咲き誇る花々、掴み取る果実   作:MUL

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創世の章
序章 ※先行公開


いつもの、夢だ。

 

視界に広がる真っ黒な空間を見て、友奈はすぐにそう認識した。

初めて満開を使った日から少しずつ、そして最近では頻度が徐々に増えてきた不思議な夢。

 

知らない/知ってる

 

 誰かが、何かを

 

  訴えている/思い出させようとしている

 

そんな、夢。

 

いつも起きたら忘れてしまうこの夢が、友奈はとても気になっていた。

だけど少し、今日はなんだかいつもと違う。

だっていつまでたっても地面につかない。

気づいてからずっと、暗い空間の中を落ち続けている。

 

深く、深く、夢の中へ

 遠い、遠い、誰かの記憶へ

 

落ちていく。落ちていく。ずっと、ずっと―――

 

 

 

 

 

雨の中、誰もいない大通りを一人の少年が歩いていた。

赤色のアクセントが入った、黒いスーツのような衣服は所々が擦り切れてボロボロだ。

降りしきる雨をまるで気にした素振りもなく、堂々と歩く姿はどこか王様を連想させた。

ただし、『人間』のではない。

彼の周りにいるのは、たくさんの異形の姿。

人型をしているが、人ではない怪物。

怪物を引き連れた王様。人はそれを、『魔王』とでもいうのだろうか。

 

無人の道を行くその目に迷いはない。

鋭く前だけを見据えるその目に映るのは、体の内から静かに燃える暗く激しい炎だけだった。

異形達の王は、目的地に向かってただ進む。

長い戦いの末、ようやく今日、待ち望んだ瞬間が訪れるのだ。

 

その時ふと、少年が足を止めた。

誰もいなかったはずの大通り、少年の進路を遮るようにいつの間にか人影が一つ立っていた。

興奮して向かっていこうとする異形達を片手をあげるだけで制し、少年は口を開いた。

 

「貴様か。」

 

少年の行く手を遮ったのは、彼と同じぐらいの年頃の少女だった。

鶯色の長い髪を頭の後ろで結び、腰には白い鞘の日本刀を帯びている。

少女は何も言わず、ただ目の前の少年をにらみつけていた。

 

「フン、ちょうどいい。せっかくだから貴様に聞くとしよう。『あいつ』は今どこにいる?」

 

「…それをお前に、言うと思うか。―――人類を裏切ったお前にっっ!!!」

 

少年の言葉に、今まで何とか抑えてきたものを爆発させた少女が、鞘から刀を抜き放ち、少年の目の前に突き付けた。

背筋が寒くなるように美しく、鋭い切っ先を向けられてもなお、少年に怯む様子は全く見られない。

激高した少女を冷ややかな目で見降ろした少年はもう一つ鼻を鳴らすと、周りの異形に手を出すなと指示を出し、自ら少女に近づいていく。

 

「貴様がそういうつもりならいいだろう。どうせあたりはついている。貴様を殺した後にゆっくりと探させてもらう。」

 

異様な雰囲気を放つその少年を前にして、少女は雨とは別の液体が頬を流れ落ちていくのを感じていた。

少年の強さを、少女はよく知っていた。何せ長い間、ずっと一緒に戦ってきたのだから。

だが、今のその少年から感じる威圧感は、彼女が知るそれよりも何倍も大きく、まるで別人のようだ。

その威圧感に押されるように、いや、それをはねのけようとするかのように少女は吠える。

 

「なぜだ!なぜ人類を裏切った!」

 

裏切り。

そうだ、この少年は人類を裏切った。

ずっと一緒に人を脅かす怪物達から人々を守ってきたはずなのに、最後の最後で少年の牙はその人類へと向けられた。

真っ直ぐすぎるほどに真っ直ぐなこの少女にとってそれは、到底許されることではない。

 

自分へと怒りを向ける少女に対し、少年は冷たい視線を向ける。

少女の怒気など意にも介さず、歩みを止めぬままに静かに口を開いた。

 

「貴様こそ、なぜそんなになってまで人類を守ろうとする。そうまでして守る価値が、奴らにあると思っているのか?」

 

そう冷たく言い放ちながら、少年はついに突き付けられた刃の目の前まで歩を進めた。

少女が少し腕に力を籠めれば、たちまちこの切っ先は少年の胸へと吸い込まれていくだろう。

それがわかっていながら、少女にはそれができない。

それは少女自身が持つ高潔さであり、まだ心のどこかで目の前の少年のことを完全には敵として見られない甘さでもあった。

 

「今のこの世界に、守る価値などない。俺はそう判断した。だから、俺がすべてを破壊し作り直す。」

 

「お前に、そんな権利があると思っているのか!?」

 

「ああ、ないだろうな。だから、獲りに行く。すべてを踏みにじり、思い通りにできる権利を。そのための絶対的な力を!!!」

 

その瞬間、少年の体からすさまじい圧力が発せられた。

今までの比ではないその圧力に抗しきれず、少女の足が一歩、二歩と後退する。

そんな少女の目の前で、少年の体から大量の植物の蔓のようなものが溢れ出した。

蔓はすぐさま少年の体を覆いつくし、そして少年を別の姿へと変えていく。

見慣れた人間の姿から、赤と黒の異形の姿へと。

 

「そん、な…お前…まさか………っ!!」

 

「そうだ。これが俺の手にした力。弱者を踏みにじる強者も。立場に甘え、優しい者たちを追い詰めるしかできない弱者も!そしてそれを生み出し続けるこの世界も!俺は全てを憎む!その全てを破壊する!!」

