オリ設定満載ですが、本作では一応こんな感じで。
「ふぁ・・・あぅぅ・・・。」
放課後の帰り道、こらえきれずに出てしまった欠伸に、樹が恥ずかしそうにして俯いた。
色々あった一日に、流石に疲れが出たのだろう。
そんな妹の様子を横目で見て、風はそっと苦笑した。
「ま、今日は大変だったからね~。樹も紘汰も、ホントにお疲れ様。今日はお姉ちゃん、奮発して豪勢な夕ご飯作ったげるから、しっかり食べてすぐ寝るのよ?」
「それじゃ牛になっちゃうよお姉ちゃん・・・。」
樹の突っ込みの言葉にも、やはり元気がない。
放課後までは何とかもったが、我が家の末っ子はもうおねむの様だった。
そんな妹を気遣う姉を横目で見ながら、紘汰は少し言い辛そうに切り出した。
「わりぃ姉ちゃん!俺、ちょっと寄るとこあるんだ!二人で先に帰っててくれ!!」
「え~?何もこんな日にそれはないんじゃない?せっかくこのお姉様が腕を振るおうって言ってるのに~。」
「ほんとごめん!どうしても今日じゃないとダメなんだ!なるべく早く帰ってくるからさ!」
遅れたらわかってんでしょうねー!などという、姉のありがたいお言葉を背に受けながら、急いで駆けだす紘汰。
なんか朝もこんな感じだったな・・・と、益体もないことを考えながらも足は猛スピードで自転車のペダルを漕いでいた。
――放課後、指定の場所に来るといい。プレゼントについて聞きたくはないかな?――
放課後、終了のあいさつが終わった直後に見知らぬアドレスから送信されてきたメールだ。
内容からして十中八九、あの男だろう。
別に一人で来いと指定されたわけではないが、なんとなくあの胡散臭い男に皆を合わせるのは気が引けた紘汰は、こうして一人きりで会うことを選択したのだった。
自転車を走らせてしばらくすると、指定された場所に到着した。
廃病院というかなんというか・・・。
こんなところに本当に人がいるのかと、疑ってしまうような外観だった。
だが同時に、あの男らしいとも思ってしまう。
異様な雰囲気のその場所に、ゴクリと生唾を呑み込みながらも、意を決して紘汰はその施設の中に入っていった。
指定された場所は、この施設の一番奥。
薄汚れた部屋の名前を表す札には、消えかけた文字で”第一研究室”と書かれていた。
とりあえずの礼儀として、ノックをしてみる紘汰。
だが、中から反応はない。
騙されたのか?と思いながらも一応ドアノブをひねってみると、なんと鍵はかかっておらず、古びた鉄の扉が軋む音をたてながらゆっくりと開いた。
「お邪魔しま~す・・・。」
慎重に様子をうかがいながら、中に入る紘汰。
遠慮気味に出した自分の声にも、返事といったものは全くなかった。
部屋の中に明かりはついておらず、全体的に薄暗い。
唯一部屋の奥の一区画だけが、人工的な青白い光に照らされていた。
遠目でよくわからないが、その中には何かの植物の蔦のようなものが見える。
とりあえずはそこを目指し、紘汰はゆっくりと部屋の中を歩き始めた。
乱雑に積まれた書類と、何らかの機材。
お世辞にも整っているとは言い難い。
雑多にものがあふれかえった部屋の中、目立つところにあるのは、何かが入っていたと思われるガラスのケースと、周辺にコードが散らばった台座だった。
それを横目に見ながらも、紘汰はさらに奥へと歩を進める。
ここはどうやら、二つの部屋がつながったような構造をしているらしい。
入り口の研究室と、奥で謎の植物を管理している部屋。
入って中ほどまで進むと、今は開いているが仕切りのようなものがあり、そこを超える前と後では、部屋の様子が大きく違っていた。
その境目を越えてさらに進むと、とうとう目的の場所へとたどり着いた。
照明に照らされたその場所にあったのは、巨大な水槽。
―――そして、その中で生育されているらしい、見たこともない植物。
植物に詳しいわけではないが、そんな自分でも『何か』が違うと感じる。
