咲き誇る花々、掴み取る果実   作:MUL

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いつも読んでくださっている方々、大変長らくお待たせいたしました。
状況が落ち着いてきましたので少しずつ再開します。

運命の章の方が中途半端ですが、舞台版仮面ライダー斬月の公開を記念してこちらの第1話を投稿させていただきます。


第一話

「すまないな、園子。」

 

意識を失い、崩れ落ちる妹の体を支えながら、貴虎は樹海の中で一人そうつぶやいた。

手に持った端末を無造作に放り投げ、力の抜けた少女の体を横抱きに抱える。

両腕にかかる予想外の重さに、貴虎の表情が少し綻んだ。

いつまでも自分の後ろについてくる小さな子供だとばかり思っていたが、いつの間にかこんなにも大きくなっていたのか。

そういえば、とこれまで潜り抜けてきた激しい戦いの日々を思い出す。

その中でも、この子の発想と芯の強さには何度も助けられてきた。

成長したのは、体だけではない。

園子はきっと、大丈夫だろう。―――たとえ、俺がいなくなったとしても。

 

大事な妹の体を、ゆっくりと地面に横たえる。

傍らには、同じく気を失って倒れている少女がもう一人。

園子の同級生で親友、そして同じく神樹様に選ばれた勇者である鷲尾須美だ。

少し苦しそうな表情で眠る二人の頭をそっと撫で、立ち上がった貴虎はほとんど崩壊している大橋の方へと向き直る。

名残惜しいがそろそろ時間だ。あまり先方を待たせすぎるのもよくないだろう。

そうして歩き出そうとした時、踏み出す足に僅かだが抵抗を感じた。

ダメージの影響かとも考えたがそうではない。そちらの足に視線を落とすと、貴虎のズボンの裾を掴む小さな手が見えた。

 

仕方ないなと静かに微笑み、行かないでというように弱々しくつかまれた手を、優しく剥がした。

そうして反対の手を、寂しくないようにと傍らで眠る須美の手と重ねてやる。

須美の手に巻かれているのは、昔自分がプレゼントしてやった園子のお気に入りのリボンだった。

少し古くなって、何度新しいのを買ってやろうと言っても頑なに手放そうとしなかったリボンだ。

それを渡してもいいと思えるような友を、園子が見つけることができたということが、兄としてとても喜ばしかった。

 

「大丈夫だ園子。お前にはもう、大事な仲間がいる。たとえ形がなくなったとしても、繋いだ絆はなくならない。それはきっと、お前をこれからもずっと守ってくれる。」

 

重なった二人の手を優しく包み、聞こえてはいないだろう二人へと語りかける。

この子達は、泣くだろう。

それをわかっていながら行くのだから、我ながら酷い兄だ。

しかしそうだとしても、これ以上彼女達が身を捧げるのを見たくはなかった。

 

「お前を置いていくのは、俺の最初で最後の我儘だ。今まで散々聞いてやったんだから、最後に一つぐらいは許してくれ。安心しろ。たとえこの身が朽ちようとも、俺はずっとお前の傍にいる。そこでずっと、お前の夢を、見守っているから―――。」

 

 

 

愛する者たちを残し、敵の元へと貴虎は向かう。

敵は多く、そして強大だ。

だが、それは決して負ける理由に直結しない。

 

『メロンエナジー』

『ソーダ』

『メロンエナジーアームズ!!』

 

形成される純白のアンダーアーマーと、それを覆う黄昏色の鎧。

そしてその手に握るのは、真紅の創世弓“ソニックアロー”。

友が作り、彼が掴み取った、守るための力。

 

「来るがいい、バーテックス。貴様らがたとえ何であろうとも、やすやすと滅ぼされるほど俺たち人類は甘くはないぞ。」

 

―――お兄ちゃん!―――

―――貴虎さん!―――

―――虎兄ぃ!―――

 

声が、聞こえる。

いつも傍らにあって、今はそうではない声。

仮面の中で、しばらく目を瞑り、すべてを振り切り覚悟を決めた。

 

「人類の・・・いや、俺の妹達の未来は―――俺が必ず、切り開く!!!!」

 

 

 