 

異形の手に、剣が握られる。

少女が手にした清廉な白い刀と対極を為すような、禍々しい黒い両手剣。

その剣から、そして体から溢れ出す雷光を通して感じられるのは、少年が世界に向けたあまりにも激しい怒り。

 

「ッ!!お前が見てきたのは、本当にそれしかなかったのか!?この世界には、強くて優しいものも、弱くても立ち向かおうとするものもたくさんいたはずだ!!」

 

「そういう奴から先に死んでいった!それは貴様も散々見てきたはずだろう!?」

 

「…っ!!」

 

異形の言葉に、少女の顔がゆがむ。

頭をよぎったのは、もういなくなってしまった仲間たちの顔。

その最期が、彼女の芯を揺さぶった。

そして同時に理解してしまう。彼のこの、激しい怒りの根源を。

 

彼が裏切ったことに対しての怒りがあった。

恩には報い、理不尽には報復を。それを信条としてきたはずなのに、それでも少女はこの期に及んで彼を憎み切れてはいなかった。

彼の怒りの根元にある、彼が感じた悲しみが―――強い、痛みが。少女の胸に突き刺さっていたから。

だけど、それでも―――

 

「―――それでも!!そんな人たちが守ってきたこの世界を、私は諦めない!!残された思いを、未来につなぐのが私の務めだ!!」

 

守りたいものがあった。託された想いがあった。

例えかつて友と信じていた相手だったとしても、譲ることなどできはしない。

 

覚悟を決めた少女の気迫を前に、異形と化した少年は心の中で僅かに笑みを浮かべ―――そしてすぐさま全ての感傷を捨て去った。

 

「いいだろう。もはや言葉は必要ない。俺の邪魔ができるのは、あとは貴様だけだ…貴様さえ倒せば、俺の望んだ力に手が届く!!」

 

言葉ではもう、止められない。ならば残る道は一つだけだ。

精霊『大天狗』が少女に力を与え、少女は翼を身に纏う。

異星の植物より齎された力によって、少年は赤黒い雷を身に纏う。

異なる力を身に纏い、異なる理想を徹すため、少年と少女はぶつかり合う。

 

 

「戒斗ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!」

 

「乃木ぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいい!!!!!」

 

 

雨音を切り裂くように、二人の咆哮が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【―――おねがい、どうか、あのひとを――――――】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ゆめ…。」

 

天井へ伸ばされた自分の両手を視界に入れながら、友奈はパチパチと数度瞬きした。

なんだか前にも、こんなことがあった気がする。寝起きでぼぅっとした友奈の頭によぎったのは、そんな益体もない考えだった。

目覚ましに頼らず目が覚めたのは、随分と久しぶりだ。

見慣れた部屋の中はまだ薄暗かったが、どうやら二度寝ができるような時間でもないようで、友奈は

名残惜しい気持ちを抑えながらもぞもぞと上体を持ち上げる。

 

眠気でまだ開ききらない目をこすりながら寝起きの頭で考えるのは、さっきまで見ていたはずの夢のことだ。

夢の内容は………相変わらず思い出せない。近頃よく見るいつもの夢だということはわかるのに、その内容がわからないというのは一体全体どういうことなんだろう。

 

「あれ?」

 

その時ふと、違和感を感じた友奈は、その違和感の元である指を目の前へと持ってきた。

薄暗い部屋の中でじっと目をこらす。目じりにあてていた指は、ほんのりと濡れていた。

これは―――

 

(泣いてる…なんで?)

 

何度か同じ夢は見た覚えはあるが、それで涙を流したのは初めての経験だった。

悲しい夢…だったのだろうか。それともまさか怖い夢?

なんとなく落ち着かない気分になった友奈は、何とか思い出せないかとベッドの上でうんうんと唸り始めた。

唸り始めて数分。

何度か惜しいところまでいったような気もするが、何度やってもあと少しのところで霞のように消えてしまう。

そんなもどかしさと格闘していた友奈を現実に引き戻したのは、耳になじんだ目覚まし時計のアラーム音だった。

 

そろそろ起きなきゃ。

なんともすっきりしない気持ちだったが、流石にこれ以上時間はかけられない。

自分だけならまだしも、いつも一緒に登校する東郷さんまで遅刻させる訳には行かないのだ。

 

無理やり気持ちを切り替えてベッドから出た友奈は、朝のひんやりとした空気に身を震わせながらカーテンへと手をかけた。

シャッ、と軽い音がして、優しい朝の光が友奈を包む。

秋も終わりに近づくころ。この時間の朝日はまだ少し弱々しいが、それでも十分温かい。

眩しさに少し目を細めながら、友奈はぐっと大きく伸びをした。

 

今日もまた、一日が始まる。皆とすごす、一日が。

それだけでもう、友奈にとって楽しい一日が約束されているようなものだ。

今日は何をしよう。何が待っているんだろう。

そうやって、これから始まる一日に思いを馳せていた友奈のお腹が小さくくぅっと音を鳴らした。

 

とりあえず、楽しい一日の始まりは朝ごはんから。

恥ずかしさをごまかすように後ろ頭をかきながら、階下から漂ってきた朝のにおいに誘われるまま友奈は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

―――陽光に照らされた特徴的な友奈の赤毛。

その中に僅かに混ざった()()()に、気づかないまま。




運命の闘いは終わり、かくして天の神は誕生する

炎に包まれた世界を望んだのは、一体誰だったのか。





最終章、創世の章。
序章のみ先行公開です。
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