咲き誇る花々、掴み取る果実   作:MUL

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第--話

森。

森があった。

命を育む場所ではなく、命が命を淘汰する、強者のみが生き残ることのできる魔の森が。

 

無造作に生えた木々は限られた光を奪い合うように伸び、複雑に絡み合った枝葉はその足元に光をほとんど通すことはない。そして形成されたその闇の中にはいくつもの気配が蠢いていた。

枯れ、落ちた枝葉は光にさらされることなく、同様に打ち捨てられた生物(弱者)の骸とともに腐っていく。

木々を含め、そこにはおよそ地球上にいる生物は一切存在しない。

いや、むしろできないと言った方が正しい。

もし仮に何かの間違いで迷い込んでしまったとして、ほんの僅かな時間さえ生き抜くことはできないだろう。

 

ここは、四国以外が燃え盛る地球とは異なる場所にある森。

かつて、『ヘルヘイム』と呼ばれたその場所だった。

 

 

 

 

ぐちゃり、ぐちゃり。

一歩歩みを進めるごとに、湿った音が森に響く。

普段は多少なりとも騒がしいはずのその場所は嘘のように静まり返り、そこを進む唯一の存在の足音を際立たせていた。

足音の主―――深緑の異形は、怯え、息をひそめる森の生物達の気配を感じながら、しかしそれを気にかけることもなく歩みを進める。

力が支配するこの森において、この深緑の異形の力はその最上位に位置する。

いくら理性のない獣のような生物しかいないとはいえ、いや、そうだからこそ備わっている本能からくる危機感知能力は、ただひたすら何事もなくこの上位種が過ぎ去るのを願い、隠れることを選択させていた。

 

湿地の森をしばらく歩くと、やがて少し開けた場所にたどり着いた。

この場所は他の場所よりもやや木々が少なく、よって日の光がある程度差し込むため足場の状態も随分と良好だ。そしてこの場所こそが、彼(と言っていいのかはわからないが)が目指していた場所でもある。

 

目的地には既に先客がいた。

今到着したばかりの彼とほぼ同等の力を持つその紅い異形は、地面に突き刺さった体色と同じ色の剣の柄に両手をおいて、じっとその場に佇んでいた。

 

「やぁ『デェムシュ』。こんな所にいるとは珍しいじゃないか。」

 

黙ってたっているだけの状態でさえ、他者を寄せ付けない雰囲気を持った紅い異形―――デェムシュに、緑の異形は何のためらいもなく声をかける。

しかし、声をかけられた当人はというとほんのわずかに一瞥をくれた程度で何も言わず、再び自己の世界へと埋没していった。

 

「随分と連れないじゃないか。それが数日ぶりにあった同胞に対する態度なのか?」

 

そんなデェムシュの反応をかけらも気にすることなく、むしろ酷薄な笑みさえ浮かべながら遠慮なく近づいていった彼は、”近づくな”といった雰囲気を一層強くしたデェムシュの肩に手をおいて、もう一度そう呼びかけた。

そうなれば流石に無視し続けるわけにもいかず、デェムシュは射殺さんばかりの視線を向け、口を開く。

 

「失せろ『レデュエ』。お前と話すことなど何もない。」

 

にべもない言葉とともに肩に置いていた手を払われ、深緑の異形―――レデュエは僅かに肩をすくめた。

こうなってしまえばもう、これ以上のコミュニケーションは不可能に近い。

下手にちょっかいをかけ続ければ次は恐らく殺し合いに発展するだろう。

レデュエとしては別にそれはそれで一興かとも思うが、今回は別にそんなことが目的でこの場に足を運んだわけではない。

そう考えてあっさりと干渉を諦め、少し離れた場所へ移動した。

 

元々相性の悪いデェムシュのこんな態度は今に始まったことではないが、今日に関しては輪をかけて悪化していた。

原因となることに関しては心当たりがあるが、別にだからと言ってわざわざ解きほぐそうということもない。

そもそもこうして声をかけたのだってただの気まぐれ、暇つぶしと言っても良い。そのためにわざわざこれ以上何かをしようという気にもならない。

 

