流石にわかりやすかったですよね。
プロローグ
香川県大橋市。
瀬戸内海にかかる瀬戸大橋を望むその町は、多くの名家が屋敷を構えており、近隣でも高級住宅街として有名な場所だった。
太陽が西に傾き、町を茜色に染める中、一台の高級車がゆっくりとしたスピードでそんな住宅街を走っている。
制限速度をやや下回るように走るのは、中で疲れて眠ってしまっている大事な乗客に負担をかけまいとする、熟年の運転手の配慮だった。
そのようにしてしばらく走っていると車は目的地に着いたようで、大きな屋敷が居並ぶその中でも特に目を引く、立派な構えをした門の前で停車した。
門の横には、これもまた見事な毛筆で書かれた、『乃木』の文字。
ここは、この世界の恵みである神樹様を奉る『大赦』の中でも最高の権力を誇る、『乃木家』本家のお屋敷だった。
運転手が運転席から降り、門の前にいた使用人と二言三言言葉を交わす。
その後、運転手が車に戻るとしばらくして木製の門がゆっくりと開いた。
それを確認した運転手が、車をそのまま中へ走らせる。
門をくぐった先に見えるのは、いくつもの日本家屋と上品な日本庭園だった。
門だけではなく、やはり中も相当に立派なつくりをしている。
通路に沿ってしばらく進み、中でも一際大きなお屋敷の前で再び車を停車させる。
ここが目的地である乃木家の本宅だ。
車を降りた運転手が、今度は後部座席へと足を運ぶ。そのまま窓を数回ノックし、反応がないことを確認すると、ドアを開けて中で気持ちよさそうに眠っていた少女に直接声をかけた。
自分の体を揺さぶる手の感触と慣れ親しんだ運転手の声に、少女はゆっくりと瞼を開く。
ぼやけた目で目的地に着いたらしいことを確認すると、一つ大きな伸びをした。
まだ眠い目をこすりながら、運転手に案内されるままにふらふらと頼りない足取りで玄関へ向かう少女。
運転手が明けてくれた扉から中へ入ると、おかえりなさいませお嬢様と、中に控えていた使用人の女性たちが一斉に声をかけた。
「ただいま~。今日も訓練大変だった~。もうへろへろのくたくただよ~。」
「お疲れ様です、お嬢様。」
自分で言った通り、疲れ切った様子の少女に労いの言葉をかけながら、一人は運転手から荷物を受け取り、一人は少女の脱ぎ散らかした靴を預かる。
靴を脱ぐとそのまま玄関に突っ伏した少女に、また別の使用人が駆け寄るが、もうちょっとこのままで~、という少女の言葉に足を止めた。
板の間に片頬を預け、腰を天井に向かって突き出した形で倒れこむ少女の姿に、皆が苦笑する。
そのまま溶けていってしまいそうなその姿は、とても名家のお嬢様とは思えない。
本来は注意するべきなのだろうが、事情が事情であるし本人の希望でもある。
しばらくはそうさせてあげようと、それぞれ別の仕事に取り掛かり始めた。
(床、きもちぃ~・・・。)
運動の後で火照った体に、ひんやりとした板が心地よい。
このままここで寝てしまおうか。そんなことをぼんやりと考え始めた少女の頬が、新しい振動を感知した。
その瞬間、細められていた少女の目がパッと開く。
目と同時に、上半身の方もガバっと起き上がっていた。
屋敷には先ほどの使用人を含め、たくさんの人々が働いているが、その人の足音を聞き間違えるはずはない。
本人の性格を表すかのようなしっかりとした足音が、玄関からすぐそばの角の奥の廊下から聞こえてきた。
少女がゆっくりと腰をあげる。
両手をやや前方の床に、足は左右少しずらしてつま先立ち。
所謂クラウチングスタートの態勢だ。
そして、角からその人物の影が見えた瞬間、スタートを切った。
突然の少女の襲撃に、しかしその人物は慌てることはなく、それなりに勢いのついた少女の体を優しく受け止めた。
小柄な子供だとはいえ、人ひとりの突撃を受け止めても、まるで揺らぐような様子はない。
飛びついてきた少女に少し嘆息しながら、その人物―背の高い黒髪の青年―は、少女に向かって声をかける。
「戻っていたのか園子。お勤め、ご苦労だったな。」
「ただいま~。訓練、いっぱい頑張ったんだよ~。いっぱい褒めて~。」