その日、戦いがあった。

世界の存亡をかけた、しかし誰にも見られることのない戦いは、世界の存続という形で決着した。

敵にとっても総力戦であったこの戦いに勝利したことにより、以降約二年にわたり敵の襲来は鳴りを潜めることになる。

人類が失ったものは、大橋ともう一つ。

勇者達と共に、世界を守るために戦い続けた青年が一人、この日世界からいなくなった。

 

多くを失った戦いの始まりはおよそ半年前。

5月連休を目前に控えた春の日へと遡る。

 

 

 

 

終了を告げるブザーがけたたましい音を鳴らしている。

観測用のモニタや様々な機材が並ぶ中、忙しく動き回る研究者たちをしりめに、何らかの数値を映し出したモニタの前でじっと経過を見守っていた戦極凌馬は満足げな笑みを浮かべた。

表示された結果は前回を大きく上回り、こちらの期待を超える数値を叩きだしている。

これならば、今すぐに実戦が始まったとしても対応は可能だろう。

ここは、大赦が保有する研究室の一室。戦極凌馬が研究用に与えられている場所だった。

地下室であるため天然の光は差し込まないが、LED照明によって室内は十分な明るさが保たれている。

部屋は中心で研究用と実験用の二つに分かれており、凌馬がいるのは片側の研究用のエリアの方だった。

しばらくすると二つの部屋を仕切る壁に設置された厳重な扉が、空気が抜ける音と共に開き、中から黒髪の青年が姿を現した。

扉の横に控えていた研究者の一人から労いの言葉と共にタオルを受け取った青年―――乃木貴虎が、体に浮き出た汗を拭いつつ凌馬の元へと歩いてくる。

 

「やぁ貴虎。どうだい?戦極ドライバーの調子は。」

「あぁ。前回指摘した問題点は完璧に改善されている。流石だな、凌馬。」

 

いるかい?と差し出されたドリンクの容器を受け取りながら、心底感心したというように貴虎が答える。

戦極凌馬という青年は、その才能を見出した貴虎が、乃木家の強大な発言力によって多少強引に大赦の研究者として迎え入れた希代の天才だ。

常人とは一線を画す頭脳を持ったこの男がいなければ、この戦極ドライバーは完成するどころか形さえもできていなかっただろう。

自分以外では貴虎にしか心を開いておらず、かなり偏屈な性格をしているが、そのような欠点を補って余りあるほどの価値がこの男にはあった。

一般的にはあまり受け入れられない性格をした人物であるが、そこを含めて貴虎はこの青年のことを気に入っていた。

乃木家の長男ともなれば、それを知っている周囲の人間はどこかよそよそしくなるものだ。

そんなことは関係ないとばかりに気軽に接してくれる凌馬は、貴虎にとって貴重な友人だった。

 

「いやいやそれはこっちのセリフだよ。確かに君の言った通り、戦極ドライバーは完璧に仕上げた自信はあるが、この数値は私の予測を大幅に超えている。そこいらの奴ではこうはいかない。流石は乃木家の御曹司・・・私の見込んだ英雄だ。」

「そういういい方は止せ。俺は俺のやるべきことをやっているだけだ。乃木家の者として、俺には―――」

「ノブレス・オブリージュ、だろ。わかっているよ。全く、相変わらず冗談の通じない奴だな君は。」

 

言葉を遮られ、少しムッとする貴虎だったが、結局そのまま口を噤んだ。

こういう話になるとついつい熱くなってしまう。

この話をするのも何度目だろうか。凌馬がうんざりするのも無理はない

園子と接する時のことが癖になって、家の外でもどうにも説教臭くなってしまうのは、貴虎の悪い癖だった。

いかんな、と心の中で自省して、貴虎は頭を切り替える。

今はそんなことをよりも大事なことがある。

 

「それで、どうだ今回の結果は。」

「言っただろう?完璧だ。戦極ドライバーは、現時点で最高の状態に仕上がった。ここから先は君次第というわけだ。」

 

期待を込めた質問に、得意げな顔をした凌馬が、貴虎の胸元に指を差しながらそう答える。

信頼する友人のその言葉に、貴虎は万感の思いを込めて深く息を吐き出した。

 

