では、VSヴァルゴ後編です。
その光景に呆気にとられながらも、勇者たちはそれぞれの配置に散らばった。
とんでもない攻撃だったが、それでもこの怪物は倒せない。
今のうちに儀式を始めなければ。
風の説明はこうだ。
その1.まず敵を囲む
その2.敵を抑え込むための祝詞を唱える。
その3.現れた”御霊”を破壊する。
敵は囲んだ。次は祝詞だ。
幸い、先ほどの攻撃で体を大きく損傷したバーテックスは、しばらくまともに動けない。
警戒をそのまま東郷と紘汰に任せ、友奈と樹は端末を取り出し祝詞を確認する。
「これ全部読むんですか!?」
『手順ソノ二』と書かれたその画面には、見慣れない言葉の羅列。
友奈はあまり詳しくないが、神社のお祓い等で神職の人達が唱えるような言葉だった。
しかもそれなりに長い。
「え、えと・・・。かくりよのおおかみ、あわれみたまい、めぐみたまい・・・」
戸惑いながらもとりあえず唱え始める樹。
それを聞いた友奈も樹の後に続いた。
掲げた手の横に、精霊が姿を見せる。
どうやら間違ってはいないようだ。
自分の体に起こりつつある異変に気付いたバーテックスが修復もそこそこに激しく暴れ始めた。
早くしないと、皆が危ない。
「さきみたま、くしみたま、まもりたまい・・・「ええい!おとなしくっ!しろぉ!!」えぇ!?」
もう少しで終わるといったところで、抵抗を続けるバーテックスにしびれを切らした風が、気合と共に大剣を一閃する。
驚いて中断してしまった友奈達。
失敗かと思ったその時、バーテックスの足元に光の円陣が現れ、それと同時に顔のような部分から逆さになった四角錐の物体が吐き出された。
「オイ!なんか出てきたぞ!」
空中で3人の元に向かう攻撃を防いでいた紘汰が、それに反応して声をあげている。
「成功・・・?なんですか?」
「まぁとにかく、気合を入れた言葉なら何でもいいのよ。」
「先に言ってよお姉ちゃん・・・。」
困惑する友奈に、あっけらかんと答える風。
いつだって大雑把な姉に、樹ががっくりと肩を落としていた。
「アレが”御霊”。バーテックスの心臓よ。アレを破壊すれば、私たちの勝ち!」
「「じゃあ、俺(私)が!!」」
風の言葉を聞き、紘汰と友奈が同時に飛ぶ。
紘汰の刀が、友奈の拳が、バーテックスの御霊に叩き込まれた。
同時に響く、大きな金属音。
「「かったぁぁぁぁぁぁい!!」」
御霊の上で、右手を押さえながら悶える友奈と、着地した先で刀を取り落とし、のたうち回る紘汰。
御霊には傷一つついていない。
遠くから東郷が狙撃を試みるが、それもはじかれてしまった。
そんな中、封印を続ける樹がバーテックスの足元の陣を見て気づく。
「おねえちゃん。なんか数字が減っていってるんだけど、これ何?」
「あぁそれ?私たちのエネルギー残量。その数字がなくなると、封印し続けられなくなって、そいつを倒すことができなくなるの。」
「それって、まずいんじゃ・・・。」
皆の顔に、焦りが浮かぶ。
友奈と交代して破壊に向かった風が、大剣を勢いよく叩きつけた。
が、それもほんの少し傷をつけるだけで、あまり効いた様子はない。
「―ったいわね!ヤバいわいきなり大ピンチかも・・・紘汰!あんた色々持ってんでしょ?なんか他にはないの!?」
「んなこと言ったって、今持ってんのはこれだけだぞ!これじゃ刃が通んねぇし・・・。」
そこまで言って、紘汰ははっと気が付く。
あの時手に持っていた錠前は、一つではなかった。
慌てて右の腰に手をやり、そこにぶら下がっていたもう一つの錠前を手に取る。
「こうなりゃイチかバチかだ!頼むぜ、なんか出てくれ!!」
とにかくやってみるしかない。
紘汰は今ついているオレンジの錠前を外すと、新しい錠前のスイッチを押し込んだ。
『パイン!』
『ロックオン!』
纏っていたオレンジの鎧が、光となってはじけ飛ぶ。
頭上には再び別の空間が開き、そこから鋼のパインが姿を現した。
「パイン!?部長!空からパイナップルが!何ですかアレ!?」
「わ、私にだってわかんないわよー!紘汰、あんたそれ何なの!?」
紘汰の最初の変身の瞬間を見ていたものは誰もいない。
初見の皆にとって、突如空から現れた巨大な果実のインパクトは絶大だった。
そんな周りの声を一旦無視して、紘汰は改めて日本刀の装飾を押し込んだ。
『ソイヤッ!』
皆がハラハラと見守る中で、威勢のいい声と共にパインが紘汰の頭に落下した。
パインに頭が完全にめり込み、パイン星人と化す紘汰。
紘汰がパインのお化けに食われた!