何か、本能のような部分に訴えかけられているような違和感。
まっさらな画用紙の一点の染み。この世界に混じった、許されない異物。
存在しない何かに気圧されるような感覚に、知らず知らずのうちに数歩下がっていた紘汰の体に、何かがぶつかった。
驚いて振り返ると、そこにあったのは先ほどの部屋で見たようなガラスケースと、見覚えのある、赤い果実。
「これは・・・。」
紘汰の脳裏に、あの樹海の出来事が蘇る。
あの男に渡されたケースの中に入っていたもの。
いつの間にか錠前に変わっていたあの時の果実と、まったく同じものがガラスケースの中、何かの液体の中に一つ浮かべられていた。
「間違いない。あの時のやつだ。ここで、作られてるってのか・・・?」
あの男から渡された果実。あの男が指定してきた場所。そして背後の水槽の中の、見たこともない植物。
確証がないのは確かだが、ここまで条件がそろえばそれ以外の答えを導き出す方が難しいだろう。
何だってんだ一体・・・。
そう思いながらも、視線は不思議と液体の中の果実へと吸い寄せられてしまっている。
自分の口内に、自然と唾液がたまっていくのを感じる。
そういえばあの時も、あんな状況だったにもかかわらず、やけに、美味そうに、見えたような・・・。
「――それはやめておいた方がいい。最も、人間をやめたいというならば別だけどね。」
「おわぁっ!!!!!」
無意識に伸ばされていた手を素早くひっこめた紘汰が、驚きのあまり飛び上がった。
慌てて声のした方に視線を向けると、本当にいつの間にいたのだろうか、あの時の男が紘汰とガラスケースのすぐそばに立っていた。
「あ、あんたいつの間に!?」
「ついさっきさ。思ったより早く来てしまっていたようだね。いや、お待たせして済まない。」
バクバクとうるさい心臓を宥めながらごまかすように尋ねる紘汰と、言葉とは裏腹にまったくもって悪びれる気のない様子の男。
そのまま紘汰の横を通り抜けると、壁に適当に立てかけられていたパイプ椅子を二つ持ってきてガラスケースの前に置く。
そのまま片方の椅子に腰を下ろし、朝と同じ胡散臭い笑みでこういった。
「まぁとりあえずかけるといい。あぁ、そういえば自己紹介がまだだったね。私の名前は戦極凌馬。改めてよろしく頼むよ犬吠埼紘汰君。」
「色々と聞きたいことはあると思うが、まずは初勝利おめでとうと言っておこうかな。どうだったかい?人類の敵と相対した気分は。」
「あんた、やっぱり知ってたんだな。」
その後、何とか表面上は平静を取り戻した紘汰が、目の前の男―戦極凌馬というらしい―に従い椅子に座ると、凌馬はそう言いながら身を乗り出した。
こちらの心情など、知ったこっちゃないといわんばかりのその態度に辟易しながら、半ばわかっていたことではあるが、一応尋ねる紘汰。
「ああ、知っていたとも。まぁ、君が間に合うかどうかは五分五分といったところだったけどね。」
「間に合うって・・・どういうことだよ。」
とりあえずは姿勢を戻して答える凌馬に、さらに質問を投げかける紘汰。
「あぁ、君にプレゼントした機械――そう、それは”戦極ドライバー”という名前なんだが、神樹様の結界が展開した中でも装着者が動けるようになる機能があるんだけどね。残念ながらイニシャライズがすんでいない場合、装着していないとその機能が起動しないようになっているんだ。」
「おい、ってことは・・・。」
「そう。樹海化が始まったタイミングで君がベルトを装着しているかどうか。こればっかりは僕にもわからなかったからね。だから間に合うかどうかという表現を使わせてもらった。」
全く運がいいね君は――。
等と言いながら笑う凌馬に、紘汰は絶句した。
今日、あのタイミングでたまたま授業そっちのけであれこれといじっていなかったら、紘汰はあの戦いがあったことも、仲間たちの危機も知ることはなく、今も何も変わらず呑気に過ごすことになっていたらしい。