「―――そうか。何とか間に合った、ということだな。よくやってくれた、凌馬。―――皆も、協力感謝する!新システムはこれで完成だ!」

 

貴虎の言葉に、部屋のあちこちでそれぞれの作業をしていた研究者たちが振り向き、歓声を上げる。

ここにいるメンバーは、来るべき神託の日に間に合わせるため、昼夜を問わず本当によく働いてくれた。

凌馬が核だったのは確かだが、この中の誰がかけていてもなしえなかったに違いない。

 

「皆の尽力のおかげで、ついに戦極ドライバーは完成した。これは、我々人類にとって非常に大きな一歩だ。だが、忘れないでほしい。本当の戦いはこれからだ。皆には苦労をかけるが、人類の未来のためこれからも力を貸してほしい。」

 

一際大きな歓声が響く中、貴虎は手にした戦極ドライバーにそっと目を落とす。

アーマードライダーシステム。

人類の敵に対抗するための、新たなる力。

これで、ようやく―――

 

一瞬。

風に流れる見慣れた金色が、貴虎の頭をよぎる。

そのイメージが明確な形になる前に、頭を振って追い出した。

これは、人類の新たな希望となるものだ。余計な私情を挟み込むべきではない。

誰もが喜びを分かち合う喧噪の中、自分を戒めるように、空いた掌を強く握りしめた。

 

 

 

鷲尾須美は張り切っていた。

しばらく前、大変光栄なことに神樹様の勇者として選ばれ、しきたりに従うために鷲尾家へと養子に入った。

元の両親の元を離れるのはもちろん寂しかったが、今の鷲尾の新しい両親もとてもいい人たちで、最初から本当の娘として接してくれた。今ではすっかり打ち解け、ちゃんとした家族として生活している。

やってくる敵から神樹様をお守りするのが勇者のお役目だという。

勇者システムを使用した訓練と日常との両立は、12歳の身には少し大変だったが、大事なお役目のため、ひいては国防のためだと思えば苦にはならなかった。

端的に言って、彼女の日常は非常に充実していた。

 

朝目覚め、日課の水垢離をし、着替えを済ませた後に近くの神社で参拝をする。

そのあとは、家の使用人達と共に朝食を作る時間だ。

自他共に認める和食派である須美は、洋食派であった新しい両親を和食派へと改宗させるため、ここのところ毎朝腕を振るっていた。

最初の頃は主人の家の娘さんに家事を手伝わせることに抵抗のあった使用人達であったが、須美の熱意と新しい両親の為に何かしたいといういじらしさに根負けし、今ではすっかりと須美と料理をするこの時間を楽しみにしている。

 

今日のお味噌汁は会心の出来だ。

喜んでくれるであろう両親の顔を思い浮かべながら朝食を運び、食堂で既に待っていた両親の元へと配膳すると、自分も席に着く。

 

忙しい両親だったが、朝食は家族揃ってというのがこの家のルールだった。

いただきます、と皆で挨拶をし、須美は箸を持ったままじっと両親の様子を伺う。

 

緊張の一瞬。

使用人の一人に勧められ、味噌汁の椀に口をつけた両親の顔が綻んだ。

それを見てほっと一安心するとともに、心の中で小さくガッツポーズ。

須美の小さな野望は、着々と実を結びつつあるようだ。

 

 

 

乃木園子は上機嫌だった。

理由は簡単。少し前まで色々と忙しそうにしていた彼女の兄が、最近はよく家にいるようになったのだ。

大事な用事が一区切りついたらしく、数日はゆっくりできるらしい。

 

朝、使用人の女性が起こしに来たのを、悪いとは思いつつも無視して布団の中でじっと待つ。

何度か繰り返し声をかけてきたその使用人は、起き上がる気配の無い園子の様子に小さく嘆息すると、そのまま部屋の外へと引き返した。

彼女が園子付きの使用人になって、そろそろ一年が経とうとしている。

お嬢様が何を求めているかぐらい、とっくにわかる間柄だった。

 

しばらくすると、先ほどとは別の足音が聞こえてきた。

期待通りのその音に、布団の中でうずくまる園子の顔が綻ぶ。

希望をかなえてくれた彼女には、あとでちゃんとお礼を言っておかなければ。

 