レデュエにとって自分以外のほぼ全ては見下す対象であり、自分を楽しませるための『おもちゃ』でしかない。

そもそもデェムシュが機嫌を悪くする原因となったこと―――あの哀れで滑稽な生物達を直接潰しに行こうとしたところを止めたことにしても、レデュエからしてみれば『遊び』というものを理解していないデェムシュの方が悪い。

 

そう、彼にとってあれは『遊び』―――『ゲーム』なのだ。

レデュエが用意した難題を、あの生物達が乗り越えられるかということを楽しむゲーム。

最終的には勿論全て根絶やしにするつもりだし、そもそも自分達は()()()()()()()()()

だが、現状そのやり方、時期までは指定されていない以上できうる限り長くその過程を楽しみたい。

ゲームマスターたる自分が用意した条件を、プレイヤーたる彼らは形はどうあれクリアした。

ならばルールに従って、報酬はちゃんと与えるべきだ。『勝ち取った平和』という報酬を。

 

そしてこの報酬にしても、今後楽しむためのただのスパイス。

こういう希望があればこそ、それを奪われた時に生まれる絶望は極上の味わいとなるのだから。

 

目覚めてからこれまで、彼らには随分と楽しませてもらった。

別にすぐに殺しても良かったが、こういうやり方に切り替えて結果としては正解だった。

おかげで必死にもがく姿以外にも、少し()()()()()が見れたのだから。

 

(まぁ、いずれにしても―――)

 

そこまで考えて、レデュエはふと意識を自分の外へと向けた。

彼の視線の先、そこにはこの森の中にあってなお暗い、深淵の底のような洞窟がある。

その中への立ち入りを、自分たちは許されてはいない。が、今日ここに来たのはこれが目的だ。

より正確にいうならば、この洞窟の中にいる―――

 

 

 

 

「!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

その瞬間、レデュエとデェムシュ、二人の超越者が全く同時に跪いた。

手が震え、冷汗が滝のように流れる。顔を上げることなど、できようはずもない。

その反応に一拍遅れて、森全体が鳴動した。

森に住む生物たちの悲鳴のような唸り声が森中に響き渡り、この地点を中心として逃げ惑うようにそれらの気配が離れていく。逃げ場など、どこにもないというのに。

 

これだ。

この気配を感じて、今日自分はここに来た。恐らくそれは、デェムシュも同じ。

恐らく未だ不完全、ほんのわずかにまどろみから浮上しただけの事。

しかしたったそれだけの気配で自分たちはこの有様だ。

 

この洞窟の中にいるのは―――いや、おられるのは、レデュエのたった一つの『例外』。見下すなどとできようはずもない、自分たち超越者を凌駕する絶対者。

 

(あぁ、そうだ―――)

 

時折発せられるこの気配。その間隔が徐々に短くなっている。

300年の眠りから、絶対者は間もなく目を覚ます。

そしてそれはそのまま、あの惑星の終わりを意味していた。

 

レデュエが管理するこのゲーム。それには明確な『タイムリミット』が存在している。

この中におわす存在は、ただ滅ぼすだろう。一切の妥協も慈悲もなく。

それは誰にも止められない。勿論止める気もない。

だって仕方がないのだ。そう決まっているのだから。

300年前に、そう決まってしまったのだから。

これまで生きながらえてこられたのはただ、それだけの話なのだから。

 

(あと少しで―――我らの(おう)の、お目覚めだ。)

 

 

 

 

 

―――暗い、暗い洞窟の中。

朽ちかけた石の玉座。

その、上で―――

 

蒼い双眸が、鮮烈な光を放っていた。

 




あけましておめでとうございます。
そして、お久しぶりです。

短いですがリハビリを兼ねて…
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