「なんでそんな大事なこと言わなかったんだよ!」
「だって、急いでいたんだろう?遅刻は嫌だと言っていたのは君じゃないか。まぁ安心したまえ。一度装着したことでもうイニシャライズは済んでいる。ドライバーの表面に、絵が刻まれているだろう?それが完了の印さ。これで君は神樹様の防衛システムの一つとして組み込まれた。次回からは装着していなかったとしても自動的に結界の中に取り込まれるはずさ。」
屁理屈だ・・・などといってもこの男には通じないのだろう。
文句を言うことをあきらめた紘汰は、建設的な話をすることにした。
「はぁ、もういいや。それで、これは一体何なんだよ。」
「それを説明する前に、この部屋について簡単に説明しておこう。ここは大赦の旧第一研究室。我ら人類の敵、天の神について研究していた場所さ。尤も今はもう、研究室としてはほとんど使われていないわけだけどね。」
そういわれて紘汰は、この建物の外観を思い出す。
確かに、廃棄された研究室と言われればその通りだといえるような見た目をしていた。
「そこにある植物。君は他で見たことはないだろう?それはそうだ。コレは本来、少なくとも人間の世界には存在しないものなのだからね。古い文献によると天の神の力の一部だ、ということらしい。何分古い資料だから、本当かどうかなんてわからないのだけれど。」
尤も、それも改竄された後のような痕跡があったわけだけどね―――。
そう思いつつも口にはしない。
これは紘汰に言ったところで今のところ何にもならない情報だ。
「まぁそんなことはどうでもいい。とにかくこの植物は、そういう触れ込みの元で大赦によってずっと管理、研究されてきたものなんだ。といっても結局大したことはわからずこうして保存だけは一応しているといった状態になっていたわけだが。少なくとも、私がここに来るまでは。」
そういう凌馬の顔は、どこか少し自慢気なように見える。
話しているうちに段々と興が乗ってきたようで、言葉にも熱がこもってきていた。
「この植物は、不定期にその赤い実をつける。これには未知の力が秘められていてね。大赦所属の研究者となってから、私はずっとそれを研究してきた。」
「これにそんな力が・・・。そういやあんた、入ってきたときになんか言ってたよな。人間をやめたいなら何とかって・・・。」
「あぁ、その話か。何、昔実験の一環としてマウスにごく微量のこの果実を与えてみたことがあってね。結果は驚くべきものだった。これを与えられたマウスの細胞は激変し、激しい攻撃性を見せるようになった。それと同時にこれ以外の食事を拒否するようになってね。最終的には餓死したよ。それ以来大赦は、危険な存在を生み出すことを恐れて生物にこれを与えることを許可してくれなくなってしまったが。」
凌馬の口からもたらされた情報に、再び絶句する紘汰。
もし、間違ってこれを口にしてしまっていたら・・・
「あんたそんな危険なモン俺に渡したのかよ!!」
「だから簡単に開かないようにわざわざあんな梱包をしてあげていただろう?」
何か問題でもあるのかな?と、心底不思議そうにする凌馬に、もはや開いた口がふさがらない。
続けるよ、と言った凌馬に適当な返事を返す。
「と、いうわけで何とかその力を利用できないものかと思って研究を重ねたんだが、どうにもそれ単体では難しくてね。一時行き詰ってしまっていたんだが、そこはホラ、困ったときの神頼みというだろう?神樹様のお力の一部をほんの少し拝借してそれを媒介にすることで人間に有益なものに変化させる方法を思いついたんだ。」
それが・・・。と紘汰は手に持ったものに目を落とした。
意外と物わかりのいい反応に、凌馬も満足気に頷いた。