自分から飛び出していきたい気持ちをぐっと我慢して、布団をさらにしっかりと体に巻き付けた。

扉が開く音がして、足音がさらに近づいてくる。

部屋に入ってきた人物は、園子のベッドを通り過ぎると窓の前まで移動して、カーテンに手をかけた。

小気味いい音と共にカーテンが開かれ、優しい朝の光が部屋を満たす。

 

「起きろ園子。朝だぞ。」

 

その声に今度こそ、園子はぱっちり瞼を開いた。

朝日が少し目に眩しいが、そんなことは気にならない。

目を開けた園子の前には、既にしっかり身支度を済ませた大好きな兄の姿があった。

 

「おはよう~。お兄ちゃん。」

「ああ、おはよう。」

 

園子の狸寝入りはもちろんこの兄にもばれていたようで、こちらを見つめる兄の顔には若干呆れが混じっている。

でも、このぐらいは許してほしい。

若いながらも大赦に所属している兄が多忙なのはわかっているが、それでもやはり寂しかったのだ。

たまにしかないチャンスなのだから、甘えなければ損だというものだ。

 

「まったくお前は・・・。藤花をあまり困らせてやるなよ。」

「えへへ。ごめんなさーい。」

 

控えめな苦言に、上半身を起こしながらニコニコと答える園子。

本人に自覚はないようだが、なんだかんだ言って妹に甘い兄である。

あまり構ってやれなかったのは事実であるし、嬉しそうな妹の顔を見ていると強く言う気も失せてしまうのだった。

 

笑顔のまま、無言で突き出された両手を引っ張り、立たせてやるところまでがワンセット。

これが使用人の間で密かに評判の、乃木家で時々見られる兄妹の朝の一幕である。

 

 

 

三ノ輪銀は奮闘していた。

朝の忙しい時間帯。

慌ただしく朝の準備を始める両親の代わりに、登校前に弟達の相手をするのは専ら銀の役割だった。

名家とはいえそこまで裕福ではない三ノ輪家には、使用人はいない。

忙しく働く両親の為にと、元々は銀自ら言い出したことだ。

銀自身、元々面倒見がいいタイプということもあり、可愛い弟達の世話は全く苦にはならず、むしろ今では趣味と実益を兼ねたライフワークとなっていると言っても過言ではない。

 

「ねーちゃん!靴下はー?」

「ちょっとまってろー!ほーら金太郎。もうちょっとで終わるからなー。おとなしくしてろよー。・・・よしっ!えらいぞ流石はこの銀様の弟だ!」

 

生まれたばかりの弟のオムツを変えた後、5歳の上の弟の着替えを手伝ってやる。

皆の身支度が整ったら、揃って朝食だ。

その後も彼女の仕事は続く。仕事に出かける父を見送り、後片付けを終えて母の手が空くまで弟達の面倒を見るのが、三ノ輪銀の朝のサイクルだ。

ぐずる末の弟をあやしながら、単純にかまってほしがる上の弟の相手もこなす。

今日は放課後に訓練で遅くなるから、今のうちにできるだけ姉パワーを注ぎ込んでやらなくては。

自分も学校があるが、だからと言って手は抜けない。

なんといっても、大事な家族と、世界の平和のためなのだから。

 

 

 

 

「「「行ってきます!」」」

 

三者三様、それぞれの日常をこなし、今日も一日が始まる。

彼女たちは、神樹館に通う小学6年の少女達。

神樹様に選ばれ、勇者となった子供たち。

脅威から人々を守る、防人にして■■■。

 

その最初の戦いは、すぐそこまで迫っていた。

 




と、言うわけで第一話でした。
少し時間が空きましたので色々荒い部分があるかもしれませんが・・・。

前書きでも書きましたが祝!舞台版斬月公開!
一体どんな内容になるのか・・・
放送当時賛否両論あった作品でしたが、今もこうしてコンテンツが新しく出てくるぐらい愛されているようで、ファンの一人としてとてもうれしいです。
幸い、チケット取れたので3月に東京で見に行ってきます。超楽しみ!

※運命の章の方の決着編もしかしたら前話の最後にくっつける形式にするかもしれません。
その場合は次話投稿と共に前書きで改めて連絡させていただきます。
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