客観的に見ていた皆の感想はそんな感じだった。
「お、お兄ちゃ―――ん!?」
『大丈夫だ樹!まぁ見てろ!』
ショッキングな目の前の映像に悲鳴を上げる樹と、安心させるためにその状態のままくぐもった声をかける紘汰。
説明を求められたところで紘汰にもわからないのだ。
見たままを受け入れてくれとしか言いようがない。
『パインアームズ!粉砕!デストロイ!!』
続いた音声と共にパインが展開し、紘汰を守る鎧となる。
鎧の表面は、実際のパインを模したような突起に覆われており、先ほどの姿よりも重厚な印象だ。
そして鎧と共にやはり現れた新たな武器。
パインそのものといった見た目の鋼鉄の塊に、鎖のついた鎖鉄球”パインアイアン”だ。
「お、お?なんかこれ、行けそうじゃねぇか!?」
「紘汰、あんたの変身そんな感じなのね・・・なんか心臓に悪いわ・・・。」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!よーし、とりあえず。おらぁ!!」
疲れた様子の姉の声をまたもや流しながら、頭上で鎖を振り回し、その勢いのまま先端を御霊に叩きつける紘汰。
皆が見守る中大きな音が響き、パインアイアンがたたきつけられたその場所には、初めて明確な損傷が与えられていた。
「よっしゃあ!やっぱりこれいけるぜ姉ちゃん!」
「ナイスよマイブラザー!・・・よし、私ももう一回行くから、合わせなさい紘汰!」
「お姉ちゃん!無茶しちゃだめだよ!」
意気揚々と攻撃準備を始める上の二人に心配そうな樹。
特に、姉は先ほど失敗したばかりなのだ。
「ここで引いたら女が廃るってもんよ。大丈夫よ樹。お姉ちゃんの本気の女子力を信じなさい。行くわよ紘汰!!」
「おう!」
風の声を合図に、御霊を挟んで対称の位置から犬吠埼姉弟が飛び上がった。
二人は同時のタイミングで御霊まで到達。しかし、そこでは止まらない。
御霊を足場に再び跳躍した先は、御霊を吐き出した後のバーテックスの抜け殻。
空中で反転した二人は、御霊より高い位置にあるそれを蹴りつけ、さらに加速。
縦回転を加えることで、遠心力を最大に。
位置エネルギーと脚力、遠心力を加えた渾身の一撃を、二人同時に御霊に叩きつけた。
あまりの衝撃に、空間が震える。
その成果は一目瞭然、二人の攻撃を受けた御霊は大きく損壊し、水平を保っていられないようだ。
「「どうだ!!」」
「お姉ちゃん、お兄ちゃん!カッコいい!」
ばっちり着地を決めた紘汰と、失敗して樹木に突っ込む風。
少し締まらないが、こればっかりは慣れの問題だ。
アクロバティックな動きの初心者である風にそこまで求めるのは酷というものだろう。
しかし、妹の称賛の声に二人とも満足そうだ。
大ダメージを受けたバーテックスは、それでもまだ倒れない。
あれだけの攻撃を受けても耐え切るその姿は、まさに怪物だ。
しかし、それもあと一息。
封印の数字は、減少し続けている。
敵の足元から結界の樹木が枯れ始め、どんどん大きく広がっていく。
「始まった、急がないと!」
「お姉ちゃん、どういう事!?」
「長い時間封印してると、樹海が枯れて現実世界に悪影響が出るの!」
立ち上がろうとする風だったが、先ほどの着地の影響がまだ残っているようで、うまくいかないようだ。
ならば、風以外がやるしかない。
着地の後、傍らにいた友奈に目を向ける。
いつの間にか、東郷もやってきていた。
「行けるか?友奈。」
かけられた言葉に、少しうつむく友奈。
その瞳は、不安に揺れている。
天の神の使い、バーテックス。
人類の敵とはいえ、神の使いをこれから自分が倒すのだ。
その先に何が待っているのか。そんなことが、ふと頭をよぎる。
そして、もし自分たちが失敗したとしたら・・・。
東郷が、気づかわし気に肩に手を乗せた。
その手を握り、覚悟を決める。
そうだ、私にはみんながついているんだ。
この先何があっても、皆と一緒ならきっと大丈夫だと、信じられる。
上げられた顔には、もう迷いはない。
「怖い・・・けど、大丈夫!」
友奈の心強い言葉に、そっか、と仮面の中で少し微笑んだ紘汰が瀕死の御霊をにらみつける。
紘汰の手が、再び刀の装飾を倒した。
『パインスカッシュ!!』
錠前からエネルギーがほとばしり、全身に力がみなぎる。
手に持ったパインアイアンを、上空に放り投げると、その後を追うように飛び、空中でそれを蹴り飛ばした。
紘汰に蹴られたパインアイアンが、エネルギーを受けて肥大化する。
大きくなったパインアイアンは、そのまま御霊を拘束した。
「これで最後だ!行くぜ友奈!」
「うん!」
空中の紘汰が体勢を変える。
それに合わせるように、友奈も拳を構えて飛び出した。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!勇者っ!!パァ――――――――ンチっ!!!!!」
「はあぁぁぁぁぁぁ!!セイ、ハァ―――――――――――――!!!!!」
友奈の拳と紘汰の蹴りが、ボロボロの御霊に突き刺さる。
今度ははじかれることはない。
拘束していたパインアイアンからエネルギーが逆流し、二人の体を包み込む。
黄色いエネルギーに包まれた二人が、さらに力を籠める。
あふれる力に、心が熱くなっていく。これなら、絶対にいける!