「そう。そうして完成したのが戦極ドライバー。それを装着した人間が樹海の中でその実を手にすると神樹様の力を取り込んでこの果実をその錠前、”ロックシード”へと変化させる。そんなわけのわからない実が私たちのよく知る果実をモチーフとしたアイテムに変化するのは、私たち人類の恵みである神樹様の影響を受けたからだというわけだ。さらにドライバーの役割はそれだけではない。人間に有用な形に変化したその力を引き出し、さらに武装へと転用する。それが私の開発した”アーマードライダーシステム”。勇者システムとは別アプローチの対バーテックス用特殊装備。君が変身したモノの正体というわけさ。」
アーマードライダー。それが、あの姿の名前。
バーテックスに対抗するために人の手により作られた力。
戦極ドライバーと、ロックシードを握る手に力がこもる。
一通り説明をし終えた凌馬は最後に、何か質問はあるかい?と紘汰に投げかけた。
「なんで、俺なんだ?」
「これもまだ研究途中でね。誰にでも扱えるわけじゃない。調査の結果、君にはその資質があった。」
「今日、これを渡したのは?」
「私も一応は大赦に所属する人間だが、なぜだかあまり好かれていなくてね。今日ようやく神樹様のお告げがあったと聞いて、慌てて今朝君に渡しに行ったというわけだ。」
「花道、オンステージってのは?」
「私の趣味だ。いいだろう?」
最後の質問だけは単純な興味本位だったが、返ってきた予想外の返答に凌馬に向かって胡乱な目を向ける紘汰。
そんな目線にも気づかず、凌馬はやけに得意げだった。
「まぁそんなわけだが一応聞いておこう。犬吠埼紘汰君。これからもアーマードライダーとして、戦う覚悟はあるかい?」
その言葉には、今日一番の真剣さがあった。
紘汰も表情を引き締め、応える。
「それで、皆を守れるのなら。」
それは、あの白い空間の中で不思議なカラスにも言った言葉だった。
何度聞かれようとも、変えるつもりはない。
「いいだろう。君を正式に装着員として認める。今日はもうお疲れだろう?簡単にそれの使い方を教えるから、それが済んだら帰るといい。君の家族も首を長くして待っているだろうしね。あぁ、それと。その実は持って行ってかまわない。心配なら保管用の入れ物も用意しよう。現状最後の一つだが、君が持っていた方がいいだろうしね。」
紘汰が帰った後も、戦極凌馬は未だ研究室に残っていた。
座る人の居なくなった、空っぽのパイプ椅子の横で一人、もう片方の椅子に座っている。
何をするでもなく水槽の中ををじっと見つめながら、凌馬は誰もいない部屋で呟く。
「犬吠埼紘汰は、無事スタートラインに立った。だが、本当の戦いはここからだ。」
戦い。それはもちろん、敵との戦闘のみを示す言葉ではない。
これから彼には、待ち受ける運命とも戦ってもらうことになる。
紘汰にはごまかしたが、なんの説明もなくドライバーを渡したのは、もちろん意味があってのことだ。
―――運命を覆す英雄になるならば、まずは運命に選ばれなければならない。
説明がなかったからと言ってそれに乗り遅れるようでは、お話にならないのだから。
「私が用意した英雄では、届かなかった。ならば次は、運命に任せてみるのも一興だろう。そんな不確定なものに頼るなんて、科学者としては落第かもしれないが。」
そういうと凌馬は、部屋の隅に目を向ける。
そこにあるのは、何かの残骸。
かつて目指した夢の残骸が、埃を被ったまま放置されている。
それを見つめる凌馬の表情にふと、寂しげな色が混じった。
しばらくそれを見続けた凌馬が、ようやく腰を上げた。
もう今日は、この場所に用はない。
部屋の扉が、自動で締まる。
その音を背中に聞きながら出口に向かう凌馬の顔は、もう元の無表情に戻っていた。
嘘も言ってないけど、本当のことも言ってない。
隠し事はもちろん一杯。
そんなプロフェッサーさんの説明になっていないような説明会でございました。
注:今後の展開わかってしまう人もいらっしゃるかも知れませんが、胸の内に秘めていただけるようお願いします
勇者部全然出てきてねぇ!