そういいながら、青年のお腹のあたりに顔を擦り付ける少女の名前は乃木園子。
乃木家の長女である。
彼女はこの度特別なお役目を賜り、それの準備として日々訓練を行っていた。
「ああ、よく頑張ったな。どこか怪我をしているところはないか?もしあるなら、藤花に言うといい。」
「そっちは大丈夫~。でも流石に疲れちゃったかな・・・。」
そういう園子の声は、確かに少し元気がない。
お役目をこなすには、相応の力が必要だ。
それを身に着けるためには、やはり厳しい訓練が必要だった。
「園子。まだ小学生の身で訓練は大変だと思うが、これも大事なお役目のためだ。俺たち乃木家の人間には、始まりの家として絶大な財力と権力が与えられている。だが、それは同時にそれに見合うだけの責任があるということだ。我々はこの国を、そして人々を守り、導いていかなければならない。それが―――」
「高貴なるものの義務。ノブレス・
青年の言葉を遮った園子が、顔を上げて青年に自信ありげなドヤ顔を見せる。
そんな園子に再び嘆息しながら、青年は彼女の頭をポン、ポン、と叩きながら訂正する。
「ノブレス・
「えへへ~。また間違えちゃった~。」
この青年は、こんなザ・日本家屋といった家に住んでいるというのに、かなり西洋趣味に傾倒しているところがある。
先ほどの言葉は青年が特に気に入っていて、園子ももっと幼いころから何度も聞かされてきた。
しかし、小さい頃の園子はそれをなかなかうまく言えなかったため、その度にこうして青年が優しく訂正してくれていた。
園子は、このやり取りが昔から大好きだった。
本当はもうちゃんと覚えているのに、今もこうしてわざと間違えては同じやり取りを楽しんでいる。
青年も、わざとだということはわかってはいるが、それと同時に何故彼女がそうするかについてもなんとなく気づいているため、あえて強く言う気はないようだ。
そんな不器用な優しさもまた、園子の心を暖かくさせてくれる。
自分の頭に感じる大きな手の感触を楽しんでいた園子だったが、それもそろそろ終わりらしい。
青年は手を園子の両肩に回すと、そろそろ離れるように、と優しく促す。
名残惜しいが、あまりわがままも言っていられない。
「俺はこれから少し外に出てくる。先ずは着替えて、それからしっかり休むといい。夕食までには戻るつもりだが、もし遅くなるようなら先に済ませてかまわん。」
「ううん。待ってるからいいよ~。でもこんな時間から用事?」
「あぁ。人に会う約束があってな。軽い確認だけだから、あまり時間はかからんとは思うが。」
そういうと青年は改めて玄関に向かう。
先ほど園子を送ってくれた運転手が、青年に向かってお辞儀をしている。
それに青年が軽く答えると、運転手が車の準備をするために外へ出ていった。
忙しい中、自分の為に時間を割いてくれたのだろう。
少しあわただしそうに見えるその背中を、ニコニコと笑いながら見つめ、出ていこうとする青年に、後ろから声をかけた。
「行ってらっしゃ~い。気を付けてね、―――貴虎お兄ちゃん。」
「あぁ。では行ってくる。お前もしっかり休むんだぞ、園子。」
それは、過ぎ去った過去のお話。
多くの人が気づかないままに通り過ぎて行ったおとぎ話。
使命を受けて戦った選ばれた少女達と、人の力で未来を切り開こうとした最初の挑戦者たちの物語。
―――多くの大切なものを手に入れて、やがて失う物語。
まさかニーサンが存在していたなんて・・・(バレバレ
男子高校生な本編ミッチと違い、小学生の妹ということで接し方もかなり気を使っているニーサンです。
ちなみに名前だけ出ちゃったあの人は、ほんとに名前だけの出演ですのであしからず。
本格的に進めるのはもう少し後の予定ですが、合間合間で更新していくかもしれません。
目下最大の障害は、手軽に確認できる1期の資料が明日で見放題終わってしまう事・・・
密林さん!ちょっと頑張ってお願い!
※祝!ジオウにご本人登場!!
出てくれるんでねぇかとは思っていましたが、まさか二人とも出てくるとは・・・
来週、大いに楽しみですね!
ここからは鎧武のステージだ!!