然として青い涙を流しながら東郷の顔を覗き込んでくるその姿に、思わずといった風に東郷は手を伸ばした。

突然触れられた青坊主は一瞬びくりと体を震わせたが、しばらくするとその体を東郷の手へとこすりつけてきた。

その様子に、東郷は確かに自分の事を心配している青坊主の意思を感じたのだ。

 

「いいの…いいのよ…。ありがとう、いつも助けてくれて…。」

 

 

 

 

精霊たちに囲まれて再び涙を流している親友の姿を見てそっと微笑んだ友奈は、自らも近づいてきた牛鬼と火車の頭を撫でながら樹海の空を見上げていた。

光の花弁は徐々に数を増している。もうじき結界も解除されるだろう。

結界が解除されればようやく、日常が戻ってくる。

散華で失ったものはとても多く、最後の闘いできっと現実世界にも少なくない影響が出ているだろう。

何もかも前と同じ、とはならないのは間違いないと思う。

 

でも、きっと何とかなる。

仰向けのまま、友奈はぐるりとあたりを見回した。

東郷がいる。

夏凛がいる。

風と樹が…そして紘汰がいる。

 

今回は特に大変だったけど、ちゃんとみんなで戻ってこれた。

皆がいるなら、きっと何でも乗り越えていけると信じているから。

 

「そうだよね紘汰くん。」

 

希望を胸に、友奈は隣にいる紘汰へと声をかけた。

やっぱり疲れているのか、先ほどからずっと眠っている紘汰からは何の返事も帰ってこない。

仕方ないよねと苦笑して、それなら寝顔でも見せてもらおうかと友奈は顔をそちらに向けて―――

 

 

 

 

 

 

「―――紘汰くん?」




次回、一章最終話(予定)

相変わらず遅いペースですがもうしばらく、お付き合いをお願いします。
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