―――そしてついに、二人の体が御霊の中心を突き破った。
そのまま反対に抜け、並び立つように着地する友奈と紘汰。
その背後で、御霊はついに崩壊し、光が天へと帰っていく。
遺されたバーテックスの体が、砂となって崩れ去った。
終わった・・・?のか・・・?
顔を見合わせる二人。
しばらく待ってみても、復活の兆しはない。
ようやく訪れた実感に、二人の体が震えだす。
湧き上がる感情を抑えることなく、二人で一気に吐き出した。
「よっしゃぁあああああああ!!!」
「やったぁああああああああ!!!」
フィニッシュを決めた二人のもとに、仲間たちが集まっていく。
変身を解いた紘汰に、二人の家族が飛びつき、もつれ合って倒れた。
それを、友奈と東郷が笑いながら見ていた。
大きな揺れと共に、極彩色の木の葉が舞い上がる。
役目を終えた、神樹様の結界が解除されていく。
木の葉はみんなの視界を覆いつくし、そして、やがてそれも晴れていく―――
視界が晴れたとき、そこにあの樹海はなく、いつもの風景が広がっていた。
結界に入る直前には校舎内にいたはずだが、どうやらここは屋上の様だ。
「ここは・・・?学校・・・?私たちは・・・。」
「神樹様が、帰してくださったのね。」
東郷の疑問に風が答える。
どこからか聞こえる鳥の声、自動車の音、人のざわめき。
先ほどまでの体験がまるで嘘の様に感じてくる。
「世は全て事も無し・・・ってね。お疲れ様。そしてありがとう皆。初めてのお役目は、これで無事完了よ。」
「姉ちゃん・・・。」
皆の方に振り返り、労いの言葉をかける風。
そんな姉の言葉を聞きながら、紘汰はゆっくりと屋上の縁に近づいた。
目の前に広がるのは、変わり映えのない、平穏な街並み。
いつも見ているはずのものなのに、今日はなんだかそれがとても尊いものに感じた。
「俺たちが、守ったんだな。」
「そうよ。私たちがあいつを倒せなければ、この風景はなかった。改めてよく頑張ったわね。紘汰。」
隣に立った風が、紘汰の髪をわしゃわしゃとかき混ぜる。
やめろよ!いいでしょ!
と言い合う姉弟の後ろから、泣き顔の樹が抱き着いてきた。
安心した途端、色々と決壊してしまったようだ。
慌てる紘汰と、そんな妹を優しくあやす風。
そんな平和な3人の家族の姿をみて、ほんとに戻ってこれたんだな、と実感する友奈。
車いすに戻った東郷も、こちらに微笑みかけている。
そんな東郷の車いすのハンドルを握ると、友奈も東郷を伴って3人のもとへ歩き出した。
見ていて飽きない光景だが、そろそろ混ぜて貰ってこよう。
今日の勝利は、皆で掴んだ勝利なのだから。
「あ、ちなみに結界が展開されている間は外の時間が止まってるから、今はがっつり授業中よ?」
「「「「えぇ!?」」」」
「まぁ、あとで大赦にフォロー入れてもらっとくわ。・・・あ、紘汰はどうしよう・・・完全に想定外だし・・・」
「おいそりゃないだろ姉ちゃん!!」
屋上に、少年少女の笑い声が響く。
始まりは突然だったが、皆と一緒に乗り切った。
一緒だから、乗り切れたのだ。
これからもずっと、こうやって皆で笑っていける。
この奇跡のような光景を、ずっと守っていける。
力を手に入れ、変身した俺ならそれができる。
その時の俺は、無邪気にそんなことを考えていた。
だが俺は知らなかった。
手にした力の意味も、この世界の真実も。
そして、今のこの世界には、代償のない奇跡など、存在しないということを。
これから続く戦いの中で、俺はそれを、痛いほどに知っていくことになる。
うん、特に変わってないですね。
まぁ初回なのでこんなもんという感じで・・・。
ただ、1章は色々と難しいというかなんというか。
キャラ全員出てくると動かすの難しいですね。
書いてみて初めて分かる苦労があるなぁ。
見てくださる方に楽しんでいただけるよう、色々と精進いたします。